(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
増殖が促進される前記細菌が、乳酸桿菌(Lactobacilli)及び/又はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)である、請求項1又は2に記載のプレバイオティック用組成物。
前記組成物が、前記チラコイド又はその部分を含む、生理的に許容できる水中油型エマルションを含む、経口用栄養補助食品組成物である、請求項1〜7の何れか1項に記載のプレバイオティック用組成物。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、1つの実施形態による、血漿インスリンの濃度(pM)を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態による、乳酸桿菌の生菌数(CFU/g組織)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態による、乳酸桿菌の生菌数(CFU/g組織)を示すグラフである。
【
図4】
図4は、1つの実施形態による、細菌の生菌数(CFU/g組織)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態による、T−RFLPデータの主成分分析(PCA)を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態による、T−RFLPデータの主成分分析(PCA)を示すグラフである。
【0015】
[詳細な説明]
いくつかの本発明の実施形態は、本発明を実施することができる当業者のために、添付の図面を参照して、以下に、より詳細に記載されるだろう。本発明は、多くの異なる形態で具体的に示され得るが、本願明細書において説明する実施形態に限定されるものと解されるべきではない。むしろ、この開示が完全で且つ徹底的であり、当業者に本発明の範囲を、完全に伝えるように、これらの実施形態は提供される。実施形態は本発明を限定せず、本発明は特許請求の範囲の記載のみにより限定される。さらに、添付の図面に示される特定の実施形態の詳細な説明で使用される用語は、本発明を限定することを意図しない。
【0016】
チラコイドは、緑葉の葉緑体膜から抽出され得、タンパク質、脂質、及び色素(例えばクロロフィル及びカロテノイド)を含有する。それは、ヒト及び動物の被験体の双方におけるいくつかの研究において、満腹感を高め、空腹感を抑え、体重減少を促進することが発見されている(とりわけWO2006/132586及びWO2010/008333を参照されたい)。満腹感を高める効果は、二通りに説明される:チラコイドが食物性のトリアシルグリセリド及びリパーゼ/コリパーゼ複合体と互いに作用し、その結果、物理的な妨害を引き起こし、これにより食物性の脂肪の消化、及び、腸内壁を越えた栄養素の摂取も長引かす。
【0017】
如何なる毒性効果もなく使用され得るとの理由から、チラコイドは、体で消化される。しかしながら、有益である、ミトコンドリアのような、他の細胞コンパートメントより、チラコイドはゆっくり消化される。当業者により認識される通り、プレバイオティック作用物質は、宿主の健康状態及び健康に利益を与える、胃腸のミクロフローラにおける組成及び/又は活性の両方において、特異的に変化できる成分である。
【0018】
発明者らは、腸内微生物相におけるチラコイドの効果、及びラットにおけるブドウ糖負荷試験後の結果を調べた。彼らは、驚くべきことに、チラコイドが腸内微生物相を整えること(
図2〜4を参照のこと)、故に、プレバイオティック作用物質として機能することを発見した。さらに、彼らは、チラコイドがインスリン感度を高めることを発見した(
図1参照のこと)。
【0019】
簡潔に説明すると、スプラーグドーリー(Sprague−Dawley)系のラットは、2つの群に分けられ、10日間、標準的なラットの固形飼料の、チラコイドを濃縮した食餌、又は対照の食餌の何れかが与えられた。10日後、ブドウ糖負荷試験が実施され、対照と比較して、チラコイドの食餌が与えられたラットにおけるインスリンの濃度が著しく低いという結果になった(
図1を参照のこと)。細菌の分析では、チラコイドの添加により引き起こされた、回腸における乳酸桿菌のかなりの増殖が示され、腸内サンプルの細菌培養と、qPCRにより、双方で実証した。また、糞便中の乳酸桿菌の量の著しい減少が、チラコイドの群におけるqPCR分析により観察され、10日間のチラコイドの補給後、乳酸桿菌は腸管の粘膜に対してより付着力が増している可能性が示唆された。
【0020】
他の細菌の分析は、対照と比較したチラコイドの群に関して、結腸、盲腸、及び糞便におけるグラム陽性菌が著しく減少したことを示した。末端標識制限酵素断片多型分析(T−RFLP)の主成分分析を経た糞便の微生物相の分析は、チラコイドを与えた動物と、その対照の動物を比較する際、微生物個体群が異なることを証明した。まとめると、これらの知見は、チラコイドが腸内微生物相を整え得ること、故にプレバイオティック作用物質として機能することを示す。これは、つまり、体重及び代謝障害の調整に重要であるだろう。
【0021】
本発明者らは、このように、哺乳動物へのチラコイド又はその部分を含む組成物の経口投与が、腸内プロバイオティック細菌叢の機能を高め、乳酸菌の増殖を促進することを発見している。単離され、濃縮されたチラコイドを含む組成物は、このように、プレバイオティック作用物質として機能し得る。さらに、種々のプロバイオティック株、とりわけ乳酸桿菌は、障害のある免疫機能、並びに抗生物質関連下痢、旅行者の下痢、小児の下痢、及び過敏性腸症候群を予防又は処置することに有用であると示されている。
【0022】
1つの実施形態によれば、単離され、濃縮されたチラコイド、又はその部分を含む組成物は、このように、哺乳動物の腸管における、乳酸桿菌及びビフィドバクテリウムのような乳酸菌の増殖を促進するために提供される。哺乳動物はヒトであってもよい。典型的には、組成物を、腸管に届けるために、経口で投与する。腸管、とりわけ回腸及び盲腸、より好ましくは回腸、において乳酸菌の増殖を促進することにより、これらに限定されないが、障害のある免疫機能、並びに抗生物質関連下痢、旅行者の下痢、小児の下痢、及び過敏性腸症候群を含む、乱れた腸内微生物相に関連する病態は、予防又は処置され得る。
【0023】
単離され、濃縮されたチラコイド、又はその部分は腸内微生物相を整えるために使用され得るが、プロバイオティック細菌は、1つの実施形態によれば、組成物に含まれる。プロバイオティック細菌を含むことにより、腸内微生物相における効果を高めることができ、現存のプロバイオティック細菌が補完された。組成物に含まれるためのプロバイオティック細菌は、ビフィドバクテリウム、例えばビフィドバクテリウム・インファンテス(Bifidobacterium infantis)、及びラクトバチルス、例えばラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)であってもよい。
【0024】
チラコイドを単離及び濃縮することの一般原則は、当該技術分野で公知である(PCT/SE2006/000676、WO/SE2009/000327、及びEmek、SC、Szilagyi A、Akerlund H Eら(2010)A large scale method for preparation of plant thylakoids for use in body weight regulation Prepar biochem & biotech 40(1)、13−27を参照のこと)。
【0025】
典型的には、本発明の組成物のチラコイドは、緑葉又は緑藻類から濃縮される。好ましくは、チラコイドは、ホウレンソウから単離され、濃縮される。チラコイドは、組成物に加えられる前に、単離され、濃縮されたチラコイドのクロロフィル含有量が1g当たり約8mg〜150mgのクロロフィルとなるような方法で濃縮され得る。組成物におけるチラコイドの含有量は、組成物1g当たり1mg〜75mgのクロロフィルとなるクロロフィル含有量に相当してもよい。
【0026】
腸管における、乳酸桿菌及びビフィドバクテリウムのような、乳酸菌の増殖を促進するために使用される組成物は、食品又は医薬であってもよい。1つの実施形態によれば、組成物は、チラコイドを含む、生理的に許容できる水中油型エマルションを含む経口用製剤又は栄養補助食品組成物である。このような実施形態において、チラコイドの量は20〜30wt%、例えば、約25wt%である。さらに、油分含有量は20〜30wt%、例えば、約25wt%であってもよい。使用される油分は、菜種油、オリーブ油、ヒマワリ油等のような食用の植物油であってもよい。
【0027】
組成物が種々の形態で投与され得るように、投与されるチラコイドの1日用量を変えてもよい。指針の通り、投与される組成物の量は、哺乳動物の体重1kg当たり2.4mg〜240mgのチラコイドの1日用量に、その投薬量が相関するような方法で選択されてもよい。
【0028】
別の実施形態によれば、本願明細書に開示されるチラコイドの組成物は、プレバイオティック作用物質として非治療的な使用のために提供される。本願明細書に開示されるチラコイドの組成物は、胃腸のミクロフローラの組成及び/又は活性の両方を変化させ得るため、宿主の健康状態及び健康に利益を与え得る。
【0029】
別の実施形態は、乱れた腸内微生物相に関連する哺乳動物の病態を処置又は予防する方法に関する。そのような方法において、本願明細書に開示される組成物の有効量は、乱れた腸内微生物相に関連する病態に罹患している哺乳動物に対して、経口で投与される。さらに、その方法は、哺乳動物の腸内微生物相が乱されるのを予防するために、哺乳動物に対して、本願明細書に開示される組成物を経口投与することも含む。乱れた腸内微生物相に関連する病態の例は、抗生物質関連下痢、旅行者の下痢、小児の下痢、及び過敏性腸症候群を含む。
【0030】
本願明細書で使用される場合、「予防する(prevent)/予防すること(preventing)」は、予防を果たすための本願明細書に開示される実施形態による組成物の使用後、病態及び/又は疾患が再び生じ得ないことを意味すると解釈されるべきではない。さらに、その用語は、前記病態を予防するためのそのような使用後、少なくともある程度の病態も生じる可能性がないことを意味すると解釈されるべきでもない。むしろ、予防されるその病態がそのような使用にも関わらず生じると、「予防する/予防すること」は、そのような使用がない場合より症状が抑えられるだろうということを意味すると意図される。1つの実施形態によれば、「予防する/予防すること」は、予防的処置に関する。
【0031】
別の実施形態は、本願明細書に開示される通り、インスリン感度を増加させるための、ヒトのような哺乳動物の腸管への投与のための組成物に関する。そのインスリン感度は、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)を処置又は予防するために高められ得る。
【0032】
まとめて腸内微生物相と呼ばれる、通常、ヒトの消化管に生息するプロバイオティック細菌は、栄養分の獲得及びエネルギーの調整での重要な役割を有する。近年は、微生物相が正常な体重の人と、過体重又は肥満の人との間で異なることが提唱されている。ヒト及び動物の研究からの多数の知見は、腸内細菌の2つの有力な分類、すなわち、グラム陽性ファーミキューテス門(Firmicutes)及びグラム陰性バクテロイデス門(Bacteroidetes)の量が、宿主のエネルギー−収得効率を変えることによる肥満症の病態生理学と密接に関わっていることを明らかにしている。従って、肥満の動物及び患者において、腸内におけるファーミキューテス門の増加及びバクテロイデス門の減少が実証されている。肥満の患者が低カロリー食で体重を減らすと、これらの特異的な細菌の割合において逆の変化が生じる。他方、肥満のヒトにおける腸内微生物相のそういう変動の証拠は、矛盾していた。たとえ肥満の人々において、正常な体重の人々と比較して、バクテロイデス門の著しい存在比が実証されているとしても、肥満の個体と、非肥満の個体との間に、ファーミキューテス門及びバクテロイデス門に関する違いは発見されなかった。腸内微生物相が体重の調整に重要な役割を果たし、肥満症の改善における要素で有り得ることの可能性を、これらの知見は提起する。
【0033】
他の代謝病も、糖尿病と同様に、微生物相の組成変動に関連していると実証されている。調節不全の腸内バリア、リーキーガット(leaky gut)、がインスリン耐性、及び結果的に糖尿病の改善に導き得ることも提案されている。従って、腸内バリアを補強することは、糖尿病を予防し、処置もし得るため、及び肥満症を予防するための新しい治療の方法であろう。
【0034】
プレバイオティクスと呼ばれる、繊維質のような、低血糖食品の摂取は、炭水化物の腸内消化を緩慢化することにより満腹感を高める方法としてよく受け入れられている。プレバイオティクスは、微生物相に有益な効果を有する非細菌性の産物である。それらは、結腸内微生物相に対して肥料として作用し、これにより、ビフィドバクテリウム及びラクトバチルスのような有益な共生生物の増殖を促進する。しかしながら、炭水化物の消化を長引かせることからの満腹感は、明らかに十分ではない。
【0035】
今日、世界中で、10億人超の成人が、25〜30kg/m
2の肥満度指数(BMI)を有する過体重であり、3億を超える人が30kg/m
2より高いBMIを有する肥満である。さらに、過体重及び肥満症は高脂血症、アテローム性動脈硬化症、及び心血管疾患と強く関連している。
【0036】
今日では、西欧社会において、嗜好性食品(すなわち、脂肪及びスクロースが豊富な食品)の入手機会が増している。これは、過去数十年にわたり、観察される世界的な体重の増加に寄与しているだろう。過体重及び肥満症に苦しんでいる個人を助けるため、それゆえ、満腹感を強め、空腹感を弱める方法を発見するのは極めて重要である。食品に対する、緑葉由来のチラコイド膜の栄養補給の後、グレリン及びコレシストキニン(CCK)(非公表データ)やインスリン及びレプチンのような、いくつかの食欲ホルモン(appetite hormones)が影響を受けることを、我々は発見している。
【0037】
さらなる詳述を必要とせずに、当業者は、前述の説明から、本発明を最大限利用できると解される。以下の好ましい特定の実施形態は、それゆえ、単なる例示として解釈され、決して本開示の残りを限定するものではない。
【0038】
本発明は、具体的な実施態様を参照して、先に説明さているが、本願明細書に説明する特定の形態に限定することを意図するものではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によって限定されるだけであり、上記以外の他の実施形態、例えば、上記のものと異なる実施形態が、これらの添付の特許請求の範囲内で同等に可能である。
【0039】
特許請求の範囲において、用語「含む(comprises)/含むこと(comprising)」は、他の要素又は工程の存在を除外しない。付加的に、異なる請求項において個々の特徴が含まれ得るが、これらは、可能な場合、有利に組み合わされてもよく、異なる請求項に包含するものは、特徴の組合せが、実現可能がなく及び/又は有利でないものを意味しない。
【0040】
加えて、単数形への言及は、複数性を除外しない。「a」、「an」、「第一(first)」、「第二(second)」等の用語は、複数性を排除しない。
【0041】
[実験]
以下に説明する実験作業の狙いは、健康なラットの腸内微生物相におけるチラコイドの効果と、また、血中インスリンにおけるそれらの効果を研究することであった。微生物相の組成を、培養上及び培養に依存しない手法の双方で分析した。特定の細菌の生菌数は、培養上の手法としてそれらの代謝要求量と、培養に依存しない手法として定量的PCR(q−PCR)、末端標識制限酵素断片多型(T−RFLP)、及び16S rDNA配列決定とに基づいた。
【0042】
しかしながら、以下の実施例は単なる例であり、決して、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0043】
[動物及び実験手順]
研究を、スプラーグドーリー系のラット(ドブネズミ(Rattus norvegicus))(Mol:SPRD Han;Taconic M&B A/S,Ry,デンマーク)において実施し、ラットを、オープンケージシステム(open cage system)を用い、調整された環境(20℃±1℃、相対湿度50%±10%、12:12時間の明暗周期)を備える特定病原体を含まない状況下で飼育した。順化7日後、合計で16匹のラットを個々に管理し、10日間、対照の食餌(8匹のラット)又は濃縮したチラコイドの食餌(8匹のラット)の何れかを与えた。
【0044】
チラコイド膜を、前述した通り、新鮮な赤ちゃんホウレンソウの葉から精製し、抽出した(Emek,SC,Szilagyi A Akerlund H Eら(2010)A large scale method for preparation of plant thylakoids for use in body weight regulation Prepar biochem & biotech 40(1),13−27;Montelius C,Gustafsson K,Westrom Bら(2011)Thylakoids reduce glucose uptake and decrease intestinal macromolecular permeability.Br J Nutr 106(6),836−44)。
【0045】
標準的なラットの固形飼料(R 36、Lantmannen、ストックホルム、スウェーデン)を、菜種油のみ(対照の食餌)、又はチラコイド−油懸濁液(チラコイドの食餌)の何れかで濃縮した。
【0046】
チラコイドの食餌を、ミキサーを用いて4gのチラコイド粉末(132mgのクロロフィルに対応する)、5gの菜種油、及び10gの水を混合することにより調製した。補充されたチラコイドの量を、正常な食物摂取量(22gの食餌/ラット/1日)1g当たり6mgのクロロフィルの添加により計算した。双方の食餌は、同じカロリーであり、エネルギー(E)分布が25E%の炭水化物、60E%の脂肪、及び15E%のタンパク質であった。
【0047】
体重を、10日間の実験期間、毎日記録した。午前中に、25gの正常なラット固形飼料を、その日の間中、自由に摂取できる状態で、全てのラットに与えた。後の午後に、残ったラットの固形飼料を取り除き、摂取した量を測定した。次いで、それぞれのラットに、本実験に係る食餌15gを与えた。11日目に、糞便の試料を、ブドウ糖負荷試験を実施する前、午前中に、特定病原体を含まない状況下で採取した。
【0048】
15%のグルコース溶液を、ラットの体重の10%の量で、ボーラス投与として与えた。尻尾における刺し傷により、0、15、30、45、60、90、及び120分の時点で、血漿グルコースの濃度を測定し、一方で、120分後のみインスリンを測定した。次いで、ラットを、開腹手術を実施する前に、イソフルラン(Schering−Plogh a/s、バラールップ、デンマーク)で麻酔にかけた。回腸、盲腸、及び結腸からの腸内粘膜の試料を採取し、すぐに、3mlの凍結保存培地(freezing media)を含有する無菌チューブに入れた。研究を、動物実験に対するルンド大学倫理審査委員会(Lund University Ethical Review Committee)が認証し、実験動物の保護に関する欧州共同体の規則に従って実施した。
【0049】
[細菌性数の分析]
回腸、盲腸、及び結腸からの腸内粘膜の試料と、糞便からの試料とにおける、乳酸桿菌、ビフィズス菌、及び腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の生菌数計測に対して、従来の希釈手順を用いた。適切な希釈物からの試料を、ロゴサ(Rogosa)寒天、変性Wilkins−Chalgren(MW)寒天、及び赤紫色の胆汁グルコース(bile glucose)寒天(全てOxoid(マルメ、スウェーデン)製)に蒔き、1gの組織又は糞便当たりのコロニー形成単位(CFU)を算出する前に、嫌気的に72時間及び好気的に24時間、37℃でインキュベートした。
【0050】
[16S rDNA配列決定]
結腸及び回腸試料からの、合計で169の分離株(全てのラットから4〜6)を、16S rDNA配列決定のために無作為に取り出した(MW寒天プレート:52の結腸の分離株、ロゴサ(Rogosa)プレート:53の結腸の分離株、ロゴサプレート:64の回腸の分離株)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための鋳型として、粗細胞抽出物を使用した。16S rRNA遺伝子を、順方向プライマーENV1及び逆方向プライマーENV2(表1)、(Applied Biosystems、ストックホルム、スウェーデン)を用いることで増幅した。合計で25μLのPCR反応混合物は、0.4μΜのプライマーENV1、0.2μΜのプライマーENV2、2.5μLの10×PCR反応緩衝液(500mMのTris−HCl、100mMのKCl、50mMの(NH
4)
2SO
4、20mMのMgCl
2、pH8.3)、0.2μΜのデオキシリボヌクレオチド三リン酸、2.5Uのファストスタート(FastStart)Taq DNAポリメラーゼ(Roche Diagnostics、マンハイム、ドイツ)、及び2μLの鋳型DNA含んでいた。PCRを、以下のプログラムでEppendorf Master Cycler (Eppendorf、ハンブルク、ドイツ)において実施した:95℃3分間、94℃3分間、94℃1分間、50℃45秒、及び72℃2分間を30サイクルの後、72℃7分間の付加的な延長動作。試料のDNAが存在しない試薬のみを含有するPCRを、陰性PCR対照として、並行して実施した。PCR産物(2μL)を1.5%のアガロースゲルで検証した。増幅した産物を、MWG−Biotech(Ebersbery、ドイツ)による配列決定のために96−ウェルプレートに移した。決定した配列を、GenBankデータベース(National Center for Biotechnology Information,Rockville Pike,ベセスダ、メリーランド州、USA)で比較した。
【0051】
[糞便及び腸内生検のDNA抽出]
糞便、並びに回腸及び結腸の腸内切片を解凍し、12851gで10分間、遠心分離(Eppendorf 5804R、ハンブルク、ドイツ)する前に、5分間超音波浴(Millipore、スンドビュベリ、スウェーデン)に入れ、2分間ボルテックスにかけた。上清を捨て、190μLの緩衝液G2、及び15μLのプロテイナーゼK(DNA組織キット(DNA Tissue Kit);Qiagen、ヒルデン、ドイツ)を腸内試料に加えた。全ての試料を、振とう式恒温水槽(shaking water bath)において56℃で一晩中インキュベートする前に、PBS緩衝液(500μL/50mg)を、糞便の試料に加えた。12851gで8分間遠心分離(Eppendorf 5804R)した後、溶液をQiagenの試料管に移した。全てのDNAを抽出し、製造業者の説明書に従いBiorobot EZ1(Qiagen)を用いて、200μLの緩衝液に溶離した。
【0052】
[定量PCR(qPCR)分析]
分離定量(separate quantitative)PCR分析を用いて、細菌の分類を推定した。それぞれの分析反応では、10μLのQuantiTect(登録商標)SYBR Green PCR Master Mix(Qiagen)、0.5μΜのそれぞれのプライマー(表1)、2μLの鋳型DNA、及び20μLの最終体積に達するようにRNaseフリーの水を含んでいた。試料、基準、及び非鋳型の対照を、重複して実行した。95℃15分間の後、95℃15秒間の変性、56℃〜60℃30秒間のアニーリング、及び72℃30秒間の伸長反応による40サイクルのプログラムを有するRotor−Gene Q(Qiagen)において、熱サイクルを実施した。蛍光性の産物をそれぞれのサイクルの最終段階で検出した。特異的な増幅を確認するために、融解曲線分析を行った。16S rRNA遺伝子の絶対存在量(Absolute abundance)を、Rotor−Gene Qシリーズ(ソフトウェア1.7、Qiagen)を用いる標準曲線を基に算出した。検出限界は、全ての分析について、10
2コピー/反応であった。標準曲線を作成するために、ラクトバチルス・プランタルムDSM9843、ビフィドバクテリウム・インファンテスDSM15159、大腸菌(Escherichia coli)CCUG29300、及びバクテロイデス・プレボテラ(Bacteroides prevotella)からのクローニング産物を使用した。細胞懸濁液(クローニング産物)の1つのループを、アンピシリンを有する10mLの溶原培地(LB培地)に移し、37℃で一晩インキュベートした。QIAprep(登録商標)(Miniprep kit, Qiagen)を用いることにより、DNA抽出を実施した。Nanodrop ND−1000(Saveen Werner AB、マルメ、スウェーデン)により、DNAの濃度(ng/μL)を、最終的に測定し、コピー数を算出するために用いた。DNA産物の10倍の希釈系列をTE緩衝液(10mMのTris、1mMのEDTA、pH8)において作成した。細菌数を、糞便又は組織の湿重量1g当たりの増幅産物コピー数として表した。
【0053】
[末端標識制限酵素断片多型(T−RFLP)分析]
順方向プライマーENV1を、5’末端で蛍光染料(FAM)により蛍光で標識化したこと以外、上記の通り、16S rRNA遺伝子を増幅した。3系列反応(Triplicate reactions)をそれぞれの試料に対して実施し、陰性対照も全てのPCRで実施した。PCR産物を1.5%のアガロースゲルで検証した。それぞれの試料のPCR産物を貯蔵し、MinElute PCR精製キット(Qiagen)を用いることにより、さらに精製した。DNAを、最終的に、15μLのPE緩衝液に溶離し、DNA濃度をNanodrop ND−1000(Saveen Werner AB)により測定した。
【0054】
[T−RFLP分析]
精製したPCR産物のアリコート(200ng)を、制限エンドヌクレアーゼ酵素MspIで5時間、又は制限エンドヌクレアーゼ酵素AluIで2時間(Fermentas、ザンクト・レオン=ロート、ドイツ)の何れかにより、37℃で消化した(Mastercycler(登録商標)5333、Eppendorf)。不活化の例を65℃で20分間加熱することにより形成した。消化後、産物のアリコートを、96−ウェルプレートにおいて滅菌水で4倍に希釈した。次いで、キャピラリー電気泳動システムにおけるT−RFLP分析のために、試料をDNA−lab(Skane University Hospital、マルメ、スウェーデン)に移した。GeneMapper(登録商標)(version 4.0、Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州、USA)により、電気泳動からのデータを分析し、断片サイズ及びピーク領域を、サザン法(GeneMapper)を用いて概算した。サイズ範囲を30塩基対(bp)〜600bpに設定した。ピーク振幅の閾値を、試料に対して50相対蛍光単位(rfu)、及び内部標準に対して10rfuに設定した。それぞれの試料について全てのピーク領域を、試料における全てのピークについての領域を集計することにより算出した。個々の相対的なピーク領域を、全ての領域のパーセンテージとして表した。
【0055】
[計算]
試料について全ての領域のパーセンテージとして表した相対的なピーク領域を用いて、シャノン=ウィーバー指標(Η’)を、以下の数式により算出した:
H’=−Σpi lnpi
piがパーセンテージとして表した相対的な領域であり、lnは自然対数である。実験群の間の微生物個体群における相違の可能性を明らかにするため、主成分分析(PCA)による多変量データ解析を、SIMCA−P+(12.0.1、Umetrics、ウメオ、スウェーデン)において実施した。
【0056】
[統計]
数値を、中央値±平均値の標準誤差、又は10%値、25%値、75%値、及び90%値として示す。マン・ホイットニー順位和検定及び/又はSigma−Stat 3.0(SPSS Inc.、シカゴ、イリノイ州、USA)及びGraphPad 4.0,(Graphpad Inc.、ラホヤ、カリフォルニア州、USA)を用いるt検定により、2つの実験群の間の相違を評価した。フィッシャー直接確率法(Quick−Stat version 2.6、Sapio HB、スウェーデン)により、細菌の発生率を評価した。P<0.05は有意差があるとみなされる。
【0057】
[結果]
(体重、血漿グルコース、及びインスリン)
全てのラットは、研究中の毎晩の実験的な食餌を終えた。10日間の実験中に示す体重又は標準のラットの摂取量に関して、チラコイドと対照群との間に有意差を発見しなかった(データは示さない)。しかしながら、ボーラス投与後、120分間での血漿インスリン濃度は、
図1に示すように、対照と比較して、チラコイド群では有意に低下した。ここで、グルコースのボーラス投与をラットに与えた後120分の、血漿インスリン濃度(pM)を示す。インスリンレベルは、対照群と比較してチラコイド群では有意に下がった(p=0.0082)。しかしながら、それらの群の間で、血漿グルコース濃度について差異はなかった。
【0058】
(細菌の定量化及び同定)
乳酸桿菌についての
図2に示すような生菌数計測と、
図3に示すようなqPCR分析との双方に関し、対照と比較してチラコイド群では、回腸の粘膜において有意に増加した。
図2は、回腸、盲腸、及び結腸の粘膜、並びに糞便における乳酸桿菌の生菌数(CFU/g組織)を示す。チラコイド群における乳酸桿菌の量は、対照群と比較して、回腸では有意に増加したが(p=0.007)、盲腸、結腸、及び糞便に関して差異は見られなかった;
図3は回腸及び結腸の粘膜、並びに糞便における、乳酸桿菌の含有量のqPCR分析を示す。乳酸桿菌は、対照群と比較してチラコイド群では、回腸の粘膜において有意に増殖し(p=0.032)、糞便において有意に減少した(p=0.007)。結腸の粘膜において、差異を観察しなかった。双方の方法に関し、結腸又は盲腸の粘膜試料において、差異を観察しなかった。しかしながら、生菌数計測ではなく、qPCRは、
図3に示すように、チラコイド群では、糞便試料において乳酸桿菌の有意な減少を示した。qPCRの融解曲線分析は糞便及び粘膜の乳酸桿菌が異なっていることを証明した(データは示さない)。ロゴサプレートから無作為に取り出した分離株に対する16S rDNA配列決定は、対照と比較して、チラコイド群では、回腸におけるラクトバチルス・ロイテリのかなり高い発生率を示した。また、結腸におけるチラコイドによるラクトバチルス・ロイテリの発生率の増加傾向も、回腸及び結腸におけるラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)の発生率の有意な低下と同様に観察した(表2)。
【0059】
qPCRによるビフィズス菌の分析は、回腸、結腸の粘膜において、また、糞便においても、双方の実験群では同様の含有量を示した(データは示さない)。生菌数について、ビフィズス菌選択培地における増殖細菌の有意な減少を、チラコイド群で発見した。しかしながら、16S rDNAによる同定は、ビフィズス菌ではない他のグラム陽性菌が、顕著に寒天プレートに存在することを示した(ビフィズス菌は、25%未満を示す)。それ故に、群としてのグラム陽性菌は、
図4に示すように、盲腸及び結腸の粘膜、並びに糞便の双方において、対照と比較してチラコイド群で有意に減少した。ここで、回腸、盲腸、及び結腸の粘膜、並びに糞便におけるビフィズス菌選択培地での増殖細菌の生菌数(CFU/g組織)を示す。細菌の量は、対照群と比較して、チラコイド群では盲腸(p=0.0104)、結腸(p=0.0207)、及び糞便(p=0.0006)において有意に減少した。これらのグラム陽性菌を、ブドウ球菌種(Staphylococcus spp)、コクリア属細菌(Kocuria)、及びバシラス・シンプレックス(Bacillus Simplex)と同定した(データは示さない)。
【0060】
制限エンドヌクレアーゼMspIによる、回腸及び結腸由来の粘膜試料のT−RFLP分析では、主成分分析(PCA)により示すように、実験群の間で細菌群における差異が無いとの結果になった。しかしながら、糞便の試料において、
図5に示すように、対照と比較してチラコイド群では、特異的な細菌群は、完全に、互いに分離した。ここで、対照群及びチラコイド群における、結腸及び回腸の粘膜、並びに糞便のMspI消化からのT−RFLPデータの主成分分析(PCA)を示す。糞便の試料(□=対照群からの糞便、■=チラコイド群からの糞便)において、完全に互いに分離した、特異的な細菌性群の間で差異を見ることができる。
図6に示すように、制限エンドヌクレアーゼAluIによっても、チラコイド群及び対照群それぞれからの糞便の試料において、PCAにより同様に示される分離した細菌群を発見した。ここで、対照群及びチラコイド群における、糞便の試料のAluI消化からのT−RFLPデータの主成分分析(PCA)を示す。対照群(□)及びチラコイド群(■)からの、糞便の試料間の差異を、互いに分離しているので、見ることができる。
【0061】
生菌数及びqPCRの双方による、腸内細菌科及びバクテロイデス(Bacteroid)の分析(データは示さない)において、また、シャノン=ウィーバー多様性指数により計算された後の細菌多様性(データは示さない)でも、チラコイド群と対照群との間の有意差を観察しなかった。
【0062】
[検討]
この研究では、2つの主な知見に至った。第一に、10日間の食餌に対するチラコイドの補給は、ラットにおけるインスリン感度に影響を及ぼす。食餌の間、血漿グルコースの濃度に差異を観察しないにも関わらず、グルコースのボーラス投与を与えてから120分後、チラコイドの食餌を与えたラットの血液中において、インスリンがより低濃度であった。腸壁の摂取及び透過性に関するインビトロモデルである拡散チャンバーを用いると、チラコイドは、投与量に依存して、メチルグルコースの摂取を長引かせ、腸管の粘膜側を被覆するチラコイドの立体障害が起こることを示している。仮説では、インビボでグルコース摂取が長引くと、分泌されるインスリンの濃度が低くなる。しかしながら、本研究において、血液中のグルコースで差異が観察されなかったものの、120分後のインスリン濃度が、チラコイド群では有意に下がった。近年は、「リーキーガット」、すなわち腸管の透過性の増加が、インスリン耐性、及び結果的に糖尿病の改善に導き得ることが提案されている。インスリンの濃度低下に対する1つの説明は、それゆえ、チラコイドにより引き起こされた立体障害が、腸壁を強化したことであるだろう。
【0063】
糖尿病を予防し、処置もし得るための新しい治療の方法を切り開くことができるため、この現象は、さらに研究される必要がある。
【0064】
第二に、チラコイドは、いくつかの方法で微生物相を調整する。回腸における乳酸桿菌の濃度が増加し、同時に糞便において乳酸桿菌が減少することは、チラコイドが乳酸桿菌の回腸におけるコロニー形成を促進させることを示唆する。我々の知見をサポートする、乳酸桿菌の株は高い濃度で粘膜にコロニー形成する能力がある、ということが知られている。ラットにおける乳酸桿菌の共通の亜種は、対照と比較して、チラコイド群で特に増加するラクトバチルス・ロイテリである。さらに、チラコイド群では、結腸及び糞便において、グラム陽性菌の偏ったコロニー形成が観察された。しかしながら、ビフィズス菌の濃度は、実験群の間で差異が無かった。対照群ではなく、チラコイド群において、細菌個体群の異なる群が発見されたように、微生物相のチラコイドによる調整も、T−RFLP分析により見られた。
【0065】
以前の研究では、抗肥満症要素として作用することにより、ラクトバチルス及びビフィドバクテリウムのいくつかの株が、体重調整にとって重要であり得ることを報告している。また、過体重の患者では、やせた患者に比べて、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような、いくつかのグラム陽性菌の増殖が促進されることが言われている。有害なグラム陽性菌、及びその微生物相の組成全体の除去は、このように、エネルギーバランスにとって重要であることは明らかである。さらに、ラクトバチルス・ロイテリが、有害な細菌の増殖を抑制する健康促進効果を有するということが示され、ラクトバチルス・ラムノサス GG、及びガセリ菌(Lactobacillus gasseri)のような他の乳酸桿菌種が、肥満症、及び肥満に関連する炎症を軽減することが発見されている。ブドウ球菌種、コクリア属細菌、及びバシラス・シンプレックスのような、潜在的に有害な細菌の観察された減少は、チラコイドの直接的な効果、又はラクトバチルス・ロイテリのコロニー形成を促進する第二の効果等の何れかであり得る。
【0066】
上記の知見の全ては、ラットにおいて、10日間の食餌へのチラコイドの添加が、いくつかの点で微生物相に効果があることを示す。微生物相の組成が体重の管理に関わることを示しており、チラコイドが、以前に、体重を減少させることを示しているため、以前の研究で見られる体重減少のいくつかの効果が、微生物相の偏りに起因し得るとの仮説を立てることができる。
【0067】
終わりに、チラコイドが、腸内微生物相を制御することで、乳酸桿菌のコロニー形成の促進、及び潜在的に有害なグラム陽性菌の増殖の減少に至ることを示す本知見を、我々は提案する。このように、チラコイドはプレバイオティック作用物質である。チラコイドは、おそらく腸内のバリア機能を補強することによって、インスリン感度も増加させる。
【0068】
実施形態で使用したプライマー
【表1】
【0069】
回腸及び結腸の粘膜試料のロゴサプレートから無作為に取り出した分離株の16S rDNA配列決定により調べた、異なるラクトバチルス菌種の発生率。P<0.05を、対照に対するチラコイド群での有意な増加と見なした。
【表2】