特許第6475558号(P6475558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許6475558水硬性セメント組成物及びそれを用いたセメントコンクリート組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475558
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】水硬性セメント組成物及びそれを用いたセメントコンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/06 20060101AFI20190218BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20190218BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20190218BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20190218BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20190218BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C04B28/06
   C04B18/14 A
   C04B18/08 Z
   C04B18/14 Z
   C04B18/10 B
   C04B22/06 A
   C04B24/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-88596(P2015-88596)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-204212(P2016-204212A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮口 克一
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−213540(JP,A)
【文献】 特表2007−514634(JP,A)
【文献】 特開昭50−102617(JP,A)
【文献】 申莖秀ほか,普通、早強、アルミナセメントに高炉スラグ微粉末を多量に置換したモルタルの圧縮強度特性,コンクリート工学年次論文集,日本,日本コンクリート工学会,2013年,Vol.35, No.1,PP.1615-1620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント5〜90質量部及び潜在水硬性物質95〜10質量部からなる結合材100質量部と、サリチル酸及びそのアルカリ金属塩から選択された1種又は2種以上の0.1〜5質量部とを含有してなり、アルミナセメントが、ブレーン比表面積3000〜5000cm/gで、CaO・Alを55〜93質量%含有し、CaO30〜40質量%、Al35〜60質量%、カリウム(KO換算)0.01以上0.3質量%未満である、水硬性セメント組成物。
【請求項2】
潜在水硬性物質が、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、及びライスハスクアッシュから選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の水硬性セメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水硬性セメント組成物を含有してなるセメントコンクリート組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のセメントコンクリート組成物で作製されたセメントコンクリート層をその表面に形成してなるセメントコンクリート硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野において使用される水硬性組成物及びそれを用いたセメントコンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナセメントはポルトランドセメントに比べ、初期強度が高く、低温条件で硬化し、硫酸侵食等に優れた耐久性を有するなど独特の性質を多く有している。
しかしながら、アルミナセメントを用いたコンクリートは、長期強度が低下するという問題を避けて通れないものとなっている。このアルミナセメントの強度低下の原因は、常温ではアルミナセメントの主要水和物であるCaO・Al・10HOが、3CaO・Al・6HOへ転移し、この転移に伴って空隙率が増加し、強度低下を生じるものである。
アルミナセメントを用いたコンクリートは、ポルトランドセメントに比べると高い硫酸抵抗性を持つが、せいぜいpH=4程度までの領域であり、環境によってはpH=1程度にもなるかなり厳しい硫酸劣化にさらされる下水処理施設や化学工場などに使用する場合、さらに高い硫酸抵抗性が求められている。
加えて、長期強度低下の問題もあり、これらの施設では使用実績が少ない。このため、土木・建築分野では、優れた初期強度や高い耐久性を有するにも関わらず、アルミナセメントを構造部材に用いることは敬遠され、もっぱら高温炉用のキャスタブル耐火ライニング材等として用いられてきた。
アルミナセメントの主要水和物の転移を防止するための技術としては、高炉水砕スラグ微粉末を併用する方法(特許文献1参照)、炭酸カルシウムを併用する方法(非特許文献1参照)、及びセッコウを併用する方法(非特許文献2参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−180945号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fentiman C.H.:Cement and Concrete Research,Vol.15,No.4,pp.622−630,1985
【非特許文献2】杉智光他:セメント技術年報,No.30,pp.118−122,1976
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では転移による強度の低下を防ぐことはできても、pH=1程度における硫酸抵抗性については考慮されておらず、性能も劣るものとなっていた。
本発明は、鋭意努力の結果、特定の材料を使用することによって従来技術の持つ課題を解消し、アルミナセメントの持つ特長を損なうことなく、転移による強度低下を防止し、さらに硫酸抵抗性に優れるアルミナセメントを用いた、水硬性セメント組成物及びそれを用いたセメントコンクリート組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)アルミナセメント5〜90質量部及び潜在水硬性物質95〜10質量部からなる結合材100質量部と、サリチル酸及びそのアルカリ金属塩から選択された1種又は2種以上の0.1〜5質量部とを含有してなり、アルミナセメントが、ブレーン比表面積3000〜5000cm/gで、CaO・Alを55〜93質量%含有し、CaO30〜40質量%、Al35〜60質量%、カリウム(KO換算)0.01以上0.3質量%未満である、水硬性セメント組成物、(2)潜在水硬性物質が、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、及びライスハスクアッシュから選ばれる1種又は2種以上である(1)の水硬性セメント組成物、(3)(1)又は(2)の水硬性セメント組成物を含有してなるセメントコンクリート組成物、(4)(3)のセメントコンクリート組成物で作製されたセメントコンクリート層をその表面に形成してなるセメントコンクリート硬化体、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水硬性セメント組成物を使用することにより、アルミナセメントの持つ特長を損なうことなく、転移による強度低下を防止し、さらに硫酸抵抗性にも優れるセメント組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
なお、本発明でいうセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0009】
本発明で使用するアルミナセメントは、本発明で規定した成分および粉末度の範囲を有するアルミナセメントを使用する。
本発明のアルミナセメントは、CaO・Alを含有するアルミナセメントであり、CaOを30〜40質量%、Alを35〜60質量%、カリウムがKO換算で0.01以上0.3未満質量%である。CaO・Alの含有量は55〜93質量%である。
本発明のアルミナセメントの粒度は、ブレーン比表面積(以下、ブレーン値という)が3000〜5000cm/gであり、ブレーン値が3500〜4500cm/gがより好ましい。これらの範囲を超えると、水硬性セメント組成物とした場合の流動性や強度物性が満足に得られない場合がある。
【0010】
本発明で使用する潜在水硬性物質は、特に限定されるものではなく、如何なるものでも使用可能である。具体的には、高炉水砕スラグ等の急冷スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、及びライスハスクアッシュ(籾殻灰)等が挙げられ、本発明ではこれらのうち1種又は2種以上の使用が可能である。
【0011】
本発明のアルミナセメントと潜在水硬性物質の配合割合は、アルミナセメントと潜在水硬性物質からなる結合材100部中、アルミナセメント5〜90部、潜在水硬性物質95〜10部であり、アルミナセメント20〜50部、潜在水硬性物質80〜50部が好ましい。アルミナセメントが5部未満で、潜在水硬性物質が95部を超えると、所定の強度が得られない場合があり、アルミナセメントが90部を超え、潜在水硬性物質が10部未満ではアルミナセメント水和物転移の防止効果が小さくなる場合がある。
【0012】
本発明で使用するサリチル酸及びそのアルカリ金属塩について説明する。
サリチル酸は、ベンゼン環にカルボキシ基とヒドロキシ基を併せ持つ物質で、示性式はC6H4(OH)COOHで、無色の針状結晶である。一般的には、コルベ=シュミット反応による方法で工業的に生産される。また、そのアルカリ金属塩はサリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウムが一般的である。なお、本発明では、試薬でも工業原料でも問題なく使用できる。
【0013】
本発明において、アルミナセメントと潜在水硬性物質からなる結合材とサリチル酸の配合割合は、結合材100部に対して、0.1〜5部であり、0.5〜3部がより好ましい。0.1部未満では硫酸抵抗性効果が得られない場合があり、5部を超えてもさらなる効果の増進が期待できないばかりか、強度発現性が阻害される場合がある。
【0014】
本発明の水硬性セメント組成物の粒度は、使用する目的・用途に依存するため特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で3,000〜20,000cm/gが好ましく、4,000〜7,000cm/gがより好ましい。3,000cm/g未満では本発明の効果が充分に得られない場合があり、20,000cm/gを超えると、流動性が得られなくなり、粉砕にかかる動力も過大となり経済的でなくなる。
【0015】
本発明で使用する骨材は、公知のいかなるものでも使用可能であるが、本発明の目的の一つである耐硫酸性を考慮すると、石灰石などの硫酸と反応する成分を多く含有するものは主として用いる骨材としては避けたほうがよい。一般に用いられる山砂、川砂および砕石を用いるのが好ましく、珪石や珪砂を用いるのがより好ましい。
【0016】
本発明で使用する水量は、使用する材料の種類や配合により変わるため一義的に決定されるものではないが、通常、水/結合材比で25〜60%が好ましく、30〜50%がより好ましい。25%未満では充分な作業性を得るための減水剤等の添加量が著しく増え経済的でなくなる場合があり、60%を超えると充分な強度発現性が得られない場合がある。
【0017】
本発明では、本発明の水硬性セメント組成物や骨材の他に、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、凝結調整剤、ビニロン繊維、アクリル繊維、及び炭素繊維等の繊維状物質、セメント混和用ポリマーディスパージョン、ベントナイト等の粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0018】
本発明では、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめその一部、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、プロシェアミキサ、及びナウターミキサ等が挙げられる。
【0019】
本発明の水硬性セメント組成物で作製されたセメントコンクリート硬化体とは、水、砂、砂利、及び本発明の水硬性セメント組成物を用いてなる硬化体と、それを他のセメントコンクリート硬化体の表面に形成してなるセメントコンクリート硬化体である.
【0020】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
「実験例1」
水/結合材比=45%、結合材/砂比=1/2の配合を用い、表1に示すアルミナセメントと潜在水硬性物質からなる結合材を用い、結合材100部に対して、サリチル酸を2部配合してモルタルを調製した。なお、サリチル酸は外割配合とした。また、モルタルのフロー値が175±5となるように、減水剤を併用した。
調製したモルタルを用いて硬化体を作製し、材齢1日で脱型後、20℃水中養生を行ったモルタルの材齢1、7、28日、及び1年における圧縮強度を測定した。また、材齢28日養生後、5%硫酸水溶液浸漬試験を行った。結果を表1に併記する。なお、すべての試験は20℃の恒温室内で行った。
【0022】
<使用材料>
アルミナセメント:市販品、CaO35%、Al50%、CaO・Al75%KO0.2%、ブレーン値4,500cm/g、密度3.01g/cm
潜在水硬性物質α:高炉水砕スラグ微粉末、市販品、ブレーン値6,200cm/g、密度2.90g/cm
潜在水硬性物質β:フライアッシュ、市販品、ブレーン値4,400cm/g、密度2.35g/cm
潜在水硬性物質γ:シリカフューム、市販品、ブレーン値135,000cm/g、密度2.30g/cm
潜在水硬性物質δ:潜在水硬性物質αと潜在水硬性物質βを質量比1:1で混合したもの
サリチル酸A:サリチル酸,試薬
砂:JIS標準砂
減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤、市販品
水:水道水
【0023】
<測定方法>
圧縮強度:φ5×10cmの円柱供試体を作製し、土木学会規格JSCE−G505「円柱供試体を用いたモルタル又はセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準じて測定。
硫酸抵抗性:φ5×10cmの円柱供試体を作製し、材齢28日まで20℃水中養生を施した後、5%硫酸濃度の硫酸水溶液に浸漬させた。浸漬開始後4週間後に供試体の質量を確認し、浸漬前後の質量変化率(%)を測定した。また、同様に浸漬後の供試体を輪切りし、断面にフェノールフタレインアルコール溶液を塗布して、非呈色深さを測定することで、硫酸浸透深さを確認した。
圧縮強度増加率:材齢1年の圧縮強度の材齢28日強度に対する増加割合。
{(材齢1年の圧縮強度)/(材齢28日の圧縮強度)}×100‐100(%)
【0024】
【表1】
【0025】
「実験例2」
アルミナセメント50部と潜在水硬性物質α50部とを配合し、以下に示す各種のサリチル酸及びその塩を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0026】
<使用材料>
サリチル酸A:サリチル酸、試薬
サリチル酸B:サリチル酸、工業製品
サリチル酸C:サリチル酸ナトリウム、試薬
サリチル酸D:サリチル酸カリウム、試薬
サリチル酸E:サリチル酸AとCを等量混合したもの。
【0027】
【表2】
【0028】
「実験例3」
アルミナセメント50部と潜在水硬性物質α50部とを配合し、サリチル酸Aを用い、表3に示す水/セメント比を用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0029】
【表3】
【0030】
「実験例4」
アルミナセメント50部と潜在水硬性物質α50部とを配合し、サリチル酸Aを用い、表4に示すCaO含有量のアルミナセメントを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0031】
【表4】
【0032】
「実験例5」
アルミナセメント50部と潜在水硬性物質α50部とを配合し、サリチル酸Aを用い、表5に示すAl含有量のアルミナセメントを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0033】
【表5】
【0034】
「実験例6」
アルミナセメント50部と潜在水硬性物質α50部とを配合し、サリチル酸Aを用い、表6に示すKO含有量のアルミナセメントを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表6に併記する。
【0035】
【表6】
【0036】
「実験例7」
アルミナセメント50部と潜在水硬性物質α50部とを配合し、サリチル酸Aを用い、表7に示すブレーン値のアルミナセメントを用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表7に併記する。
【0037】
【表7】
【0038】
「実験例8」
単位結合材量250kg/m中、アルミナセメントが150kg、潜在水硬性物質αが100kgで、水結合材比45%、s/a=45%、スランプ10±3cm、空気量3.0±1.0%のコンクリートを調製し、実験例2のサリチル酸Aの配合割合を表4に示すように変化して実験を行った。結果を表4に併記する。
【0039】
<使用材料>
細骨材:新潟県姫川産川砂、密度2.56g/cm
粗骨材:新潟県姫川産砕石、密度2.65g/cm
減水剤:ナフタレンスルホン酸系高性能減水剤、市販品
【0040】
<測定方法>
圧縮強度:φ10×20cm供試体を作製しJIS A 1108に準じて材齢28日強度を測定。
圧縮強度増加率:材齢1年の圧縮強度の材齢28日強度に対する増加割合。
{(材齢1年の圧縮強度)/(材齢28日の圧縮強度)}×100‐100(%)
硫酸抵抗性:φ10×20cmの供試体を作製し、材齢28日まで20℃水中養生を施した後、5%硫酸濃度の硫酸水溶液に浸漬させた。浸漬開始後4週間後に供試体の質量を確認し、浸漬前後の質量変化率(%)を測定した。また、同様に浸漬後の供試体を輪切りし、断面にフェノールフタレインアルコール溶液を塗布して、非呈色深さを測定することで、硫酸浸透深さを確認した。
【0041】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の水硬性セメント組成物を使用することにより、アルミナセメントの持つ特長を損なうことなく、転移による強度低下を防止し、さらに硫酸抵抗性にも優れるセメント組成物が得られるので、硫酸劣化を受ける構造物以外にも、海洋構造物や水槽、床版コンクリートなど広範な用途に適する。