【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において提供される方法は、特に昆虫細胞を使用するバキュロウイルスにより発現されるベクター系において発現される非エンベロープウイルスの非分泌性VLPのための放出に適している。
【0011】
ところで驚いたことに、いったん非エンベロープVLPを含む昆虫細胞が(混合の結果生じる塩水溶液が、その陽イオンがアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択され、およびその陰イオンがC
‐、Br
‐またはI
‐から成る群より選択される塩の少なくとも300mOsmol/Lを含むように)塩と混合されると、該細胞はその全細胞含有物を放出することなくVLPを放出することが見出だされた。該方法は、懸濁液中で担体無しで増殖されるとき特に昆虫細胞に適している。
【0012】
これは、実に非常に驚くべき現象である:本発明による方法は、例えば
図4に示すように細胞の大部分を無傷のままにしておく。このVLPの放出の機序は不明である。
【0013】
従って本発明の第一の実施形態は、バキュロウイルスにより発現される非エンベロープウイルスのウイルス様粒子(VLP)の昆虫細胞からの放出方法に関し、該方法は、細胞溶解または細胞破壊ステップを含まず、かつ昆虫細胞を塩と混合するステップを含み、ここで混合の結果生じる塩水溶液は、その陽イオンがアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択され、およびその陰イオンがCl
‐、Br
‐またはI
‐から成る群より選択される塩の少なくとも300mOsmol/Lを含むことを特徴とする。
【0014】
この方法の目的のために、昆虫細胞を(混合の結果生じる塩水溶液が、その陽イオンがアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択され、およびその陰イオンがCl
‐、Br
‐またはI
‐から成る群より選択される塩の少なくとも300mOsmol/Lを含むように)塩と混合することには、以下のステップを含むことを理解されたい:細胞培養液(周囲の液体中の昆虫細胞)が、(混合後に生じた塩溶液が該塩の少なくとも300mOsmol/lを含むまで、その陽イオンがアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選択され、およびその陰イオンがCl
‐、Br
‐またはI
‐から成る群より選択される)塩と混合される。
【0015】
言うまでもないが、混合は種々の方法により実施され得る;例、固体状の塩を細胞培養液に添加する方法または塩水溶液を培養液と混合する方法。
【0016】
混合の結果である塩水溶液は、本発明に記載の通り、例えば、少なくとも150mM NaCl/Lを含む(これは、NaCl/Lの少なくとも300 mOsmolのモル浸透圧濃度の塩水溶液を与える)。本発明に記載の塩溶液がMgCl
2を基に作成されるならば、混合から生じる塩水溶液は、少なくとも100mM MgCl
2/Lを含むであろう(これは、少なくともMgCl
2/Lの300 mOsmolのモル浸透圧濃度の塩水溶液を与える)。
【0017】
次の例は、単なる説明としての役割を果たす;仮に昆虫細胞と培地を含む昆虫細胞培養液の100mlが300mM NaCl/L溶液の100mlと混合されれば、この混合から生じる液体の最終200mlは、150mM Nacl/Lを含む。塩溶液の最終容量は、もちろん本発明の有利な効果に対して関連性はない。かりに昆虫細胞と培地を含む昆虫細胞培養液の75mlが、1200mM NaCl/L溶液の25mlと混合されれば、この処置から生じる液体の最終100mlは300mM NaCl/Lを含む。
【0018】
本発明の予想外の現象に関するゲル上での可視化は、
図1に与えられる。
図1から分かるように、本発明の方法による処理後の、放出VLPを含む細胞の上清を示すレーンは、極めて不純物が少ない(詳細は実施例の欄を参照されたい)。
【0019】
上記の通り塩溶液の最終容量は、該方法自体には関連性はないが、実際にはそれは、細胞培養液を本発明の混合ステップにかける前の濃縮ステップを導入するために有益である。濃縮ステップの主な原因は、商業目的のVLP産生が、比較的大量の細胞培養液量を必要とすることである。この大容量からVLPを直接収集するのは効率的でない;小容量からのVLP収集には、はるかに少ない操作しか必要とされない。
【0020】
このステップにおける濃縮レベルは重要でない。細胞培養液の元の容量の半分の容量への細胞培養液の濃縮(すなわち、元の容量の50%)は、すでに収集の容易化において顕著な有利さを与えるであろう。更に40%、30%、25%、20%、15%、10%または5%さえまでの濃縮は、その順で望ましい。濃縮は、当該技術分野において既知のすべての多数の方法によって実施され得る。しばしば使用される一方法は、限外濾過法、例えば、接線流透析の形態である。
【0021】
もう一つのしばしば使用される方法は、低速遠心分離である。その後に細胞培養液の一部または全部の除去を伴う低速遠心分離は、濃縮をもたらし、最終的に細胞のペレット化をもたらすが、細胞は未だ無傷でありかつ未だ少量の培養液によって囲まれているであろう。このような細胞ペレットは、本発明において記載の通り、それから塩水溶液をあたえるために、塩水溶液と容易に混合され得る。
【0022】
実用的な理由から、非常に好適な方法は、細胞を含む細胞培養液を単に保管し重力により細胞を容器の底に引くことである。収集容量および容器サイズに依存して、約1〜18時間後に、大部分の細胞が底の細胞培養液の10%に存在するだろうから、その結果、無細胞の上部の細胞培養液の90%は廃棄し得る。この方法は、大量の細胞培養液の遠心分離および/または限外濾過の作業を回避する。細胞培養液の底の10%においてこのように得られたVLP含有細胞は、それからすぐに本発明に記載の、昆虫細胞を塩と混合するステップにおいて使用され得る。
【0023】
従って、この実施形態の好ましい形態は、昆虫細胞を塩と混合するステップが、昆虫細胞が濃縮される濃縮ステップによって先行されることを特徴とする本発明の方法に関する。
【0024】
原則として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から成る群より選択される陽イオンは、本発明の方法に使用され得る。しかしながらNa
+、Mg
2+、Ca
2+およびK
+から成る群より選択される陽イオンが好ましく、それらが安価でもありさらに薬用として許容可能でもあるからである。
【0025】
それ故に本発明のこの実施形態の他の好ましい形態は、陽イオンがNa
+、Mg
2+、Ca
2+およびK
+から成る群より選択されることを特徴とする、本発明の方法に関する。
【0026】
好ましい陰イオンはCl
‐であり、Cl
‐陰イオンを有する塩は安価でありさらにそれらは薬用として極めて許容可能だからである。
【0027】
従ってこの方法のより好ましい形態は、塩がNaCl、KCl、CaCl
2およびMgCl
2から成る群より選択されることを特徴とする、本発明の方法に関する。
【0028】
VLPを保有する昆虫細胞を含む細胞培養液は、細胞を培養するために必要な多くの成分をさらに含む。該培養液はまた、細胞の老廃物も含む。これらの産物は、VLPを含む最終ワクチンにとって有害であり得る不必要な副産物である。
【0029】
従ってこのような成分は、本発明の方法を細胞に適用する前に、VLPを含む昆虫細胞から好ましくは分離される。これは、細胞をペレット化し、上清を捨て去りおよび細胞を本発明に記載の塩中に再懸濁することによって容易になし得る。これを注意深く行えば、ほとんど大部分の上清を除去し得る。その場合、細胞と塩の混合から生じる塩水溶液は、本質的に本発明記載の塩と水から構成される。本質的にとは、ここでは混合から生じた塩水溶液が10%未満の細胞培養液を含むことを意味する。好ましくは混合から生じる水溶液は、8%未満、6%未満、4%未満またはさらに2%未満の細胞培養液を含む。
【0030】
従ってこの実施形態の好ましい形態は、混合から生じる塩水溶液が、本質的に本発明に記載の塩および水から構成されることを特徴とする、本発明の方法に関する。
【0031】
本発明の方法は、一般的にBEVSにおいて発現される非分泌の非エンベロープVLPに適している。
【0032】
本方法は、従ってとりわけパルボウイルス科およびサーコウイルス科;商業ベースで現在VLPが作成されている数メンバーを有するウイルス科のメンバーのBEVS‐発現VLPに適している。
【0033】
それ故に本発明のこの実施形態の他の好ましい形態は、非エンベロープウイルスがパルボウイルス科またはサーコウイルス科のメンバーであることを特徴とする、本発明の方法に関する。
【0034】
バキュロウイルスに基づく昆虫細胞系において作成されるVLPの形態で成功裡に投与され得る、非エンベロープウイルスに基づく獣医学における使用のための、重要なパルボウイルスおよびサーコウイルスワクチンの例は、ブタパルボウイルス(PPV)およびブタサーコウイルス2型(PCV2)である。
【0035】
それ故に本発明のこの実施形態のより好ましい形態は、非エンベロープウイルスがブタパルボウイルス(PPV)またはブタサーコウイルス2型(PCV2)であることを特徴とする、本発明の方法に関する。
【0036】
BEVSにおけるVLPの産生はまた、原則としてバキュロウイルスの産生ももたらす。このようなバキュロウイルスは、VLPの不必要な副産物であるので、それ故にそれらは、除去または少なくとも不活化されなければならない。
【0037】
ところでさらにいっそう驚いたことに、仮に塩水溶液が30〜55℃、好ましくは35〜50℃、より好ましくは40〜45℃の間の温度に保持されれば、生きたバキュロウイルス量が顕著に減少することが見出だされた。なおそのうえに、放出される抗原量もまた、温度が上昇すると顕著に増加する。
【0038】
この減少は極めて有利であり、何故ならば本発明の方法の適用後に不活化されねばならないウイルス量が比較的に少なく、それ故に不活化薬品のより少ない量が使用されねばならないからである。
【0039】
あくまで例示である;塩水溶液が30〜40℃の温度に保持されるとき、1000ないし10.000倍の間のウイルス価における減少が容易に獲得され得る。
【0040】
一定の温度が適用されねばならない時間は、選択される温度に依存する:約40℃において、ウイルス価における10倍の低下は1時間後に得られ、一方で約35℃の温度においては、このような現象は5〜6時間後に得られる。一般的に、混合から生じた塩水溶液を一定の温度に18〜24時間保持することが、いずれにせよ適している。
【0041】
VLP‐発現に極めて普通に使用される昆虫細胞の二つの例は、SF9またはSF21細胞である。本発明の記載の方法は、双方のこれらの細胞に極めて成功裡に適用され得る。従って本発明のこの実施形態の他の好ましい形態は、昆虫細胞がSF9またはSF21細胞である、本発明の方法に関する。
【0042】
記載の方法は、バキュロウイルスにより発現される非エンベロープウイルスのウイルス様粒子(VLP)の精製のために通常一般的に適用される方法の一部であり、該方法は、a)昆虫細胞をVLPタンパク質をコードする組換えバキュロウイルスにより感染し、b)昆虫細胞を培養し、c)昆虫細胞からVLPを放出しならびにd)VLPを単離することからなるステップであるいくつかのステップを含む。
【0043】
本発明の方法から大いに利益を得るであろうVLPを放出するステップは、ステップc)である。
【0044】
従ってさらに本発明の他の実施形態は、バキュロウイルスにより発現される非エンベロープウイルスのウイルス様粒子(VLP)の精製のための方法に関し、ここで該方法は、
a)昆虫細胞をVLPタンパク質をコードする組換えバキュロウイルスにより感染し、
b)昆虫細胞を培養し、
c)VLPを昆虫細胞から放出し、
d)VLPを単離する、
ことからなるステップを含み、該方法は、溶解または細胞破壊ステップがなく、およびステップcがVLPの放出のための本発明の方法を含むことを特徴とする。
【0045】
実施例
実施例1:PCV2 VLPの産生
本実施例においては、BEVSにより産生されるPCV2 VLPを使用した。この組換えバキュロウイルスの構築は、以前に米国特許US 2001/0064765において詳細に記載された。本ウイルスは、さらにBacPCV‐2‐ORF‐2ウイルスと称される。
【0046】
発現産物の最大量を得るために、パイロット実験を実施し、組換えPCV‐2ORF‐2 VLPを得るための条件を最適化した。すべての実験は、スポドプテラ・フルギペルダ21(Spodoptera frugiperda 21)(Sf21)細胞を使用して28℃で懸濁培養において行った。マスター・シードからの4回継代レベルのBacPCV‐2‐ORF‐2ウイルスを感染に使用した。最適化産生のために、感染時の細胞密度は1.4×10
6細胞/ml、感染多重度(MOI)は0.01でありおよび培養は感染後6日間継続した。生じた混合物を発現産物収集物と命名した。
【0047】
低速遠心分離前後の細胞培養液の試料を、Laemmli法(Laemmli,U.K.(1970).Nature 227,680‐685))の変性SDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。使用した4〜12%の濃度勾配ゲルをクマシーブリリアントブルーにより染色した。実施例中のすべてのゲルもまた、Laemmli法による変性SDS‐ポリアクリルアミドである。
【0048】
実施例2:昆虫細胞からのVLPの放出
細胞を実施例1に従って収集した。
図1において、「収集物(harvest)」の見出しのレーンは、細胞培養収集物のタンパク質含有物を示す。このレーンは、細胞タンパク質、バキュロウイルスタンパク質およびVLP関連タンパク質を含む、培養液および培養細胞中に存在するすべてのタンパク質を示す。
【0049】
200gでの収集の遠心分離後に、無細胞上清の90%を等量の塩水溶液によって、混合後の最終濃度が0.15、0.20、0.25および0.30mM NaClとなるように交換した。これらの混合物を40℃で18時間保持し、残りの細胞をその後に3000gでの遠心分離により遠心沈殿した。上清をゲル電気泳動にかけた。
【0050】
図1に示すように、「上清」の見出しの下のレーンにおいて、上清は実質的に純粋なPCV2 VLPタンパク質(および非VLPタンパク質の痕跡量)を含む。
【0051】
実施例3:アルカリ塩およびリン酸緩衝液の比較
本実験において、細胞培養液を収集し、細胞を200gでペレット化し、上清の90%を除去しそして細胞をそれぞれ等量のPB(250mMリン酸緩衝液、pH7.4)、PB+0.5M NaCl、H2O(=WFI=注射用水)および本発明に記載の水溶液中の0.5M NaClに再懸濁した。
【0052】
インキュベーションは、40℃で一晩行った。細胞をその後3000gでの遠心分離によって除去した。
図2に示すように、WFIは単独ではVLPを放出しないが、一方でPB+NaCl、NaCl水溶液およびPBはVLPを放出する。WFI+NaCl(=注射用水+NaCl、=NaCl水溶液)のレーンの通り、これは最も高い純粋なVLP含量を与え、および最も低い非VLP関連タンパク質のバックグランドを与える。
【0053】
全試料の抗原マス(ml当たりの抗原単位‐AU/mlと表現する)を、既知の抗原マスの対照基準と比較してELISAによって定量した。その後、全試験試料の回収率(%)を収集物試料の回収率と比較して計算した。代替法として、ゲル上のPCV2特異的タンパク質バンドの強度を、収集物試料のPCV2特異的タンパク質バンドの強度と比較して計算した。
【0054】
実施例4:高温でのアルカリ塩とリン酸緩衝液の比較
本実施例において細胞培養液を収集し、細胞を200gでペレット化し、上清の90%を除去しおよび細胞をそれぞれ等量のPB(250mMリン酸、pH7.4)、PB+0.5M NaCl、0.001M PBS(8g NaCl/L、0.2g KCl/L、1.44g Na
2HPOP
4/L、0.2gKH
2PO
4/L、pH7.1)および本発明に記載の0.5M NaCl水溶液に再懸濁した。
【0055】
細胞培養液の希釈レベルの効果を比較するために、いくつかの希釈液を作成した。第一の実験において、収集細胞培養液の30ml中の細胞を10倍に濃縮し、その後、最終50ml容量まで塩水溶液と混合した。第二の実験において、収集細胞培養液の30ml中の細胞を10倍に濃縮し、その後、最終25ml容量まで塩水溶液と混合した。第三の実験において、収集細胞培養液の30ml中の細胞を10倍に濃縮し、その後、最終10ml容量まで塩水溶液と混合した。
【0056】
インキュベーションは、40℃で一晩行った。細胞をその後3000gで遠心分離によって除去した。
図3のゲルから分かるように、PB、PB+NaCl、PBSおよび塩水溶液(WFI+NaCl)のすべてがVLPを放出する。WFI+NaCl(=注射用水+NaCl、=NaCl水溶液)のレーンに示すように、これは最も高い純粋なVLP含量を与え、および最も低い非VLP関連タンパク質のバックグランドを与える。同じ効果がすべて三個の濃縮物に認められる。
【0057】
さらに、WFI+NaClの実験をまた45℃でも行った。「WFI+NaCl、45℃」のレーンに示すように、この温度におけるインキュベーションは、40℃におけるWFI+NaCl処理に匹敵する:比較的に低含量のタンパク質不純物を有するVLPタンパク質の画像を与える。
【0058】
実施例5:塩水環境における細胞の挙動
本実験において顕微鏡画像を細胞培養液中の昆虫細胞から作成したが、ここで細胞は本発明の方法に従って処理した。細胞を、未処理の細胞培養液として維持するか、または本発明の方法で処理したが、この場合には混合により生ずる塩水溶液が0.3M NaCl/Lを含むように細胞を塩水溶液と混合した。
【0059】
図4は結果を示す:左の画像は、処理無しの昆虫細胞を示し、一方で 右の画像は、混合後に0.3M NaCl/Lを含む、塩水溶液中の昆虫細胞を示す。直ぐに分るように、右の画像の細胞はなおまったく無傷であり、しかもそれらは0.3mM NaCl/Lを含む塩水溶液の浸透圧環境下に存在するために、左の画像の細胞と比較するとサイズがやや小さい。
【0060】
実施例6:バキュロウイルス力価に及ぼすインキュベーション温度の影響
本実施例において、細胞30mlを低速遠心分離によって収集し、無細胞培養液の90%を除去し、さらに残りの細胞ペレットをその後塩水溶液25ml中に再懸濁し、最終濃度を0.5M NaCl/Lとした。
【0061】
このようにして得られた懸濁液を35℃、37℃および40℃の温度に、1、2、4、6または18時間(一晩)放置した。細胞をその後3000gの遠心分離によって除去した。
図5から分かるように、約100倍のバキュロウイルス力価の減少が35℃、一晩で得られた。40℃において、100倍の減少は1〜2時間後に既に得られ、一方で1000倍の減少は6〜18時間後に得られる。
【0062】
実施例7:いくつかのアルカリ土類の種々の濃度の比較
本実験は、異なる塩類によるVLP放出を比較する。細胞を上記の通り収集し、無細胞培養液容量の90%を除去した。その後、種々の塩水溶液を添加し、ここで塩水溶液の容量は、5倍の最終細胞濃度を達成するために、常に濃縮された収集容量と等容量とした。試験を種々の濃度のNaCl、KCl、MgCl
2およびCaCl
2で実施した。その後、細胞を3000gの遠心分離によって除去した。混合後の濃度を以下の表1に示す。
【表1】
【0063】
*本試料は、同一の収集物由来であるが、残りの試料とは異なる日に0.3M NaClによって処理した
結果を
図6に示す。第2レーンは、試料の5倍希釈後に収集物中に存在するタンパク質を示す(例外:第12レーン:未希釈収集物試料)。ゲル上の収集物試料の回収率は表中で100として示し、ゲル上で定量される相対回収率を表1の第二右欄に示す。抗原マスの回収は、表1の右欄に示す。
図6中のゲルと表の双方から、すべての処理品が第2レーン(収集物)の調製品よりも高い回収率を有し、すべての処理が混じりの少ないVLP調製品を提供することが分かる。(第9レーンの比較的に低い回収率の値は、人工産物のためであると考えられ、第9レーンの試験調製品の抗原マスの定量が、予想どおり高い回収率を示すからである)。
図7は、ゲル上定量したVLPの回収率と標準的ELISA試験に基づく抗原マスによって定量したVLPの回収率との間には良好な相関関係があることを示す。
【0064】
実施例8:本方法のブタパルボウイルス産生細胞SF9およびSF21への適用
本実験は、本方法が他の非エンベロープ非分泌性VLPに同様に適していることを示すことを目的とする。本実験において、パルボウイルス科のBEVSにより産生されたVLPを選択する:つまりブタパルボウイルス(PPV)である。また、本実験において二つの異なる種類の通常使用される昆虫細胞を使用した:SF9およびSF21細胞である。
【0065】
SF9細胞およびSF21細胞を、ブタパルボウイルスVLPを発現する組換えバキュロウイルスにより感染した。(「収集物」、
図9、第2レーンおよび第7レーン)。その後、細胞を200gでペレット化し、上清の90%を除去し(
図8、第4レーンおよび第9レーン)そして細胞を等量のPBS(
図8、第3レーンおよび第8レーン)または0.3M NaCl水溶液に再懸濁した。NaCl処理試料の40℃、一晩のインキュベーション後に、試料を3000gで遠心分離し、上清を収集し(
図8、第6レーンおよび第11レーン)およびペレットを等量のPBSに再懸濁した(
図8、第5レーンおよび第10レーン)。
【0066】
図8は、SF9細胞およびSF21細胞中で産生されたPPV‐VLPに適用されたときの、本方法の結果を示す。第2レーン:収集物;第3レーン:収集物、ペレットをPBS中に再懸濁、第4レーン:収集物上清;第5レーン:収集物、0.3M NaCl、40℃、一晩、ペレット;第6レーン:収集物、0.3M NaCl,40℃、一晩、上清;第7レーン:収集物;第8レーン:収集物、PBS中に再懸濁したペレット、第9レーン:収集物上清;第10レーン:収集物、0.3M NaCl、40℃、一晩、ペレット;第11レーン:収集物、0.3M NaCl、40℃、一晩、上清。
【0067】
第3レーンと比較して第5レーンから分かる通り、本発明の方法による処理は、実質的にすべてのVLPを昆虫細胞から放出する:処理後のペレット化された細胞は、第5レーンに示す通りほとんどまたは全くVLPを含まない。第3レーンと比較して第4レーンから、PCV2 VLPに関して認められたことと反対に、CPV VLP産生昆虫細胞はすでにVLPの一部を放出することが分かる。この理由は不明である。それにもかかわらず、本発明の方法は、これらのCPV VLPにも適用され得て、何故ならば本発明の方法を適用することなしでは、収集後のCPV VLPの相当量が細胞中に閉じ込められて残るからである。