(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水性インク及び前記表面処理液の少なくともいずれか一方が、30mN/m以上の表面張力を有する水溶性有機溶剤を含む、請求項4又は5記載の加飾物品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。なお、本明細書において「重量」と「質量」は同じ意味で用いられるので、以下、「重量」に統一して記載する。
以下の記載において、「多孔質材」を「機能性多孔質材」と同義で用いる場合があり、「多孔質吸音材」、「多孔質吸水材」、「多孔質断熱材」をそれぞれ、単に「吸音材」、「吸水材」又は「断熱材」と記すことがあり、「表面処理液」を単に「処理液」と記すことがある。
【0015】
<加飾物品>
本実施形態に係る加飾物品は、機能性多孔質材の表面に印刷画像を備え、該物品が含む不揮発性液体量が0.1g/m
2以上55g/m
2以下であることを特徴とする。
本明細書において、加飾物品及び後述する表面処理物品における「不揮発性液体量」は、加飾物品及び表面処理物品を、90℃で10分間加熱した後に、これらの物品中に常温で液体状態のまま保持されている物質(不揮発性液体)の重量を意味する。この不揮発性液体については、後述するが、代表的には、有機溶剤及び界面活性剤を不揮発性液体として用いることができる。
【0016】
機能性多孔質材は多数の細孔を有し、この細孔が吸音、吸水、又は断熱等の機能を発現する材料であるため、多孔質材に、例えば加飾に際し用いられたインク等に由来する液体が多量に含まれていると、細孔が塞がれてしまい、本来もつ機能が失われる恐れがある。これに対し、上記不揮発性液体量が55g/m
2以下であれば、液体が含まれていても多孔質材が持つ機能が失われることはない。また、不揮発性液体量が55g/m
2よりも多いと、印刷画像の耐擦過性が低下し、又は経時での濃度低下が発生する傾向が見られるため、好ましくない。上記不揮発性液体量は、50g/m
2以下、40g/m
2以下、35g/m
2以下、及び30g/m
2以下であることがこの順により好ましく、20g/m
2以下であることがより一層好ましい。
【0017】
一方、不揮発性液体量が0.1g/m
2未満である場合、加飾時の印刷ドットが十分な大きさにならずベタ画像が不均一になり、濃度低下が生じる場合があるため好ましくない。また、細孔中に液体が含まれることで音波を吸収する効果が高まり、又は、水溶性有機溶剤又は界面活性剤などの親水性材料が含まれることで吸水効果が高まる場合もあるため、こうした観点からも多孔質材が不揮発性液体を含むことは好ましい。したがって、不揮発性液体量は0.1g/m
2以上であることが好ましく、0.3g/m
2以上であることがより好ましい。
【0018】
加飾物品の印刷画像は、インクを用いて形成することができ、色材を含んでいる。印刷画像の形成に用いるインクが色材以外の不揮発性成分を含む場合、例えば水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂、あるいは、不揮発性液体を含む場合、印刷画像もさらに、これらの不揮発性成分を含んでいる。
画像は、多孔質材の少なくとも一部に存在すればよいが、全表面に形成されていてもよい。
【0019】
好ましい一実施形態において、加飾物品は、表面処理層をさらに有している。その場合、インクは表面処理層上に定着し、耐水擦過性の高い画像となる。なお、表面処理層の全てが画像により覆われる必要はない。表面処理層は、表面処理液を用いて形成することができる。
【0020】
加飾物品中の不揮発性液体は、印刷画像及び表面処理層のいずれか一方に含まれることが好ましい。すなわち、印刷画像形成用のインク及び表面処理層形成用の表面処理液のいずれか一方又は双方に含まれる成分に由来することが好ましいが、インク及び表面処理液由来ではなく、表面処理後、又は加飾後に付与されたものでも良い。その際、表面処理面、又は加飾面を損傷しない液体、例えば界面活性剤、又は低極性の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0021】
<表面処理物品>
本実施形態に係る表面処理物品は、機能性多孔質材の表面に表面処理層を備え、該物品が含む不揮発性液体量が55g/m
2以下であることを特徴とする。
多孔質材をインクで加飾する場合、多孔質材表面へのインクの定着性を高め、高発色で滲みがなく、高い耐久性を有する画像を形成するために、多孔質材表面に表面処理(前処理)を行うことが好ましい。その際、表面処理液の溶媒が多孔質材中に多量に含まれていると、細孔が塞がれてしまい、本来もつ機能が失われる恐れがある。また、表面処理物品中の不揮発性液体が多すぎると、不揮発性液体の物品表面への定着が不十分となり、その結果、印刷画像の耐擦過性が低下するため好ましくなく、また、経時での画像の滲みが発生する場合もある。したがって、表面処理物品中の不揮発性液体量は55g/m
2以下であることが好ましく、50g/m
2以下、40g/m
2以下、35g/m
2以下、及び30g/m
2以下であることがこの順により好ましく、20g/m
2以下であることがより一層好ましい。
【0022】
一方、細孔中に液体が含まれることで音波を吸収する効果が高まり、又は、水溶性有機溶剤又は界面活性剤などの親水性材料が含まれることで吸水効果が高まる場合もあるため、表面処理物品中の不揮発性液体量は0.3g/m
2以上であることが好ましい。また、表面処理物品中に不揮発性液体が含まれていなくても、加飾に使用するインクが不揮発性液体を含むことで、印刷ドットが適度な大きさに拡がり、必要な発色を得ることができるが、表面処理物品が不揮発性液体を含むことで、多孔質材表面へのインクによる画像形成が均一になり、細字又は細線の画像もより鮮明になるため好ましい。さらに、表面処理物品が不揮発性液体を含むことで、インクが多孔質材表面に留まり過ぎないという効果が得られ、その結果、印刷画像の耐擦過性を高めることもできる。
【0023】
表面処理物品は、後述する表面処理液中の成分を含む表面処理層を備えている。例えば、表面処理液が色材定着成分及び/又は不揮発性液体を含む場合は、表面処理層には色材定着成分及び/又は不揮発性液体が含まれる。また、表面処理液がこれら以外の不揮発性成分を含む場合は、表面処理層もその不揮発性成分を含む。
表面処理層は、多孔質材の表面の少なくとも一部に存在すればよいが、全表面に形成されていてもよい。
【0024】
<多孔質材>
機能性多孔質材とは、調湿、断熱、吸音、又は吸水などの、多孔質材の構造から得られる各種機能をもった基材のことである。機能として、複数の機能を有していてもよい。
その形態は、シート状、もしくはシート状で表面凹凸を有するもの、又はシート状のものを成形したもの等であることが好ましい。シートの厚さは、多孔質構造に由来する機能が十分に発現できるよう、0.3mm以上であることが好ましい。これらの多孔質材は、単独で使用しても良いし、複数枚重ねても良い。また、他の基材と組み合わせて、積層材として使用しても良い。
【0025】
一般に多孔質材は、連続性のある多孔質構造であり、通気性を有している。通気性としては、通気抵抗値が300mmH
2O以下であることが好ましい。多孔質材の空隙率としては、20%〜95%であることが好ましく、さらに好ましくは、30%〜85%である。ここでいう空隙率(気孔率ともいう。)とは、次式で算出される重量%である。
空隙率(%)=(多孔質材の重量)×100/(多孔質材の原料100%で構成した同体積の基材の重量)
【0026】
加飾物品及び表面処理物品を構成する多孔質材は、吸音機能、吸水機能、及び断熱機能の中から選ばれる一つ以上の機能を有するものであることが好ましく、その多孔構造が特に限定されることはない。つまり、多孔質材は、その各機能に適した多孔構造を持つものであればよい。
以下に、吸音材、吸水材、断熱材のそれぞれについて具体的に説明する。
【0027】
1.多孔質吸音材
吸音材は、吸音により防音効果を奏する防音材であり、表面及び内部に多数の細孔を備え、この細孔が音を吸収して防音効果を発揮する。こうした機能を奏する多孔質体であれば、特に限定されず、グラスウール、ロックウール、樹脂繊維、金属質繊維等を用いて形成されるもの、又は樹脂発泡体、石膏ボード、金属発泡体、金属粉末焼結体から形成されるものを用いることができる。アルミニウム、ステンレス等のエキスパンドメタルを用いた防音材でもよい。
吸音板の形状は通常、ボード状あるいはパネル状、すなわち板状であるが、これに限定されるものではない。
【0028】
なかでも、吸音材として、多孔質金属体を用いることが好ましい。多孔質金属体とは、微細な孔が無数にあいた構造を有する金属体であり、従来の金属では持ち得ない、多孔質構造に由来する特徴的な性質を備えている。すなわち、多孔質であるため、金属でありながら非常に軽量であり、孔がいずれかの部分で連結しているため、通気性や透過性、透光性をもつ。また、孔の内部に空気や液体を保持することが可能であるため、衝撃吸収性、吸音性、吸水性、エネルギー吸収性などをもつ。比表面積が大きくなるため、表面での化学反応性等も高くなる。加えて、加工性に優れており、容易に切断や曲げが可能である。多孔質金属体は、このような性質と、金属ならではの高導電性、高熱伝導性、高靱性等の特徴を併せ持つため、多様な用途に利用されている。
【0029】
吸音材として利用されている多孔質金属体としては、アルミニウムの不織布をプレス加工したもの、及びアルミニウム、銅、マグネシウム、チタニウム、ステンレス鋼、ニッケル等の金属粉末を焼結して多孔質にしたもの、アルミニウム等の溶融金属を発泡させ気孔を作ることで多孔質にしたものなどが挙げられる。これらは、従来の石膏ボードやグラスウール、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、又はセラミック素材の吸音材のように、繊維や粒子が飛散することもなく、リサイクルも容易である。
【0030】
例えば市販品としては、アルミニウム粉末を焼結して製造された金属製吸音板「NDCカルム」(エヌデーシー販売株式会社)、アルミニウム繊維をプレス成形した「アルトーン」(ニチアス株式会社)、アルミニウム不織布をエキスパンドメタルでサンドイッチ状に密着・圧延した「ポアル」(株式会社ユニックス)、アルミニウム繊維を連続焼結させた「フルポーラス」(株式会社UACJ)、「メタシリー」(株式会社サーマル)、ポリエステル繊維を圧縮した「アコースティック・ミュートボード」(株式会社アコースティック・アドバンス)、ガラス繊維とパルプを混ぜた極薄軽量シートからなる「カールトン」(野原産業株式会社)等を好ましく使用できる。
上記「NDCカルム」は、不均一な数百μmサイズの空隙が分布してなる、空隙率(気孔率)が45%の、板状(厚さ約3mm)の吸音材である。上記「アコースティック・ミュートボード」は、主として数百μmの空隙を多く有する、板状(厚さ約5mm)の吸音材である。上記「カールトン」は、ガラス繊維とパルプが主原料で、シートの厚さは0.7mmである。
【0031】
吸音性能は、吸音率で表すことができる。吸音率αは、入射した音のエネルギーに対する、反射されてこない音のエネルギーの比率であり、以下の式で示される。
α=(la+lt)/li=(li−lr)/li=1−lr/li
α:吸音率
li:入射音のエネルギー(=lr+la+lt)
lr:反射音のエネルギー
la:吸収音のエネルギー
lt:透過音のエネルギー
吸音率の種類として、垂直入射吸音率、ランダム入射吸音率、斜入射吸音率があるが、一般的にはJIS A 1409で規格化されたランダム入射吸音率で表記され、残響室法を用いて測定される。
【0032】
具体的には、1000Hzに対する吸音率が、厚み1mm以上の多孔質材では背後空気層100mmの場合に0.75以上であることが好ましく、より好ましくは0.85以上であり、厚み1mm未満の多孔質材では、背後空気層300mmの場合に0.55以上であることが好ましく、より好ましくは0.60以上である。
【0033】
また、吸音性能を通気度測定により簡便に評価することもできる。これは、ISO−9237に規定される、フラジール形法により繊維製品の通気性を評価する方法であり、試験片に対し一定流速の空気を流し、試験片の表裏両面の圧力差を測定するものである。具体的には、フラジール形通気性試験機(株式会社安田精機製作所製)を用い、試験片である加飾された吸音材に対し、試験片面積100cm
2あたり空気流量250L/分、流速41.7cm/秒の条件で、一定流速の空気を流し、試験片の表裏両側の圧力差を「流れ抵抗値」として評価することができる。流れ抵抗値が、未加飾の吸音材に対して小さいほど、その吸音材が従来もつ各周波数における吸音率が未加飾時から低下していない、と判断できる。
【0034】
具体的には、流れ抵抗値の未加飾時との差が30mmH
2O未満である(つまり、30mmH
2O以上高くなっていない)ことが好ましく、20mmH
2O未満であることがより好ましい。
【0035】
2.多孔質吸水材
吸水材は、水分を吸収し保持する機能を有する材料であり、保水材としての機能も備えている。微細な孔が立体網目構造のように連なった材料であることが好ましく、それにより、縦横にめぐる微細気孔によって毛管現象が生じ、優れた吸水性能及び保水性能を発揮することができる。空隙率(気孔率)は、50%以上であることが好ましく、70%以上95%以下程度であることがより好ましい。
その素材は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルホルマール(PVFM)、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸塩、セルロース、ウレタン樹脂、及びフェノール樹脂等の親水性材料であることが好ましい。
【0036】
一例としては、PVFMのスポンジであり、市販品では例えば、厚さ1〜2mmの多孔質シートである「ベルクリン」(アイオン株式会社)を用いることができる。この「ベルクリン」は、平均気孔サイズが80〜130μmの、気孔率が約90%、厚さ2mmの吸水材である。また、PVAのスポンジである「吸水力が落ちないキッチンクロス」、「キッチンきちんと吸水スポンジクロス」(アイオン株式会社)などを用いることも好ましい。さらに、セルロースのスポンジを用いることも好ましい。市販品ではたとえば、「スポンジクロス」(Kalle社)を用いることができる。この「スポンジクロス」は、例えば30×20cmのサイズで約400ccの水分を吸い取ることができる。
【0037】
吸水性能は、一定量の水を吸収するまでに要する時間で判断することができる。例えば、1滴(約0.04ml)の水を多孔質材に滴下したときに、その吸収時間が1秒以内であることが好ましく、0.5秒以内であることがより好ましい。
【0038】
3.多孔質断熱材
断熱材は、断熱性を有し、外気と室内との間に設置されるという環境条件で使用されるものである。通常は常温の範囲で使用される。
繊維系の材料からなる断熱材は、人造鉱物繊維系と有機繊維系に分類され、どちらも、長い繊維の集合体であって、繊維間に細密な空気層を形成することにより断熱性能を発揮する。グラスウール断熱材、ロックウール断熱材、インシュレーションファイバー断熱材等が挙げられる。
発泡プラスチック系の断熱材は、樹脂を発泡させることによりできる微少なセルに空気又はガスを封入することにより、断熱性能を発揮するものである。ビーズ法又は抽出法ポリスチレンフォーム断熱材、ポリエチレンフォーム断熱材等が挙げられる。
【0039】
例えば、断熱吸音材として市販されている「パラボード」(パラマウント硝子工業株式会社)を好ましく用いることができる。この「パラボード」は、ボード状の高密度グラスウールからなるものである。
【0040】
断熱材の性能を表す指標として、熱伝導率がある。熱伝導率が高ければ、熱抵抗値が低く、断熱性能が劣ることになる。熱伝導率の測定には、保護熱板式伝導率試験装置を用い、JIS A 1420(1999)に規定される保護熱板法により平均温度70℃で行うことができる。
断熱性能としては、JIS A1420:1999規格値(平均温度:70℃)で0.10W/(m・K)以下であることが好ましく、0.05W/(m・K)以下であることがより好ましい。
【0041】
以上の多孔質材には、後述する表面処理前に、任意の下地塗装や親水化処理等がなされていても良い。その場合、塗装は水性の塗料で行われることが好ましい。また、機能性多孔質材が本来もつ機能を低下させない程度の下地塗装である必要がある。
【0042】
<水性インク>
多孔質材表面の加飾に用いられるインクは、油性インク、水性インク、エマルションインク等、特に限定されない。好ましい一実施形態において、インクは、色材を含み、水を溶媒とする水性インクである。本明細書において、「加飾」は装飾と同義であって、印刷画像を形成することを意味しており、「加飾された」とは印刷画像を有することを意味する。この加飾部分は、対象物、すなわち多孔質材の全面であっても一部であってもよい。
【0043】
上述のとおり、加飾物品中の不揮発性液体量を上記好ましい範囲となるように調整して印刷画像を形成することにより、多孔質材表面に、その機能を損なうことなく、例えば画像の印刷領域が多孔質材表面の全面にわたった場合でも、加飾前と同等の機能を維持して、少量の色材で鮮やかな画像を形成することができる。このように、画像の記録面積の制限がないため、様々な絵柄や文字等を自由に表現することができる。
インクの適用方法は特に限定されず、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷等のいずれでもよいが、インクジェット印刷はオンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができるため好ましく、インクはインクジェット印刷に適したインクジェットインクであることが好ましい。
【0044】
1.水
水は、インクの溶媒、すなわちビヒクルとして機能するものであれば特に限定されず、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。水は揮発性の高い溶媒であり、多孔質材に吐出された後、容易に蒸発するので、印刷後の多孔質材の細孔が塞がれるのを防止し、印刷後の多孔質材の機能の低下を防止することができる。また、水は、無害で安全性が高く、VOCのような問題が無いので、加飾された多孔質材を環境にやさしいものとすることができる。
【0045】
水は、インク全量の25重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましく、65重量%以上であることがより一層好ましい。また、水の含有量は85重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。
【0046】
2.色材
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。加飾画像の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材の含有量は、インク全量に対して0.01〜20重量%の範囲であることが好ましい。さらには、色材の含有量は0.1重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましく、1重量%以上であることが一層好ましく、また、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましく、8重量%以下であることが一層好ましい。
【0047】
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられ、これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものが使用できる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料及び染付レーキ顔料等の有機顔料並びに無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。無機顔料としては、代表的にはカーボンブラック及び酸化チタン等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
3.樹脂
好ましい一実施形態において、水性インクは、水と色材に加え、さらに水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂を含む。インクは、水分散性樹脂又は水溶性樹脂の少なくとも一方を含むことにより、多孔質材に色材を十分に定着させることができ、これにより、少量の色材で高い着色性を得ることができる。水分散性樹脂と水溶性樹脂を併用してもよい。
水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸中和物、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらは、単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。
【0050】
水分散性樹脂の場合は、粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性の樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、水に溶解することなく粒子状に分散して水中油(O/W)型エマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性の分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基は、代表的にはカルボキシ基、スルホ基等であり、アニオン性の分散剤は、陰イオン界面活性剤等である。表面がアニオン性であると、上記表面処理液中のカチオン性水分散性樹脂との化学的な相互作用が得られ、その結果、色材の定着を一層強固なものとして画像の耐久性をより高めることができる。
樹脂粒子の表面電荷は、ゼータ電位を測定することで評価できる。具体的には、ゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
【0051】
樹脂の種類としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。また、インクの製造に際し、樹脂エマルションとして配合することができる。
代表的には、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、及びそれらの樹脂エマルション等が挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂とメタクリル樹脂の双方を示す。
上記のとおり、これらの樹脂にアニオン性の官能基を導入するか、又は、アニオン性分散剤等で表面処理して、マイナスの表面電荷を与えることができる。
【0052】
これらの水分散性樹脂(又はそのエマルション)のうち、インクジェットヘッドからの安定吐出性能の観点、及び金属製等の吸音材に対する密着性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が−35〜40℃のウレタン樹脂(エマルション)を用いることが好ましい。かかる樹脂エマルションの具体例としては、第一工業製薬(株)のスーパーフレックス460、420、470、460S(カーボネート系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、150HS(エステル・エーテル系ウレタン樹脂エマルション・商品名)、740、840(芳香族イソシアネート系エステル系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、DSM社のNeoRez R−9660、R−2170(脂肪族ポリエステル系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、NeoRez R−966、R−967、R−650(脂肪族ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、R−986、R−9603(脂肪族ポリカーボネート・いずれも商品名)などが挙げられる。
【0053】
また、インク中での安定性の観点から、(メタ)アクリル樹脂又は(メタ)アクリル樹脂共重合体を用いることも好ましい。具体的には、日本合成化学工業(株)のモビニール966A、6963、6960(アクリル樹脂エマルション・いずれも商品名)、6969D、RA−033A4(スチレン/アクリル樹脂エマルション・いずれも商品名)や、BASF社のジョンクリル7100、PDX−7370、PDX−7341(スチレン/アクリル樹脂エマルション・いずれも商品名)、DIC(株)のボンコートEC−905EF、5400EF、CG−8400(アクリル/スチレン系エマルション)などが挙げられる。
水分散性樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の1種単独の樹脂(又はそのエマルション)から構成されてもよいし、又は、複数種の樹脂(又はそれらのエマルション)を組み合わせて構成されてもよい。
【0054】
水性インクをインクジェットインクとして用いる場合には、エマルションを形成する水分散性樹脂粒子は、インクジェット印刷に適した粒子径であれば良く、一般的には平均粒径(動的光散乱法により体積基準で測定したメジアン径)で300nm以下であることが好ましい。また、インクジェット印刷に適したこの程度の大きさであれば、多孔質材の細孔を完全に塞ぐことがなく、吸音性能を維持することができるので好ましい。この吸音性能の維持のため、平均粒径のより好ましい値は250nm以下であり、さらに好ましい値は200nm以下であり、一層好ましい値は150nm以下である。平均粒径の下限値は、特に限定はされないが、インクの保存安定性の観点からは、5nm以上程度であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
【0055】
インク中における水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂の量(固形分量)は、色材と樹脂の比率(色材:樹脂)で1:0.5〜1:7(重量比)が好ましい。樹脂の含有量をこの範囲にすることで、多孔質材の表面に印刷された画像の耐水擦過性と高画質性を十分に確保することができる。色材1に対する樹脂の比率が0.5より小さいと、顔料の定着性が悪くなる可能性があり、7より大きいと、粘度が高くなり、水性インクをインクジェットインクとして用いる場合には、インクを吐出するヘッドからインクを吐出できなくなる可能性がある。
【0056】
4.不揮発性液体
インクはさらに、一種以上の不揮発性液体を含むものであることが好ましい。すなわち、好ましい実施形態において、水性インクは、水、不揮発性液体、水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂、並びに色材を含むものである。水性インクが不揮発性液体を含むことにより、インクをインクジェット印刷用に用いた場合に、インク吐出性を確保することができる。
不揮発性液体は、上述のとおり、加飾物品(及び表面処理物品)を、90℃で10分間加熱した後に、これらの物品中に常温で液体状態のまま保持されている物質である。具体的には、有機溶剤又は界面活性剤であることが好ましい。
【0057】
有機溶剤は、水と混和可能な水溶性(水混和性)有機溶剤であることが好ましく、後述する水溶性有機溶剤として不揮発性液体を用いることができる。その場合に、水溶性有機溶剤の全てが不揮発性液体であってもよいし、一部が不揮発性液体であってもよい。
90℃で10分間加熱した後にも物品中に残る不揮発性液体としては、具体的には、沸点が250℃以上であることを目安に選択することができる。不揮発性液体は、好ましくは沸点が260℃以上であり、さらに好ましくは270℃以上の水溶性有機溶剤である。
【0058】
例えば、沸点が250℃以上の多価アルコール、多価アルコールエーテル、アセテート、又はアミン類、並びに沸点を示さず250℃以上で分解する多価アルコール等が挙げられ、トリエチレングリコール(沸点288℃)、テトラエチレングリコール(沸点323℃)、トリプロピレングリコール(沸点268℃)、グリセリン(沸点290℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点272℃)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点261℃)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点264〜294℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(沸点275℃)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点290〜310℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点304℃)、ジエタノールアミン(沸点280℃)、トリエタノールアミン(沸点335℃)等を好ましく使用できる。これらの複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0059】
不揮発性液体は、インクの揮発分が乾燥により除去された際に、インクの粘度を大きく上昇させるものであると、多孔質材表面にインク中の色材及び樹脂成分を留まり易くするために好ましい。「インクの粘度を大きく上昇させる」とは、それ自身の粘度が高い液体、又は、インク中の水及び他の揮発性液体が除去された状態ではインク中の色材等と混和性が悪く、色材等の分散状態を崩すような液体であり、具体的には例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリエチレングリコール(沸点288℃)、テトラエチレングリコール(沸点323℃)、トリプロピレングリコール(沸点268℃)等が例示できる。
【0060】
不揮発性液体として用いられる界面活性剤も、特に限定されず、後述する界面活性剤のうち、高分子系のシリコーン系界面活性剤、高分子系のアセチレングリコール系界面活性剤、高分子系のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等を、不揮発性液体である界面活性剤として用いることができる。
【0061】
不揮発性液体の含有量は、インク中に60重量%以下であることが好ましい。
したがって、好ましい一実施形態においてインクは、水、水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂、並びに色材を含み、さらにインク全量に対し60重量%以下の不揮発性液体を含むものである。
【0062】
5.その他の溶媒
インクの溶媒は、上記のとおり水が好ましいが、水以外に、水と混和可能な水溶性(水混和性)有機溶剤を含んでいてもよい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上選択して使用できる。水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、2種以上が用いられる場合はその合計含有量として、5〜60重量%であることが好ましく、15〜55重量%であることがより好ましい。
【0063】
例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、β−チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0064】
さらに、インクは、30mN/m以上の表面張力を有する水溶性有機溶剤を含むことがさらに好ましい。それにより、色材、樹脂等のインクの成分が多孔質材の孔内部に入り込みにくくなり、印刷画像の細線、文字等が滲みを抑制することできる。例えば、上記グリセリンは、表面張力が63mN/mであり好ましい。表面張力は、20℃における値を表す。
ここで、不揮発性液体が界面活性剤ではなく水溶性有機溶剤である場合に、30mN/m以上の表面張力を有する水溶性有機溶剤は不揮発性液体であってもよいし、不揮発性液体ではなくてもよい。前者の場合は、好ましい一実施形態においてインクは、30mN/m以上の表面張力を有する不揮発性液体を含み、後者の場合は、好ましい一実施形態においてインクは、30mN/m未満の表面張力を有する不揮発性液体と、30mN/m以上の表面張力を有する、不揮発性液体ではない水溶性有機溶剤の双方を含むことになる。あるいは、30mN/m以上の表面張力を有する不揮発性液体と、30mN/m以上の表面張力を有する、不揮発性液体ではない水溶性有機溶剤とを含むインクでもよい。なお、不揮発性液体が界面活性剤である等、水溶性有機溶剤ではない場合は、好ましい一実施形態においてインクは、水溶性有機溶剤ではない不揮発性液体と、30mN/m以上の表面張力を有する水溶性有機溶剤とを含む。
【0065】
6.界面活性剤
インクには、多孔質材に対する親和性を制御するために、界面活性剤を配合することができる。
界面活性剤は、親水性部分がイオン性(カチオン性・アニオン性・双性)のものと非イオン性(ノニオン性)のものに大別されるが、本実施形態では、処理液の泡立ちの観点から、起泡しにくい非イオン系の界面活性剤を用いることが好ましい。また、低分子系・高分子系(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のどちらでも良いが、高分子系界面活性剤を用いることが好ましい。
HLB値については、5〜20程度の界面活性剤であることが好ましい。
【0066】
非イオン系の界面活性剤としては、たとえば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型のもの、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型のもの、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型のもの等が挙げられる。インクには、インク中における顔料の分散を良好にするために、必要に応じて顔料分散剤を添加することが好ましいので、界面活性剤として、顔料分散能をもった界面活性剤を用いることも好ましい。
【0067】
本実施形態では、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品として、アセチレングリコールであるサーフィノール104E、104H、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造のサーフィノール420、440、465、485等(エアープロダクツアンドケミカルズ社)、アセチレングリコールのオルフィンE−1004、E−1010、E−1020、PD−002W、PD−004、EXP.4001、EXP−4200、EXP−4123、EXP−4300等(日信化学工業株式会社)、アセチレングリコールのアセチレノールE00、E00P、アセチレングリコールのエチレンオキサイドを付加した構造のアセチレノールE40、E100等(川研ファインケミカル株式会社)が挙げられる。
【0068】
シリコーン系界面活性剤は、非常に高い表面張力低下能と接触角低下能を持つため、多孔質材表面が親水性でなくても、多孔質材表面に処理液を速やかに拡散させることができる。その結果、多孔質材の表面に処理液の機能発現成分が均一に定着することができるため、印刷した際にインクが処理部分に均一に定着し、高発色で高品位の印刷画像を得ることができる。
シリコーン系界面活性剤のなかでも、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤が好ましい。市販品では「シルフェイスSAGシリーズ」(日信化学工業株式会社)を好ましく使用できる。
【0069】
界面活性剤は、いずれかを単独で用いてもよいし、互いに相溶性が良好な複数の界面活性剤を併用してもよい。
界面活性剤を使用する場合の表面処理液中の含有量は、0.1重量%以上程度であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることが一層好ましい、一方、界面活性剤量は、5重量%以下程度であることが好ましく、4重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが一層好ましい。
【0070】
7.その他の配合成分
インクには、インク中における顔料の分散を良好にするために、必要に応じて顔料分散剤を添加することができる。使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶媒中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、高分子分散剤、又は顔料分散能をもった界面活性剤に代表される公知の顔料分散剤を使用することが好ましい。高分子分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパース(商品名)シリーズ、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル(商品名)シリーズ、BYK社のDISPERBYKシリーズ、BYKシリーズなどが挙げられる。
顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記溶媒中に分散可能な量であれば足り、例えば顔料1に対し重量比で0.01〜2の範囲内で、適宜設定できる。
【0071】
また、インクをインクジェット印刷用として用いる場合に、インク中にはインクの表面張力を低下させ、インクジェットヘッドに導入した際の吐出安定性を確保し、また印刷対象である多孔質材に対するインクの濡れ性を高めるために、表面張力低下剤を添加することができる。表面張力低下剤としては、さらに水分散性樹脂粒子の凝集を抑制する効果も有している界面活性剤、例えば、表面処理液に配合されると同様の界面活性剤を用いることもできる。顔料分散機能と表面張力低下機能の双方を備える界面活性剤を使用してもよい。
インク中の表面張力低下剤の量は、0.1重量%以上程度であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることが一層好ましい。一方、表面張力低下剤量は、5重量%以下程度であることが好ましく、4重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが一層好ましい。
【0072】
インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記の成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0073】
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、ビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め水と色材の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0074】
<表面処理液>
表面処理液は、加飾前の多孔質材に対し、インクの定着性を高め画像の発色性等を良好なものとするために用いられる前処理液である。
当該目的に照らし、表面処理液は、溶媒、及び色材定着成分(色材浸透抑制成分)を含むことが好ましい。このような表面処理液で多孔質材を予め前処理することにより、吸液性が非常に高い機能性多孔質材においても、インク中の色材が多孔質材表面に留まることができ、その結果、多孔質材本来の機能を維持しつつ、高発色で滲みがない画像を形成することが可能となる。
【0075】
1.溶媒
溶媒としては、水を用いることが好ましく、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。水は揮発性の高い溶媒であり、多孔質材に吐出された後、容易に蒸発するので、表面処理後の多孔質材の細孔が塞がれるのを防止し、多孔質材の機能低下を防止する作用を奏する。また、水は、無害で安全性が高く、VOCのような問題が無いので、表面処理された多孔質材を環境にやさしいものとすることができる。
【0076】
水に加え、必要に応じて、水と任意に混和可能な水溶性(水混和性)有機溶剤を含むことも好ましい。この水溶性有機溶剤としては、インクの水溶性有機溶剤として先に記載したものと同様の溶剤を用いることができる。
表面処理液中の溶媒(水を含む)の含有量は、処理液全量の60重量%以上であることが好ましく、65重量%以上であることがより好ましい。溶媒の配合量の上限値は、特に限定はされないが、概ね95重量%以下であることが好ましい。水は、表面処理液中に20重量%以上であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、95重量%以下であることが好ましく、90量%以下であることがより好ましい。
【0077】
2.色材定着成分
色材定着性成分としては、例えば、水性インクの成分と凝集反応等の反応を起こしたり、処理液が形成する微細な空隙に水性インクの成分を捕獲したりすることで、インクの色材を多孔質材の表面に密集させることのできる成分を用いることができる。
具体的には、カチオン性の水分散性樹脂、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満の無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましい。この色材定着成分として機能するカチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩は、それぞれを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることも好ましい。
ここで、「色材定着成分」は、インク中の色材を多孔質材表面に定着させる作用を有する成分である。
【0078】
例えば、多孔質材が金属製の吸音材の場合、数百ミクロンから千ミクロンオーダーの多孔が形成されているため、そのまま印刷を行うと、インクが多孔質材内部に浸透してしまい、十分な発色を得ることが困難である。これに対し、上記表面処理液で予め表面処理することで、多孔質材に付着した色材定着成分が多孔質内部へのインクの浸透を抑制することができるので、インクジェットインクのような低粘度のインクであっても、吸音材表面に高発色の画像を形成することができる。
【0079】
本明細書において、「表面処理」とは、塗布等の任意の手段により、表面処理液を多孔質材に付着させる意味であり、表面処理液を付着させることを「適用」とも記す。また、その付着箇所は、多孔質材の表面のみではなく、孔の内部(内面)を含んでいてもよい。
この表面処理液は、特には、水性インクジェットインクによる印刷画像を形成する前の前処理液として用いることが好ましい。
印刷前に本実施形態の表面処理液を予め用いることにより、インクジェットインクを用いた、オンデマンド印刷による加飾が可能となり、ユーザーのニーズに対応した自在な表現ができ、多孔質材に対し、高発色・高耐水擦過性の画像を付与することができる。
【0080】
[カチオン性の水分散性樹脂]
インクは一般に、表面電荷がアニオン性の成分を含み、顔料等の色材も一般的にアニオン性である。したがって、カチオン性の成分を含む表面処理液を用いて、予め多孔質材表面にカチオン性の成分を付着させておくことにより、インクとの間にアニオン−カチオン反応が生じ、色材などのインク成分の多孔質材への浸透を十分に抑制し、色材を多孔質材表面に留めることができる。
【0081】
カチオン性の成分は、好ましくは、水分散性樹脂であり、水分散性樹脂粒子である。本発明者らの検討によると、表面処理液の成分として樹脂粒子を用いることにより、画像の耐水擦過性を一層高めることができる。
【0082】
カチオン性の水分散性樹脂は、樹脂粒子の表面がプラスに帯電した、正電荷を帯びた樹脂粒子であり、水に溶解することなく粒子状に分散して、水中油(O/W)型のエマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するカチオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にカチオン性の分散剤を付着させる等の表面処理されたものでもよい。カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等であり、カチオン性の分散剤は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等である。
樹脂粒子の表面電荷量は、粒子電荷計で評価することができる。試料を中和するのに必要なアニオン量またはカチオン量を測定することで、表面電荷量を算出することができる。具体的には、表面電荷量が+300μeq/g以上であることが好ましい。粒子電荷計としては、日本ルフト株式会社製コロイド粒子電荷量計Model CAS等を用いることができる。
【0083】
水分散性樹脂としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。また、処理液の製造に際しては、水中油型の樹脂エマルションとして配合することができる。
代表的には、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、及びそれらの樹脂エマルション等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂とメタクリル樹脂の双方を示す。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いても良い。後述するが、これらの樹脂が複合された樹脂エマルションでも良い。
上記のとおり、これらの樹脂にカチオン性の官能基を導入するか、又は、カチオン性分散剤等で表面処理して、プラスの表面電荷を与えることができる。
【0084】
樹脂粒子の粒径は、特に限定されず、複数種の異なる粒径の粒子を任意に組み合わせて用いることができる。
一実施形態において、多孔質材の表面に留まりやすく、加熱乾燥等により多孔質材表面に定着しやすいとの観点から、動的光散乱法により測定されるメジアン径(平均粒径)が1μm以上のサイズを持つ粒子を含むことが好ましい。また、樹脂粒子の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、これにより多孔質材の多孔を完全に塞ぐことなく、多孔質材本来の機能の低下を抑制し、機能性多孔質材としての機能を十分に発揮させることができる。
【0085】
さらに好ましい一実施形態においては、水分散性樹脂は、動的光散乱法により測定されるメジアン径(平均粒径)が1μm以上10μm以下の大粒子と、動的光散乱法により測定されるメジアン径(平均粒径)が1μm未満の小粒子とを含む。
すなわち、好ましい一実施形態において表面処理液は、水、及びカチオン性の水分散性樹脂を含み、該カチオン性の水分散性樹脂は、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm以上10μm以下の大粒子と、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満の小粒子とを含む。
本実施形態では、特定の粒径を有する2種類のカチオン性水分散性樹脂を含む表面処理液を用いる。この樹脂粒子が、多孔質材の機能を妨げることなく多孔質材表面へのインクの定着性を高め、かつ、耐水擦過性も高めることができる。その結果、高発色で滲みがなく、高い耐久性を有する画像を、多孔質材表面に対し広範囲にわたり形成することが可能となる。
【0086】
より詳細には、粒子径が大きな樹脂粒子と粒子径が小さな樹脂粒子を処理液に用いることで、多孔質材の機能を発現するために必要な空隙を完全に埋めることがなく、処理後の多孔質材に適度な空隙を形成することができる。この樹脂粒子からなる表面処理層にインクが定着することにより、印刷後もインクが多孔質材の空隙を完全に埋めることがなく、その結果、機能を良好に維持しつつ、耐水擦過性も高いインク層を形成することができると考えられる。
【0087】
樹脂粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の粒径値(メジアン径)である。動的光散乱式粒子径分布測定装置としては、ナノ粒子解析装置nano Partica SZ−100(株式会社堀場製作所)等を用い、水分散性樹脂の濃度が0.5重量%となるように水で希釈し、25℃で測定することができる。
【0088】
表面処理液中又は後述するインク中において、樹脂粒子は、独立した微粒子の状態で存在する場合と、独立した微粒子が集合した凝集体の状態で存在する場合とが考えられるが、動的光散乱法で測定されるメジアン径を「平均粒径」と位置づけることとする。
なお、上記樹脂粒子の平均粒径は、表面処理液又はインクを調製する前の原料エマルション状態で測定することが、インクの場合であれば色材(顔料粒子)の影響を排除できることから好ましく、その測定値を本実施形態の平均粒径とすることができる。
【0089】
大粒子の平均粒径は、1μm以上、2μm以上であることがこの順に好ましく、10μm以下、7μm以下、5μm以下であることがこの順に好ましい。
小粒子の平均粒径は、1μm未満、500nm以下、250nm以下であることがこの順に好ましい。平均粒径の下限値は、特に限定はされないが、表面処理液の保存安定性の観点からは、5nm以上程度であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
さらに、大粒子と小粒子は、両者を混合して平均粒径を測定した場合に、その粒度分布において二つのピークが存在する、すなわち各々が異なるピーク値を有するものであることが好ましい。
【0090】
また、大粒子と小粒子は、平均粒径値の相違に加え、その他の相違点を有していてもよい。例えば、大粒子は、最低造膜温度(MFT)が70℃以上であることが好ましく、一方、小粒子は、MFTが70℃未満以下であることが好ましい。このMFTとは、エマルションがフィルム化(成膜)するために必要な温度であり、JIS K6828−2に従って測定することができる。ここで、70℃においても成膜しない水分散性樹脂は、MFTが70℃以上の水分散性樹脂に含まれるものとする。
より好ましくは、大粒子のMFTは100℃以上であり、小粒子のMFTは50℃以下であり、特に、小粒子は室温で成膜することが好ましいため、40℃以下であることが一層好ましい。
また、大粒子のMFTと小粒子のMFTの差は、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
【0091】
大粒子と小粒子の樹脂の分子構造は、同一であってもよいが、互いに異なるものを用いてもよい。
大粒子として、例えば、カルボキシ基、スルホ基等に代表されるアニオン性の官能基を有するポリマーと、アミノ基又はアミド基等に代表されるカチオン性の官能基を有するポリマーとが複合して得られるポリマーコンプレックスであって、コア部がアニオン性ポリマー、シェル部がカチオン性ポリマーである、コアシェル構造の複合有機粒子を用いることも好ましい。
【0092】
複合有機粒子のアニオン性ポリマーとしては、例えば繰り返し単位として(メタ)アクリル酸を含むポリマー、より具体的にはスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が挙げられる。スチレン、(メタ)アクリル酸以外の、これらと共重合可能なビニル化合物を含んでいてもよい。
複合有機粒子のカチオン性ポリマー(塩基性ポリマー)としては、例えば、含窒素モノマーを含むポリマーであり、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルイミダゾール等の窒素複素環化合物を繰り返し単位として含むホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。コポリマーを形成するコモノマーとしては、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリルアミド等の一般的なビニル化合物を、1種または2種以上選択して使用できる。
【0093】
この場合のアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの使用割合は、粒子表面の電荷をカチオン性とするために、重量比で、アニオン性ポリマー1に対し、カチオン性ポリマーが3〜10であることが好ましい。
このような複合有機粒子の市販品として、「PP−15」、「PP−17」(共に明成化学工業株式会社)を好ましく用いることができる。
【0094】
表面処理液中における水分散性樹脂の量(大粒子と小粒子を用いる場合には両者の合計固形分量)は、処理した際の多孔質材表面におけるインク定着性の観点から2重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが一層好ましい。一方、処理液の粘度が高すぎる場合、均一な処理が困難になるため、樹脂量は50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
また大粒子と小粒子を用いる場合の両者の比率は、小粒子が大粒子に対して少なすぎると定着性が不十分であり、多すぎると処理層が皮膜化し多孔質材の本来の機能を妨げる恐れがあるため、重量比で大粒子1に対し小粒子が0.1〜1.5程度であることが好ましい。
【0095】
[無機粒子]
表面処理液は、色材定着成分として、無機粒子を含むことができる。無機粒子は、インクの受容層となり、色材を定着させることができる。その際、多孔質材が本来有する空隙を無機粒子が埋めることになるが、無機粒子で形成される受容層自体も多孔質層となるため、多孔質材の機能を良好に維持することができる。
【0096】
無機粒子は、多孔質材に対する定着性の観点から、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満であることが好ましく、表面処理液は、平均粒径が1μm未満の無機粒子を含むことが好ましい。表面処理液は、さらに粒径の大きな無機粒子を一部に含んでいてもよい。
無機粒子の種類は、特に限定されないが、シリカ、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等を好ましく使用することができ、これらの複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0097】
好ましい一実施形態において、無機粒子は、表面がプラスに帯電した、正電荷を帯びたカチオン性の無機粒子である。無機粒子の表面電荷は、上述の樹脂粒子の表面電荷と同様に測定することができる。
【0098】
表面処理液中における無機粒子の含有量は、処理した際の多孔質材表面におけるインク定着性の観点から1重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが一層好ましい。一方、処理液の粘度が高すぎる場合、均一な処理が困難になるため、無機粒子量は40重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
【0099】
[多価金属塩]
表面処理液は、色材定着成分として、多価金属塩を含むことができる。インク中の色材は、多価金属塩の存在により、その分散状態が破壊されて、凝集状態に成りやすい傾向がある。そのため、多価金属塩が多孔質材に付着していることにより、多価金属塩と接触した色材が凝集して、多孔質材の表面に留まり易くなると考える。
【0100】
多価金属塩としては、例えば、Mg、Ca、Al、Zn、Ba等の2価以上の金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩、乳酸塩等が挙げられ、これらの2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0101】
表面処理液中における多価金属塩の含有量は、処理した際の多孔質材表面におけるインク定着性の観点から0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上、2重量%以上、2.5重量%以上、3重量%以上であることが、この順に一層好ましい。一方、処理液の安定性や画像の均一性の観点から、多価金属塩量は30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下であることが、この順に一層好ましい。
【0102】
色材定着成分として、複数種を用いる場合、水溶性樹脂粒子、無機粒子、及び多価金属塩の個々の含有量は、上述した好ましい量よりも少ない量としてもよい。
【0103】
3.不揮発性液体
表面処理液は、好ましい一実施形態において、上記インクについて説明したと同様の、一種以上の不揮発性液体を含んでいてもよい。この場合も、不揮発性液体は、表面処理液の揮発分が乾燥により除去された際に、表面処理液の粘度を大きく上昇させるものであると、処理液中の色材定着成分の分散状態を崩して、多孔質材表面に処理液中の色材定着成分を留まり易くするために好ましい。
【0104】
不揮発性液体の含有量は、処理液中に60重量%以下であることが好ましい。
したがって、好ましい一実施形態において表面処理液は、水、及び色材定着成分を含み、さらに表面処理液全量に対し60重量%以下の不揮発性液体を含む。
【0105】
4.水溶性有機溶剤
表面処理液は、好ましい一実施形態において、上記インクについて説明したと同様の、一種以上の水溶性有機溶剤を含んでいてもよく、さらに好ましくは、表面張力が30mN/m以上の一種以上の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。表面張力が30mN/m以上の水溶性有機溶剤を用いることにより、表面処理液中の色材定着成分を多孔質材表面に留まりやすくすることができる。ここで表面張力は、20℃における値を表す。
【0106】
表面処理液が不揮発性液体を含む場合であって、該不揮発性液体が水溶性有機溶剤である場合には、この30mN/m以上の表面張力を有する水溶性有機溶剤は、上記インクについて説明したのと同様に、不揮発性液体であってもよい。すなわち、好ましい一実施形態において表面処理液は、30mN/m以上の表面張力を有する不揮発性液体を含み、別の好ましい一実施形態において表面処理液は、30mN/m未満の表面張力を有する不揮発性液体と、30mN/m以上の表面張力を有する、不揮発性液体ではない水溶性有機溶剤の双方を含み、さらに別の好ましい一実施形態において表面処理液は、30mN/m以上の表面張力を有する不揮発性液体と、30mN/m以上の表面張力を有する、不揮発性液体ではない水溶性有機溶剤とを含む。
【0107】
5.界面活性剤
表面処理液は、その表面張力を低下させて多孔質材表面に均一に塗布できるようにする(多孔質材に対する親和性を高める)ために、また、粒径の小さい水分散性樹脂粒子(小粒子)又は無機粒子の凝集を抑制して液の保存安定性を高めるために、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。
界面活性剤の詳細についても、上記インクに配合される界面活性剤と同様である。
【0108】
界面活性剤を使用する場合の表面処理液中の含有量は、0.1重量%以上程度であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることが一層好ましい、一方、界面活性剤量は、5重量%以下程度であることが好ましく、4重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが一層好ましい。
【0109】
6.その他の成分
処理液には、処理液の機能を阻害しない限り、上記の成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
色材定着成分が無機粒子又は多価金属塩の場合、処理液の基剤への定着性を高めるために、バインダー樹脂が含まれていることが好ましい。
【0110】
バインダー樹脂は、特に限定されないが、水溶性樹脂として先に例示したエチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、シリコーン樹脂、及びそれらの樹脂エマルション等を好ましく用いることができる。これらの樹脂は単独で含まれても良いし、複数が含まれても良い。また、これらの樹脂を架橋させる架橋成分が含まれても良い。架橋成分としては、例えばブロックイソシアネート、オキサゾリン基含有化合物、(ポリ)カルボジイミド、アジリジン等が挙げられるがその限りではない。なお、処理液が、色材定着成分としてカチオン性水溶性樹脂を含む場合は、このカチオン性水溶性樹脂がバインダー樹脂としての機能も併せ持つことができる。
【0111】
処理液は、水、及び色材定着成分を、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
【0112】
<表面処理液の使用>
表面処理液は、機能性多孔質材への水性インクを用いた加飾に先立ち用いられることが好ましい。すなわち、一実施形態において表面処理液の使用は、機能性多孔質材の表面に印刷画像を形成する前処理としての、不揮発性液体量が55g/m
2以下である表面処理物品を製造するための使用である。
【0113】
<表面処理物品の製造方法>
表面処理された多孔質材(表面処理物品)の製造は、多孔質材の表面に、上述した含む表面処理液を適用することにより行われることが好ましい。すなわち、表面処理物品の製造方法は、水、色材定着成分、及び、表面処理液全量に対し60質量%以下の不揮発性液体を含む表面処理液により表面処理層を形成する工程を含むものであることが好ましい。
そして、この処理液を付着させて乾燥させてから、水性インクを用いた印刷を行うことが好ましい。なお、多孔質材には、この処理液による表面処理前に、任意の別の処理が行われていてもよい。
【0114】
好ましい一実施形態において、表面処理された多孔質材の製造方法は、多孔質材の表面に、水、及びカチオン性の水分散性樹脂を含む表面処理液を適用する工程を備え、前記カチオン性の水分散性樹脂は、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm以上10μm以下の大粒子と、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満の小粒子とを含むものである。
【0115】
表面処理液が、カチオン性の水分散性樹脂として大粒子と小粒子を含む場合、表面処理液の適用を、2段階に分けて行うこともできる。すなわち、例えば、大粒子又は小粒子のどちらか一方を含む表面処理液と、残りの一方を含む表面処理液を準備し、両者をそれぞれ、多孔質材に塗布することもできる。大粒子と小粒子を分けて適用する場合、小粒子の塗布が先であると、多孔質材内部への浸透が進み、インクに対するバインダーとしての効果が薄れる可能性があるため、大粒子を先に塗布するほうが好ましい。
【0116】
処理液の多孔質材表面への付着は、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター、スプレーを使用して多孔質材表面に一様に塗布することによって行ってもよいし、又は、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。すなわち、表面処理液は、多孔質材表面の全面に塗布されてもよいし、必要な箇所にのみ、例えば上記インクを用いたインクジェット印刷が行われる箇所にのみ塗布されてもよい。
【0117】
処理液の塗工量(付着量)は、多孔質材の種類・材質等によっても異なるため一律に規定することはできないが、本実施形態においては、次のようにして、物品中の不揮発性液体量が適切な範囲となるように塗布することが好ましい。
すなわち、表面処理物品中の不揮発性液体量は、表面処理液中の不揮発性液体濃度の調整、及び/又は、表面処理液の塗布量の調整により、適宜、ゼロ以上の好ましい量とすることができる。表面処理液の塗布量については、例えば、塗布範囲(面積)を選択する、重ね塗りを行う、スプレー塗装の際のスプレー圧を変更する、等により任意に変更可能である。
【0118】
<加飾物品の製造方法>
加飾された多孔質材(加飾物品)は、その表面に印刷画像を備える機能性多孔質材であり、水性インクを用いた印刷画像を形成することにより製造されることが好ましい。すなわち、加飾物品の製造方法は、水、水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂、色材、並びに、インク全量に対し60質量%以下の不揮発性液体を含む水性インクにより印刷画像を形成する工程を含むものであることが好ましい。
【0119】
加飾物品の不揮発性液体量を上述した好ましい範囲とするために、不揮発性液体を含む表面処理液を、上述のように用いてもよいし、不揮発性液体を含む水性インクを用いてもよい。あるいは、不揮発液液体を含む表面処理液と不揮発液液体を含む水性インクの双方を用いてもよく、その場合に表面処理液に含まれる不揮発性液体と、水性インクに含まれる不揮発性液体は、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0120】
不揮発性液体を含む表面処理液を用いる場合に、不揮発性液体を含まない水性インクを組み合わせてもよい。一方、不揮発性液体を含む水性インクを用いる場合、表面処理液を用いた表面処理は省いてもよく、あるいは、必要に応じて、多孔質材への印刷画像の定着性を高めるための、表面処理液を用いる以外の任意の表面処理を行ってもよい。
すなわち、一実施形態において、上記表面処理を行った後に、水性インクを用いた印刷を行うことが好ましいが、上記表面処理を行わなくてもよいし、あるいは、上記表面処理とは別の前処理を行った多孔質材を用いてもよい。
【0121】
不揮発性液体を含む水性インクを用いて加飾物品中の不揮発性液体量を調整する場合についても、表面処理液の場合と同様に、水性インク中の不揮発性液体濃度の調整、及び/又は、水性インクによる画像面積又は画像厚みの調整により、適宜、好ましい量にすることができる。
【0122】
好ましい一実施形態において、加飾物品の製造方法は、水、及びカチオン性の水分散性樹脂を含む表面処理液を適用する工程と、水、水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂、並びに色材を含む水性インクを用いたインクジェット印刷を行う工程を含む。カチオン性の水分散性樹脂は、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm以上10μm以下の大粒子と、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満の小粒子とを含むものであることが好ましい。
【0123】
多孔質材への水性インクを用いたインクジェット印刷は、一般的な記録ヘッドを用いて行うことができ、印刷方式や使用する装置等に特に制限はない。印刷(加飾)後は、乾燥させることにより、多孔質材の表面に、インクジェット印刷されたインクから水及びその他の揮発性成分が揮発して、樹脂と色材から主として構成される画像を備えてなる、機能性の加飾多孔質材が得られる。
画像の記録面積は、特に限定されず、任意の絵柄又は文字、あるいは絵柄と文字との組合せ等を、自由に選択することができる。
【0124】
なお、高品位の加飾画像を得るために、(i)インク滴を小さくする、(ii)印刷速度を遅くする、(iii)片方向印刷をする、(iv) 多孔質材を温めながら印刷する、(v)印刷解像度を低くする、又は、(vi)これらの方法を組み合わせて印刷するなどの印刷条件を用いることが有効である。
【0125】
特に、多孔質材を温めながら印刷する上記印刷条件は、多孔質材の性能に関わらず、少ないインク量で高発色の画像を得ることが必要な場合、凹凸が多い多孔質材、又はインクの吸水性能が異なる複数の多孔質材にまたがった絵柄を均一に印刷する場合の印刷条件としても有効である。多孔質材を温めながら印刷することで、インク中の水以外の成分である顔料等の存在位置を多孔質材の表面近くに形成させることが可能となるため、多孔質材の機能や形状への影響が小さくなり、安定した画像を得ることが可能となる。
【0126】
印刷終了後に多孔質材を加熱してもよく、インク中の水、及びその他の揮発性成分を完全に揮発させ、インク中の色材を水分散性樹脂によって多孔質材に定着させることができる。
多孔質材を温める方法は任意であり、加熱条件は、インクジェット印刷に用いるノズルが乾燥し吐出が不安定にならない温度であり、かつ、不揮発性液体を適切に多孔質材中に残しうる条件であれば特に限定されず、例えば50〜100℃の範囲で加熱できる。
【0127】
加飾を行うためのインクジェット印刷装置は、特に限定されないが、例えば、多孔質材を載置するための載置部と、多孔質材の表面に表面処理液を塗布するための表面処理液塗布部と、続いてインクを吐出してインクジェット印刷するように配置されたインクジェット記録ヘッドとを少なくとも備え、さらに好ましくは、多孔質材を加熱するための加熱部を任意に備えた加飾装置を用いることができる。
【0128】
より詳細には、加飾装置は、加飾しようとする画像の電子データ(各画素に対応する画素値を備えるもの)を提供するための入力部(例えば、スキャナ)、多孔質材の表面に水性インクを吐出して画像を記録する記録ヘッド部、多孔質材を載置した状態で記録ヘッド部の下面に形成された吐出ノズルと対向する位置に多孔質材を搬送する搬送部、及び、多孔質材が記録ヘッド部に至る前に、その表面に表面処理液を塗布する表面処理液塗布部を備えることができる。さらに、印刷中又は印刷前後の任意の段階で、多孔質材上の加飾領域を加熱する加熱部(セラミックヒーター等の各種ヒーター)を設け、吐出された処理液及び/又はインクの乾燥を促進できるようにすることが好ましい。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「重量%」である。表中の各成分の配合量も「重量%」で示す。
【0130】
<表面処理液の調製>
表1−1及び表1−2に記載の各成分を、同表に示す割合でプレミックスし、その後、ホモジナイザーで1分間分散して、処理液1〜14を得た。
【0131】
表1−1及び表1−2記載の原材料の詳細は、下記のとおりである。
グリセリン:和光純薬工業株式会社製(沸点290℃、表面張力63mN/m)
メチルポリグリコール:日本乳化剤株式会社製(沸点295℃、表面張力33.1mN/m)
トリエチレングリコールモノブチルエーテル:東京化成工業株式会社製(沸点278℃、表面張力28mN/m)
エチレングリコール:和光純薬工業株式会社製(沸点197.3℃、表面張力48mN/m)
イソプロパノール:和光純薬工業株式会社製(沸点82.6℃、表面張力21mN/m)
PP−15(商品名):明成化学工業株式会社製、カチオン性水分散性複合有機粒子(メジアン径1.8μm)
CaCl
2水溶液:塩化カルシウム50%水溶液
スノーテックスAK−L(商品名):日産化学工業株式会社製カチオン性コロイダルシリカ(メジアン径79nm)
ポリゾールAP−1370(商品名):昭和電工株式会社製、カチオン性水系アクリル樹脂エマルション(平均粒径206nm)
ポリゾールAE−803(商品名):昭和電工株式会社製、カチオン性水系アクリル樹脂エマルション(平均粒径419nm)
モビニール7720(商品名):日本合成化学工業株式会社製ノニオン性アクリル樹脂エマルション(メジアン径379nm)
オルフィンE1010(商品名):日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
シルフェイスSAG503A(商品名):日信化学工業株式会社製、シリコーン系界面活性剤
【0132】
樹脂の平均粒径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置「ナノ粒子解析装置nano P
artica SZ−100」(株式会社堀場製作所製)を用いて、各樹脂分散液を粒子濃度0.5重量%となるように精製水で希釈して、分散媒屈折率:1.333、試料屈折率:1.600、演算条件:多分散・ナローの設定で、温度25℃で測定した体積基準のメジアン径である。
【0133】
【表1-1】
【0134】
【表1-2】
【0135】
<水性インクの調製>
表2に記載の各成分を表2に示す割合で配合し、その後孔径3μmのメンブレンフィルターで濾過し、水性インクセット1〜4を調製した。
【0136】
表2記載の原材料の詳細は、下記のとおりである(表1に記載の原材料と同一のものを除く)。
BONJET BLACK CW−4(商品名):オリヱント化学工業株式会社製、水系自己分散カーボンブラック分散体
CAB−O−JET 250C(商品名):キャボット社製、水系自己分散シアン顔料分散体
CAB−O−JET 260M(商品名):キャボット社製、水系自己分散マゼンタ顔料分散体
CAB−O−JET 270Y(商品名):キャボット社製、水系自己分散イエロー顔料分散体
スーパーフレックス470(商品名):第一工業製薬株式会社製、水系ウレタン樹脂エマルション
アデカボンタイターHUX−370(商品名):株式会社ADEKA製、アニオン性水系ウレタン樹脂エマルション(平均粒径10nm)
サーフィノール465(商品名):日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
【0137】
【表2】
【0138】
<表面処理物品の製造>
各種多孔質材に対し、処理液1〜14を用いて表面処理を行った。処理は、スプレーガンで行い、処理後90℃のオーブンで10分間乾燥させて表面処理物品を得た。
【0139】
使用した多孔質材は、次のとおりである。
[吸音材]
NDCカルム(商品名):NDC販売株式会社製、アルミニウム焼結吸音板(主な機能:吸音、厚み:3.0mm)
アコースティック・ミュートボード(商品名):株式会社アコースティック・アドバンス製、ポリエステル繊維吸音板(主な機能:吸音、厚み:5.0mm)
カールトン(商品名):野原産業株式会社製、ガラス繊維吸音板(主な機能:吸音、厚み:0.7mm)
[吸水材]
ベルクリン(商品名):アイオン株式会社製、PVFM(主な機能:
吸水)
[断熱材]
パラボードEM(商品名):パラマウント硝子工業株式会社、グラスウール断熱材(主な機能:断熱)
【0140】
<表面処理物品中の不揮発性液体量の測定>
100mm×100mmにカットした表面処理物品を、底面が110mm×110mmのサイズの容器に入れ、物品全体が全て浸されるようにイオン交換水を容器に入れて物品を浸漬し、一晩放置した。放置後、処理物品を浸漬した液から引き揚げ、容器の上で30秒間固定し、物品に含まれる液体を自重で容器内に落とした後、物品を容器の上で固定したままイオン交換水20mlで洗い、洗った液体も容器中に加えた。容器中の液体を90℃で10時間加熱し、液体中の水を除去した。容器に残った液体の重量を測定し、処理物品中の不揮発性液体量とした。なお、除去できなかった水分については、カール・フィッシャー水分量計で液体中の水分量を測定し、水分以外の量を算出した。
【0141】
<加飾物品の製造>
上記インクセット1〜4を、市販の水性顔料インクジェットプリンタの各色に対応したインクヘッドに導入し、未処理の多孔質材、及び表面処理物品に対し、黒単色でのベタ画像、及び文字・細線の画像を印刷した。印刷終了後、90℃のオーブンで10分間加熱乾燥したものを、加飾物品とした。
【0142】
<加飾物品中の不揮発性液体量の測定>
得られた加飾物品を100mm×100mmにカットして、上記表面処理物品と同様にして、加飾物品中の不揮発性液体量を測定した。
【0143】
<加飾物品の評価>
以下の項目について、加飾物品の評価を行った。
1.発色性
得られた加飾物品の、加飾1日後のベタ画像のOD値を測定した。OD値は、光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用い測定した。
【0144】
2.細線性
得られた加飾物品の細線部分を、目視で観察した。細線画像は1mm間隔の線が並んだ画像であり、それらを写真用インクジェット光沢紙に印刷し、光沢紙上の画像と、加飾物品上の画像とを比較し、滲み、カスレ、及び線切れについて判定した。
【0145】
3.文字再現性
得られた加飾物品の文字印刷部分を、目視で観察した。文字画像は6pt〜16ptの各サイズの明朝体の漢字が並んだ画像であり、それらを写真用インクジェット光沢紙に印刷し、光沢紙上の画像と、加飾物品上の画像とを比較し、文字のカスレ及び滲みについて判定した。
【0146】
4.耐擦過性評価
クロックメーターを用いて、綿布で各加飾物品の加飾部を擦り、画像が変化した際の往復回数で評価した。
【0147】
5.吸音性評価
アルミニウム粉末焼結吸音板「NDCカルム」の吸音性は、JIS A1409に規定される残響室法吸音率測定法で評価した。背後空気層50mmを設け、各周波数に対する吸音率を測定した。
ポリエステル繊維吸音板「アコースティック・ミュートボード」の吸音性は、JIS A1409に規定される残響室法吸音率測定法で評価した。背後空気層100mmを設け、各周波数に対する吸音率を測定した。
ガラス繊維吸音板「カールトン」の吸音性は、JIS A1409に規定される残響室法吸音率測定法で評価した。吸音材の厚みが1mm未満のものに対しては、背後空気層の厚さを300mmとするタイプE−300の取付けで、各周波数に対する吸音率を測定した。
【0148】
6.吸水性評価
吸水材の表面に0.04gのイオン交換水を滴下し、水が吸水材に全量吸収され、吸水材表面から見えなくなるまでの時間を吸収時間として測定した。
【0149】
7.断熱性評価
保護熱板式伝導率試験装置を用い、JIS A 1420(1999)に従って、平均温度70℃で熱伝導率を測定した。
以上の各評価の判定基準を、表3にまとめて示す。
【0150】
【表3】
【0151】
実験例の結果を、まとめて表4−1〜表4−4に示す。印刷画像について、表4−1及び表4−2の実験例では、発色性と耐擦過性を評価し、表4−3及び表4−4の実験例では、細線、文字再現性及び耐摩擦性を評価した。
【0152】
【表4-1】
【0153】
【表4-2】
【0154】
【表4-3】
【0155】
【表4-4】
【0156】
上記表の実験例1〜32及び実験例45〜69は、特定量の不揮発性液体を含む加飾物品の実施例であり、これらの実験例では、多孔質材の機能を維持しつつ、画質に優れ、耐擦過性も良好な画像を形成することができた。また、実験例17、29及び55は、処理物品中の不揮発性液体量がゼロであるが、不揮発性液体を含むインクを用いた加飾を行うことで、発色性等が良好な加飾物品が得られることを示している。一方、実験例2、19、53及び59は、不揮発性液体を含まないインクを用いているが、処理物品中に不揮発性液体が含まれていることで、良好な加飾物品が得られることを示している。
【0157】
本願の開示は、2015年4月30日に出願された特願2015−093301号に記載の主題と関連しており、それらのすべての開示内容は引用によりここに援用される。
既に述べられたもの以外に、本発明の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。したがって、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。