(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のすべり支承及び免震システムの実施の形態を図面を用いて説明する。
[第1の実施の形態]
本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態を採用した免震建屋の構成を
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態を採用した免震建屋を示す概略縦断面図、
図2は
図1に示す本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態を採用した免震建屋をII−II矢視から見た横断面図である。
【0014】
図1において、免震建屋1は、下部構造物としての下部基礎版2と、下部基礎版2上に設置された免震システムとしての免震層3と、免震層3に支持された上部構造物としての上部建屋4とを備えている。免震層3は、下部基礎版2と上部建屋4との間に介在して、上部建屋4に入力される地震動荷重を低減するものである。免震層3は、例えば、免震装置である複数の積層ゴム支承5及び複数のすべり支承10で構成されている。免震層3の平面配置としては、
図2に示すように、下部基礎版2の外周側にすべり支承10が、その内側に積層ゴム支承5が配置されている。
【0015】
積層ゴム支承5は、
図1に示すように、薄い鋼板(図示せず)と薄いゴムシート(図示せず)を交互に積層して一体化した柱状の積層ゴム6と、積層ゴム6の下面及び上面にそれぞれ設けた下フランジ7及び上フランジ8とで構成されている。積層ゴム支承5は、下フランジ7及び上フランジ8により下部基礎版2及び上部建屋4に取り付けられている。
【0016】
次に、本発明のすべり支承の第1の実施の形態の詳細な構成を
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は本発明のすべり支承の第1の実施の形態を示す縦断面図、
図4は
図3に示す本発明のすべり支承の第1の実施の形態をIV−IV矢視から見た横断面図である。なお、
図3及び
図4において、
図1及び
図2に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0017】
図3及び
図4において、すべり支承10は、下部基礎版2上に固定される下側すべり部材11と、下側すべり部材11上に配置され、下側すべり部材11に対して相対的に摺動可能な上側すべり部材12と、上側すべり部材12の上側に配置され、上部建屋4の荷重を下側すべり部材11及び上側すべり部材12に伝達する固定部材13とを備えている。下側すべり部材11は、例えば、表面上にフッ素樹脂等のコーティングがされた鋼板である。上側すべり部材12は、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)やポリアミド樹脂等を主剤として形成された部材である。なお、下側すべり部材11及び上側すべり部材12の上下の配置は交換可能である。
【0018】
固定部材13は、上側すべり部材12の上側に配置され、上側すべり部材12が固定される略円柱状の下側固定部材14と、下面が下側固定部材14の上面に当接すると共に上端部が上部建屋4に固定される略円柱状の上側固定部材15とで構成されている。下側固定部材14の上面の略中央部には、凹部16が設けられている。上側固定部材15の下面の略中央部には、下側固定部材14の凹部16に滑らかに嵌合する突部17が設けられている。上側固定部材15の下面における突部17の外側には、略円環状の収容溝部18が設けられている。上側固定部材15は、突部17が下側固定部材14の凹部16に嵌合することにより、下側固定部材14に対する水平方向の相対的な移動が不能となっている。また、上側固定部材15は、下側固定部材14に対して上方向に離間可能とされている。
【0019】
上側固定部材15の収容溝部18と、収容溝部18の開口部を閉塞する下側固定部材14の上面とにより、収容部25が形成されている。つまり、収容部25は、下側固定部材14と上側固定部材15との間に形成されている。収容部25には、略円環状の弾性体30の全体が上下方向に圧縮された状態で収容されている。弾性体30は、復元力を有するものであり、力が作用していない状態において、一部が収容溝部18からはみ出る大きさに形成されている。この弾性体30は、詳細については後述するが、上部建屋4の浮上がり(上側固定部材15の下側固定部材14に対する上方向への離間)後に生じる上側固定部材15と下側固定部材14との接触による衝撃を復元力(反力)により緩和する緩衝部材として機能する。
【0020】
次に、本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態における作用を
図3、
図5乃至
図8を用いて説明する。
【0021】
図5は
図1に示す本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態を採用した免震建屋における水平方向の地震動の入力時の状態を示す説明図、
図6は
図1に示す本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態を採用した免震建屋における過大な地震動の入力時の状態を示す説明図、
図7は
図3に示す本発明のすべり支承の第1の実施の形態における過大な地震動の入力時の浮上がり状態を示す説明図、
図8は
図3に示す本発明のすべり支承の第1の実施の形態における浮上がり後の接触時の状態を示す説明図である。なお、
図5乃至
図8において、
図1乃至
図4に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0022】
地震力の作用しない静止状態の場合、
図3に示すように、すべり支承10は、上部建屋4を支持しているので、すべり支承10には、鉛直方向に圧縮荷重が作用する。すべり支承10では、弾性体30の全体を上下方向に圧縮した状態で収容部25内に収容することで、上側固定部材15の下面を下側固定部材14の上面に当接するように構成されているので、鉛直方向の圧縮荷重は、弾性体30を介さずに、上側固定部材15から下側固定部材14に直接伝達される。この圧縮荷重は、更に、下側固定部材14に固定した上側すべり部材12及び上側すべり部材12に当接している下側すべり部材11に伝達される。
【0023】
このように、鉛直方向の圧縮荷重がすべり支承10に作用する静止状態において、上側固定部材15の下面と下側固定部材14の上面とを当接させることで、鉛直方向の圧縮荷重を、弾性体30を介さずに、上側すべり部材12及び下側すべり部材11に伝達することができる。このため、すべり支承10の鉛直方向の高い剛性を確保することができる。したがって、鉛直方向の圧縮荷重を弾性部材が支持する従来構造のすべり支承の場合と比較して、すべり支承1基当たりの支持荷重を大きくすることができる。その結果、免震システムに用いるすべり支承10や積層ゴム支承5の設置数を低減できる。また、鉛直方向の圧縮荷重を、弾性体30を介さずに、上側すべり部材12及び下側すべり部材11に伝達しているので、静止状態での上部建屋4を支持荷重等の作用力を考慮せずに弾性体30の設計が可能となる。
【0024】
次に、
図5に示すように、ある範囲内の大きさの水平方向及び鉛直方向の地震動が免震建屋1に作用した場合、下部基礎版2から入力される地震動による上部建屋4の変位に対して、積層ゴム支承5が変形すると共に、すべり支承10が変位する。免震層3は、地震動の入力に対して積層ゴム支承5の変形やすべり支承10の変位により入力エネルギーを消費するので、上部建屋4に伝達される地震荷重を低減することができる。その結果、上部建屋4の応答が低減される。
【0025】
具体的には、
図3に示すすべり支承10では、上側固定部材15の突部17が下側固定部材14の凹部16に嵌合しているので、水平方向の地震動に対して、上側固定部材15が下側固定部材14に対して相対的に摺動することはない。このため、上部建屋4の下部基礎版2に対する相対的な水平変位に伴って、下側固定部材14及び上側固定部材15が一体となって水平方向に変位し、それによって、上側すべり部材12が下側すべり部材11上を摺動する。このとき、下側すべり部材11の上面(すべり面)と上側すべり部材12の下面(すべり面)との間の摩擦係数と、すべり支承10の支持荷重の積として求まる摩擦力が生じる。この摩擦力が地震荷重に対して抵抗することで、上部建屋4の応答が低減される。また、
図5に示す積層ゴム支承5には、積層ゴム6の変形が元に戻る復元力が生じ、この復元力により上部建屋4が元の位置に復帰する。
【0026】
次いで、過大な地震動が作用した場合、
図6に示すように、積層ゴム支承5が大きく変形すると共にすべり支承10が大きく変位し、上部建屋4のロッキング挙動が発生する。このため、上部建屋4の一方の端部が浮き上がり、免震層3端部の鉛直変位が
図5に示す場合よりも増大する。このため、
図7に示すように、すべり支承10の上側固定部材15が下側固定部材14に対して上方向に離間し、上側固定部材15と下側固定部材14との間に空間が生じる。これにより、弾性体30の拘束条件が全面拘束から下端自由拘束へ変化する。このため、弾性体30は、その復元力により、その一部が上側固定部材15の収容溝部18から下側にはみ出た状態となる。
【0027】
その後、
図8に示すように、上部建屋4の自重や逆向きのロッキング挙動により上側固定部材15が下側固定部材14に対して再接触する。この再接触の際、弾性体30は、その一部が収容溝部18から下側にはみ出た状態であるので、下側固定部材14の上面と上側固定部材15の収容溝部18の間で圧縮される。この弾性体30の圧縮変形によって生じる反力(復元力)によって、上側固定部材15と下側固定部材14との接触による衝撃が緩和される。つまり、上部建屋4に入力される衝撃荷重が低減される。
【0028】
本実施の形態においては、
図7及び
図8に示すように、下側固定部材14の凹部16に上側固定部材15の突部17を嵌合させる構造にすることで、上部建屋4の浮上がりの際に生じる上側固定部材15の下側固定部材14からの脱落の防止を図ることができる。このため、上側固定部材15は、下側固定部材14に対して上部建屋4の浮上がり前の元の位置に復帰することができる。
【0029】
また、本実施の形態においては、
図6に示すように、引張力に弱い積層ゴム支承5を内側に配置することで、上部建屋4のロッキング挙動よる浮上がり時における免震層3の端部の鉛直方向の過大な変位が積層ゴム支承5に生じないようにしている。このため、積層ゴム6の損傷の抑制を図ることができる。
【0030】
上述した本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態によれば、上側固定部材15の下面を下側固定部材14の上面に当接させた状態で、下側固定部材14と上側固定部材15との間に形成した収容部25に復元力を有する弾性体(緩衝部材)30を収容することで、地震動の入力のない静止状態での上部建屋(上部構造物)4の重量の支持荷重等の作用力を弾性体(緩衝部材)30に作用させないようにしたので、地震動の入力による上部建屋(上部構造物)4の浮き上がり後の接触時に入力される上部建屋(上部構造物)4への衝撃荷重を弾性体(緩衝部材)30により低減することができると共に、静止状態での作用力に制約されることなく弾性体(緩衝部材)30を設計することができる。
【0031】
[第1の実施の形態の変形例]
次に、本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態の変形例を
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は本発明のすべり支承の第1の実施の形態の変形例を示す縦断面図、
図10は
図9に示す本発明のすべり支承の第1の実施の形態の変形例における過大な地震動の入力時の浮上がり状態を示す説明図である。なお、
図9及び
図10において、
図1乃至
図8に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0032】
第1の実施の形態は、緩衝部材としての弾性体30を圧縮状態で収容部25に収容するものである。それに対して、
図9に示す本発明のすべり支承の第1の実施の形態の変形例は、緩衝部材として弾塑性体30Aを用いると共に、弾塑性体30Aの下端部及び上端部をそれぞれ下側固定部材14及び上側固定部材15に固定した状態で弾塑性体30Aを収容部25に収容するものである。つまり、弾塑性体30Aを圧縮状態で収容部25に収容する必要はない。
【0033】
過大な地震動が作用した場合、
図10に示すように、弾塑性体30Aの下端部及び上端部がそれぞれ下側固定部材14及び上側固定部材15に固定されているので、上部建屋4の浮上がりによる上側固定部材15の下側固定部材14に対する上方向への離間に伴い、弾塑性体30Aは引き延ばされる。その後、上側固定部材15と下側固定部材14との再接触の際に弾塑性体30Aが押し潰される。このように、上部建屋4の浮上がりが生じると、弾塑性体30Aに強制変形を与えることができ、それによって、上側固定部材15と下側固定部材14との再接触時に生じる衝撃を減衰することができる。
【0034】
上述した本発明のすべり支承及び免震システムの第1の実施の形態の変形例によれば、前述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、本実施の形態によれば、上部建屋4の浮上がり後の衝撃を弾塑性体30Aの弾塑性変形により緩和するので、緩衝部材として弾性体30を用いる場合よりも、すべり支承10Aの緩衝性能が向上する。
【0036】
[第2の実施の形態]
次に、本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態を
図11乃至
図13を用いて説明する。
図11は本発明のすべり支承の第2の実施の形態を示す縦断面図、
図12は
図11に示す本発明のすべり支承の第2の実施の形態の一部を構成する緩衝用リングを示す平面図、
図13は
図11に示す本発明のすべり支承の第2の実施の形態における過大な地震動の入力時の浮上がり状態を示す説明図である。なお、
図11乃至
図13において、
図1乃至
図10に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0037】
第1の実施の形態は、上側固定部材15の下面に設けた収容溝部18と収容溝部18の開口部を閉塞する下側固定部材14の上面とで形成した収容部25に緩衝部材としての弾性体30を圧縮状態で収容するものである。それに対して、
図11に示す本発明のすべり支承の第2の実施の形態は、緩衝部材としての緩衝用リング30Bを下側固定部材14Bの上面及び上側固定部材15Bの下面の外周部に形成した円環状の収容部25Bに収容するものである。
【0038】
具体的には、下側固定部材14Bの上面の外周部には、第1の円錐面19が形成されている。上側固定部材15Bの下面の外周部には、第2の円錐面20が形成されている。下側固定部材14Bの第1の円錐面19と上側固定部材15Bの第2の円錐面20とにより、略円環状の収納部25Bが形成されている。
【0039】
収容部25Bには、緩衝用リング30Bが収容されている。緩衝用リング30Bは、例えば、
図11及び
図12に示すように、復元力を有する材料、例えば金属によりC形に形成され、収容部25Bに収容された状態で固定部材13Bを締め付けるばね本体部31と、ばね本体部31に設けられ、ばね本体部31の締付力を調整可能な締付力調整機構32とで構成されている。緩衝用リング30Bは、詳細は後述するが、軸方向の圧縮荷重に応じた復元力が生じるものであり、上側固定部材15Bの浮上がり後の接触時の衝撃を復元力(反力)により緩和する緩衝部材として機能する。
【0040】
ばね本体部31は、その内周側に、下側固定部材14Bの第1の円錐面19に当接する第1のテーパ面31aと、上側固定部材15Bの第2の円錐面20に当接する第2のテーパ面31bとを有している。締付力調整機構32は、ばね本体部31のC形の両端部における径方向外側にそれぞれ設けた取付部33と、一方(
図12では左側)の取付部33に固定した取付用ナット34と、取付用ナット34に螺合し、他方(
図12では右側)の取付部33を貫通するねじ35と、ねじ35に対するねじ込み量を調整することでばね本体部31の締付力を調整可能な調整ナット36とで構成されている。
【0041】
次に、本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態における作用を
図11乃至
図13を用いて説明する。
【0042】
図11に示すように、上側固定部材15Bの下面が下側固定部材14Bの上面に当接した状態で、緩衝用リング30Bを固定部材13Bの収容部25Bに配置する。その後、
図12に示す締付力調整機構32により、ばね本体部31の締付力を調整する。具体的には、調整ナット36のねじ35に対するねじ込み量を調整する。これにより、緩衝用リング30Bは、ばね本体部31の径が収容部25Bの径と同一であるが、その円弧の長さが調整ナット36のねじ込み量に応じて締付力の調整前よりも長くなる。つまり、ばね本体部31のC形の両端部の隙間幅Wが締付力の調整前よりも小さくなる。
【0043】
地震動が作用して上部建屋4の浮上がりが発生した場合、
図13に示すように、上側固定部材15Bの上方への移動に伴い、緩衝用リング30Bに対する軸方向の圧縮荷重が小さくなる。このため、緩衝用リング30Bには、ばね本体部31の円弧の長さが元の長さに戻ろうとする復元力が生じる。すなわち、ばね本体部31は縮径する。これにより、緩衝用リング30Bは、下側固定部材14Bの第1の円錐面19に沿って上方に移動し、その内周部の一部分が下側固定部材14Bの上面と上側固定部材15Bの下面の間の隙間に入り込んだ状態となる。
【0044】
その後、上側固定部材15Bが下側固定部材14Bに再び接触する際に、下側固定部材14Bの第1の円錐面19及び上側固定部材15Bの第2の円錐面20に当接する緩衝用リング30Bに対して、軸方向の圧縮荷重が増大する。つまり、緩衝用リング30Bは、径方向外側に押し広げられる力を受ける。このとき、緩衝用リング30Bには、緩衝用リング30Bを押し広げる力に抗して緩衝用リング30Bの締付力に比例した反力(復元力)が生じるので、下側固定部材14Bと上側固定部材15Bの接触による衝撃が緩和される。
【0045】
上述した本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態によれば、前述した第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、緩衝用リング30Bを固定部材13Bの外周側に形成した収容部25Bに収容するようにすべり支承10Bを構成しているので、すべり支承10Bの固定部材13B等を下部基礎版2と上部建屋4との間に据え付けた後でも緩衝用リング30Bの設置が可能となる。
【0047】
さらに、本実施の形態によれば、緩衝用リング30Bの締付力を締付力調整機構32で調整可能な構成としているので、緩衝用リング30Bの緩衝性能を容易に調整することができる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、締付力調整機構32を主にねじ35と調整ナット36とで構成しているので、簡易な構成で緩衝用リング30Bの締付力を調整することができる。
【0049】
さらに、本実施の形態によれば、締付力調整機構32を固定部材13Bの外周側に位置するように構成しているので、すべり支承10Bの固定部材13B等を下部基礎版2と上部建屋4との間に据え付けた後でも緩衝用リング30Bの締付力の調整が可能となる。
【0050】
なお、上述した第2の実施の形態においては、下側固定部材14B及び上側固定部材15Bの外周部に亘って形成した収容部25Bに緩衝用リング30Bを配置する例を示したが、緩衝用リングは、上側固定部材及び下側固定部材に対して、その軸方向の圧縮荷重の変動に応じた反力を生じる構造を有していれば、その形状や配置を限定するものではない。例えば、以下のような変形例が可能である。
【0051】
[第2の実施の形態の変形例]
次に、本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態の変形例を
図14及び
図15を用いて説明する。
図14は、本発明のすべり支承の第2の実施の形態の変形例の一例を示す縦断面図であり、上部建屋の浮上がり後の接触時の状態を示す図である。
図15は、本発明のすべり支承の第2の実施の形態の変形例の他の例を示す縦断面図であり、上部建屋の浮上がり後の接触時の状態を示す図である。なお、
図14及び
図15において、
図1乃至
図13に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
先ず、本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態の変形例の一例を
図14を用いて説明する。
【0052】
第2の実施の形態は、下側固定部材14Bの第1の円錐面19と上側固定部材15Bの第2の円錐面20とにより形成した円環状の収容部25Bに緩衝用リング30Bを収容するものである。それに対して、
図14に示す本発明のすべり支承の第2の実施の形態の変形例の一例は、下側固定部材14Bの第1の円錐面19と上側固定部材15Cの下面の外周部とにより形成した円環状の収容部25Cに緩衝用リング30Cを収容するものである。つまり、上側固定部材15Cの下面の外周部には、円錐面が形成されていない。また、緩衝用リング30Cのばね本体部31Cは、テーパ面として、下側固定部材14Bの第1の円錐面19に当接する第1のテーパ面31aのみを有している。
【0053】
本実施の形態においては、地震動が作用して上部建屋4の浮上がりが発生した場合、第2の実施の形態と同様に、上側固定部材15Cの上方への移動に伴い、緩衝用リング30Cがその復元力により縮径する。これにより、緩衝用リング30Cは、その内周部の一部分が下側固定部材14Bの上面と上側固定部材15Cの下面の間の隙間に入り込んだ状態となる。その後、上側固定部材15Cによる緩衝用リング30Cの下方向への押し下げに伴い、緩衝用リング30Cは径方向外側に押し広げられる力を受ける。このとき、緩衝用リング30Cには、緩衝用リング30Cを押し広げる力に抗して緩衝用リング30Cの締付力に比例した反力(復元力)が生じ、上側固定部材15Cと下側固定部材14Bの接触による衝撃が緩和される。
【0054】
次に、本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態の変形例の他の例を
図15を用いて説明する。
第2の実施の形態は、下側固定部材14Bの上面及び上側固定部材15Bの下面の外周部に亘って形成した円環状の収容部25Bに緩衝用リング30Bをその内周側が当接するように収容するものである。それに対して、
図15に示す本発明のすべり支承の第2の実施の形態の変形例の他の例は、下側固定部材14Dの上面に設けた第1の収容溝部21と上側固定部材15Dの下面に設けた第2の収容溝部22とにより形成した円環状の収容部25Dに緩衝用リング30Dをその外周側が当接するように収容するものである。
【0055】
具体的には、下側固定部材14Dの第1の収容溝部21は、凹部16の外側に略円環状に形成され、その外周側に、上方向に向かって拡径する下側円錐面21aを有している。上側固定部材15Dの第2の収容溝部22は、突部17の外側に略円環状に形成され、その外周側に、下方向に拡径する上側円錐面22aを有している。
【0056】
緩衝用リング30Dは、例えば、収容部25Dに収容された状態において、径方向内側に押し縮める力が作用するように形成された本体部31Dのみで構成されている。すなわち、緩衝用リング30Dの径は、収容部25Dに収容されている状態の方が無負荷の状態よりも小さい。ばね本体部31Dは、その外周側に、第1の収容溝部21の下側円錐面21aに当接する第1のテーパ面31cと、第2の収容溝部22の上側円錐面22aに当接する第2のテーパ面31dとを有している。
【0057】
本実施の形態においては、地震動が作用して上部建屋4の浮上がりが発生した場合、上側固定部材15Dの上方への移動に伴い、緩衝用リング30Dは、その復元力により拡径する。これにより、緩衝用リング30Dは、その外周部の一部分が下側固定部材14Dの上面と上側固定部材15Dの下面の間の隙間に入り込んだ状態となる。その後、上側固定部材15Dによる緩衝用リング30Dの下方向への押し下げに伴い、緩衝用リング30Dは径方向内側に押し縮められる力を受ける。このとき、緩衝用リング30Dには、緩衝用リング30Dを押し縮める力に抗した反力(復元力)が生じ、上側固定部材15Dと下固定部材14Dの接触による衝撃が緩和される。
【0058】
上述した本発明のすべり支承及び免震システムの第2の実施の形態の変形例によれば、前述した第2の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0059】
また、第2の実施の形態の変形例の他の例によれば、下側固定部材及び上側固定部材が円柱状以外、例えば角柱状に形成されている場合でも、円環状の緩衝用リングを用いることができる。
【0060】
[その他の実施の形態]
なお、上述した本発明の免震システムの第1乃至第2の実施の形態の変形例においては、免震システムを適用する構造物として免震建屋1を例に挙げて説明したが、免震建屋以外の工場設備や一般的な建築物等の構造物にも適用することができる。例えば、基礎上に設けた下部構造物としての下部建物と上部構造物としての上部建物で構成された建築物に適用することも可能である。また、下部構造物としての橋脚と上部構造物としての橋桁とで構成された橋梁等にも適用可能である。
【0061】
また、上述した実施の形態においては、すべり支承10と積層ゴム支承5とで構成した免震システムの例を示したが、複数のすべり支承10のみで構成する免震システムも可能である。この場合も、地震動の入力により生じる上部建屋4の浮上がり後の衝撃を緩和することができる。
【0062】
なお、上述した実施の形態においては、上側固定部材15の突部17及び下側固定部材14の凹部16の断面形状を円形に、その設置位置を中央部にする例を示したが、突部及び凹部の断面形状や設置位置は、上部建屋4の浮上がりの際に生じる上側固定部材の下側固定部材からの脱落を防止可能であれば、任意である。
【0063】
また、上述した実施の形態においては、上側固定部材15Dに設けた突部17を下側固定部材14Dに設けた凹部16に嵌合させる構造の例を示したが、上側固定部材に凹部を設けると共に下側固定部材に突部を設けて、上側固定部材の凹部に下側固定部材の突部を嵌合させる構造も可能である。
【0064】
なお、上述した第1の実施の形態及びその変形例においては、上側固定部材15に設けた収容溝部18と収容溝部18の開口部を閉塞する下側固定部材14の上面とにより収容部25を形成した例を示したが、下側固定部材に設けた収容溝部とその収容溝部の開口部を閉塞する上側固定部材の下面とにより収容部を形成することも可能である。更には、上側固定部材に設けた収容溝部とその収容溝部の開口部を閉塞する下側固定部材の上面とにより第1の収容部を形成すると共に、下側固定部材に設けた収容溝部とその収容溝部の開口部を閉塞する上側固定部材の下面とにより第2の収容部を形成することも可能である。この場合、2つの緩衝部材により、上部建屋4の浮上がり後の接触時の衝撃を緩和することができる。
【0065】
また、上述した第1の実施の形態及びその変形例においては、緩衝部材としての弾性体30や弾塑性体30Aを円環状に形成した例を示したが、上部建屋4の浮上がり後の接触時の衝撃を緩和することが可能であれば、緩衝部材(弾性体や弾塑性体等)の形状や配置は任意である。例えば、三角形や四角形等の多角形環状に形成することも可能である。また、棒状の複数の緩衝部材を放射状に配置する構成も可能である。この場合、緩衝部材を収容する収容部を、緩衝部材の形状や配置に対応して形成する。
【0066】
また、上述した第1の実施の形態及びその変形例においては、固定部材13を円柱状に形成した例を示したが、固定部材の形状は、上部建屋4を支持可能であれば、任意である。
【0067】
なお、上述した第1の実施の形態においては、緩衝部材として、弾性体30を用いた例を示したが、緩衝部材として、弾塑性体や粘弾性体を用いることも可能である。緩衝部材として弾塑性体を用いた場合、塑性変形によるエネルギー吸収分、弾性体30を用いる場合よりも上部建屋4の浮上がり後の接触時の衝撃の緩和を図ることができる。
【0068】
また、上述した第2の実施の形態の変形例の一例においては、下側固定部材14Bの第1の円錐面19と上側固定部材15Cの下面の外周部とにより形成した収容部25Cに緩衝用リング30Cを収容する構成の例を示したが、上側固定部材の下面の外周部に設けた円錐面と下側固定部材の上面の外周部とにより形成した収容部に緩衝用リングを収容することも可能である。
【0069】
なお、上述した第2の実施の形態の変形例の他の例においては、下側固定部材14D及び上側固定部材15Dに設けた第1及び第2の収容溝部21a、22aにより収容部25Dを形成した構成の例を示したが、下側固定部材及び上側固定部材のいずれか一方に収容溝部を設け、その収容溝部とその収容溝部の開口部を閉塞する下側固定部材の上面又は上側固定部材の下面とにより収容部を形成することも可能である。更には、下側固定部材に設けた収容溝部とその収容溝部の開口部を閉塞する上側固定部材の下面とにより第1の収容部を形成すると共に、上側固定部材に設けた収容溝部とその収容溝部の開口部を閉塞する下側固定部材の上面とにより第2の収容部を形成することも可能である。この場合、2つの緩衝用リングにより、上部建屋4の浮上がり後の接触時の衝撃を緩和することができる。
【0070】
また、上述した第2の実施の形態の変形例の他の例においては、第1及び第2の収容溝部21a、22aの外周側にそれぞれ下側及び上側円錐面21a、22aを設けた構成の例を示したが、第1及び第2の収容溝部の内周側にそれぞれ下側及び上側円錐面を設けることも可能である。この場合、緩衝用リングは、その内周部に、第1及び第2のテーパ面を有し、収容部に収容された状態において、径方向外側に押し広げる力が作用するように形成される必要がある。
【0071】
なお、本発明は上述した第1乃至第2の実施の形態の変形例に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。