【実施例】
【0023】
実施例1:トリプトファン生合成発現調節部位の解除のためにリーダペプチドが除去された形の発現調節部位とGFP融合ベクターの作製
図1に示すように、プロモータ(P)、リーダペプチド(L)及び減衰調節因子(A)からなるトリプトファンオペロンの発現調節部位のうちリーダペプチド(L)をコードする遺伝子であるtrpLが欠損された発現調節部位(以下、「DtrpL」と称する;
図1におけるCに相当する)を増幅するために、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection:ATCC)から購買した大腸菌W3110菌株の染色体(GenBank accessionnumber AC000091)を鋳型として重合酵素連鎖反応(Polymerase ChainReaction;以下、「PCR法」と称する。)により増幅した。
【0024】
具体的に、プライマー1及びプライマー2を用いて94℃で1分間の変性、58℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合の条件ををPfuポリメラーゼで30回繰り返し行うPCR法により5’領域にKpnI制限酵素サイトを有する155bpの断片を増幅した。第二に、プライマー3及びプライマー4を用いて上記のPCR法により3’領域にEcoRV制限酵素サイトを有する105bpの断片を増幅した。得られたDNA断片は、GeneAll
R Expin
TMGEL SVキット(大韓民国ソウル)で分離した後、交差PCRのための鋳型として用いた。
【0025】
前記DtrpLを作製するために、プライマー1及びプライマー4を用いて上記のようにして得られた両DNA断片を鋳型として交差PCRを行った。具体的に、上記のPCR法により245bpの断片を増幅した(配列番号5)。増幅された断片は、制限酵素KpnIとEcoRVで処理した後、同じ酵素で処理されたpCL1920GFP(配列番号8)でライゲーション(ligation)することによりpCL−DtrpL−GFPを作製した。
【0026】
トリプトファンオペロンの発現調節部位のうちリーダペプチド(L)及び減衰調節因子(A)をコードする遺伝子部位が一緒に欠損された形(以下、「Dtrp_att」と称する。)を増幅するために、前記大腸菌W3110菌株の染色体を鋳型としてプライマー1及びプライマー5を用いて前記PCR法により5’領域にKpnIを有し、且つ、3’領域にEcoRV制限酵素サイトを有する148bpの断片を増幅した(配列番号6)。増幅された断片は、制限酵素KpnIとEcoRVで処理した後、同じ酵素で処理されたpCL1920GFPでライゲーションすることによりpCL−Dtrp_att−GFPを作製した。
【0027】
また、今後の実験で対照群として用いるための野生型発現調節部位を有するベクターを作製するために、大腸菌W3110菌株の染色体を鋳型としてプライマー1及びプライマー4を用いて上記のPCR法により5’領域にKpnIを有し、且つ、3’領域にEcoRV制限酵素サイトを有する290bpの断片を増幅した。増幅された断片は、制限酵素KpnIとEcoRVで処理した後、同じ酵素で処理されたpCL1920GFPでライゲーションすることによりpCL−Ptrp−GFPを作製した。
【0028】
プライマー1
5’TTAGGTACCGGCGCACTCCCGTTCTGGATA3’(配列番号11)
プライマー2
5’ACTGCCCGTTGTCGATACCCTTTTTACGT3’(配列番号12)
プライマー3
5’TCGACAACGGGCAGTGTATTCACCATG3’(配列番号13)
プライマー4
5’AATGATATCTGTTATTCTCTAATTTTGTT3’(配列番号14)
プライマー5
5’AATGATATCACCCTTTTTACGTGAACTTG3’(配列番号15)
【0029】
実施例2:GFPの発現量の測定
上述した実施例1に従い作製されたpCL−DtrpL−GFP、pCL−Dtrp_att−GFP及びpCL−Ptrp−GFPベクターを野生型菌株である大腸菌W3110とトリプトファン産生菌株である大腸菌KCCM10812Pに形質転換方法によりそれぞれ導入した後にGFPの強度を測定した。
【0030】
この実施例に用いられた母菌株である大腸菌KCCM10812P(大韓民国登録特許10−0792095)は、L−フェニルアラニン産生能を有する大腸菌変異株(KFCC10066、大韓民国特許1985−0001232)から由来した菌株であり、染色体上のトリプトファン要求性が解除され、pheA、trpR、mtr及びtnaAB遺伝子が不活性化され、aroG、trpE遺伝子が変異されたことを特徴とするL−トリプトファン産生能を有する組換え大腸菌である。
具体的には、250mlのフラスコに準備された25mlのM9培地(0.5%グルコース及び2g/L酵母抽出物を添加し、KCCM10812の場合には0.1g/Lチロシン、0.1g/Lフェニルアラニンをさらに添加する)に菌体を1/100(v/v)接種し、37℃で培養して当該ODから遠心分離により菌体を回収し、回収された菌体は1xTEで1回洗浄してGFPの測定に用いた。GFPの測定は、Synergy HTマルチモード・マイクロプレーン・リーダー(米国バイオテック社製)を用いて行った。
測定結果を表1に示す。OD1とOD3は、それぞれ培養液を適正な希釈濃度に希釈した後、島津社(Shimadzu)のUVミニ−1240(UV mini-1240)吸光計を用いて600nmで測定したOD値を示す。
【0031】
表1に示すように、野生型であるW3110菌株の場合、Ptrpの相対強度を1としたとき、リーダペプチドと減衰調節因子が除去されたDtrp_attの相対強度が、OD値が1である場合(OD1)には約7倍、OD値が3である場合(OD3)には10倍と最も強く、リーダペプチドのみを除去したDtrpLは野生型発現調節部位(Ptrp)に比べて約1.5〜2倍増加した。これに比べて、産生菌であるKCCM10812Pに導入したときには、Ptrpの相対強度を1としたとき、リーダペプチドと減衰調節因子が除去されたDtrp_attの相対強度が、OD値が1である場合(OD1)には約19倍、OD値が3である場合(OD3)には27倍と最も強く、リーダペプチドのみを除去したDtrpLは野生型発現調節部位(Ptrp)に比べて約4倍増加した。この結果から、野生型の場合、産生菌に比べて弱いとはいえ、リーダペプチド若しくは減衰調節因子の除去により発現の増加が現れることを確認することができる。
【表1】
【0032】
実施例3:発現調節部位が置換されたトリプトファンオペロン(trpEDCBA)を有するベクターの作製
実施例2の結果に基づいて、トリプトファンオペロン遺伝子をベクターの形に強化する大腸菌を作製するために、母菌株である大腸菌KCCM10812Pの染色体を鋳型としてプライマー6及びプライマー7を用いて上記のPCR法により6564bpの断片を増幅した(配列番号9)。
【0033】
増幅されたDNA断片は、GeneAll
R Expin
TMGEL SVキット(大韓民国ソウル)により回収した後、制限酵素EcoRVとHindIIIで処理して準備した。準備されたDNA断片とクローニングのために、pCL−Dtrp_att−GFP、pCL−DtrpL−GFP、pCL−Ptrp_GFPベクターはEcoRVとHindIIIで処理してGFP部分を除去した4291bpに作製した。準備されたベクターとインサート(insert)は、ライゲーション後に形質転換方法により大腸菌DH5aに導入し、この過程を経てpCL−Dtrp_att−trpEDCBA、pCL−DtrpL−trpEDCBA、pCL−Ptrp_trpEDCBAベクターをそれぞれ作製した。
【0034】
プライマー6
5’CCCGATATCATGCAAACACAAAAACCGAC3’(配列番号16)
プライマー7
5’GGGAAGCTTAAAGGATCCGTGGGATTAACTGCGCGTCGCCGCTTT3’(配列番号17)
【0035】
実施例4:発現調節部位が置換され、trpEが除外されたトリプトファン生合成遺伝子群(trpDCBA)を有するベクターの作製
上述した実施例1に従い作製されたpCL−Dtrp_att−GFP、pCL−DtrpL−GFP、pCL−Ptrp_GFPベクターのGFP領域をtrpDCBAに置換するベクターを作製するために、pCLDtrp_att−GFP、pCL−DtrpL−GFP、pCL−Ptrp_GFPベクターをEcoRVとHindIIIで処理してGFP部分を除去した4291bpに作製した。
次いで、トリプトファンオペロンのうちtrpDCBA遺伝子をベクターの形に強化する大腸菌を作製するために、母菌株である大腸菌KCCM10812P染色体を鋳型としてプライマー7及びプライマー8を用いて上記のPCR法により5002bpの断片を増幅した(配列番号10)。
【0036】
増幅されたDNA断片は、GeneAll
R Expin
TMGEL SVキット(大韓民国ソウル)により回収した後、制限酵素EcoRVとHindIIIで処理して準備した。準備されたベクターとインサートは、ライゲーション後に形質転換方法により大腸菌DH5aに導入し、その結果、pCL−Dtrp_att−trpDCBA、pCL−DtrpL−trpDCBA、pCL−Ptrp_trpDCBAベクターをそれぞれ作製した。
【0037】
プライマー8
5’AAAGATATCATGGCTGACATTCTGCTGCT3’(配列番号18)
【0038】
実施例5:様々な発現調節部位を有するトリプトファンオペロン遺伝子の低いコピー数のベクターの作製
大腸菌内で低いコピー数で発現される代表的なベクターは、pCC1BAC(米国エピセンター社製)である。このベクターを用いてトリプトファンオペロン遺伝子を低いコピー数で発現させるために、上述した実施例3と4に従い作製されたpCL−Dtrp_att−trpEDCBA、pCL−DtrpL−trpEDCBA、pCL−Ptrp_trpEDCBAとpCL−Dtrp_att−trpDCBA、pCL−DtrpL−trpDCBA、pCL−Ptrp_trpDCBAベクターを制限酵素HindIIIで切断した。
【0039】
切断後に得られたDNA断片は、アガロースゲル電気泳動後にそれぞれのサイズ通りに切断してGeneAll
R Expin
TMGEL SVキット(大韓民国ソウル)を用いて回収し、pCC1BACのHindIII位置が切断されたベクターを用いてライゲーション後に形質転換方法により大腸菌DH5aに導入した。
導入された菌株は、LBCm固体培地(LB+クロラムフェニコール寒天平板)に塗抹してCm耐性を有する菌体を対象に確認を行い、pBAC−Dtrp_att−trpEDCBA、pBAC−DtrpL−trpEDCBA、pBAC−Ptrp_trpEDCBAとpBAC−Dtrp_att−trpDCBA、pBAC−DtrpL−trpDCBA、pBAC−Ptrp_trpDCBAベクターを作製した。
【0040】
実施例6:pheA遺伝子が不活性化された大腸菌菌株の作製
野生型大腸菌W3110菌株からトリプトファン産生菌株に近い菌株を作製するためにコリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase)/プレフェン酸脱水酵素(prephenate dehydratase、CM−PDT)をコードするpheA遺伝子(NCBI gene ID:12934467)を相同組換えによる欠失により不活性化させた。CM−PDTは、コリスミ酸(chorismate)からフェニルアラニン(phenylalanine)を生成する最初の段階にある酵素であり、pheA遺伝子欠損はフェニルアラニン生合成経路を抑制するのに用いられた。このために、Datsenko KAらにより開発されたラムダレッドリコンビナーゼ(lambda Redrecombinase)を利用した突然変異作製法であるワンステップ弱化方法を用いた(One-step inactivation of chromosomalgenes in Escherichia coli K-12 using PCR products, Datsenko KA, Wanner BL., Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Jun6;97(12):6640-5)。遺伝子内部への挿入を確認するためのマーカーとしては、pUCprmfmloxPのクロラムフェニコール遺伝子を用いた(大韓民国公開特許:2009−0075549)。
前記pheA遺伝子の一部分とpUCprmfmloxPベクターのクロラムフェニコール(Chloramphenicol)耐性遺伝子の一部の塩基配列を有するプライマー9及びプライマー10を用いて、ベクターpUCprmfmloxPを鋳型とするPCR法により約1200bpの遺伝子断片を増幅した。
【0041】
プライマー9
5’−GGCCTCCCAAATCGGGGGGCCTTTTTTATTGATAACAAAAAGGCAACACTAGGTGACACTATAGAACGCG−3’(配列番号19)
プライマー10
5’−AACAGCCCAATACCTTCATTGAACGGGTGATTTCCCCTAACTCTTTCAATTAGTGGATCTGATGGGTACC−3’(配列番号20)
【0042】
また、前記PCR増幅により得られたDNA断片を0.8%アガロースゲル電気泳動後に溶出し、2次PCRの鋳型として用いた。2次PCRは、前記溶出した1次PCR産物を鋳型とし、1次DNA断片の5’及び3’領域の20bpの相補的塩基配列と、さらにpheA遺伝子の5’及び3’領域を有するプライマー11及びプライマー12とをそれぞれ用いて、さらにPCR法により、約1300bpの遺伝子断片を増幅した。前記過程を経て得られたDNA断片は、0.8%アガロースゲル電気泳動後に溶出し、これを組換えに用いた。
【0043】
プライマー11
5’−GAATGGGAGGCGTTTCGTCGTGTGAAACAGAATGCGAAGACGAACAATAAGGCCTCCCAAATCGGGGGGC−3’(配列番号21)
プライマー12
5−GGCACCTTTTCATCAGGTTGGATCAACAGGCACTACGTTCTCACTTGGGTAACAGCCCAATACCTTCATT−3’(配列番号22)
【0044】
Datsenko KAらにより開発された方法によりpKD46ベクターで形質転換されたW3110大腸菌を形質転換菌株(competent strain)として製造した後、形質転換は、PCR法で得られた前記1300bpの遺伝子断片を流入することにより行った。LB培地でクロラムフェニコール耐性を有している菌株を選別した。さらにプライマー13及びプライマー14を用いたPCR法で得られたサイズが約2500bpの遺伝子断片でpheA遺伝子の欠失を確認した。
【0045】
プライマー13
5’−TTGAGTGTATCGCCAACGCG−3’(配列番号23)
プライマー14
5’−AAAGCCGCGTGTTATTGCGT−3’(配列番号24)
【0046】
前記選別されたクロラムフェニコール耐性を有する1次組換え菌株からpKD46ベクターを除去した後、pJW168ベクターを導入してクロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去した(Gene,(2000)247, 255-264)。最終的に得られた菌体は、プライマー13及びプライマー14を用いたPCR法により得られた約500bpの増幅産物であり、そこに意図した通り欠失が生じた。なお、作製された菌株を大腸菌W3110trpΔ1と命名した。
【0047】
実施例7:tnaAB遺伝子が不活性化された大腸菌菌株の作製
前記実施例6に従い作製された大腸菌W3110trpΔ1菌株からトリプトファン分解酵素(tryptophanase)をコードするtnaAとトリプトファンインポータ(importer)をコードするtnaB遺伝子のオペロン形であるtnaAB(NCBIgene ID:12933600、12933602)遺伝子を相同組換えにより欠失させた。前記欠損によりトリプトファンが生成された後に分解される経路を遮断し、生成されて培地内に分泌されたトリプトファンの細胞内への再移動を防いでトリプトファン産生菌株の特性を与えることができる。このために、実施例6の方法と同様にして、前記tnaAB遺伝子の一部分とpUCprmfmloxP遺伝子のクロラムフェニコール耐性遺伝子の一部の塩基配列を有するプライマー15及びプライマー16を用いてベクターpUCprmfmloxPを鋳型としてPCR法により約1200bpの遺伝子断片を増幅した。さらに、前記PCR増幅により得られたDNA断片は、実施例6の方法と同様にして、プライマー17及びプライマー18を用いたPCR法により1300bpの遺伝子断片を増幅した
【0048】
プライマー15
5’−TTAGCCAAATTTAGGTAACACGTTAAAGACGTTGCCGAACCAGCACAAAAAGGTGACACTATAGAACGCG−3’(配列番号25)
プライマー16
5’−ATGAAGGATTATGTAATGGAAAACTTTAAACATCTCCCTGAACCGTTCCGTAGTGGATCTGATGGGTACC−3’(配列番号26)
プライマー17
5’−TGATTTCCTGAGAGGCAAGAAGCCAGCGAATGGCTGGCTTCTTGAAGGATTTAGCCAAATTTAGGTAACA−3’(配列番号27)
プライマー18
5’−AATCGGTATAGCAGATGTAATATTCACAGGGATCACTGTAATTAAAATAAATGAAGGATTATGTAATGGA−3’(配列番号28)
【0049】
tnaAB遺伝子を欠損させるために、実施例6の方法と同様にして、ベクターpKD46が導入された大腸菌W3110trpΔ1を形質転換菌株として製造した後、PCR法により得られた1300bpの遺伝子断片を流入することにより形質転換した。LB培地でクロラムフェニコール耐性を有している菌株を選別した。さらにプライマー19及びプライマー20を用いたPCR法により得られたサイズが約5400bpの遺伝子断片でtnaAB遺伝子の欠失を確認した。
【0050】
プライマー19
5’−CGGGATAAAGTAAAACCAGG−3’(配列番号29)
プライマー20
5’−CGGCGAAGGTAAGTTGATGA−3’(配列番号30)
【0051】
クロラムフェニコール耐性を有する1次組換え菌株から、実施例6の方法と同様にしてpKD46ベクターを除去した後、クロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去した。最終的に得られた菌体は、プライマー19及びプライマー20を用いたPCR法により得られた約550bpの増幅産物であり、そこに意図した通り欠失が生じた。なお、作製された菌株を大腸菌W3110trpΔ2と命名した。
【0052】
実施例8:様々な発現様相を有するトリプトファンオペロンを有する菌株のL−トリプトファン産生性の確認
上述した実施例3、4及び5に従い作製されたベクターを導入した大腸菌の効果の評価を、実施例6及び7に従い作製されたW3110trpΔ2を母菌株として用い、グルコースを炭素源として用いて行った。
力価の評価のために菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、下記表2に示す組成からなる25mlのフラスコ力価培地に一白金耳ずつ接種した。菌株の接種後に37℃、200rpmで48時間培養し、それから得られた結果を表3に示す。全ての結果は、3つのフラスコ結果の平均値で示す。
【表2】
【表3】
【0053】
前記表3の結果から明らかなように、母菌株である大腸菌W3110trpΔ2に種々のベクターを組み合わせて導入したとき、トリプトファンオペロンのみを強化し続ければ、アントラニル酸塩が蓄積されてしまう結果、トリプトファン歩留まりに肯定的な効果を奏さない。Trpオペロンを強化するとともに、trpDCBAを強化するように変形された菌株は、トリプトファンオペロンのみが強化されたときよりもアントラニル酸塩の蓄積が低減される結果、トリプトファン歩留まりには肯定的な効果を示すことが分かる。このため、蓄積されたアントラニル酸塩の低減がトリプトファン産生菌株ではL−トリプトファンの最終的な歩留まりを高めるための最善の方法であることを確認した。
【0054】
実施例9:様々な発現様相を示すトリプトファンオペロンを有する菌株のL−トリプトファン産生性の確認
実施例3、実施例4及び実施例5に従い作製されたベクターを下記表5のように組み合わせ、トリプトファン産生菌株である母菌株の大腸菌KCCM10812Pに導入してグルコースを炭素源として用いて力価評価を行った。実施例8の結果から明らかなように、トリプトファンオペロンの強化とともに、trpDCBAの強化も重要であると認められ、トリプトファンを産生する産生菌株における効果を検証しようとした。
力価の評価のために菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、下記表4に示す組成からなる25mlのフラスコ力価培地に一白金耳ずつ接種した。菌株の接種後に37℃、200rpmで48時間培養し、それから得られた結果を表5に示す。全ての結果は、3つのフラスコ結果の平均値で示す。
【表4】
【表5】
*33時間測定値
**48時間測定値
【0055】
前記表5の結果から明らかなように、母菌株である大腸菌KCCM10812Pに種々のベクターを組み合わせて導入したとき、トリプトファンオペロンのみを強化し続ければ、アントラニル酸塩が蓄積されてしまう結果、成長がやや鈍化されてトリプトファン歩留まりに肯定的な効果を奏さない。これに対し、pCLベクターでオペロンを強化し、pBACベクターでtrpDCBAを強化するように変形された菌株は、トリプトファンオペロンのみが強化されたときよりもアントラニル酸塩の蓄積が低減される結果、トリプトファン歩留まりには肯定的な効果を示すことが分かる。このため、蓄積されたアントラニル酸塩の低減がトリプトファン産生菌株ではL−トリプトファンの最終的な歩留まりを高めるための最善の方法であることを確認した。
【0056】
実施例10:染色体内トリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAのコピー数が増加され、アントラニル酸塩が低減された菌株の作製
実施例9における結果に基づいて、染色体内トリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAのコピー数を増加するためにベクターを作製した。
実施例5で言及されたpCL−Dtrp_att−trpDCBAからDtrp_att−trpDCBA領域を制限酵素EcoRI及びBamHIで切断して、同じ制限酵素で切断したpINT17EにライゲーションすることによりpINT17E−Patt−trpDCBAを得た。次いで、これをトリプトファン産生菌株として母菌株である大腸菌KCCM10812Pに導入してトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAのコピー数を増加するために、実施例6でのように、Datsenko KAらにより開発されたラムダレッドリコンビナーゼ(lambda Red recombinase)を利用した突然変異作製法であるワンステップ不活性化方法に用いられるpKD46を用いた。遺伝子内部への挿入を確認するためのマーカーとしては、pUCprmfmloxPのクロラムフェニコール遺伝子を用いた。先ず、pKD46を導入した母菌株にpINT17E−Patt−trpDCBAを形質転換した後、37℃で1日〜2日間培養してコロニーを得た。得られたコロニーを対象に、染色体内部に正常に挿入されたか否かをプライマー21及びプライマー22を用いてPCR法により約2000bpの断片を増幅して確認した。
【0057】
プライマー21
5’TATTTGCTGTCACGAGCAGG3’(配列番号31)
プライマー22
5’AGTTCCGGCATACAACCGGCTT3’(配列番号32)
【0058】
クロラムフェニコール耐性を有する1次組換え菌株からpKD46を除去した後、pJW168を導入してクロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去した(Gene,(2000)247,255-264)。プライマー23及びプライマー24を用いてPCR法により得られた約5000bpの増幅産物とプライマー25及びプライマー26を用いて得られた約6500bpの増幅産物により、染色体の内部に内在的に存在するトリプトファンオペロンに続いて、連続してtrpDCBAが存在していることを確認し、これをKCCM10812P/trpDCBAと命名した。
【0059】
プライマー23
5’TAATACGACTCACTATAGGG3’(配列番号33)
プライマー24
5’CTGTTGGGCGGAAAAATGAC3’(配列番号34)
プライマー25
5’TGATCGCCAGGGTGCCGACG3’(配列番号35)
プライマー26
5’CCCTATAGTGAGTCGTATTA3’(配列番号36)
【0060】
このようにして得られたtrpDCBAコピー数の増加菌株にさらに1コピーを挿入するために、このようにして得られたKCCM10812P/trpDCBA菌株にpKD46を導入し、pINT17E−Patt−trpDCBAベクターをKCCM10812P/trpDCBA/pKD46に導入して上述した方法に従い染色体内に2コピーが挿入された菌株を作製した。作製された菌株は、KCCM10812P/2trpDCBAと命名した。これを2011年12月29日付けで韓国ソウル特別市西大門区弘済1洞361−221番地所在の国際寄託機関である韓国種菌協会付設韓国微生物保存センターに受託番号KCCM11246Pで寄託した。
【0061】
実施例11:トリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAによりコードされるタンパク質の活性が増加されたL−トリプトファン産生菌株の効果の確認
実施例10に記述されている方法に従い、トリプトファン産生菌株である大腸菌KCCM10812PにtrpDCBAをさらに導入して、トリプトファン生合成経路の一部の酵素の活性が強化されたKCCM10812P/trpDCBAの力価の評価をグルコースを炭素源として用いて行った。
力価の評価のために菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、下記表4に示す組成からなる25mlのフラスコ力価培地に一白金耳ずつ接種した。菌株の接種後に37℃、200rpmで48時間培養し、それから得られた結果を表6に示す。全ての結果は、3つのフラスコ結果の平均値で示す。
【表6】
*33時間測定値
**48時間測定値
【0062】
前記表6から明らかなように、染色体の内部にトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAを1コピー追加したときにはアントラニル酸塩の濃度が39%下がるが、2コピーを追加したときには母菌株に比べて69%下がるという結果が得られた。
また、L−トリプトファン濃度の場合、それぞれ10%、13%増加する結果が得られた。表6に示すように、trpDCBAのコピーを増加したときにグルコースの消耗速度がやや下がる場合もあるが、全体的に見たとき、トリプトファン生合成遺伝子群の強化がL−トリプトファン濃度の増加とアントラニル酸塩濃度の低減に良好な影響を及ぼすことを確認した。
【0063】
以上の説明から、本発明が属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須的な特徴を変更することなく異なる具体的な形態で実施可能であるということが理解できる筈である。これと関連して、以上述べた実施形態は、あらゆる面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、前述した詳細な説明ではなく、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲並びにその等価概念から導き出されるあらゆる変更又は変形が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11246P
受託日:20111229