【文献】
CoolRack Tube Modules,[online],BioCision,2014年11月 9日,インターネット,URL,https://web.archive.org/web/20141109025904/http://biocision.com:80/products/CoolRack/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記生殖細胞保持具は、ストロー状の細管であり、前記載置部に続き、希釈液を収容可能な筒状部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の生殖細胞保存用具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法は、ガラス化保存液除去材上に胚を含むガラス化保存液を載置した容器本体を鞘管に収納し、これらを液体窒素に浸漬させ冷却する。この方法では、ガラス化保存液を載置した容器本体と鞘管とを同時に冷却するため冷却すべき熱容量が大きく、冷却速度を十分に早くすることが難しい。またガラス化保存液除去材が鞘管に接触しないため熱伝達性が悪い。
【0009】
特許文献2に記載のガラス化保存用具は、予め液体窒素中で冷却された筒状収容具に、胚を含むガラス化保存液が載置された付着保持具を挿入し、これら全体を液体窒素に浸漬し冷凍保存する。このとき付着保持具は、筒状収容具と接触しないように取付けられているので熱伝達性が悪く、十分な冷却速度を得ることが難しい。
【0010】
特許文献3に記載の方法は、従来のストローなど細管を用いたガラス化保存法では、十分に早い冷却速度が得られないとし、伝熱性に優れる固体上にガラス化保存液を滴下し冷却する。この方法は、冷却速度を十分に早くすることはできるが、長期保存の際には、ガラス化された液滴を、かん子等を用いて凍結バイアル中に移し保存する必要があるため紛失する恐れがある。また操作性もよいとは言えない。
【0011】
以上のように特許文献1及び2に記載の方法は冷却速度に、特許文献3に記載の方法は、取扱い性に改善の余地がある。さらに胚の保存用具が、胚のガラス化保存と共に、胚を融解させた後に、直ちにガラス化保存液を希釈液で希釈し、そのまま受胚牛に移植することができる、いわゆるダイレクト移植を行うことが可能であればより好ましい。
【0012】
本発明の目的は、急速冷却が可能で高い生存率を得ることができ取り扱いが容易な生殖細胞保存用具及び生殖細胞のガラス化保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、生殖細胞をガラス化保存液を用いてガラス化し冷凍保存するための生殖細胞保存用具であって、生殖細胞を含むガラス化保存液を載置する載置部を備える生殖細胞保持具と、前記生殖細胞保持具を収容し、前記載置部に載置された生殖細胞を含むガラス化保存液を急速冷却させる冷却器と、を含み、
前記載置部には、外周面に先端部から基端部に向かう切欠き部及び/又は先端部が開口した先端開口部が設けられ、前記生殖細胞保持具を前記冷却器に挿入したとき、前記生殖細胞保持具の載置部の外壁面と前記冷却器の内壁面とが密着可能なことを特徴とする生殖細胞保存用具である。
【0014】
本発明の生殖細胞保存用具は、生殖細胞を含むガラス化保存液を液体窒素に直接接触することなく凍結保存が可能なため、生殖細胞の液体窒素中での微生物汚染を防除できる。また生殖細胞保持具の載置部の外壁面と冷却器の内壁面とが密着可能なため、従来の保存用具に比較し熱伝達性に優れ、冷却速度を大きくすることができる。これらにより高い生存率を得ることができる。また生殖細胞を含むガラス化保存液を生殖細胞保持具内で保存するため紛失の恐れもなく、生殖細胞保存用具の取扱いも容易である。
【0015】
本発明の生殖細胞保存用具において、前記載置部は、先細の円錐台形状又は円錐形状を有することを特徴とする。
【0016】
載置部を先細の円錐台形状又は円錐形状とすれば、形状的に載置部の外壁面と冷却器の内壁面との密着が容易となる。また、載置部は先端部側ほど断面積が小さく、先端部側に生殖細胞を含むガラス化保存液を載置すれば、より大きな冷却速度を得ることができる。
【0017】
また本発明の生殖細胞保存用具
は、前記生殖細胞保持具を前記冷却器に押し込むと前記載置部が前記冷却器に接し、前記切欠き部
及び/又は前記先端開口部が狭まり前記載置部が縮径し、前記載置部の外壁面と前記冷却器の内壁面とが密着することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、生殖細胞保持具を冷却器に押し込むだけで、載置部の外壁面と冷却器の内壁面とを確実に密着させることができる。これにより大きな冷却速度、高い生存率が得られる。
【0019】
また本発明の生殖細胞保存用具は、
前記載置部には、外周面に先端部から基端部に向かう切欠き部が2か所設けられ、これらの位置が180°ずれていることを特徴とする。
【0020】
載置部に設ける切欠き部を、相対する位置に設けることで大きな冷却速度を得ることができる。また載置部に容易にバネ弾性を付与することができる。
【0021】
また本発明の生殖細胞保存用具において、前記生殖細胞保持具は、ストロー状の細管であり、前記載置部に続き、希釈液を収容可能な筒状部を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、生殖細胞保持具がストロー状の細管であり、載置部に続き、希釈液を収容可能な筒状部を備えるので、本生殖細胞保持具を使用することでガラス化保存液を希釈液で希釈し、そのまま受胚牛に移植することができる、いわゆるダイレクト移植が可能となる。
【0025】
また本発明の生殖細胞保存用具において、前記冷却器は、先端部が閉止した先細の円錐台形状部又は円錐形状部を有することを特徴とする。
【0026】
先細の円錐台形状部又は円錐形状部を有する冷却器を使用すれば、載置部外壁面との密着が容易となる。
【0027】
また本発明は、前記生殖細胞保存用具を用いた生殖細胞のガラス化保存方法であって、前記冷却器は、筒状形状を有し、一端が封止され、他端部が開口しており、ガラス化保存液で平衡処理した生殖細胞を前記生殖細胞保持具の載置部に載置し、当該生殖細胞保持具を予め冷却した前記冷却器に挿入し、その後、当該冷却器を開口した端部を除き液体窒素に浸漬し、生殖細胞をガラス化し、保存することを特徴とする生殖細胞のガラス化保存方法である。
【0028】
本ガラス化保存方法を用いることで、簡単にかつ迅速に生殖細胞をガラス化し、保存することができる。また本ガラス化保存方法は、急速冷却が可能なため高い生存率を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、急速冷却が可能で高い生存率を得ることができ取り扱いが容易な生殖細胞保存用具及び生殖細胞のガラス化保存方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態の生殖細胞保存用具1の構成図である。
図1の各図は、必ずしも同一縮尺ではない。
図2は、
図1の生殖細胞保存用具1を構成する生殖細胞保持具11及び冷却器51の構造を説明するための図である。
図1及び
図2において、冷却器51の先端部を塗り潰して表示しているが、これは、先端部が閉止していることを明確にするためである。
【0032】
生殖細胞保存用具1は、生殖細胞を、ガラス化保存液を用いてガラス化し冷凍保存するための器具であって、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置、保持する生殖細胞保持具11と、生殖細胞保持具11を収容し、生殖細胞保持具11に載置された生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却させる冷却器51と、冷却器51の末端を封止するキャップ81と、を含む。
【0033】
生殖細胞保持具11は、大略的にはストロー状の細長い円筒形状を有し、先端に生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置する載置部21を有する。生殖細胞保持具11の大きさの代表例を示せば、長さが約120mm、外径が2mmであり、この寸法は、0.25mLのストローと同程度である。生殖細胞保持具11の厚さ(肉厚)は、高い熱伝熱性、さらには後述の載置部21に設ける切欠き部31の幅を大きくできる点から薄い方が好ましく、0.1mm程度の厚さが好ましい。但し、上記寸法は、代表的なものであり、本生殖細胞保持具11の大きさがこの寸法に限定されるものではない。以下に示す寸法についても同様である。
【0034】
載置部21は、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置する部分であり、先細のテーパ管状(円錐台)で、先端は開口部(以下、先端開口部28と記す)となっている。載置部21の先細の円錐台のテーパ角度α1は、特定の角度に限定されるものではないが、冷却器51の冷却部61との関係において制約を受ける。この点については、後述する。ここでテーパ角度α1は、載置部21を円錐形状とした場合の頂部の側面視の角度である(
図2(a)参照)。
【0035】
載置部21の大きさは、特に限定されるものではないが、少なくとも後述の切欠き部31を設けることができる大きさが必要である。載置部21の大きさの一例を示せば、生殖細胞保持具11の大きさが、長さ約120mm、外径2mm、肉厚が0.1mm程度の場合、載置部21の長さL1は、20mm程度、先端開口部28の外径d2は、1.5mm程度である。
【0036】
載置部21の側部38には、所定の長さのスリット状の切欠き部31が180°隔てて相対する位置に2箇所設けられている。切欠き部31は、胚など生殖細胞を含むガラス化保存液Gを、載置部21内に載置する入口となる部分である。よってパスツールピペット等、先端部が細く微小液滴を形成し易い器具を用い、ここから胚などの生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置部21内に載置できる大きさが必要である。載置する胚などの生殖細胞を含むガラス化保存液Gの量は、0.5〜1μL程度である。
【0037】
切欠き部31は矩形形状であり、生殖細胞保持具11の大きさが、長さ約120mm、外径2mm、肉厚が0.1mm程度の場合、切欠き部31の大きさは、長さL2が5〜10mm程度、巾は0.8〜1mm程度である。
【0038】
本実施形態の生殖細胞保持具11では、切欠き部31の先端が先端開口部28に繋がるように設けられており、切欠き部31の先端を先端開口部28につなげることで載置部21にバネ弾性を付与する。
【0039】
生殖細胞保持具11の載置部21の後端部側は、円筒部43となっており、載置部21と円筒部43とは一体的に形成されている。円筒部43は、持ち手となる部分であり、末端部44近傍にマーキング45が施されている。
【0040】
ガラス化保存液を用いた生殖細胞の凍結保存において、生殖細胞の生存率を高めるためには、ガラス化保存液の準備から急速冷却までの操作を迅速に行うことが重要である。円筒部43の長さを極端に短くすると、生殖細胞保持具11の冷却器51への挿入などの操作が難しくなり、結果、時間を要するので好ましくない。一方、必要以上に長くしても不経済である。
【0041】
なお、生殖細胞保持具11をいわゆるダイレクト移植を行う器具として使用する場合には、円筒部43を、ガラス化保存液を希釈する希釈液を保存する場所として使用することができる。この場合、希釈液の容量等に応じて円筒部43の長さ、大きさを決定すればよい。
【0042】
マーキング45は、生殖細胞保持具11を冷却器51に挿入する際の目印である。マーキング45の位置は、マーキング45を冷却器51の末端部76に一致させるように挿入したとき、載置部21と冷却部61とが密接する位置に設けられている。マーキング45は、生殖細胞保持具11の冷却器51に対する挿入位置を示すものであるが、生殖細胞保持具11を冷却器51に挿入し(
図2(c))、軽く押し込むと自動的に載置部21と冷却部61とが密接するので(
図2(d))、マーキング45は、挿入の際の目印、確認用として使用すればよい。
【0043】
本生殖細胞保存用具1では、後述のように生殖細胞保持具11の載置部21の外壁面29を冷却器51の冷却部61の内壁面69に接触させ、載置部21に載置した生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却させる。このため生殖細胞保持具11の熱伝達性、特に載置部21の熱伝達性は重要であり、生殖細胞保持具11は、熱伝導度に優れる材料が好ましい。このような材料としては銅、アルミニウム、これらを含む合金などの金属材料が挙られる。なお、生殖細胞保持具11の材質が、胚など生殖細胞を含むガラス化保存液Gに悪影響を及ぼさない材質であることが必要なことは言うまでもない。
【0044】
さらに載置部21は、急速冷却の点から熱容量が小さいことが好ましい。よって生殖細胞保持具11の材質としては、単位容積当たりの熱容量(比熱×密度)の小さいものが好ましい。このような材料としてはアルミニウム、プラスチックが挙られる。なお、載置部21は、必ずしも単一の素材で形成する必要はなく、例えば金属とプラスチック等との複合材料であってもよい。
【0045】
また載置部21を透明あるいは半透明な材料で形成すれば、載置部21への生殖細胞を含むガラス化保存液Gの載置操作が容易となる。この場合、載置部21の一部のみを透明あるいは半透明としてもよい。
【0046】
生殖細胞保持具11の製造方法は、特に限定されるものでない。製造方法の一例を示せばストロー状の細長い円筒体の先端部側を引張り、先端部側に先細りの円錐台を形成し、その後、切欠き部31を設けてもよい。あるいは型に材料を流し込み製作することもできる。
【0047】
冷却器51は、生殖細胞保持具11を収容し、生殖細胞保持具11の載置部21に載置された生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却させるためのものである。また保管具としても機能する。冷却器51は、生殖細胞保持具11と同様に、ストロー状の細長い円筒体の先端部に生殖細胞保持具11の載置部21を冷却する冷却部61、冷却部61の後端部側に収容部71、末端部にキャップ装着部75を備える。
【0048】
冷却部61は、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置した生殖細胞保持具11の載置部21を密着させ、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却する部分であり、先細のテーパ管状(円錐台)で先端部68は閉じている。本冷却器51の冷却部61は、円錐台形状であるが、先端部が尖った円錐形状であってもよい。
【0049】
冷却部61の先細の円錐台のテーパ角度α2は、載置部21の先細の円錐台のテーパ角度α1に比較して小さい。ここでテーパ角度α2は、冷却部61を円錐形状とした場合の頂部の側面視の角度である(
図2(b)参照)。冷却部61の先細の円錐台のテーパ角度α2を載置部21の先細の円錐台のテーパ角度α1に比較して小さくすることで、生殖細胞保持具11を冷却器51に押し込むだけで、載置部21が変形し、冷却部61の内壁面69と載置部21の外壁面29とが簡単に密接する(
図2(d)参照)。
【0050】
テーパ角度α2の好ましい角度は、冷却部61に載置部21を押し込んだとき、載置部21が冷却部61の内壁面69に接し、押されて縮径するように変形し、載置部21に設けられた切欠き部31が閉じた状態で冷却部61の内壁面69と載置部21の外壁面29とが密接する角度である(
図2(d)参照)。冷却部61の長さL3は、挿入された載置部21全体を収容可能な長さに設定されている。
【0051】
収容部71は、円筒状であり、挿入された生殖細胞保持具11を収容すべく、内径d3は、生殖細胞保持具11の円筒部43の外径d1よりも僅かに大きい。収容部71の長さは、冷却器51に生殖細胞保持具11を挿入した状態で、生殖細胞保持具11の末端部44が収容部71の末端部76から20〜30mm程度突出する長さとなっている。これにより取扱いが容易となり、生殖細胞保持具11を冷却器51に簡単に挿入することができる。
【0052】
キャップ装着部75は、キャップ81が嵌合する部分であり、キャップ81の形態に対応し、末端側の口径が小さいテーパ状となっている。
【0053】
冷却器51の熱伝達性、特に冷却部61の熱伝達性は可能な限り高いことが好ましい。冷却器51は、生殖細胞保持具11と異なり、生殖細胞を含むガラス化保存液Gと接触することはないが、冷却媒体である液体窒素中に浸漬されるためこれに耐え得る材料で形成する必要がある。これらの点から冷却器51の材質としては、銅、アルミニウムが好ましい。
【0054】
キャップ81は、冷却器51のキャップ装着部75に着脱自在に取付けられ、冷却器51内に収容された生殖細胞保持具11及び生殖細胞を含むガラス化保存液Gを保護する。キャップ81は、一端面が封止された円筒状のキャップであり、内壁面の先端部にキャップ装着部75に嵌合するテーパ部83が設けられている。
【0055】
キャップ81を冷却器51のキャップ装着部75に装着すると、キャップ装着部75のテーパ部及びキャップ81のテーパ部83とが互いに係合し、キャップ81がキャップ装着部75に嵌合する。キャップ81の長さは、キャップ装着部75に装着したとき、冷却器51に収容された生殖細胞保持具11の末端44に接しない長さとなっている。キャップ81及びキャップ装着部75の構造、形態は、本実施形態に限定されるものではなく、キャップを簡単にかつ確実に冷却器51の末端に嵌合させることができるものであればよい。
【0056】
次に生殖細胞保存用具1を用いて、胚を冷凍保存する要領を説明する。
図3は、胚を冷凍保存する要領を示す模式図である。
【0057】
(1)ガラス化保存液の準備
1.8Mエチレングリコール(EG)、0.3Mショ糖、20%(v/v)FCSを含むM−199液(1液)の700μLドロップを4つ、5MのEG、1.0Mショ糖、4%(w/v)BSAを含む表1の組成のM2(2液)の30μLドロップを9つ、シャーレ上に作成する。ドロップの載ったシャーレは38℃に保温する。上記をDWで500mLにメスアップする。
【0059】
(2)胚の採取及びガラス化保存液との平衡
まず、通常の胚移植技術により胚を採取し、胚の正常性を検査する。次に、正常な1〜10個、好ましくは5個の胚を、ピペット等で1液のドロップに移して2分間平衡する。ここで、ピペット等としては、パスツールピペットが好ましいが、先端部が細く微小滴を形成し易いものであればよい。
【0060】
2液での平衡中に、冷却装置101を用いて冷却器51を冷却しておく。その際、冷却器51内に液体窒素109が浸入しないように注意する。冷却装置101は、液体窒素109を収容する上部が開口した魔法瓶103、金網で形成されたスタンド105及び液体窒素109で構成される。
【0061】
魔法瓶103内にスタンド105を設置し、液体窒素109を充填する。その後、スタンド105に冷却器51のみを立て掛け、冷却器51のみを十分に冷却しておく。このとき冷却器51は、冷却部61を下向きとし、キャップ装着部75は、液体窒素109の液面から突出させ、キャップ81を装着しておく。なお、スタンド105に冷却器51のみを立て掛け、後から魔法瓶103に液体窒素109を充填してもよい。
【0062】
1液の平衡が終了した後、胚を2液のドロップに移し、直ちに次の2液のドロップに移す作業を7ドロップ移す。続いて、2液と共に胚をピペット等で吸い、切欠き部31
又は先端開口部28から積載部21内に胚の入ったガラス化保存液Gを薄く延ばして置く(
図1及び図2(a)参照)。
【0063】
(3)ガラス化保存
あらかじめ液体窒素109中で冷却しておいた冷却器51を取出し、直ちに胚を載置した生殖細胞保持具11を挿入する(
図2(c)参照)。このとき生殖細胞保持具11に施されたマーキング45が、冷却器51の末端76の位置となることを目安に、生殖細胞保持具11を挿入する。生殖細胞保持具11を押し込み、動きが止まった時点で挿入操作を終了し、直ちにキャップ81を装着する(
図2(d)参照)。その後、これらを直ちに、冷却器51の冷却部61側から液体窒素109中に浸漬させ、胚を含むガラス化保存液Gを急速冷却させる。
【0064】
これにより、胚を含むガラス化保存液Gは、冷却器51に保持された状態で凍結する。なお、上記(2)において胚を2液に移してから、冷却器51内に胚を含むガラス化保存液Gを載置した生殖細胞保持具11を挿入するまでの操作は、1分以内に行う。その後、凍結した胚を使用するときまでは、冷却器51ごと超低温下で保存することができる。
【0065】
上記のガラス化保存方法によって超低温下に保存されている胚は、以下に例示した方法で融解し、所定のプロセスを経た後、胚の移植に供することができる。以下に、ガラス化保存胚の融解方法の1例を示す。
【0066】
希釈溶液(融解液)の準備
0.3Mショ糖、20%(v/v)FCSを含むM2液を調製し、希釈溶液(融解液)とする。この融解液を35mmディッシュに2mL取り、38.5℃に保温する。
【0067】
ガラス化保存胚の融解及びガラス化保存液の希釈方法
液体窒素を入れた容器に、凍結胚を入れた冷却器51を移す。次いで、冷却器51を液体窒素に入れたままの状態で、胚を載置した生殖細胞保持具11を冷却器51から素早く抜き取る。さらに、胚の置いてある載置部21を、直ちに2mlの融解液が入ったディッシュに入れて胚を融解する。胚が融解した後、2分間稀釈する。さらに、M2液で数回洗浄し、ガラス化保存液を完全に除去する。このようにして融解した胚は生存率が高く、胚の移植に利用される。
【0068】
次に生殖細胞保存用具1を用いて胚を冷凍保存する他の要領を説明する。
図4は、胚を冷凍保存する要領を示す模式図である。
図3の模式図と同一の構成には同一の符号を付し、説明を省略する。胚を冷凍保存する基本操作は、先に示した冷凍保存要領と同じであるが、冷却装置102が異なり、特に冷却装置102に銅のブロック107(107a、107b)を使用した点に特徴がある。
【0069】
ブロック107a、107bは左右に分割可能な構造であり、左右のブロック107a、107bを付合せた状態で冷却器51が隙間なく嵌り込む挿入孔が中心部に設けられている。左右のブロック107a、107bを連結後、魔法瓶103内に設置し、冷却器51を支持するスタンドとする。この冷却装置102を使用する場合は、ブロック107の挿入孔に冷却器51を挿入した状態で魔法瓶103内に液体窒素109を充填する。
【0070】
冷却器51に生殖細胞保持具11を挿入するときも、冷却器51をブロック107から取外すことなく行う。ブロック107は、冷却器51及び生殖細胞保持具11に比較して熱容量が圧倒的に大きいので、生殖細胞保持具11を挿入しても温度が殆ど低下せず、胚を含むガラス化保存液Gを急速冷却することができる。
【0071】
上記の通り、第1実施形態に示す生殖細胞保存用具1は、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを液体窒素に直接接触することなく凍結保存が可能なため、生殖細胞の液体窒素中での微生物汚染を防除できる。また生殖細胞保持具11を冷却器51に挿入し、載置部21と冷却部61とを密着させ冷却する本方法は、主たる熱伝達機構が伝導伝熱となるため、主たる熱伝達機構が放射伝熱である従来の保存用具に比較して大きな冷却速度を得ることができる。結果、従来の保存用具に比較し高い生存率を得ることができる。この点は、後述の実施例で実証済である。また生殖細胞を含むガラス化保存液Gを生殖細胞保持具11内で保存するため紛失の恐れもない。さらに上記説明のように生殖細胞保存用具1の取扱いも容易である。
【0072】
特に載置部21を先細の円錐台形状とし、載置部21に切欠き部31を設けることでバネ弾性を付与しているので、生殖細胞保持具11を冷却器51に挿入し、軽く押し込むだけで載置部21と冷却部61とを確実に密着させることができる。
【0073】
載置部21の外壁面29と冷却部61の内壁面69との密着は、熱伝達性の点において、載置部21全体の外壁面29が冷却部61の内壁面69と密着することが好ましいが、載置部21の一部の外壁面29が冷却部61の内壁面69と密着する場合であっても、従来の生殖細胞保存用具に比較して大きな冷却速度を得ることができる。特に生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置した部分が冷却部61と密着すれば、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速に冷却することができる。この点は、他の実施形態、変形例においても同じである。
【0074】
本明細書において、載置部21の外壁面29と冷却部61の内壁面69との密着は、両者が隙間なく接していること以外に、実質的に密着とみなされる状態を含む。このため載置部21の外壁面29と冷却部61の内壁面69とが殆ど隙間なく接している場合も含まれる。この点は、他の実施形態、変形例においても同じである。
【0075】
また載置部21が先細の円錐台形状であるので先端部側ほど断面積が小さく載置部21の熱容量も小さい。よって先端部側に生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置すれば、非常に大きな冷却速度を得ることができる。
【0076】
第1実施形態の生殖細胞保存用具1を用いて説明したように本発明の生殖細胞保存用具の最大の特徴は、生殖細胞保存用具を生殖細胞保持具と冷却器とで構成し、生殖細胞保持具に設けた、生殖細胞を含むガラス化保存液を載置、保持する載置部の外壁面と冷却部の内壁面とを密接させ、急速冷却する点にある。以下に、載置部と冷却部とを密接可能な他の生殖細胞保存用具を示す。
【0077】
図5は、本発明の第1実施形態の生殖細胞保持具11の第1変形例である生殖細胞保持具12の構造を説明するための図である。
図1から
図3に示す第1実施形態の生殖細胞保持具11と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
生殖細胞保持具12は、生殖細胞保持具11と比較して、切欠き部32の形状が異なるのみである。切欠き部32の基本構成は切欠き部31と同じである。第1実施形態の生殖細胞保持具11の載置部21の切欠き部31が、矩形形状を有するに対して、第1変形例である生殖細胞保持具12の載置部22の切欠き部32は、基端部から先端部に向って広がっており、側面視において三角形となっている。生殖細胞保持具12の使用方法及び載置部22の作用効果は、生殖細胞保持具11の載置部21と同じである。
【0079】
図6は、本発明の第1実施形態の生殖細胞保持具11の第2変形例である生殖細胞保持具13の構造を説明するための図である。
図1から
図3に示す第1実施形態の生殖細胞保持具11と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0080】
生殖細胞保持具13は、生殖細胞保持具11と比較して、載置部23の構成、より具体的には、載置部23に設けられる切欠き部33の個数が異なるのみであり、生殖細胞保持具13の使用方法及び載置部23の作用効果は、生殖細胞保持具11の載置部21と同じである。
【0081】
第1実施形態の生殖細胞保持具11の載置部21の切欠き部31が、側部38に180°隔てて相対する位置に2箇所設けられているのに対して、生殖細胞保持具13の載置部23には、切欠き部33は一カ所しか設けられていない。なお、
図5に示す生殖細胞保持具12において、載置部22に設けられる切欠き部32の数を1つとしてもよい。
【0082】
図7は、本発明の第1実施形態の生殖細胞保持具11の第3変形例である生殖細胞保持具14の構造を説明するための図である。
図1から
図3に示す第1実施形態の生殖細胞保持具11と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0083】
生殖細胞保持具14は、生殖細胞保持具11と比較して、載置部24の構成、より具体的には、載置部24の先端部に閉止板39が取り付けられている。生殖細胞保持具11、12、13は、先端部が完全に開口しているが、生殖細胞保持具14では、先端部に部分的に閉止板39が取り付けられている。この閉止板39は、冷却器51に挿入し載置部24が縮径したとき、先端部を閉止させるように設けられている。なお、第1及び第2変形例の生殖細胞保持具12、13においても、同じ要領で載置部22、23の先端部に閉止板39を設けることができる。
【0084】
図1から
図7に示す生殖細胞保存用具1は、生殖細胞保持具11、12、13、14の先端部側にバネ弾性を有する先細の載置部21、22、23、24を設けることで、冷却器51と冷却部61との密着性を確保している。載置部にバネ弾性を付加し、冷却部との密着性を確保する形態は、上記生殖細胞保存用具1の形態に限定されるものではない。以下に他の実施形態を示す。
【0085】
図8は、本発明の第2実施形態の生殖細胞保存用具2を構成する生殖細胞保持具15及び冷却器55の構造を説明するための図である。
図1から
図3に示す第1実施形態の生殖細胞保存用具1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
図8において、冷却器55の先端部を塗り潰して表示しているが、これは、先端部が閉止していることを明確にするためである。
【0086】
生殖細胞保存用具2の基本構成は、第1実施形態の生殖細胞保存用具1と同一であり、使用方法、作用効果も、第1実施形態の生殖細胞保存用具1と基本的に同じである。生殖細胞保存用具2は、生殖細胞を含むガラス化保存液を載置、保持する生殖細胞保持具15と、生殖細胞保持具15を収容し、生殖細胞保持具15に載置された生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却させる冷却器55と、冷却器55の末端を封止するキャップ81と、を含む。
【0087】
生殖細胞保持具15は、載置部25の形態が第1実施形態の生殖細胞保持具11の載置部21の形態と異なる点を除き、構成、大きさ、材質等は、生殖細胞保持具11と同じである。
【0088】
載置部25は、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置する部分であり、先端部が基端部に比較して拡大したラッパ管形状となっている。先端開口部28に繋がるように切欠き部31を設け、載置部25にバネ弾性を付与する点などは第1実施形態の載置部21と同じである。さらに切欠き部31には、上記第1変形例及び第2変形例で示す切欠き部32、33を適用することもできる。
【0089】
冷却器55は、載置部25に載置された生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却させる点において冷却器51と同じであるが、生殖細胞保持具15の形態に対応した形態となっている。冷却器55は、ストロー状の細長い円筒体の先端部に生殖細胞保持具15の載置部25を冷却する冷却部65、冷却部65の後端部側に案内部72、さらに案内部72に続き収容部71、末端部にキャップ装着部75を備える。
【0090】
冷却部65の役割、機能は、第1実施形態の冷却器51の冷却部61と同じである。冷却部65は、円筒状であり、内径d6は、生殖細胞保持具15の円筒部43の外径d1よりも僅かに大きく設定されている。冷却部65の先端部には、先細りの傾斜面78が設けられ、先細りの傾斜面78の先端部68は閉じている。この傾斜面78は、生殖細胞保持具15を冷却器55に挿入したときのストッパーとして機能する。
【0091】
案内部72は、生殖細胞保持具15の載置部25を冷却部65に導くガイトとして機能する。このため案内部72は、先細りのテーパ状となっており、先端部の内径は、冷却部65の内径d6と同一であり、後端部の内径d7は、生殖細胞保持具15の先端部の外径d4よりも大きく設定されている。なお収容部71の内径もd7である。案内部72の長さは、特に限定されるものではないが、不必要に長くする必要もない。
【0092】
上記構成からなる生殖細胞保存用具2において、載置部25に生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置し、生殖細胞保持具15を冷却器55に挿入すると、生殖細胞保持具15の先端部が、案内部72の壁面に摺動し、さらに縮径しながら進み、先端部が冷却部65の先端に設けられた傾斜面78に衝突するまで進む。
【0093】
生殖細胞保存用具2では、冷却器55に先細りテーパ状の案内部72を設けることで、生殖細胞保持具15の載置部25をスムーズに冷却部65に導くことが可能であり、載置部25の外壁面29は、冷却部65の内壁面69に密着するので、急速冷却が可能となる。
【0094】
生殖細胞保存用具2は、載置部25の容積が第1実施形態の載置部21に比較して大きいので、切欠き部31の巾を大きくすることが可能であり、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置し易い利点がある。また載置部25の容積が大きいので、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを多く保存することができる。一方で、第1実施形態の生殖細胞保持具11の載置部21に比較して熱容量が大きくなるデメリットもある。使用目的に応じて、好ましい生殖細胞保存用具1、2を選択して使用すればよい。
【0095】
図1から
図8に示す生殖細胞保存用具1、2は、載置部21、22、23、24、25にバネ弾性を付加し、冷却器51、55に挿入し、冷却部61、65で載置部21、22、23、24、25を縮径させ、冷却部61、65と載置部21、22、23、24、25とを密着させることで急速冷却を実現している。以下に、載置部を縮径させる方法とは異なる方法で、冷却部と載置部とを容易に密着させる生殖細胞保存用具を示す。
【0096】
図9は、本発明の第3実施形態の生殖細胞保存用具3を構成する生殖細胞保持具16及び冷却器56の構造を説明するための図である。
図1から
図3に示す第1実施形態の生殖細胞保存用具1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
図9において、冷却器56の先端部を塗り潰して表示しているが、これは、先端部が閉止していることを明確にするためである。
【0097】
生殖細胞保存用具3の基本構成は、第1実施形態の生殖細胞保存用具1と同一であり、使用方法、作用効果も、第1実施形態の生殖細胞保存用具1と基本的に同じである。生殖細胞保存用具3は、生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置、保持する生殖細胞保持具16と、生殖細胞保持具16を収容し、生殖細胞保持具16に載置された生殖細胞を含むガラス化保存液Gを急速冷却させる冷却器56と、冷却器56の末端を封止するキャップ81と、を含む。
【0098】
生殖細胞保持具16は、先細りテーパ状の載置部26に生殖細胞保持具11と同様の切欠き部31が設けられているが、載置部26はバネ弾性を有していない。このため生殖細胞保持具16を冷却器56に挿入し、載置部26が冷却部66に達しても縮径することはなく、切欠き部31の形状も変化しない。この点を除き、生殖細胞保持具16の全体構成、大きさ、材質等は、生殖細胞保持具11と同じである。
【0099】
冷却器56は、冷却部66の傾斜角度α2が、生殖細胞保持具16の載置部26の傾斜角度α1と同一に設定されている点を除き、全体構成、大きさ、材質等は、生殖細胞保存用具1の冷却器51と同一である。
【0100】
上記構成からなる生殖細胞保存用具3において、載置部26に生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置し、生殖細胞保持具16を冷却器56に挿入すると、載置部26の外壁面29が冷却部66の内壁面69に接した時点で停止する。このとき生殖細胞保持具16の載置部26の傾斜角度α1と冷却部66の傾斜角度α2とが同一に設定されているので、載置部26の外壁面29は、冷却部66の内壁面69に密着し、急速冷却が可能となる。
【0101】
上記のように第3実施形態の生殖細胞保存用具3は、載置部26を先細りテーパ状とし、この傾斜角度α1と冷却部66の傾斜角度α2とを同一とすることで、載置部26にバネ弾性を付加することなく載置部26と冷却部66との密着を実現する。
【0102】
載置部にバネ弾性を付加しない
図9に示す生殖細胞保持具16の場合、
図10、
図11のように変形して使用することができる。
図10、
図11において、生殖細胞保持具17、18の先端部を塗り潰して表示しているが、これは、当該部分が閉止していることを明確にするためである。
【0103】
図10は、先端部が完全に閉じられた生殖細胞保持具17である。
図11の生殖細胞保持具18は、載置部27の先端部側の上部に切欠き部37が設けられ、先端の下半分は閉じられている。なお、
図9〜
図11では、載置部26、27を先細りテーパ状としているが、載置部を円筒状としてもよい。この場合は冷却部を載置部が隙間なく嵌合する円筒状とすればよい。
【0104】
先端部が完全に閉じられた生殖細胞保持具17の場合、生殖細胞を含むガラス化保存液Gが載置部26から飛び出し難い長所がある。一方で、融解液を用いた、ガラス化保存された生殖細胞を融解、洗浄液で洗浄しガラス化保存液を完全に除去する、ガラス化保存液の希釈が、先端部が開口した生殖細胞保持具に比較して難しくなる。
【0105】
以上、種々の生殖細胞保存用具を示したが、使用目的、用途に応じて適宜好ましい生殖細胞保存用具を選択し使用すればよい。
【0106】
本発明に係る生殖細胞保存用具及び生殖細胞のガラス化保存方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で変更してもよい。例えば上記実施形態では、生殖細胞保持具の載置部と円筒部とが一体的に製作されているが、載置部と円筒部とを別々に製造し、それらを接合してもよい。このとき載置部と円筒部とを別材料としてもよい。
【0107】
また上記実施形態では、切欠き部の形状を矩形形状、三角形状としたが、他の形状であってもよい。また切欠き部の数、大きさも載置部の形態に応じて適宜変更することができる。
【0108】
また上記実施形態では、載置部にバネ弾性を有する生殖細胞保存用具、さらに載置部が変形しない生殖細胞保存用具を示したが、生殖細胞保存用具は、載置部がバネ弾性を有していないが可撓性を有し、冷却器に押込まれることで塑性変形し密着する生殖細胞保存用具であってもよい。
【0109】
先端部が全面開口している生殖細胞保持具において、切欠き部を設けることなく先端開口部28から生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置部に載置してもよい。このような生殖細胞保持具は、安価に、また容易に製作できる利点がある。但し、切欠き部を設ける方が生殖細胞を含むガラス化保存液Gを載置部に載置し易い。
【0110】
上記実施形態では、冷却媒体に液体窒素を使用する例を示したが、液体窒素と同等以上に冷却可能であれば、液体窒素以外の冷却媒体を使用してもよい。
【0111】
本発明において保存可能な胚は、特定の胚に限定されるものではなく、本発明は、牛、豚などの動物、ヒトなどの胚の保存に好適に使用することができる。また卵子、組織細胞等の保存にも使用することができる。
【実施例】
【0112】
実施例1
生殖細胞保持具には、次の要領で製作した生殖細胞保持具を使用した。材料には、0.25mlストロー(商品名:精液凍結用ミニストロー、プラスチック製、IVM社 フランス)を用いた。はじめに、ストローに高温蒸気を吹き付け柔らかくし,左右に牽引することにより,吹き付け部分をテーパ状に細くした。次に、テーパ状部をストローカッターで切断し、テーパ状部の両側面をメス刃で1/4ずつ切り落とすことにより
図5に示す生殖細胞保持具12と同等の生殖細胞保持具を得た(
図12参照)。
【0113】
冷却器には、次の要領で製作した冷却器を使用した。材料には,ピペットチップ(商品名Zap Aerosol Pipet tip、プラスチック製、Labcon、アメリカ)、0.5mlストロー(商品名:ストロー精液管,プラスチック製,富士平工業株式会社、東京都)及びシリコンを使用し、
図1に示す冷却器51を得た。先端部には、がん玉を取付けシリコン樹脂で固めて封止した(
図12参照)。
【0114】
本明細書の段落0053〜0064の手順により、牛の胚のガラス化保存及びガラス化後の融解・希釈を行った。その後、以下要領で胚の体外培養試験を行った。
【0115】
融解後の胚の体外培養試験
ガラス化後融解・希釈した胚は、M2液で7回洗浄した後、5%O
2、5%CO
2、38.5℃のインキュベーター内で、Glycin、Taurinを添加したmSOF液を用いた微小滴培養法で培養した。培養開始から24時間、48時間後の胚の発育状態(生存率、胚の孵化率、生存胚の総細胞数)を調べた。
【0116】
実施例2
実施例1と同様の生殖細胞保持具を製作し、同じ要領で試験を行った。但し、生殖細胞保持具には、
図6に示す生殖細胞保持具13と同様に切欠き部33が1つの生殖細胞保持具を使用した。この生殖細胞保持具の載置部がバネ弾性を有する点、生殖細胞保持具の載置部が冷却器の内壁面と密着する点は、実施例1と同じである。
【0117】
比較例1
冷却器と生殖細胞保持具とが接触しない生殖細胞保存用具として、一端が封鎖された筒状のストローを予め液体窒素内で冷却し、冷却器に対して載置部が非接触状態で挿入される生殖細胞保持具を挿入して冷却する生殖細胞保存用具を使用し、実施例1と同じ要領で試験を行った。
【0118】
比較例2
対照として、胚を含むガラス化保存液を載置した付着保持具(生殖細胞保持具)を液体窒素内に直接沈めて凍結するクライオトップ法によりガラス化保存した胚についても、同様に融解・希釈して培養し、発育状態を調べた。
【0119】
結果を表2〜表5に示した。
【0120】
表2は、凍結融解後の胚の生存率を示す。実施例1では、25個試験に供し、48時間後に24個(96.0%)が生存し、実施例2では、11個試験に供し、48時間後に10個(90.9%)が生存していた。これに対して、比較例1の48時間後の生存率は、90.0%、比較例2の48時間後の生存率は、94.1%であった。このことから、本発明の方法でガラス化保存した胚は、48時間培養後にも高い生存率を示すことが分かる。
【0121】
【表2】
【0122】
表3は、融解後の胚の孵化率を示す。生存した胚が透明帯から脱出した孵化数は、実施例1で76.0%、実施例2で72.7%であるのに対して、比較例1では70.0%、比較例2では、70.6%であり、本発明の方法でガラス化保存した胚は、高い孵化率を示した。
【0123】
【表3】
【0124】
表4は、生存胚の総細胞数を示す。総細胞数は、実施例1で122.0個、実施例2で122.5個、比較例1で80.2個、比較例2で115.8個であり、本方法は、融解後の胚の品質も悪化しないことが分かった。
【0125】
【表4】
【0126】
融解後の胚の移植
受胚牛は、発情日齢8日目の雌牛を用いた。牛体外受精後7日齢胚2個を実施例1の要領でガラス化保存した。ガラス化保存後、同日に融解しM2液で7回洗浄し、子宮経管経由法で受胚牛の黄体側子宮角に移植した。移植液はM2液を用いた。
【0127】
結果を表5に示した。受胚牛2頭は受胎した。したがって、本発明の方法によりガラス化保存した胚は、保存後にも高い生存率を有しており、しかもガラス化保存胚に由来する産子を作出する能力を保持していることが明らかとなった。
【0128】
【表5】