特許第6475365号(P6475365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6475365ルテニウムまたはオスミウムベースの錯体触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475365
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】ルテニウムまたはオスミウムベースの錯体触媒
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20190218BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20190218BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C07F15/00 ACSP
   C08C19/02
   B01J31/24 Z
【請求項の数】15
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2017-554304(P2017-554304)
(86)(22)【出願日】2016年4月12日
(65)【公表番号】特表2018-516863(P2018-516863A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】EP2016058009
(87)【国際公開番号】WO2016166097
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年10月16日
(31)【優先権主張番号】15163781.6
(32)【優先日】2015年4月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チェンリ・ウェイ
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/159365(WO,A1)
【文献】 特開平06−192323(JP,A)
【文献】 特開平09−100316(JP,A)
【文献】 特開2002−201180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08C
C08F
B01J
CAplus/REGISTRY/MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン(NHC)配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表し、
は、水素を表し、
は、
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C14アリー
表す)
を有する錯体。
【請求項2】
M、L、L、XおよびRは、請求項1において与えられたものと同じ意味を有し、
は、
【化2】
(式中
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、
H、NO、F、Cl、Br、IもしくはCN;または
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C14アリール;または
ピレン、ペリレン、ベンズ(a)ピレン;または
OR12、OC(=O)R12、C(=O)OR12、SO12、SON(R12もしくはSONa(ここで、R12は、H、直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキルを表す);または
(N(R13(ここで、Xは、ハライドであり、およびR13は、同一であるかもしくは異なり、かつH;直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル;置換もしくは非置換のC〜C14アリールを表す);または
トリス(C〜Cアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、トリス(C〜C14アリールオキシ)シリル−C〜Cアルキル、もしくはトリス(C〜C10シクロアルコキシ)シリル−C〜Cアルキ
ある)
を表す、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
前記N−複素環カルベン配位子Lは、ヘテロ原子としての少なくとも1個の窒素が環中に存在する環状カルベン型配位子を表す、請求項1または2に記載の錯体。
【請求項4】
およびRは、同一であるかまたは異なり、かつ水素、C〜C24アリール、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキルを表すか、またはそれらが結合されている炭素原子と一緒にシクロアルキルもしくはアリール構造を形成し、および
10およびR11は、同一であるかまたは異なり、かつ直鎖または分岐のC〜C10アルキル、C〜C10シクロアルキル、置換または非置換のC〜C24アリールを表す、請求項3に記載の錯体。
【請求項5】
前記NHC−配位子は、構造(IIIa)〜(IIIu)
【化3】
を有し、ここで、「Ph」は各場合にフェニルを表し、「Bu」は各場合にブチル、すなわち、n−ブチル、第二ブチル、イソ−ブチルまたは第三ブチルのいずれかを表し、「Mes」は各場合に2,4,6−トリメチルフェニルを表し、「Dipp」は各場合に2,6−ジイソプロピルフェニルを表し、および「Dimp」は各場合に2,6−ジメチルフェニルを表す、請求項1〜4のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項6】
Mは、ルテニウムを表し、
は、IMes、SIMes、IPrまたはSIPrを表し、
は、PCyまたはPPhを表し、
Xは、Clを表し、
は、水素を表し、
は、
【化4】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、水素、−C(=O)OCH、メトキシ、エトキシまたはイソ−プロポキシである)
を表す、請求項1に記載の錯体。
【請求項7】
Mは、ルテニウムを表し、
は、IMesまたはSIMesを表し、
は、PCyを表し、
Xは、Clを表し、
は、水素を表し、
は、
【化5】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、水素、メトキシ、エトキシまたはイソ−プロポキシである)
を表す、請求項1に記載の錯体。
【請求項8】
一般式(1)
MHX(CO)L (1)
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表す)
の化合物を、一般式(2)
【化6】
(式中、
は、水素を表し、
は、
H、NO;F、Cl、もしくはBr;または
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C14アリー
表す)
の化合物と反応させる工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の一般式(I)の錯体を調製する方法。
【請求項9】
一般式(1)
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表す)
の化合物を、一般式(2)
(式中、
は、水素を表し、および
は、
【化7】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、
H、−NO、F、Cl、Br、Iもしくは−CN;または
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル;または
置換もしくは非置換のC〜C14アリール;または
ピレン、ペリレン、ベンズ(a)ピレン;または
−OR12、−OC(=O)R12、−C(=O)OR12、−SO12、−SON(R12もしくはSONa(ここで、R12は、H、直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキルを表す);または
−(N(R13(ここで、Xは、ハライドであり、およびR13は、同一であるかもしくは異なり、かつH;直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル;置換もしくは非置換のC〜C14アリールを表す);または
トリス(C〜Cアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、トリス(C〜C14アリールオキシ)シリル−C〜Cアルキル、もしくはトリス(C〜C10シクロアルコキシ)シリル−C〜Cアルキ
ある)
を表す)
の化合物と反応させる工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一般式(1)の前記化合物は、RuHCl(CO)(IMes)(PCy)、RuHCl(CO)(SIMes)(PCy)、RuHCl(CO)(IPr)(PCy)、RuHCl(CO)(SIPr)(PCy)、RuHCl(CO)(IMes)(PPh)、RuHCl(CO)(SIMes)(PPh)、RuHCl(CO)(IPr)(PPh)およびRuHCl(CO)(SIPr)(PPh)からなる群から選択され、および一般式(2)の前記化合物は、フェニルアセチレン、1−エチニル−2−イソプロポキシベンゼン、1−エチニル−3−イソプロポキシベンゼン、2−エチニルアニソール、3−エチニルアニソール、4−エチニルアニソール、1−エチニル−3,5−ジメトキシベンゼンおよび5−エチニルイソフタル酸ジメチルからなる群から選択される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの錯体の存在下で、少なくとも1つのC=C二重結合を含む不飽和化合物を水素と接触させることにより、部分または完全飽和化合物を調製する方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの錯体の存在下で、不飽和ニトリルゴムの溶液または不飽和ニトリルゴムのラテックスを水素と接触させることを含む、部分または完全水素化ニトリルゴムを調製する方法。
【請求項13】
ニトリルゴムは、(i)少なくとも1つの共役ジエン、(ii)少なくとも1つのα,β−不飽和ニトリルモノマー、ならびに適切な場合には当技術分野において知られる1つ以上のさらなる共重合性モノマー、に基づく繰り返し単位を含むコポリマーもしくはターポリマーを表す、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ラテックスは水性エマルジョン重合法で調製される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
素化反応のための、触媒としての請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウムまたはオスミウムベースの錯体構造物、それらの合成、および不飽和基質を水素化するための触媒としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウムまたはオスミウムベースの触媒は、(非特許文献1)にまとめられているように長年様々な基質の均一水素化反応において重要な役割を果たしている。
【0003】
近年、新規のタイプの5配位ルテニウムまたはオスミウムベースの触媒が開発されている。
【0004】
(特許文献1)において、式(A)のルテニウムベースの錯体が開示されている(列3、行52)。これらの錯体は、炭素−炭素二重結合のための選択的水素化触媒として使用される。
【化1】
【0005】
(特許文献2)において、下に示されるような一般式(B)の触媒が開示されている。配位子Lは、N,N’−ビス[2,4,6−(トリメチル)フェニル]イミダゾリジン−2−イリデン(SIMes)などのNHC−配位子を表し、Lは、Lと同じ配位子、別のNHC−配位子、またはPCyなどのホスフィン配位子のいずれかを表す(式(B.a))。これらの触媒は、水素化ニトリルゴムを調製するために使用される。しかし、この触媒は、それが加湿空気中での安定性の点で制限されるために不利点を有する。
【化2】
【0006】
(非特許文献2)および(非特許文献3)において、タイプRuHCl(CO)(PR)(NHC)の混合NHC−ホスフィン変形、例えばRuHCl(CO)(PCy)(IMes)(式(B.b))が開示されている。強供与性NHCと組み合わせた不安定なホスフィンの使用は、触媒作用の速度にプラス効果を及ぼすことが分かった。
【化3】
【0007】
(非特許文献4)において、式(C)のルテニウムベースの錯体が開示されている。R部分についての意味は、それが余りにも嵩張っていない限り限定されない(ページ41)。NHC配位子は、代わりの置換基としてまったく開示されていない。この文献は、水素化反応のためのこの錯体の使用に関して言及してない。ニトリルゴムポリマーの存在下での触媒としての錯体の使用は開示されていない。
【化4】
【0008】
(非特許文献5)において、式(D)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ2869、スキーム4)。R部分の意味は、HまたはC=CHPhであり得、およびR’部分の意味は、H、PhまたはCMeであり得る。しかし、第2ホスフィン配位子の代わりにNHC−配位子を含む錯体はまったく開示されていない。この文献は、水素化反応での触媒としての錯体の使用に関して言及してない。
【化5】
【0009】
(非特許文献6)において、アリールホスフィン配位子を含む式(E)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ260、構造2a)。しかし、第2ホスフィン配位子の代わりにNHC−配位子を含む錯体はまったく開示されていない。この文献は、水素化反応での触媒としての錯体の使用を述べていない。
【化6】
【0010】
(非特許文献7)において、アリールホスフィン配位子を含む式(F)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ175、スキーム2)。R部分の意味は、N(CMe−4)、OMe、Me、COMeおよびNOに限定されている。しかし、PCyまたはNHC−配位子を有する構造物はまったく開示されていない。不飽和オレフィンの水素化反応のための触媒としての錯体の使用は開示されていない。
【化7】
【0011】
(非特許文献8)において、アルキルホスフィン配位子を含む式(G)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ3078、錯体7)。しかし、NHC−配位子および(シクロヘキシル)ホスフィンを含む構造物はまったく開示されていない。さらに、オレフィンの水素化反応のための触媒としての錯体の使用は開示されていない。
【化8】
【0012】
式(G)は、(非特許文献9)においても開示されている。
【0013】
(非特許文献10)において、アルキルホスフィン配位子を含む式(H)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ1244、錯体2)。1つのホスフィン配位子の代わりにNHC−配位子を含む構造物はまったく開示されていない。この文献は、不飽和オレフィンの水素化反応のための触媒としてのこの錯体の使用に関して言及してない。しかし、この文献は、5配位の16電子四角錐形錯体MHCl(CO)L(L=Pr)が不飽和炭化水素との多様な反応を提供すると述べている。
【化9】
【0014】
(非特許文献11)において、式(J)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ376、構造7)。しかし、NHC配位子はまったく開示されていない。この文献に記載されている錯体は、オレフィンメタセシスにおける触媒として不活性である。この文献は、水素化触媒としてのこれらの錯体の使用に関して言及してない。
【化10】
【0015】
(非特許文献12)および(特許文献1)において、上に述べられた式(J)のルテニウムベースの錯体が開示されている。この錯体は、スチレン−ブタジエンゴムの水素化のための触媒として使用される。水素化は、135℃以上の温度で行われる。しかし、第2ホスフィン配位子の代わりにNHC−配位子を含む錯体の構造物は開示されていない。さらに、ニトリルゴムのための触媒としての使用は開示されていない。
【0016】
(非特許文献13)において、上に述べられた式(J)および(G)のルテニウムベースの錯体(ページ116)が開示されている。これらの錯体は、ニトリル−ブタジエンゴム中のC=Cの水素化についてRuHCl(PCy触媒と同じレベルでの水素化活性を有する。しかし、第2ホスフィン配位子の代わりにNHC−配位子を含む錯体の構造物は開示されていない。
【0017】
(非特許文献14)において、下に示されるようにNHC−配位子(IMes)を含む式(K)のルテニウムベースの錯体(ページ626、構造8;ならびにページ629のセクション2.4での記載)が開示されている。R部分は、2,4,6−トリメチルフェニルの意味を有する。しかし、水素化触媒としての使用ならびに(アルキル)ホスフィン配位子を含む錯体構造物はまったく開示されていない。
【化11】
【0018】
(非特許文献15)において、アリールホスフィン配位子を含む式(L)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページC2)。NHC−配位子を含む構造物はまったく開示されていない。不飽和オレフィンの水素化のための触媒としての錯体の使用は開示されていない。
【化12】
【0019】
(非特許文献16)において、アリールホスフィン配位子を含む式(M)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ377)。NHC−配位子を含む構造物はまったく開示されていない。不飽和オレフィンの水素化のための触媒としての錯体の使用は開示されていない。
【化13】
【0020】
(非特許文献17)において、式(N)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ1090、構造4)。この錯体は、活性かつ選択的なアルケン二重結合異性化触媒であることが分かった。NHC−配位子を含む構造物はまったく開示されていない。さらに、この文献は、不飽和オレフィンの水素化のための、とりわけニトリルゴムの選択的水素化のための触媒としての錯体の使用に関して言及してない。
【化14】
【0021】
(非特許文献18)において、NHC−配位子とホスフィン配位子とを含む式(O)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ3114、スキーム2、錯体5)。NHC−配位子(SIPr)において、Dippは、すべての場合に2,6−ジイソプロピルフェニルを表す。しかし、この文献は、不飽和オレフィン、とりわけニトリルゴムの水素化のための触媒としての錯体の活性に言及していない。
【化15】
【0022】
(非特許文献19)において、式(P)のルテニウムベースの錯体が開示されている(ページ2827、錯体7)。小さい末端オレフィン(1−オクテン)の水素化が100℃、1〜4バールHおよび2〜18時間の反応時間で試験された。完全に空気中で安定な固体錯体がより高い温度での効率的な水素化触媒として記載されている。水素化生成物に加えて、この錯体は異性体をもたらす。非末端オレフィン2−オクテンに対する錯体の水素化活性はさらにより低い。フェニル環を含まないビニル配位子を有する錯体構造物はまったく開示されていない。この文献は、ニトリルゴムの水素化のための触媒としての錯体の活性に関して言及してない。
【化16】
【0023】
ニトリルゴムの水素化に関して、現行の工業的プロセスは、多くの場合、共触媒としてのPPhと一緒にウィルキンソン触媒(RhCl(PPh)のような高価なRhベースの触媒系を使用する。水素化後、高価なRhベースの触媒を除去およびリサイクルするために余分な時間および費用を費やす必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第5,057,581号明細書
【特許文献2】国際公開第2013/159365 A1号パンフレット
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Handbook of Homogeneous Hydrogenation,2007,Volume 1,Pages 45−70(Edited by De Vries,Johannes G.;Elsevier,Cornelis J)
【非特許文献2】H.M.Lee,D.C.Smith,Jr,Z.He,E.D.Stevens,C.S.Yi,S.P.Nolan.Organometallics,2001,20(4),794−797
【非特許文献3】N.J.Beach,J.M.Blacquiere,S.D.Drouin and D.E.Fogg.Organometallics,2009,28(2),441−447
【非特許文献4】Muecke,P.,Linseis,M.,Zalis,S.,Winter,R.F.Inorganica Chmica Acta 374(2011)36−50
【非特許文献5】Wilton−Ely,J.D.E.T,Pogorzelec,P.J.,Honarkhah,S.J.,Reid,D.H.,Tocher,D.A.Organometallics,2005,24,2862−2874
【非特許文献6】Maurer,J.,Linseis,M.,Sarkar,B.,Schwederski,B.,Niemayer,M.,Kaim,W.,Zalis,S.,Anson,C.,Zable,M.,Winter,R.F.J.Am.Chem.Soc.2008,130,259−268
【非特許文献7】Farmer,J.D.,Man,W.Y.,Fox,M.A.,Yufit,D.S.,Howard,J.A.K.,Hill,A.F.,Low,P.J.Journal of Organometallic Chemistry 721−722(2012)173−185
【非特許文献8】Buil,M.L.,Esteruelas,M.A.,Goni,E.,Olivan,M.,Onate,E.Organometallics,2006,25,3076−3083
【非特許文献9】Werner,H.,Estruelas,M.A.,Otto,H.Organometallics 1986,5,2295−2299
【非特許文献10】Marchenko,A.V.,Gerard,H.,Eisenstein,O.,Caulton,K.G.New J.Chem.,2001,25,1244−1255
【非特許文献11】Jung,S.,Brandt,C.D.,Wolf,J.,Werner,H.Dalton Trans.2004,375−383
【非特許文献12】Pan,Q.,Rempel,G.L.Macromol.Rapid Commun.2004,25,843−847
【非特許文献13】Martin,P.,McMagnus,N.T.,Rempel,G.L.Journal of Molecular Catalysis A:Chemical 126(1997)115−131
【非特許文献14】Chatwin,S.L.,Mahon,M.F.,Prior,T.J.,Whittlesey,M.K.Inorganica Chimica Acta 363(2010)625−632
【非特許文献15】Roper,W.R.,Wright,L.J.Journal of organometallic chemistry 142(1)(1977)C1−C6
【非特許文献16】Rickard,C.E.F.,Roper,W.R.,Taylor,G.E.,Waters,J.,Wright,L.J.Journal of Organometallic Chemistry,389(1990)375−388
【非特許文献17】Dinger,M.B.,Mol,J.C.Organometallics 2003,22,1089−1095
【非特許文献18】Banti,D.,Mol,J.C Journal of Organometallic Chemistry 689(2004)3113−3116
【非特許文献19】Dinger,M.B.,Mol,J.C.Eur.J.Inorg.Chem.2003,2827−2833
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、一方では優れた水素化触媒であり、他方では空気または水中で高い安定性を示す新規のルテニウムまたはオスミウムベースの錯体を提供することが本発明の目的であった。特に、そのような錯体は、周囲空気反応条件での大規模な工業的使用に向けて高い水素化活性を提供するべきである。
【0027】
本発明の代わりの目的は、もはや共触媒が使用される必要がまったくないか、またはもはや触媒の回収およびリサイクルが必要ではなく、触媒費用の削減と、その後に実質的なプロセス費用の削減とをもたらすであろう高活性の錯体触媒を提供することであった。公知触媒を使用して今日得られるような商業的に入手可能な水素化ポリマーと比べて、任意の新しい錯体触媒を使用することによって得られる水素化ポリマーは、ポリマー特性およびその加硫挙動の点で有意な変化を示してはならないことが重要である。
【0028】
本発明のさらなる代わりの目的は、最先端技術触媒の課題:ゲル形成なし、より高い活性、空気または有機溶液中でのより高い安定性、長期にわたるより高い安定性、高温でのより高い安定性、より低い温度での高い水素化活性、および安定性と活性との間のバランシングのいくつかを克服することであった。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この目的は、ここで、驚くべきことに、ホスフィン配位子と、N−複素環カルベン(「NHC」)配位子と、ビニル配位子とを含む新規のルテニウムまたはオスミウムベースの錯体を提供することによって解決された。
【0030】
本発明は、一般式(I)
【化17】
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン(NHC)配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表し、
は、水素を表し、
は、
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル
を表す)
を有する新規の錯体に関する。
【0031】
一般式(I)の新規の錯体は、新規の方法に従って調製することができる。
【0032】
したがって、本発明はまた、一般式(I)の錯体を調製する方法に関する。
【0033】
一般式(I)の新規の錯体は、不飽和化合物の水素化反応に優れて好適である。
【0034】
したがって、本発明はまた、少なくとも1つのC=C二重結合を含む幅広い不飽和化合物の水素化のための触媒としての錯体の使用を含む。好ましくは、錯体は、ニトリルゴムの水素化のために使用される。より好ましくは、錯体は、ニトリルゴムの溶液水素化またはラテックス水素化のために使用される。
【0035】
さらに、本発明はまた、一般式(I)に従った少なくとも1つの化合物の存在下で、少なくとも1つのC=C二重結合を含む不飽和化合物を水素と接触させることにより、部分または完全飽和化合物を調製する方法に関する。
【0036】
本発明による新規の錯体触媒の利点は、NBR水素化について驚くほど優れたターンオーバー頻度(TOF)と、水分がある空気中でのより高い長期貯蔵とである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
一般式(I)に従った新規の触媒は、幅広い不飽和化合物を、これらの不飽和化合物が低分子量物質、オリゴマーまたはポリマーであろうと、水素化するのに優れて好適である。一般式(I)に従った新規の錯体触媒は、ニトリルゴムのような不飽和ポリマーを水素化するのに特に好適であり、共触媒の使用がもはや必要ではなく、かつ使用される触媒の量が、後の触媒の除去およびリサイクルが省略され得るように低いほど非常に高い水素化活性を示す。本発明の一実施形態では、ニトリルゴムは、例えば約22ppmのRu(0.015phrの錯体触媒に相当する)という極めて低いRu金属ローディングで新規の錯体触媒を使用して4時間以内、好ましくは2時間以内、さらにより好ましくは1時間以内に90%超の転化率まで、好ましくは95%超の転化率まで水素化することができる。
【0038】
新規の錯体触媒は、空気または水に曝されるときに非常に高い安定性を示す。ニトリルゴムの水素化に関して、新規の触媒は100℃以上で非常に活性であることが示された。ニトリルゴムが新規の錯体の存在下で水素化される場合、結果として生じる水素化ニトリルゴムはいかなるゲル形成も示さない。
【0039】
本特許出願の目的のために用いられる用語「置換された」は、示されたラジカルまたは原子上の水素原子が別の基または部分で置き換えられていることを意味するが、ただし、示された原子の原子価は超過されず、この置換は安定な化合物をもたらす。
【0040】
本発明の目的のために、一般用語または好ましい範囲で上にまたは下に与えられる部分の定義、パラメータまたは説明は、すべて任意の方法で互いに組み合わせることができ、このように開示されるように、すなわち、それぞれの範囲および好ましい範囲の組み合わせを含めて考慮されるものとする。
【0041】
錯体触媒:
本発明は、一般式(I)
【化18】
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン(NHC)配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表し、
は、水素を表し、
は、
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含む、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル
を表す)
を有する新規の錯体に関する。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明は、一般式(I)
(式中、
、L、XおよびRは、上と同じ意味を有し、
は、
【化19】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、
H、−NO、F、Cl、Br、Iもしくは−CN;または
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル;または
ピレン、ペリレン、ベンズ(a)ピレン;または
−OR12、−OC(=O)R12、−C(=O)OR12、−SO12、−SON(R12もしくは−SONa(ここで、R12は、H、直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチルを表す);または
−(N(R13(ここで、Xは、ハライド、好ましくはクロリドであり、およびR13は、同一であるかもしくは異なり、かつH;直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル;最も好ましくは−N(CH)(CCl、−N(CCl、−NHCl、−NH(CHCl、もしくは−N(CHClを表す);または
トリス(C〜Cアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、トリス(C〜C14アリールオキシ)シリル−C〜Cアルキル、もしくはトリス(C〜C10シクロアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、好ましくはトリスエトキシシリル−n−プロピル
である)
を表す)
の錯体を提供する。
【0043】
より好ましい実施形態では、本発明は、一般式(I)
(式中、
Mは、ルテニウムを表し、
は、IMes、SIMes、IPrまたはSIPrを表し、
は、PCyまたはPPhを表し、
Xは、Clを表し、
は、水素を表し、
は、
【化20】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、水素、−C(=O)OCH、メトキシ、エトキシまたはイソ−プロポキシである)
を表す)
の錯体を提供する。
【0044】
さらにより好ましい実施形態では、本発明は、一般式(I)
(式中、
Mは、ルテニウムを表し、
は、IMesまたはSIMesを表し、
は、PCyを表し、
Xは、Clを表し、
は、水素を表し、
は、
【化21】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、水素、メトキシ、エトキシまたはイソ−プロポキシである)
を表す)
の錯体を提供する。
【0045】
金属M:
一般式(I)に従った金属Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表す。
【0046】
好ましい実施形態では、金属Mは、ルテニウムである。
【0047】
ビニル−配位子残基:
一般式(I)に従ったビニル−配位子の残基RおよびRは、以下の意味を有する:
は、水素を表し、
は、
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル
を表す。
【0048】
好ましい実施形態では、一般式(I)に従ったビニル−配位子の残基RおよびRは、以下の意味を有する:
は、水素を表し、および
は、
【化22】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、
H、−NO、F、Cl、Br、I、−CN;または
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル;または
ピレン、ペリレン、ベンズ(a)ピレン;または
−OR12、−OC(=O)R12、−C(=O)OR12、−SO12、−SON(R12もしくは−SONa(ここで、R12は、H、直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチルを表す);または
−(N(R13(ここで、Xは、ハライド、好ましくはクロリドであり、およびR13は、同一であるかもしくは異なり、かつH;直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル;最も好ましくは−N(CH)(CCl、−N(CCl、−NHCl、−NH(CHCl、もしくは−N(CHClを表す);または
トリス(C〜Cアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、トリス(C〜C14アリールオキシ)シリル−C〜Cアルキル、もしくはトリス(C〜C10シクロアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、好ましくはトリスエトキシシリル−n−プロピル
である)
を表す。
【0049】
一般式(I)が好ましいが、トランス−立体配置に限定されない。
【0050】
NHC−配位子:
一般式(I)において、N−複素環カルベン配位子は、少なくとも1個の窒素がヘテロ原子として環中に存在する、環状カルベン型配位子を表す。この環は、環原子上で異なる置換パターンを示すことができる。好ましくは、この置換パターンは、ある程度の立体的クローディングを提供する。
【0051】
本発明に関連して、N−複素環カルベン配位子(本明細書では以下で「NHC−配位子」と言われ、一般式(I)において「NHC」と描かれる)は、好ましくは、イミダゾリンまたはイミダゾリジン部分をベースとしている。
【0052】
M、Y、R〜Rの一般的なならびに好ましい、より好ましい、特に好ましい意味で上に開示されたような一般式(I)において、NHC−配位子Lは、典型的には、一般式(IIa)〜(IIg)
【化23】
(式中、
8、、R10およびR11は、同一であるかもしくは異なり、かつ水素、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、第二ブチル、第三ブチル、もしくはn−ペンチル;C〜C20シクロアルキル、好ましくはシクロヘキシルもしくはアダマンチル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、好ましくはフェニル、C〜C25アルカリール、好ましくは2,4,6−トリメチルフェニル(Mes)もしくは2,4,6−トリイソプロピルフェニル(Trip)、C〜C20ヘテロアリール、C〜C20ヘテロシクリル、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C20アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アリールチオ、−Si(R)、−O−Si(R)、−O−C(=O)R、C(=O)R、−C(=O)N(R)、−NR−C(=O)−N(R)、−SON(R)、−S(=O)R、−S(=O)R、−O−S(=O)R、ハロゲン、ニトロまたはシアノを表し;式中、R、R、R10およびR11の意味に関するすべての直上の出現において、基Rは、同一であるかもしくは異なり、かつ水素、C〜C30アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、またはC〜C20ヘテロアリールを表す)
に対応する構造を有する。
【0053】
これらの式(IIa)〜(IIg)において、ルテニウムまたはオスミウム金属中心と結合している炭素原子は、形式上カルベン炭素である。
【0054】
適切な場合、R、R、R10、およびR11の1つ以上は互いに独立して、1つ以上の置換基、好ましくは直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜C10アルコキシ、C〜C24アリール、C〜C20ヘテロアリール、C〜C20ヘテロシクリル、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメートおよびハロゲンからなる群から選択される官能基で置換され得、上述の置換基は、化学的に可能な程度に、ハロゲン、特に塩素もしくは臭素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシおよびフェニルからなる群から好ましくは選択される、1つ以上の置換基でさらに置換されてもよい。
【0055】
単に明確にするために、本特許出願における一般式(IIa)および(IIb)に描かれているNHC−配位子の構造は、それぞれ、そのようなNHC−配位子についての文献に頻繁にまた見いだされ、かつNHC−配位子のカルベン性質を強調している構造(IIa−(i))および(IIb−(i))と均等であることが書き加えられてもよい。これは、さらなる構造(IIc)〜(IIe)ならびに下に描かれる好ましい関連構造(IIIa)〜(IIIu)に類似して適用される。
【化24】
【0056】
一般式(I)の触媒における好ましいNHC−配位子において、
およびRは、同一であるかまたは異なり、かつ水素、C〜C24アリール、より好ましくはフェニル、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、第二ブチル、イソ−ブチルもしくは第三ブチルを表すか、またはそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキルもしくはアリール構造を形成する。
【0057】
およびRの好ましいおよびより好ましい意味は、非置換か、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキルまたはC〜C10アルコキシ、C〜Cシクロアルキル、C〜C24アリール、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメートおよびハロゲンからなる群から選択される官能基からなる群から選択される1つ以上のさらなる置換基で置換されているかのいずれかであってもよく、すべてのこれらの置換基はさらに、非置換であるか、ハロゲン、特に塩素もしくは臭素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシおよびフェニルからなる群から好ましくは選択される、1つ以上の置換基で置換されているかのいずれかであってもよい。
【0058】
一般式(I)の触媒におけるさらに好ましいNHC−配位子において、
10およびR11は、同一であるかまたは異なり、かつ好ましくは、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル、より好ましくはイソ−プロピルもしくはn−ペンチル、C〜C10シクロアルキル、より好ましくはアダマンチル、置換もしくは非置換のC〜C24アリール、より好ましくはフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、もしくは2,4,6−トリメチルフェニル、C〜C10アルキルスルホネート、またはC〜C10アリールスルホネートを表す。
【0059】
10およびR11のこれらの好ましい意味は、非置換であるか、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキルもしくはC〜C10アルコキシ、C〜Cシクロアルキル、C〜C24アリール、およびヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメートおよびハロゲンからなる群から選択される官能基からなる群から選択される1つ以上のさらなる置換基で置換されているかのいずれかであってもよく、すべてのこれらの置換基はさらに、非置換であるか、好ましくはハロゲン、特に塩素もしくは臭素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシおよびフェニルからなる群から選択される、1つ以上の置換基で置換されているかのいずれかであってもよい。
【0060】
一般式(I)の触媒におけるさらに好ましいNHC−配位子において、
およびRは、同一であるかまたは異なり、かつ水素、C〜C24アリール、より好ましくはフェニル、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、第二ブチル、およびイソ−ブチルを表すか、またはそれらが結合している炭素原子と一緒にシクロアルキルもしくはアリール構造を形成し、および
10およびR11は、同一であるかまたは異なり、かつ好ましくは直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル、より好ましくはイソ−プロピルもしくはn−ペンチル、C〜C10シクロアルキル、より好ましくはアダマンチル、置換もしくは非置換のC〜C24アリール、より好ましくはフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、C〜C10アルキルスルホネート、またはC〜C10アリールスルホネートを表し、
式中、R、R、R10およびR11のすべてのそのような意味は、非置換であるか、または一方ではRおよびRに関して、他方ではR10およびR11に関して上に概説されたものと同じ置換パタ−ンで置換されていることができる。
【0061】
特に好ましいNHC−配位子は、次の構造(IIIa)〜(IIIu)
【化25】
(式中、
「Ph」は各場合にフェニルを表し、「Bu」は各場合にブチル、すなわち、n−ブチル、第二ブチル、イソ−ブチルもしくは第三ブチルのいずれかを表し、「Mes」は各場合に2,4,6−トリメチルフェニルを表し、「Dipp」はすべての場合に2,6−ジイソプロピルフェニルを表し、および「Dimp」は各場合に2,6−ジメチルフェニルを表す)
を有する。NHC−配位子が「N」(窒素)のみならず、「O」(酸素)も環中に含む場合、R、R、R10および/またはR11の置換パターンはある種の立体的な込み合いを提供することが好ましい。
【0062】
(ホスフィン配位子):
一般式(I)において、配位子Lは、ホスフィン配位子を表す。
【0063】
好ましい配位子Lは、ジ−第三ブチルアルキル−、トリシクロヘキシル−、トリアリール−またはトリ−イソプロピル−ホスフィンなどの嵩高いホスフィン配位子である。
【0064】
より好ましい配位子Lは、シクロアルキルホスフィンまたはアリールホスフィンである。
【0065】
X配位子:
本発明において、Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BF、より好ましくはF、Cl、Br、さらにより好ましくはClを表す。配位子が負電荷を有する場合、対イオンは、典型的には、任意のタイプのもの、例えばH、アルカリ金属カチオンまたは有機カチオンであり得る。
【0066】
一般式(I)のルテニウムまたはオスミウムベースの錯体を調製する方法
新規の高活性触媒は、可能な経路として、例えばRuH(CO)Cl(PCyなどの商業的に入手可能な原材料から出発して合成することができる。一般式(I)の化合物は、一般式(1)
【化26】
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表す)
の化合物を、一般式(2)
【化27】
(式中、
は、水素を表し、および
は、
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニルであって、そのアリール基、より好ましくはフェニル基は、非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル
を表す)
の化合物と反応させることによって調製することができる。
【0067】
本方法の好ましい実施形態:
本方法の好ましい実施形態では、一般式(I)の化合物は、一般式(1)
(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムを表し、
Xは、F、Cl、Br、I、−OH、−CF、ピリジン、−OC、−CFCOO、−CHSO、または−BFを表し、
は、N−複素環カルベン配位子を表し、
は、ホスフィン配位子を表す)
の化合物を、一般式(2)
(式中、
は、水素を表し、および
は、
【化28】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、
H、−NO、F、Cl、Br、Iもしくは−CN;または
直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;または
置換もしくは非置換のC〜C10シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、より好ましくはシクロペンチル、シクロヘキシルもしくはシクロヘプチル;または
非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル;
ピレン、ペリレン、ベンズ(a)ピレン;または
−OR12、−OC(=O)R12、−C(=O)OR12、−SO12、−SON(R12もしくは−SONa(ここで、R12は、H、直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチルを表す);または
−(N(R13(ここで、Xは、ハライド、好ましくはクロリドであり、R13は、同一であるかもしくは異なり、かつH;直鎖もしくは分岐の、置換もしくは非置換のC〜C14アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、より好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、もしくは第三ブチル;非置換であるか、または1、2、3、4もしくは5つの同一のもしくは異なる置換基を含むかのいずれかである、置換もしくは非置換のC〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリール、より好ましくはフェニル;最も好ましくは−N(CH)(CCl、−N(CCl、−NHCl、−NH(CHCl、もしくは−N(CHClを表す);または
トリス(C〜Cアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、トリス(C〜C14アリールオキシ)シリル−C〜Cアルキル、もしくはトリス(C〜C10シクロアルコキシ)シリル−C〜Cアルキル、好ましくはトリスエトキシシリル−n−プロピルである)
を表す)
の化合物と反応させることによって調製することができる。
【0068】
本方法のより好ましい実施形態では、一般式(I)の化合物は、一般式(1)
(式中、
Mは、ルテニウムを表し、
Xは、Clを表し、
は、IMes、SIMes、IPrまたはSIPrを表し、
は、PCyまたはPPhを表す)
の化合物を、一般式(2)
(式中、
は、水素を表し、および
は、
【化29】
(式中、
、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに個別に、水素、−C(=O)OCH、メトキシ、エトキシまたはイソ−プロポキシである)
を表す)
の化合物と反応させることによって調製することができる。
【0069】
さらに典型的な反応パラメータ:
方法は、典型的には、
・エーテル、より好ましくはTHF、ジオキサン、およびジエチルエーテル、
・アルカン、より好ましくはヘキサン、
・芳香族溶媒、より好ましくはトルエン、およびベンゼン、
・ハロゲン化炭化水素、より好ましくはクロロホルムおよびクロロベンゼン、
・エステル、より好ましくは酢酸エチル、
・ケトン、より好ましくはメチルエチルケトンまたはアセトン、ならびに
・アルコール、より好ましくはメタノール、エタノールおよびメチルオキシエタノール
からなる群から好ましくは選択される、1つ以上の有機溶媒中で行われる。
【0070】
溶媒は純粋で使用され、純粋とは、不純物の含有量が1重量%未満、より好ましくは不純物を含まない状態を意味する。溶媒は、特に好ましくは、いかなる他の触媒または共触媒も含まない。
【0071】
典型的な、好ましい化合物(1):
化合物(1)は、典型的には、商業的に入手可能であるか、または当業者に公知の方法(例えば国際公開第A−2013/159365号パンフレット)に従って合成することができるかのいずれかである。
【0072】
好ましくは、一般式(1)の次の化合物を使用することができる。
(1.a)RuHCl(CO)(IMes)(PCy)、
(1.b)RuHCl(CO)(SIMes)(PCy)、
(1.c)RuHCl(CO)(IPr)(PCy)、
(1.d)RuHCl(CO)(SIPr)(PCy)、
(1.e)RuHCl(CO)(IMes)(PPh)、
(1.f)RuHCl(CO)(SIMes)(PPh)、
(1.g)RuHCl(CO)(IPr)(PPh)、または
(1.h)RuHCl(CO)(SIPr)(PPh)。
【0073】
典型的な、好ましい化合物(2):
一般式(2)の化合物は、容易に調製することができるアルキンを表す。そのような調製は、当技術分野においてよく知られている。
【0074】
一般式(2)の化合物の好ましい例は下記である。
(2.a)フェニルアセチレン、
(2.b)1−エチニル−2−イソプロポキシベンゼン
(2.c)1−エチニル−3−イソプロポキシベンゼン
(2.d)2−エチニルアニソール
(2.e)3−エチニルアニソール
(2.f)4−エチニルアニソール
(2.g)1−エチニル−3,5−ジメトキシベンゼン
(2.h)5−エチニルイソフタル酸ジメチル
【化30】
【0075】
一般式(I)の典型的な好ましい錯体
一般式(I)に該当する以下の好ましい錯体は、以下のN−複素環カルベンが使用される場合に得ることができる。
N,N’−ビス(メシチル)イミダゾール−2−イリデンを表す「IMes」、
N,N’−ビス(メシチル)イミダゾリジン−2−イリデンを表す「SIMes」、
N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデンを表す「IPr」、
N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデンを表す「SIPr」、
N,N’−ビス(第三ブチル)イミダゾール−2−イリデンを表す「ItBu」
【化31A】
【化31B】
【0076】
本特許出願および発明の本目的のために、一般用語または好ましい範囲で上にまたは下に与えられるラジカルの定義、パラメータまたは説明は、すべて任意の方法で、すなわち、それぞれの範囲および好ましい範囲の組み合わせを含めて互いに組み合わせることができる。
【0077】
錯体の使用および水素化化合物を調製する方法:
一般式(I)の新規のルテニウムおよびオスミウムベースの錯体は、多種多様な不飽和有機およびポリマー材料の水素化用の触媒として、単独でまたは好適な共触媒または添加剤との組み合わせでのいずれかで有用である。しかし、いかなる共触媒または添加剤も添加することは必要ではないことが判明した。
【0078】
したがって、本発明は、水素化反応用の触媒としての一般式(I)の錯体の使用に関する。本発明はまた、少なくとも1つのC=C二重結合を含む不飽和化合物を、一般式(I)に従った少なくとも1つの化合物の存在下で水素と接触させることにより、部分または完全飽和の化合物を調製する方法に関する。
【0079】
水素化される基質:
本発明の方法は、末端オレフィン、内部オレフィン、環状オレフィン、共役オレフィン、ならびに少なくとも1つの炭素−炭素二重結合とさらに少なくとも1つのさらなる極性の不飽和二重もしくは三重結合とを有する任意のさらなるオレフィンなどの、様々な基質の水素化に幅広く適用できる。本方法はまた、炭素−炭素二重結合を有するポリマーの水素化にも適用できる。そのようなポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーまたはクォーターポリマーを表してもよい。
【0080】
末端オレフィンまたはアルケンとして、一般式C2nを有する末端不飽和炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物を水素化することが可能である。末端オレフィンは、任意の長さの直鎖もしくは分岐の炭化水素化合物、好ましくは1−ヘキセンであり得る。
【0081】
内部オレフィンまたはアルケンとして、一般式C2nを有する内部不飽和炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物を水素化することが可能である。内部オレフィンは、任意の長さの直鎖もしくは分岐の炭化水素化合物、好ましくは2−ヘキセンであり得る。
【0082】
環状オレフィンまたはシクロアルケンとして、一般式C2n−2を有する環状不飽和炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物を水素化することが可能である。環状オレフィンは、任意のサイズの環、好ましくはシクロヘキセンであり得る。
【0083】
共役オレフィンまたはジアルケンとして、共役炭素−炭素不飽和二重結合を有する炭化水素化合物を水素化することが可能である。共役は、任意の長さの直鎖もしくは分岐の炭化水素化合物、好ましくはスチレンであり得る。
【0084】
オレフィンとして、少なくとも1つの不飽和炭素−炭素二重結合と少なくとも1つの他の不飽和極性二重もしくは三重結合とを有する炭化水素化合物を選択的に水素化することも可能である。そのような不飽和極性結合は、意外にも変わらないままである。そのようなオレフィン中の炭素−炭素二重結合は、末端、内部、環状および共役のものなどのいかなる性質のものでもあり得る。追加の不飽和極性結合は、いかなる性質のものでもあり得るが、炭素−窒素、炭素−リン、炭素−酸素、および炭素−硫黄不飽和極性結合が好ましい。
【0085】
炭素−炭素二重結合を有するポリマーも本発明の方法にかけられてもよい。そのようなポリマーは好ましくは、少なくとも1つの共役ジエンモノマーをベースとする繰り返し単位を含む。
【0086】
共役ジエンは、いかなる性質のものでもあり得る。一実施形態では、(C〜C)共役ジエンが使用される。1,3−ブタジエン、イソプレン、1−メチルブタジエン、2,3−ジメチル−ブタジエン、ピペリレン、クロロプレン、またはそれらの混合物が好ましい。1,3−ブタジエン、イソプレンまたはそれらの混合物がより好ましい。1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0087】
さらなる実施形態では、モノマー(a)として少なくとも1つの共役ジエンのみならず、少なくとも1つのさらなる共重合性モノマー(b)の繰り返し単位をまたさらに含む、炭素−炭素二重結合を有するポリマーが、本発明の方法にかけられてもよい。
【0088】
好適なモノマー(b)の例は、エチレンまたはプロピレンなどの、オレフィンである。
【0089】
好適なモノマー(b)のさらなる例は、スチレン、α−メチルスチレン、o−クロロスチレンまたはビニルトルエンのような、ビニル芳香族モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリン酸ビニルおよびステアリン酸ビニルなどの、脂肪族もしくは分岐のC〜C18モノカルボン酸のビニルエステルである。
【0090】
本発明に使用される好ましいポリマーは、1,3−ブタジエンとスチレンまたはアルフ−メチルスチレンとのコポリマーである。前記コポリマーは、ランダムまたはブロック型構造を有してもよい。
【0091】
好適なモノマー(b)のさらなる例は、エチレン系不飽和モノカルボン酸のエステルまたはジカルボン酸と一般にC〜C12アルカノールとのモノもしくはジエステル、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、第三ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、またはシクロペンタノールもしくはシクロヘキサノールなどの、C〜C10シクロアルカノールとのエステル、これらの中で好ましくはアクリル酸および/またはメタクリル酸のエステルであり、例は、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、第三ブチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、第三ブチルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレートである。
【0092】
ニトリルゴム
本発明の方法は、いわゆるニトリルゴムを水素化するためにさらに用いられてもよい。ニトリルゴム(「NBR」とも略記される)は、少なくとも1つの共役ジエン、少なくとも1つのα,β−不飽和のニトリルモノマーおよび、適切な場合には、1つ以上のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含むコポリマーまたはターポリマーを表す。
【0093】
共役ジエンは、いかなる性質のものでもあり得る。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレンおよびそれらの混合物からなる群からより好ましくは選択される、(C〜C)共役ジエンを使用することが好ましい。1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはそれらの混合物が非常に特に好ましい。1,3−ブタジエンがとりわけ好ましい。
【0094】
α,β−不飽和ニトリルとして、任意の公知のα,β−不飽和ニトリル、好ましくは(C〜C)α,β−不飽和ニトリル、より好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルおよびそれらの混合物からなる群から選択されるものを使用することが可能である。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0095】
本発明の方法に使用される特に好ましいニトリルゴムは、したがってアクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンに由来する繰り返し単位を有するコポリマーである。
【0096】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルは別として、ニトリルゴムは、当技術分野において公知の1つ以上のさらなる共重合性モノマー、例えばα,β−不飽和(好ましくはモノ不飽和)モノカルボン酸、それらのエステルおよびアミド、α,β−不飽和(好ましくはモノ不飽和)ジカルボン酸、それらのモノもしくはジエステル、ならびに前記α,β−不飽和ジカルボン酸のそれぞれの酸無水物もしくはアミドの繰り返し単位を含んでもよい。
【0097】
α,β−不飽和モノカルボン酸として、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましくは使用される。
【0098】
α,β−不飽和モノカルボン酸のエステル、特にアルキルエステル、アルコキシアルキルエステル、アリールエステル、シクロアルキルエステル、シアノアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、およびフルオロアルキルエステルも使用されてよい。
【0099】
アルキルエステルとして、α,β−不飽和モノカルボン酸のC〜C18アルキルエステルが好ましくは使用され、より好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、第三ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、第三ブチルメタクリレートおよび2−エチルヘキシル−メタクリレートなどの、アクリル酸またはメタクリル酸のC〜C18アルキルエステルが使用される。
【0100】
アルコキシアルキルエステルとして、α,β−不飽和モノカルボン酸のC〜C18アルコキシアルキルエステルが好ましくは使用され、より好ましくはメトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートおよびメトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のアルコキシアルキルエステルが使用される。
【0101】
アリールエステル、好ましくはC〜C14アリール、より好ましくはC〜C10アリールエステル、最も好ましくはアクリレートおよびメタクリレートの前述のアリールエステルを使用することも可能である。
【0102】
別の実施形態では、シクロアルキルエステル、好ましくはC〜C12、より好ましくはC〜C12シクロアルキル、最も好ましくは前述のシクロアルキルアクリレートおよびメタクリレートが使用される。
【0103】
シアノアルキル基中に2〜12個のC原子を有する、シアノアルキルエステル、特にシアノアルキルアクリレートまたはシアノアルキルメタクリレート、好ましくはα−シアノエチルアクリレート、β−シアノエチルアクリレートまたはシアノブチルメタクリレートを使用することも可能である。
【0104】
別の実施形態では、ヒドロキシアルキルエステル、特に、ヒドロキシアルキル基中に1〜12個のC原子を有するヒドロキシアルキルアクリレートおよびヒドロキシアルキルメタクリレート、好ましくは2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートまたは3−ヒドロキシプロピルアクリレートが使用される。
【0105】
フルオロベンジルエステル、特にフルオロベンジルアクリレートまたはフルオロベンジルメタクリレート、好ましくはトリフルオロエチルアクリレートおよびテトラフルオロプロピルメタクリレートを使用することも可能である。ジメチルアミノメチルアクリレートおよびジエチルアミノエチルアクリレートのような置換アミノ基含有アクリレートおよびメタクリレートも使用されてよい。
【0106】
例えばポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシメチル)アクリルアミドまたはウレタン(メタ)アクリレートのような、α,β−不飽和カルボン酸の様々な他のエステルも使用されてよい。
【0107】
α,β−不飽和カルボン酸のすべての前述のエステルの混合物を使用することも可能である。
【0108】
さらにα,β−不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸およびメサコン酸が使用されてもよい。
【0109】
別の実施形態では、α,β−不飽和ジカルボン酸の無水物、好ましくは無水マレイン酸、イタコン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、およびメサコン酸無水物が使用される。
【0110】
さらなる実施形態では、α,β−不飽和ジカルボン酸のモノ−またはジエステルを使用することができる。好適なアルキルエステルは、例えばC〜C10アルキル、好ましくはエチル−、n−プロピル−、イソ−プロピル、n−ブチル−、第三ブチル、n−ペンチル−またはn−ヘキシルモノ−またはジエステルである。好適なアルコキシアルキルエステルは、C〜C12アルコキシアルキル−、好ましくはC〜Cアルコキシアルキルモノ−またはジエステルである。好適なヒドロキシアルキルエステルは、C〜C12ヒドロキシアルキル−、好ましくはC〜Cヒドロキシアルキルモノ−またはジエステルである。好適なシクロアルキルエステルは、C〜C12シクロアルキル−、好ましくはC〜C12シクロアルキルモノ−またはジエステルである。好適なアルキルシクロアルキルエステルは、C〜C12アルキルシクロアルキル−、好ましくはC〜C10アルキルシクロアルキルモノ−またはジエステルである。好適なアリールエステルは、C〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリールモノ−またはジエステルである。
【0111】
α,β−エチレン系不飽和ジカルボン酸モノエステルモノマーの明確な例としては、
・マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルマレエート、モノエチルマレエート、モノプロピルマレエート、およびモノn−ブチルマレエート;
・マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルマレエート、モノシクロヘキシルマレエート、およびモノシクロヘプチルマレエート;
・マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルマレエート、およびモノエチルシクロヘキシルマレエート;
・マレイン酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルマレエート;
・マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルマレエート;
・フマル酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノプロピルフマレート、およびモノn−ブチルフマレート;
・フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルフマレート、モノシクロヘキシルフマレート、およびモノシクロヘプチルフマレート;
・フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルフマレート、およびモノエチルシクロヘキシルフマレート;
・フマル酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルフマレート;
・フマル酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルフマレート;
・シトラコン酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルシトラコネート、モノエチルシトラコネート、モノプロピルシトラコネート、およびモノn−ブチルシトラコネート;
・シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルシトラコネート、モノシクロヘキシルシトラコネート、およびモノシクロヘプチルシトラコネート;
・シトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルシトラコネート、およびモノエチルシクロヘキシルシトラコネート;
・シトラコン酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルシトラコネート;
・シトラコン酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルシトラコネート;
・イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくはモノメチルイタコネート、モノエチルイタコネート、モノプロピルイタコネート、およびモノn−ブチルイタコネート;
・イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくはモノシクロペンチルイタコネート、モノシクロヘキシルイタコネート、およびモノシクロヘプチルイタコネート;
・イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはモノメチルシクロペンチルイタコネート、およびモノエチルシクロヘキシルイタコネート;
・イタコン酸モノアリールエステル、好ましくはモノフェニルイタコネート;
・イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくはモノベンジルイタコネート
が挙げられる。
【0112】
α,β−エチレン系不飽和ジカルボン酸ジエステルモノマーとして、上に明確に述べられたモノエステルモノマーをベースとする類似のジエステルが使用されてもよく、ここで、しかし、酸素原子を介してC=O基に結合している2つの有機基は、同一であっても異なってもよい。
【0113】
さらなるターモノマーとして、スチロール、α−メチルスチロールおよびビニルピリジンのようなビニル芳香族モノマー、ならびに4−シアノシクロヘキセンおよび4−ビニルシクロヘキセンのような非共役ジエン、ならびに1−または2−ブチンのようなアルキンが使用されてもよい。
【0114】
下に描かれる式:
【化32】
(式中、
は、水素またはメチル基であり、および
、R、R、Rは、同一であるかまたは異なり、かつH、C〜C12アルキル、C〜Cシクロアルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、エポキシアルキル、アリール、またはヘテロアリールを表してもよい)
から選ばれるターモノマーが特に好ましい。
【0115】
使用されるNBRポリマー中の共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルの割合は、幅広い範囲内で変わることができる。共役ジエンまたは共役ジエンの合計の割合は通常、全ポリマーを基準として、40〜90重量%の範囲に、好ましくは60〜85重量%の範囲にある。α,β−不飽和ニトリルまたはα,β−不飽和ニトリルの合計の割合は通常、全ポリマーを基準として、10〜60重量%、好ましくは15〜40重量%である。各場合のモノマーの割合は合計100重量%になる。追加のモノマーは、全ポリマーを基準として、0〜40重量%、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは1〜30重量%の量で存在することができる。この場合には、1つもしくは複数の共役ジエンおよび/または1つもしくは複数のα,β−不飽和ニトリルの相当する割合は、追加のモノマーの割合で取って代わられ、各場合のすべてのモノマーの割合は合計100重量%になる。
【0116】
上述のモノマーの重合によるニトリルゴムの調製は、先行技術から十分に、かつ、包括的に公知である。本発明の目的のために使用することができるニトリルゴムはまた、例えば、Lanxess Deutschland GmbHのPerbunan(登録商標)およびKrynac(登録商標)銘柄の製品範囲からの製品として、商業的に入手可能である。
【0117】
不飽和基質を水素化するためのプロセス条件:
不飽和基質、特にニトリルゴムの水素化は、不飽和基質、特にニトリルゴムを、水素ガスの存在下で一般式(I)の新規の錯体触媒と接触させることによって実施することができる。
【0118】
水素化は、30℃〜200℃、好ましくは40℃〜180℃、より好ましくは50℃〜160℃、最も好ましくは100℃〜150℃の範囲の温度で、0.5MPa〜35MPaの、より好ましくは3.0〜10MPaの範囲の水素圧で好ましくは実施される。
【0119】
好ましくは、水素化時間は、10分〜48時間、好ましくは15分〜24時間、より好ましくは30分〜4時間、さらにより好ましくは1時間〜8時間、最も好ましくは1時間〜3時間である。
【0120】
不飽和基質、特にニトリルゴムに対する錯体触媒の量は、触媒の性質および触媒活性に依存する。用いられる触媒の量は、典型的には、使用される不飽和基質、特にニトリルゴムを基準として、1〜1000ppm、好ましくは2〜500ppm、特に5〜250ppmの貴金属の範囲で選ばれる。
【0121】
触媒ローディングは、最も好ましくは0.040phr以下である。
【0122】
触媒/モルC=C比は、好ましくは0,0028%未満である。
【0123】
第一に、好適な溶媒中の不飽和基質、特にニトリルゴムの溶液が調製される。水素化反応における不飽和基質、特にニトリルゴムの濃度は、決定的に重要であるわけではないが、反応が反応混合物の過度に高い粘度および任意の関連した混合問題によって悪影響を受けないことを当然確実にすべきである。反応混合物中の不飽和基質、特にニトリルゴムの濃度は、全反応混合物を基準として、好ましくは1〜25重量%の範囲に、特に好ましくは5〜20重量%の範囲にある。
【0124】
水素化反応は、典型的には、使用される触媒を失活させない、かつ、何らかの他の方法でも反応に悪影響を及ぼさない好適な溶媒中で実施される。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、モノロロベンゼン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンおよびシクロヘキサンが挙げられるが、それらに限定されない。特に好ましい溶媒は、モノクロロベンゼン、メチルエチルケトンおよびアセトンである。最も特に好ましい溶媒は、モノクロロベンゼンである。
【0125】
ニトリルゴムのそのような溶液は、次に、上述の圧力の水素の存在下で一般式(I)に従った触媒と接触させられる。反応混合物は、典型的には攪拌されるか、または溶液と水素相との十分な接触を可能にするために任意の種類の剪断が導入され得る。
【0126】
本発明の1つの主な利点は、最終HNBR生成物中の触媒残渣が触媒金属除去またはリサイクル工程を軽減させるかまたは不必要にさえするのに十分に低いものであり得るほどに、使用される錯体触媒が非常に活性であるという事実にある。しかし、所望の程度に、本発明のプロセス中に使用された触媒は除去されてもよい。そのような除去は、欧州特許出願公開第2 072 532 A1号明細書および欧州特許出願公開第2 072 533 A1号明細書に記載されているように例えばイオン交換樹脂を使用することによって行うことができる。水素化反応の完了後に得られた反応混合物は、取り出し、そして窒素下で6〜48時間にわたり、例えば100℃においてイオン交換樹脂で処理することができ、それは、樹脂への触媒の結合をもたらし、一方反応混合物は、通常の仕上げ方法でワークアップすることができる。
【0127】
ゴムは、次に、スチーム凝固、溶媒蒸発または沈澱などの公知のワークアップ手順から得て、典型的なゴム加工方法での使用を可能にする程度に乾燥させることができる。
【0128】
本発明の目的のために、水素化は、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、より好ましくは80〜100%、さらにより好ましくは90〜100%、最も好ましくは94〜100%の程度までの不飽和基質、特にニトリルゴム中に存在する二重結合の反応である。
【0129】
本発明による水素化の完了後、1〜130、好ましくは10〜100の範囲の、ASTM標準D 1646に従って測定される、Mooney(ムーニー)粘度(100℃でのML1+4)を有する水素化ニトリルゴムが得られる。これは、2,000〜400,000g/モルの範囲の、好ましくは300,000〜350,000の範囲の重量平均分子量Mwに相当する。得られた水素化ニトリルゴムはまた、1〜5の範囲の、好ましくは2〜4の範囲の多分散性PDI=Mw/Mn(式中、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である)を有する。
【0130】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、それによって限定されることを意図せず、実施例ではすべての部および百分率は特に明記しない限り重量による。
【0131】
新規のルテニウムまたはオスミウムベースの錯体は、ニトリルゴム(NBR)の選択的水素化のために使用することができる。
【0132】
水素化は、溶液水素化またはラテックス水素化として行うことができる。
【0133】
ジエンベースのポリマー、例えばニトリルゴムの水性懸濁液は、「ラテックス」と呼ばれる。そのようなラテックスは、炭素−炭素二重結合を含有する。これらのラテックスは、水性モノマーエマルジョンのフリーラジカル重合によって調製された懸濁液(一次懸濁液)およびそのポリマーがいかなる方法またはルートによっても調製され、次に水性懸濁液形態に変換されたもの(二次懸濁液)の両方を含む。用語「水性懸濁液」はまた、原則として、マイクロカプセルの懸濁液も包含する。
【0134】
ラテックスは、エマルジョン重合、溶液重合またはバルク重合など、当業者に公知の任意の方法によって調製されてもよい。好ましくは、水性エマルジョン重合法はポリマーのラテックス形態を直接生成するため、ラテックスはこの方法で調製される。
【0135】
水性エマルジョン中のポリマー固形分は、水性エマルジョンの総重量を基準として1〜75重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲である。
【実施例】
【0136】
省略形:
phr 百ゴム(重量)当たり部
rpm 1分間当たりの回転数
HD 水素化度[%]
Mn 数平均分子量
Mw 重量平均分子量
PDI Mn/Mwとして定義される、多分散指数
PPh トリフェニルホスフィン
MCB モノクロロベンゼン
r.t. 室温(22±2℃)
RDB %単位での残存二重結合、RDB=NBRが100%のRDBを有する状態で100−水素化度[%]
NHC N−複素環カルベン
Cy シクロヘキシル
EtN トリエチルアミン
IMes N,N’−ビス(メシチル)イミダゾール−2−イリデン
SIMes N,N’−ビス(メシチル)イミダゾリジン−2−イリデン(H−Imesと呼ぶこともできる)
IPr N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン
SIPr N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリジン−2−イリデン
ItBu N,N’−ビス(第三ブチル)イミダゾール−2−イリデン
【0137】
A.触媒の調製
一般手順:
次のスキームは、本発明のルテニウムまたはオスミウムベースの錯体触媒を調製するための異なるルートを示す。
【化33】
【0138】
構造Iの触媒は、米国特許第A−5057581号明細書から公知である。
【0139】
構造IIの触媒は、国際公開第A−2013/159365号パンフレットから公知である。
【0140】
構造IIIの触媒は、Muecke,P.,et al.Inorganica Chmica Acta 374(2011)36−50から公知である。
【0141】
構造IVは、一般式Iに該当する本発明のルテニウムまたはオスミウムベースの錯体触媒を表す。
【0142】
反応は、特にそうではないと明記しない限り、標準シュレンクおよびグローブボックス技法を用いて行った。溶媒は、Sigma−Aldrich(ACS純度グレード、99.5%)から購入し、乾燥形態で使用し、NまたはAr下で貯蔵した。
【0143】
N,N’−ビス(メシチル)イミダゾール−2−イリデン(IMes)およびN,N’−ビス(メシチル)イミダゾリジン−2−イリデン(SIMes)は、Sigma−Aldrichから購入した。
【0144】
以下の錯体触媒A、B.a、I.a、I.b、I.c、I.e、I.g、I.i、I.kおよびI.mは、下に概要を述べるように調製した。
【0145】
触媒A:RuHCl(CO)(PCy(比較例)
この錯体は、次の通りJamesら(Adv.in Chem.,1982,196,145−161による手順に従って調製した:RuCl×HO(0.635g、2.5ミリモル)をメトキシエタノール(15mL)に溶解させた。5分後にPCy(2.056g、7.5ミリモル)を添加した。混合物を20分間還流下で加熱した。次にEtN(2mL)を添加した。混合物をさらに6時間還流下で加熱し、次に冷却した。結晶性オレンジ色生成物を濾過し、次にトルエン(10mL×2)で洗浄し、真空で乾燥させた。得られた収量は、黄色結晶として1.45g(80%)であった。MCB中の飽和溶液に関するFT−IRは、1901cm−1に単一ピーク(CO)を与え、したがって可能な副生成物RuHCl(CO)(PCyを含まないと考えられた。
【0146】
触媒B.a:RuHCl(CO)(IMes)(PCy)(比較例)
この錯体は、次の通りNolanら(Organometallics 2001,20,794)における手順に従ってRuHCl(CO)(PCy(触媒A)をIMesと反応させることによって調製した:100mLフラスコに、RuHCl(CO)(PCy(510mg、0.7ミリモル)およびIMes(302mg、1.05ミリモル)を装入し、脱ガスした。次に20mLトルエンを注射器によって添加した。次に溶液を2時間にわたり80℃で加熱し、室温で18時間攪拌した。溶液を真空下で除去した。オレンジ−黄色残留物を20mLエタノール(脱ガスおよび乾燥した)に取り上げた。次に懸濁液を濾過した。沈澱物をエタノール(20mL×3)で洗浄し、真空下で乾燥させた。得られた収量は、1897cm−1(文献CHCl中で1896cm−1)に単一ピーク(CO)を有するオレンジ色結晶として125.7mgであった。
【0147】
触媒I.a:Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化34】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)(触媒B.a)をフェニルアセチレンと反応させることによって調製した:2gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において50mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.298gのフェニルアセチレンを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で30mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られたRu(CH=CHPh)Cl(CO)(IMes)(PCy)を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を15mLのイソ−プロパノールで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に1.83gの触媒を得た(80.5%収率)。
【0148】
触媒1a、Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(IMes)(PCy)の色は、空気下で水中またはMCB溶液中、空気に1週間暴露した後に変化しなかった。それは、その非常に良好な安定性を示す。
【0149】
触媒I.b:Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(SIMes)(PCy)(発明実施例)
【化35】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(SIMes)(PCy)(触媒B.b)をフェニルアセチレンと反応させることによって調製した:0.652gのRuHCl(CO)(SIMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において16mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.097gのフェニルアセチレンを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で10mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られたRu(CH=CHPh)Cl(CO)(SIMes)(PCy)を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を5mLのイソ−プロパノールで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に0.41gの触媒を得た(55.4%収率)。
【0150】
触媒I.e:Ru(CH=CHPh−OCH)Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化36】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)を2−エチニルアニソールと反応させることによって調製した:2.5gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において30mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.482gの2−エチニルアニソールを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で40mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られた触媒を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を最初に20mLのイソ−プロパノールで、次に10mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に2.514gの触媒を得た(85.4%収率)。
【0151】
触媒I.c:Ru(CH=CHPh−OiPr)Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化37】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)(触媒B.a)を1−エチニル−2−イソプロポキシベンゼン(Alois Fuerstner et al.Organometallics 2005,24,4065−4071によって記載された手順に従って調製された)と反応させることによって調製した:4gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において30mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.9gの1−エチニル−2−イソプロポキシベンゼンを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で64mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られた触媒を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を最初に30mLのイソ−プロパノールで、次に15mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に2.73gの触媒を得た(56.2%収率)。
【0152】
触媒I.g:Ru(CH=CHPh−OCH)Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化38】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)(触媒B.a)を3−エチニルアニソールと反応させることによって調製した:1gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において12mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.195gの3−エチニルアニソールを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で16mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られた触媒を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を最初に8mLのイソ−プロパノールで、次に4mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に0.415gの触媒を得た(35.2%収率)。
【0153】
触媒I.m:Ru[CH=CHPh−(COOCH]Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化39】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)(触媒B.a)を5−エチニルイソフタル酸ジメチルと反応させることによって調製した:0.75gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において9mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.241gの5−エチニルイソフタル酸ジメチルを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で12mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られた触媒を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を最初に6mLのイソ−プロパノールで、次に3mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に0.832gの触媒を得た(85.8%収率)。
【0154】
触媒I.i:Ru(CH=CHPh−OCH)Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化40】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)(触媒B.a)を4−エチニルアニソールと反応させることによって調製した:0.75gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において9mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.145gの4−エチニルアニソールを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で12mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られた触媒を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を最初に6mLのイソ−プロパノールで、次に3mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に0.71gの触媒を得た(80.4%収率)。
【0155】
触媒I.k:Ru[CH=CHPh−(OCH]Cl(CO)(IMes)(PCy)(発明実施例)
【化41】
この錯体は、次の通りRuHCl(CO)(IMes)(PCy)(触媒B.a)を1−エチニル−3,5−ジメトキシベンゼンと反応させることによって調製した:0.75gのRuHCl(CO)(IMes)(PCy)をAr雰囲気下で室温において9mLのジクロロメタンに溶解させ、次に0.176gの1−エチニル−3,5−ジメトキシベンゼンを溶液へ添加した。4時間室温で混合した後、Ar下で12mLのイソ−プロパノールを混合物へ添加して、得られた触媒を沈澱させた。濾過後、沈澱触媒を最初に6mLのイソ−プロパノールで、次に3mLのn−ヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させて最終的に0.71gの触媒を得た(77.7%収率)。
【0156】
B ニトリルブタジエンゴム
実施例に使用したニトリルブタジエンゴムは、すべてLanxess Deutschland GmbHから商業的に入手可能であり、下の表1に概要を述べられるような特性を有する。
【0157】
【表1】
【0158】
C ニトリルゴムの水素化
触媒は、セクションEの下で後続の表に示されるように0.015〜0.04phrの範囲の量で使用した。
【0159】
水素化のための条件は、
・8.3MPa(1200psi)水素圧
・600rpmのかき混ぜ
・温度:後続の表に示されるように138℃
・時間:後続に表に示されるように水素化の進行に応じて可変
であった。
【0160】
水素化手順:
(1)ニトリルゴムを一定量のMCBに溶解させて異なる固形分のNBR溶液を形成した。溶液をオートクレーブ(2L容積)に満たし、20分間窒素ガスをバブリングさせて溶解酸素を除去した。
(2)窒素保護下で触媒を十分な量の脱ガスMCBに溶解させた。窒素保護下で溶液を、オートクレーブにバルブで連結されたステンレスの加圧可能な容器へ注射器によって移した。
(3)オートクレーブを所望の温度に加熱した後、触媒溶液を、水素圧をかけることによってオートクレーブへ移した。次に水素圧を所望の値まで上げた。
(4)試料を、FT−IR試験のために間隔を置いて採取してRDBを監視した。
(5)NBR水素の終了後、溶液を冷却し、圧力を放出した。最後にHNBR小片をスチーム凝固によって単離し、真空下で乾燥させた。
【0161】
D 分析および試験
GPCによる分子量MnおよびMwの測定:
分子量MnおよびMwは、Waters 1515高速液体クロマトグラフィーポンプ、Waters 717 plus autosampler、PLゲル10μm混合BカラムおよびWaters 2414 RI検出器を備えたWaters GPCシステムによって測定した。GPC試験は、溶離液としてのTHFを使って1mL/分の流量で40℃において実施し、GPCカラムは狭いPS標準試料で較正した。
【0162】
FT−IRによる水素化度および残留二重結合(「RDB」)の測定:
水素化反応前、反応中および反応後のニトリルゴムのスペクトルをPerkin Elmer spectrum 100 FT−IR分光計で記録した。MCB中の(水素化)ニトリルブタジエンゴムの溶液をKBrディスク上へキャストし、乾燥させて試験用のフィルムを形成した。水素化度は、ASTM D 5670−95方法に従ってFT−IR分析によって測定した。残存二重結合、RDBは、100−水素化度[%]として計算することができる。
【0163】
E 水素化実験
比較例1:触媒B.a(RuHCl(CO)(IMes)(PCy))によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒B.aを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0164】
実施例1:触媒I.c(Ru(CH=CHPh−OiPr)Cl(CO)(IMes)(PCy))によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.cを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0165】
実施例2:触媒I.m(Ru[CH=CHPh−(COOCH]Cl(CO)(IMes)(PCy))によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.mを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0166】
実施例3:触媒I.i:(Ru(CH=CHPh−OCH)Cl(CO)(IMes)(PCy))によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.iを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0167】
実施例4:触媒I.b:Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(SIMes)(PCy)によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.bを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0168】
比較例1,実施例1、実施例2、実施例3および実施例4の水素化結果を下の表2において比較する。
【0169】
【表2】
【0170】
比較例2:触媒B.a:RuHCl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒B.aを30mg(0.03phr)のローディングで使用した。
【0171】
実施例5:触媒I.g:Ru(CH=CHPh−OCH)Cl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.gを30mg(0.03phr)のローディングで使用した。
【0172】
実施例6:触媒I.h:Ru[CH=CHPh−(OCH]Cl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−2の水素化
100グラムのNBR−2をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.hを40mg(0.04phr)のローディングで使用した。
【0173】
比較例2、実施例5および実施例6の水素化結果を下の表4において比較する。
【0174】
【表3】
【0175】
比較例3:触媒B.a:RuHCl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−1の水素化
100グラムのNBR−1をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒B.aを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0176】
実施例7:触媒I.e:Ru(CH=CHPh−OCH)Cl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−1の水素化
100グラムのNBR−1をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.eを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0177】
実施例8:触媒I.a:Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−1の水素化
100グラムのNBR−1をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.aを20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0178】
実施例9:老化触媒I.a:Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−1の水素化
100グラムのNBR−1をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.aを1週間室温で空気に曝し、次に20mg(0.02phr)のローディングで使用した。
【0179】
実施例10:触媒I.a:Ru(CH=CHPh)Cl(CO)(IMes)(PCy)によって触媒されるNBR−1の水素化
100グラムのNBR−1をMCBに溶解させて13重量%のNBR溶液を形成した。触媒I.aを15mg(0.015phr)のローディングで使用した。
【0180】
比較例3、実施例7、実施例8、実施例9および実施例10の水素化結果を下の表5において比較する。
【0181】
【表4】
【0182】
全実験のすべての水素化結果の要約
【0183】
【表5】
【0184】
上記実施例は、同じ重量%の触媒ローディングにおいて、一般式(I)に従ったこれらの新規のRu−NHC−ビニル−配位子触媒が、構造上近い触媒Ru−NHC−水素(RuHCl(CO)(IMes)(PCy)などの)よりもニトリルゴムの水素化においてより良い成績を収めたことを明らかに示す。これらのRu−NHC−ビニル−配位子触媒は、元のRu−NHC−水素触媒よりも高い分子量を有するため、これは、あらゆるモルのRu−NHC−ビニル−配位子触媒が同じモルの元のRu−NHC−水素触媒よりも活性であることを示唆する。