(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、パルスレーザビームの照射時に被加工基板のパルスレーザビーム照射位置から発せられる光の色を検知することで、最適加工条件を効率よく判断するレーザ加工装置およびレーザ加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のレーザ加工装置は、被加工基板を載置するステージと、パルスレーザビームを出射するレーザ発振器と、前記パルスレーザビームを集光し前記被加工基板上に照射する集光レンズと、前記被加工基板上の前記パルスレーザビームの照射位置を移動させる移動機構と、前記照射位置から発せられる光の色を検知するセンサと、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記態様の装置において、前記光の色の情報に基づき、最適加工条件を判断する判断部を、さらに備えることが望ましい。
【0009】
上記態様の装置において、前記光が可視光であることが望ましい。
【0010】
上記態様の装置において、前記パルスレーザビームのパルス幅が100フェムト秒以上1ピコ秒未満であることが望ましい。
【0011】
本発明の一態様のレーザ加工方法は、被加工基板をステージに載置し、パルスレーザビームを出射し、前記パルスレーザビームを集光レンズにより集光し、前記被加工基板と前記集光レンズとの距離を段階的に変更し、各距離において、前記パルスレーザビームを前記被加工基板に照射しながら、前記被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させて、前記被加工基板上の前記パルスレーザビームの照射位置から発せられる光の色を検知し、前記光の色の情報に基づき、前記被加工基板表面に溝を形成するための最適加工条件を判断することを特徴とする。
【0012】
上記態様の方法において、前記被加工基板がGaAs系半導体であることが望ましい。
【0013】
上記態様の方法において、前記光が可視光であることが望ましい。
【0014】
上記態様の方法において、前記パルスレーザビームのパルス幅が100フェムト秒以上1ピコ秒未満であることが望ましい。
【0015】
上記態様の方法において、前記最適加工条件を判断する際に、前記光の色が白色となる前記距離を最適加工条件と判断することが望ましい。
【0016】
上記態様の方法において、前記パルスレーザビームの前記被加工基板上のパルス間隔が0.001μm以上1μm以下であることが望ましい。
【0017】
本発明の一態様のレーザ加工方法は、第1の被加工基板と第2の被加工基板をステージに載置し、パルスレーザビームを出射し、前記パルスレーザビームを集光レンズにより集光し、前記パルスレーザビームを前記第1の被加工基板に照射し、前記第1の被加工基板と前記集光レンズとの距離を段階的に変更し、各距離において、前記パルスレーザビームを前記
第1の被加工基板に照射しながら、前記第1の被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させて、前記第1の被加工基板上の前記パルスレーザビームの照射位置から発せられる光の色を検知し、前記光の色の情報に基づき、前記第2の被加工基板表面に溝を形成するための前記パルスレーザビームの最適加工条件を判断し、前記パルスレーザビームを出射し、前記パルスレーザビームを集光レンズにより集光し、前記パルスレーザビームを前記第2の被加工基板に照射し、前記第2の被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させて、前記最適加工条件で前記第2の被加工基板表面に溝を形成することを特徴とする。
【0018】
上記態様の方法において、前記
第1の被加工基板
及び前記第2の被加工基板がGaAs系半導体であることが望ましい。
【0019】
上記態様の方法において、前記光が可視光であることが望ましい。
【0020】
上記態様の方法において、前記パルスレーザビームのパルス幅が100フェムト秒以上1ピコ秒未満であることが望ましい。
【0021】
上記態様の方法において、前記最適加工条件を判断する際に、前記光の色が白色となる前記距離を最適加工条件と判断することが望ましい。
【0022】
上記態様の方法において、前記パルスレーザビームの前記
第1の被加工基板
及び前記第2の被加工基板の上のパルス間隔が0.001μm以上1μm以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、パルスレーザビームの照射時に被加工基板のパルスレーザビーム照射位置から発せられる光の色を検知することで、最適加工条件を効率よく判断するレーザ加工装置およびレーザ加工方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明者らは、レーザアブレーションで基板表面に溝を設けて、基板をダイシングする方法において、基板のダイシング特性、すなわち、基板の割断性と、基板のレーザ照射位置から発せられる光の色とに、相関関係があることを見出した。以下の実施形態は、上記知見に基づくものである。
【0026】
本明細書中、GaAs(ガリウムヒ素)系半導体とは、GaAs(ガリウムヒ素)半導体またはAlGaAs(アルミニウムガリウムヒ素)半導体である。
【0027】
(第1の実施形態)
本実施形態のレーザ加工装置は、被加工基板を載置するステージと、パルスレーザビームを出射するレーザ発振器と、パルスレーザビームを集光し被加工基板上に照射する集光レンズと、被加工基板上のパルスレーザビームの照射位置を移動させる移動機構と、照射位置から発せられる光の色(発光色)を検知するセンサと、を備える。
【0028】
また、本実施形態のレーザ加工方法は、被加工基板をステージに載置し、パルスレーザビームを出射し、パルスレーザビームを集光レンズにより集光し、被加工基板と集光レンズとの距離を段階的に変更し、各距離において、パルスレーザビームを被加工基板に照射しながら、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させて、被加工基板上のパルスレーザビームの照射位置から発せられる光の色を検知し、光の色の情報に基づき、被加工基板表面に溝を形成するための最適加工条件を判断する。
【0029】
図1は本実施形態のレーザ加工装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態のレーザ加工装置10は、その主要な構成として、レーザ発振器12、パルスピッカー14、ビーム整形器16、集光レンズ(対物レンズ)18、XYZステージ部20、駆動部21、センサ50、判断部52、レーザ発振器制御部22、パルスピッカー制御部24および加工制御部26を備えている。加工制御部26には所望のクロック信号S1を発生する基準クロック発振回路28および加工テーブル部30が備えられている。
【0030】
レーザ発振器12は、基準クロック発振回路28で発生するクロック信号S1に同期した周期TcのパルスレーザビームPL1を出射するよう構成されている。照射パルス光の強度はガウシアン分布を示す。クロック信号S1は、レーザ加工の制御に用いられる加工制御用クロック信号である。
【0031】
ここでレーザ発振器12から出射されるレーザとしては、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO
4レーザ、Nd:YLFレーザ等を用いることができる。例えば、被加工基板がGaAs系半導体の場合には、波長1064nmのNd:YAGレーザを用いることが望ましい。
【0032】
パルスレーザビームのパルス幅は、10フェムト秒以上1ピコ秒未満であることが望ましく、100フェムト秒以上1ピコ秒未満であることがより望ましい。パルス幅が、この範囲にあれば、パルスレーザビームの照射位置からの発光が容易に観察できるからである。
【0033】
パルスピッカー14は、レーザ発振器12と集光レンズ18との間の光路に設けられる。そして、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームPL1の通過と遮断(オン/オフ)を切り替えることで被加工基板へのパルスレーザビームPL1の照射と非照射を、光パルス数単位で切り替えるよう構成されている。このように、パルスピッカー14の動作によりパルスレーザビームPL1は、被加工基板の加工のためにオン/オフが制御され、変調された変調パルスレーザビームPL2となる。
【0034】
パルスピッカー14は、例えば音響光学素子(AOM)で構成されていることが望ましい。また、例えばラマン回折型の電気光学素子(EOM)を用いても構わない。
【0035】
ビーム整形器16は、入射したパルスレーザビームPL2を所望の形状に整形されたパルスレーザビームPL3とする。例えば、ビーム径を一定の倍率で拡大するビームエキスパンダである。また、例えば、ビーム断面の光強度分布を均一にするホモジナイザのような光学素子が備えられていてもよい。また、例えばビーム断面を円形にする素子や、ビームを円偏光にする光学素子が備えられていても構わない。
【0036】
集光レンズ18は、ビーム整形器16で整形されたパルスレーザビームPL3を集光し、XYZステージ部20上に載置される被加工基板W、例えばLEDが形成されるGaAs基板にパルスレーザビームPL4を照射するよう構成されている。
【0037】
XYZステージ20(以後、単にステージとも言う)は、被加工基板Wを載置するステージである。移動機構の一例である駆動部21は、XYZステージ20をX方向、Y方向、Z方向に自在に移動させる。駆動部21は、被加工基板Wとパルスレーザビームの照射位置を相対的に移動させることを可能にする。また、駆動部21は、ステージをZ方向に移動させることで、被加工基板Wと集光レンズ18との距離を段階的に変更することを可能にする。
【0038】
また、ステージの位置を計測する位置計測器、例えば、レーザ干渉計等を備えている。ここで、XYZステージ20は、その位置決め精度および移動誤差がサブミクロンの範囲の高精度になるよう構成されている。
【0039】
センサ50は、被加工基板Wにパルスレーザビームを照射した際、照射位置から発せられる光の色(発光色)を検知する機能を有する。センサ50は、特に、可視光を検知可能であることが望ましい。
【0040】
センサ50は、色を判定できる機能を備えていれば特に限定されるものではないが、例えば、分光測色計、色彩計を適用することが可能である。センサ50は、後の判断部52等での情報処理のために、光の色を色度として数値化する機能を備えることが望ましい。
【0041】
判断部52は、センサ50で検知される光の色の情報に基づき、最適加工条件を判断する。例えば、あらかじめ特定の種類の被加工基板Wにおいて、最適加工条件となる色を同定しておく。そして、その色を基準色度として登録しておく。判断部52ではセンサ50で検知された色の色度が基準色度と一致したときの加工条件を、最適加工条件と判断する機能を備える。この最適加工条件が、例えば、加工制御部26に伝達される。判断部52は、例えば、ハードウェアあるいはハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって構成される。
【0042】
加工制御部26はレーザ加工装置10による加工を全体的に制御する。基準クロック発振回路28は、所望のクロック信号S1を発生する。また、加工テーブル部30には、ダイシング加工データをパルスレーザビームの光パルス数で記述した加工テーブルが記憶される。
【0043】
次に、上記レーザ加工装置10を用いたレーザ加工方法について、
図1〜
図6を用いて説明する。
【0044】
まず、被加工基板W、例えば、GaAs系半導体基板をXYZステージ20に載置する。このGaAS基板は、例えば、複数のLEDがパターン形成されているウェハである。ウェハに形成されるノッチまたはオリエンテーションフラットを基準に、XYZステージ20に対するウェハの位置合わせが行われる。なお、被加工基板は、必ずしも、GaAs系半導体基板に限定されるものではない。
【0045】
図2は、本実施形態のレーザ加工方法のタイミング制御を説明する図である。加工制御部26内の基準クロック発振回路28において、周期Tcのクロック信号S1が生成される。レーザ発振器制御部22は、レーザ発振器12がクロック信号S1に同期した周期TcのパルスレーザビームPL1を出射するよう制御する。この時、クロック信号S1の立ち上がりとパルスレーザビームの立ち上がりには、遅延時間t
1が生ずる。
【0046】
レーザ光(パルスレーザビーム)の照射エネルギー(照射パワー)は、被加工基板表面にアブレーションにより、連続的な溝を形成する上での最適な条件を選ぶ。
【0047】
パルスピッカー制御部24は、加工制御部26から出力される加工パターン信号S2を参照し、クロック信号S1に同期したパルスピッカー駆動信号S3を生成する。加工パターン信号S2は、加工テーブル部30に記憶され、照射パターンの情報を光パルス単位で光パルス数で記述する加工テーブルを参照して生成される。パルスピッカー14は、パルスピッカー駆動信号S3に基づき、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームPL1の通過と遮断(オン/オフ)を切り替える動作を行う。
【0048】
このパルスピッカー14の動作により、変調パルスレーザビームPL2が生成される。なお、クロック信号S1の立ち上がりとパルスレーザビームの立ち上がり、立下りには、遅延時間t
2、t
3が生ずる。また、パルスレーザビームの立ち上がり、立下りと、パルスピッカー動作には、遅延時間t
4、t
5が生ずる。
【0049】
被加工基板の加工の際には、遅延時間t
1〜t
5を考慮して、パルスピッカー駆動信号S3等の生成タイミングや、被加工基板とパルスレーザビームとの相対移動タイミングが決定される。
【0050】
図3は、本実施形態のレーザ加工方法のパルスピッカー動作と変調パルスレーザビームPL2のタイミングを示す図である。パルスピッカー動作は、クロック信号S1に同期して光パルス単位で切り替えられる。このように、パルスレーザビームの発振とパルスピッカーの動作を、同じクロック信号S1に同期させることで、光パルス単位の照射パターンを実現できる。
【0051】
具体的には、パルスレーザビームの照射と非照射が、光パルス数で規定される所定の条件に基づき行われる。すなわち、照射光パルス数(P1)と、非照射光パルス数(P2)を基にパルスピッカー動作が実行され、被加工基板への照射と非照射が切り替わる。パルスレーザビームの照射パターンを規定するP1値やP2値は、例えば、加工テーブルに照射領域レジスタ設定、非照射領域レジスタ設定として規定される。P1値やP2値は、被加工基板の材質、レーザビームの条件等により、ダイシング時の溝形成を最適化する所定の条件に設定される。
【0052】
変調パルスレーザビームPL2は、ビーム整形器16により所望の形状に整形されたパルスレーザビームPL3とする。さらに、整形されたパルスレーザビームPL3は、集光レンズ18で集光され所望のビーム径を有するパルスレーザビームPL4となり、被加工基板であるウェハ上に照射される。
【0053】
ウェハをX軸方向およびY軸方向にダイシングする場合、まず、例えば、XYZステージをX軸方向に一定速度で移動させて、パルスレーザビームPL4を走査する。そして、所望のX軸方向のダイシングが終了した後、XYZステージをY軸方向に一定速度で移動させて、パルスレーザビームPL4を走査する。これにより、Y軸方向のダイシングを行う。
【0054】
上記の照射光パルス数(P1)と、非照射光パルス数(P2)およびステージの速度で、パルスレーザビームの照射非照射の間隔が制御される。
【0055】
Z軸方向(高さ方向)については、集光レンズの集光位置(焦点位置)がウェハ表面近傍に位置するよう調整する。この集光位置は、ダイシングの際にウェハ表面に溝が所望の形状に形成されるよう設定される。
【0056】
図4は、本実施形態のレーザ加工方法の照射パターンの説明図である。図のように、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームPL1が生成される。そして、クロック信号S1に同期してパルスレーザビームの通過と遮断を制御することで、変調パルスレーザビームPL2が生成される。
【0057】
そして、ステージの横方向(X軸方向またはY軸方向)の移動により、変調パルスレーザビームPL2の照射光パルスがウェハ上に照射スポットとして形成される。このように、変調パルスレーザビームPL2を生成することで、ウェハ上に照射スポットが光パルス単位で制御され断続的に照射される。
図4の場合は、照射光パルス数(P1)=2、非照射光パルス数(P2)=1とし、照射光パルス(ガウシアン光)が照射スポット径のピッチで照射と非照射を繰り返す条件が設定されている。
【0058】
ここで、
照射スポット径:D(μm)
繰り返し周波数:F(KHz)
の条件で加工を行うとすると、照射光パルスが照射スポット径のピッチで照射と非照射を繰り返すためのステージ移動速度V(m/sec)は、
V=D×10
−6×F×10
3
となる。
【0059】
例えば、
ビームスポット径:D=2μm
繰り返し周波数:F=50KHz
の加工条件で行うとすると、
ステージ移動速度:V=100mm/sec
となる。
【0060】
また、照射光のパワーをP(ワット)とすると、パルスあたり照射パルスエネルギーP/Fの光パルスがウェハに照射されることになる。
【0061】
パルスレーザビームの照射エネルギー(照射光のパワー)、パルスレーザビームの加工点深さ、および、パルスレーザビームの照射非照射の間隔のパラメータが、溝が被加工基板表面において、細い幅で深く連続して形成されるよう決定される。
【0062】
図5は、GaAs基板上に照射される照射パタ−ンを示す上面図である。照射面上からみて、照射光パルス数(P1)=2、非照射光パルス数(P2)=1で、照射スポット径のピッチで照射スポットが形成される。
【0063】
図6は、ステージ移動とダイシング加工との関係を説明する図である。XYZステージには、X軸、Y軸方向に移動位置を検出する位置センサが設けられている。例えば、ステージのX軸またはY軸方向への移動開始後、ステージ速度が速度安定域に入る位置をあらかじめ同期位置として設定しておく。そして、位置センサにおいて同期位置を検出した時、例えば、移動位置検出信号S4(
図1)がパルスピッカー制御部24に送られることでパルスピッカー動作が許可され、パルスピッカー駆動信号S3によりパルスピッカーを動作させるようにする。同期位置を、例えば、被加工基板の端面として、この端面を位置センサで検出する構成にしてもよい。
【0064】
このように、
S
L:同期位置から基板までの距離
W
L:加工長
W
1:基板端から照射開始位置までの距離
W
2:加工範囲
W
3:照射終了位置から基板端までの距離
が管理される。
【0065】
このようにして、ステージの位置およびそれに載置される被加工基板の位置と、パルスピッカーの動作開始位置が同期する。すなわち、パルスレーザビームの照射と非照射と、ステージの位置との同期がとられる。そのため、パルスレーザビームの照射と非照射の際、ステージが一定速度で移動する(速度安定域にある)ことが担保される。したがって、照射スポット位置の規則性が担保され、安定した溝の形成が実現される。
【0066】
次に、本実施形態のレーザ加工方法において、最適な加工条件を判定する条件出し方法について説明する。
【0067】
図7および
図8は、本実施形態のレーザ加工方法の条件出し時の照射パターンの説明図である。
図7は上面図、
図8は断面図である。例えば、ステージ20上に、間にダイシング領域を挟んで複数のLEDが形成されたGaAs基板を準備する。
【0068】
次に、GaAs基板のLEDが形成されていない領域を利用して、最適な加工条件を判断する条件出しを行う。例えば、
図7に示すように、ビーム径DFのパルスレーザビームを、パルス間隔Lで照射する。
【0069】
ここで、ビーム径DFとは、パルスレーザビームの焦点位置でのビームの直径を意味する。上記照射スポット径Dは、被加工基板表面でのビームの直径を意味する。したがって、DF≦Dの関係が成立する。また、パルス間隔Lは隣接するパルスレーザビームの中心間の距離である。
【0070】
この際、
図8に示すように、集光レンズ18と照射面(被加工基板の表面)との距離Zは、特定の初期値Z
0とする。初期値Z
0は、例えば、パルスレーザビームの焦点位置がGaAs基板中にあるような値に設定する。
【0071】
ビーム径DFは、例えば、1μm〜3μmである。パルス間隔Lは、0.001μm以上1μm以下であることが望ましい。パルス間隔Lは、0.005μm以上0.05μm以下であることがより望ましい。パルス間隔Lが上記範囲にあれば、ダイシング特性が良好となるからである。
【0072】
初期値Z
0で、ステージ20を駆動部21によりX方向またはY方向に移動させ、所定の長さにわたって、GaAs基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させる。これによりGaAs基板表面で、パルスレーザビームを直線的に走査する。所定の長さとは、例えば、5mm〜20mmである。
【0073】
GaAs基板上のパルスレーザビームの照射位置から発せられる光の色を検知する。光の色の検知は、再現性、客観性を担保し、誤差を抑制する観点からセンサを用いることが望ましい。しかし、肉眼により検知することも可能である。
【0074】
初期値Z
0で行ったのと同様の走査を、GaAs基板と18集光レンズとの距離Zを段階的に変更して行う。各距離において、走査する直線は重ならないようにする。
【0075】
例えば、
図8に示すように、距離ZをΔZずつ短くしていき、各距離Zにおいて初期値Z
0で行ったのと同様の走査を行う。距離Zが、パルスレーザビームの焦点位置が集光レンズ18側のGaAs基板外になるまで、走査が繰り返される。ΔZは、例えば、1μm〜30μmである。なお、被加工基板W中では、被加工基板の屈折率が空気中と異なることから、距離ZをΔZ変化させた基板中の焦点位置の変化量は、必ずしもΔZとはならない。
【0076】
距離Zを段階的に変更することにより、照射位置から発せられる光の色が変化を示す。例えば、無色→赤色→緑色→白色→緑色→赤色→無色と変化する。この光の色の変化と、GaAs基板に形成される溝の形状およびダイシング特性と、に相関関係がある。GaAs基板については白色の場合に、もっともダイシング特性が良好となることが確認されている。具体的には、例えば、ダイシングラインの直線性が向上するとともに、より小さい外力での割断が可能となる。
【0077】
距離Zを変更して得られる光の色の情報に基づき、GaAs基板表面に溝を形成するための最適加工条件を判断する。例えば、光の色が白色になる距離Zの値を最適条件と判断する。
【0078】
その後、GaAs基板と集光レンズ18との距離を、光の色が白色になる距離Zの値に固定し、LED間のダイシングラインに沿ってパルスレーザビームの走査を行い、GaAs基板をダイシングする。
【0079】
なお、条件出しの際のパラメータとして、GaAs基板と集光レンズ18との距離以外に、その他の条件をパラメータとしてもかまわない。例えば、ビーム径DFやパルス間隔Lをパラメータとしてもかまわない。
【0080】
例えば、GaAs基板の場合、距離Zを変化させた際に、照射位置で可視光が発光する距離Zの範囲が最も広くなるパルス間隔Lを選択することで、溝の形状およびダイシング特性が良好になることが確認されている。
【0081】
本実施形態のレーザ加工装置およびレーザ加工方法によれば、パルスレーザビームの照射時に被加工基板のパルスレーザビーム照射位置から発せられる光の色を検知することで、最適加工条件を効率よく判断することが可能となる。したがって、最適加工条件を見出すための条件出しに要する時間が短縮され、ダイシングのスループットが向上する。あるいは、条件出しの頻度を上げて、再現性の高いダイシングを行うことが可能となる。
【0082】
また、試料を破壊することなく条件出しができる。したがって、実際にダイシングを行う素子が形成された被加工基板の一部の領域を用いて条件出しを行うことも可能となる。よって、例えば、ステージ上に条件出し用の試料を別途載置することが不要となる。
【0083】
(第2の実施形態)
本実施形態のレーザ加工方法は、第1の被加工基板と第2の被加工基板をステージに載置し、パルスレーザビームを出射し、パルスレーザビームを集光レンズにより集光し、パルスレーザビームを第1の被加工基板に照射し、第1の被加工基板と集光レンズとの距離を段階的に変更し、各距離において、パルスレーザビームを被加工基板に照射しながら、第1の被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させて、第1の被加工基板上のパルスレーザビームの照射位置から発せられる光の色を検知し、光の色の情報に基づき、第2の被加工基板表面に溝を形成するためのパルスレーザビームの最適加工条件を判断し、パルスレーザビームを出射し、パルスレーザビームを集光レンズにより集光し、パルスレーザビームを第2の被加工基板に照射し、第2の被加工基板と前記パルスレーザビームとを相対的に移動させて、最適加工条件で第2の被加工基板表面に溝を形成する。
【0084】
本実施形態では、ダイシングの条件出し用の第1の被加工基板と、ダイシングを行う第2の被加工基板とを、同時にステージ20上に載置し、第1の被加工基板を用いて得られる最適な加工条件を、第2の被加工基板に用いてダイシングすること以外は第1の実施形態と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
【0085】
第1の被加工基板と第2の被加工基板は、大きさが第1の被加工基板の方が小さいこと以外は同一の基板を用いる。例えば、第1の被加工基板と第2の被加工基板は、共にGaAs系半導体のGaAs基板である。
【0086】
本実施形態によれば、ダイシングの条件出し用に別基板を用いる。したがって、ダイシングを行う基板に条件出しに使用する余剰領域がない場合でも、ダイシングのスループットを犠牲にせず、最適な加工条件を見出すことが可能となる。
【0087】
(第3の実施形態)
本実施形態のレーザ加工装置およびレーザ加工方法は、被加工基板が透明樹脂基板であり、透明樹脂基板表面に溝を形成する点において、第1および第2の実施形態と異なる。第1および第2の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
【0088】
本実施形態では、第1の実施形態と同様のレーザ加工装置が用いられる。そして、本実施形態のレーザ加工方法では、被加工基板Wとして透明樹脂基板を用いる。
【0089】
透明樹脂基板は、例えば、タッチパネル用の基板である。透明樹脂基板は、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン:polyethereterketon)、PI(ポリイミド:polyimide)、PET(ポリエチレンテレフタレート:polyethyleneterephthalate)等である。
【0090】
本実施形態では、透明樹脂基板の表面にパルスレーザビームを照射して、アブレーションにより溝を形成する。例えば、この溝に、導電性材料を埋め込むことで、透明樹脂基板に配線が形成される。
【0091】
本実施形態においても、第1の実施形態同様、条件出しの際に、透明樹脂基板上のパルスレーザビームの照射位置から発せられる光の色を検知する。距離Zを段階的に変更することにより、照射位置から発せられる光の色が変化を示す。この光の色の変化と、透明樹脂基板に形成される溝の形状に相関関係がある。具体的には、例えば、透明樹脂基板の溝の幅が、特定の色範囲において最小になる。
【0092】
本実施形態のレーザ加工装置およびレーザ加工方法によれば、パルスレーザビームの照射時に被加工基板のパルスレーザビーム照射位置から発せられる光の色を検知することで、最適加工条件を効率よく判断することが可能となる。したがって、最適加工条件を見出すための条件出しに要する時間が短縮され、溝形成のスループットが向上する。あるいは、条件出しの頻度を上げて、再現性の高い溝形成を行うことが可能となる。
【0093】
また、試料を破壊することなく条件出しができる。したがって、実際に溝形成を行う被加工基板の一部の領域を用いて条件出しを行うことも可能となる。よって、例えば、ステージ上に条件出し用の試料を別途載置することが不要となる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0095】
(実施例1)
GaAs基板を、基板と集光レンズとの距離Zを、ΔZ=10μm刻みで段階的に変化させて、計12条件でパルスレーザビームを走査し、照射位置で発せられる光の発光色を検知した。レーザは、波長1064nm、パルス幅230フェムト秒のNd:YAGレーザ、ビーム径(DF)2μmとした。パルス間隔Lは0.01μmとした。1条件当たりの走査距離は5mmとした。
【0096】
発光色は、目視により確認した。走査終了後、電子顕微鏡により、GaAs基板表面にアブレーションにより形成された溝の溝幅と、ダイシング特性、すなわち、深さ方向に基板がどこまで割断されているかを評価した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
発光色は、無色→赤色→緑色→白色→緑色→赤色→無色と変化した。白色が発光される条件で、溝幅は最小となり、良好な割断特性が得られた。
【0099】
(実施例2)
パルス間隔Lを0.1μmとすること以外は、実施例1と同様の条件でパルスレーザビームの走査を行った。結果を表1に示す。
【0100】
発光色は、無色→緑色→白色→緑色→無色と変化した。白色が発光される条件で、溝幅は最小となり、良好な割断特性が得られた。実施例1と比較して、可視光の発光がみられる距離Zの範囲が狭まっている。また、ダイシング特性については、割断されている深さが最適加工条件でも実施例1よりも浅くなっていた。
【0101】
以上、実施例より、発光色を検知することで、最適な加工条件を判断できることが明らかになった。
【0102】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態および実施例について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。実施形態においては、レーザ加工装置、レーザ加工方法等で、本発明の説明に直接必要としない部分については記載を省略したが、必要とされるレーザ加工装置、レーザ加工方法等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0103】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのレーザ加工装置、レーザ加工方法は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【0104】
例えば、実施形態では、被加工基板として、LEDが形成されるGaAs基板、および、タッチパネルの基板となる透明樹脂基板を例に説明した。AlGaAs基板もGaAs基板と類似の組成で同様の結晶構造のため、同様の効果が期待される。その他、レーザ照射による表面の発光色と、割断特性に相関がみられる材料の基板であれば、いかなる基板も被加工基板として用いることが可能である。
【0105】
また、実施形態では、移動機構によりステージを移動させることで、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させる場合を例に説明した。しかしながら、例えば、レーザビームスキャナ等の移動機構を用いてパルスレーザビームを移動させることで、被加工基板とパルスレーザビームとを相対的に移動させる方法であっても構わない。
【0106】
また、パルスレーザビーム照射後に、外力をさらに加えることで、被加工基板をダイシングしてもかまわない。