特許第6475154号(P6475154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニフコの特許一覧

<>
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000002
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000003
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000004
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000005
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000006
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000007
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000008
  • 特許6475154-押出しラッチ装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475154
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】押出しラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   E05C 19/02 20060101AFI20190218BHJP
【FI】
   E05C19/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-251799(P2015-251799)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-115426(P2017-115426A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京山 卓史
【審査官】 小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/117188(WO,A1)
【文献】 特開2015−024081(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/128730(WO,A2)
【文献】 特開平9−142198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05C 19/00 − 19/16
E05F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケースと、
前記ケースに受容され、前記ケースからの突出量が大きい突出位置と前記ケースからの突出量が小さい没入位置との間で移動可能な可動体と、
前記ケースと前記可動体の間に設けられ、前記可動体を前記突出位置に向けて付勢する付勢部材と、
前記ケースと前記可動体の間に設けられ、前記没入位置にある前記可動体が前記没入位置側に変位したときに前記可動体と前記ケースとの結合、解除を切り替えるプッシュ・プッシュ機構と、
前記可動体の突出端に配置され、ねじによって前記可動体に螺合され、前記ねじの螺進又は螺退によって前記可動体に対して前記可動体の変位方向に変位可能な押圧部材とを有し、
前記可動体及び前記押圧部材には、前記可動体と前記押圧部材との螺合が解除されて、前記押圧部材が前記可動体に対して空転する状態で、前記可動体に対して前記押圧部材が離れる方向への移動を所定位置で規制する係止部が設けられていることを特徴とする押出しラッチ装置。
【請求項2】
前記可動体及び前記押圧部材の一方は、前記可動体の変位方向に延びる軸部を有し、
前記可動体及び前記押圧部材の他方は、前記軸部を受容する筒部を有し、
前記軸部は、その外周面に形成された雄ねじ部を有し、
前記筒部は、その内周面に形成され、前記雄ねじ部と螺合可能な雌ねじ部とを有し、
前記係止部は、前記軸部に設けられた軸部側係止部と、前記筒部に設けられ、前記軸部側係止部と結合可能な筒部側係止部とを有することを特徴とする請求項1に記載の押出しラッチ装置。
【請求項3】
前記軸部側係止部と前記筒部側係止部とは、前記軸部が前記筒部に受容され、かつ前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とが互いに螺合を解除した状態において、互いに結合し、前記可動体に対して前記押圧部材が離れる方向への移動を規制することを特徴とする請求項2に記載の押出しラッチ装置。
【請求項4】
前記軸部側係止部は、可撓性を有する弾性片であり、前記筒部の内周面に弾発的に当接することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の押出しラッチ装置。
【請求項5】
前記筒部の内周面には、径方向内方に突出すると共に軸線方向に延び、前記軸部が前記筒部に対して回転するときに前記軸部側係止部を撓ませる突起が設けられていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の押出しラッチ装置。
【請求項6】
前記軸部は、前記可動体に設けられ、
前記筒部は、前記押圧部材に設けられ、
前記軸部側係止部は、前記軸部の先端から径方向外方かつ基端側に延びる可撓性を有する逆止爪であり、撓むことによって前記雌ねじ部を通過可能であることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれか1つの項に記載の押出しラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具の開き扉などに用いられる押出しラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家具の開き扉などにおいて、扉の縁部を使用者が掴み易くするために、閉じた状態の扉が閉側に押し込まれたときに扉を開側に若干押出する押出しラッチ装置がある(例えば、特許文献1)。押出しラッチ装置は、ケースと、ケースに受容され突出位置と没入位置との間で変位する押出しロッドと、押出しロッドを突出側に付勢するばねと、押出しロッドを没入位置においてケースに保持するプッシュ・プッシュ機構とを有する。特許文献1に係る押出しラッチ装置の押出しロッドは、基端部と先端部とがねじによって互いに結合されており、先端部を基端部に対して回動させることによって、押出しロッドの先端位置を調整することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4843463号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の押出しラッチ装置では、先端部と基端部とは単にねじ結合されているだけであるため、回し過ぎによって先端部が基端部から脱落する虞がある。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、位置調整可能な押出しラッチ装置において、調整時における部品の脱落を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、筒状のケース(3)と、前記ケースに受容され、前記ケースからの突出量が大きい突出位置と前記ケースからの突出量が小さい没入位置との間で移動可能な可動体(7)と、前記ケースと前記可動体の間に設けられ、前記可動体を前記突出位置に向けて付勢する付勢部材(5)と、前記ケースと前記可動体の間に設けられ、前記没入位置にある前記可動体が前記没入位置側に変位したときに前記可動体と前記ケースとの結合、解除を切り替えるプッシュ・プッシュ機構(8)と、前記可動体の突出端に配置され、ねじによって前記可動体に螺合され、前記ねじの螺進又は螺退によって前記可動体に対して前記可動体の変位方向に変位可能な押圧部材(6)とを有し、前記可動体及び前記押圧部材には、前記可動体に対して前記押圧部材が離れる方向への移動を所定位置で規制する係止部(67、75)を設けることを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、係止部によって、可動体からの押圧部材の脱落が防止される。これにより、使用者は部品の脱落を気にすることなく、位置調節を容易に行うことができる。
【0008】
また、上記の態様において、前記可動体及び前記押圧部材の一方は、前記可動体の変位方向に延びる軸部(70)を有し、前記可動体及び前記押圧部材の他方は、前記軸部を受容する筒部(60)を有し、前記軸部は、その外周面に形成された雄ねじ部(73)を有し、前記筒部は、その内周面に形成され、前記雄ねじ部と螺合可能な雌ねじ部(65)とを有し、前記係止部は、前記軸部に設けられた軸部側係止部(75)と、前記筒部に設けられ、前記軸部側係止部と結合可能な筒部側係止部(67)とを有するとよい。
【0009】
この態様によれば、軸部が筒部に挿入されるため、可動体及び押圧部材が同軸上に配置される。
【0010】
また、上記の態様において、軸部側係止部と筒部側係止部とは、前記軸部が前記筒部に受容され、かつ前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とが互いに螺合を解除した状態において、互いに結合し、前記可動体に対して前記押圧部材が離れる方向への移動を規制するとよい。
【0011】
この態様によれば、軸部側係止部と筒部側係止部とが互いに係止されるときに、押圧部材が可動体に対して空転可能になる。そのため、軸部側係止部と筒部側係止部とが互いに係止された状態において、使用者から押圧部材に加えられる荷重(回転力)が可動部材に加わることが無く、押出しラッチ装置及び押出しラッチ装置が取り付けられる家具等の損傷が防止される。
【0012】
また、上記の態様において、前記軸部側係止部は、可撓性を有する弾性片(75A)であり、前記筒部の内周面に弾発的に当接するとよい。
【0013】
この態様によれば、軸部と筒部の間に摩擦力が生じ、意図しない押圧部材の回転が防止される。すなわち、意図しない押圧部材の先端位置の移動が妨げられる。また、筒部に対する軸部の位置が安定する。
【0014】
また、上記の態様において、前記筒部の内周面に、径方向内方に突出すると共に軸線方向に延び、前記軸部が前記筒部に対して回転するときに前記軸部側係止部を撓ませる突起(66)を設けるとよい。
【0015】
この態様によれば、軸部側係止部を撓ませ得る外力が加わらなければ、押圧部材が回転しないため、意図しない押出しロッドの先端位置の移動が妨げられる。また、押出しラッチ装置は、押圧部材の位置調節を行う使用者に節度感(クリック感)を与えることができ、商品性が向上する。
【0016】
また、上記の態様において、前記軸部は、前記可動体に設けられ、前記筒部は、前記押圧部材に設けられ、前記軸部側係止部は、前記軸部の先端から径方向外方かつ基端側に延びる可撓性を有する弾性片(75A)であり、撓むことによって前記雌ねじ部を通過可能にするとよい。
【0017】
この態様によれば、可動部材及び押圧部材の組立が容易になる。軸部側係止部を筒部に挿入することによって可動部材及び押圧部材が互いに組み立てられる。挿入後、軸部側係止部は復元し、逆止爪として作用し、可動体及び押圧部材の分離が規制される。
【発明の効果】
【0018】
以上の構成によれば、位置調整可能な押出しラッチ装置において、調整時における部品の脱落が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る押出しラッチ装置を収納箱の内側から見た斜視図であって、(A)押出しロッドが没入位置にある状態、及び(B)押出しロッドが突出位置をある状態を示す
図2】押出しラッチ装置のホルダ及び装置本体を示す斜視図
図3】装置本体の縦断面図であって、押出しロッドが後退位置にある状態を示す
図4】押圧部材の縦断面図
図5】可動体の側面図
図6】装置本体の縦断面図であって、押出しロッドが前進位置にある状態を示す
図7図3のVII−VII断面図
図8】実施形態の変形例に係る押圧部材の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を押出しラッチ装置の実施の一形態である押出しラッチ装置100について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1(A)に示されるように、押出しラッチ装置100は、例えば、扉111(開き扉)を備える収納箱110の天板112の裏面(下面)に取り付けられるものである。扉111の内側面には、押出しラッチ装置100と当接する当接部113が設けられている。閉じられた扉111が使用者によって閉側にさらに押し込まれると、図1(B)に示されるように、押出しラッチ装置100が伸張し、押出しラッチ装置100によって扉111が外側(開側)に押し出される。このように、押出しラッチ装置100は使用者が扉111の縁部を掴み易くする。
【0022】
押出しラッチ装置100は、図2に示されるように、収納箱110の天板112の裏面に、結合されるホルダ1と、ホルダ1に支持される装置本体2とを備える。なお、以下の説明では、便宜上、収納箱110の開口側を「前方」とし、奥側と「後方」と規定する。
【0023】
ホルダ1は、前後に沿って延びたホルダ基部10と、ホルダ基部10の後端から下方へ突出した壁である支持壁部11とを有する。ホルダ基部10は、その左右両側縁に、下方に突出し、前後に延びる壁である一対のホルダ側壁12を有する。左右のホルダ側壁12によって、ホルダ基部10の下部には、下方に向けて開口し、前後に延びる溝形のホルダ溝13が形成されている。ホルダ溝13の前端は、ホルダ基部10の前方へ開口している。また、ホルダ溝13の底部前端には、上方に向けて凹み、かつ前方に向けて開口する係合凹部14が形成されている。
【0024】
ホルダ溝13の底部には、貫通孔であるねじ挿入孔15が複数設けられている。ホルダ1は、ねじ挿入孔15を通過し、天板112の裏面に結合する木ねじ等のねじ114によって、天板112の裏面に固定される。各々のねじ挿入孔15は、ねじ114の頭部を収容するザグリを有する。
【0025】
支持壁部11は、前方に向けて開口し、後端が閉塞された受容孔16を有する。受容孔16はホルダ溝13と連続している。
【0026】
ホルダ1は、第1ホルダ係止部17と、第2ホルダ係止部18とを有する。第1ホルダ係止部17は、ホルダ溝13の底部に設けられ、下向きに突出した弾性爪である。第2ホルダ係止部18は、左右のホルダ側壁12の内面に突設され、前後に延びる突条である。第2ホルダ係止部18は、複数設けられ、左右において互いに対向する位置に配置されていることが好ましい。
【0027】
装置本体2は、図3に示されるように、ケース3と、押出しロッド4と、付勢部材5と、プッシュ・プッシュ機構8とを備える。
【0028】
ケース3は、前後に沿って延びるケース基部30と、ケース基部30の前端上部に設けられたケース台座部31とを有する。ケース基部30の内部には、前後に延びると共に前方に向けて開口した支持孔32が形成されている。ケース基部30の後端には、支持孔32の後端を閉じる後端壁33が設けられている。ケース基部30の外面の下半部は、円筒面に形成されている。また、ケース基部30の後端部は、前側に比べて外形が段違いに狭められている。ケース台座部31は、ケース基部30の前端から上方に突出しており、その左右両側面は、左右側方を向く平面に形成され、ケース基部30の下半部の外面と滑らかに連続している。ケース台座部31の上端部は水平面に沿うように形成されている。
【0029】
ケース3の上部には、ケース基部30からケース台座部31にかけて前後に延びるスリット34が形成されている。スリット34は、ケース3の外面から支持孔32に貫通している。ケース基部30の上部には、左方に向けて突出する複数の係止爪と、右方に向けて突出する複数の係止爪とを含むケース係止部35が形成されている。ケース台座部31の後端に後方に向けて突出する係合凸部36が成されている。
【0030】
ケース基部30の後端部が受容孔16に挿入され、ケース基部30の上半部がホルダ溝13に受容され、ケース台座部31がホルダ基部10の前側に配置されるように、ケース3はホルダ1に取り付けられる。ケース3がホルダ1に取り付けられた状態で、ケース基部30の後端部と受容孔16との係合、及び第2ホルダ係止部18とケース係止部35との係合によって、ホルダ1に対するケース3の上下方向への移動が規制される。ケース基部30とホルダ1の支持壁部11との当接、及びホルダ基部10とケース台座部31との当接によって、ホルダ1に対するケース3の後方への移動が規制される。また、係合凸部36と係合凹部14との係合、及びスリット34の後端縁と第1ホルダ係止部17との係合によってホルダ1に対するケース3の前方向への移動が規制される。係合凸部36と係合凹部14との係合、及びスリット34の後端縁と第1ホルダ係止部17との係合は、弾発的であり、所定の荷重が加わると係合を解除することができる。ホルダ1に対してケース3を着脱するときには、ホルダ1に対して、所定の荷重を加えて、ケース3を前後にスライド移動させるとよい。ホルダ1にケース3が取り付けられた状態で、ケース基部30の下半部及びケース台座部31の外面は、ホルダ1の左右のホルダ側壁12の外面と面一に連続し、一体性を有する外観を形成する。また、ホルダ1を天板112に結合するためのねじ114がケース3に覆われ、外部に露出しない。
【0031】
押出しロッド4は、押圧部材6と可動体7とを備える。押圧部材6は、図3に示されるように、筒部材60と、接触部材61とから構成される。
【0032】
筒部材60は、図4に示されるように、前後に延びた円筒形に形成され、その内側を貫通する内孔の前方に大径部62と、後方に小径部63とを有する。大径部62の内径は、小径部63の内径よりも大きく、大径部62及び小径部63は共に筒部材60と同軸に形成されている。大径部62と小径部63は、筒部材60の中央において、段部64を介して接続されている。段部64の肩面は、筒部材60の軸線と直交し前方を向く環状面に形成され、筒部側係止部67をなす。
【0033】
小径部63の内周面には、雌ねじ部65が設けられている。大径部62には、径方向内側に突出し、かつ、大径部62後端から中央まで前後に延びる複数の内周突起66が設けられている。各内周突起66は、周方向に等間隔に設けられている。
【0034】
接触部材61は、大径部62の前端に挿入される後部と、大径部62の前端から前方へ突出する前部とを有する。接触部材61は、筒部材60よりも可撓性の高い部材から形成されている。
【0035】
可動体7は、図5に示されるように、前後に延びた軸状をなし前側から順にロッド前部(軸部)70、鍔部71、及びロッド後部72を有する。鍔部71は、ロッド前部70及びロッド後部72よりも径方向における幅が広くなっている。可動体7の前部をなすロッド前部70は、筒部材60の内孔に挿入されている。ロッド前部70は、その長手方向における中間部の外周面に、雌ねじ部65と螺合可能な雄ねじ部73を有する。雄ねじ部73に対して雌ねじ部65がねじ込まれる(螺進する)と、雌ねじ部65と雄ねじ部73との螺合長が大きくなり、押圧部材6は可動体7に対して後退する。すなわち、押出しロッド4の前後長が短くなる。
【0036】
鍔部71の前部は、ロッド前部70の軸線と直交する環状の平面をなすストッパ部74を形成している。図3に示されるように、ストッパ部74と押圧部材6の後端とが突き当たることによって、可動体7に対する押圧部材6の後退は、規制される。このときの可動体7に対する押圧部材6の位置は最も後方に移動した位置であり、この位置を後退位置とする。
【0037】
図5に示されるように、ロッド前部70の前端には軸部側係止部75が設けられている。軸部側係止部75は、大径部62の内部に配置されている。軸部側係止部75は、可撓性を有し、可動体7の前端から、径方向外方向かつ後方へ延びる少なくとも1つの弾性片75Aを含む逆止爪である。図4に示されるように、弾性片75Aの先端部は筒部側係止部67と対向する位置に配置されており、軸部側係止部75と筒部側係止部67とは係合可能となっている。本実施形態では、軸部側係止部75は、ロッド前部70に対して互いに相反する方向に突出した2つの弾性片75Aを有する。軸部側係止部75の各弾性片75Aは、荷重が加わっていない初期状態において、可動体7の軸線から弾性片75Aの径方向における外端までの距離は、大径部62の内孔の半径より大きく、大径部62の内周面に弾発的に当接する。一方、軸部側係止部75の各弾性片75Aは、前方からの荷重又は径方向内向きの荷重を受けて弾性変形し、可動体7の軸線から弾性片75Aの径方向における外端までの距離が雌ねじ部65の内径よりも小さくなり、小径部63を通過可能になる。
【0038】
雌ねじ部65が雄ねじ部73に対して螺退すると、雌ねじ部65と雄ねじ部73の螺合長が短くなり、押圧部材6は可動体7に対して前進する。図6に示されるように、可動体7に対する押圧部材6の前進は、軸部側係止部75と筒部側係止部67とが互いに当接する(係止される)ことによって規制される。このときの可動体7に対する押圧部材6の位置は、最も前方に移動した位置であり、この位置を前進位置とする。前進位置において、雄ねじ部73及び雌ねじ部65との螺合は解除されている。
【0039】
可動体7は、ケース3の支持孔32に、前後に変位可能に受容されている。可動体7の鍔部71には、径方向外向きに突出し、スリット34と係合する係止爪である可動体係止部76が設けられている。可動体係止部76は、可撓性を有する。可動体係止部76とスリット34との係合によって、ケース基部30に対する可動体7の回転が規制される。また、可動体係止部76とスリット34の前端縁との係合によって、ケース3に対する可動体7の前方への移動が規制される。可動体係止部76とスリット34の前端縁とが互いに係合し、ケース3に対して押出しロッド4が最も前方にあるときの押出しロッド4の位置を突出位置とする。
【0040】
ケース3の支持孔32に、圧縮コイルばねである付勢部材5が受容される。鍔部71の後部は、後方を向く可動体側ばね座77を形成する。支持孔32の内面には、径方向内方に突出したケース側ばね座37が設けられている。支持孔32内において、可動体側ばね座77とケース側ばね座37との間には、圧縮コイルばねである付勢部材5が設けられている。付勢部材5は、ロッド後部72の外周に配置されている。可動体7は、付勢部材5によって、ケース3に対して前方に付勢されている。
【0041】
プッシュ・プッシュ機構8は、ケース3と可動体7との間に配置され、ケース3と可動体7との結合、解除を切り替える。プッシュ・プッシュ機構8は、公知の構成を適用することができる。本実施形態では、図3に示されるように、プッシュ・プッシュ機構8は、ロッド後部72に設けられたハートカム溝78と、ケース3の後端壁33に支持された係止ピン38とを有する。
【0042】
ハートカム溝78と係止ピン38とが係合しているとき、可動体7はケース3に対して係止される。このときの、ケース3に対する押出しロッド4の位置を没入位置とする。
【0043】
没入位置において押出しロッド4が後方に押し込まれると、ハートカム溝78と係止ピン38との係合が解除され、付勢部材5によって押出しロッド4が突出位置まで移動する。再度、押出しロッド4が後方に押し込まれると、ハートカム溝78と係止ピン38とが係合し、押出しロッド4が没入位置に保持される。このように、プッシュ・プッシュ機構8は、押出しロッド4が押し込まれる毎に、結合及び解除を繰り返す。
【0044】
上述したホルダ1、ケース3、押圧部材6の筒部材60、及び可動体7は、例えばポリアセタール等の樹脂から形成されることが好ましい。また、押圧部材6の接触部材61は、例えばオレフィン系熱可塑性エラストマー等の樹脂から形成されるとよい。
【0045】
次にホルダ1、ケース3、押圧部材6、可動体7、及び付勢部材5、プッシュ・プッシュ機構8を含む押出しラッチ装置100の組立方法を説明する。
【0046】
押出しロッド4は、押圧部材6の内孔の小径部63側から、可動体7のロッド前部70を挿入することによって組み立てられる。挿入時に、軸部側係止部75の各弾性片75Aは雌ねじ部65のねじ山、及び小径部63の内壁に押されて径方向内方に撓み、雌ねじ部65及び小径部63を通過可能になる。軸部側係止部75は小径部63を通過した後、大径部62内で復元し、各弾性片75Aの先端が筒部側係止部67と対向する位置に配置される。このように、可動体7のロッド前部70を押圧部材6の内孔に挿入するだけで、軸部側係止部75を筒部側係止部67と対向する位置に配置させることができる。さらに、ロッド前部70が押圧部材6の内孔に対して挿入され、ロッド前部70及び押圧部材6が相対回転されると、雌ねじ部65と雄ねじ部73とが互いに螺合する。
【0047】
押出しロッド4とケース3との組み立てでは、最初にケース3の後端壁33にプッシュ・プッシュ機構8の係止ピン38を揺動可能に取り付ける。続いて、ケース3の支持孔32内に付勢部材5を挿入した後、押出しロッド4をロッド後端部側からケース3の支持孔32に挿入する。押出しロッド4が支持孔32に挿入されるとき、可動体係止部76は支持孔32の内壁に押されて弾性変形し、スリット34内に到達したときに復元してスリット34と係合する。これにより、支持孔32からの押出しロッド4の抜け出しが規制される。また、付勢部材5は、可動体側ばね座77とケース側ばね座37とに係止される。このようにして、装置本体2が組み立てられる。
【0048】
ねじ挿入孔15を通過し天板112に結合するねじ114によって、ホルダ1は天板112に結合される。ホルダ1への装置本体2の結合は、第1ホルダ係止部17とケース係止部35とを係合させ、ホルダ溝13に沿って装置本体2を後方へスライドさせることによって行われる。これにより、係合凸部36と係合凹部14とが互いに係止され、スリット34の後端縁と第1ホルダ係止部17とが互いに係止され、かつ支持壁の受容孔16にケース基部30の後端部が挿入される。このようにして、装置本体2がホルダ1に組み付けられる。
【0049】
次に、押出しラッチ装置100の使用時の動作について説明する。突出位置にある押出しロッド4を付勢部材5の付勢力に抗して没入位置に押し込むと、プッシュ・プッシュ機構8のハートカム溝78と係止ピン38とが互いに係止され、押出しロッド4が没入位置に保持される。没入位置から、さらに、押圧部材6を後方に押し込むと、ハートカム溝78から係止ピン38が外れ、付勢部材5の付勢力によって押出しロッド4が突出位置に移動する。
【0050】
可動体7に対して押圧部材6をその軸線回りに回転させると、図3、及び図6に示されるように、雌ねじ部65と雄ねじ部73の螺合長が変化、或いは、螺合が解除され、押圧部材6が可動体7に対して後退位置と前進位置との間で移動する。すなわち、押出しロッド4の前後長が変化すると共に、押出しロッド4の先端位置が変化する。
【0051】
図7に示されるように、軸部側係止部75と内周突起66とは、押出しロッド4の軸線を中心とした周方向に互いに係合しているため、押圧部材6の可動体7に対する意図しない回転が規制される。押圧部材6が可動体7に対して回転するためには、軸部側係止部75が径方向内側に弾性変形して内周突起66を越え得る程度に押圧部材6に操作荷重(回転力)が加えられる必要がある。また、軸部側係止部75と内周突起66は、使用者の調節操作に対して節度感(クリック感)を付与することができる。
【0052】
以上のように構成した押出しラッチ装置100の効果について説明する。図6に示されるように、押出しラッチ装置100は、押出しロッド4の先端位置を調節するときに、雄ねじ部73及び雌ねじ部65の螺合が解除されても、軸部側係止部75と筒部側係止部67とが互いに係止されるため、押圧部材6が可動体7から脱落しない。また、軸部側係止部75と筒部側係止部67とが互いに係止するとき、雄ねじ部73及び雌ねじ部65との螺合が解除されているため、押圧部材6は可動体7に対して空転する。そのため、調節作業時に使用者から押圧部材6に加えられる回転力が可動体7に加わることが無く、押出しラッチ装置100及び押出しラッチ装置100が取り付けられる収納箱110等の損傷が防止される。
【0053】
本実施形態では、軸部側係止部75は、筒部側係止部67と係合すると共に、内周突起66と係合し、2つの機能を奏する。そのため、筒部側係止部67と係合する係合部と、内周突起66と係合部を別々に設ける場合に比べて構造の簡素化が可能であると共に、小型化が可能である。また、軸部側係止部75は、可動体7及び押圧部材6の組み立て時に、弾性変形することによって雌ねじ部65を通過することができるため、組み立て作業が容易である。
【0054】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上述した実施形態では、各内周突起66を筒部側係止部67まで延在させる構成としたが、図8に示されるように各内周突起66の後端部と筒部側係止部67との間に隙間を設け、大径部62の内周面が周方向にわたって露出する円周面部80を形成してもよい。円周面部80の軸線方向における長さは、軸部側係止部75が筒部側係止部67と係合するときに、軸部側係止部75が各内周突起66から離脱し得る長さに設定されている。この構成によれば、雄ねじ部73と雌ねじ部65とが螺合を解除して軸部側係止部75と筒部側係止部67とが係合するとき、軸部側係止部75が各内周突起66から離脱するため、可動体7に対して押圧部材6が回転するときに節度感が発生しなくなる。これにより、使用者は、節度感の消失から押圧部材6が前進位置にあることを認識することができる。
【0055】
接触部材61及び当接部113のどちらか一方に吸引力を発生する磁石、もう一方に磁石に吸着される部材を設けてもよい。このようにすれば、扉111の意図しない開きが抑制される。なお、当接部113を設けない場合には、扉111に磁石又は磁石に吸着される部材が設けられるとよい。その他、接触部材61と筒部材60とは、一体の部材として形成されてもよい。
【0056】
また、軸部側係止部75は、大径部62の内周面に当接しなくてもよく、内周突起66と当接し得る大きさであればよい。
【符号の説明】
【0057】
1 :ホルダ
2 :装置本体
3 :ケース
4 :押出しロッド
5 :付勢部材
6 :押圧部材
7 :可動体
8 :プッシュ・プッシュ機構
60 :筒部材
61 :接触部材
65 :雌ねじ部
66 :内周突起
67 :筒部側係止部
70 :ロッド前部(軸部)
73 :雄ねじ部
75 :軸部側係止部
75A :弾性片
76 :可動体係止部
80 :円周面部
100 :押出しラッチ装置
110 :収納箱
111 :扉
112 :天板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8