(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
様々な図面において、類似の番号は類似の特徴を表す。
【0015】
本開示の様々な態様は概して、認知機能の改善の問題のうちの1つまたは複数について述べる。
【0016】
以下の説明は、ニューロトラッカー「知覚-認知-運動」学習システム(NT-LS: NeuroTracker-Learning System)の非限定的な例示的な実施形態を開示する。より詳細には、NT-LSの以下の3つの特徴を説明する:
【0017】
1-ニューロトラッカー(NT)運動付加システム。このシステムでは、極めて特定の条件の下、学習最適化のために運動付加が行われる。
【0018】
2-個別の閾値を迅速に査定するための「自己ペース型」システムおよび方法。
【0019】
3-NT-LSの新規の一般概念を導入する。より詳細には、スポーツのためのならびにあらゆる緊急の決定行動および/または危機管理状況のためのトレーニングの、漸進的に増加する分野関連性について、NT-LSをどのように調整できるかを実証する。
【0020】
1-NT運動付加システム
スポーツのパフォーマンス(人混みで進むことのような一般的な生活の状況にも言える)は、急な方向転換および衝突を含み、かつシーン(すなわち環境)内の複数の主要な要素に同時に注意を向ける、3次元(3D)環境内の広いエリアに亘る複雑な移動を迅速に処理する性能を伴う。シーンから得る情報は、スポーツにおける特定の運動要求と統合されるか、または人混みで進むことのような実生活の要求に関して統合される。換言すると、人間は、周辺環境で何が起こっているかを認識および理解し始め、同時に特定の行動を伴って物理的にこれと接する。いくつかの経路が知覚を担い、いくつかが行動を担っている、特化した脳の視覚系についての証拠がある。知覚のためのおよび行動のためのこれらの特化した脳の視覚系は異なる要素からなるが、最終的に結合されている。
【0021】
知覚系のための視覚はより複雑であり、かつ行動系のための視覚よりも発達のスケールにおいて新しいことも科学による証拠から考えられる。
【0022】
感覚-知覚-認知-運動ループの基本的な移行および終結は、トレーニングにおいて上記の能力の全てを結合する方法を伴う。これらの能力を単離および固定してトレーニングにおいて結合することも望ましい。本開示は、この固定(consolidation)を構築するためにNT-LSでトレーニングすることを提案する。このトレーニングはより複雑な知覚視覚システムを伴い、一旦固定されると、NTと統合された運動タスクを用いて視覚-知覚-認知-運動ループを終結する。
【0023】
1a)固定プロセスが必要である証拠
初期の研究は、厳しい知覚-認知トレーニング形態の開始時における追加の運動要求は、取得段階に対して有害であり得ることを実証してきた。
図1は、厳しいトレーニング形態を受けたアスリートの学習曲線を示すグラフである。このグラフは、厳しい知覚-認知トレーニング形態の開始時における追加の運動要求は、被験者の取得段階に対して有害であり得ることを実証している。高いレベルの熟練したアスリートのトレーニングから分かったことは、プレーヤーが開始から起立してタスクを学習した場合、彼らのパフォーマンスのレベルはより低く、学習曲線はより浅かったということである。このことをより理解するために、まず固定を実行した後にトレーニングの初めに運動負荷を追加する場合のトレーニングの移行性に注目したある実験が、初期の研究に続いた。移行性とは、1つの条件での学習の利益が別の条件において維持されることを意味する。この研究の結果は、知覚-認知-運動システムを用いた場合の、厳しいトレーニング形態を受けたアスリートの学習曲線を示すグラフである
図2に示されている。このグラフは、被験者の着座時の固定の後、起立時に極めて小さいパフォーマンスの低下が観察されること、およびあるエクササイズ条件では初期の大きな下落が存在するが、アスリートは速度処理性能を素早く復帰し、「着座」位置の通常の学習曲線に戻ることを示している。第1の14個のトレーニングセッションは着座時の処理能力の速度の通常の進行を示し、アスリート起立時の次の6個のセッションが続き、アスリートがバランス維持を難しくする位置におけるBosu(登録商標)バランスボール上に着座時の最後の6個のトレーニングセッションが続く。
図2から観察できるように、固定(着座)後、起立時のパフォーマンスの低下は極めて小さく、これは移行の証拠を示すものである。第3の条件(エクササイズする;Bosu(登録商標)ボール上に着座)において初期の大きな下落が存在するが、アスリートは速度処理性能を素早く復帰し、「着座」位置の通常の学習曲線に戻る。
【0024】
1b)ループの終結
このセクションは、最適なパフォーマンスのために視覚-知覚-認知-運動ループを終結し、かつNT技術を視覚-運動パフォーマンスシステムの対象物測定と結合するための方法およびシステムを説明する。被験者は以下のスキームに従ってトレーニングシーケンスを受ける:
[n
1(CORE); n
2(CORE+MOTORa); n
3(CORE+MOTORb)]
【0025】
トレーニングシーケンスは、n
1回のコアエクササイズの反復、続くn
2回の第1の(通常軽い)運動要求を伴って実行されるコアエクササイズの反復、および続くn
3回の第2の(通常重い)運動要求を伴って実行されるコアエクササイズの反復からなる。一般に、n
1、n
2およびn
3の値は負でない整数である。
【0026】
非限定的な例として、トレーニングは、Faubertらの名において2009年9月29日に出願され、2010年4月8日に番号WO2010/037222A1で公開されたPCT特許出願番号PCT/CA2009/001379(これ以降、「Faubertの222」とする)に記載の装置を用いて実行してよく、上記出願の全ての内容は参照により本明細書に援用される。
【0027】
Faubertの222で導入された装置は、被験者の知覚-認知能力を評価または改善するために使用できる。この装置は、連続する試験中に所定の3D環境を移動する仮想対象物のディスプレイを備える。
図3は完全没入型仮想環境の例の斜視図である。より詳細には、ディスプレイは、例えばFakespace Systemsが提供するCAVE(登録商標)自動仮想環境(CAVE Automatic Virtual Environment)等の完全没入型仮想環境(FIVE: Fully Immersive Virtual Environment)室101を備え、この完全没入型仮想環境室101内では、被験者は所定の3D環境に完全に没入し、刺激が提示される。完全没入型仮想環境室101は、例えば8×8×8フィートのサイズを有し、4つの投影表面(3つの壁102、103および104、ならびに床105)を備える。ディスプレイは、4つの投影表面(3つの壁102、103および104、ならびに床105)上に立体画像を示し、仮想対象物が提示される所定の3D環境を形成する。この目的のために、ディスプレイは、投影機106、107、108および109と、関連する平面反射板110、111、112および113とをそれぞれ備え、ディスプレイ制御器として作動するコンピュータ114の制御の下、4つの投影表面(3つの壁102、103および104、ならびに床105)上に画像を投影および表示する。コンピュータ114とFIVE室101の他の要素との間の相互接続は、簡略化の目的で図示していない。コンピュータ114は、いずれの公知の接続方法を用いて、様々な投影機106、107、108および109へと、ならびに他のネットワーク接続された要素へと連結してもよい。
【0028】
被験者の知覚-認知能力を評価または改善するための装置のディスプレイは、例えばStereographics(サンラファエル、カリフォルニア州)が提供する液晶シャッター立体視用ゴーグルの形態のシャッター視覚器具(図示せず)も備え、これにより被験者の3D立体知覚を可能にし、より具体的には、被験者が仮想対象物、仮想対象物の位置および3D環境を3Dで知覚できるようにする。立体画像を48Hzのリフレッシュレートでレンダリングし、ゴーグルを96Hzで遮断して、1秒に48個の画像を被験者の左右の眼に送達する。ディスプレイは、例えばAscension technology corp.(バーリントン、バーモント州)が提供するFlock of Birds(登録商標)等の、被験者の頭の位置を追跡するためにゴーグルに装着する例えば、磁気検出器の形態の位置センサをさらに備える。コンピュータ114は、ディスプレイを制御して、追跡される被験者の頭の位置に対する視覚的視点をリアルタイムに補正する。ディスプレイ制御器(例えば「Silicon graphics 540」コンピュータ)は、刺激を生成し、被験者の反応を記録する。
【0029】
被験者を着座させるために、実質的にFIVE室101の中心位置に位置決めされた眼科用椅子106を提供する。
【0030】
したがってFaubertの222の装置は、被験者の知覚-認知能力を評価または改善するための方法の支援において使用される。要約すると、この装置は、連続する試験中に所定の3D環境内を移動する仮想対象物のディスプレイを備え、被験者は3D環境内を移動する仮想対象物を視認する。コンピュータ114は、投影機106、107、108および109を制御して、3D環境内の仮想対象物の移動速度を変更する。各試験中に、被験者は移動する仮想対象物の部分集合を追跡し、試験後に被験者は追跡した対象物を識別する。本明細書中に開示するトレーニングおよび他の機能は、いずれの他の好適なデバイスを用いて代替的に実行してもよいことを念頭に置かれたい。
【0031】
COREは、Faubertの222に記載の装置を用いた6〜8分間の試験シーケンスからなる試験を表す。
【0032】
CORE+MOTORaは、上記CORE試験への低レベルの単純な運動負荷の付加からなる試験を表す。これは、被験者の起立姿勢であってよいが、自転車運転であってもよく、またはレール上もしくはアイススケートもしくはローラースケートでトレッドミル上に単に留まっていることでもよい。これは、ランニング、スケーティングまたはボールを奪う等の意味のあるパターンで脳から手足を移動させる遠心性信号(脳の移動命令)を存在させないよう、CORE+MOTORa試験を較正することを意味する。
【0033】
CORE+MOTORbは1レベル高い試験を表し、したがってMOTORbの負荷はMOTORaの負荷よりも重い。CORE+MOTORb試験中、被験者は、例えばスポーツ、機械もしくは車両の操作、危険な状況またはいずれかの他の同様の目的等の、所定の実生活の状況に適合された特定の運動要求に、COREを統合することが求められる。CORE+MOTORb試験中に提示できる状況の種別に所与の制限は存在しない。
【0034】
コンピュータ114内にまたは別個のコンピュータ(図示せず)内に統合されたトレーニングシーケンス制御器は、Faubertの222に記載の装置を制御してトレーニングシーケンスを実行する。各テスト中の被験者の移動、特にMOTORa付加およびMOTORb動作に関連する移動を観察するために、被験者およびトレーニングシーケンス制御器にセンサを接続してよい。
【0035】
入手可能な蓄積された科学的データを考慮した実現例により、トレーニングシーケンス制御器の制御の下、以下のトレーニングシーケンスを実行する:
[n
1(CORE); n
2(CORE+MOTORa); n
3(CORE+MOTORb)]
【0040】
より詳細には、トレーニングシーケンス制御器は、Faubertの222に記載の装置を制御して、順番に一連の10〜15回のCORE試験と、一連の6回のCORE+MOTORa試験と、一連の6回のCORE+MOTORb試験とを実行する。各試験後、コンピュータ114は、例えばコンピュータ114のディスプレイに付随するキーボード等の反応インターフェースを通して追跡された仮想対象物(例えば球体)の識別に関連する被験者の反応を、被験者の発達を決定するためのCORE+MOTORa試験およびCORE+MOTORb試験の場合の、試験中の被験者の移動の分析と場合によって組み合わせた、上記反応のさらなる分析(例えば前述のFaubertの222に記載の分析)のために、収集する。トレーニングシーケンスのこのような分析は、グラフの追跡に限定され得、または意図した用途の要件に応じて大幅により複雑になり得る。
【0041】
上記の実現例(n
1=10〜15回の反復、n
2=6回の反復、およびn
3=6回の反復)を用いて、科学的データに基づく方法で運動技能を向上させることができ、いずれのスポーツまたはリハビリテーションのトレーニングにもこれを適合できる。例えば、脳卒中を患い、歩行がいくらか困難な人が、MOTORbがトレッドミル上の歩行となるような方法を用いて徐々にリハビリテーションを受けることを想像することは容易である。以下もまたMOTORbのいくつかの例である:
【0043】
ホッケー:パスを受けてパックをシュートする、またはゴールキーパーのためにパックを止める;
【0044】
サッカー:ボールを受け取り、これを方向転換する;
【0046】
2-「自己ペース型」システムおよび方法
自己ペース型システムおよび方法は、NT-LSシステムのユーザー(被験者)がもたらすいくつかの問題を取り扱う。これらの問題は以下からなる:
【0047】
-団体での試験(新参の選抜隊の補充)のような状況において、通常の6〜8分のCORE試験より迅速に速度閾値を得るための技術、すなわち迅速なスループット等。
【0048】
-被験者が仮想対象物の追跡を喪失した場合でも、試験中に被験者をアクティブに保つ技術(Faubertの222に記載の装置を参照)。標準的なCORE試験は、被験者が1つまたは複数の追跡される対象物を喪失した場合、6〜8秒間続く試験中にリセットまたは回復(recall)する機会がないように設定される。被験者は終了まで待機し、応答して再び開始する。
【0049】
自己ペース型システムおよび方法は、被験者がアクティブ状態に留まり、動的な視覚シーンに対して自力でかつオンラインでいくつかの事柄を実行できるようにすることで、この問題を解決する。また、自己ペース型システムおよび方法の2つのバージョン、トレーニングモードおよび査定(測定)モードが存在するが、これら2つのバージョンは互いに排他的なものではない。
【0050】
自己ペース型トレーニングモードを示す概略図である
図4を参照すると、典型的なCORE試験が以下の方法で機能している。Faubertの222に記載の装置のディスプレイは、トレーニングシーケンス制御器に指示されて、
図4のブロック31に示すように被験者に対して多数の仮想対象物(典型的には8つの球体)を提示する。続いてトレーニングシーケンス制御器は、色を変更したり点滅させたりすることにより、部分集合(通常、目標対象物を表す4つの球体)にインデックスを付ける(
図4のブロック32)。続いて、対象物は元の状態に戻る。続いてトレーニングシーケンス制御器は、
図4のブロック33に示すように3D環境内の対象物の移動を開始する。一旦対象物の移動が開始されると、被験者は、コンピュータ114に操作可能に接続されたユーザーインターフェース39を使用して、以下の調整を行うことができる:
【0051】
自己ペース型トレーニングモード:この場合、被験者は、ユーザーインターフェース39を介してトレーニングシーケンス制御器に向けてコマンドを発行し、以下の行動を実行する:
【0052】
-速度の管理、すなわちボタンを押すかもしくは例えば遠隔モジュール(図示せず)への音声コマンド等の特定のコマンドを与えることにより、または例えば手を上下に移動させるかもしくは手を広げたり閉じたりすることにより、モーションキャプチャデバイス(図示せず)が検知する身体的なジェスチャーにより、動的な3D環境内の仮想対象物を意のままにより速くまたはより遅く移動させる。遠隔モジュールまたはモーションキャプチャデバイスは、トレーニングシーケンス制御器を組み込んでいるコンピュータ114に接続される(
図4のブロック34およびブロック36)。
【0053】
-追跡中のいずれかの時点において、およびある限度までのいずれかの所望の長さの間、目標対象物のリセット、回復、または再度インデックス付与を行う(
図4のブロック35)。
【0054】
-試験中のいずれかの時点において、被験者は、遠隔モジュールのボタンを押下することによりまたはいずれかの他のコマンドを通して、仮想対象物の所定の速度が正しい追跡速度であることを示すことができる(
図4のブロック37)。より詳細には、被験者は速度が正しいと感じた時に、その速度で目標対象物の追跡を維持することができ、続いて被験者が遠隔モジュールのボタンを押すと選択された速度がコンピュータ114により自動的に受信および記録される。あるいはまたは加えて、コンピュータ114に操作可能に接続された脳波(EEG: Electroencephalogram)センサ(図示せず)により被験者の脳波を検出してよい。コンピュータ114は、脳波を分析して、被験者が焦点を喪失し、これ以上目標対象物の追跡を維持できないことを判定してよい。コンピュータ114は例えば、正しい速度は焦点の喪失が検出される前の以前の(遅い)速度であることを決定してよい。被験者がボタンを押すかまたはEEGセンサによる検出に基づいて、目標はリフレッシュされ、ボタンが離されるかまたは脳波が再び焦点があったことをEEGセンサが示した時、移動を継続しながらインデックスが消滅する。このリフレッシュは、いずれの回数でも繰り返すことができる(
図4のブロック38)。すなわち、1人の被験者は、自己ペース型システムにフィードバックコマンドを提供することにより、所望の長さの間トレーニングできる。被験者は、リセットしない方法を用いて継続でき、または所望の回数の休憩をとってよい。
【0055】
自己ペース型トレーニングモードにおいて被験者が行う調整の種類に応じて、ユーザーインターフェース39は、1つもしくは複数のボタン、音声検出器に接続されたマイク(図示せず)、モーションキャプチャデバイス、キーボード、ペダルボード、またはいずれの他のマンマシンインターフェースを備えてもよい。
【0056】
自己ペース型査定モード:
図5は、
図4の自己ペース型トレーニングモードと階段型(上下する)速度変化の追加使用とを組み込んだ、自己ペース型査定モードを示す概略図である。自己ペース型査定モードは、以下の追加の操作(
図5のブロック42)を有することを除いて、自己ペース型トレーニングモード(
図5のブロック41)の操作を組み込んでいる:
【0057】
ブロック41で予め設定された回数の速度調整が終了すると、トレーニングシーケンス制御器は、CORE試験で使用するような、およびFaubertの222の装置で記載されるような、短縮された階段型(上下する)速度変化を用いて予め設定された回数の試験を自動的に実行する。この手順により、被験者が行うまたはEEGセンサ検出に基づいて行う主観的な速度調整が、客観的に決定された速度閾値に正確に対応することを保証する(
図5のブロック42)。
【0058】
「自己ペース型」システムおよび方法は、以下の特徴を有する:
【0060】
2)様々なトレーニング時間について極めてフレキシブルである;
【0061】
3)いずれかの所定の時点のいずれかの被験者にとって適切な難易度を保持する最大トレーニング可能性の「ゾーン」に被験者が留まることを許可する;および
【0062】
4)自身の内的な心理状態を認識し、適切な調整を行うことによりこれに応答するという被験者の能力を発達させることを補助する。
【0063】
自己ペース型システムおよび方法は、自己ペース型査定モードが用いられる場合に所定の反応および階段型速度変化の結果を計算する(
図5のブロック42)ことにより速度閾値を査定する(
図5のブロック43)だけでなく、被験者が以下に参加している間、速度閾値の決定に役立つ多数の測定をコンピュータ114が実行できるようにする:
【0064】
a)多数の目標回復(自己ペース型トライアルの多数の反復);
【0065】
b)各回復の時間(自己ペース型トライアルの反復速度);および
【0067】
これは、速度閾値を決定するための多数の測定値の使用を示す概略図である
図6に示されており、各被験者についての反応プロファイルおよび学習プロファイルを開発するために用いることができる。
【0068】
自己ペース型査定モードが初期「固定」ステージに関するCORE試験と同様の結果を生成できるかどうかを決定するために、このモードの効率が検証されてきた。試験中、被験者は、最初の4つのトレーニングセッション、続く5回目のセッションにおける標準CORE査定測定、続く別の4つの自己ペース型査定セッション、続く10回目のセッションとしてのCOREセッションについて、自己ペース型査定モード(2回の調整および6回の階段型トライアル)を使用した。5回目、10回目および15回目のCOREセッションスコアは、自己ペース型スコアによく追従することが分かり、これは大幅により短いトレーニング時間、すなわち3分対CORE試験の6〜8分でありながら、自己ペース型査定モードを用いて同様の結果が得られることを示唆する。
【0069】
3-NT-LSの一般概念
以下のセクションは、NT-LSの一般概念を提示する。NT-LSは、複数の情報源を扱う際の迅速な決定を要求するいずれの状況にも適合された学習スキームを確立するためのプロトコルを組み込んでいる。運動付加の上記説明に表されるように、固定を実行した後に知覚-運動技能の異なるレベル等の機能的負荷を追加する。スポーツにおけるプレーブックの例や、緊急避難等の危機管理状況における避難訓練に近づくよう発達するシーンの特異性および文脈上の情報等の他の認知負荷の追加についても同じことが言える。シーン特異性および文脈上の情報は、スタジアム、建物、電車および地下鉄の駅、空港、航空機、ボート、病院、学校、または多数のイベントおよび/もしくは決定が同時に発生するいずれの物理的な空間に関してもよい。NT-LSは、時間的制約の下で重要な決断を迫られる個人の迅速に決断を下す能力を構築できる。
【0070】
NT-LSは、上記で説明した速度閾値固定プロセスを用い、速度閾値プロトコルを維持しながら、増加する認知負荷に基づいて構築する。以下の段落では、例示の目的のために、非限定的な例としてアメリカンフットボールを用いる。この例では、クォーターバックは、良好なパスプレーを行うために、ランニングバック、ワイドレシーバー、タイトエンドおよび他のプレーヤーを含む異なる目標ゾーンを最終的に処理する必要がある。クォーターバックは付近のゾーンをまず処理し、続いて能力を拡大してゾーン単位で複数の要素を追跡する。NT-LSは以下の様式で作動してよい:
【0071】
段階1:区分けされたシーン分布を処理する被験者の能力を構築する。ここで、複数の空間ゾーンへのシーンの区分けを示す
図7を参照する。
図7の左手側は3Dシーンを示す。
図7の右手側は、3つの空間ゾーンへの区分け後の同じ3Dシーンを示す。
図7の例では、空間ゾーンは、移動する対象物を示す別個の容積(3D)空間からなる。より少ないまたはより多い数の空間ゾーンに亘って区分けを行うことができる。以下の操作をトレーニングシーケンス制御器により実行する:
【0072】
-12〜15回のトレーニングセッションに亘る固定。固定はCOREを使用するか、または自己ペース型査定モードを使用してよい。
【0073】
-2つの空間ゾーンへの追跡の分割(区分け)。一例として、トレーニング用にただ1つの初期ゾーンを有するのではなく、
図7の右手側に示すように、追跡される多数の要素を、異なる各空間ゾーンが少量の対象物を含むいくつかの要素を含むように分けてよい。
【0074】
-初期基準値(例えば、固定の最後の3つの値の幾何学的平均速度)に戻る新規の固定。
【0075】
-状況に好適な既定の対象物と不要な選択肢の要素とでさらに分配されるより多い数の空間ゾーンへの追跡のさらなる分配(区分け)。
【0076】
段階2:異なる視点の被験者の処理性能を構築する。被験者が複数の目標ゾーンのNT能力を処理する性能を発達させると、トレーニングシーケンス制御器は、上記で言及した操作に類似する様式で異なる特定の視覚的視点を導入する。これらの視点は以下を含んでよい:
【0077】
-視角、例えばクォーターバックから、レシーバーから等の視点。
【0078】
-例えばフットボールプレーヤーのしゃがんだ位置から起立した位置への移動をシミュレートする、水平からより大きな角度の視点までの視角。
【0079】
段階3:生物学的に有効な環境の構築。以下の操作はトレーニングシーケンス制御器により実行される:
【0080】
-段階1および段階2が完了すると、トレーニングシーケンス制御器は、仮想スタジアム、同じ戦略を用いた段階的なレベルを有するアバターを用いる等のより現実的な仮想環境へと移行できる。
【0081】
-トレーニングシーケンス制御器は、背景、状況的な文脈、聴覚的なノイズおよび音等を導入することにより、トレーニング中に負荷を増加させ、NT速度閾値全体を計測しながらトレーニングの特異性に近づくように構築してよい。
【0082】
-もちろん、このアプローチは顧客の結論に応じて適合でき、発達できる。
【0083】
3a)特定のアバターNTアニメーション
アバターを用いる場合、トレーニングシーケンス制御器は、NT速度閾値測定を可能にする特定の方法でアバターをアニメーション化する。例えば、いくつかの目標アバターの特定の移動行動に対してアバターのランダムな生物学的移動を実現してよい。例えば、目標ではないアバターを、非特定の生物学的移動ノイズで構成してよい(生物学的動作ノイズの説明については、Legault, I.、Troje, N.F.およびFaubert, J.(2012)「Healthy older observers cannot use biological-motion point-light information efficiently within 4m of themselves」、i-Perception、3(2)、104〜111頁を参照されたい。上記文献の開示は本明細書中に参照により援用される)。しかしながら、目標アバターは、例えば一方向に旋回する、前方または後方に走行する等の、シミュレートされたプレーにとって優位な特定の行動を有してよい。速度操作は、一時露出後の決定が良好な時に速度が加速し、またはミスが起きた時に減速するという、通常のNTルールに従う。アバターまたは生物学的動作条件のこのような操作の実現は、知覚-認知トレーニングの文脈では独創的であると考えられる。
【0084】
3b)異なる認知タスク
一般から特定までのNT-LSの開発のための2つの要素を上記で提示してきた。これらの要素は、a)空間的局所化(例えば、タスクにとっての高い特徴価値を有する容積空間をサブ領域へと分割する)、およびb)目標および不要な選択肢の特定の態度の変化(これにより例えば一般的な球体の性質から例えば人のアバター等の特定の特徴へと発達する)を含む。
【0085】
これらの要素を人間のアバターを伴う例を用いてここまで説明してきたが、シミュレートされた移動する交通の存在下における衝突の回避のための適切な決定を下すという主題のトレーニングを目的として、他の例は移動する車両を伴ってよい。もちろん、移動する対象物およびアバターを併せて使用してよい。例えば、交通シミュレーションは、移動する車両および歩行者を伴ってよい。
【0086】
導入してよい第3の構成要素は、認知要求の性質である。例えば、所定の領域内の不要な選択肢の中の目標を追跡する代わりに、数学的なタスクを被験者に実行するよう指示してよい。これは別の領域内の動作追跡タスクに対してこの領域内で必要とされるものであるからである。この目的のために、上記で導入した区分けされたシーンのコンセプトの変形例を、区分けされたシーン分布を形成する東京の交通制御室を示す
図8に示す。
図8は、オペレータの視野のいくつかのエリア(ビデオモニタ)内の異なる動作構成要素と、大きな上部パネル内の可能な色コード査定とを示す。オペレータは、視野内に空間的に分散しているこれらの様々な動作構成要素を処理することを要求される。トレーニングシーケンス制御器は、下方視野内の対象物の移動目標追跡においてオペレータをトレーニングするために主に使用してよい。同時に、パターンマッチングを用いて、いくつかの色またはいくつかのパターンを識別する、上方視野の分析を実行してよい。
【0087】
したがってNT-LSを、一般的な学習システムからより特定の学習システムへと発達させることができる。特異性トレーニングの各レベルは、例えば各タスクを実行できる最速の速度に絞り込むことによる速度閾値を含む、ニューロトラッカーの同じ基本方針の使用を伴ってよい。
【0088】
一般的なトレーニングから特定のトレーニングまで
結論として、NT-LSは、ストレスの下で複雑で動的なシーンに対処するための基本的なプロパティの一般的なトレーニングから、シーン構成要素の以下の3つのプロパティを変更することにより特異性が増大したトレーニングにまで適用可能である:
【0089】
-大きな一般的な容積空間から、特定のタスク用に特に重要なゾーンを強調したこの空間の分割区分へと至る、空間構成。
【0090】
-例えば一般的な球体の性質から、例えば人混みの移動用のアバター、移動する対象物、交通を移動する車両等の画像要素のより特定の特徴まで変化する、処理または追跡される要素。
【0091】
-一般的から特定まで変化させてよい第3の要素は、特定の3Dゾーンで実行される実際の認知タスクである。いくつかの場合では、タスクは目標追跡を含む。他の場合では、タスクは、色コード識別、数学的タスク等を要求してよい。
【0092】
当業者は、知覚-認知-運動システムおよび方法の説明は、単なる例示であり、いかなる意味においても限定することを意図したものではないことを認識されるであろう。本開示の利益を得るこのような当業者に、他の実施形態を明示的に提示するものである。さらに、開示された知覚-認知-運動システムおよび方法は、カスタマイズすることにより、認知機能を改善するという既存の需要および問題に対して価値のある解決策を提供してよい。
【0093】
簡潔性の目的において、知覚-認知-運動システムおよび方法の実現の慣例的な特徴の全てが示され、説明されてはいない。もちろん、知覚-認知-運動システムおよび方法のいずれのこのような実際の実現の開発においても、アプリケーション、システムおよびビジネスに関連する制約を伴うコンプライアンス等の、開発者の特定の目標を達成するために多数の実現の具体的な決定を行うことが必要となり得ること、ならびに、これらの特定の目標は、1つの実現から別の実現までおよび1人の開発者から別の開発者まで変化するものであることを理解されたい。また、開発努力は複雑かつ時間のかかるものであり得るが、それにも関わらず本開示の利益を得る知覚-認知トレーニングの分野の当業者にとっては、エンジニアリングの慣例的な仕事であり得ることを理解されたい。
【0094】
本開示によると、本明細書中に記載の構成要素、処理操作、および/またはデータ構造は、様々な種類のオペレーティングシステム、コンピューティングプラットフォーム、ネットワークデバイス、コンピュータプログラム、および/または一般用途の機械を用いて実現してよい。また、ハードワイヤードデバイス、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA: field programmable gate array)、特定用途向け集積回路(ASIC: application specific integrated circuit)等の、あまり一般的ではない目的の性質のデバイスを用いてもよいことは当業者に認識されるであろう。一連の処理操作からなる方法をコンピュータまたは機械により実現し、かつこれらの処理操作を機械が読むことができる一連の命令として保存してよい場合、有形媒体上にこれらを保存してよい。
【0095】
本明細書に記載のシステムおよびモジュールは、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、または本明細書に記載の目的に適したソフトウェア、ファームウェア、もしくはハードウェアのいずれの組み合わせを含んでもよい。ソフトウェアおよび他のモジュールは、サーバ、ワークステーション、パーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ、パーソナルデジタルアシスタント(PDA: personal digital assistant)、および本明細書に記載の目的に適した他のデバイス上にあってよい。ソフトウェアおよび他のモジュールは、ローカルメモリを介して、ネットワークを介して、ブラウザもしくは他のアプリケーションを介して、または本明細書に記載の目的に適した他の手段を介して、アクセス可能であってよい。本明細書に記載のデータ構造は、本明細書に記載の目的に適した、コンピュータファイル、変数、プログラミングアレイ、プログラミング構造、もしくはいずれの電子情報記憶スキームもしくは方法、またはこれらのいずれの組み合わせを含んでもよい。
【0096】
本開示は上記に非制限的方法で例示的な実施形態を説明してきたが、これらの実施形態は、本開示の精神および性質から逸脱せずに添付の請求項の範囲内で随意に修正してよい。