特許第6475358号(P6475358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6475358ケイ化銅の流動化方法及び同方法を用いたハロシランの調製プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475358
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】ケイ化銅の流動化方法及び同方法を用いたハロシランの調製プロセス
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/06 20060101AFI20190218BHJP
   C01B 33/107 20060101ALI20190218BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C01B33/06
   C01B33/107
   B01J8/24 311
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-545894(P2017-545894)
(86)(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公表番号】特表2018-513824(P2018-513824A)
(43)【公表日】2018年5月31日
(86)【国際出願番号】US2016022407
(87)【国際公開番号】WO2016153843
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年8月31日
(31)【優先権主張番号】62/137,330
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・バーグランド
(72)【発明者】
【氏名】アーロン・コッパーノール
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ジェームス・ハーダー
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリス・カトゥソウリス
(72)【発明者】
【氏名】ヴラディミール・プッシュカレフ
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−051390(JP,A)
【文献】 特開平10−029813(JP,A)
【文献】 特表2005−526612(JP,A)
【文献】 国際公開第03/099829(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137096(WO,A1)
【文献】 特開昭61−112085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
B01J 8/00−8/46
B01J 21/00−38/74
C07F 7/00−7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床装置中で均一な流動床を維持する方法であって、
(A)少なくとも400℃の温度で、95重量%超〜100%未満のケイ化銅粒子及び0超〜重量%の流動化添加剤粒子の粒子混合物を、前記流動床装置中で加熱することと、
(B)均一な流動化を維持するのに十分な速度で、流体を前記流動床装置中へ供給することと、を含み、
前記流動化添加剤粒子が、ケイ素粒子、シリカ粒子及び炭化ケイ素粒子からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記ケイ化銅粒子が10μm〜150μmの粒径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ケイ化銅粒子が前記混合物の95重量%〜98重量%の量で存在し、前記流動化添加剤粒子が前記混合物の2重量%〜5重量%の量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ケイ化銅が、(i)CuSi、(ii)CuSi、(iii)CuSi及び(iv)CuSi並びに(i)、(ii)、(iii)、(iv)の2種以上の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ケイ化銅がCuSiを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ケイ化銅が、実験式CuSiCrCoFeIrNiPdPtReRu(式中、下付き文字b、c、d、e、f、g、h、i、j、k及びmは各元素の存在モル量を表し、b>0、c>0、d≧0、e≧0、f≧0、g≧0、h≧0、i≧0、j≧0、k≧0及びm≧0であるが、d、e、f、g、h、i、j、k及びmのうちの少なくとも1つは0ではない)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(B)における温度が少なくとも500℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法がハロシラン調の流動床反応器プロセスにて使用される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
様々なハロシランは、種々の産業で用途が見出されている。ジオルガノジハロシラン、例えば、ジメチルジクロロシランは、広範なポリオルガノシロキサン、例えば、ポリジオルガノシロキサンを生成するための原材料として有用である。ヒドリドハロシラン、例えばトリクロロシラン(HSiCl)は、多結晶ケイ素を製造するための原材料として有用である。ハロシランの商業規模での生産は、有利には、流動床反応器内で実施される。
【0002】
流動床装置は、固体粒子及び流動化ガス又は蒸気を含む流動床を備える。流動床は、流体様特性を示す流動固体の不均質な混合物である。流動床における固体粒子と流動化ガス又は蒸気との接触は、固定床又は充填床における固体とガス又は蒸気との接触と比較して、大きく向上する。流動床は、蒸気及び/又はガス並びに固体の間の高レベルな接触が所望されるプロセス、例えばハロシランの製造プロセスで使用される。流動床における粒子は、4つのGeldartグループに分類することができるが、これは固体−流体の密度差及び粒径の図表上の位置によって規定される。流動床は、流動化される粒子のGeldartグループ分けに基づいて設計することができる。最小の緻密粒子はGeldartグループCに分類されるが、これは一般に、20マイクロメートル(μm)未満の粒径に相当する。GeldartグループAは、一般に20μm〜100μmの範囲の粒径を有する緻密粒子を指す。GeldartグループBの粒径は、一般に100μm〜500μmの範囲である。GeldartグループDは、最も大きな粒径を有する。GeldartグループDにおける緻密粒子は、一般に500μm越える粒径を有する。しかし、各グループのこれらの粒径は、粒子の密度及び粒子を流動化するのに使用されるガスに依存して変化する。
【0003】
ハロシランの調製プロセスにおいて有用なケイ化銅粒子は、A、B及び/又はC、あるいはA及び/又はBのGeldartグループ分類を有する。したがって、このような粒子を流動化して、ハロシラン製造の流動床反応器プロセスにてそれらを使用するための業界ニーズがある。
【発明の概要】
【0004】
流動床装置中で均一な流動床を維持する方法であって、
(A)少なくとも400℃の温度で、80%超〜100%未満のケイ化銅粒子及び0超〜20%の流動化添加剤粒子の粒子混合物を、流動床装置中で加熱することと、
(B)均一な流動化を維持するのに十分な速度で、流体を流動床装置中へ供給することと、を含む方法である。流体は、ガス、蒸気若しくは液体、又はガス、蒸気及び液体の2種若しくはそれ以上の混合物であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0005】
理論に縛られることを望むものではないが、流動床の流動化挙動を分類するために、床の高さに対する圧力損失が測定されて、空塔流速と比較されると考えられている。粒子は流動床装置中へ充填でき、流体はその中で粒子床全体にわたって流れる。低流速では、床は固定状態である。粒子床の最小流動化速度まで速度を増加させると、床は固定状態を離れ、流動化状態に入る。床が固定状態である場合、最小流動化速度に達するまでに、空塔流速が増加するにつれて、圧力損失は床の高さに対してほぼ直線的に増加する。最小流速に到達する場合、床の全重量は流体によって担持され、床は流動化状態である。流動床が気泡床状態である場合、流動床に対する圧力損失は、一般に、最小流速及びより高い流速で一定のままであろう。流速が増加するにつれて圧力損失が増加し続けるのであれば、これはスラッギング状態を示し、そこでは粒子が不均一な充填物の床の中で上昇する。速度が増加するにつれて、流動床における圧力損失が減少傾向を示すのであれば、次いでこれは噴出床状態を示す。気泡床流動化状態に維持することが望ましい。すなわち、本明細書において記載された方法の実施中に床が流動化される場合、床が気泡床状態であることが望ましい。スラッギング、噴出又はチャネリング(床の至る所にある通路が流体をあまりにも容易に通過させるので、実質的に、流動床装置の断面積で割った粒子床の重量未満の圧力損失になり、それにより非流動化を引き起こす)を有する流動化状態は、不均一であり、回避すべき望ましくない状態である。圧力損失が床断面積(例えば、流動床装置の断面積)で割った粒子床の重量と等しい場合、流動化は均一であると考えられる。維持するために、実際、均一な流動化はプロセスの過程の間、持続しなくてはならないとともに、溝形成傾向及び/又は粒子床支持を停止する傾向を避ける。例えば、均一な流動化は、流動床反応器中で実施される反応過程中に達成されなければならない。
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、ケイ化銅粒子が高温で粘着性挙動を示し、この粘着性挙動が不均一な流動床状態の一因であることを見出した。以下に提供された実施例で示されるように、流動床装置中でケイ化銅粒子を窒素ガスを用いて流動化させる試みは、低温で(すなわち、室温23℃〜400℃未満)成功し、均一な流動床を維持できた。しかし、同一条件下では、温度を400℃〜500℃未満まで上昇させることを除いて、GeldartグループA、B及びCのケイ化銅粒子を流動化させる試みは、床の均一性が不十分となり、温度を500℃以上の温度に上昇させると、ケイ化銅粒子は粘着性挙動を示して凝集した。したがって、装置中で凝集状の固定床を形成することにより、ごくわずかな圧力損失で流体が床を通り抜けられるほど凝集全体にわたる溝を有し、流動化しないようになった。
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、この挙動が、温度を下げることによる可逆性があることを見出した。本発明者らは、更に驚くべきことに、流動化添加剤粒子なしで凝集を形成するという同じプロセス条件下で、少量の流動化添加剤粒子を添加することにより、ケイ化銅粒子及び流動化添加剤粒子から得られる混合物が、400℃以上の温度にて均一な流動床を形成するようになることを見出した。
【0008】
したがって、均一な流動床を維持する方法は、
(A)少なくとも400℃の温度で、80%超〜100%未満のケイ化銅粒子及び0超〜20%の流動化添加剤粒子の粒子混合物を、流動床装置中で加熱することと、
(B)均一な流動化を維持するのに十分な速度で、流体を流動床装置中へ供給することと、を含む方法である。
【0009】
「ケイ化銅」とは、原子レベルで混合されたケイ素及び銅の両方を含む金属を意味し、原子の配置は、結晶原理及び結晶モデルを使用して記載され得る。ケイ化銅の例示的な相は、相図(Okamoto H.,J.Phase.Equilib.23巻、2002年、281〜282頁)中に見出され、Cu0.88Si0.12、Cu0.85Si0.15、Cu0.83Si0.17、Cu4.15Si0.85、Cu15Si及びCu3.17Siが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なケイ化銅としては、CuSi、CuSi、CuSi及びCuSiが挙げられるが、これらに限定されない。他の例示的なケイ化銅としては、κ−CuSi、γ−CuSi、δ−Cu4.88Si、ε−CuSi及びη−CuSiが挙げられるが、これらに限定されない。他の例示的なケイ化銅としては、η−CuSi、η’−CuSi、η”−CuSi、η−Cu3.17Si、η’−Cu3.17Si及びη”−Cu3.17Siが挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
工程(A)で使用されるケイ化銅を、予め生成したケイ化銅として工程(A)の反応器中に充填させてもよい。一実施形態では、本明細書において記載された方法を始める前に、ケイ化銅を流動床装置中へ充填させてもよい。あるいは、本明細書において記載された方法で使用されるケイ化銅は、その場で(in situ)形成されてもよい。例えば、本明細書において記載された方法で使用される流動床装置が中で化学反応が起こる流動床反応器である場合、ケイ化銅は流動床反応器に供給された反応物質からその場で形成されてもよい。
【0011】
ケイ化銅は、二元系ケイ化銅、例えばCuSi、CuSi、CuSi及びCuSiのうちの1種以上であってもよい。あるいは、ケイ化銅は、κ−CuSi、γ−CuSi、ε−CuSi及びη−CuSiのうちの1種以上であってもよい。あるいは、ケイ化銅は、CuSi、CuSi又はそれらの組み合わせであってもよい。あるいは、ケイ化銅は、CuSiであってもよい。あるいは、ケイ化銅は、CuSiあってもよい。ケイ化銅は、市販されている。ケイ化銅は、少なくとも5原子量%のケイ素、あるいは5原子量%〜12.23原子量%のケイ素であってもよく、その残りは銅である。
【0012】
あるいは、ケイ化銅は、ケイ素、銅並びにクロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)及びそれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種のその他の金属を含む、三元系以上のケイ化銅であってもよい。このケイ化銅は、実験式CuSiCrCoFeIrNiPdPtReRu(式中、下付き文字b、c、d、e、f、g、h、I、j、k及びmは各元素の存在モル量を表し、b>0、c>0、d≧0、e≧0、f≧0、g≧0、h≧0、i≧0、j≧0、k≧0及びm≧0であるが、d、e、f、g、h、I、j、k及びmのうちの少なくとも1つは0ではない)を有し得る。このケイ化銅では、b>cである。あるいは、2.5≦b≦8、c=1であり、d、e、f、g、h、I、j、k及びmのうちの1つが0よりも大きい。あるいは、その他の金属は、Ni、Pd及びPtからなる群から選択されてもよい。あるいは、その他の金属は、Fe及びRuからなる群から選択されてもよい。あるいは、その他の金属は、Crであってもよい。あるいは、その他の金属は、Co及びIrからなる群から選択されてもよい。あるいは、その他の金属は、Reであってもよい。
【0013】
あるいは、ケイ化銅は、式(M)(CuSi)(式中、Mは、クロム(Cr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、レニウム(Re)及びルテニウム(Ru)から選択されるその他の金属である)を有し得る。下付き文字nは、その他の金属のモル量を表し、0<n≦1である。下付き文字pは、ケイ素に対する銅のモル量を表し、2.5≦p≦8である。あるいは、3≦p≦5である。下付き文字oは、その他の金属の量に対する銅及びケイ素の合計モル量を表し、oは、(n+o)=100の量になるのに十分な値を有する。
【0014】
あるいは、本実施形態におけるケイ化銅は、式(M:Cu(1−q)Si(式中、Mは上記のようなその他の金属であり、下付き文字は、0<w≦0.01、あるいは0.001≦q≦0.01及び2.5≦w≦8である)を有し得る。あるいは、MはNi、Pd及びPtからなる群から選択される。あるいは、MはNi及びPdからなる群から選択される。あるいは、MはNiである。あるいは、MはPtである。この式の例示的なケイ化銅としては、(Ni0.01Cu0.99Si、(Pd0.01Cu0.99Si、(Pt0.01Cu0.99Si、(Ni0.01Cu0.99Si、(Pd0.01Cu0.99Si、(Pt0.01Cu0.99Si、(Ni0.01Cu0.99Si、(Pd0.01Cu0.99Si、(Pt0.01Cu0.99Si、(Cr0.01Cu0.99Si、(Co0.01Cu0.99Si及び(Fe0.01Cu0.99Siが挙げられる。これらのケイ化銅は、市販されている。あるいは、これらのケイ化銅は、従来の方法によって、例えば、電気アーク溶融装置などの加熱装置を用いて所定の化学量論組成の個々の元素の溶融物から調製してもよい。あるいは、三元系金属間化合物により、ケイ素粒子に2つの金属ハロゲン化物を真空含浸させて混合物を生成し、不活性雰囲気下で当該混合物を機械化学的に加工し、それによって、三元系ケイ化銅を含む反応生成物を生成すること、を含む、プロセスによって調製してもよい。上記ケイ化銅は、このようにして調製してよい。
【0015】
ケイ化銅粒子は、GeldartグループA、B及び/又はCに分類され得る。あるいは、ケイ化銅粒子は、GeldartグループA及び/又はGeldartグループBに分類され得る。あるいは、ケイ化銅粒子は、GeldartグループBに分類され得る。あるいは、ケイ化銅粒子は、GeldartグループAに分類され得る。ケイ化銅粒子の粒径は、粒子を流動化するために使用される流体及び流動床装置の構成の選択を含む様々な要因に依存する。しかし、ケイ化銅粒子の粒径は500μm以下、あるいは20μm〜300μm、あるいは45μm以下、あるいは<45μm〜300μm、あるいは45μm〜300μm、あるいは45μm〜150μmであってよい。光散乱法、顕微鏡検査又はレーザー回折が、粒径を測定するために使用され得る。
【0016】
工程(A)の反応器中へ充填させた流動化添加剤粒子は、流動化添加剤粒子なしでは均一な流動床を形成しない同一プロセス条件下で、400℃以上の温度にて、流動化添加剤粒子及びケイ化銅粒子を含む混合物に均一な流動床を形成させる任意物質の粒子である。流動化添加剤粒子は、400℃より大きく、あるいは500℃より大きく、あるいは850℃より大きい融点を有する。流動化添加剤粒子は、炭素、金属ケイ素、炭化ケイ素又はシリカのうちの1種の粒子であってもよい。あるいは、流動化添加剤粒子は、炭化ケイ素粒子又はシリカ粒子であってもよい。あるいは、流動化添加剤粒子は、シリカ粒子であってもよい。あるいは、流動化添加剤粒子は、炭化ケイ素粒子であってもよい。流動化添加剤粒子はケイ化銅粒子とは異なり、例えば、流動化添加剤は離散粒子の形態であってもよく、粒子混合物はケイ化銅の離散粒子及び流動化添加剤の離散粒子の物理的混合物であってもよい。物理的混合物は任意の便宜的手段、例えば、温度及び圧力の周囲条件下など(例えば、高温及び/又は高圧処理はしない)にて、金属銅粒子と流動化添加剤粒子とを混合することにより調製してもよい。流動化添加剤粒子は、組成的にケイ化銅粒子とは異なる。流動化添加剤粒子は、通常は、銅を含んでいない。すなわちケイ化銅粒子は、ICP−MS若しくはICP−AESにより測定した際に検出不可能な量の銅を含むか、又はケイ化銅粒子は、本明細書にて記載された方法において不均一な流動化を与えるような不十分な量の銅を含む。方法がハロシランの調製プロセスで使用される場合、流動化添加剤粒子はハロシランを製造する反応を妨げないように選択されてもよい。本実施形態では、流動化添加剤粒子は、ケイ素粒子、シリカ粒子又は炭化ケイ素粒子であってもよく、あるいは、流動化添加剤粒子はシリカ粒子又は炭化ケイ素粒子であってもよく、あるいは、流動化添加剤粒子はシリカであってもよい。あるいは、流動化添加剤粒子は炭化ケイ素であってもよい。
【0017】
流動化添加剤粒子の粒径は、ケイ化銅粒子について選択される粒径未満であってもよい。例えば、流動化添加剤粒子は、1マイクロメートル〜100μm、あるいは1〜3μm、あるいは20μm〜40μm、あるいは60〜90μmの範囲の粒径を有してもよい。理論に縛られることを望むものではないが、流動化添加剤粒子の粒径がより小さいと、ケイ化銅粒子表面をコーティングすることができる。
【0018】
流動化添加剤粒子の量は、400℃以上、あるいは500℃以上、あるいは23℃〜1400℃、あるいは200℃〜850℃、あるいは200℃〜850℃、あるいは400℃〜750℃、あるいは500℃〜750℃の温度で、床を均一に流動化させるのに十分な量である。流動化添加剤の量は、選択される添加剤のタイプ、選択される流体のタイプ、混合物中の粒子の粒径及び流動床装置の構成を含む様々な要因に依存するが、流動化添加剤の量は、工程(A)で反応器中に充填させた全ての粒子の総合重量を基準として0%超〜20%、あるいは0.5%〜25%、あるいは0.5%〜10%、あるいは2%〜10%、あるいは2%〜5%の範囲であってもよい。あるいは、混合物はケイ化銅粒子及び流動化添加剤粒子からなっていてもよい。
【0019】
理論に縛られることを望むものではないが、流動化添加剤粒子は、他の点では、流動化添加剤粒子の非存在下の高温にて、ケイ化銅粒子の凝集をもたらす粘着性挙動に寄与するケイ化銅粒子間の粘着性結合に衝突して壊すことができると考えられている。あるいは、流動化添加剤粒子が使用されるケイ化銅粒子よりも小さいサイズを有する場合、より小さい粒子はケイ化銅粒子の表面をコーティングしてもよく、それによってケイ化銅粒子に粘着性挙動を示させる拡散を防止し、ケイ化銅粒子の凝集を防いでいると考えられている。
【実施例】
【0020】
これらの実施例は、本発明のいくつかの実施形態を説明することを意図しており、本請求項に記載された本発明の範囲を限定するかのように解釈すべきではない。下記表で、’nd’は実施せず又は測定せずを意味する。以下の実施例で使用された式CuSiのケイ化銅粒子は、ACI Alloysから購入した。原料である銅及びケイ素は、99.99%純度であった。粒子は5mm〜10mmの粒径を有し、ジョークラッシャで粉砕し、ふるいにかけた。シリカは、Clariantから購入した。炭化ケイ素は、99.8%純度を有するβ相であり、Alfa Aesarから購入した。炭化ケイ素を、177μmスクリーンに通し、2つの異なる粒径分布を作り出した。
【0021】
これらの実施例で使用された流動床装置は2.54cmの外側石英管を含み、垂直位置に位置するリンドバーグブルー炉内にて加熱した。ガラス内側管は0.9525cmの内径を有しており、この中で流動化を実施した。窒素を使用して、この装置内で粒子を流動化した。窒素ガスを外側管内に供給し、下方に流して予熱した。次に、窒素はガラスフリットを通過して、内側管を通って上昇した。この内側管により、粒子が流動化するようになった。窒素が大気中へ流出される場合、内側管は、一緒に運ばれる任意の粒子を回収するように拡張頭部の中へと出ていく。
【0022】
この装置用の器具は、窒素フローをコントロールするためのロタメータ、内側管中のサーマルウェル(thermal well)の内側に配置された熱電対及び差圧トランスミッタを含む。差圧は、入口のガス圧力及び内側管を出て大気中へ向かう窒素の圧力の間で測定した。系の圧力損失が、フリットに起因するなど、床の圧力損失から分離されることを考慮するために、全ての温度において空の床で、系を較正した。
【0023】
各実施例では、最初に床温度を50℃に設定した。次に、全ての流動化レジームを測定した。窒素速度はゼロで始まり、ゆっくりと増加させた。差圧を連続的に監視し、床を通り抜ける速度が増加するにつれて、増加させた。窒素速度が増加する時に圧力損失が一定に保たれる場合、均一な流動化を確認した。また、目視観測を使用して、均一な流動化を確認した。
【0024】
均一な流動化が確立したら、窒素速度をゆっくりと低下させて流動化を停止し、床を固定状態に戻した。次に、この方法を、温度を上昇させて繰り返し、200℃、400℃、500℃、600℃、700℃及び750℃で試験した。流動化圧力損失に対しては、窒素速度を増加させる間に、圧力損失オーバーシュートによって、流動化挙動を数値化した。加えて、固定状態に戻る際、圧力損失対窒素速度の直線を計算した。圧力損失オーバーシュートとは、流動化の閾値と流動化圧力損失の間にある差を意味し、高アスペクト比を有する実験室用サイズの床を使用した関数である。流動化を開始させるには、流動化圧力損失を超えなければならない。しかし、流動化が始まると、流動化圧力損失は減少する(すなわち、均一な流動化が維持されている間の圧力損失)。
【0025】
比較例1では、流動床装置に45〜106μmの範囲の粒径を有する純CuSi(20g)を充填した。温度を50℃に設定した。窒素速度をゆっくりと増加させて、圧力損失が理論上の流動化圧力損失(2.67kPa(水中10.7))と等しくなった場合に均一な流動化を達成した。次に、窒素速度を低下させ、床を固定状態に戻した際に圧力損失を観察した。非流動化すると、床は固定されるようになり、圧力損失はゆっくりとゼロへ減少した。200℃で、同様の結果となった。400℃で、固定床通過圧力損失は、2.67kPa(水中10.7)の圧力損失で流動化するのに先立って、最大3.89kPa(水中15.6)に達した。それによって、不均一な流動化を示した。窒素速度が流動化を支持するのに十分ではない地点で、床は、圧力損失がほぼゼロになることを可能にする溝とともに凝集した。500℃で、固定床通過圧力損失は、一瞬の間だけ流動化するのに先立って最大6.53kPa(水中26.2)に達したが、均一な流動化は500℃で達成されなかった。床は直ちに崩壊して凝集状態になり、窒素が乱されずに通過できる溝を形成した。500℃より大きい温度では、粒子が凝集する前に、一般的に認められた任意の長さの時間での流動化は達成できなかった。
【0026】
実施例2では、流動床装置に45〜106マイクロメートルの粒径を有するCuSi粒子及び63〜88μmの粒径を有するケイ素粒子を充填した。CuSi粒子の量は装置中の粒子の95%で、ケイ素粒子の量は装置中の粒子の5%であった。粒子の合計量は全体で20グラムであった。50℃の温度で開始し、床が流動化するまで窒素速度をゆっくりと増加させた。次に、窒素速度を低下させ、床を固定状態に戻した際に圧力損失を観察した。600℃の温度までこれを繰り返した。500℃通過温度で、混合物をうまく流動化させることができた。500℃で、観察された最大圧力損失は、流動化の圧力損失(2.81kPa(水中11.3))と等しかった。窒素速度を低下させて固定床状態に戻ると、窒素速度(R=0.980)に対して直線的に圧力損失が減少し、凝集及びチャネリングの兆候は現れなかった。しかし、600℃では、粒子が溝の中に配置されて窒素が自由に通過可能なほど窒素速度が十分になると、床は凝集した。
【0027】
実施例3では、流動床装置に45〜106μmの粒径を有するCuSi粒子及び20〜40μmの粒径を有するシリカ粒子を充填した。CuSi粒子の量は装置中の粒子の95%で、シリカ粒子の量は装置中の粒子の5%であった。粒子の合計量は全体で20グラムであった。50℃の温度で開始し、床が流動化するまで窒素速度をゆっくりと増加させた。次に、窒素速度を低下させ、床を固定状態に戻した際に圧力損失を観察した。750℃の最高試験温度までこれを繰り返した。試験を実施した全ての温度で、粒子を流動化させることができた。750℃で、観察された最大圧力損失は2.2kPa(水中9.0)であり、流動化で観察された2.1kPa(水中8.3)という圧力損失よりも大きかった。窒素速度を低下させて固定床状態に戻ると、窒素速度(R=0.967)に対して直線的に圧力損失が減少し、凝集及びチャネリングの兆候は現れなかった。
【0028】
実施例4では、流動床装置に45〜106μmの粒径を有するCuSi粒子及び1〜3μmの粒径を有する炭化ケイ素粒子を充填した。CuSi粒子の量は装置中の粒子の95%で、炭化ケイ素粒子の量は装置中の粒子の5%であった。粒子の合計量は全体で20グラムであった。同一手順を使用し、50℃の温度で開始した。床が流動化するまで窒素速度をゆっくりと増加させた。次に、速度を低下させ、反応器を固定床状態に戻した。750℃の最高試験温度までこれを繰り返した。試験を実施した全ての温度で、混合物をうまく流動化させることができた。750℃で、観察された最大圧力損失は、流動化の圧力損失(2.0kPa(水中8.1))と等しかった。窒素速度を低下させて固定床状態に戻ると、窒素速度(R=0.985)に対して直線的に圧力損失が減少し、凝集及びチャネリングの兆候は現れなかった。
【0029】
実施例5では、流動床装置に45〜106μmの粒径を有するCuSi粒子及び1〜3μmの粒径を有する炭化ケイ素粒子を充填した。CuSi粒子の量は装置中の粒子の98%で、炭化ケイ素粒子の量は装置中の粒子の2%であった。同一手順を使用し、50℃の温度で開始した。床が流動化するまで窒素速度をゆっくりと増加させた。次に、速度を低下させ、反応器を固定床状態に戻した。750℃の最高試験温度までこれを繰り返した。試験を実施した全ての温度で、粒子を流動化させることができた。750℃で、観察された最大圧力損失は、流動化の圧力損失(2.3kPa(水中9.3))と等しかった。窒素速度を低下させて固定床状態に戻ると、窒素速度(R=0.976)に対して直線的に圧力損失が減少し、凝集及びチャネリングの兆候は現れなかった。
【0030】
比較例6では、ACI Alloys社(San Jose,California,U.S.A)から購入した式Cu0.816Si0.167Pd0.008Ni0.008のケイ化銅を、装置に充填した。このケイ化銅は、45〜106μmの粒径を有した。上記実施例と同一の手順に従った。400℃で試験する間、窒素速度は最小流動化速度未満まで低下するにつれて、床通過圧力損失は、ほぼゼロになった。これは、床における凝集及びチャネリングに起因した。流動化は、窒素速度を流動化に必要な速度よりも高い地点まで増加することにより、又は外部のエネルギー源(例えば振動)を供給することにより再開させることができた。500℃及び600℃では、凝集及びチャネリングがより厳しくなるとともに、同様の現象が観察された。700℃では、流動化は連続的に床に振動を与える間のみに発生し、750℃では、床は圧力損失値を記録するほど十分に流動化しなかった。750℃〜400℃へ冷却すると、流動化を再び達成することができた。このことは、追加金属を含むケイ化銅には、二元系ケイ化物と同様の凝集課題が存在することを示した。
【0031】
実施例7では、比較例6と同様に、式Cu0.816Si0.167Pd0.008Ni0.008のケイ化銅を、装置に再び充填した。流動化添加剤である粒径1〜3μmの炭化ケイ素を、炭化ケイ素粒子の重量が炭化ケイ素及びケイ化銅粒子の総重量の2%を構成するように添加し、装置内で粒子の混合物を形成した。上記実施例と同一の試験手順に従った。粒子混合物は、試験した全ての温度で、振動やその他の外部操作を伴うことなく、均一な流動化を維持することができた。750℃で、測定された最大圧力損失は、流動化の圧力損失(3.26kPa(水中13.1))と等しかった。窒素速度を低下させて固定床状態に戻ると、窒素速度(R=0.977)に対して直線的に圧力損失が減少し、凝集及びチャネリングの兆候は現れなかった。本実施例は、流動化添加剤が追加金属を含むケイ化銅に対して効果的であることを示した。
【0032】
表1は、流動化が持続し、床の凝集及びチャネリングをもたらさない最高試験温度を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
注意:5%シリカ及び炭化ケイ素の両試験結果について、最高試験温度はもっと高くなるであろうが、750℃よりも高い温度は今回設定した実施例において試験されなかった。
【0035】
表2は、圧力損失オーバーシュートの流動化圧力損失に対する割合、並びに窒素速度に対して速度低下させる間の圧力損失の直線性についてまとめている。表は、全ての測定温度で均一に流動化し、凝集及びチャネリングしなかった3つの純CuSi混合物についてのデータを示す。
【0036】
【表2】
【0037】
これらの実施例は、ケイ素、シリカ及び炭化ケイ素のそれぞれが、同一条件下でケイ化銅の流動化を促進することを示す。しかし、凝集又はチャネリングがない均一な流動化を維持できる温度は、ケイ素で達成する温度よりも高かったので、シリカ及び炭化ケイ素は、ケイ素よりもより良い結果となった。
【0038】
発明の概要及び要約は、参照により本明細書に組み込まれる。全ての比、パーセンテージ及びその他の量は、明細書の文脈により別途記載のない限り、重量によるものである。冠詞「a」、「an」、及び「the」はそれぞれ、明細書の文脈により別途記載のない限り、1つ又はそれ以上を指す。本明細書で使用される略語は以下の表Aに定義される。
【0039】
【表A】
【0040】
範囲の開示は、その範囲自体及びそこに含まれる任意のもの、並びに端点を含む。例えば、2.0〜4.0の範囲の開示は、2.0〜4.0の範囲だけでなく、2.1、2.3、3.4、3.5及び4.0も個別に含むことに加えて、範囲内に包含される任意の他の数も含む。更に、例えば、2.0〜4.0の範囲の開示は、例えば、2.1〜3.5、2.3〜3.4、2.6〜3.7及び3.8〜4.0の部分集合に加えて、にその範囲内に包含される任意の他の部分集合も含む。
【0041】
様々な実施形態の特定の特徴又は態様を記載するために本明細書が依拠するマーカッシュ群に関して、他の全てのマーカッシュ要素から独立したそれぞれのマーカッシュ群の各要素から、異なる、特別な、及び/又は予期しない結果が得られる可能性があることが理解されるべきである。マーカッシュ群の各要素は、個別に、及び/又はマーカッシュ群の任意の他の1つ若しくはそれ以上の要素と組み合わせて依拠されてもよく、各要素は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態のための適切な根拠を提供する。例えば、マーカッシュ群「アルキル、アリール、及び炭素環式」の開示には、その要素である個々のアルキル、下位群であるアルキル及びアリール、並びに任意の他の個々の要素及びその中に包含される下位群を含む。
【0042】
また、本開示の種々の実施形態を記載する際に依存する任意の範囲及び部分範囲が、添付の特許請求の範囲内に個別かつ集合的に入ることも理解されるべきであり、またかかる値が明白に記載されていない場合でも、全体及び/又は部分値を含む全ての範囲を記載し、考慮することが理解される。列挙された範囲及び部分範囲は本開示の種々の実施形態を十分に記述し、それらを可能にし、そのような範囲及び部分範囲は更に関連した半分、3分の1、4分の1、5分の1等と表現できる。ほんの一例として、範囲「400〜750」は、下の方の3分の1、すなわち、400〜516、中間の3分の1、すなわち、517〜633、及び上の方の3分の1、すなわち、634〜750に更に詳述でき、これらは、個別的かつ集合的に添付の特許請求の範囲内であり、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が個別的及び/又は集合的に依拠することがあり、適切な根拠を提供し得る。更に、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「以下」等の範囲を定義又は修飾する用語に関して、かかる用語が部分範囲及び/又は上限若しくは下限を含むことを理解されたい。別の例として、「少なくとも0.1%」の範囲は、本質的に、5%〜35%の部分範囲、10%〜25%の部分範囲、23%〜30%の部分範囲等を含み、各部分範囲は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が個別的及び/又は集合的に依拠することがあり、適切な根拠を提供する。最終的には、開示された範囲内の個々の数は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が依拠することがあり、適切な根拠を提供する。例えば、範囲「1〜9」は、様々な個々の整数、例えば、3、並びに小数点(又は分数)を含む個別の数、例えば、4.1を含み、これは添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が依拠することがあり、適切な根拠を提供する。
【0043】
独立請求項及び従属請求項(単一項従属及び多数項従属の両方とも)の全ての組合せの主題が明白に想到されるが、簡潔にするために詳細には記載されていない。本開示は例示的に記載したものであり、使用されている用語は、限定ではなく説明の言葉としての性質を持つものであることが理解されるべきである。前述した教示に照らして本開示の多くの修正形態及び変形形態が可能であり、本開示は、具体的に記述されているものとは異なる方法で実施することができる。