(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475497
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】経皮的に設置された心臓弁に関連する弁周囲流を減少させるための装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20190218BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-1589(P2015-1589)
(22)【出願日】2015年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-128592(P2015-128592A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2017年11月16日
(31)【優先権主張番号】61/924,870
(32)【優先日】2014年1月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506270592
【氏名又は名称】クック・バイオテック・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】COOK BIOTECH INCORPORATED
(73)【特許権者】
【識別番号】511193846
【氏名又は名称】クック・メディカル・テクノロジーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】COOK MEDICAL TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャド・イー・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・エル・マッキントッシュ
【審査官】
石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0331929(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0004442(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/081820(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0094409(US,A1)
【文献】
特表2012−521854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮的に設置された心臓弁に関連する弁周囲の流れを減少させるための装置であって、
支持フレームと、
発泡材を含むカフとを備え、前記カフは、約1mmの最小厚さを有する前記発泡材から構成される管状壁を含み、前記管状壁は内表面および外表面によって規定され、前記管状壁は、第1の収縮状態に変形可能であるとともに、液体との接触によって第2の膨潤状態に膨潤可能であり、前記管状壁は、前記第2の膨潤状態において前記カフが患者組織に対して押すようにサイズ設定および構成され、
前記装置はさらに、
前記内表面によって規定されるルーメンを備え、前記ルーメンは、移植可能な心臓弁を受けるようにサイズ設定および構成され、前記支持フレームは、実質的に円形の断面を伴って前記ルーメンを維持するのに十分なフープ強度を有する、装置。
【請求項2】
前記発泡材は、蒸留水によって飽和した場合に少なくとも3倍の容量に拡張する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記発泡材は合成ポリマーである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記発泡材は細胞外マトリックス発泡材である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記細胞外マトリックス発泡材は交差結合される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、カニューレ装置を通るように構成された折り畳み位置から心臓への開口内に設置するように構成された拡張位置へ拡張可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記支持フレームは、前記内表面に対して押すように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記支持フレームは、前記発泡材内に埋め込まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記支持フレームは、ニチノールから構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記支持フレームは生体吸収性である、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
心臓への開口内で前記装置を固定するように構成される1つ以上の保持要素をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記保持要素は前記外表面に棘を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
経皮的に設置された心臓弁に関連する弁周囲の流れを減少させるための装置であって、
内表面と外表面とを有するカフを備え、前記内表面はルーメンを規定し、前記カフは発泡材を含み、前記発泡材は第1の収縮状態に変形可能であるとともに、液体との接触によって第2の膨潤状態に膨潤可能であり、前記発泡材は、蒸留水内において飽和した場合に、体積で少なくとも3倍に拡張し、前記カフは、前記第2の膨潤状態において前記外表面が心臓への開口に対して押すようにサイズ設定および構成され、装置はさらに、
前記ルーメン内に受けられた心臓弁を備える、装置。
【請求項14】
前記発泡材は細胞外マトリックス発泡材である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記心臓弁の挿入前に前記ルーメンを支持するように構成される支持フレームをさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記支持フレームは生体吸収性である、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記支持フレームはニチノールを含む、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
心臓への開口内に前記装置を固定するように構成される1つ以上の保持要素をさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項19】
前記保持要素は前記カフに取り付けられる棘を含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
カニューレ装置を通るように構成された折り畳み位置から心臓への開口内に設置するように構成された拡張位置へ拡張可能である、請求項13に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
関連出願への参照
本件出願は、2014年1月8日付で出願された米国特許仮出願第61/924,870号の利益を主張するものであり、この米国特許仮出願の全体が引用によりここに援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
本開示は、移植心臓弁に関連する弁周囲の漏洩を防止するために有用な装置および方法に関する。特に、生得の弁輪と移植弁の壁との間の領域を封止するとともにその領域の治療を促進するための装置および方法が開示される。
【0003】
ヒトの心臓は、右心房、右心室、左心房、および左心室の4つの心腔を規定する高度に筋肉の発達した脈管構造からなる部分である。心腔の各々は、血流の方向を制御する一方向弁と関連付けられる。血流は、心筋の規則的な収縮(心収縮)および弛緩(心拡張)によって作られる圧力で動かされる。心腔を囲む筋肉の収縮は、血液を一方向出口弁に通す心室内の圧力を高める。心腔が弛緩すると、陰圧が作られ、この陰圧によって血液が一方向入口弁を通って関連付けられた心房から流入する。
【0004】
非酸素化血液は、右心房を介して、三尖弁を通り、右心室に入ることにより、心臓内に引き込まれる。心収縮時において、心室内圧が高まり、非酸素化血液が肺動脈弁を通って右心房から押し出される。血液は、肺系統において酸素化され、左心室に収集される。心拡張時において、酸素化血液が左心房から僧帽弁(または二尖弁)を通って左心室へ引き出される。心収縮時において、心室内圧が高まり、酸素化血液が大動脈弁を通って左心室から押し出される。
【0005】
弁の各々は、逆流に抵抗する。たとえば、心室から対応する心房への逆流、または動脈から対応する心室への逆流に抵抗する。各弁は、弁を支持する密集した線維輪を含む輪によって囲まれる。輪の膠原輪は、逆流圧力に抵抗しなければならない弁小葉のための固定部を提供する。
【0006】
毎年約500万人のアメリカ人が心臓弁膜症と診断される。心臓弁膜症には、たとえば、弁狭窄および弁閉鎖不全症などのいくつかのタイプがある。弁狭窄は、弁小葉が硬くなって弁開口を狭めることによって起こり、そこを通過することができる血液の量を減少させる。弁閉鎖不全症は、弁小葉が適切に閉じなくなって弁にわたって血液が逆流することによって起こる。
【0007】
病変または損傷した弁を交換することによって心臓弁膜症を治療することがよく知られている。処置は、外科的または経皮的のいずれかに関わらず、人工弁(生体プロテーゼまたは機械)を受けるために輪を変形させることを伴う。移植後、患者の組織と移植弁との間で移植弁の周囲に逆流を起こす弁周囲の漏洩が発現し得る。これらの漏洩は、たとえば、変形させた輪が移植弁の形状に順応するような円形または楕円形となっていないことによって起こり得る。他の原因は、生得の弁表面上における石灰斑の蓄積であり得る。輪が拡張すると、移植の準備において、石灰の沈着物が破砕され、移植部分に異常を起こし得る。弁周囲の漏洩により、弁機能の低下、血圧の低下、心臓への負荷の増大、および溶血性貧血が起こり得る。このため、移植心臓弁を輪に対して封止するための、向上した、および/または代替的な装置および技術が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
要約
特定の局面において、本発明は、効果的に心臓への開口の周囲を封止することができるとともに経皮的に設置可能な心臓弁を受けることができる唯一の医療器具を提供する。本発明の一部の形態に従えば、このような医療用具は、拡張可能な発泡材を利用し、移植領域を封止するとともに弁周囲の漏洩を防止するように構成される。これにより、一実施形態において、本開示は、支持フレームとカフとルーメンとを含む装置を提供する。カフは、約1mmの最小厚さを有する発泡材から構成される管状壁を含む。管状壁は、収縮状態へ変形可能であるとともに、液体との接触により膨潤状態へ膨潤可能である。ルーメンは、カフの内表面によって規定される。ルーメンは、移植可能な心臓弁を受けるようにサイズ設定および構成される。支持フレームは、ルーメンを支持し、実質的に円形のルーメン断面を維持するのに十分なフープ強度を有する。
【0009】
特定の発明の変形例に従えば、発泡材は、脱イオン水において少なくとも3倍の容量に拡張するように構成される。一形態において、発泡材は合成ポリマーである。一形態において、発泡材は細胞外マトリックス発泡材である。特定の局面において、細胞外マトリックス発泡材は交差結合される。一実施形態において、管状壁は、膨潤した時にカフが患者の組織に対して押すようにサイズ設定および構成される。
【0010】
一局面において、装置は、カニューレ装置を通るように構成された折り畳み位置から心臓への開口内に設置するように構成された拡張位置へ拡張可能である。一形態において、支持フレームは、管状壁の内表面に対して押すように構成される。一形態において、支持フレームは、発泡材内に埋め込まれる。一形態において、支持フレームはニチノールから構成される。他の形態において、支持フレームは生体吸収性である。
【0011】
一局面において、装置は、心臓への開口内で装置を固定するように構成される保持要素を含み得る。一部の形態において、保持要素は、管状壁の外表面に棘を含む。
【0012】
他の実施形態において、本開示は、カフと心臓弁とを含む装置を提供する。カフは、外表面と、ルーメンを規定する内表面とを有する。カフは、収縮状態に変形可能であるとともに液体との接触によって膨潤状態へ膨潤可能である発泡材を含む。カフは、膨潤状態において外表面が心臓への開口の壁に対して押すようにサイズ設定および構成される。心臓弁は、ルーメン内に受けることができる。一形態において、発泡材は、脱イオン水において少なくとも3倍の容量に拡張するように構成される。一局面において、発泡材は細胞外マトリックス発泡材を含む。
【0013】
特定の発明の変形例に従えば、装置は、心臓弁の挿入前にルーメンを支持するように構成された支持フレームをさらに含む。一形態において、支持フレームはニチノールから構成される。他の形態において、支持フレームは生体吸収性である。
【0014】
一局面において、装置は、心臓への開口内において装置を固定するように構成された保持要素を含み得る。一部の形態において、保持要素は管状壁の外表面に棘を含む。
【0015】
他の実施形態において、本開示は、移植心臓弁の周囲の血流を防止するための方法を提供する。このような方法は、発泡材を含むカフを心臓への開口内に移植することを含む。カフは、内側ルーメンと外表面とによって規定される管状壁を含む。カフは、外表面が開口と接触するように、液体との接触によって拡張するように構成される。ルーメンは、心臓弁を受けるようにサイズ設定および構成される。
【0016】
一部の形態において、方法は、ルーメン内に嵌まるようにサイズ設定および構成された心臓弁を取り付けることを含む。特定の実施形態において、心臓弁は、カフが移植された後に取り付けられる。特定の実施形態において、心臓弁は、カフが移植される前に取り付けられる。
【0017】
追加の実施形態ならびに本発明の実施形態の特徴および利点は、本明細書の記載から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】心臓弁開口内に配置された開示の装置の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】支持フレームがカフの内表面に置かれた開示の装置の一実施形態を示す切り取り斜視図である。
【
図3】支持フレームがカフ内に配置された開示の装置の一実施形態を示す切り取り斜視図である。
【
図4A】開示の装置を移植する前の心臓への開口を示す上面図である。
【
図4B】開示の装置の一実施形態が収縮した状態で挿入された心臓への開口を示す上面図である。
【
図4C】開示の装置の一実施形態が挿入され、膨潤状態に拡張することができる心臓への開口を示す上面図である。
【
図4D】開示の装置の一実施形態が挿入され、示される実施形態が心臓弁を含むことを示す上面図である。
【
図5A】カニューレ装置を通るための折り畳みフレーム位置となった開示の装置の一実施形態を示す上面図である。
【
図5B】カフが収縮状態にある拡張フレーム位置となった開示の装置の一実施形態を示す上面図である。
【
図5C】カフが膨潤状態にある拡張フレーム位置となった開示の装置の一実施形態を示す上面図である。
【
図6】開示の装置の一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
選択された実施形態の説明
開示される原理についての理解を促す目的で、図面に示される実施形態がここで参照され、これを説明するために具体的な用語が使用される。しかしながら、これによって請求項の範囲を限定することは意図しておらず、本開示に関連する技術の当業者が通常行い得る、示される装置における変形および変更、ならびに示される開示の原理についてのさらなる適用が本明細書において考えられることが理解される。
【0020】
図1は、患者の組織300における心臓への開口302内に配置された装置100を示す斜視図である。示される実施形態において、装置100は、カフ110と、支持フレーム130と、ルーメン118とを含む。一部の形態において、カフ110は管状壁112を含み、前記管状壁は、内表面114(
図2〜
図3を参照)と外表面116とを有する発泡材200から構成され得る。ルーメン118は、心臓弁140を受けるようにサイズ設定および構成された実質的に円形の断面をルーメン118が維持するように支持フレーム130によって支持される。一部の形態において、心臓弁140は、弁小葉142と弁壁144とを含み得る。弁壁144は、内側弁表面148と外側弁表面146とを有する。一部の形態において、心臓弁140は、心臓弁ステント150(
図6を参照)を含む。
【0021】
一部の形態において、支持フレーム130は、
図2に示されるように内表面114に対して押すように構成される。他の形態において、支持フレーム130は、
図3に示されるように発泡材200内に埋め込まれる。また、支持フレーム130が細胞外マトリックスシート材またはポリマーシート材などのシート材によって覆われ得ることが想定される。支持フレーム130は、ニチノールなどの弾性的に変形可能な材料から構成され得る。一部の形態において、支持フレーム130は、生体吸収性であり、乳酸−グリコール酸共重合体などの材料を含み得る。
【0022】
一部の形態において、発泡材200は、永久合成発泡材もしくは吸収可能合成発泡材を含み得る。非限定的な例として、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリウレタンが含まれる。発泡材200は、適切な形状に形成されるとともに交差結合される、もしくは交差結合されない拡張可能細胞外マトリックス材も含み得る。これにより、一部の形態において、発泡材は、脱イオン水に浸漬された時に3倍の容量にに拡張するように構成される。一部の形態において、発泡材は、脱イオン水に浸漬された時に10倍の容量にまで拡張し得る。一部の形態において、発泡材200は、約1mmの最小壁厚さを有する。
【0023】
使用時において、装置は心臓への開口内に移植される。一部の形態において、装置は心臓弁の移植前に移植される。特定の実施形態において、装置は、たとえば実質的に円形のルーメン118を維持することによって心臓弁のための向上した移植箇所を作るように構成される。一部の形態において、支持フレーム130は、少なくとも外科医が心臓弁をルーメン118内に設置および移植するのにかかる時間分だけ前記円形ルーメンを維持するように構成される。一部の形態において、装置は移植前に心臓弁に取り付けられる。このような取り付けは、たとえば、心臓弁の表面に対する縫い付け、接着剤の使用、または機械的な係合によって実現され得る。特定の実施形態において、装置は、心臓弁と同時に設置および移植され、心臓への開口内(たとえば環内)に効果的な封止を作る。移植により、装置は、たとえば血液などの流体との接触によって拡張するように構成される。この装置は、発泡材200が拡張してカフ110の外表面116を患者の組織に対して押し付けた状態で実質的に円形の内側ルーメンを維持するように構成される。
【0024】
上に開示されるように、本発明の特定の局面は、発泡体またはスポンジ形態の材料を伴い、これらは収縮状態へ収縮することができるとともに、この収縮状態からの弾性的に拡張することができる。適した材料としては、たとえば、引用によりここに援用されるJohnsonらによる米国特許出願第12/488,974号に記載の拡張細胞外マトリックスが含まれ得る。説明として、細胞外マトリックス材料の拡張は、アルカリ性物質との接触を制御することによって達成され得る。特に、このような処理は、細胞外マトリックス材料の実質的な拡張(すなわち、約20%の拡張よりも大きい)を促すために使用され得る。特定の実施形態において、材料を元のかさ容量の少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも約5倍、または少なくとも約6倍に拡張するのが好ましい。拡張の大きさは、とりわけアルカリ性物質の濃度、材料に対するアルカリ性物質の露出時間、および温度に関連することが当業者にとって明らかである。これらの要因は、通常の実験において変更され得て、明細書に開示されるように所望のレベルの拡張を有する材料が達成される。
【0025】
膠原細線維は、トロポコラーゲン分子の4分の1ねじれ配列から構成される。トロポコラーゲン分子自体は、共有結合の分子内結合および水素結合によって連結されて三重螺旋を形成する3つのポリペプチド鎖から形成される。加えて、共有結合の細胞間結合が、膠原細線維内の異なるトロポコラーゲン分子間で形成される。頻繁に、複数の膠原細線維が互いに組み合わされて膠原線維を形成する。本明細書に記載のようにアルカリ性の物質を材料に加えても分子内結合および分子間結合を大きく阻害しないが、自然発生の厚さの少なくとも2倍の加工厚さを材料に与える程度に変性させると考えられている。これに関し、上記の程度の膠原性材料の変性は、新しい膠原性マトリックス材料の作成を許容する。膠原性マトリックス材料は、膠原性動物組織層に由来する無菌の加工膠原性マトリックス材料を含む。膠原性動物組織層は、自然発生の厚さを有し、自然発生の分子内交差結合および自然発生の分子間高裁結合を有する膠原細線維のネットワークを含む。自然発生の分子内交差結合および自然発生の分子間交差結合は、無菌の加工膠原性マトリックス材料内に十分に保たれ、これにより、無菌の膠原性マトリックス材料が無傷の膠原性シート材として維持され、無傷の膠原性シート材内に生じる膠原細線維は、膠原性動物組織層よりも実質的に大きい(少なくとも約20%大きい)加工厚さ、および好ましくは膠原性動物組織層の自然発生の厚さの少なくとも2倍の加工厚さを無傷の膠原性シート材に与える程度に変性される。
【0026】
再構築可能な膠原性材料を拡張させることに加え、アルカリ性物質を適用することにより、材料のコラーゲンパッキング特性を変化させることができる。材料のこのような特性を変化させることは、少なくとも一部が堅く結合した膠原性ネットワークの分裂によって引き起こされ得る。堅く結合された膠原性ネットワークを有する拡張されていない再構築可能な膠原性材料は、通常、拡大して見た場合であっても実質的に均一な連続的な表面を有する。逆に、拡張された再構築可能な膠原性材料は、通常、かなり異なった表面を有し、この表面の差異は、表面が通常は連続的ではなく鎖または束の間の実質的な材料の間隙によって分離される多くの部位にコラーゲン鎖または束を示す点にある。したがって、拡張された再構築可能な膠原性材料は、通常、拡張されていない再構築可能な膠原性材料よりも多孔質なものとなる。また、拡張された再構築可能な膠原性材料は、たとえば、水もしくは他の液体の通路に対する浸透性を測定することにより、高い有効性を有するものとして示され得る。拡張された再構築可能な膠原性材料がより発泡性かつ多孔質の構造であることにより、医療材および装置の準備に使用するために様々な発泡体形状に材料を容易に成形することができる。さらに、これにより、患者への設置のための展開装置に材料を搭載する必要がある場合に有用な材料の収縮および後の拡張が可能となる。ひとたび設置されると、材料はその元の形態に拡張することができる。
【0027】
ここで
図4Aから
図4Dを参照すると、
図4Aは、拡張された心臓への開口を示す上面図である。このような拡張は、たとえばバルーンの膨張によって起こり得る。
図4Aに示されるように、患者組織300の開口302は、1つ以上の凹凸304を含む。凹凸304は、たとえば、移植箇所における破砕した石灰の沈着を示し得るとともに、経皮的に設置された心臓弁の適切な封止を妨げて弁周囲の漏洩を引き起こし得る。
図4Bは、心臓302への開口内の装置100を示す。設置されると、カフ110は、第1の収縮状態122となる。この状態において、管状壁112は、内表面114と外表面116との間の収縮した壁厚さを有する。
図4Cは、たとえば血液などの液体と接触した後の開示の装置を示す。ここで、発泡材200は拡張され、外表面116は実質的に患者組織300に接触し、心臓302への開口の周囲を封止する。示されるように、 ルーメン118は、ルーメン118内に受けられる心臓弁140を示す
図4Dに示されるように心臓弁を受けるように構成された実質的に円形の断面の支持フレーム130によって支持される。
【0028】
一部の形態において、装置100は、
図5Aに示されるように、畳み込まれたフレーム位置132となるように畳み込まれ得る。畳み込まれたフレーム位置132は、心臓への開口に対する経皮的な設置のためのカニューレ装置を介して装置100を通すことができるように構成される。支持フレーム130は、たとえば、弾性的に変形可能であり得る。一部の形態において、装置100は、拡大されたルーメン118を形成するように支持フレーム130が拡張された
図5Bに示されるような拡張されたフレーム位置134を取り得る。示されるように、発泡材200は第1収縮状態122にあり、この状態において、液体との接触により、
図5Cに示される第2膨潤状態124となるように膨潤する。一部の形態において、支持フレーム130は、十分なフープ強度を有するように構成され、発泡材200の拡張からの収縮力に抵抗し、心臓弁140を受けるためのルーメン118における実質的に円形の断面を維持する。
【0029】
特定の実施形態において、装置100は、1つ以上の保持要素126を含む。例示的な実施形態は、
図6に示される。保持要素126は、心臓への開口内において装置100を保持するようにサイズ設定および構成される。保持要素126は、たとえば、棘、点、フック、リブ、突起、接着材料、および/または心臓への開口において装置を固定する他の適した表面変質を含む。一部の形態において、保持要素126は、支持部材127によって支持される。支持部材127は、たとえば、発泡材200内に埋め込まれ得る。一部の形態において、保持要素126は、支持フレーム130によって支持される、および/または支持フレーム130と一体である。保持要素126は、たとえば、乳酸−グリコール酸共重合体またはニチノールから構成され得る。
【0030】
本明細書に示される拡張された再構築可能な膠原性材料および組織抽出物は、たとえば、温血脊椎動物、特に哺乳類からの適した組織供給源から分離された膠原性材料である。このような分離された膠原性材料は、再構築可能な特性を有するとともに細胞の侵入および内殖を促すように加工され得る。適した再構築可能な材料は、生体栄養特性を有する膠原性の細胞外マトリックス(ECM)材料によって提供され得る。
【0031】
適した生体再構築可能な材料は、特定の形態において脈管形成の膠原性の細胞外マトリックス材料を含む、生体栄養特性を有する膠原性の細胞外マトリックス材料(ECM)によって提供され得る。たとえば、適した膠原性材料は、粘膜下組織、腎カプセル膜、皮膚コラーゲン、硬膜、心膜、大腿筋膜、漿膜、腹膜、または肝臓基底膜を含む基底膜層などのECMを含む。これらおよび他の類似の動物由来の組織層は、本明細書に記載されるように拡張および加工され得る。これらの目的のための適した粘膜下組織材料は、たとえば、小腸粘膜下組織を含む腸粘膜下組織、胃粘膜下組織、膀胱粘膜下組織、および子宮粘膜下組織を含む。
【0032】
本発明において使用される粘膜下組織または他のECM組織は、好ましくは、たとえばCookらによる米国特許第6,206,931号に記載されるように高度に製錬される。したがって、好ましいECM材料は、グラムあたり約12エンドトキシン単位(EU)未満、より好ましくはグラムあたり約5EU未満、最も好ましくはグラムあたり約1EU未満のエンドトキシンレベルを示す。付加的な好ましい点として、粘膜下組織または他のECM材料は、グラムあたり約1未満のコロニー形成単位(CFU)、より好ましくはグラム当たり約0.5CFU未満の汚染微生物数を有し得る。真菌レベルは、同様に低いのが望ましく、たとえば、グラムあたり約1CFU未満、より好ましくはグラムあたり約0.5CFU未満であるのが望ましい。核酸レベルは、約5μg/mg未満、より好ましくは2μg/mg未満であり、ウィルスレベルは、グラムあたり約50プラーク形成単位(PFU)未満、より好ましくはグラムあたり約5PFU未満である。米国特許第6,206,931号において教示される粘膜下組織または他のECM組織のこれらおよび追加の特性は、本発明において使用される粘膜下組織の特性であり得る。
【0033】
拡張された再構築可能な膠原性材料を準備するために、材料は、殺菌された拡張された再構築可能な膠原性材料を作るために殺菌剤で処理されるのが好ましい。殺菌剤を用いた処理は、組織から再構築可能な膠原性材料を分離する前後のいずれかに行うことができる、または拡張の前後のいずれかにおいて行なうことができる。1つの好ましい実施形態において、組織源材料は、水などの溶媒によってすすがれ、続いて葉裂の前に殺菌剤で処理される。この殺菌後剥離手順に従うことにより、再構築可能な膠原性材料を殺菌前に剥離する場合と比較し、付着した組織から再構築可能な膠原性材料を分離することが容易となることが分かった。加えて、得られる再構築可能な膠原性材料が最も好ましい形態において優れた組織構造を示し、まず粘膜下組織層を供給源から葉裂してその材料を殺菌することによって再構築可能な膠原性材料を得た場合と比較し、表面上に付着する組織および壊死組織片が少ないことが発見された。また、この処理によって、より均一な再構築可能な膠原性材料が得られ、処理を別個に実行することによって、同じまたは同様の物理的および生化学的な特性を有する再構築可能な膠原性材料をより一貫して得ることができる。重要なことに、高度に製錬されて実質的に殺菌された再構築可能な膠原性材料は、この処理によって得られる。これに関連し、本発明の一実施形態は、拡張された再構築可能な膠原性材料を準備するための方法を提供する。この本法は、再構築可能な膠原性材料を含む組織供給源を設けることと、組織供給源を殺菌することと、再構築可能な膠原性材料を組織供給源から分離することと、再構築可能な膠原性材料を元の容量の少なくとも約2倍に拡張させるのに効果的な条件下において、殺菌された再構築可能な膠原性材料をアルカリ性物質に接触させることとを含み、これによって拡張された再構築可能な膠原性材料を形成する。拡張された再構築可能な膠原性材料が形成されると、材料は、さらに医療材および/または装置に加工され得る、または後の使用のためにたとえば4℃の高純度水において保存され得る。
【0034】
好ましい殺菌剤は、ペルオキシ化合物、好ましくは有機ペルオキシ化合物、より好ましくはペル酸などの酸化剤であるのが望ましい。使用することができるペル酸化合物について、これらは過酢酸、ペルプロピオ(perpropioic)酸、または過安息香酸を含む。過酢酸は、本発明の目的のための最も好ましい殺菌剤である。このような殺菌剤は、液体媒体、好ましくは約1.5から約10のpHを有する溶液、より好ましくは約2から約6のpHを有する溶液、最も好ましくは約2から約4のpHを有する溶液において使用されるのが望ましい。本発明の方法において、殺菌剤は、特性の回復および本明細書に記載の精錬された粘膜下組織材料をもたらし、好ましくは発熱物質が本質的にゼロおよび/または本質的に無い状態を示すような条件および期間で概して使用される。これに関連し、本発明の望ましい処理は、組織供給源または分離された再構築可能な膠原性材料を(たとえば浸水またはシャワーによって)殺菌剤を含む液体媒体において、少なくとも約5分の時間、典型的には約5分から約40時間の範囲の時間、より典型的には約0.5時間から約5時間の範囲の時間にわたって浸漬させることを伴う。
【0035】
使用される場合、過酢酸は、アルコール溶液、好ましくはエタノールの約2容量%から約50容量%に希釈されるのが望ましい。たとえば、過酢酸の濃度は、約0.05容量%から約1.0容量%の範囲であり得る。より好ましくは、過酢酸の濃度は、約0.1容量%から約0.3容量%である。過酸化水素が使用される場合、濃度は、約0.05容量%から約30容量%の範囲となり得る。より望ましくは、過酸化水素の濃度は、約1容量%から約10容量%であり、最も好ましくは約2容量%から約5容量%である。溶液は、約5から約9のpHに和らげられ得る、または和らげられ得ず、より好ましいpHは、約6から約7.5である。過酸化水素のこれらの濃度は、水中、または約2容量%から約50容量%のアルコール水溶液中、好ましくはエタノール水溶液中において希釈され得る。
【0036】
拡張された再構築可能な膠原性材料を準備するために使用されるアルカリ性物質に関し、当該技術において公知の適したアルカリ物質を使用することができる。適したアルカリ物質は、たとえば、塩、または水媒体中に水酸化イオンをもたらす他の化合物を含み得る。好ましくは、アルカリ性物質は、水酸化ナトリウム(NaOH)を含む。材料に加えられるアルカリ性物質の濃度は、約0.5Mから約4Mの範囲内であり得る。好ましくは、アルカリ性物質の濃度は約1Mから約3Mの範囲内である。加えて、アルカリ性物質のpHは、典型的には約8から約14の範囲である。好ましい実施形態において、アルカリ性物質は、約10から約14のpHを有し、最も好ましくは約12から約14のpHを有する。
【0037】
濃度およびpHに加え、温度および露出時間などの他の要因が拡張の度合いの一因となる。この点で、アルカリ性物質に対する再構築可能な膠原性材料の露出は、約4℃から約45℃の温度で行なわれるのが好ましい。好ましい実施形態において、露出は約25℃から約37℃の温度で行なわれ、37℃が最も好ましい。また、露出時間は、約数分から約5時間以上の範囲となり得る。好ましい実施形態において、露出時間は約1時間から約2時間である。特に好ましい実施形態において、再構築可能な膠原性材料は、14のpHを有するNaOHの3M溶液に対し、約37℃で約1.5時間から2時間にわたって露出される。このような処理により、再構築可能な膠原性材料が元の容量の少なくとも約2倍に拡張する。上に示したように、これらの処理ステップは、望ましい拡張のレベルを実現するために変更され得る。
【0038】
アルカリ性物質に加え、脂質除去剤も、アルカリ性物質を加える前に、アルカリ性物質を加えると同時に、またはアルカリ性物質を加えた後のいずれかに再構築可能な膠原性材料に加えられ得る。適した脂質除去剤は、たとえば、エーテルおよびクロロホルムなどの溶剤、または界面活性剤を含む。他の適した脂質除去剤は、当業者にとって明らかとなる。このため、本明細書に列挙された脂質除去剤は、単に例としての役割に限り、限定を意図するものではない。
【0039】
好ましい実施形態において、拡張された再構築可能な膠原性材料、ならびに拡張された再構築可能な膠原性材料に対して選択的に加えられ得る生体活性成分を含む組織抽出物は、グルタルアルデヒドなめし、酸性pHでのホルムアルデヒドなめし、エチレンオキシド処理、プロピレンオキシド処理、気体プラズマ滅菌、ガンマ線、および過酢酸滅菌を含む従来の滅菌技術によって滅菌される。拡張された再構築可能な膠原性材料の再構築可能な特性を大きく変化させない滅菌技術が使用されるのが好ましい。また、拡張された再構築可能な膠原性材料が生来もしくは非生来の生物活性成分を含む実施形態において、滅菌技術は、好ましくは拡張された再構築可能な膠原性材料の生物活性を大きく変化させないのが好ましい。好ましい滅菌技術は、抽出物を過酢酸、低線量ガンマ線照射(2.5mRad)、および気体プラズマ滅菌に露出することを含む。
【0040】
本明細書において挙げられたすべての刊行物および特許出願は、各刊行物または特許出願が引用により援用されるように具体的かつ個別に示されたかのように、引用によりここに援用される。さらに、本明細書に記載の任意の理論、動作の機構、証拠、または発見は、本発明についての理解をさらに高めることを意味し、いかなる方法においても本発明をこのような理論、動作の機構、証拠、または発見に限定することを意図していない。本発明は図面および上の記載において詳細に例示および記載されたが、これは性質を例示するものであって限定しないものと考えられ、選択された実施形態のみが示されて記載されるとともに、本明細書に規定される、または以下の請求項に規定される本発明の主旨の範囲内に入るすべての等価物、変形、および変更に対する保護が望まれる。