特許第6475428号(P6475428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475428
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】車載装置及び安全運転システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20190218BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20190218BHJP
   G07C 5/00 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   G08G1/00 D
   G08G1/16 A
   G07C5/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-125806(P2014-125806)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-4495(P2016-4495A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100192474
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 健次
(72)【発明者】
【氏名】王 鉄君
(72)【発明者】
【氏名】佐保 博樹
【審査官】 鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−072953(JP,A)
【文献】 特開2011−253487(JP,A)
【文献】 特開2009−121926(JP,A)
【文献】 特開2009−002891(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/160636(WO,A1)
【文献】 特開2010−092424(JP,A)
【文献】 特開2004−302902(JP,A)
【文献】 特開2012−048310(JP,A)
【文献】 特開2013−218512(JP,A)
【文献】 特開2006−072410(JP,A)
【文献】 特開2011−059856(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0209889(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0146667(US,A1)
【文献】 特開2008−186045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
B60R 21/00−21/13
B60R 21/34−21/38
G07C 1/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、運転操作を記録する車載装置であって、
前記運転操作を検出する検出部と、
過去に検出された前記運転操作を表す指標に基づいて算出された学習値を格納する格納部と、
今回検出された前記指標が前記学習値から逸脱する場合に、逸脱している旨を表す情報を報知する報知部と、
を備え、
前記学習値は、前記車両の運転者ごとに、且つ、前記指標が検出されたときの車速及び一般道か高速道かの道路の種別ごとに格納され
前記指標は、ブレーキ操作が開始されたことを検出した時の車間時間であるブレーキ反応タイミングで表される、車載装置。
【請求項2】
前記学習値は、今回前記検出部によって検出された運転操作を表す指標により更新される、
請求項1に記載の車載装置。
【請求項3】
車両に搭載され運転操作を記録する車載装置と、通信網を介して前記車載装置と接続される管理装置とを備える安全運転システムであって、
前記車載装置は、
前記運転操作を検出する検出部と、
過去に検出された前記運転操作を表す指標に基づいて算出された学習値を格納する格納部と、
今回検出された前記指標が前記学習値から逸脱する場合に、逸脱している旨を表す情報を前記通信網に送信する送信部と、を備え、
前記学習値は、前記車両の運転者ごとに、且つ、前記指標が検出されたときの車速及び一般道か高速道かの道路の種別ごとに格納され、
前記指標は、ブレーキ操作が開始されたことを検出した時の車間時間であるブレーキ反応タイミングで表され、
前記管理装置は、
前記通信網から前記逸脱している旨を表す情報を受信する受信部を備える
安全運転システム。
【請求項4】
前記車載装置は、前記学習値を前記検出部によって検出された運転操作を表す指標により更新し、更新された学習値を前記送信部から送信する、
請求項に記載の安全運転システム。
【請求項5】
前記車載装置は、前記検出部によって検出された運転操作を表す指標を前記送信部から送信し、
前記管理装置は、前記学習値を格納する管理装置側格納部を備え、前記受信部により受信した前記運転操作を表す指標によって前記管理装置側格納部に格納されている学習値を更新する、
請求項に記載の安全運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転操作を記録する車載装置及び安全運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、速度や走行距離の他、カメラで撮像された画像等を記録するデジタルタコグラフがある。このデジタルタコグラフは、カメラで撮像した画像データに基づき、前方車両のラインエッジ検出を行い、前方車両との車間時間を算出する。また、デジタルタコグラフは、この算出された車間時間が設定値より短い場合、スピーカを鳴動させて警報を行い、事務所に警報を行ったことを送信する。
【0003】
この種の先行技術として、各車両に搭載されたデジタルタコグラフから蛇行、走行速度、車間距離等を表す情報を入力し、各運転者が安全運転を行っているか否かを判断する運行記録評価装置が知られている(特許文献1参照)。車両の外部にいる管理者等は、この運行記録評価装置の出力結果を参照することにより、各運転者を客観的に評価できる。この運行記録評価装置は、カメラが出力する画像情報中のエッジ(または輪郭)に基づく特徴点から、前方車両と自己車両との車間距離を検出するようになっている。
また、デジタルタコグラフにより速度オーバー、急発進、急加速、急減速等の運転評価を行い、前回より運転評価が下がったことを運転者に通報する車載装置が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−199328号公報
【特許文献2】特開2014−44585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車載装置は、車間時間が短い場合や急加速のような急激な運転操作など、危険な運転状況が発生した場合に警報するようになっていた。
したがって、危険な運転状況が発生する前に運転者に警告し、交通事故等を未然に防止することが難しかった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は危険な運転状況が発生する前に運転操作が通常と異なることを運転者に気付かせ、交通事故等を未然に防止する車載装置及び安全運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載装置は、下記(1)〜()を特徴としている。
(1) 車両に搭載され、運転操作を記録する車載装置であって、
前記運転操作を検出する検出部と、
過去に検出された前記運転操作を表す指標に基づいて算出された学習値を格納する格納部と、
今回検出された前記指標が前記学習値から逸脱する場合に、逸脱している旨を表す情報を報知する報知部と、
を備え、
前記学習値は、前記車両の運転者ごとに、且つ、前記指標が検出されたときの車速及び一般道か高速道かの道路の種別ごとに格納され
前記指標は、ブレーキ操作が開始されたことを検出した時の車間時間であるブレーキ反応タイミングで表されること。
上記(1)の構成の車載装置によれば、運転操作を表す指標が学習値から逸脱する場合、その旨を報知するので、運転操作が普段と違うことを運転者に気付かせ、交通事故等を未然に防止することができる。
また、各運転者の運転操作に応じた学習がそれぞれ行われるので、各運転者に合った学習値を使用できる。また、予めROMなどに記憶されている固定値を基準として運転操作を表す指標を評価する場合と比較して、運転者ごとに異なる学習値を用いることができるので、運転操作が普段と異なることをより確実に検出することができる。
更に、学習値が指標を検出した際の車速ごとに算出されるので、車両の走行環境に応じた運転操作の違いを学習値に反映させることができる。
更に、運転操作の変化が現れ易いブレーキ反応タイミング(ブレーキ操作が開始されたことを検出した時の車間時間)が用いられるので、運転操作の変化を捉え易くなる。
(2) 上記(1)の構成の車載装置であって、前記学習値は、今回前記検出部によって検出された運転操作を表す指標により更新されること。
上記(2)の構成の車載装置によれば、検出された運転操作で学習値が更新されるので、運転者の普段の運転操作が変化していく場合にも学習値に反映できる。
また、本発明の安全運転システムは、下記()〜()を特徴としている。
) 車両に搭載され運転操作を記録する車載装置と、通信網を介して前記車載装置と接続される管理装置とを備える安全運転システムであって、
前記車載装置は、
前記運転操作を検出する検出部と、
過去に検出された前記運転操作を表す指標に基づいて算出された学習値を格納する格納部と、
今回検出された前記指標が前記格納部に格納された運転操作の学習値から逸脱する場合に、逸脱している旨を表す情報を前記通信網に送信する送信部と、を備え、
前記学習値は、前記車両の運転者ごとに、且つ、前記指標が検出されたときの車速及び一般道か高速道かの道路の種別ごとに格納され、
前記指標は、ブレーキ操作が開始されたことを検出した時の車間時間であるブレーキ反応タイミングで表され、
前記管理装置は、
前記通信網から前記逸脱している旨を表す情報を受信する受信部を備えること。
上記()の構成の安全運転システムによれば、運転操作を表す指標が学習値から逸脱する場合に、その旨を報知するので、運転操作が普段と違うことを運転者に気付かせ、交通事故等を未然に防止することができる。また、管理装置を扱う管理者は、運転操作を表す指標が学習値から逸脱していることを把握できるので、運転者に休憩を指示したり、運転者を交代させることができる。
) 上記()の構成の安全運転システムであって、
前記車載装置は、前記学習値を前記検出部によって検出された運転操作を表す指標により更新し、更新された学習値を前記送信部から送信すること。
上記()の構成の安全運転システムによれば、車載装置は、常に更新された学習値を使用できるとともに、管理装置は、学習値を更新するための計算を行う必要がなくなる。() 上記()の構成の安全運転システムであって、
前記車載装置は、前記検出部によって検出された運転操作を表す指標を前記送信部から送信し、
前記管理装置は、前記学習値を格納する管理装置側格納部を備え、前記受信部により受信した前記運転操作を表す指標によって前記管理装置側格納部に格納されている学習値を更新すること。
上記()の構成の安全運転システムによれば、学習値を更新するための計算が管理装置で行われるので、学習値を更新するための計算を車載装置で行う場合と比較して、車載装置の構成を簡素にすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、危険な運転状況が発生する前に運転操作が普段と違うことを検出し運転者に報知するので、交通事故等を未然に防止する。
【0008】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態における安全運転システムの構成を示す図である。
図2図2は、データベース29に格納された運転操作テーブル60の登録内容を示す図である。
図3図3は、デジタルタコグラフ10及び事務所PC30の動作手順を示すフローチャートである。
図4図4は、運転操作が逸脱しているか否かを判定するための判定条件を示すテーブルである。
図5図5は、デジタルタコグラフ10を用いた警報動作の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
本実施形態の車載装置はデジタルタコグラフに適用される。また、安全運転システムは、通信網を介して接続されるデジタルタコグラフ及び事務所PCで実現される。
【0011】
図1は本実施形態における安全運転システム5の構成を示す図である。安全運転システム5は、車両を運転する運転者の安全運転を支援するものであり、車載装置を構成する運行記録計(以下、デジタルタコグラフ10という)及び事務所PC30を備えている。デジタルタコグラフ10と事務所PC30とは、通信網を介して接続される。本実施形態においては、通信網は広域通信網50及びパケット通信網80により構成されている。
【0012】
デジタルタコグラフ10は、車両8(図5参照)に搭載され、車両8のエンジン回転数や車速など車両の走行状態を表す運行データを現在時刻と対応付けて記録するようになっている。また、デジタルタコグラフ10は、エンジン回転数オーバー、急発進・急加速、急減速、車間時間、ブレーキSW54のオン/オフ等の発生も運行データとして記録可能となっている。デジタルタコグラフ10は、CPU11、メモリ26、記録部17、カードI/F18、音声I/F19、RTC(時計IC)21、SW入力部22、表示コントローラ23、LED表示部27及びデータベース29を有する。
【0013】
CPU11は、デジタルタコグラフ10の全体を制御するものであり、速度、エンジン回転数、撮像画像等の情報を運行データとして処理し、記録部17に記録する。また、CPU11は、後述するように、車間時間やブレーキ反応タイミングを検出して運転操作が普段と違うか否かを判断する。メモリ26は、CPU11によって実行される動作プログラム等を格納する。また、メモリ26には、速度、エンジン回転数等の制限値が格納されている。
【0014】
記録部17には、速度、エンジン回転数、撮像画像、車間時間、ブレーキ反応タイミング等を含む運行データが記録される。カードI/F18は、運転者が所持するメモリカード55を挿抜自在に保持するようになっており、挿入されたメモリカード55から運転者に関する情報等を取得する。音声I/F19は、内蔵スピーカ20(報知部)と接続されるようになっている。RTC21は、現在時刻を計時する。SW入力部22は、図示しない各種ボタンと接続されており、これらのボタンのON/OFF信号が入力される。表示コントローラ23は、外部に接続された表示器28の表示を制御する。LED表示部27は通信や動作の状態を表示する。
【0015】
データベース29には、後述するように、運転者自身による運転操作データの学習値が登録された運転操作テーブル60が格納されている。
【0016】
また、デジタルタコグラフ10は、速度I/F12A、エンジン回転I/F12B、カメラ入力I/F13、センサ入力I/F14、GPS受信部15、CAN_I/F16、通信部24及び電源部25を有する。
【0017】
速度I/F12Aは、図示しない車速センサと接続されており、車速センサから車速を表す速度パルスが入力される。エンジン回転I/F12Bは、図示しないエンジン回転数センサと接続されており、エンジン回転数センサからエンジン回転数を表す回転パルスが入力される。カメラ入力I/F13には、車両前方を撮像するカメラ52が接続される。センサ入力I/F14には、運転者によってブレーキペダルが押された時にオンになるブレーキSW54や、エンジン温度を検知する温度センサ、燃料量を検知する燃料センサ、ウインカSW等が接続され、これらのスイッチやセンサから信号が入力される。
【0018】
GPS受信部15は、GPSアンテナ15aに接続され、現在位置(GPS情報)を取得する。CAN_I/F16は、CAN(Controller Area Network)規格のネットワークに接続された車両内の各種デバイスから、当該ネットワークを介して速度、エンジン、燃料量等の各種データを取得する。通信部24は、無線通信回線(例えば、3G/LTE回線)等の広域通信網50及びインターネット等のパケット通信網80を介して、後述する事務所PC30と通信を行う。電源部25は、イグニッションスイッチのオンによりデジタルタコグラフ10の各部に電力を供給する。
【0019】
事務所PC30は、汎用のコンピュータで構成されており、管理装置を構成する。事務所PC30は、CPU31、通信部32、表示部33、記憶部34、データベース39、入力部35、操作部36、出力部37及び音声I/F部38を有する。
【0020】
CPU31は、事務所PC30の全体を制御する。通信部32は、広域通信網50やパケット通信網80等の通信網を介してデジタルタコグラフ10と通信可能である。表示部33は、各種情報を表示する。記憶部34は、CPU31によって実行される動作プログラムや、各車両8の運行データ等を格納する。データベース39(格納部)には、運転操作データの学習値が運転者ごとに登録されている。この学習値は、例えば、過去所定回数において検出された運転操作を表す指標の平均値を算出することにより求められる。なお、時系列で新しいほどウェイトを大きくした加重平均を用いたり、中央値を用いたりしてもよい。
【0021】
入力部35には、メモリカード55が挿抜自在に装着され、運行データ等が入力される。操作部36は、キーボードやマウス等により構成されており、管理者等の操作を受け付け、当該操作に応じた信号をCPU31に入力する。出力部37は、各種データを図示しない外部装置に出力する。音声I/F部38には、マイク41及びスピーカ42が接続される。
【0022】
図2はデータベース29に格納された運転操作テーブル60の登録内容を示す図である。この運転操作テーブル60は、車両を運転する運転者毎に用意される。運転操作テーブル60には、運転操作を表す指標として、道路状況及び速度に対応する、車間時間及びブレーキ反応タイミングが登録されている。例えば、運行状況が一般道であり、速度30km/hである場合、車間時間がa3秒、ブレーキ反応タイミングがb3秒であることが示される。
【0023】
ここで、ブレーキ反応タイミングbとは、車間時間がa秒になった時にブレーキ操作が開始された、つまりブレーキSW54がオンになったタイミングであり、ブレーキ操作が開始されたことを検出した時の車間時間で表される。
【0024】
上記構成を有する安全運転システム5の動作を示す。なお、以下では、警報、車間時間及びブレーキ反応タイミングを含む運行データが通信網を介して事務所PC30に送信され、運転操作テーブル60が事務所PC30において更新される場合を例に説明する。
【0025】
図3はデジタルタコグラフ10及び事務所PC30の動作手順を示すフローチャートである。図3(A)は警報動作を示す。図3(B)はデータベースの更新動作を示す。
事務所PC30は、あらかじめデータベース39に格納されている、運転操作データの学習値が登録された複数の運転操作テーブルの中から、車両8の運転者に対応する運転操作テーブル60を読み出し、メモリカード55に書き込んでおく。運転者91は、運転操作テーブル60が書き込まれたメモリカード55をデジタルタコグラフ10のカードI/F18に挿入し、データベース29に登録(複写)しておく(図5(A)参照)。なお、運転操作テーブル60の登録作業は、事務所PC30の管理者が行ってもよいし、手作業の代わりに通信網を介した通信によって行われてもよい。
【0026】
イグニッションSWがオンになると、デジタルタコグラフ10が起動する。まず、CPU11は、前方車両までの車間時間を検出する(S1)。この車間時間は、例えば、公知の画像処理技術を使って、カメラ52で撮像された前方の画像からエッジ(輪郭)情報を抽出し、このエッジ情報から得られる前方車両の大きさから前方車両までの車間距離を算出し、この車間距離を現在の速度で除することで得られる。また、デジタルタコグラフ10が超音波送受信器を搭載している場合、前方車両に向けて発信した超音波が反射して戻ってくるまでの時間を計測することで車間距離を算出してもよい。
【0027】
CPU11は、検出された車間時間と運転操作テーブル60に登録された学習値とを比較し、車間時間が学習値から逸脱するか否かを判定する(S2)。このとき、CPU11は、車速を算出し、運転操作テーブル60のうち、該当する車速に対応する学習値を取得する。また、CPU11は、一般道及び高速道のいずれを走っているか識別可能の時は、該当する道路に対応する学習値を選択する。一般道と高速道との識別は、例えば、図示しないナビゲーションシステムに記録されている地図に基づいて行われたり、平均車速やブレーキ操作が行われる頻度により行われる。
【0028】
本実施形態では、検出された車間時間が、運転操作テーブル60に登録された、速度に対応する車間時間の学習値から30%以内に無い場合(図4参照)、普段の運転操作と違うことに起因して学習値から逸脱していると判断される。車間時間が学習値から逸脱していない場合、CPU11はステップS4の処理に進む。一方、ステップS2で学習値から逸脱する場合、CPU11は車間時間にゆらぎがあると判断する(S3)。なお、車両8の前方に他車両が存在しない場合もあるため、CPU11は、車間時間が所定の上限値を超えている場合には、車間時間が学習値から逸脱していないと判断するようにしてもよい。
【0029】
続いて、CPU11は、記録部17に記録されたブレーキ反応タイミング、つまりブレーキSW54がオンになった時の車間時間を取得する(S4)。CPU11は、取得したブレーキ反応タイミングと運転操作テーブル60に登録された学習値とを比較し、ブレーキ反応タイミングが学習値から逸脱するか否かを判定する(S5)。ここでは、取得したブレーキ反応タイミングが、運転操作テーブル60に登録された、道路状況及び速度に対応するブレーキ反応タイミングの学習値から40%以内に無い場合(図4参照)、普段の運転操作と違うことに起因して学習値から逸脱したと判断される。ブレーキ反応タイミングが学習値から逸脱していない場合、CPU11はステップS7の処理に進む。一方、ステップS5で学習値から逸脱する場合、CPU11はブレーキ反応タイミングに遅れがあると判断する(S6)。
【0030】
CPU11は、通報する必要があるか否か、つまり運転操作を表す指標が学習値から逸脱したか否かを判定する(S7)。運転操作の指標に逸脱が無かった場合、CPU11はステップS9の処理に進む。一方、運転操作の指標に逸脱があった場合、CPU11は、スピーカ20を鳴動させて警報を発する(S8)。例えば、車間時間が学習値よりも短い方に逸脱していた場合、スピーカ20から「車間距離にご注意ください」のメッセージが発音される(図5(C)参照)。また、ブレーキ反応タイミングが学習値よりも遅い方に逸脱していた場合、スピーカ20から「ブレーキのタイミングが遅れています」等のメッセージが発音される。なお、CPU11は、メッセージの代わりにチャイムやブザーなどをスピーカ20から出力させることにより、運転者に注意を喚起するようにしてもよい。
【0031】
CPU11は、警報、車間時間及びブレーキ反応タイミングを含む運行データを事務所PC30に送信する(S9)。この後、CPU11は本処理を終了する。
【0032】
一方、事務所PC30側では、CPU31は、デジタルタコグラフ10から運行データを受信するまで待機する(S11)。運行データを受信すると、CPU31は、この運行データを元に、データベース39に格納された、運転者毎の運転操作テーブルを更新する(S12)。この時、運行データに、車間時間あるいはブレーキ反応タイミングが学習値から逸脱していることを表すデータが含まれていた場合には、CPU31は、表示部33を介してその旨を表す警告を表示させる。事務所PC30を扱う管理者は、表示部33に表示された警告を確認することにより、その運転者に疲労などが溜まっていることを認識できる。この後、CPU31は本処理を終了する。
【0033】
図4は運転操作を表す指標が学習値から逸脱しているか否かを判定するための判定条件を示すテーブルである。これらの判定条件は一例である。例えば、条件Aには、前述したように、車間時間の学習値の30%以内であるか否かが定義されている。条件Bには、前述したように、ブレーキ反応タイミングの学習値の40%以内であるか否かが定義されている。本実施形態では、条件Aと条件Bがデジタルタコグラフ10に設定されている。
【0034】
また、条件Cには、条件Aが回数N1以上満たされたか否かが定義されている。条件Dには、条件Bが回数N2以上満たされたか否かが定義されている。条件Eには、条件Aと条件Bの両方が満たされたか否かが定義されている。条件Fには、条件Aと条件Bの両方が回数N3以上満たされたか否かが定義されている。これらの判定条件は、管理者等によって任意に選択され、デジタルタコグラフ10に設定される。
【0035】
図5はデジタルタコグラフ10を用いた警報動作の概略を説明する図である。前述したように、運転者91は、運転操作データの学習値が登録された運転操作テーブル60が書き込まれたメモリカード55を、デジタルタコグラフ10に挿入し、データベース29に運転操作テーブル60を格納(複写)する(図5(A)参照)。
【0036】
車両8の走行中、デジタルタコグラフ10は、速度、エンジン回転数の他、車間時間及びブレーキ反応タイミングを運行データとして記録部17に記録する(図5(B)参照)。
【0037】
運転者91による運転操作を表す指標である車間時間とブレーキ反応タイミングが、運転操作テーブル60に登録された学習値から逸脱している場合、デジタルタコグラフ10は、スピーカ20を鳴動させ、「車間距離にご注意ください」のメッセージ等で警報を発する(図5(C)参照)。
【0038】
本実施形態のデジタルタコグラフでは、普段の運転操作と比べ、前方車両に近づき過ぎたり、前方車両から離れ過ぎたりして、車間時間にゆらぎが生じている場合、警報が発せられるので、運転者は、例えば体調不良で、普段と違った運転操作をしていることに気付き易くなる。また、ブレーキ反応タイミングが普段の運転操作と異なる場合にも警報が発せられるので、運転者は、普段と違った運転操作をしていることに気付き易くなる。
【0039】
このように、運転操作が普段と違うことを運転者に気付かせ、交通事故等を未然に防止することができる。また、検出された運転操作によって学習値が更新されるので、変化する普段の運転操作を学習値に反映できる。また、運転者ごとに運転操作が学習されるので、各運転者に合わせた学習値を用いることができる。また、学習値が指標を検出した際の車速ごとに算出されるので、車両8の走行環境に応じた運転操作の違いを学習値に反映させることができる。また、運転操作の変化が現れ易い車間時間及びブレーキ反応タイミングを運転操作の指標として用いるので、運転操作の変化を捉え易くなる。
また、事務所PC30が学習値を更新する場合には、デジタルタコグラフによる学習値の更新動作を省くことができる。また、車間時間あるいはブレーキ反応タイミングが学習値から逸脱した場合に、事務所PC30の表示部33に表示させるようにすることにより、事務所PC30を扱う管理者は、その運転者に疲労などが溜まっていることを認識できる。したがって、運転者を交代させたり休憩させたりする等の処置をとることにより、交通事故の発生を未然に防止することができる。
【0040】
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態は、本発明の技術的範囲内で種々の変形や改良等を伴うことができる。
例えば、上記実施形態では、運転操作テーブルは、メモリカード等の記録媒体を用いて、事務所PCからデジタルタコグラフに複写されたが、通信によって書き換えられてもよい。
【0041】
また、警報を発するような運転操作のデータを学習値から排除することで、運転操作データの学習値を安全運転に適したものにすることができる。また、運転操作の指標が学習値から逸脱した場合、CPU11は、スピーカ20を鳴動させて警報を発する代わりに、あるいは警報とともに、表示器28に警告を表示させるようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、運転操作データは、運行データの一部として、事務所PC30に送信され、事務所PC30が運転操作データの学習値を更新したが、デジタルタコグラフ10が運転操作データの学習値を更新してもよく、事務所PC30から更新された学習値を受け取る必要が無くなる。この場合、デジタルタコグラフ10から事務所PC30に、更新された運転操作データの学習値が複写されることになる。
また、上記実施形態では、車載装置は、デジタルタコグラフ10に適用された場合を示したが、ドライブレコーダや単体機として構成されてもよい。
また、上記実施形態では、運転者による運転操作の変化が現れ易い車間時間やブレーキ反応タイミングを用いた場合を示したが、その他の運転操作として、例えば、発進時にアクセルペダルを踏むことにより上昇するエンジン回転数の最大値や、停車することなくカーブを曲がる際のウインカONから旋回を開始するまでの時間等を用いてもよい。この場合、CPU11は、エンジン回転数センサやウインカSWから入力される信号に基づいて運転操作の指標を算出する。
【0043】
ここで、上述した本発明に係る車載装置および安全運転システムの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[7]に簡潔に纏めて列記する。
【0044】
[1] 車両(8)に搭載され、運転操作を記録する車載装置(デジタルタコグラフ10)であって、
前記運転操作を検出する検出部(CPU11)と、
過去に検出された前記運転操作を表す指標に基づいて算出された学習値を格納する格納部(データベース29)と、
今回検出された前記指標が前記学習値から逸脱する場合に、逸脱している旨を表す情報を報知する報知部(スピーカ20)と、
を備え、
前記学習値は、前記車両の運転者ごとに格納される、
車載装置(デジタルタコグラフ10)。
【0045】
[2] 前記学習値は、今回前記検出部(CPU11)によって検出された運転操作を表す指標により更新される、
上記[1]に記載の車載装置(デジタルタコグラフ10)。
【0046】
[3]前記学習値は、前記指標が検出されたときの車速ごとに格納される、
上記[1]または[2]に記載の車載装置(デジタルタコグラフ10)。
【0047】
[4] 前記指標は、車間時間及びブレーキ反応タイミングの少なくとも一方で表される、
上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の車載装置(デジタルタコグラフ10)。
【0048】
[5] 車両(8)に搭載され運転操作を記録する車載装置(デジタルタコグラフ10)と、通信網(50、80)を介して前記車載装置(デジタルタコグラフ10)と接続される管理装置(事務所PC30)とを備える安全運転システム(5)であって、
前記車載装置(デジタルタコグラフ10)は、
前記運転操作を検出する検出部(CPU11)と、
過去に検出された前記運転操作を表す指標の学習値を記憶する記憶部と、
今回検出された前記指標が前記学習値から逸脱する場合に、逸脱している旨を表す情報を前記通信網(50、80)に送信する送信部(通信部24)と、を備え、
前記管理装置(事務所PC30)は、
前記通信網(50、80)から前記逸脱している旨を表す情報を受信する受信部(通信部32)を備える
安全運転システム(5)。
【0049】
[6] 前記車載装置(デジタルタコグラフ10)は、前記学習値を前記検出部(CPU11)によって検出された運転操作を表す指標により更新し、更新された学習値を前記送信部(通信部24)から送信する、
上記[5]に記載の安全運転システム(5)。
【0050】
[7] 前記車載装置(デジタルタコグラフ10)は、前記検出部(CPU11)によって検出された運転操作を表す指標を前記送信部(通信部24)から送信し、
前記管理装置(事務所PC30)は、前記学習値を格納する管理装置側格納部(データベース39)を備え、前記受信部(通信部32)により受信した前記運転操作を表す指標によって前記管理装置側格納部(データベース39)に格納されている学習値を更新する、
上記[5]に記載の安全運転システム(5)。
【符号の説明】
【0051】
5 安全運転システム
8 車両
10 デジタルタコグラフ(車載装置)
11 CPU(検出部)
12A 速度I/F
12B エンジン回転数I/F
13 カメラ入力I/F
14 センサ入力I/F
15 GPS受信部
16 CAN_I/F
17 記録部
18 カードI/F
19 音声I/F
20 スピーカ(報知部)
22 ボタン入力部
23 表示コントローラ
24 通信部(送信部)
26 メモリ
28 表示器
29 データベース(格納部)
30 事務所PC(管理装置)
31 CPU
32 通信部(受信部)
33 表示部
35 入力部
36 操作部
38 音声I/F部
39 データベース(管理装置側格納部)
42 スピーカ
50 広域通信網
52 カメラ
54 ブレーキSW
55 メモリカード
60 運転操作テーブル
80 パケット通信網
91 運転者
図1
図2
図3
図4
図5