(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475244
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極のイオン伝導率を向上させるための添加剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20190218BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20190218BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20190218BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20190218BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20190218BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20190218BHJP
C07D 233/90 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/1397
C07D233/90 B
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-539611(P2016-539611)
(86)(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公表番号】特表2016-532275(P2016-532275A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】FR2014051833
(87)【国際公開番号】WO2015033038
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】1358485
(32)【優先日】2013年9月5日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, グレゴリー
【審査官】
青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−071100(JP,A)
【文献】
特開2007−169262(JP,A)
【文献】
特開2002−050345(JP,A)
【文献】
特開2002−050359(JP,A)
【文献】
特開2011−198508(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0094599(US,A1)
【文献】
特開2008−231408(JP,A)
【文献】
特表2009−524568(JP,A)
【文献】
特表2012−500833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池電極複合材料、好ましくは正極材料であって、
a)複合材料の総重量に対して1−5重量%、好ましくは1.5−4重量%又は1−2.5重量%、好ましくは1.5−2.2重量%の範囲の含有量の少なくとも1種の電子伝導性添加剤と、
b)Li/Li+対に対して2Vよりも大きい電気化学ポテンシャルを有する、リチウムとの挿入化合物を可逆的に形成することができる電極活物質としてのリチウムの酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩又はケイ酸塩と、
c)ポリマーバインダと、
d)式
A
[前記式Aにおける−X
i−は、独立して以下の基又は原子:−N=、−N
−−、−C(R)=、−C
−(R)−、−O−、−S(=O)(R)=又は−S(R)=を示し、Rは、F、CN、NO
2、S−CN、N=C=S、n、m及びpが整数である−OC
nH
mF
p及び−C
nH
mF
pからなる群からの基を示し
、M+は、リチウム、ナトリウム、第4級アンモニウム又はイミダゾリウムのカチオンを示
し、前記式Aの化合物がイミダゾレートであることを特徴とする]
の少なくとも1種の有機塩と
を含む、電池電極複合材料、好ましくは正極材料。
【請求項2】
前記式Aの化合物がリチウムイミダゾレートであることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記有機塩が、前記材料の総重量に対して0.01−10重量%、好ましくは0.05−5重量%を示すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記ポリマーバインダが、フッ素ポリマー、水性ポリマー又はスチレン/ブタジエンラテックスから選択されることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記電子伝導性添加剤が、様々な炭素の同素体又は導電性有機ポリマーから選択されることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載の材料。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の材料を作製する方法において、
(i)
−式Aの1種又は複数種の有機塩と、
−電子伝導性添加剤と、
−ポリマーバインダと、
−1種又は複数種の揮発性溶媒と、
−リチウムの酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩又はケイ酸塩から選択される電極活物質と
を含む懸濁液を調製する少なくとも1つの段階と、
ii)(i)において調製された前記懸濁液から開始して膜を作製する段階と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記揮発性溶媒が、有機溶媒及び水から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、N−メチルピロリドン又はジメチルスルホキシドから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から5の何れか一項に記載の材料を含むLiイオン電池。
【請求項10】
電極複合材料の製造における、イオン伝導性添加剤としての、式A
[前記式Aにおける−Xi−は、独立して以下の基又は原子:−N=、−N−−、−C(R)=、−C−(R)−、−O−、−S(=O)(R)=又は−S(R)=を示し、Rは、F、CN、NO2、S−CN、N=C=S、n、m及びpが整数である−OCnHmFp及び−CnHmFpからなる群からの基を示し、M+は、リチウム、ナトリウム、第4級アンモニウム又はイミダゾリウムのカチオンを示し、前記式Aの化合物がイミダゾレートであることを特徴とする]
の少なくとも1種の塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、Liイオン型のリチウム蓄電池における電気エネルギー貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明はLiイオン電池電極材料に、その作製方法に、またLiイオン電池におけるその使用に関する。本発明の別の対象は、この電極材料を組み込むことによって製造されるLiイオン電池である。
【背景技術】
【0002】
Liイオン蓄電池又はリチウム電池の基本セルは、一般にリチウム金属製又は炭素ベースのアノード(放電時)と、LiMn
2O
4、LiCoO
2、LiNiO
2など、金属酸化物型のリチウム挿入化合物製のカソード(同じく放電時)とを備え、それらアノードとカソードとの間には、リチウムイオンを伝導する電解質が挿入される。
【0003】
使用する場合、したがって電池の放電時には、アノードによる(−)極における酸化によってイオン型Li
+で放出されるリチウムは、伝導性電解質を通って移動し、還元反応によってカソード(+)極の活物質の結晶格子へ挿入されることになる。電池の内部回路における各Li
+イオンの通過は、外部回路における電子の通過によって厳密に相殺されて、コンピュータや電話など携帯用電子機器の分野、あるいは電気自動車などより大きな電力及びエネルギー密度の用途の分野における様々なデバイスに供給するために使用することができる電流が生成される。
【0004】
充電時には、電気化学反応が逆になって、リチウムイオンは(+)極、すなわち「カソード」(放電時のカソードは再充電時にアノードとなる)における酸化によって放出され、放電時にリチウムイオンが循環した方向とは逆方向に伝導性電解質を通って移動し、(−)極、すなわち「アノード」(同じく、放電時のアノードは再充電時にカソードとなる)における還元によって沈着する、又は挿入されることになるが、短絡の原因となる可能性があるリチウム金属のデンドライトを形成しうる。
【0005】
リチウムに対して電気化学的活性を示すため活性がある1種又は複数種の「活」物質と、バインダとして作用し、ポリフッ化ビニリデンなど、一般に官能性若しくは非官能性のフッ素重合体、又はカルボキシメチルセルロース型若しくはスチレン/ブタジエンラテックスの水性重合体である1種又は複数種の重合体と、一般に同素体の炭素である1種又は複数種の電子伝導性添加剤とからなる複合材料がその上に堆積している集電体を、カソード又はアノードが一般に少なくとも1つ備える。
【0006】
負極における従来の活物質は一般に、金属リチウム、グラファイト、ケイ素/炭素複合材料、ケイ素、xが0−1であるCF
x型フルオログラファイト及びLiTi
5O
12型のチタン酸塩である。
【0007】
正極における従来の活物質は一般に、LiMO
2型、LiMPO
4型、Li
2MPO
3F型、MがCo、Ni、Mn、Fe又はこれらの組合せであるLi
2MSiO
4型、LiMn
2O
4型、S
8型である。
【0008】
最近では、電極の芯部に対する電解質の浸透率を向上させることが可能となる添加剤が使用されている。高エネルギー電池、すなわち、蓄電容量がより高い電池に対する高まる需要の結果、電極の厚さが増加し、したがって電解質の浸透率が電池の全抵抗において重要となっている。この浸透率の向上を目指して、特許文献、国際公開第2005/011044号には、Al
2O
3やSiO
2など、金属酸化物の「無機」充填剤の添加が記載されている。
【0009】
これらの無機充填剤は、従来の電極製造工程中に添加される。この従来の工程では、たとえば、N−メチルピロリドン、アセトン、水、エチレンカーボネートなど、溶媒又は溶媒の混合物中で、下記異なる成分、
a)複合材料の総重量に対して1−5重量%、好ましくは1.5−4重量%又は1−2.5重量%、好ましくは1.5−2.2重量%の範囲の含有量の少なくとも1種の導電性添加剤と、
b)Li/Li
+対に対して2Vよりも大きい電気化学ポテンシャルを有する、リチウムとの挿入化合物を可逆的に形成することができる電極活物質としてのリチウムの酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩又はケイ酸塩と、
c)ポリマーバインダと
を混合する。
【0010】
続いて、得られたインクを集電体にコーティングし、30−200℃の範囲で加熱することによって1種又は複数種の溶媒を蒸発させる。
【0011】
これら無機充填剤の欠点は、充填剤により電極中の活物質の量が減少し、したがって電池の容量が減少し、これら充填剤によってしか電解質の巨視的な拡散を向上させることが可能とならないことである。
【0012】
実際には、電極において、電池の性能を制限しているのは活物質/電解質界面の充電抵抗である。この抵抗は、巨視的な無機充填剤の添加によって向上させることができない微視的効果である。
【発明の概要】
【0013】
本出願人は、活物質の表面で良好な相互作用となるように選択した有機アニオンからなる塩の添加により、電極のイオン伝導率を増加させることが可能になることを見出した。
【0014】
本発明はまず、Liイオン貯蔵電池の電極の組成における、好ましくはカソード組成におけるイオン伝導性添加剤としての有機塩の使用に関する。これらの塩は、Naイオン電池の電極の組成において使用することもできる。
【0015】
本発明の別の対象は、電池電極としての前記組成の使用である。
【0016】
イオン伝導性添加剤は、上述の電極の作製方法の条件に耐えることができなければならない。たとえば、LiPF
6、大多数の電解質において現在使用されているリチウム塩は、その温度不安定性及び求核溶媒に対する不安定性により、イオン伝導性添加剤として使用することができない。
【0017】
本発明はまた、Liイオン電池電極複合材料、好ましくは正極材料に関する。この材料は、
a)複合材料の総重量に対して1−5重量%、好ましくは1.5−4重量%又は1−2.5重量%、好ましくは1.5−2.2重量%の範囲の含有量の少なくとも1種の電子伝導性添加剤と、
b)Li/Li
+対に対して2Vよりも大きい電気化学ポテンシャルを有する、リチウムとの挿入化合物を可逆的に形成することができる電極活物質としてのリチウムの酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩又はケイ酸塩と、
c)ポリマーバインダと、
d)式A及び/又はBの少なくとも1種の有機塩と
を含む。
【0018】
式(A)において、−X
i−は、独立して以下の基又は原子:−N=、−N
−−、−C(R)=、−C
−(R)−、−O−、−S(=O)(R)=又は−S(R)=を示し、Rは、F、CN、NO
2、S−CN、N=C=S、n、m及びpが整数である−OC
nH
mF
p、−C
nH
mF
pから選択される基を示す。特に好ましい式(A)の化合物は、以下に示すイミダゾレート類、有利にはリチウムイミダゾレートである。
式中、RはF又は−C
nH
mF
nを示す。これらのリチウム塩は、その水に対する非感受性により特に有利であるが、これにより電極の作製方法における使用の簡略化が可能となる。
【0019】
式(B)において、R
fは、F、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2HF
4、C
2H
2F
4、C
2H
3F
2、C
2F
5、C
3F
6、C
3H
2F
5、C
3H
4F
3、C
4F
9、C
4H
2F
7、C
4H
4F
5、C
5F
11、C
3F
5OCF
3、C
2F
4OCF
3、C
2H
2F
2OCF
3又はCF
2OCF
3を示し、Zは、F、CN、SO
2R
f、CO
2R
f又はCOR
fから選択される電子求引性基を示す。
【0020】
上記一般式において、M
+はリチウムカチオン、ナトリウムカチオン、第4級アンモニウム又はイミダゾリウムを示す。
【0021】
好ましくは、成分(d)は、材料の総重量に対して0.01−10重量%、有利には0.05−5重量%の間で変化することができる。
【0022】
ポリマーバインダは、有利には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの官能性若しくは非官能性フッ素重合体、又はカルボキシメチルセルロース型若しくはスチレン−ブタジエンラテックスの水性重合体から選択される。
【0023】
電子伝導性添加剤は、好ましくは様々な炭素の同素体又は導電性有機ポリマーから選択される。
【0024】
電極の作製
本発明の別の対象は、上述の電極複合材料の作製方法である。この方法は、
i)
−式A及び/又はBの1種又は複数種の有機塩と、
−電子伝導性添加剤と、
−ポリマーバインダと、
−1種又は複数種の揮発性溶媒と、
−リチウムの酸化物、リン酸塩、フルオロリン酸塩又はケイ酸塩から選択される電極活物質とを含む懸濁液を調製する少なくとも1つの段階と、
ii)(i)において調製された懸濁液から膜を作製する段階と
を含む。
【0025】
懸濁液は、任意の機械的手段、たとえば、回転子−固定子若しくは錨型撹拌器を用いる、又は超音波による分散及び均質化によって得ることができる。
【0026】
この懸濁液は、任意選択的に50−150℃の温度における乾燥の段階の後、純粋状態の、又は1種若しくは複数種の揮発性溶媒の溶液の形のポリマーから、純粋状態の、又は1種若しくは複数種の揮発性溶媒の懸濁液の形の有機塩から、電子伝導性添加剤から、また純粋状態の活物質から調製することができる。
【0027】
好ましくは、揮発性溶媒は、有機溶媒又は水から選択される。有機溶媒として、特に、有機溶媒N−メチルピロリドン(NMP)又はジメチルスルホキシド(DMSO)に言及することができる。
【0028】
懸濁液は、一段階で又は連続した二段階若しくは三段階で調製することができる。懸濁液を連続した二段階で調製する場合には、一実施態様において、溶媒と、有機塩(1種又は複数種)と、任意選択的にポリマーバインダのすべて又は一部とを含有する分散液を、機械的手段を用いて第一段階で調製し、その後第二段階で、この第1の分散液に、複合材料の他の成分を添加する。続いて、第二段階の終了時に、懸濁液から膜が得られる。
【0029】
懸濁液を連続した三段階で調製する場合には、一実施態様において、溶媒中に有機塩と、任意選択的にポリマーバインダのすべて又は一部とを含有する分散液を第一段階で調製し、その後第二段階で、粉末を得るために活物質を添加し溶媒を取り除き、続いて懸濁液を得るために、溶媒と、複合材料の成分の残りを添加する。続いて、第三段階の終了時に、懸濁液から膜が得られる。
【0030】
式A及び/又はBの有機塩の溶解は、0−150℃、好ましくは10−100℃の範囲の温度で行うことができる。
【0031】
本発明の別の対象は、電極複合材料の製造におけるイオン伝導性添加剤としての式A及び/又はBの有機塩少なくとも1種の使用である。
【0032】
加えて、本発明の対象は、前記材料を組み込んだLiイオン電池である。
【実施例】
【0033】
実施例1:
回転子−固定子を用いて撹拌を行う。0.0197gのLiTDI(上記式)をフラスコに入れる。7.08gのNMPで溶解させ、溶液を25℃で10分間撹拌する。0.1974gのPVDF(Kynar(登録商標))を添加し、混合物を50℃で30分間撹拌する。続いて0.1982gのSuper P炭素(Timcal(登録商標))を添加し、混合物を2時間撹拌する。最後に、4.5567gのLiMn
2O
4及び2.52gのNMPを添加し、混合物を3時間撹拌する。続いて、アルミニウムのシートの上に、懸濁液を厚さ100μmの膜の形に広げる。この膜を130℃で5時間乾燥させる。
【0034】
実施例2:
回転子−固定子を用いて撹拌を行う。0.0212gのLiTDIをフラスコに入れる。2.84gのNMPで溶解させ、溶液を25℃で10分間撹拌する。0.1063gのPVDF(Kynar(登録商標))を添加し、混合物を50℃で30分間撹拌する。続いて0.1059gのSuper P炭素(Timcal(登録商標))を添加し、混合物を2時間撹拌する。最後に、4.5580gのLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2及び4.52gのNMPを添加し、混合物を3時間撹拌する。続いて、アルミニウムのシートの上に、懸濁液を厚さ250μmの膜の形に広げる。この膜を130℃で8時間乾燥させる。