(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリオレフィン系樹脂、下記式(1)で表される第1の難燃剤、下記式(2)及び(3)で表される第2の難燃剤、並びに相溶化剤を含有し、
前記相溶化剤が、下記一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物及び下記一般式(5)で表されるヒンダードアミン系化合物の少なくともいずれかであり、
前記第1の難燃剤の含有量が、7〜18質量%であり、
前記第2の難燃剤の含有量が、5質量%以下である難燃性マスターバッチ。
(前記式(2)中のRは、前記式(3)で表される基であり、前記式(3)中の(*)は、前記式(2)中のRが結合しているNとの結合を表す)
(前記一般式(4)中、R
1は、ポリオレフィンワックスに由来するアルキル基を表し、R
2は、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基を表す)
(前記一般式(5)中、R
3は、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基を表し、nは2〜4の整数を表し、R
4は、括弧内のn個の基が結合する、置換されていてもよい2〜4価のアシル基を表す)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、高い難燃性能を有することが期待される難燃剤として、特許文献1の明細書の段落[0053]に開示されたヒンダードアミン系化合物をポリプロピレン樹脂に配合した難燃性マスターバッチについて検討した。その結果、溶融混練時や成形加工時に不快な臭気が発生することが判明した。不快な臭気が発生した原因は、ヒンダードアミン系化合物が熱分解したためであると考えられる。
【0007】
ところで、ヒンダードアミン系化合物は、光安定剤(ヒンダードアミン光安定剤;HALS)として広く使用されている。ヒンダードアミン系化合物を光安定剤として使用する場合の使用量は、通常、難燃剤として使用する場合の使用量よりも少ない。このため、ヒンダードアミン系化合物を光安定剤として使用した樹脂組成物からなる成形品において、ヒンダードアミン系化合物に起因する臭気が問題となることはほとんどないと考えられる。しかしながら、ヒンダードアミン系化合物を難燃剤として使用する場合には、使用量が多くなるために不快な臭気の発生が懸念される。特に、難燃性マスターバッチは、通常、製品よりも高濃度に難燃剤を含有するため、不快な臭気がより発生しやすい状況となる。
【0008】
難燃性樹脂組成物の成分の溶融混練時や難燃性樹脂組成物の成形加工時に不快な臭気が発生すると、そのよう難燃性樹脂組成物から成形される製品(成形品)にも臭気が残る可能性がある。このため、そのような難燃性樹脂組成物やその成形品は、屋内や車両内装材等の密閉空間で使用される用途に採用しにくくなる。
【0009】
一方、特許文献2で提案された縮合型ホスホン酸エステルを難燃剤として配合したマスターバッチや樹脂組成物については、特許文献1に開示されたヒンダードアミン系化合物を難燃剤として用いた場合のような不快な臭気が発生しにくい。しかしながら、本発明者らが検討したところ、縮合型ホスホン酸エステルはポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好であるとは言えないことが判明した。すなわち、難燃性が発揮される十分な量の縮合型ホスホン酸エステルをポリオレフィン系樹脂に配合しようとすると、ブリード現象が発生しやすいといった加工性が低下する等の課題が生ずることがわかった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、溶融混練などの製造時に不快な臭気が発生しにくく、作業環境性に優れているとともに、加工性が良好であり、かつ、熱可塑性樹脂に優れた難燃性を付与することが可能な難燃性マスターバッチを提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記の難燃性マスターバッチを用いて得られる難燃性樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す難燃性マスターバッチが提供される。
[1]ポリオレフィン系樹脂、下記式(1)で表される第1の難燃剤、下記式(2)及び(3)で表される第2の難燃剤、並びに相溶化剤を含有し、前記相溶化剤が、下記一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物及び下記一般式(5)で表されるヒンダードアミン系化合物の少なくともいずれかであり、前記第1の難燃剤の含有量が、7〜18質量%であり、前記第2の難燃剤の含有量が、5質量%以下である難燃性マスターバッチ。
【0012】
(前記式(2)中のRは、前記式(3)で表される基であり、前記式(3)中の(*)は、前記式(2)中のRが結合しているNとの結合を表す)
【0013】
(前記一般式(4)中、R
1は、ポリオレフィンワックスに由来するアルキル基を表し、R
2は、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基を表す)
【0014】
(前記一般式(5)中、R
3は、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基を表し、nは2〜4の整数を表し、R
4は、括弧内のn個の基が結合する、置換されていてもよい2〜4価のアシル基を表す)
【0015】
[2]前記相溶化剤の含有量が、1〜10質量%である前記[1]に記載の難燃性マスターバッチ。
[3]前記相溶化剤が、下記式(4−1)で表される化合物及び下記式(5−1)で表される化合物の少なくともいずれかである前記[1]又は[2]に記載の難燃性マスターバッチ。
【0016】
【0017】
また、本発明によれば、以下に示す難燃性樹脂組成物及びそれを用いた成形品が提供される。
[4]熱可塑性樹脂と、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の難燃性マスターバッチとを含有する難燃性樹脂組成物。
[5]前記[4]に記載の難燃性樹脂組成物からなる成形品。
[6]フィルム、シート、又は繊維である前記[5]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶融混練などの製造時に不快な臭気が発生しにくく、作業環境性に優れているとともに、加工性が良好であり、かつ、熱可塑性樹脂に優れた難燃性を付与することが可能な難燃性マスターバッチを提供することができる。さらに、本発明によれば、この難燃性マスターバッチを用いて得られる難燃性樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
<難燃性マスターバッチ>
本発明の難燃性マスターバッチは、式(1)で表される第1の難燃剤、式(2)及び(3)で表される第2の難燃剤、並びに相溶化剤を含有する。以下、本発明の難燃性マスターバッチを構成する成分などの詳細について説明する。
【0021】
(第1の難燃剤)
本発明の難燃性マスターバッチに用いる第1の難燃剤は、下記式(1)で表される、いわゆるリン系の難燃剤である。第1の難燃剤は、特許文献1等で開示されたヒンダードアミン系化合物に比して、溶融混練などの製造時に不快な臭気が発生しにくい。このため、第1の難燃剤を配合することで作業環境性を向上させることができる。さらに、製品(成形品)にも臭気が残りにくくなるため、本発明の難燃性マスターバッチを用いれば、屋内や車両内装材等の密閉空間で好適に使用可能な成形品を製造することができる。
【0023】
式(1)で表される第1の難燃剤としては、合成物や市販品を用いることができる。式(1)で表される第1の難燃剤の市販品としては、例えば、商品名「ノンネン73」(丸菱油化社製)などを挙げることができる。
【0024】
難燃性マスターバッチ中の第1の難燃剤の含有量は、7〜18質量%であり、好ましくは8〜16質量%である。第1の難燃剤の含有量が7質量%未満であると、十分な難燃性を有する樹脂組成物や成形品を製造することが困難になる。一方、第1の難燃剤の含有量18質量%超であると、混練時にブリード現象等が発生しやすくなり、加工性が低下する。
【0025】
(第2の難燃剤)
本発明の難燃性マスターバッチに用いる第2の難燃剤は、下記式(2)及び(3)で表される、いわゆる窒素系の難燃剤である。所定量の第2の難燃剤を配合することで、優れた難燃性を有する樹脂組成物や成形品を製造可能な難燃性マスターバッチとすることができる。
【0027】
式(2)及び(3)で表される第2の難燃剤としては、合成物や市販品を用いることができる。式(2)及び(3)で表される第2の難燃剤の市販品としては、例えば、商品名「Flamestab NOR116」(BASF社製)などを挙げることができる。
【0028】
難燃性マスターバッチ中の第2の難燃剤の含有量は、5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下である。第2の難燃剤の含有量が5質量%超であると、溶融混練時等に不快な臭気が発生しやすくなるため、作業環境性が低下する。また、第2の難燃剤を過剰に含有する難燃性マスターバッチを用いて得られる樹脂組成物や成形品にも不快な臭気が残る可能性があり、密閉空間などで使用される用途に採用することが困難になる。なお、難燃性マスターバッチ中の第2の難燃剤の含有量の下限については特に限定されないが、1.5質量%以上とすることで、より優れた難燃性を熱可塑性樹脂に付与することができるために好ましい。
【0029】
(相溶化剤)
本発明の難燃性マスターバッチには、下記一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物及び下記一般式(5)で表されるヒンダードアミン系化合物の少なくともいずれかの相溶化剤を含有させる。これらの相溶化剤を含有させることで、難燃性が発揮される十分な量の縮合型ホスホン酸エステルをポリオレフィン系樹脂に配合した場合であっても、溶融混練時にブリード現象などの不具合が生じにくくなり、加工性を向上させることができる。
【0031】
一般式(4)中、R
1は、ポリオレフィンワックスに由来するアルキル基を表し、R
2は、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。R
2で表される置換されていてもよいアルキル基の炭素原子数は、5〜20であることが好ましく、10〜20であることがさらに好ましく、15〜18であることが特に好ましい。
【0033】
一般式(5)中、R
3は、置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基を表し、nは2〜4の整数を表し、R
4は、括弧内のn個の基が結合する、置換されていてもよい2〜4価のアシル基を表す。R
3で表される置換されていてもよいアルキル基の炭素原子数は、5〜20であることが好ましく、7〜18であることがさらに好ましく、8〜15であることが特に好ましい。nは2であることが好ましく、その場合の2価のアシル基の炭素原子数は20以下であることが好ましい。
【0034】
2価のアシル基としては、例えば、カルボニル基、オキサリル基、マロニル基、サクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、オクタンジオイル基、デカンジオイル基、ドデカンジオイル基、テトラデカンジオイル基、ヘキサデカンジオイル基、及びオクタデカンジオイル基等の飽和脂肪族アシル基;マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、及びメサコノイル基等の不飽和脂肪族アシル基;フタロイル基、イソフタロイル基、及びテレフタロイル基等の芳香族アシル基等を挙げることができる。
【0035】
次に、一般式(4)中、R
1で表されるポリオレフィンワックスに由来するアルキル基の好適例について説明する。R
1で表されるポリオレフィンワックスに由来するアルキル基の炭素原子数は、100〜500であることが好ましく、100〜300であることがさらに好ましく、150〜250であることが特に好ましい。R
1で表されるポリオレフィンワックスに由来するアルキル基の炭素原子数が100〜500であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が向上するとともに、溶融混練しやすく、かつ、成形加工しやすい難燃性マスターバッチとすることができる。
【0036】
ポリオレフィンワックスに由来するアルキル基は、直鎖状でもよく、分枝構造を有していてもよい。また、ポリオレフィンワックスに由来するアルキル基は、極性でも非極性でもよい。極性のアルキル基は、極性のポリオレフィンワックスに由来するアルキル基である。極性のポリオレフィンワックスとしては、例えば、ポリオレフィンの主鎖にグラフト結合した極性基を有するものを挙げることができる。極性基としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸及びその誘導体に由来する極性基を挙げることができる。ポリオレフィンワックスに由来するアルキル基は、分枝構造を有していることが好ましく、また、非極性であることが好ましい。
【0037】
非極性のポリオレフィンワックスは、例えば、エチレン等のオレフィンモノマーの重合により、又は分枝状若しくは非分枝状のポリオレフィンの熱分解により製造することができる。非極性のポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレンやプロピレンのホモポリマー及びコポリマーのワックスを挙げることができる。非極性のポリオレフィンワックスとしては、エチレン若しくはプロピレンのホモポリマー、又はエチレンとプロピレンとのコポリマーが好ましく、より好ましくはポリエチレンワックスであり、さらに好ましくは分枝構造を有するポリエチレンワックス(分岐型ポリエチレンワックス)である。また、極性のポリオレフィンワックスは、例えば、エチレン等のオレフィンモノマーと、前述のα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体等の極性モノマーとの共重合により製造されうる。
【0038】
一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物の平均分子量は、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が向上するため、2,000〜7,000であることが好ましく、2,000〜4,000であることがさらに好ましく、2,500〜3,500であることが特に好ましい。平均分子量は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOFMS)により測定することができる。また、一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物の分解開始温度は、240℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。分解開始温度は、示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
【0039】
一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物は、例えば、下記一般式(4a)で表され化合物(N−オキシルアミン系化合物)の少なくとも1種と、下記一般式(4b)で表される化合物(ポリオレフィンワックス)の少なくとも1種とを反応させることで得ることができる。なお、一般式(4a)中のR
2及び一般式(4b)中のR
1は、一般式(4)中のR
2及びR
1と同義である。
【0041】
一般式(4a)で表されるN−オキシルアミン系化合物と、一般式(4b)で表されるポリオレフィンワックスとは、例えば、ヒドロペルオキシド及び触媒としての金属化合物の存在下で反応させることができる。ヒドロペルオキシドとしては、例えば、過酸化水素、tert−ブチルヒドロペルオキシド、及びクメンヒドロペルオキシド等を挙げることができる。触媒となる金属化合物としては、例えば、三酸化モリブデン、バナジルアセチルアセトネート、コバルトカルボニル等を挙げることができる。
【0042】
また、N−オキシルアミン系化合物をポリオレフィンワックスに添加し、得られた混合物に放射線照射する方法によっても、N−オキシルアミン系化合物とポリオレフィンワックスとを反応させることができる。さらに、ポリオレフィンワックスに放射線照射した後、N−オキシルアミン系化合物を添加して混合する方法によっても、N−オキシルアミン系化合物とポリオレフィンワックスとを反応させることができる。放射線としては、γ線及び電子線等を挙げることができる。
【0043】
一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物及び一般式(5)で表されるヒンダードアミン系化合物としては、いずれも合成物や市販品を用いることができる。一般式(4)で表されるヒンダードアミン系化合物の市販品としては、例えば、商品名「Hostavin Now」(クラリアントケミカルズ社製)などを挙げることができる。
また、一般式(5)で表されるヒンダードアミン系化合物の市販品としては、商品名「アデカスタブLA−81」(ADEKA社製)などを挙げることができる。
【0044】
難燃性マスターバッチ中の相溶化剤の含有量は、配合する第1の難燃剤の量に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。具体的には、難燃性マスターバッチ中の相溶化剤の含有量は、1〜10質量%であることが好ましく、1.5〜8質量%とすることがさらに好ましい。相溶化剤の含有量が1質量%未満であると、混練時にブリード現象等がやや発生しやすくなる場合がある。一方、相溶化剤の含有量が10質量%超であると、得られる樹脂組成物や成形品の物性(例えば、難燃性等)が変化しやすくなる場合がある。また、紡糸性などの成形性が低下しやすくなる場合があるとともに、コスト面で不利になることがある。
【0045】
(ポリオレフィン系樹脂)
本発明の難燃性マスターバッチは、ポリオレフィン系樹脂を含有する。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系単量体を単量体成分の主成分として重合された単独重合体又は共重合体である。ここで、樹脂(重合体)を構成する主成分とは、重合体を構成する全単量体成分中、50質量%以上である成分をいう。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系単量体を全単量体成分中、好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%含む単独重合体又は共重合体である。
【0046】
オレフィン系共重合体には、オレフィン系単量体と他のオレフィン系単量体との共重合体、又はオレフィン系単量体とオレフィン系単量体に共重合可能な他の単量体との共重合体が含まれる。ポリオレフィン系樹脂における前記他の単量体の含有量は、全単量体成分中、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは0〜20質量%である。
【0047】
オレフィン系単量体としては、例えば、エチレン及びプロピレン等のオレフィン、並びに1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及び1−デセン−1等のα−オレフィン(例えば炭素原子数2〜12のα−オレフィン)等を挙げることができる。オレフィン系単量体は、ポリオレフィン系樹脂が重合される際、1種単独で用いられていてもよく、2種以上が用いられていてもよい。
【0048】
オレフィン系単量体に共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロペンテン及びノルボルネン等の環状オレフィン、並びに1,4−ヘキサジエン及び5−エチリデン−2−ノルボルネン等のジエン等を挙げることができる。前記他の単量体は、ポリオレフィン系樹脂が重合される際、1種単独で用いられていてもよく、2種以上が用いられていてもよい。
【0049】
ポリオレフィン系樹脂の好適な具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、及びエチレン−プロピレン−ジエン共重合体等のプロピレンを主成分とするポリプロピレン系樹脂;ポリブテン;並びにポリペンテン等を挙げることができる。難燃性樹脂組成物は、1種又は2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有してもよい。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレンに由来する構造の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチックのいずれでもよい。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0051】
(その他の成分)
難燃性マスターバッチには、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてその他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、例えば、難燃助剤、機械物性等の諸特性を向上させるための充填材、及びその他の添加剤等を挙げることができる。
【0052】
難燃助剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウム等の金属水酸化物を挙げることができる。充填材としては、例えば、シリカ、タルク、クレー、マイカ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、硼酸アルミニウム、硼酸マグネシウム、及び炭素繊維等を挙げることができる。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化剤、硬化促進剤、帯電防止剤、導電性付与剤、離型剤、潤滑剤、染料、及び顔料等を挙げることができる。これらのその他の成分の1種又は2種以上が難燃性樹脂組成物に含有されていてもよい。
【0053】
(難燃性マスターバッチの製造方法)
難燃性マスターバッチは、ポリオレフィン系樹脂、第1の難燃剤、第2の難燃剤、及び相溶化剤、並びに必要に応じて配合されるその他の成分を溶融混練して製造することができる。溶融混練の方法は特に限定されず、公知の溶融混練方法を採用することができる。具体例を挙げると、各成分を例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの高速ミキサー等の各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、及びニーダー等の混練装置で溶融混練する方法を挙げることができる。これらのなかでも、生産効率がよいことから、押出機を用いて溶融混練する製造方法が好ましく、二軸押出機を用いる製造方法がさらに好ましい。押出機を使用して各成分を溶融混練し、混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出した混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工することができる。なお、マスターバッチの形態は、顆粒状、タブレッド状、ペレット状、フレーク状、及び繊維状が好ましく、ペレット状がさらに好ましい。
【0054】
溶融混練の際の温度は、例えば、150〜280℃であり、使用するポリオレフィン系樹脂に応じて適宜選択される。ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂を用いる場合、溶融混練の際の温度は、180℃〜270℃が好ましく、190〜230℃が好ましい。
【0055】
<難燃性樹脂組成物>
難燃性マスターバッチは、難燃性を有する製品の全部又は一部を構成するための熱可塑性樹脂、すなわち、難燃性を付与する対象となる熱可塑性樹脂に、難燃性を付与するために添加される成分である。すなわち、本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、上述の難燃性マスターバッチとを含有する、難燃性を有する成形品(製品)の成形用の樹脂組成物である。ここで、「難燃性を有する成形品(製品)の成形用の樹脂組成物」とは、難燃性樹脂組成物が、難燃性を有する成形品(製品)の全部又は一部として成形される際にその成形にそのまま用いることが可能な組成物をいう。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、難燃性マスターバッチの基材である樹脂成分と同様に、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。なかでも、難燃性マスターバッチ中の基材である樹脂成分と同種のポリオレフィン系樹脂がさらに好ましい。なお、難燃性樹脂組成物の形態としては、例えば、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状、及び液状等を挙げることができる。
【0057】
難燃性樹脂組成物中の第1の難燃剤の含有量は、0.2〜3質量%であることが好ましく、0.3〜2.5質量%であることがさらに好ましく、0.5〜2質量%であることが特に好ましい。第1の難燃剤の含有量が0.2質量%未満であると、得られる成形品の難燃性がやや不足する場合がある。一方、第1の難燃剤の含有量が3質量%超であると、加工性がやや低下する場合がある。
【0058】
難燃性樹脂組成物中の第2の難燃剤の含有量は、0.05〜1質量%であることが好ましく、0.1〜0.7質量%であることがさらに好ましく、0.15〜0.5質量%であることが特に好ましい。第2の難燃剤の含有量が0.05質量%未満であると、得られる成形品の難燃性がやや不足する場合がある。一方、第2の難燃剤の含有量が1質量%超であると、成形される製品(成形品)に臭気が残りやすくなることがある。
【0059】
難燃性樹脂組成物中の相溶化剤の含有量は、0.1〜2質量%であることが好ましく、0.3〜1.5質量%であることがさらに好ましく、0.45〜1質量%であることが特に好ましい。相溶化剤の含有量が0.1質量%未満であると、ブリード現象がやや発生しやすくなることがある。一方、相溶化剤の含有量が2質量%超であると、難燃性がやや不足する場合がある。また、過剰の相溶化剤がブリードアウトしやすくなるため、紡糸機などの機台が汚染される場合があるとともに、コスト面で不利になることがある。
【0060】
難燃性を有する成形品を成形する際に、難燃性を付与する対象となる熱可塑性樹脂に難燃剤を直接添加するよりも、予め調製した前述の難燃性マスターバッチを添加する方が、難燃剤等の成分が飛散しにくいとともに、押出成形機や射出成形機等の成形機を汚染しにくくなり、作業性が向上する点で好ましい。また、難燃性マスターバッチを用いることで所望とする難燃性樹脂組成物を手軽に調製することができる。このため、安価でかつ小量生産にも対応可能な、経済的利点のある難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【0061】
<成形品>
本発明の成形品は、前述の難燃性樹脂組成物からなるものである。すなわち、本発明の難燃性樹脂組成物を成形することにより、難燃性を有する成形品を製造することができる。難燃性樹脂組成物を各種成形機内で溶融させた後、成形することにより、成形品を製造することができる。成形手法としては、成形品の形態及び用途等に応じて適宜選択することができる。成形法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、及びインフレーション成形等を挙げることできる。また、押出成形及びカレンダー成形等で得られたシート状又はフィルム状の成形品について、真空成形や圧空成形等の二次成形を行うこともできる。
【0062】
成形品の具体例としては、家電製品及び自動車等の分野における電気電子部品、電装部品、外装部品、及び内装部品等、並びに各種包装資材、家庭用品、事務用品、配管、及び農業用資材等を挙げることができる。特に、前述の難燃性樹脂組成物は、難燃性の効果の観点から、フィルム状樹脂、シート状樹脂、及び繊維状樹脂等の形態に成形される用途に好適であることから、成形品は、フィルム、シート、及び繊維等がより好適である。
【0063】
前述の通り、本発明の成形品の成形原料となる難燃性樹脂組成物は、製造時に不快な臭気が発生しにくく、加工性に優れた難燃性マスターバッチを用いて得られたものである。このため、難燃性樹脂組成物を成形加工する際にも不快な臭気が発生しにくい。したがって、本発明の成形品は、屋内や車両内装材等の密閉空間で使用される用途にも好適に採用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を試験例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0065】
<使用材料>
本試験例では、以下に示す第1の難燃剤及び第2の難燃剤、並びに相溶化剤A〜Eを使用した。また、以下に示すポリプロピレン樹脂Aをポリオレフィン系樹脂として使用した。
【0066】
(第1の難燃剤)
下記式(1)で表されるリン系の難燃剤(商品名「ノンネン73」、丸菱油化社製)を「第1の難燃剤」として用いた。
【0067】
【0068】
(第2の難燃剤)
下記式(2)及び(3)で表される窒素系の難燃剤(商品名「Flamestab NOR116」、BASF社製、分子量:2261g/mol)を「第2の難燃剤」として用いた。下記式(2)中のRは、下記式(3)で表される基であり、下記式(3)中の(*)は、下記式(2)中のRが結合しているNとの結合を表す。この難燃剤について、示差熱分析計(TG−DSC、商品名「TG−8110」、リガク社製)により、室温(25℃)から昇温速度10℃/分の条件で加熱し、熱的特性を分析した。その結果、この難燃剤の分解開始温度は約230℃であることがわかった。
【0069】
【0070】
(相溶化剤A)
下記式(4−1)(式中のmは15〜18の整数を表す)で表されるNO−ポリエチレンワックス型のヒンダードアミン系化合物(商品名「Hostavin Now」、クラリアントケミカルズ社製)を「相溶化剤A」として用いた。このヒンダードアミン系化合物は、[4−(アルカノイル(C15〜18)オキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−イルオキシルとポリエチレンワックスの反応生成物]である。なお、下記式(4−1)において、ポリエチレンワックスに由来する長鎖分岐型アルキル基の炭素原子数は省略して表されている。このヒンダードアミン系化合物について、示差熱分析計(TG−DSC、商品名「TG−8110」、リガク社製)により、室温(25℃)から昇温速度10℃/分の条件で加熱し、熱的特性を分析した。その結果、このヒンダードアミン系化合物の分解開始温度は約260℃であることがわかった。また、このヒンダーアミン系化合物について、MALDI−TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計、商品名「autoflex speed」、Bruker社製)により、そのマトリックス素材としてDCTB(trans−2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン]マロノニトリル)を用いて平均分子量を測定した。その結果、このヒンダードアミン系化合物の平均分子量は2,500〜3,400の範囲内であることがわかった。
【0071】
【0072】
(相溶化剤B)
下記式(5−1)で表されるNO−R型のヒンダードアミン系化合物(商品名「アデカスタブLA−81」、ADEKA社製)を「相溶化剤B」として用いた。
【0073】
【0074】
(相溶化剤C)
主鎖がポリオレフィンであるとともに、EVA化合物が側鎖に結合した構造を有するポリオレフィン系の接着性樹脂(商品名「モディックA515」、三菱化学社製)を「相溶化剤C」として用いた。
【0075】
(相溶化剤D)
主鎖がポリオレフィンであるとともに、スチレン化合物が側鎖に結合した構造を有するポリオレフィン系の樹脂(商品名「モディパーA1100」、日油社製)を「相溶化剤D」として用いた。
【0076】
(相溶化剤E)
主鎖がポリオレフィンであるとともに、極性基を有する無水カルボン酸が側鎖に結合した構造を有する酸変性タイプのポリオレフィン系の樹脂(商品名「ユーメックス1001」、三洋化成社製)を「相溶化剤E」として用いた。
【0077】
(ポリプロピレン(PP)樹脂)
パウダー状のポリプロピレン樹脂A(商品名「J105P」、プライムポリマー社製)を「ポリプロピレン(PP)樹脂」として用いた。
【0078】
<マスターバッチの製造>
(試験例1)
ポリプロピレン樹脂70質量部、第1の難燃剤20質量部、及び相溶化剤A10質量部を配合し、ヘンシェルミキサーを用いて十分に混合して混合物を得た。二軸押出機を用いて得られた混合物を温度230℃で混練し、混練物をストランド状に押し出した。ストランド状に押し出された混練物を水冷した後、ペレタイザーを用いて加工し、ペレット状のマスターバッチ1を製造した。
【0079】
(試験例2〜12)
表1に示す配合(単位:質量部)としたこと以外は、前述の試験例1と同様にして、ペレット状のマスターバッチ2〜12を製造した。
【0080】
<マスターバッチの評価>
(加工性)
マスターバッチ製造時における、二軸押出機のスクリューへの溶融物の固着の発生状況を確認し、以下に示す評価基準にしたがってマスターバッチの加工性を評価した。結果を表1に示す。
○:二軸押出機のスクリューに溶融物がほとんど固着することなく、二軸押出機を良好に操業できた。
△:二軸押出機のスクリューに若干の溶融物の固着が確認されたが、マスターバッチを製造することができた。
×:二軸押出機のスクリューに溶融物が固着して巻き付き、二軸押出機の操業が困難であった。
【0081】
(作業環境性)
マスターバッチ製造時に不快な臭気が発生したか否かを確認し、以下に示す評価基準したがって作業環境性を評価した。結果を表1に示す。
○:臭気はほとんど感じられなかった。
△:わずかに臭気の発生を感じたが、作業困難となるほどの臭気は感じられなかった。
×:はっきりと感じられる臭気が発生した。
【0082】
(相溶性)
マスターバッチ製造時の水槽へのブリード物の発生状況を確認し、以下に示す評価基準にしたがって難燃剤と樹脂との相溶性を評価した。結果を表1に示す。
○:水槽中にブリード物がほとんど発生することなく、相溶性が良好なマスターバッチを製造できた。
△:水槽中にブリード物の発生が確認されたが、発生したブリード物は少量であったため、相溶性がまずまずのマスターバッチを製造できた。
×:水槽中に多量のブリード物の発生が確認されたため、相溶性はあまり良くないがマスターバッチを製造できた。
【0083】
【0084】
<難燃性評価用試験体の製造>
(試験例13〜17)
前述の試験例3〜5、8、及び12で製造したマスターバッチ3〜5、8、及び12のそれぞれについて、製品を製造する際の組成を想定した難燃性樹脂組成物を調製した。具体的には、各マスターバッチと、マスターバッチに用いたポリプロピレン樹脂と同じポリプロピレン樹脂とをドライブレンドし、試験体成形用の難燃性樹脂組成物を調製した。この際、難燃性樹脂組成物中の難燃剤の含有量の合計が1.4質量%となる組成に調製した。なお、相溶化剤A及び相溶化剤Bは難燃剤としての作用を示す成分であることから、これらの成分についても「難燃剤」に含めて含有量を算出した。調製した難燃性樹脂組成物の組成を表2(単位:質量%)に示す。
【0085】
紡糸機を使用して難燃性樹脂組成物を紡糸し、5デニールの糸を作製した。作製した糸を束ねるとともに、できるだけ均一に力をかけて、長さ20cmのねじり棒を製造した。このように製造したねじり棒を難燃性評価用の試験体とした。
【0086】
<難燃試験(接炎回数の測定)>
JIS L1091:1999「繊維製品の燃焼性試験方法」D法(接炎試験)に準拠し、製造したねじり棒を試験体として用いて接炎回数を測定した。具体的には、20cmの試験体が燃え尽きるまでに要する接炎回数(N=5平均)を測定した。測定結果を表2に示す。なお、本実施例においては、接炎回数が2.7以上であったものを「合格」と評価した。
【0087】