【実施例】
【0032】
[第1の発明]
以下、本発明の各実施例について具体的に説明する。なお、第2実施例においては、第1実施例で説明する構成部材と同じ構成部材及び同様な機能を有する構成部材には、第1実施例と同じ符号を付すとともに説明を省略する。
【0033】
<実施例1>
図1は、本発明の実施例1に係る移動体用スピーカシステム1Aが設けられた車両Cを示す背面図であり、
図2は、車両Cにおける移動体用スピーカシステム1Aの配置を示す背面図であり、
図3は、移動体用スピーカシステム1Aを示す側面図であり、
図4は、移動体用スピーカシステム1Aの管部材4を示す斜視図である。
【0034】
移動体用スピーカシステム1Aは、
図1〜3に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット2と、スピーカユニット2を収容する収容部としてのエンクロージャ3と、エンクロージャ3に接続された管部材4と、を備える。
【0035】
車両Cは、図示しないウインドシールド(フロントガラス)の内面と、車両ボディの上面(天面)と、下面(底面)S1と、車両Cの進行方向(前後方向)における前面と、幅方向に対向する一対の側面S2、S3(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における後面S4と、によって囲まれた箱状の車内空間A1を形成している。また、本実施例では、車両Cはハッチバック型であるものとし、その後部には、上端が車両ボディに軸支された扉体としてのバックドアDRが設けられている。従って、後面S4はバックドアDRの内面によって形成されている。
【0036】
スピーカユニット2は、振動板と、振動板に支持されるボイスコイルと、振動板をフレームに連結するエッジと、ボイスコイルを駆動(振動)させる磁気回路と、ボイスコイルをフレームに連結するフレームと、振動板の固有振動を抑制するダンパと、を備える。スピーカユニット2は、中高音域(例えば1000〜10000Hz)の音圧が低音域(例えば10〜1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。また、振動板は、スピーカユニット2が音波を放射する側(前面側)を車両Cの前方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を車両Cの後方に向けるように設置されている。また、スピーカユニット2の振動板の振動方向(音放射方向)は、適宜な方向に向けられていればよく、例えば車両Cにおける後部座席SHのヘッドレストHに向けられていてもよいし、車両Cの上面に向けられていてもよい。
【0037】
エンクロージャ3は、箱状に形成されるとともにバックドアDR内に配置され、その前面に振動板が配置され、天面、底面、後面及び2つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット2を配置して、スピーカユニット2の背面がエンクロージャ3に収容される。また、車両Cの上下方向や前後方向、幅方向に対して振動板を傾斜させた状態でスピーカユニット2をバックドアDRに取り付けた場合には、エンクロージャ3は、振動板から放射された音波がエンクロージャ3の一部において反射することを抑止しつつ、この音波が車内空間A1に放射されるように、天面に傾斜面を有して設けられていても構わない。また、エンクロージャ3は、幅方向において、バックドアDRの中央部から一方の側面S2(前方を向いた際に左側)にずれた位置に設けられるとともに、上下方向において、バックドアDRの中央部に設けられている。即ち、エンクロージャ3は、ヘッドレストHの後方にスピーカユニット2の前面が位置するように配置されており、スピーカユニット2の前面から放射された音波が搭乗者の耳に向かいやすくなっている。また、スピーカユニット2の背面側で生じた音波は、エンクロージャ3の内部空間に向けて放射される。
【0038】
尚、エンクロージャ3は、スピーカユニット2の音圧の周波数特性等に応じて適宜な位置に設けられていればよい。例えば、スピーカユニット2において中高音域の音圧が高く、音波の指向性が高い場合には、エンクロージャ3はバックドアDR内における搭乗者の耳の近傍に設けられていてもよい。また、スピーカユニット2において低音域の音圧が高く、下面S1側で音波が反響しやすい場合には、エンクロージャ3がバックドアDRの下方部分に設けられていてもよい。このとき、スピーカユニット2の前面から放射された音波が後部座席SHの背もたれを通過して前方側に向かう構成としてもよい。
【0039】
管部材4は、公知の金属や樹脂等を用いて両端が開口した筒状に形成され、エンクロージャ3の下面に一端4Aが連結されるとともに、後方側且つ下方側に向かって延びている。管部材4の断面形状及び断面積は一端4A側から他端4B側にかけて略一定であるものとするが、その断面形状が適宜に変化する構成としてもよく、例えば、一端から他端にかけて細くなったり太くなったり、或いは、一端と他端とが形成されるとともに中間部分が細く形成される構成等が挙げられる。管部材4は、エンクロージャ3の下面に一端4Aが連結されていることで、一端4Aにおいてエンクロージャ3の内部空間につながっている。また、他端4Bは、
図2、3にも示すように、下面S1と他方の側面S3(前方を向いた際に右側に位置する側面)と後面S4が交わる角部C1を向いて開口している。
【0040】
管部材4は、一端4AからバックドアDRの内側において角部C1に向かって(即ち、下方側且つ側面S3側に向かって)延び、他端4Bの近傍において後面S4(バックドアDRの内面)から前方に突出し、後面S4から一旦離れるように延びた後、後面S4に再び近づくように延びている。即ち、管部材4を幅方向から見ると、前方側に向かって凸に湾曲した形状となっている。
【0041】
以上のような移動体用スピーカシステム1Aにおいてスピーカユニット2が音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。スピーカユニット2の背面側で生じた音波は、エンクロージャ3の内部空間で反響するとともに、一端4Aから管部材4内に入り、管部材4内を進行する。このとき、スピーカユニット2の背面側で生じた音波のうち、管部材4の長さに応じた低音域の成分が管部材4内で共鳴する。従って、管部材4の他端4Bからは、低音域の成分を主とする音波が放射される。即ち、開管部材4の他端4Bから放射される音波は、中高音域の成分がカットされる。カットされるとは、具体的には中高音域の成分の音圧が、低域の成分の音圧よりも低くなることをいう。他端4Bから放射された音波は、角部C1及びその周囲の面S1、S3、S4によって反射されて反響する。
【0042】
以上のように音波が放射されることで、車内空間A1には、スピーカユニット2の前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、管部材4の他端4Bから放射された低音域の成分を主とする音波と、が反響する。
【0043】
上記の構成により、スピーカユニット2及びエンクロージャ3がバックドアDR内に配置されていることで、車両Cにおける空きスペースを有効に利用し、移動体用スピーカシステム1Aを車両Cに容易に搭載することができる。
【0044】
また、エンクロージャ3及び管部材4はその内側に空間を有しており、車両Cに対して後方から衝撃が加えられた際(例えば他の車両や構造部との衝突時)に、エンクロージャ3及び管部材4が圧縮されることによって衝撃を吸収することができ、バックドアDRのクッション性を向上させることができる。
【0045】
さらに、管部材4の他端4Bが、車内空間A1を囲む複数の面のうち3つが交わる角部C1を向いて開口していることで、他端4Bから放射された低音が3つの面で反射されて車内空間A1で反響しやすく、移動体用スピーカシステム1Aにおける低音域の音響特性を向上させることができる。
【0046】
また、スピーカユニット2が、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するものである場合には、スピーカユニット2のボイスコイル又は振動板の振幅を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット2を用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができる。さらに、スピーカユニット2の前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット2の前面から放射された音波と管部材4の他端4Bから放射された音波とが弱め合いにくい。
【0047】
移動体用スピーカシステム1Aにおいて、スピーカユニット2の前面から主に中高音域の音波が放射され、管部材4の他端4Bから主に低音域の音波が放射される。中高音域と低音域とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域が放射される位置と、低音域の音波が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0048】
<実施例2>
図5は、本発明の実施例2に係る移動体用スピーカシステム1Bが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図6は、移動体用スピーカシステム1Bの管部材4の要部を示す正面図及び背面図である。
【0049】
移動体用スピーカシステム1Bは、
図5に示すように、スピーカユニット2と、エンクロージャ3と、管部材4と、を備える。本実施形態における車両Cは、前後方向に並んだ扉体としての前方ドアD1及び後方ドアD2と、を備えたものであって、前方ドアD1及び後方ドアD2はヒンジ式の開閉構造を有するものとする。即ち、前方ドアD1及び後方ドアD2の内面が、車内空間を囲む側面を形成する。さらに、車両Cの車両ボディは、前方ドアD1と後方ドアD2との間において上下方向に延びるとともに後方ドアD2を軸支する柱部Pを有する。尚、車両ボディは、パネル及びフレーム(中空体)を含むものであって、例えばモノコックボディが挙げられる。柱部Pは、後方ドアD2の周縁のうち前方側部分を構成しており、後方ドアD2に対向する車両Cの一部分である。尚、1つの移動体用スピーカシステム1Bが幅方向の一方側にのみ設けられていてもよいし、2つの移動体用スピーカシステム1Bが幅方向の両側に設けられていてもよい。
【0050】
エンクロージャ3は、後方ドアD2内に配置されるとともに、スピーカユニット2の前面が車内空間を向くように設けられている。尚、エンクロージャ3は、上下方向及び前後方向において、後方ドアD2の適宜な位置に設けられていればよい。
【0051】
管部材4は、後方ドアD2内に配置される第1管部としての第1扉体管部41と、柱部P内に配置される第2管部としての周縁管部42と、前方ドアD1内に配置される第3管部としての第2扉体管部43と、を有し、一端4Aから他端4Bにかけて前方側に向かって延びている。尚、第1扉体管部41、周縁管部42及び第2扉体管部43は、後方ドアD2、柱部P及び前方ドアD1において適宜な位置に設けられていればよい。
【0052】
第1扉体管部41は、
図6(A)に示すように、後方ドアD2の前端面D0において開口した第1扉側開口部41Aを有する。また、周縁管部42は、
図6(B)に示すように、柱部Pの後端面P0(即ち、後方ドアD2の前端面D0に対向する面)において開口した周縁側開口部42Aを有する。第1扉側開口部41Aと周縁側開口部42Aとは、略同一形状及び略同一寸法を有するとともに、後方ドアD2が閉じられた状態において、上下方向及び幅方向において略同一位置に配置され、互いに対向する位置にある。従って、後方ドアD2を閉じた際に、第1扉側開口部41Aと周縁側開口部42Aとが重なることにより、第1扉体管部41と周縁管部42とがつながる。尚、第1扉側開口部41Aと周縁側開口部42Aとのうち一方が他方よりも大きく形成されていてもよい。
【0053】
また、周縁管部42は、柱部Pの前端面に周縁側開口部42と同様の開口部を有し、第2扉体管部43は、前方ドアD1の後端面に第1扉側開口部41Aと同様の開口部を有する。従って、前方ドアD1を閉じた際にこれらの開口部同士が重なることにより、周縁管部42と第2扉体管部43とがつながる。以上のように、前方ドアD1及び後方ドアD2を閉じた際に、第1扉体管部41と周縁管部42と第2扉体管部43とがつながり、管部材4が1本の連続した管状となる。
【0054】
第2扉体管部43は、他端4B側において、前方ドアD1の内面から車内空間側に突出し、車内空間を囲む前面と下面と側面とが交わる角部に向かって延び、この角部を向いて開口している。
【0055】
上記の構成により、スピーカユニット2及びエンクロージャ3が後方ドアD2内に配置されていることで、車両Cにおける空きスペースを有効に利用し、移動体用スピーカシステム1Bを車両Cに容易に搭載することができる。
【0056】
さらに、エンクロージャ3及び管部材4の一部が側方の後方ドアD2に設けられていることで、後方ドアD2のクッション性を向上させることができる。また、管部材4の一部が前方ドアD1に設けられていることで、前方ドアD1のクッション性を向上させることができる。
【0057】
また、後方ドアD2の前端面D0に形成された第1扉側開口部41Aと柱部Pの後端面P0に形成された周縁側開口部42Aとが重なって第1扉体管部41と周縁管部42とがつながり、同様に周縁管部42と第2扉体管部43とがつながることで、管部材4を後方ドアD2と柱部Pと前方ドアD1とに亘って設けることができる。従って、管部材4を長く形成することができるとともに、管部材4を各部材の内側で適宜配置し、低音が反響しやすい角部に他端4Bを配置することができる。
【0058】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0059】
例えば、前記実施例1では、1つの移動体用スピーカシステム1AがバックドアDRに設けられ、エンクロージャ3が幅方向の中央部からずれた位置に配置されるものとしたが、2つの移動体用スピーカシステムがバックドアDRに設けられ、幅方向において対称性を有していてもよい。また、1つの移動体用スピーカシステムがバックドアDRに設けられ、エンクロージャが中央部に配置される構成としてもよい。
【0060】
また、前記実施例2では、移動体用スピーカシステム1Bが後方ドアD2に設けられるものとしたが、移動体用スピーカシステムは、前方ドアD1に設けられていてもよい。また、前方ドアD1及び後方ドアD2のそれぞれに1つずつ移動体用スピーカシステムが設けられていてもよい。
【0061】
また、前記実施例2では、前方ドアD1、柱部P及び後方ドアD2のそれぞれの端面に開口部が形成されることにより、管部材4が前方ドアD1、柱部P及び後方ドアD2に亘って設けられるものとしたが、管部材4は、このような構成に限定されない。
【0062】
例えば、第1の変形例として
図7に示すように、スピーカユニット2及びエンクロージャ3が前方ドアD1内に配置され、管部材4が前方ドアD1及び車両CのインストルメントパネルIに亘って設けられる移動体用スピーカシステム1Cとしてもよい。即ち、インストルメントパネルIは、車両Cの幅方向において前方ドアD1の内側の側面(車両Cの幅方向内側の面)に対向する車両Cの一部分であって、管部材4は、前方ドアD1内に配置される第1管部としての第1扉体管部41と、インストルメントパネルI内に配置される第2管部としてのインストルメントパネル管部44と、を有する。第1扉体管部41は、前方ドアD1の内側の側面に設けられた第1扉側開口部41Aを有し、インストルメントパネル管部44は、インストルメントパネルIの外側の側面(車両Cの幅方向内側の面)に設けられたインストルメントパネル開口部44Aを有する。また、インストルメントパネル管部44は、管部材4の他端4B側において、インストルメントパネルIの外側に突出し、車両Cの下面S1と側面S3と前面S5とが交わる角部C2を向いて開口している。
【0063】
また、第2の変形例として
図8に示すように、スピーカユニット2及びエンクロージャ3が後方ドアD2内に配置され、管部材4が後方ドアD2及び車両CのサイドシルSSに亘って設けられる移動体用スピーカシステム1Dとしてもよい。サイドシルSSは、車両Cの上下方向において後方ドアD2の下端面(車両Cの上下方向における下方側の面)に対向する車両Cの一部分であって、車両ボディを構成するフレーム部SS1と、フレーム部SS1を覆うカバーである内装部材SS2と、を有し、フレーム部SS1と内装部材SS2との間には、車両Cの進行方向(前後方向)に沿って延びる空間SS3が形成されている。管部材4は、後方ドアD2内に配置される第1管部としての第1扉体管部41と、サイドシルSSの空間SS3を利用した第2管部としてのサイドシル管部45と、を有する。第1扉体管部41は、後方ドアD2の下端面に設けられた第1扉側開口部41Aを有し、サイドシル管部45は、内装部材SS2の上面において開口したサイドシル開口部45Aを有する。また、サイドシル管部45は、管部材4の他端側において、車両C内の適宜な位置(例えば車両Cの前方側又は後方側の角部に向いて開口する位置)に設けられている。
【0064】
上記のような第1及び第2の変形例によれば、車両Cにおける空きスペースを有効に利用し、移動体用スピーカシステム1C、1Dを車両Cに容易に搭載することができる。また、低音が反響しやすい位置(即ち、管部材の他端を配置することが好ましい位置)が後方ドアの近傍に位置する場合には、管部材は後方ドアにのみ設けられ、2以上の部材に跨って延びていなくてもよい。
【0065】
また、スピーカユニットが放射する音波の周波数依存性は、適宜に設定されていればよい。スピーカユニットが前面側から放射する低音域の音圧が高い場合でも、管部材で共鳴して他端から放射される低音の音圧が充分に高ければ、前面側からの音波と他端からの音波とが弱め合ってしまっても低音の音圧を確保することができる。即ち、管部材における共鳴によって低音の音圧が充分に向上する場合には、低音域から中高音域まで同程度の音圧となるように音波を放射するスピーカユニットや、低音域の音圧が中高音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するスピーカユニットを用いてもよいし、中高音域用のスピーカユニット(ツイータ)を用いてもよい。また、スピーカユニットの形状は特に限定されず、コーン型であってもよいしドーム型であってもよい。
【0066】
また、前記実施例1では、管部材4の他端4Bが、下面S1と側面S3と後面S4とが交わる角部C1を向いて開口し、実施例2では、下面と前面と側面とが交わる角部を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A1を囲む複数の面(ウインドシールドの内面、上面、下面S1、前面、側面S2、S3、後面S4)のうち任意の3つが交わる角部(
図4に示すC3、C4)を向いて開口していてもよい。また、管部材の他端は、これらの複数の面のうち2つが交わる交差部(
図4に示すR1〜R8)を向いて開口していてもよいし、1つの面に対向するように開口していてもよい。
【0067】
尚、角部C3は、車両Cの後面S4と上面S5と側面S2又は側面S3とが交わる角部であって、角部C4は、車両Cの前面S6と上面S5と側面S2又は側面S3とが交わる角部である。また、交差部R1は、車両Cの後面S4と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R2は、車両Cの下面S2と側面S2又は側面S3とが交わる交差部であって、交差部R3は、車両Cの後面S4と側面S2又は側面S3とが交わる交差部であって、交差部R4は、車両Cの前面S6と下面S1とが交わる交差部であって、交差部R5は、車両Cの前面S6と側面S2又は側面S3とが交わる交差部であって、交差部R6は、車両Cの前面S6と上面S5とが交わる交差部であって、交差部R7は、車両Cの上面S5と側面S2又は側面S3とが交わる交差部であって、交差部R8は、車両Cの後面S4と上面S5とが交わる交差部である。
【0068】
移動体の一部分としては、前述した移動体としての車両Cの車両ボディや内装部材、インストルメントパネルI、空調ダクト等の車内構成部材、これらの組み合わせ等が挙げられる。よって、前述したフレーム部SS1と内装部材SS2で形成されるサイドシルSSや、インストルメントパネルIも移動体の一部分である。
【0069】
[第2の発明]
以下、本発明の各実施例について具体的に説明する。
図9は、本発明の実施例3に係る移動体用スピーカシステム1が設けられた車両Cを示す側面図であり、
図10は、移動体用スピーカシステム1が設けられた車両Cを示す平面図であり、
図11は、移動体用スピーカシステム1の管部材4の要部を示す正面図であり、
図12は、管部材4を示す斜視図であり、
図13は、移動体用スピーカシステム1における後方側のスピーカ装置10C、10Dを示す背面図であり、
図14は、本発明の変形例に係る移動体用スピーカシステムにおける音圧特性を示すグラフであり、
図15は、実施例3の移動体用スピーカシステム1における音圧特性を示すグラフである。
【0070】
移動体用スピーカシステム1001は、
図9、10に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、4つのスピーカ装置1010A〜1010Dを備える。
【0071】
車両Cは、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両ボディの上面(天面)S1と、下面(底面)S2と、車両Cの進行方向(前後方向)における前面S3と、幅方向に対向する一対の側面S4(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における後面S5と、によって囲まれた箱状の車内空間A1を形成している。また、前面S3にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように前方座席としての運転席SH1及び助手席SH2が設けられている。また、運転席SH1及び助手席SH2の後方側に三人掛けのベンチ状の後方座席SH3が設けられている。運転席SH1及び助手席SH2に搭乗者が着座した際の頭部の位置をそれぞれ頭部位置H1及びH2とし、後方座席SH3の各着座位置に搭乗者が着座した際の頭部の位置を、運転席SH1側から順に頭部位置H3〜H5とする。
【0072】
スピーカ装置1010Aは、車内空間A1において、前後方向の前方側且つ幅方向の運転席SH1側(図示例では、前方側を向いた際に右側)の隅部CR1に設けられている。スピーカ装置1010Bは、車内空間A1において、前方側且つ幅方向の助手席SH2側(図示例では、前方側を向いた際に左側)の隅部CR2に設けられている。スピーカ装置1010Cは、車内空間A1において、前後方向の後方側且つ運転席SH1側の隅部CR3に設けられている。スピーカ装置1010Dは、車内空間A1において、後方側且つ助手席SH2側の隅部CR4に設けられている。即ち、4つのスピーカ装置1010A〜1010Dは、互いに異なる隅部CR1〜CR4に配置されている。4つのスピーカ装置1010A〜1010Dを車内空間A1内に配置することで、車両Cの前後方向及び幅方向に定在波を発生させ、車内空間A1における音響特性を向上させることができる。また、運転席SH1、助手席SH2、後方座席SH3に着座する搭乗者に向けてスピーカ装置1010A〜1010Dから音波が放射されるので、搭乗者は臨場感のある再生音を聴くことができ、車内空間A1を快適な空間とすることができる。このとき、スピーカ装置は隅部に設けられていればよく、後方側のスピーカ装置1010C、1010Dが前記実施例1のようにバックドアに収容され、後述する管部材1004C、1004Dがバックドア内で延びていればよい。
【0073】
スピーカ装置1010A〜1010Dは、それぞれ、スピーカユニット1002A〜1002Dと、スピーカユニット1002A〜1002Dを収容する収容部としてのエンクロージャ1003A〜1003Dと、エンクロージャ1003A〜1003Dに接続された管部材1004A〜1004Dと、を備える。幅方向に対向する前方側のスピーカ装置1010Aとスピーカ装置1010Bとは、幅方向に略直交する面を対称面として略面対称に構成されている。また、後方側のスピーカ装置1010C及びスピーカ装置1010Dも同様の対称性を有している。従って、以下においてスピーカ装置1010A、1010Bのうち一方についてのみ説明する場合は他方も同様の構成を有し、スピーカ装置1010C、1010Dのうち一方についてのみ説明する場合は他方も同様の構成を有するものとする。
【0074】
スピーカユニット1002A〜1002Dは、振動板と、振動板に支持されるボイスコイルと、振動板をフレームに連結するエッジと、ボイスコイルを駆動(振動)させる磁気回路と、エッジ及び磁気回路を支持するフレームと、ボイスコイルをフレームに連結するダンパと、を備える。スピーカユニット1002A〜1002Dは、中高音域(例えば1000〜10000Hz)の音圧が低音域(例えば10〜1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。また、振動板は、スピーカユニット1002A〜1002Dが音波を放射する側(前面側)を車両Cの上方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を車両Cの下方に向けるように設置されている。また、前方側のスピーカユニット1002A、1002Bの振動板の振動方向(音放射方向)が、インストルメントパネルIの上面に対して所定の角度(例えば30°)だけ傾斜するように、インストルメントパネルIにスピーカユニット1002A、1002Bを設けてもよい。また、後方側のスピーカユニット1002C、1002Dは、その振動板の振動方向(又は音放射方向)が、上面S1に略直交するように設けられていてもよい。尚、インストルメントパネルIの上面に対して振動板が傾斜した状態でスピーカユニットがインストルメントパネルに取り付けられている場合には、インストルメントパネルIの上面に対する各振動板の傾斜角度は、ウインドシールドWの角度や、スピーカユニット1002A〜1002Dと座席SHとの距離等に応じて、必要に応じて適宜に設定されていればよく、スピーカユニット1002A〜1002Dの中心軸又は振動板を傾斜させなくてもよい。スピーカユニット1002の中心軸又は振動板を傾斜させない場合には、インストルメントパネルIの上面に沿って振動板が配置されるように、スピーカユニット1002を取り付けても構わない。また、スピーカユニット1002A〜1002Dの中心軸又は振動板が各座席SH1、SH2(後方座席SH3においては各着座位置)に向けられていてもよい。
【0075】
エンクロージャ1003A〜1003Dは、箱状に形成されるとともにその天面に振動板が配置され、底面及び4つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット1002A〜1002Dを配置して、スピーカユニット1002A〜1002Dの背面側にある一部分がエンクロージャ1003A〜1003Dに収容される。前方側のエンクロージャ1003A、1003Bは、例えばインストルメントパネルI内に設けられ、後方側のエンクロージャ1003C、1003Dは、例えばトランクルームの上方に設けられている。また、エンクロージャ1003A〜1003Dは、振動板から放射された音波がエンクロージャ1003の一部において反射することを抑止しつつ、この音波が車内空間A1に放射されるように、天面に傾斜面を有して設けても構わない。また、エンクロージャ1003A〜1003Dは、幅方向において、側面S4近傍に配置されており、それぞれ隅部CR1〜CR4に配置されている。
【0076】
前方側のスピーカユニット1002A、1002Bは、上記のようなエンクロージャ1003A、1003Bに収容されることで、インストルメントパネルIの上面において前面から音波を放射するように、インストルメントパネルI内に設けられる。また、後方側のスピーカユニット1002A、1002Bは、上面S1に向けて前面から音波を放射するように、トランクルームの上方に設けられる。また、スピーカユニット1002A〜1002Dの背面側で生じた音波は、エンクロージャ1003A〜1003Dの内部空間に向けて放射される。
【0077】
管部材1004A〜4Dは、公知の金属や樹脂等を用いて両端が開口した筒状に形成され、その断面形状及び断面積は一端1041側から他端1042側にかけて略一定であり、適宜な共鳴周波数(例えば30〜100Hz)を有するような長さに形成されている。尚、前方側の管部材1004A、1004Bと、後方側の管部材1004C、1004Dと、は略等しい長さを有しており、スピーカユニット1002A〜1002Dが動作(振動板が振動)してから後述する他端42において音波が放射されるまでに要する時間は略等しいものとする。
【0078】
前方側の管部材1004A、1004Bは、エンクロージャ1003A、1003Bにおけるスピーカユニット1002A、1002Bの背面側である下面に一端1041が連結されることでエンクロージャ1003A、1003Bの内部空間につながるとともに、他端1042が運転席SH1又は助手席SH2の足元(運転席SH1においてはアクセルペダルの近傍)に配置されている。また、他端1042は、
図11、12にも示すように、インストルメントパネルIの下方において、前面S3と下面S2と側面S4とが交わる角部C1を向いて開口している。さらに、管部材1004A、1004Bは、一端1041側においてインストルメントパネルI内を通過し、他端1042側においてインストルメントパネルIの外側に突出している。また、運転席SH1側の管部材1004Aは、幅方向において、一端1041から他端1042にかけて、運転席SH1側の側面S4から一旦離れるように延びた後、この側面S4に再び近づくように延びている。即ち、管部材1004Aを前後方向から見ると、助手席側に向かって凸に湾曲した形状となっている。また、管部材1004A、1004Bは、前後方向において、一端1041から他端1042に向かうにしたがって前方側に向かうように延びている。
【0079】
後方側の管部材1004C、1004Dは、
図13に示すように、移動体の幅方向において、エンクロージャ1003C、1003Dにおける内側の側面に一端1041が連結されることでエンクロージャ1003C、1003Dの内部空間につながるとともに、外側に向かって延びている。即ち、一端1041から他端1042にかけて、運転席SH1側の管部材1004Cは、エンクロージャ1003Cから助手席SH2側に向かって延び、助手席SH2側の管部材1004Dは、エンクロージャ1003Dから運転席SH1側に向かって延びている。また、管部材1004C、1004Dは、車両Cの前後方向において、一端1041から他端1042にかけて後方側に向かって延び、管部材1004Cの他端1042がエンクロージャ1003Dの後方側に位置し、管部材1004Dの他端1042がエンクロージャ1003Cの後方側に位置している。このように、管部材1004C、1004Dは、互いに交差するように延びている。また、管部材1004C、1004Dの他端1042は、上面S1から離れているものの、上面S1と後面S5と側面S4と、が交わる角部C2を向いて開口している。尚、角部は、3つの面が交わるものであり、少なくとも2つの面が交わる交差部に含まれるものとする。即ち、前方側の角部C1が前方側交差部として機能し、後方側の角部C2が後方側交差部として機能する。
【0080】
以上のような移動体用スピーカシステム1001においてスピーカユニット1002A〜1002Dが音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。まず、前方側のスピーカユニット1002A、1002Bの前面側から放射された音波は、例えば振動板がコーン上又はドーム状の形状を有する場合には、振動板の傾斜に応じて斜め後方に進行し、前方側の頭部位置H1、H2に向かう。尚、前面側から放射された音波は、ウインドシールドWや上面S1において反射されて頭部位置H1、H2に向かってもよい。一方、後方側のスピーカユニット1002C、1002Dの前面側から放射された音波は、直接、又は、上面S1や後面S5で反射されて後方側の頭部位置H3〜H5に向かう。
【0081】
スピーカユニット1002A〜1002Dの背面側で生じた音波は、エンクロージャ1003A〜1003Dの内部空間で反響するとともに、一端1041から管部材1004A〜1004D内に入り、管部材1004A〜1004D内を進行する。このとき、スピーカユニット1002A〜1002Dの背面側で生じた音波のうち、管部材1004A〜1004Dの長さに応じた低音域の成分が管部材1004A〜1004D内で共鳴する。従って、管部材1004A〜1004Dの他端1042からは、低音域の成分を主とする音波が放射される。即ち、管部材1004の他端1042から放射される音波は、中高音域の成分がカットされる。カットされるとは、具体的には中高音域の成分の音圧が、低域の成分の音圧よりも低くなることをいう。前方側の管部材1004A、1004Bの他端1042から放射された音波は、角部C1及びその周囲の面S2〜S4によって反射され、角部C1と対向する角部C2(即ち、幅方向において角部C1と反対側の角部C2)に向かって進行する。一方、後方側の管部材1004C、1004Dの他端1042から放射された音波は、角部C2及びその周囲の面S1、S5、S4によって反射され、反対側の角部C1に向かって進行する。
【0082】
前方側の管部材1004A、1004Bの他端1042から放射されて角部C2に向かう音波と、後方側の管部材1004C、1004Cの他端1042から放射されて角部C1に向かう音波と、によって、車両Cの前後方向及び幅方向に対向する角部C1、C2同士の間に定在波が形成される。この定在波は、角部C1、C2を固定端とし、角部C1、C2同士の間隔に応じた波長を有する。
【0083】
以上のように音波が放射されることで、車内空間A1には、スピーカユニット1002A〜1002Dの前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、管部材1004A〜1004Dの他端1042から放射された低音域の成分を主とする音波と、が反響する。
【0084】
このとき、前方側のスピーカユニット1002A、1002Bと後方側のスピーカユニット1002C、1002Dとは、次に詳細に説明するように、定在波の節が前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離れるように、所定の時間差を有して動作する。ここで、所定の時間差としては、例えば1ms〜9msが挙げられる。
【0085】
まず、変形例として、前方側の管部材1004Aの他端1042と、後方側の管部材1004Cの他端1042と、から略同時に(即ち同位相の)音波が放射された場合について考える。管部材1004Aの角部C1、C2の間隔に略等しい波長を有する定在波では、
図9に二点鎖線で示すように、角部C1、C2同士の中間位置、即ち、車内空間A1における前後方向の中央部分が節となる。この節は頭部位置H1、H2の後方側且つ近傍に位置し、節に近い位置ほど、この周波数における音圧が低くなる。そこで、定在波の節が一点鎖線で示すような位置となるように、時間差をつけてスピーカユニット1002Aとスピーカユニット1002Cとを動作させる。
【0086】
ここで、前方側のスピーカユニット1002Aと後方側のスピーカユニット1002Cとの動作タイミングを異ならせることによる音圧特性の変化について説明する。まず、変形例の移動体用スピーカシステムとして、スピーカユニット1002Aとスピーカユニット1002Cとを略同時に動作させ、
図9に二点鎖線で示すような位置に定在波の節を形成した場合の音圧特性を
図14に示す。
図14の横軸は周波数を対数表示したものであり、縦軸は音圧を示し、音圧特性とは、音圧の周波数依存性を意味する。また、グラフ中の実線は前方側の頭部位置H1、H2における音圧を示し、破線は後方側の頭部位置H1〜H3における音圧を示す。尚、角部C1、C2同士の間隔は約1.7mとする。
【0087】
前方側の頭部位置H1、H2及び後方側の頭部位置H1〜H3の音圧は、200〜210Hzにおいて極小値(それぞれ約69dB、約82dB)となった。この周波数を波長に換算すると、角部C1、C2同士の間隔に略等しくなる。即ち、角部C1、C2同士の間隔に略等しい波長を有する定在波が形成され、この定在波の節によって音圧が低下したものと考えられる。
【0088】
次に、実施例3の移動体用スピーカシステム1001において、時間差を有するように前後のスピーカユニット1002A、1002Cを動作させ、
図9に一点鎖線で示すような位置に定在波の節を形成した場合の音圧特性を
図15に示す。
図15における軸は
図14と同様であり、グラフ中の実線は前方側の頭部位置H1、H2における音圧を示し、破線は後方側の頭部位置H1〜H3における音圧を示す。
【0089】
前方側の頭部位置H1、H2の音圧は、200〜210Hzにおいて約91dBとなり、前後の周波数と比較してほとんど低下しておらず、他の周波数においても大きな低下は見られなかった。また、後方側の頭部位置H3〜H5の音圧は、200〜210Hzにおいて極小値(約82dB)となった。従って、時間差を有するように前後のスピーカユニット1002A、1002Cを動作させ、定在波の位置を前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離すことにより、この定在波の波長に対応した周波数において、音圧特性が改善することが確認できた。
【0090】
上記の構成により、移動体用スピーカシステム1001が4つのスピーカ装置1010A〜1010Dを備え、それぞれが車両Cの4つの隅部CR1〜CR4に配置されていることで、各隅部CR1〜CR4における空きスペースが狭小であっても、移動体用スピーカシステム1001全体の放射音の音圧を向上させ、音響特性を向上させることができる。
【0091】
また、エンクロージャ1003A〜3Dの内部空間に管部材1004A〜1004Dの一端1041がつながっていることで、スピーカユニット1002A〜1002Dの背面側で生じた音波のうち、管部材1004A〜1004Dの長さに応じた低音域の成分が管部材内で共鳴し、他端1042から放射される。管部材1004A〜1004Dの他端1042が、車内空間A1を囲む複数の面のうち3つが交わる角部C1、C2を向いて開口していることで、他端1042から放射された低音が3つの面で反射されて車内空間A1で反響しやすく、移動体用スピーカシステム1001における低音域の音響特性を向上させることができる。
【0092】
また、スピーカユニット1002A〜1002Dが、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するものである場合には、スピーカユニット1002A〜1002Dの振動を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット1002A〜1002Dを用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができる。さらに、スピーカユニット1002A〜1002Dの前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット1002A〜1002Dの前面から放射された音波と管部材1004A〜1004Dの他端1042から放射された音波とが弱め合いにくい。
【0093】
移動体用スピーカシステム1001において、スピーカユニット1002A〜1002Dの前面から主に中高音域の音波が放射され、管部材1004A〜1004Dの他端1042から主に低音域の音波が放射される。中高音域と低音域とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域の音波が放射される位置と、低音域の音波が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0094】
また、スピーカユニット1002A、1002B及びエンクロージャ1003A、1003BがインストルメントパネルI内に設けられるとともに、管部材1004A、1004BがインストルメントパネルI内を通過することで、移動体用スピーカシステム1001を車両Cに設けた場合に外観を良好に保つことができる。
【0095】
なお、本発明は、前記実施例3に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0096】
例えば、前記実施例では、定在波の節が前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離れるように、前方側のスピーカユニット1002A、1002Bと後方側のスピーカユニット1002C、1002Dとが時間差を有して動作するものとしたが、この時間差は、時間差がない場合の節の位置と、頭部位置H1〜H5と、の関係に応じて適宜に設定されればよい。例えば、時間差がない場合に節が頭部位置H1、H2よりも前方側に位置する場合には、節が頭部位置H1、H2からさらに車両Cの前方側へ離れるような時間差としてもよい。また、時間差がない場合に節が後方側の頭部位置H3〜H5近傍に位置する場合には、節が頭部位置H3〜H5からさらに車両Cの前方側へ離れるような時間差としてもよい。さらに、車両が前後方向に1列又は3列以上の座席を有する場合には、時間差がない場合の節の位置と各列の頭部位置との関係に応じて時間差を設定すればよい。また、頭部位置と節の位置とが充分に離れている場合や、節による音圧の低下が小さい場合には、このような時間差を設けずに車両Cの前方及び後方のスピーカユニットを略同時に動作させてもよい。
【0097】
また、前記実施例では、角部C1、C2同士の間隔に略等しい周波数の定在波について節の位置を変化させるものとしたが、他の周波数を有する定在波について節の位置を変化させてもよい。例えば、上記の間隔の約2/3の波長を有する定在波では、角部C1、C2同士の間に2つの節が形成されるが、この節が各座席の頭部位置H1〜H5のいずれかから車両Cの前方側又は後方側へさらに離れるように時間差を設定してもよい。
【0098】
また、前記実施例では、車両Cの後方側に設けられたスピーカ装置1010C、1010Dにおいて、管部材1004Cが幅方向の運転席側から助手席側に向かって延び、管部材1004Dが幅方向の助手席側から運転席側に向かって延び、管部材1004Cと管部材1004Dとが交差するものとしたが、
図16、17に示すように、管部材1004C及び管部材1004Dが車両Cの進行方向の後方側に向かって延び、管部材1004Cと管部材1004Dとが交差しない構成としてもよい。
【0099】
また、前記実施例では、移動体用スピーカシステム1001が、車両Cにおける4つの隅部CR1〜CR4に設けられる4つのスピーカ装置1010A〜1010Dを備えるものとしたが、移動体用スピーカシステムは、少なくとも2つのスピーカ装置を備えていればよい。例えば、2つのスピーカ装置が車両Cの前後方向の前方及び後方の隅部にそれぞれ設けられていてもよいし、幅方向の一方側及び他方側の隅部にそれぞれ設けられていてもよい。
【0100】
また、前記実施例では、管部材1004A〜1004Dの断面形状及び断面積が略一定であるものとしたが、管部材は、断面積が略一定であるとともに断面形状が変化するものであってもよい。また、前記実施例では前方側の管部材1004A、1004Bと後方側の管部材1004C、1004Dとの長さが略等しいものとしたが、これらの長さは互いに異なっていてもよい。
【0101】
また、前記実施例では、収容部としてのエンクロージャ1003と管部材1004とが別部材であるものとしたが、エンクロージャと管部材とが一体に形成された構成としてもよい。例えば、収容部が1つの管状の部材であり、この管状の部材がエンクロージャと管部材とを兼ねていることなどが挙げられる。
【0102】
また、スピーカユニットが放射する音波の周波数特性は、適宜に設定されていればよい。スピーカユニットが前面側から放射する低音域の音圧が高い場合でも、管部材で共鳴して他端から放射される低音の音圧が充分に高ければ、前面側からの音波と他端からの音波とが弱め合ってしまっても低音の音圧を確保することができる。即ち、管部材における共鳴によって低音の音圧が充分に向上する場合には、低音域から中高音域まで同程度の音圧となるように音波を放射するスピーカユニットや、低音域の音圧が中高音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するスピーカユニットを用いてもよいし、中高音域用のスピーカユニット(ツイータ)を用いてもよい。また、スピーカユニットの形状は特に限定されず、コーン型であってもよいしドーム型であってもよい。
【0103】
また、前記実施例では、インストルメントパネルIの上面において前方側のスピーカユニット1002A、2Bの前面側から音波を放射するものとしたが、スピーカユニットは、例えばインストルメントパネルIの下面(運転席と対向する面)においてスピーカユニットの前面側から音波を放射してもよい。また、スピーカユニット1002A、1002BがインストルメントパネルI内に設けられるものとしたが、スピーカユニットがインストルメントパネルIの外側に設けられる(例えばインストルメントパネルIの上面に載置される)構成としてもよい。このとき、管部材はインストルメントパネルI内を通過せずに外側に沿うように設けられていてもよい。このような構成によれば、移動体用スピーカシステムを車両に対して後付により設置する際に、設置作業を容易に実施することができる。
【0104】
また、前記実施例では、管部材1004A〜1004Dの他端1042が、3つの面が交わる角部C1、C2を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A1を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面S1、下面S2、前面S3、一対の側面S4、後面5)のうち2つが交わる交差部(
図11に示すR1〜R8)を向いて開口していてもよいし、交差部を向いていなくてもよい。また、後方側の管部材1004C、1004Dの他端1042が、車両Cの後面S5と上面S1と側面S4とが交わる角部C3を向いて開口していてもよい。尚、交差部R1は、車両Cの前面S3と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R2は、車両Cの下面S2と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R3は、車両Cの前面S3と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R4は、車両Cの後面S5と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R5は、車両Cの後面S5と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R6は、車両Cの前面S3と上面S1とが交わる交差部であって、交差部R7は、車両Cの上面S1と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R8は、車両Cの後面S5と上面S1とが交わる交差部である。
【0105】
また、前記実施例では、前後方向だけでなく幅方向にも(即ち斜めに)対向する角部C1、C2同士の間に定在波が形成されるものとしたが、他端1042が交差部を向いて開口している場合には、前後方向においてのみ対向する交差部同士の間に定在波が形成されることもある。この場合には、前後方向に対向する交差部同士の間隔に応じた波長を有する定在波について、節を移動させればよい。
【0106】
[第3の発明]
以下、本発明の実施例4について具体的に説明する。
図18は、本発明の実施例4に係る移動体用スピーカシステム2001Aが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図19は、移動体用スピーカシステム2001Aの開管部材2004の要部を示す正面図であり、
図20は、開管部材2004を示す斜視図であり、
図21は、車両Cに移動体用スピーカシステム2001Aが設けられた様子を示す斜視図であり、
図22は、比較例に係る移動体用スピーカシステムの音響インピーダンスの周波数特性を示すグラフであり、
図23は、実施例4に係る移動体用スピーカシステム2001Aの音響インピーダンスの周波数特性を示すグラフであり、
図24は、実施例4及び比較例の移動体用スピーカシステムにおける音圧の周波数特性を示すグラフである。
【0107】
移動体用スピーカシステム2001Aは、
図18に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット2002と、スピーカユニット2002を収容する収容部としてのエンクロージャ2003と、エンクロージャ2003に接続された開管部材(管部材)2004と、エンクロージャ2003に接続された閉管部材2005と、を備える。
【0108】
車両Cは、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両ボディの上面(天面)S1と、下面S2と、車両Cの進行方向における前面S3と、幅方向に対向する一対の側面S4(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における図示しない後面と、によって囲まれた箱状の車内空間A1を形成している。また、前面S3にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように座席(運転席及び助手席)SHが設けられている。本実施例4では、移動体用スピーカシステム2001Aが運転席の前方側に設けられるものとするが、助手席の前方側に設けられていてもよいし、両方に設けられていてもよい。また、移動体用スピーカシステムは、前記実施例1、2のようにスピーカユニット及び収容部がバックドアや後方ドア等の扉体に内蔵され、開管部材の一部が扉体の内側において延びていてもよい。このような構成においても、後述するように閉管部材がピラー内に配置されたり、ピラーが閉管部材として利用されたりしてもよい。
【0109】
スピーカユニット2002は、振動板と、振動板に支持されるボイスコイルと、振動板をフレームに連結するエッジと、ボイスコイルを駆動(振動)させる磁気回路と、ボイスコイルをフレームに連結するフレームと、振動板の固有振動を抑制するダンパと、を備える。スピーカユニット2002は、中高音域(例えば1000〜10000Hz)の音圧が低音域(例えば10〜1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。また、振動板は、スピーカユニット2002が音を放射する側(前面側)を車両Cの上方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を車両Cの下方に向けるように設置されている。また、スピーカユニット2002の振動板の振動方向(又は音放射方向)が、インストルメントパネルIの上面に対して所定の角度(例えば30°)だけ傾斜するように、インストルメントパネルIにスピーカユニット2002を設けてもよい。尚、インストルメントパネルIの上面に対して振動板が傾斜した状態でスピーカユニットがインストルメントパネルに取り付けられている場合には、インストルメントパネルIの上面に対する振動板の傾斜角度は、ウインドシールドWの角度や、スピーカユニット2002と座席SHとの距離等に応じて、必要に応じて適宜に設定されていればよく、スピーカユニット2002の中心軸又は振動板を傾斜させなくてもよい。スピーカユニット2002の中心軸又は振動板を傾斜させない場合には、インストルメントパネルIの上面に沿って振動板が配置されるように、スピーカユニット2002を取り付けても構わない。また、スピーカユニット2002の中心軸又は振動板が運転席又は助手席に向けられていてもよい。
【0110】
エンクロージャ2003は、天面、底面及び4つの側面を有して箱状に形成される。このエンクロージャ2003は、インストルメントパネルI内に設けられ、その天面に振動板を支持するフレームが取り付けられ、底面及び4つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット2002を配置して、スピーカユニット2002の背面側にある一部分がエンクロージャ2003に収容される。また、エンクロージャ2003は、振動板から放射された音波がエンクロージャ2003の一部において反射することを抑止しつつ、この音波が車内空間A1に放射されるように、天面に傾斜面を有して設けても構わない。また、エンクロージャ2003は、幅方向において、側面S4近傍に配置されている。このようなエンクロージャ2003にスピーカユニット2002が収容されることで、スピーカユニット2002は、インストルメントパネルIの上面において前面から音波を放射するように、インストルメントパネルI内に設けられる。また、スピーカユニット2002の背面側で生じた音波は、エンクロージャ2003の内部空間に向けて放射される。
【0111】
開管部材2004は、公知の金属や樹脂等を用いて両端が開口した筒状に形成され、エンクロージャ2003におけるスピーカユニット2002の背面側である下面に一端2004Aが連結されるとともに、他端2004Bが運転席の足元(アクセルペダルの近傍)に配置されている。開管部材2004の断面形状及び断面積は一端2004A側から他端2004B側にかけて略一定であり、後述するように車内空間A1に形成される定在波に応じた共鳴周波数(例えば30〜100Hz)を有するような長さに形成されている。開管部材2004は、エンクロージャ2003の底面に一端2004Aが連結されていることで、一端2004Aにおいてエンクロージャ2003の内部空間につながっている。また、他端2004Bは、
図19、20にも示すように、インストルメントパネルIの下方において、前面S3と下面S2と運転席側の側面S4とが交わる角部C1を向き、車内空間A1に向けて開口している。
【0112】
開管部材2004は、一端2004A側においてインストルメントパネルI内を通過し、他端2004B側においてインストルメントパネルIの外側に突出している。また、開管部材2004は、幅方向において、一端2004Aから他端2004Bにかけて、運転席側の側面S4から一旦離れるように延びた後、側面S4に再び近づくように延びている。即ち、開管部材2004を前後方向(車両Cの進行方向)から見ると、助手席側に向かって凸に湾曲した形状となっている。また、開管部材2004は、前後方向において、一端2004Aから他端2004Bに向かうにしたがって前方側に向かうように延びている。
【0113】
閉管部材2005は、適宜な金属や樹脂等を用いて一端2005Aが開口するとともに他端2005Bが閉塞された筒状に形成され、一端2005Aがエンクロージャ2003の側面のうち車両Cの進行方向の前方側を向いた面(前面)に連結されるとともに、他端2005Bが車両CのピラーP内に配置されている。閉管部材2005の断面形状及び断面積は一端2005A側から他端2005B側にかけて略一定となっている。閉管部材2005の長さは、後述するように、開管部材2004及び閉管部材2005の開口端補正を考慮した長さの略半分となっている。尚、開管部材2004及び閉管部材2005に定在波が形成される場合、その開口が自由端となって腹となるが、この腹の位置は開口した端部よりもやや外側に位置し、端部と腹との位置のずれを開口端補正という。閉管部材2005は、エンクロージャ2003の前面に一端2005Aが連結されていることで、一端2005Aにおいてエンクロージャ2003の内部空間につながっている。閉管部材2005は、一端2005AからインストルメントパネルI内を通過して運転席側の側面S4(即ち扉体)側に向かって延び、ピラーP内に入り込むとともにピラーPに沿って延びる。このように、ピラーP内の内部空間を利用して、エンクロージャ2003の小型化を図ることができる。
【0114】
以上のような移動体用スピーカシステム2001Aにおいてスピーカユニット2002が音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。まず、スピーカユニット2002の前面側から放射された音波は、振動板の傾斜に応じて斜め後方に進行し、運転席のヘッドレスト(運転者の頭部)近傍に向かう。尚、前面側から放射された音波は、車両CのウインドシールドWや上面(天面)S1において反射されてヘッドレストに向かってもよい。
【0115】
スピーカユニット2002の背面側で生じた音波は、エンクロージャ2003の内部空間で反響するとともに、一端2004Aから開管部材2004内に入り、開管部材2004内を進行する。このとき、スピーカユニット2002の背面側で生じた音波のうち、開管部材2004及び閉管部材2005の長さに応じた低音域の成分が開管部材2004内で共鳴する。従って、開管部材2004の他端2004Bからは、低音域の成分を主とする音波が放射される。即ち、開管部材2004の他端2004Bから放射される音波は、中高音域の成分がカットされる。カットされるとは、具体的には中高音域の成分の音圧が、低域の成分の音圧よりも低くなることをいう。他端2004Bから放射された音波は、角部C1及びその周囲の面S2〜S4によって反射され、角部C1と対向する対向角部(上面S1と後面と助手席側の側面とが交わる角部)に向かって進行し、対向角部及びその周囲において再び反射され、角部C1に向かって進行する。このように角部C1から対向角部に向かう音波と、対向角部から角部C1に向かう音波と、によって、角部C1と対向角部との間の距離に応じた波長の定在波が形成される。この定在波の周波数と、開管部材2004の共鳴周波数と、は略一致しており、開管部材2004によって増幅されて他端2004Bから放射された低音が、車内空間A1において定在波を形成する。上述のように、開管部材2004は車内空間A1に形成される定在波に応じた共鳴周波数を有していることから、他端2004Bから放射される音波のうち共鳴した成分が定在波を形成する。
【0116】
また、スピーカユニット2002の背面側で生じてエンクロージャ2003の内部空間で反響した音波は、一端2005Aから閉管部材2005内にも入り込む。一端2005Aから閉管部材2005内に入り込んだ音波は、他端2005B側に向かって進行し、閉塞された他端2005Bにおいて固定端反射されて一端2005A側に向かう。従って、他端2005Bに向かう進行波と、一端2005Aに向かう反射波と、が強め合ったり弱め合ったりする。
【0117】
以上のように音波が放射されることで、車内空間A1には、スピーカユニット2002の前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、開管部材2004の他端2004Bから放射された低音域の成分を主とする音波と、が反響する。
【0118】
ここで、実施例4の移動体用スピーカシステム2001Aの音響特性について、比較例の移動体用スピーカシステムも参照しつつ具体的に説明する。まず、比較例及び実施例4の移動体用スピーカシステムについて、音響インピーダンスの位相特性をシミュレーションにより求めた。このときの計算条件は下記の通りである。即ち、比較例の移動体用スピーカシステムは、スピーカユニットが容積(内部空間の体積)1Lの箱状のエンクロージャに収容され、エンクロージャにおいてスピーカユニットの背面に対向する側面に、開口端補正を考慮した長さが500mmの開管部材が接続され、閉管部材が設けられていないものとした。一方、実施例4の移動体用スピーカシステム2001Aでは、開口端補正を考慮した長さが500mmの開管部材2004と、容積が1L且つ長さが250mmの閉管部材2005と、が接続され、この接続部分がエンクロージャとして機能してスピーカユニットを収容し、エンクロージャ2003の容積が充分に小さいものとした。
【0119】
比較例の移動体用スピーカシステムでは、
図22に示すような音響インピーダンスの周波数特性が得られた。
図22における横軸は周波数を対数表示したものであり、縦軸は音響インピーダンスを対数表示したものである。エンクロージャのみの音響インピーダンスは、破線で示すように周波数の上昇に伴って単調減少した。一方、開管部材のみの音響インピーダンスは、一点鎖線で示すように、固有振動における基本振動の周波数fo(約340Hz)の整数n倍(n≧1)において極小値となり、−fo/2+nfoにおいて極大値となった。即ち、fo/2毎に極大値と極小値とを繰り返した。
【0120】
比較例におけるエンクロージャと開管部材との合成音響インピーダンス(移動体用スピーカシステム全体の音響インピーダンス)は、実線で示すように、約61Hzにおいて極大値となり、約320Hzにおいて極小値となり、約340Hzにおいて極大値となり、以後同様に極小と極大とを繰り返した。また、約61Hzの極大値は開管部材のfo/2における極大値に起因し、320Hzの極小値は開管部材のfoにおける極小値に起因し、約340Hzの極大値は開管部材の3fo/2における極大値に起因するものと考えられる。
【0121】
実施例4の移動体用スピーカシステムでは、
図23に示すような音響インピーダンスの周波数特性が得られた。
図23における横軸及び横軸は
図22と同様のものである。閉管部材のみの音響インピーダンスは、破線で示すように、固有振動における基本振動の周波数fc(約340Hz)の奇数k倍(k≧1)において極小値となり、fcの偶数m倍(m≧2)において極大値となった。即ち、fc毎に極大値と極小値とを繰り返した。開管部材の音響インピーダンスは、比較例と同様となった。
【0122】
実施例4の移動体用スピーカシステムにおいて、開管部材における基本振動の周波数foと、閉管部材における基本振動の周波数fcと、が略等しくなった。また、開管部材における2倍振動の周波数2foが、閉管部材における基本振動と3倍振動との中間の周波数2fcに略等しくなった。即ち、周波数2fo(2fc)において、開管部材における音響インピーダンスが極大値となり、閉管部材における音響インピーダンスが極小値となった。
【0123】
閉管部材の音響インピーダンスが上述のような特性を示すことで、実施例4における合成音響インピーダンスは、実線で示すように、比較例における合成音響インピーダンスとは異なる特性を示した。即ち、実施例4における合成音響インピーダンスは、約61Hzにおいて極大値となり、約340Hz(fo、fc)において極小値となり、約600Hzにおいて極大値となり、約680Hzにおいて極小値となり、約740Hzにおいて極大値となり、以後同様に極小と極大とを繰り返した。また、約61Hzの極大値は開管部材のfo/2における極大値に起因し、約340Hzの極小値は開管部材及び閉管部材のfo、fcにおける極小値に起因し、約600Hzの極大値は開管部材の3fo/2における極大値及び閉管部材の2fcにおける極大値に起因し、約680Hzの極小値は開管部材の2foにおける極小値に起因し、約740Hzの極大値は開管部材の5fo/2における極大値及び閉管部材の2fcにおける極大値に起因するものと考えられる。
【0124】
実施例4の合成音響インピーダンスでは、周波数2fo(2fc)において極大値と極小値とが重なっていることから、比較例の合成音響インピーダンスの約340Hzにおける極大値が高域側にシフトしたと考えられる。
【0125】
このような実施例4及び比較例の移動体用スピーカシステムにおける音圧の周波数特性(音圧特性)を
図24に示す。比較例の移動体用スピーカシステムにおける音圧特性では、一点鎖線で示すように、約380Hzにおいて極小値となった。これは、合成音響インピーダンスの約340Hzにおける極大値に起因するものと考えられる。一方、実施例4の移動体用スピーカシステムにおける音圧特性では、合成音響インピーダンスにおいて比較例のような約340Hzの極大値が高域側にシフトしていることで、380Hz前後において極小値とはならず、緩やかに変化した。
【0126】
従って、閉管部材を設けるとともに上記のような長さに設定することにより、実施例4の移動体用スピーカシステムでは、特定の周波数において音圧が低下してしまうことを抑制することができる。さらに、比較例の移動体用スピーカシステムでは、380Hz前後における音圧の低下を抑制しようとすると、スピーカユニットへの入力信号を補正する必要があるのに対し、実施例4の移動体用スピーカシステムでは、380Hz前後において音圧がほとんど変化せず、入力信号を補正しなくても良好な音響特性を得ることができる。
【0127】
上記の構成により、スピーカユニット2002の背面を収容するエンクロージャ2003に閉管部材2005の一端2005Aが接続されていることで、エンクロージャ2003の容積だけでなく閉管部材2005の容積もスピーカユニット2002の背面側の容積として利用することができ、スピーカユニット2002の背面側の容積を確保しつつエンクロージャ2003を小型化することができる。このとき、閉管部材2005は設置の自由度が高く、他端2005B側をピラー内に設けることにより、車両Cにおける空きスペースを有効に利用することができる。エンクロージャ2003を小型化するとともに空きスペースを利用して閉管部材2005を配置することで、移動体用スピーカシステム2001Aを車両Cに容易に設置することができる。
【0128】
さらに、開管部材2004の他端2004Bが、車内空間A1を囲む複数の面のうち3つが交わる角部C1を向いて開口していることで、他端2004Bから放射された低音が3つの面で反射されて車内空間A1で反響しやすく、移動体用スピーカシステム2001Aにおける低音域の音響特性を向上させることができる。
【0129】
また、スピーカユニット2002が、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するものである場合には、スピーカユニット2002のボイスコイル又は振動板の振幅を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット2002を用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができる。さらに、スピーカユニット2002の前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット2002の前面から放射された音波と開管部材2004の他端2004Bから放射された音波とが弱め合いにくい。
【0130】
移動体用スピーカシステム2001Aにおいて、スピーカユニット2002の前面から主に中高音域の音波が放射され、開管部材2004の他端2004Bから主に低音域の音波が放射される。中高音域と低音域とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域の音波が放射される位置と、低音域の音波が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0131】
また、開管部材2004の他端2004Bが角部C1を向いて開口することで、他端2004Bから放射された音波によって角部C1と対向角部との間に定在波が形成される。このとき、角部C1と対向角部との間の距離は、対向する一対の面(上面S1と下面S2、前面S3と後面、一対の側面S4)間の距離よりも長いことから、波長の長い定在波を形成することができ、車内空間A1において低音を効率よく反響させることができる。
【0132】
また、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003がインストルメントパネルI内に設けられるとともに、開管部材2004がインストルメントパネルI内を通過することで、移動体用スピーカシステム2001Aを車両Cに設けた場合に外観を良好に保つことができる。
【0133】
なお、本発明は、前記実施例4に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0134】
例えば、前記実施例では、箱状のエンクロージャ2003に対して開管部材2004及び閉管部材2005が接続されるものとしたが、エンクロージャが開管部材又は閉管部材と一体に形成されていてもよい。例えば、1つの管状の部材によって開管部材と閉管部材とが形成され、この管状の部材の一部(中間部)にスピーカユニットが収容されていてもよい。また、
図25(A)に第5の変形例と示すように、一端が開口して他端が閉塞された1本の管状の部材にスピーカユニット2002が収容された移動体用スピーカシステム1Bとしてもよい。移動体用スピーカシステム2001Bでは、スピーカユニット2002から見て開口端側(図中右側)が開管部材2004となり、閉塞端側(図中左側)が閉管部材2005となり、開管部材2004と閉管部材2005との境界部分が収容部となる。即ち、開管部材2004と閉管部材2005と収容部とが一体に形成され、1本の管状となっている。このような構成によれば、収容部が開管部材や閉管部材と別体に形成される構成と比較して、部品点数を削減することができる。
【0135】
また、第6の変形例として
図25(B)に示すように、開管部材2004と閉管部材2005と収容部とが一体化された1本の管状の部材を屈曲し、移動体用スピーカシステム2001Cとしてもよい。また、移動体用スピーカシステム2001Cでは、収容部から開口端と閉塞端とが同じ向きに延びるようにJ字状に屈曲されるものとするが、屈曲される位置や方向、角度等は適宜に設定されていればよい。このように1本の管状の部材を屈曲することにより、車両への設置の自由度をさらに向上させることができる。
【0136】
また、前記実施例では、エンクロージャ2003に1本の閉管部材2005が接続されるものとしたが、エンクロージャ2003に複数の閉管部材が接続される構成としてもよい。例えば、第7の変形例として
図25(C)に示すように、エンクロージャ2003に2本の閉管部材2006、2007が接続される移動体用スピーカシステム2001Dとしてもよい。このような構成によれば、2本の閉管部材2006、2007の両方の容積をスピーカユニット2002の背面側の容積として利用することができる。従って、車両において1箇所に大きな空きスペースがなくても、2箇所に小さな空きスペースがあれば、それぞれに閉管部材2006、2007を配置することができ、スピーカユニット2002の背面側の容積を確保しつつ、車両への設置の自由度をより一層向上させることができる。
【0137】
また、前記実施例では、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003がインストルメントパネルIに設けられるものとしたが、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003は、その他の場所に設けられていてもよい。
【0138】
例えば、第8の変形例として
図26に示すように、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003が車両Cの座席SHの下方に設けられた移動体用スピーカシステム2001Eとしてもよい。移動体用スピーカシステム2001Eが設けられた車両Cには、空調用ダクトDが設けられている。空調用ダクトDは、前方側(例えばインストルメントパネル内)に設けられた空調機から、後部座席の足元に冷風又は温風を送るために前後方向に沿って延びるものであって、
図26(C)に示すように、管状の通路部D0を有する。通路部D0は、仕切り部D3によって仕切られることにより、冷風又は温風が通過する第1通路D1と、第2通路D2と、を有する。第2通路D2は例えば第1通路D1の補強用に設けられたものである。
【0139】
移動体用スピーカシステム2001Eの開管部材2004は、エンクロージャ2003の前面に一端2004Aが接続されて前方側に向かって延び、第2通路D2に接続され、第2通路D2が開管部材として機能して前方側に向かって延び、他端側において第2通路D2とは別体となり、前方側の交差部又は角部を向いて開口している。即ち、開管部材2004の一端2004Aと他端との間の部分が空調用ダクトDと一体に形成されている。また、閉管部材2005は、エンクロージャ2003の後面に一端2005Aが接続されて後方側に向かって延び、開管部材2004とは独立に第2通路D2に接続され、第2通路D2が閉管部材として機能して後方側に向かって延び、図示しない他端が閉塞されている。尚、空調用ダクトDに第2通路が形成されず、開管部材2004及び閉管部材2005の一部が第1通路D1と一体に形成された構成としてもよい。
【0140】
このような第8の変形例の移動体用スピーカシステム2001Eによれば、空調用ダクトDを開管部材2004及び閉管部材2005として利用して低コスト化するとともに、空調用ダクトDを通すために車両Cに形成された空間を利用することができる。さらに、座席SHの下方におけるスピーカユニット2002の設置スペースが狭くても、開管部材2004の他端が角部又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0141】
また、第9の変形例として
図27(A)に示すように、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003Fが、車両CのインストルメントパネルIに設けられた箱部としてのグローブボックスGの一部として形成された移動体用スピーカシステム2001Fとしてもよい。移動体用スピーカシステム2001Fが設けられた車両CのインストルメントパネルIには、幅方向に沿った回動軸が設けられ、この回動軸周りに回動することで内部を開閉可能とする(二点鎖線で図示)グローブボックスGが設けられている。グローブボックスGの下方側の空間が他の部分G0(被収容物を収容することができる空間)と区画されることにより、エンクロージャ2003Fが形成されている。スピーカユニット2002は、その前面をグローブボックスGの外側に向けるとともに、前面を前方側且つ下方側に向けるようにエンクロージャ2003Fに収容されている。開管部材2004は、一端2004Aがエンクロージャ2003Fの下方側に接続され、他端2004Bが角部C1を向いて開口している。閉管部材2005は、一端2005Aが例えばエンクロージャ2003Fのうち車両Cにおける上方側且つ前方側に位置する部分に接続され、グローブボックスG内に収容されている。
【0142】
尚、開管部材2004の他端2004Bは、前面S3と下面S2とが交差する交差部を向いて開口していてもよい。また、
図27(B)に示すように、スピーカユニット2002の前面が車両Cの進行方向における後方側を向いていてもよい。また、車両Cに取り付けられている既存のグローブボックスGにエンクロージャ2003Fを形成してスピーカユニット2002を収容してもよいし、移動体用スピーカシステム2001Fがあらかじめ設けられたグローブボックスGを作製してもよい。また、グローブボックスGを複数の空間に区画せず、グローブボックスGを閉じた際に形成される閉空間又は密閉空間がエンクロージャとして機能する構成としてもよい。また、閉管部材2005はエンクロージャ2003Fの適宜な位置に接続されるとともに適宜な方向に延びていればよい。
【0143】
このような第9の変形例の移動体用スピーカシステム2001Fによれば、エンクロージャ2003FがグローブボックスGの一部であることで、角部C1に対して開管部材2004の他端を向けやすい。また、グローブボックスG内の空間の狭小化を抑制するためにスピーカユニット2002を小型化しても、開管部材2004の他端2004Bが角部C1又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。さらに、閉管部材2005をグローブボックスGの外側に配置してもよく、このような構成によれば、スピーカユニット2002の背面側の容積を確保しつつ、グローブボックスGの狭小化を抑制することができる。
【0144】
また、第10の変形例として
図28に示すように、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003Gが、車内空間A1に収容されたスペアタイヤTのホイールT1内に設けられた移動体用スピーカシステム2001Gとしてもよい。スペアタイヤTは、例えば車両Cの進行方向における後方側に形成されたタイヤ収容部に収容され、ホイールT1とタイヤT2とを有する。ホイールT1には、車両Cに取り付けられて使用される際に幅方向内側を向く面に、凹部T0が形成されている。凹部T0の内周面は円筒状に形成されており、エンクロージャ2003Gは外周寸法が凹部T0と同程度かやや小さい円筒状に形成されている。エンクロージャ2003Gは、この凹部T0内に収容される。
【0145】
また、エンクロージャ2003Gの高さは凹部T0の深さよりも大きく、エンクロージャ2003Gの一部分(下方部分)が凹部T0に収容され、他の一部分(上方部分)が凹部T0から突出している。尚、車両Cの上下方向においてエンクロージャ2003G全体が凹部T0に収容される構成としてもよい。エンクロージャ2003Gには開管部材2004の一端2004A及び閉管部材2005の一端2005Aがそれぞれ接続されている。開管部材2004の他端2004Bは、車両Cの一方の側面S4と下面S2と後面とが交わる角部C2を向いて開口しているものとするが、側面S4と上面と後面とが交わる角部を向いて開口していてもよいし、後面と他の面(側面S4、下面S2又は上面)とが交わる交差部を向いて開口していてもよい。閉管部材2005は、他方の側面S4側に向かって延びている。
【0146】
尚、車両の下面S2の表面には、前後方向又は幅方向に延びる補強用のリブRBによって凹凸が形成され、この表面上に平板状のカバー部が設けられることがある。この凹凸とカバー部との間に形成される隙間を開管部材や閉管部材として利用してもよい。
【0147】
このような第10の変形例の移動体用スピーカシステム2001Gによれば、スペアタイヤTの凹部T0に収容するためにスピーカユニット2002を小型化しても、管部材4の他端2004Bが角部C2又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。また、閉管部材2005が設けられていることで、スピーカユニット2002の背面側の容積を確保することができる。
【0148】
また、第11の変形例として
図29(A)に示すように、スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003Hが車両Cにおける幅方向の中央部に設けられた移動体用スピーカシステム2001Hとしてもよい。スピーカユニット2002及びエンクロージャ2003Hは、前方側の2つの座席SHの間且つ下方に設けられ、エンクロージャ2003Hの前面に2本の開管部材2004の一端2004Aが接続されるとともに、幅方向の両面に閉管部材2005が接続されている。2本の開管部材2004は、一方が進行方向に対して右側に延びて他方が左側に延び、即ち、幅方向において互いに反対側に向かって延びている。また、2本の開管部材2004の他端2004Bは、それぞれ、左右の角部C1を向いて開口している。閉管部材2005は、幅方向に沿って延びるものとするが、閉管部材2005がエンクロージャ2003Hに接続される位置や延在方向は適宜に設定されていればよい。
【0149】
尚、開管部材2004の他端2004Bは、車両Cの側面S4と下面S2とが交わる交差部を向いて開口していてもよい。また、
図29(B)に示すように、エンクロージャ2003Fに2つのスピーカユニット2002が収容され、一方のスピーカユニット2002が前方側に音波を放射し、他方のスピーカユニット2002が後方側に音波を放射する構成としてもよい。このような構成によれば、2つのスピーカユニット2002が背面側から放射する音波同士が弱め合い、音放射時にエンクロージャ2003が振動することを抑制することができる。
【0150】
このような第11の変形例の移動体用スピーカシステム2001Hによれば、前方側の2つの座席SHの間且つ下方の空間を利用することができる。また、この空間における設置スペースが狭くても、開管部材2004の他端2004Bが角部C1又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。また、閉管部材2005が設けられていることで、スピーカユニット2002の背面側の容積を確保することができる。さらに、幅方向の両側において開管部材2004の他端2004Bから放射された低音が反響し、搭乗者にとって迫力のある再生音とすることができる。
【0151】
また、第12の変形例として
図30に示すように、低音再生用のスピーカユニット2002I及びエンクロージャ2003Iが、車両Cの進行方向における後方側に設けられるとともに、車両Cの上面S1と後面S5とが交わる交差部CR1近傍に設けられ、開管部材2004が車両CのサイドシルSSの内側を通過して前方側の角部C1に向かって延びる移動体用スピーカシステム2001Iとしてもよい。エンクロージャ2003Iは、幅方向の中央部且つ後部側の座席SHのヘッドレストの後方に設けられ、前面を上方に向けてスピーカユニット2002Iが収容され、エンクロージャ2003Iの下面に開管部材2004の一端2004A及び閉管部材2005の一端2005Aが接続されている。開管部材2004は、スピーカユニット2002Iの下面から下方且つ車両Cの一方の側面に向かって延び、車両Cの扉体の下方において前後方向に延びるサイドシルSSの内側を通過して前方側に向かって延びる。さらに、開管部材2004は、サイドシルSSよりも前方側において、一旦上方側に向かった後に下方側を向かうことにより、他端2004Bが角部C1に向かって開口している。また、閉管部材2005は、下方側に向かって延びている。
【0152】
スピーカユニット2002Iから放射された音波は交差部CR1に向かい、開管部材2004の他端から放射された音波は角部C1に向かう。尚、エンクロージャが幅方向の左右いずれかに配置され、スピーカユニットから放射された音波が上面S1と側面S4と後面S5とが交わる角部に向かう構成としてもよい。また、開管部材2004の他端2004Bは、サイドシルSSよりも前方側の交差部を向いて開口していればよく、前面S3と下面S2とが交わる交差部を向いていてもよいし、側面S4におけるサイドシルSSよりも前方側の部分と下面S2とが交わる交差部を向いていてもよい。
【0153】
このような第12の変形例の移動体用スピーカシステム2001Iによれば、スピーカユニット2002I及び開管部材2004の他端2004Bにより放射された低音が前後の角部又は交差部において反射され、低音域の音圧等の音響特性をより一層向上させることができる。
【0154】
また、第13の変形例として
図31に示すように、第5及び第6の変形例のように1本の管状に形成されるとともに、その一部がサイドシルSSに収容された移動体用スピーカシステム2001Jとしてもよい。移動体用スピーカシステム2001Jは、開管部材2004と収容部と閉管部材2005とが一体化されたものであるとともに、第12の変形例における開管部材2004のように、その一部がサイドシルSSの内側を通過している。また、図示するようにスピーカユニット2002がサイドシルSS内に設けられる場合、スピーカユニット2002の前面から放射された音波が車内空間A1に届くように、サイドシルSSに音導用の孔が形成されているものとする。尚、開管部材2004と収容部と閉管部材2005とが一体化された1本の管状の部材は、適宜、サイドシルSSに限らず車両Cのボディを形成するとともに内側に空間を有する構成部品の内側に設けられていてもよい。
【0155】
このような第13の変形例の移動体用スピーカシステム2001Jによれば、開管部材2004と収容部と閉管部材2005とが一体化された1本の管状の部材が、サイドシルSS等の車両Cのボディの構成部品の内側に設けられていることで、車両Cにおける空きスペースを有効に利用することができる。さらに、開管部材2004をボディの構成部品内で配索して適宜な位置で車内空間A1に引き出すことにより、低音が反響しやすい位置に他端2004Bを配置して音波を放射させることができる。
【0156】
また、前記実施例では、開管部材における基本振動の周波数foと、閉管部材における基本振動の周波数fcと、が略等しく、各合成音響インピーダンスが周波数2fo(2fc)において極大値と極小値とが重なるように、閉管部材の長さが開管部材の長さの略半分に設定されているものとしたが、開管部材及び閉管部材の長さは適宜に設定されていればよい。例えば、開管部材の基本振動の周波数foと閉管部材における基本振動の周波数fcとが多少異なるように、開管部材及び閉管部材の長さが設定されていてもよい。閉管部材における基本振動の周波数fcが、開管部材における基本周波数foの0.75倍よりも大きく、且つ、1.25倍よりも小さい値であれば、特定の周波数における音圧の低下を抑制することができる。
【0157】
また、開管部材の音響インピーダンスが極大となる他の周波数に起因する音圧の低下を抑制するように、開管部材における基本振動の周波数foと閉管部材における基本振動の周波数fcとが設定されていてもよい。また、開管部材の音響インピーダンスが極小となることによる音圧の上昇を抑制するように、周波数foと周波数fcとが設定されていてもよい。
【0158】
また、前記実施例では、開管部材2004の他端2004Bが、前面S3と下面S2と運転席側の側面S4とが交わる角部C1を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A1を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面S1、下面S2、前面S3、一対の側面S4、後面)のうち任意の3つが交わる角部(
図20に示す角部C1〜C3)を向いて開口していればよい。また、管部材の他端は、これらの複数の面のうち2つが交わる交差部(
図20に示すR1〜R8)を向いて開口していてもよいし、1つの面に対向するように開口していてもよいし、面に沿っていてもよい。
【0159】
尚、角部C1は、車両Cの前面S3と下面S2と側面S4とが交わる角部であって、角部C2は、車両Cの後面S5と下面S2と側面S4とが交わる角部であって、角部C3は、車両Cの後面S5と上面S1と側面S4とが交わる角部である。また、交差部R1は、車両Cの前面S3と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R2は、車両Cの下面S2と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R3は、車両Cの前面S3と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R4は、車両Cの後面S5と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R5は、車両Cの後面S5と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R6は、車両Cの前面S3と上面S1とが交わる交差部であって、交差部R7は、車両Cの上面S1と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R8は、車両Cの後面S5と上面S1とが交わる交差部である。
【0160】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施例に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。