【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の第1局面は、第1の主面と第2の主面とを備えたセラミックス板と、第3の主面と第4の主面とを備えた金属板と、セラミックス板の第2の主面と金属板の第3の主面との間に配置されて、セラミックス板と金属板とを接合する接着剤層と、を備えた保持部材に関するものである。
【0011】
この保持部材は、セラミックス板の内部に、通電により発熱するヒータ配線を備えており、接着剤層には、強磁性物質を含んでいる。
このように、本第1局面では、セラミックス板と金属板とを接合する接着剤層に、強磁性物質を含んでいるので、接着剤層の外部より、高周波電磁波を印加することにより、強磁性物質を発熱させることができるので、その周囲の接着剤層、ひいては接着剤層に隣接するセラミックス板を加熱することができる。
【0012】
詳しくは、強磁性物質に高周波電磁波が通過すると、強磁性物質の表面には高周波電磁波により磁力線(即ち磁界)が発生し、その磁力線を打ち消すように渦電流が発生する。そして、この渦電流と強磁性物質との抵抗によって生じるジュール熱によって、強磁性物質が発熱する。例えば、微細な強磁性物質が接着剤層に均一に分散している場合に、その接着剤層に均一に高周波電磁波が照射されると、接着剤層全体が均一に発熱する。
【0013】
このように、本第1局面では、高周波電磁波の印加によって強磁性物質を発熱させて接着剤層を加熱することができるので、ヒータ配線以外の部分でも、セラミックス板の温度を上昇させることができる。
【0014】
しかも、ヒータ配線自体は、高周波電磁波を反射するので、仮に接着剤層中に均一に強磁性物質が分散している場合でも、平面視(即ちセラミックス板を厚み方向から見た場合)にてヒータ配線が設けられている領域では、接着剤層中の強磁性物質の発熱は抑制される。一方、ヒータ配線以外の領域では、高周波電磁波の印加が妨害されにくいので、強磁性物質はヒータ配線の領域に比べて十分に発熱する。
【0015】
つまり、ヒータ配線がある場合には、ヒータ配線の発熱による温度分布と、強磁性物質の発熱による温度分布とでは、温度分布の高低の状態が逆となるので、セラミックス板(従って保持部材)の平面方向における温度の均一性が高いという効果がある。なお、平面方向とは、セラミックス板の厚み方向とは垂直のセラミックス板が広がる方向である。
【0016】
(2)本発明の第2局面では、強磁性物質として、軟磁性物質を用いることができる。
本第2局面は、強磁性物質として好適な材料を例示している。
軟磁性物質は、硬磁性物質とは異なり、外部磁界がなければ磁力が発生しない又は磁力が発生しにくい。また、外部磁界がなくなれば磁力も消失する。そのため、例えば強磁性物質が粒子状である場合には、粒子の分散性に優れており、ひいては接着剤中における分散性に優れている。また、例えば保持部材が静電チャックに用いられる場合には、静電チャックに異物が吸着されにくいという利点がある。
【0017】
(3)本発明の第3局面では、強磁性物質のキュリー点は、100℃以上である。
本第3局面では、強磁性物質のキュリー点は100℃以上であるので、100℃以上の高いキュリー点に到るまで、強磁性物質(従って接着剤層)の温度を制御することが可能である。
【0018】
(4)本発明の第4局面では、接着剤層は、強磁性物質以外に、他の無機誘電体を含む。
本第4局面は、接着剤層に含まれる物質を例示している。ここでは、強磁性物質以外に、他の無機誘電体を含むので、例えば強度に優れる、所定の熱伝導率に調整されている、塗工の際に塗工しやすい粘度に調整されているなどという利点がある。
【0019】
(5)本発明の第5局面では、接着剤層中に、粒子状の強磁性物質が分散している。
本第5局面では、接着剤層中に粒子状の強磁性物質が分散しているので、接着剤層の全体を容易に加熱できる。
【0020】
このように、強磁性物質が接着剤層中に均一に分散している場合には、照射される高周波電磁気の強度が同じときに、接着剤層において均一な発熱が可能であるとともに、接着面での均一な接着力と熱伝達の特性が得られるという利点がある。
【0021】
(6)本発明の第6局面では、保持部材を厚み方向から見た平面視で、接着剤層は、強磁性物質が高周波電磁波によって発熱する場合に、場所によって発熱状態が異なるように、強磁性物質の種類及び配置状態の少なくとも一方が設定されている。
【0022】
接着剤層においては、例えば強磁性物質を多く配置した部分や、発熱能力が大きな種類の強磁性物質を配置した部分では、他の部分に比べて温度が上昇し易い。なお、発熱能力とは、例えば強磁性物質の添加量等の他の条件が同じ場合の単位体積当たりの発熱量である(以下同様)。
【0023】
従って、例えばセラミックス板において、温度が低下し易い場所や温度が上昇し難い場所に、強磁性物質を多く配置したり発熱能力が大きな種類の強磁性物質を配置することによって、セラミックス板の温度を容易に均一化できる。
【0024】
更に、温度の均一化だけではなく、強磁性物質の配置や種類などを調節することにより、所望の箇所の温度を選択的に上昇させることができるので、セラミックス板の平面方向における温度調節も可能である。
【0025】
(7)本発明の第7局面では、平面視で、ヒータ配線を配置したヒータ領域と他の領域とについて、強磁性物質が高周波電磁波によって発熱する場合に、他の領域における発熱状態がヒータ領域における発熱状態より大となるように、強磁性物質の種類及び配置状態の少なくとも一方が設定されている。
【0026】
ヒータ領域とは異なる他の領域は、ヒータ領域に比べてヒータ配線による温度上昇が少ないので、他の領域には、ヒータ領域よりも接着剤層による発熱状態が大となるように、強磁性物質を多く配置したり発熱能力が大きな種類の強磁性物質を配置する。これにより、セラミックス板の平面方向における温度を容易に均一化できる。
【0027】
(8)本発明の第8局面では、平面視で、保持部材を厚み方向に貫通する貫通孔の周囲と他の領域とについて、強磁性物質が高周波電磁波によって発熱する場合に、貫通孔の周囲における発熱状態が他の領域における発熱状態より大となるように、強磁性物質の種類及び配置状態の少なくとも一方が設定されている。
【0028】
セラミックス板の貫通孔の周囲は、他の領域に比べて温度が低くなり易いので、貫通孔の周囲には、他の領域よりも接着剤層による発熱状態が大となるように、強磁性物質を多く配置したり発熱能力が大きな種類の強磁性物質を配置する。これにより、セラミックス板の平面方向における温度を容易に均一化できる。
【0029】
(9)本発明の第9局面では、平面視で、保持部材の外周部分と他の領域とについて、強磁性物質が高周波電磁波によって発熱する場合に、外周部分における発熱状態が他の領域における発熱状態より大となるように、前記強磁性物質の種類及び配置状態の少なくとも一方が設定されている。
【0030】
セラミックス板の外周部分は、他の領域に比べて温度が低くなり易いので、外周部分の周囲には、他の領域よりも接着剤層による発熱状態が大となるように、強磁性物質を多く配置したり発熱能力が大きな種類の強磁性物質を配置する。これにより、セラミックス板の平面方向における温度を容易に均一化できる。
【0031】
(10)本発明の第10局面では、接着剤層が複数層からなり、複数層の少なくとも一層が強磁性物質を含んでいる。
本第10局面は、接着剤層が複数層からなる場合を例示している。
【0032】
(11)本発明の第11局面は、第1〜第10局面のいずれかの保持部材が、吸着用電極を備えた静電チャックである。
本第11局面の静電チャックは、上述した保持部材を備えているので、セラミックス板の平面方向における温度を容易に均一化することができる。
【0033】
これにより、静電チャックの吸着面に保持された例えば半導体ウェハの温度も容易に均一化できるので、例えばエッチング等の加工を行う場合に、加工速度にムラが生じる等の不具合を抑制することができる。
【0034】
(12)本発明の第12局面は、第1〜第10局面のいずれかの保持部材と、保持部材に高周波電磁波を印加することが可能な高周波電極と、を備えた半導体製造用装置である。
【0035】
本第12局面の半導体製造用装置は、上述した保持部材を備えているので、セラミックス板の平面方向における温度を容易に均一化することができる。
例えばプラズマによるエッチング加工を行う際に、半導体製造用装置の高周波電極から保持部材に対して高周波電磁波を印加することによって、セラミックス板の平面方向における温度を容易に均一化できる。そのため、例えばエッチング加工を行う場合に、加工速度にムラが生じる等の不具合を抑制することができる。
【0036】
<以下に、本発明の各構成について説明する>
・第1の主面及び第2の主面とは、セラミックス板の厚み方向における一方の表面及び他方の表面を示し、第3の主面及び第4の主面とは、金属板の厚み方向における一方の表面及び他方の表面を示している。
【0037】
・セラミックス板とは、セラミックスを主成分とする板であり、そのセラミックスとしては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、イットリア(酸化イットリウム)、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化珪素、窒化珪素等が挙げられる。
【0038】
・金属板とは、金属単体又は合金からなる板であり、その金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金が挙げられる。
・接着剤層は、接着剤中に、同一又は種類の異なる各種の強磁性物質を含有する層である。この接着剤としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの各種の接着剤(例えば熱硬化型接着剤)を採用できる。
【0039】
・強磁性物質(即ち強磁性体)とは、磁性体のうち、磁界により強く磁化され、磁石となる物質である。磁化された強磁性物質は、結晶内の隣り合った磁性原子の磁気モーメントが平行に並ぶことで外部に強い磁性を示すものである。強磁性物質には、具体的には、鉄、コバルト、ニッケルまたそれらの合金、フェライトなどがある。フェライトは、酸化鉄を主成分とした磁性を示すセラミックスの総称であり、その結晶構造および結合する元素によって性質が変化する。
【0040】
・強磁性物質は、さらに硬磁性物質と軟磁性物質の2種類に分類できる。
硬磁性物質(硬磁性体)は、外部磁界によって磁化された後、外部磁界を取り去っても磁化を残す物質である。
【0041】
一方、軟磁性物質(軟磁性体)は、外部磁界を取り去ると磁化を失って、元の状態に戻る物質である。この軟磁性物質としては、例えば、鉄、フェライトなどが挙げられる。
フェライトのうち、硬磁性体の特徴を示すものを特にハードフェライト、軟磁性体の特徴を示すものを特にソフトフェライトと呼ぶこともある。ハードフェライトには、BaO・6Fe
2O
3やSrO・6Fe
2O
3がある。ソフトフェライトには、MnO・Fe
2O
3、ZnO・Fe
2O
3、NiO・Fe
2O
3、CuO・Fe
2O
3などがある。
【0042】
フェライトは、結晶構造では、スピネルフェライト、六方晶フェライト、ガーネットフェライトの3つに分類され、六方晶フェライトの多くはハードフェライトに、スピネルフェライトの多くはソフトフェライトに分類される。
【0043】
・粒子状の強磁性物質としては、例えば、アスペクト比(最長の寸法/最短の寸法)が1〜30の範囲の粒子状の物質が挙げられる。
・なお、使用する強磁性物質が同じ場合(但し高周波電磁波など他の条件が同じ場合)には、使用する量(例えば単位体積当たりの重量%)が多いほどの発熱量が多くなる。また、同じ条件(例えば周波数や印加時間など)で高周波電磁波が印加された場合でも、強磁性物質の種類が異なれば、その発熱能力は異なる。すなわち、その周波数における鉄損の値が大きい強磁性物質の方が発熱能力が高い。なお、発熱量は、高周波電磁波の印加時間に比例する。