(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クランクケース内に生じたブローバイガスからオイル成分を分離して吸気系に還元するためのオイル分離室が、エンジン機壁の外側に前記エンジン機壁を用いて構成されているブリーザ装置付エンジンであって、
前記オイル分離室の始端側に、クランクケース内と連通しているエンジン機内に開口するガス入口孔が前記エンジン機壁に設けられるとともに、前記オイル分離室の終端側に、前記吸気系にブローバイガスを還元するためのガス出口が設けられ、
前記オイル分離室の始端側の前記ガス入口孔の近傍箇所、及び前記オイル分離室の終端側の前記ガス出口の近傍箇所のそれぞれにおける前記エンジン機壁に、前記オイル分離室において分離されたオイル成分を前記エンジン機内に戻すための戻し孔が設けられ、
前記始端側の戻し孔は、前記ガス入口孔に及ぶ手前においてブローバイガス中のオイル成分を捕捉するために前記エンジン機内に装備されたオイル捕捉促進具に臨む状態に形成され、かつ、前記終端側の戻し孔は直接前記エンジン機内に臨む状態に形成されているブリーザ装置付エンジン。
前記オイル分離室内にガイド壁を設け、このガイド壁でガス入口孔からガス出口までのオイル分離室内経路を蛇行させた構成とされている請求項1に記載のブリーザ装置付エンジン。
前記オイル分離室の分離室周壁と前記ガイド壁とが前記エンジン機壁に一体形成され、前記分離室周壁の先端開口部を覆って閉塞するブリーザカバーを設けて前記オイル分離室が構成されており、前記ブリーザカバーに前記ガス出口が設けられるとともに、前記吸気系である吸気管と前記ガス出口とを連通するブリーザパイプが装備されている請求項2に記載のブリーザ装置付エンジン。
前記先端開口部と前記ブリーザカバーとの間に、先端開口部の蓋となるリード弁取付板、及び前記リード弁取付板に形成されたリード孔を用いる状態で前記リード弁取付板に支持されるリードバルブを設けて、前記オイル分離室を、前記ガス入口孔側の分離本室と前記ガス出口側の分離後室とに仕切るとともに、
前記リードバルブは、前記分離本室の圧よりも前記分離後室の圧が低くなると開弁する一方弁に構成されている請求項3に記載のブリーザ装置付エンジン。
【背景技術】
【0002】
4ストロークエンジンなどの内燃機関においては、クランクケース内部はブローバイガスや温度上昇に伴う空気の膨張、オイルの蒸気によって外気よりも圧力が高くなる。この圧力を逃がして解放するために設けられているのがブリーザ装置で、最も単純なものは外気へ直接解放する方式である。
【0003】
しかしながら、ブローバイガスは未燃焼炭化水素などの大気汚染物質を高濃度で含むことから、トラクタ、自動車、産業用エンジンなどでは吸気管へと還元する構造がとられる。また、ブローバイガス成分によってエンジンオイルが汚れたり、希釈されたりするため、リード弁、一方弁などによるPCVバルブと呼ばれる逆止弁を用いてブローバイガスを積極的にクランクケース外部へ排出する方式が採用されていることも多い。
【0004】
ブローバイガスのブリーザ装置付エンジンとしては、特許文献1において開示されたものが知られている。特許文献1においては、シリンダ上端部に及ぶ状態でシリンダヘッドの壁内側にブリーザ装置の要部である二つのオイル分離室(気液分離室:43,45)が形成されている。下側の気液分離室(43)の下端部であるガス導入口(52)から流入したブローバイガスは、気液分離室(43),(45)、及びパイプでなるブローバイ通路(46)を経てエアクリーナ(47)に還元される。
【0005】
気液分離室(43),(45)で分離されたオイルは、オイルリターン孔からチェーン室(51)に流出させるが、ガス導入口(52)の傾斜面を伝ってチェーン室(50)に流下するようにも構成されている。つまり、特許文献1においては、ブローバイガスの通り道における壁面への付着によりオイルを分離させるものであり、その分離されたオイルは、単純な孔や通路を通してクランクケース内への戻すシンプルな構成とされていた。
【0006】
このようなシンプル構造のブリーザ装置では、構造簡単で廉価に構成できる利点はあるが、エンジン状態に応じてブローバイガスからオイル分離させる制御までは行えない。そのため、オイルが十分に分離しきれないまま吸気系にブローバイガスが還元され、オイル消費量が多く、エンジンオイルが早期に減ってしまうとか汚れ易いといった問題が生じ易い傾向にあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、オイル分離室のさらなる構造見直しを行うことにより、構造簡単による利点を損なうことなく、オイル消費が過剰となってしまうことなくブローバイガスの還元が行え、エンジンオイル劣化の低減、ひいてはエンジンの耐久性が改善されるブリーザ装置付エンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、クランクケース1内に生じたブローバイガスからオイル成分を分離して吸気系に還元するためのオイル分離室4が、エンジン機壁3の外側に前記エンジン機壁3を用いて構成されているブリーザ装置付エンジンであって、
前記オイル分離室4の始端側に、クランクケース1内と連通しているエンジン機内kに開口するガス入口孔5が前記エンジン機壁3に設けられるとともに、前記オイル分離室4の終端側に、前記吸気系にブローバイガスを還元するためのガス出口25が設けられ、
前記オイル分離室4の始端側の前記ガス入口孔5の近傍箇所、及び前記オイル分離室4の終端側の前記ガス出口25の近傍箇所のそれぞれにおける前記エンジン機壁3に、前記オイル分離室4において分離されたオイル成分を前記エンジン機内kに戻すための戻し孔33,34が設けられ、
前記始端側の戻し孔33は、前記ガス入口孔5に及ぶ手前においてブローバイガス中のオイル成分を捕捉するために前記エンジン機内kに装備されたオイル捕捉促進具35に臨む状態に形成され、かつ、前記終端側の戻し孔34は直接前記エンジン機内kに臨む状態に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のブリーザ装置付エンジンにおいて、
前記オイル分離室4内にガイド壁8を設け、このガイド壁8でガス入口孔5からガス出口25までのオイル分離室内経路9を蛇行させた構成とされていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のブリーザ装置付エンジンにおいて、
前記オイル分離室4の分離室周壁15と前記ガイド壁8とが前記エンジン機壁3に一体形成され、前記分離室周壁15の先端開口部16を覆って閉塞するブリーザカバー20を設けて前記オイル分離室4が構成されており、前記ブリーザカバー20に前記ガス出口25が設けられるとともに、前記吸気系である吸気管24と前記ガス出口25とを連通するブリーザパイプ26が装備されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のブリーザ装置付エンジンにおいて、
前記先端開口部16と前記ブリーザカバー20との間に、先端開口部16の蓋となるリード弁取付板17、及び前記リード弁取付板17に形成されたリード孔18を用いる状態で前記リード弁取付板17に支持されるリードバルブ19を設けて、前記オイル分離室4を、前記ガス入口孔5側の分離本室4Aと前記ガス出口25側の分離後室4Bとに仕切るとともに、
前記リードバルブ19は、前記分離本室4Aの圧よりも前記分離後室4Bの圧が低くなると開弁する一方弁に構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のブリーザ装置付エンジンにおいて、
前記リード孔18は、前記分離本室4Aにおける蛇行された前記オイル分離室内経路9の終端近傍に臨む位置に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項2〜5の何れか一項に記載のブリーザ装置付エンジンにおいて、
前記分離室周壁15に、前記オイル分離室内経路9の後部又は終端近傍に臨む脈動孔6が形成され、前記脈動孔6に連通パイプ7を介して脈動圧作動器2を連通させ、前記クランクケース1内の脈動圧で前記脈動圧作動器2が駆動される状態に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ガス入口孔からオイル分離室に流入したブローバイガス(オイルミストを多く含んだブローバイガス)は、オイル分離室においてオイル成分の分離作用を受け、分離作用を受けた後のブローバイガスはガス出口から吸気系に還元されるとともに、分離されたオイル成分は2つの戻し孔からエンジン機内に戻される。
オイル分離室にて分離されたオイル成分は、エンジン機内側にオイル捕捉促進具のある始端側の戻し孔からは穏やかにエンジン機内に戻り、終端側の戻し孔からは素早くエンジン機内に戻るようになる。
この戻り速度に差のある二つの戻し孔から捕捉されたオイル成分をエンジン機内に戻す構成の採用により、ブローバイガスの還元作用を促進させるようにしながら、分離されたオイルの戻し作用の強化が図ることが可能になった。
その結果、オイル分離室のさらなる構造見直しを行うことにより、構造簡単による利点を損なうことなく、オイル消費が過剰となってしまうことなくブローバイガスの還元が行え、エンジンオイル劣化の低減、ひいてはエンジンの耐久性が改善されるブリーザ装置付エンジンを提供することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、オイル分離室内に設けられたガイド壁により、オイル分離室内経路9が蛇行するようになるので、クランクケース1からオイル分離室4に流入してきたオイルミストは、蛇行するオイル分離室内経路を通過する過程で容易に凝集されるようになる。従って、ブローバイガス中のオイルミストが過剰にガス出口から吸気系にもどされて消費されてしまうことが抑制され、オイルの早期減少がより有効に制限又は防止される利点がある。
【0017】
請求項3の発明によれば、オイル分離室における先端開口部を覆って閉塞するブリーザカバーを配置し、ブリーザカバーに形成されているガス出口と吸気管とをブリーザパイプで連通してあるから、ガス出口と吸気管とを近づけて、ブリーザパイプを短くすることができる。従って、ブリーザパイプの通路抵抗が小さくなり、ブリーザ機能を高めることができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、リード弁取付板をオイル分離室に設けて、オイル分離室を、蛇行するオイル分離室内経路を有する分離本室と分離後室とに分けてあるから、ブローバイガスに含まれるオイルミストは分離本室とリードバルブとで二重にオイル分離されている。従って、ブリーザ装置におけるオイル分離機能が高められる利点がある。
【0019】
請求項5の発明によれば、リード孔が、分離本室における蛇行されたオイル分離室内経路の終端近傍に臨む位置に形成されているから、ガス出口及び分離後室を通って吸気系に戻されるブローバイガスは、オイル分離室によるオイルの分離作用を十分に受けた状態となり、この点からもブリーザ装置の機能が高められる利点がある。
【0020】
請求項6の発明によれば、ブローバイガスからオイル成分を分離させるブリーザ装置を、燃料ポンプなどの脈動圧作動器の駆動源にもすることができ、装置の兼用化による合理化が促進される利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明によるブリーザ装置付エンジンの実施の形態を、汎用エンジンである空冷V型エンジンに適用した場合ついて、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明による空冷V型エンジンは、
図6に示されるように、クランクケース1内の脈動圧で脈動圧作動器2が駆動される。このエンジンEは、
図3に示されるように、エンジンを上方から見て、クランク軸21の軸線21aよりも右寄りに脈動圧作動器2とオイル分離室4とが配置された右ポンプ仕様エンジンである。図示は省略するが、脈動圧作動器2とオイル分離室4とを、クランク軸21の軸線21aよりもよりも左寄りに配置した左ポンプ仕様エンジンもある。脈動圧作動器2の例としては、燃料タンクからキャブレタ29のフロート室に燃料を供給するための脈動圧ポンプである。以下、右ポンプ仕様のもので説明する。
【0024】
図6に示されるように、シリンダブロック27はクランクケース1と一対のシリンダ22,22との一体成型品である。クランク軸21の架設方向と平行な向きに見て、クランクケース1から左右斜め上向きに一対のシリンダ22,22が突出されている。左右のシリンダ22の突出端には左右のシリンダヘッド11がそれぞれ組み付けられ、左右のシリンダヘッド11にそれぞれ左右のヘッドカバー12が組み付けられている。
【0025】
図3に示されるように、左右のシリンダヘッド11,11の前部には吸気マニホルド28が架設され、吸気マニホルド28の中央部後方にはキャブレタ29が取付けられている。キャブレタ29の後部には吸気管24が取付けられ、
図6に示されるように、吸気管24にはエアクリーナ30が連通されている。図示は省略するが、シリンダブロック27の前部には、エンジン冷却ファンを収容するファンケースが配置されている。
【0026】
図3に示されるように、右ポンプ仕様エンジンは、エンジンを上方から見て、クランク軸21の軸線21aよりも右寄りに脈動圧作動器2とオイル分離室4とが配置されている。右側のエンジン機壁3である右側のシリンダヘッド11のシリンダヘッド壁10の外側にオイル分離室4が形成されている。
【0027】
図1(a),(b)及び
図2に示されるように、オイル分離室4の始端側に、クランクケース1内と連通する分離室への入口であるガス入口孔5、及び分離室からの出口であるガス出口25がそれぞれ形成され、オイル分離室4の終端側に、脈動を取出すための脈動孔6が形成されている。脈動孔6には連通パイプ7を用いて脈動圧作動器2が連通され、その結果、脈動圧作動器2はオイル分離室4を介してクランクケース1内に連通されている。
【0028】
オイル分離室4内には複数のガイド壁8が設けられ、それらガイド壁8によりガス入口孔5から脈動孔6及びリード孔18(後述)までのオイル分離室内経路9が蛇行されている。また、
図3に示されるように、右側のシリンダヘッド11に被せたヘッドカバー12と隣り合う位置に脈動圧作動器2が配置されている。シリンダブロック27内とガス入口孔5とは、プッシュロッド室31に並設された連通孔32により連通されている。連通孔32はシリンダヘッド11内とシリンダブロック27内に一連に形成されている。
【0029】
図1(a),(b)及び
図2に示されるように、右寄りの分離室周壁15内の始端側にクランクケース1内と連通するガス入口孔5が形成され、分離室周壁15内の終端側に脈動孔6が形成され、分離室周壁15の先端開口部16はリード弁取付板17で蓋されている。故に、分離室周壁15内が実質的なオイル分離室4となり、ガス入口孔5から脈動孔6までのオイル分離室内経路9がガイド壁8によって蛇行する構成とされている。なお、分離後室4Bにおいてもリード弁取付板17により、オイル分離室内経路9の終端部→リード孔18→ガス出口25と続く経路が蛇行されている構成と言える。オイル分離室4の脈動孔6に連通パイプ7を介して脈動圧作動器2が連通され、右寄りの脈動圧作動器2が右寄りのオイル分離室4を介してシリンダブロック27内に連通されている。ガス入口孔5と脈動孔6とは、エンジン機壁3と分離室周壁にキリ加工で形成されている。
【0030】
図3に示されるように、脈動圧作動器2の取付ステー13とヘッドカバー12とが、取付ボルト14でシリンダヘッド11に共締めで取付けられている。
図1(a),(b)に示されるように、分離室周壁15の先端開口部16がリード弁取付板17で蓋されることでオイル分離室4が形成され、リード弁取付板17にリード孔18とリードバルブ19とが設けられている。リード弁取付板17はブリーザカバー20で覆われるとともに、オイル分離室4にブリーザカバー20が重ねて取付けられており、ブリーザカバー20にはガス出口25が形成されている。
【0031】
そして、
図1(b)、
図3に示されるように、リード孔18はオイル分離室4の脈動孔6寄りの端部に臨む状態に配置されており、ガス入口孔5とリード孔18とは蛇行するオイル分離室内経路9により連通されている。クランクケース1の上方スペース23に吸気管24が配置され、その上方スペース23に臨む位置で、エンジン機壁3にオイル分離室4とブリーザカバー20とが重ねて配置され、分離室周壁15とブリーザカバー20とによってオイル分離室4が形成されている。ブリーザカバー20のガス出口25はオイル分離室4のガス出口25であって、そのガス出口25と吸気管24とがブリーザパイプ26で連通されている。
【0032】
次に、ブローバイガスの観点から、主にオイル分離室4によるブリーザ装置Aについて詳しく説明する。
ブリーザ装置付エンジンEにおいては、クランクケース1内に生じたブローバイガスからオイル成分を分離して吸気系に還元するためのオイル分離室4が、エンジン機壁3の外側にエンジン機壁3を用いて構成されている。オイル分離室4の始端側に、クランクケース1内と連通している連通孔32(エンジン機内kの一例)に開口するガス入口孔5がエンジン機壁3に設けられている。オイル分離室4の終端側に、吸気管24(吸気系の一例)にブリーザパイプ26を介してブローバイガスを還元するためのガス出口25が設けられている。
つまり、ブリーザ装置Aは、オイル分離室4と、このオイル分離室4へのブローバイガスの給排構造部(ブリーザパイプ26、プッシュロッド室31、連通孔32など)とから構成されている。
【0033】
オイル分離室4の始端側のガス入口孔5の近傍箇所、及びオイル分離室4の終端側のガス出口25の近傍箇所のそれぞれにおけるエンジン機壁3に、オイル分離室4において分離されたオイル成分をエンジン機内kに戻すための戻し孔33,34が設けられている。
始端側の戻し孔33は、ガス入口孔5に及ぶ手前においてブローバイガス中のオイル成分を捕捉するために連通孔32に装備された金属メッシュ(オイル捕捉促進具の一例)35に臨む状態に形成されている。終端側の戻し孔34は直接プッシュロッド室31(エンジン機内kの一例)に臨む状態に形成されている。
【0034】
先端開口部16とブリーザカバー20との間に、先端開口部16の蓋となるリード弁取付板17、及びリード弁取付板17に形成された円形のリード孔18を用いる状態でリード弁取付板17に支持されるリードバルブ19を設けて、オイル分離室4は、ガス入口孔5側の分離本室4Aとガス出口25側の分離後室4Bとに仕切られている。リードバルブ19は、分離本室4Aの圧よりも分離後室4Bの圧が低くなると開弁する一方弁に構成されている。
【0035】
ガイド壁8は、
図1に示されるように、ガス入口孔5からの経路を塞ぐかのように屈曲形状で延びる第1ガイド壁8a、第1ガイド壁8aに上下で対向配置されて反対方向に延びる屈曲形状の第2ガイド壁8b、及び脈動孔6及び終端側の戻し孔34への経路を塞ぐかのように設けられたL字形状の第3ガイド壁8cとからなる。この構成により、エンジン機壁3、分離室周壁15、リード弁取付板17とで囲まれた分離本室4Aにおいて、蛇行する形状のオイル分離室内経路9が形成されている。なお、オイル分離室4においては、ブローバイガスの流れ方向で上流側を始端側、下流側を終端側、とそれぞれ定義するものとする(分離本室4Aよりも分離後室4Bは終端側に位置している)。
【0036】
ガス入口孔5は、分離本室4Aの始端下部に比較的大きい円孔に形成され、始端側の戻し孔33は、分離本室4Aの始端側の下部に、詳しくは、第1ガイド壁8aを介してガス入口孔5の隣りに形成されている。これらガス入口孔5及び始端側の戻し孔33は、金属メッシュ35を収容する連通孔32に開通されている。
終端側の戻し孔34は、分離本室4Aの終端における脈動孔6の間際において、エンジン機壁3を貫通してプッシュロッド室31に開口する孔である。
始端側の戻し孔33と終端側の戻し孔34とは互いに同じ径の円孔に形成されており、その開口面積は、ガス入口孔5に比べて圧倒的に小さい。
【0037】
クランクケース1内のブローバイガスは連通孔32及び金属メッシュ35を経てガス入口孔5から分離本室4Aに流入し、第1及び第2ガイド壁8a,8bによりオイル分離室内経路9を蛇行しながら進む。金属メッシュ35の存在により、ガス入口孔5に入り手前において、ブローバイガス中のオイル成分(オイルミスト、水分など)がある程度捕捉され、凝集したオイル成分が連通孔32を通ってクランクケース1内に戻される。
【0038】
そして、分離本室4Aにてオイル成分が捕捉されながらオイル分離室内経路9を流れて行き、ブローバイガスは第2部及び第3ガイド壁8b,8cで導かれてリード孔18からリードバルブ19、及びを通ってガス出口25から吸気管24に還元されていく。そして、クランクケース1内の圧力変動が分離本室4Aの脈動孔6を通って脈動圧作動器2に伝わり、脈動圧作動器2が駆動される。
【0039】
つまり、ブリーザ装置Aにおては、エンジンが回転しており、シリンダブロック27(クランクケース1)内の圧よりも吸気管24の圧が低くなる状態ではリードバルブ19が開弁し、ガス入口孔5から流入して分離本室4A及び分離後室4Bを経たブローバイガスが吸気系に戻される。理論上からは、始端側及び終端側の戻し孔33,34からもブローバイガスが流入するように思えるが、前述のように、ガス入口孔5に比べて開口面積が十分小さいので、実際には殆ど流入しない。
【0040】
エンジン機壁3や分離室周壁15、ガイド壁8に付着して凝集されたオイル成分は、壁面を伝って流れ落ち、分離本室4Aの下部に溜まる。溜まったオイル成分は、始端側及び終端側の戻し孔33,34からエンジン機内kからクランクケース1内に重力により戻る。この際、開口部に金属メッシュ35が存在する始端側の戻し孔33よりも、何も介さず直接プッシュロッド室31に開口する終端側の戻し孔34の方から、溜まったオイル成分の大部分が流出する。エンジン停止時などのブローバイガスの流れがなくなったときでも、分離本室4Aに貯留されているオイル成分は始端側及び終端側の戻し孔33,34からクランクケース1内に戻るようになる。
【0041】
ブリーザ装置Aにおいて、単位時間当りのエンジンオイルの消費量を、終端側の戻し孔34の無い比較例のエンジンと本発明エンジンとで比較してみると、全開運転(3200rpm)時は78.3g/3h→1.8g/3hに、定格運転時(定格回転数)時は8.6g/3h→0.1g/3hに、とそれぞれ明確に減少していた。また、ブースと圧にの点では、クランクケース1及び分離本室4Aにおいては、本発明エンジンが比較例エンジンに比べて十分に低くなっており、分離後室4B及び吸気管24(エアクリーナフランジ)においては、本発明エンジンと比較例エンジンとに大差はなかった。
【0042】
このように、脈動孔6の直前、即ち、蛇行するオイル分離室内経路9の終端部に配置された終端の戻し孔34からのオイル戻りが功を奏している。また、金属メッシュ35付の始端の戻し孔33のみ有する比較例のエンジンに比べて、終端の戻し孔34も有する本発明のエンジンEでは、ブースト圧が低く抑えられているとともに、オイル消費量は大きく改善されるようになった。
【0043】
本発明によるブリーザ装置A(オイル分離室4)では、蛇行経路を示すオイル分離室内経路9におけるガス入口孔5に近い経路始端側の箇所に、エンジン機内k(連通孔32)側に金属メッシュ35を備えた始端側の戻し孔33が形成され、かつ、リード孔18(又は脈動孔6)に近い経路終側の箇所に、エンジン機内k(プッシュロッド室31)にダイレクトに連通する終端側の戻し孔34が形成されている。
【0044】
そのため、分離本室4Aの始端部による穏やかなオイル成分の捕捉には、始端側の戻し孔33による穏やかなオイル成分の還元作用がなされ、かつ、分離本室4Aの終端部による活発なオイル成分の捕捉には、終端側の素早いオイル成分の還元作用がなされる。
この適材適所の配置構成により、ブローバイガスの還元促進を図りながらも、オイル成分の過剰な消費は抑制され、少ないオイル消費で済む好ましいブリーザ装置付エンジンを提供することができている。
【0045】
〔別実施形態〕
本発明は、
図7,8に示されるインジェクタなどの燃料噴射装置を備えた空冷V型エンジンEに適用しても良い。
図7,8に示す別実施形態のエンジンEにおいては、本実施形態のエンジンEと同じ機能を持つ箇所には同じ符号を付け、基本的にはその説明は省略するものとする。なお、
図8においては、ファンケース43は、下部ファンケースのみを示し、上部ファンケースは省略してある。
【0046】
図7,8に示される空冷V型エンジンEは、クランクケース41とクランク軸42とファンケース43とエンジン冷却ファン44とを備えている。クランク軸42の架設方向を前後方向、前後方向の一方を前、他方を後として、ファンケース43はクランクケース41の前部に設けられ、クランク軸42の前端に取付けられるエンジン冷却ファン44は、ファンケース43内に収容されている。
【0047】
クランク軸42の軸心Pの方向視においてクランクケース41から上方左右へV字形に突設される一対のシリンダ45,45、各シリンダ45,45の上端側(先端側)に取付けられるシリンダヘッド46,46、及びシリンダヘッド46,46の先端側に取付けられるシリンダヘッドカバー47,47を備えている。ファンケース43は、各シリンダ45,45及び各シリンダヘッド46,46を覆う大きさ及び形状に構成されており、エンジン冷却ファン44でエンジンを強制冷却することができる。
【0048】
左右のシリンダ45,45及びシリンダヘッド46,46の間の場所(空間部)である夾角プレース50に、スロットルボディ52が配置され、このスロットルボディ52から各シリンダヘッド46,46の吸気入口46a,46aに延びる左右の吸気マニホルド48,48が、先端下がりの傾斜が付けられた状態で設けられている。吸気マニホルド48,48はエンジン冷却ファン44の配置側である前側にあり、各シリンダヘッド46,46の排気出口(図示省略)は後側に設けられている。
【0049】
燃料ポンプなどの燃料供給装置51からの供給燃料を各シリンダ45,45の(シリンダヘッド46,46の)吸気マニホルド48,48に分配して供給するための分配供給器49が、V字形を呈するシリンダどうしの間の場所である夾角プレース50を跨ぐ状態に配置されている。分配供給器49における左右一対の脚部49B,49Bは、各吸気マニホルド48のシリンダヘッド近傍箇所にインジェクタなどの燃料噴射装置53を介しての連通接続状態で連結されている。
【0050】
燃料供給装置51からの供給燃料は、分配供給器49を経て各燃料噴射装置53から各吸気マニホルド48,48に噴射され、吸気マニホルド48内を流れる空気と合流して混合気を形成しながら各シリンダヘッド46に送られるように構成されている。なお、分配供給器49には各イグニッションコイル54が載置支持されており、そのハイテンションコード55が各シリンダヘッド46に延びている。
【0051】
この別実施形態によるエンジンにおいては、オイル分離室4を備えるブリーザ装置Aやブリーザカバー20は、本実施形態によるエンジンEと相対的に同じ場所に装備されている。即ち、
図7,8に示されるように、オイル分離室4やブリーザカバー20は、シリンダヘッド46における夾角プレース50側に存在している。