(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
弁作用金属としてタンタル、アルミニウム等を用いた固体電解コンデンサは、静電容量が大きく、周波数特性に優れていることから、携帯電子端末やパーソナルコンピュータ等の電子機器に広く使用されている。
【0003】
また、近年では電子機器の高信頼性化や高性能化に伴って、固体電解コンデンサに関する漏れ電流の低減などの要求がさらに高まっている。
【0004】
従来の固体電解コンデンサの一例として特許文献1に開示された構成がある。特許文献1の固体電解コンデンサでは、陽極と陰極を分離するために、陽極導出線の外表面に形成された誘電体酸化皮膜層から固体電解質層までを除去する必要がある。
【0005】
陽極導出線の外表面に形成された誘電体酸化皮膜層から固体電解質層までをレーザ照射で除去した場合、除去した端面が同一平面に形成された構成となる。
【0006】
また、他の例として特許文献2に開示された構成がある。特許文献2の固体電解コンデンサは、誘電体層の表面に絶縁性高分子膜を設け、その表面に化学酸化重合導電性高分子膜を形成する。その化学酸化重合導電性高分子膜に導電体を接触させて電解酸化重合導電性高分子膜を形成することで、陽極リードと電解酸化重合導電性高分子膜とが離れた構成となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された構成では、誘電体酸化皮膜層から固体電解質層までの端面が同一平面に形成されるため、陽極導出線と固体電解質層との絶縁距離が短く、長期間の使用によって漏れ電流の増大を招き、短絡不良(ショート不良)が発生する場合がある。
【0009】
また、特許文献2に開示された方法では導電体を接触させて電解酸化重合導電性高分子膜を形成するため、接触させていた導電体を除去する際に近傍の電解酸化重合導電性高分子膜が導電体と共に剥離する場合がある。電解酸化重合導電性高分子膜が剥離することによって誘電体層が表面に露出した場合、漏れ電流の増大を招き、ショート不良が発生する。
【0010】
そこで本発明は、陽極リードと固体電解質層との絶縁距離を確保し、ショート不良を抑制した固体電解コンデンサ素子およびその製造方法ならびに固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の固体電解コンデンサ素子は、前記陽極リードが導出した弁作用金属の多孔質体からなる陽極体と、前記陽極リードの一部および前記陽極体の表面に形成した誘電体層と、前記陽極リードの表面に形成した前記誘電体層の少なくとも一部の表面に形成した絶縁層と、前記誘電体層の少なくとも一部および前記絶縁層の一部の表面に形成した導電性高分子からなる固体電解質層を備え、前記陽極リードの表面に対し前記絶縁層と前記固体電解質層の表面を階段状に形成することを特徴とする。
【0012】
ここで、陽極リードの表面に対し前記絶縁層と前記固体電解質層の表面を階段状に形成することによって、陽極リードのみが露出した部分と、誘電体層の表面に形成された絶縁層のみが露出した部分と、絶縁層の表面に形成された固体電解質層のみが露出した部分を有する。陽極リードの表面と、絶縁層の表面と、固体電解質層の表面からなる階段状の段差が形成され、陽極リードと固体電解質層との間に露出した絶縁層を有することによって、陽極リードの表面から立ち上がる絶縁層の端部から、前記絶縁層の表面から立ち上がる前記固体電解質層の端部までの露出した絶縁層分の絶縁距離を確保できる。
【0013】
また、本発明の固体電解コンデンサ素子は、前記陽極リードの少なくとも一部の表面に凹凸を有することが望ましい。
【0014】
また、本発明の固体電解コンデンサ素子の前記固体電解質層は、化学重合により形成した化学重合層を少なくとも有し、前記絶縁層の表面に形成した前記化学重合層の厚みは1μm以下(0を含まず)であることが望ましい。
【0015】
また、本発明の固体電解コンデンサ素子は、前記陽極リードの表面から立ち上がる前記絶縁層の端部と、前記絶縁層の表面から立ち上がる前記固体電解質層の端部との、前記絶縁層の露出した距離は10μm以上、15μm以下であることが望ましい。
【0016】
本発明の固体電解コンデンサは、本発明の固体電解コンデンサ素子と、前記固体電解質層の表面に形成する陰極層と、前記陽極リードと電気的に接続した陽極端子と、前記陰極層を介し、前記陽極体と電気的に接続した陰極端子と、外装樹脂を備え、前記外装樹脂は、前記陽極端子の一部および前記陰極端子の一部ならびに前記固体電解コンデンサ素子を被覆することを特徴とする。
【0017】
本発明の固体電解コンデンサ素子の製造方法は、陽極リードが導出した弁作用金属の多孔質体からなる陽極体の表面に誘電体層を形成し、前記陽極リードの表面に形成した前記誘電体層の少なくとも一部の表面に絶縁層を形成し、前記誘電体層および前記絶縁層の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成し、前記陽極リードに形成した一部の前記誘電体層から前記固体電解質層までを除去するレーザ加工で、除去する近傍の前記固体電解質層が前記絶縁層から剥離し、前記陽極リードの表面に対し前記絶縁層と前記固体電解質層の表面を階段状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、陽極リードに形成した一部の誘電体層から固体電解質層までを除去するレーザ加工の際に、除去する近傍の固体電解質層が絶縁層から剥離して一部の絶縁層が表面に露出する。これにより、陽極リードの表面に対し前記絶縁層と前記固体電解質層の表面に階段状の段差が形成される。
【0019】
そのため、陽極リードと固体電解質層との間に露出した絶縁層の長さ分の十分な絶縁距離が生じるため、長期間の使用においても陽極リードと固体電解質層との接触を抑制でき、ショート不良を防止できる。
【0020】
また、陽極リードと固体電解質層を絶縁し、陽極リードに形成した一部の誘電体層から固体電解質層までを除去して陽極リードと外部端子である陽極端子を接続できる状態とするレーザ加工において、陽極リードと固体電解質層との十分な絶縁距離の確保が可能となるため、新たに製造工数を増やす必要がない。
【0021】
以上のことより、陽極リードと固体電解質層との絶縁距離を確保し、ショート不良を抑制した固体電解コンデンサ素子およびその製造方法ならびに固体電解コンデンサを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の固体電解コンデンサ素子の断面図である。
図1に示すように、本発明の固体電解コンデンサ素子10は、弁作用を有する金属微粒子からなる焼結体や、エッチングによって拡面処理されて多孔質層化した弁作用金属などによって形成された陽極体2を有し、陽極体2からは陽極リード1が導出している。
【0025】
弁作用金属は、タンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウム、またはこれらの合金等から適宜選定すればよい。
【0026】
陽極リード1の少なくとも一部および陽極体2の表面に誘電体層3を形成し、陽極リード1の表面に形成された誘電体層3の少なくとも一部の表面に絶縁性高分子からなる絶縁層4を形成する。絶縁層4は、エポキシ樹脂やシリコン樹脂等を塗布して形成すればよい。
【0027】
誘電体層3は、弁作用金属の表面を電解酸化させる事で得られ、厚みは電解酸化の電圧によって適宜調整すればよい。
【0028】
誘電体層3の少なくとも一部および絶縁層4の少なくとも一部の表面には導電性高分子からなる固体電解質層を形成する。本実施形態における固体電解質層は、モノマーと酸化剤を反応させる化学重合による導電性高分子からなる化学重合層5と、電気化学的に酸化還元反応を起こす電解重合による導電性高分子からなる電解重合層6によって形成している。
【0029】
ここで、本実施形態の固体電解質層は、化学重合層5と電解重合層6を組み合わせて形成しているが、化学重合層5のみで形成しても構わない。
【0030】
また、化学重合層5の厚みは1μm以下(0を含まず)であることが望ましい。これによって、後述するレーザ加工の際、絶縁層4の表面に形成した化学重合層5および電解重合層6が絶縁層4から容易に剥離する。
【0031】
化学重合層5は導電性高分子であればよく、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等が挙げられる。同様に、電解重合層6は電解重合によって形成でき、且つ導電性高分子であればよく、ポリチオフェン、ポリピロール等が挙げられる。
【0032】
固体電解質層まで形成した後、固体電解コンデンサを作製する際の陽極リード1と陽極端子との接続を可能とし、さらに陽極リード1と固体電解質層を絶縁するため、陽極リード1に形成した誘電体層3から固体電解質層までの一部をレーザ加工によって除去する。
【0033】
その際、除去する近傍の化学重合層5および電解重合層6が絶縁層4から剥離し、一部の絶縁層4が表面に露出する。
【0034】
固体電解質層と誘電体層の密着性に比べて、固体電解質層と絶縁層の密着性は低い。そのため、レーザ加工の衝撃によって、陽極リードの除去する近傍に形成した誘電体層から固体電解質層までの一部を絶縁層から剥離することができる。
【0035】
このように、絶縁層4から固体電解質層が剥離して一部の絶縁層4が露出することによって、陽極リード1の表面の誘電体層3と固体電解質層である化学重合層5および電解重合層6の端面が同一平面にはならず、陽極リード1の表面と、絶縁層4の表面と、固体電解質層の表面からなる段差が生じる。つまり、陽極リードの表面に対して絶縁層と固体電解質層の表面が階段状に形成される。
【0036】
一部の絶縁層4が露出することによって、陽極リード1の表面から立ち上がる絶縁層4の端部から、絶縁層4の表面から立ち上がる固体電解質層の端部までの露出した絶縁層4分の十分な絶縁距離が生じるため、長期間の使用においても陽極リード1と固体電解質層の接触を抑制でき、ショート不良を防止できる。
【0037】
露出した絶縁層4の長さである絶縁距離は、陽極リード1と固体電解質層との間でのショート不良をより抑制できるため、10μm以上であることが望ましい。また、固体電解質層が容易に剥離する距離で生産性が向上するため、絶縁距離は15μm以下であることが望ましいが、ショート不良を抑制できるため長ければ長いほど望ましい。
【0038】
固体電解コンデンサ素子を用いて固体電解コンデンサを作製する際には、固体電解コンデンサ素子の陽極リードと外部端子である陽極端子の接続を行う。本発明の固体電解コンデンサ素子10は、陽極リード1と外部端子である陽極端子の接続を行うためのレーザ加工の際に、固体電解質層の一部を剥離することで陽極リード1と固体電解質層の絶縁を確保できる。そのため、製造工数を増やすことなく、本発明の固体電解コンデンサ素子10が得られる。
【0039】
図2は本発明による固体電解コンデンサ素子の陽極リード近傍の外観写真であり、
図2(a)はレーザ加工前の陽極リード近傍の外観写真、
図2(b)はレーザ加工後の陽極リード近傍の外観写真である。陽極リードの表面状態がわかりやすいよう、
図2(a)は、陽極リード1の表面に絶縁層4まで形成された陽極リード近傍の外観写真である。また、
図2(b)は
図2(a)の個体電解コンデンサ素子に化学重合層(図示せず)および電解重合層6を順次形成した後、レーザ加工を施した陽極リード近傍の外観写真である。
図2から明らかなように、陽極リード1に形成した誘電体層から固体電解質層までの一部をレーザ加工によって除去することによって、レーザ加工がなされた陽極リードの一部の表面に凹凸が形成される。
【0040】
図3は本発明の固体電解コンデンサの構成を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態の固体電解コンデンサ300は、本発明による固体電解コンデンサ素子10と、外部電極である陽極端子7および陰極端子8と、外装樹脂9を備えている。
【0041】
本実施形態の固体電解コンデンサ300に用いられる固体電解コンデンサ素子10は、電解重合層6の表面に陰極層(図示せず)をさらに形成している。陰極層は、例えば、固体電解質層の表面にグラファイト層と銀ペースト層を順次形成して得られる。
【0042】
陽極リード1に外部電極端子である陽極端子7を抵抗溶接等で電気的に接続し、陰極層と外部電極端子である陰極端子8を導電性接着剤(図示せず)等で電気的に接続する。陽極端子7および陰極端子8は一般的に銅板等の母材にニッケルやスズをめっき形成して得られる。
【0043】
その後、固体電解コンデンサ素子10、陽極端子7の一部および陰極端子8の一部を絶縁材料であるエポキシ樹脂等からなる外装樹脂9で覆い、固体電解コンデンサ300を得る。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
陽極体を構成する弁作用金属にはタンタル金属粉末を用いた。タンタルワイヤーからなる陽極リードをタンタル金属粉末に埋設し、加圧成形した後、焼結して陽極体を得た。得た陽極体および陽極リードをリン酸水溶液中に浸して陽極酸化処理を行い、陽極体および陽極リードの表面に誘電体層を形成した。次に、陽極リードの表面に形成した誘電体層の一部の表面にシリコン樹脂を塗布して絶縁層を形成した。
【0045】
その後、誘電体層、絶縁層、および陽極リードの一部の表面を覆うように、固体電解質層としてポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンからなる導電性高分子を化学重合によって形成した。この時、絶縁層の表面に形成された化学重合層の厚みは1μmであった。
【0046】
次に、陽極リードの先端側に形成した一部の誘電体層と絶縁層とをレーザ加工によって除去して、陽極リードの先端に陽極リードの表面を露出させた。露出した陽極リードの表面から給電を行い、電解重合によって化学重合層の表面にポリピロールからなる導電性高分子を形成した。
【0047】
陽極リードと固体電解質層の絶縁を可能にするため、陽極リードの固体電化質層をレーザ加工によって除去した。この時、レーザ加工はミヤチテクノス社製レーザ加工機ML−7064Aを用い、電流値は17.5A、周波数は9kHzに設定した。
【0048】
このレーザ加工によって、除去した近傍の化学重合層および電解重合層が絶縁層から剥離して絶縁層の表面が露出した。レーザ加工で絶縁層の表面が露出したことによって、陽極リードの表面に対し前記絶縁層と前記固体電解質層の表面が階段状に形成していることが確認できた。陽極リードの表面から立ち上がる絶縁層の端部から、前記絶縁層の表面から立ち上がる前記固体電解質層の端部までの、露出した絶縁層の長さである絶縁距離は10μmであった。
【0049】
得られた固体電解コンデンサ素子をグラファイトペーストへ浸漬し、乾燥処理を行って電解重合層の表面にグラファイト層を形成した。次に、銀ペーストへ浸漬し、乾燥処理を行って銀ペースト層を形成した後、陽極リードと陽極端子を溶接で接続し、銀ペースト層と陰極端子を導電性接着剤で接続した。
【0050】
最後に、固体電解コンデンサ素子、陽極端子の一部および陰極端子の一部をエポキシ樹脂で覆って外装樹脂を形成し、固体電解コンデンサを得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様に、表面に誘電体層を形成した陽極体を作製した。その後、誘電体層の表面を覆うように、固体電解質層としてポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンからなる導電性高分子を化学重合によって形成した。
【0052】
次に、陽極リードの先端側に形成された一部の誘電体層をレーザ加工によって除去することで、陽極リードの先端に陽極リードの表面を露出させた。露出した陽極リードの表面から給電を行い、電解重合によって化学重合層の表面にポリピロールからなる導電性高分子を形成した。
【0053】
陽極リードと固体電解質層の絶縁および陽極リードと陽極端子の接続を可能にするため、陽極リードの一部の誘電体層から固体電化質層までをレーザ加工によって除去した。この時、レーザ加工は実施例1と同じ装置、同じ条件で行った。このレーザ加工によって、陽極リードの表面の誘電体層と固体電解質層の端面は同一平面に形成されていた。
【0054】
得られた固体電解コンデンサ素子をグラファイトペーストへ浸漬し、乾燥処理を行って電解重合層の表面にグラファイト層を形成した。次に、銀ペーストへ浸漬し、乾燥処理を行って銀ペースト層を形成した後、陽極リードと陽極端子を溶接で接続し、銀ペースト層と陰極端子を導電性接着剤で接続した。
【0055】
最後に、固体電解コンデンサ素子、陽極端子の一部および陰極端子の一部をエポキシ樹脂で覆って外装樹脂を形成し、固体電解コンデンサを得た。
【0056】
実施例1、比較例1のサンプルをそれぞれ100個作製した後、温度85℃、湿度85%RHの雰囲気下にて10Vの電圧を印加した。500時間電圧を印加し、ショートが発生した個数を調査した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、本発明を適用した実施例1の固体電解コンデンサではショートの発生が見られなかったが、比較例1の固体電解コンデンサでは8個のショート不良が発生した。このことから、陽極リードの表面に対し前記絶縁層と前記固体電解質層の表面を階段状に形成することによって、ショート不良を抑制している事がわかる。
【0059】
以上より、陽極リードと固体電解質層との絶縁距離を確保し、ショート不良を抑制した固体電解コンデンサ素子およびその製造方法ならびに固体電解コンデンサが得られる。
【0060】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は、上記に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の変更や修正が可能である。すなわち、当業者であれば成し得るであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれることは勿論である。