特許第6475668号(P6475668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6475668L−トリプトファン産生能が強化されたエシェリキア属微生物及びこれを用いてL−トリプトファンを産生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475668
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】L−トリプトファン産生能が強化されたエシェリキア属微生物及びこれを用いてL−トリプトファンを産生する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20190218BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20190218BHJP
   C12N 15/03 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P13/22 A
   C12N15/03 Z
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-132893(P2016-132893)
(22)【出願日】2016年7月4日
(62)【分割の表示】特願2014-552128(P2014-552128)の分割
【原出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2017-18094(P2017-18094A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年8月2日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0002906
(32)【優先日】2012年1月10日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0002913
(32)【優先日】2013年1月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512088051
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CheilJedang Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】イ,クァン ホ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヘ ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ヨン ビン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソク ミョン
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−121846(JP,A)
【文献】 国際公開第87/001130(WO,A1)
【文献】 特開2002−209596(JP,A)
【文献】 特許第3032013(JP,B2)
【文献】 特開昭64−071478(JP,A)
【文献】 特開2005−151829(JP,A)
【文献】 J.Bacteriol., 1978, vol.133, p.1457-1466
【文献】 J.Mol.Biol., 1990, vol.216, p.25-37
【文献】 Biotechnol lett, 2002, vol.24, p.1815-1819
【文献】 RNA, 2007, vol.13, p.1141-1154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型のエシェリキア属微生物の産生能に比較して、強化されたL-トリプトファン産生能を持つ組換えエシェリキア属微生物であって、
該組換えエシェリキア属微生物は、染色体のトリプトファンオペロンにおいて配列番号1に示される塩基配列を含む発現調節部位のうち配列番号2に示される塩基配列の全体又は一部が欠損することのみによって修飾されたものであり、
該組換えエシェリキア属微生物は、野生型エシェリキア属微生物と比較してトリプトファンオペロン遺伝子の発現を増大させるために、トリプトファンオペロンの遺伝子である、trpEを除く、trpD、trpC、trpB、及びtrpAが形質転換されたものであり、及び
該組換えエシェリキア属微生物は野生型エシェリキア属微生物と比較してtrpE遺伝子の発現が増大されていないものであるか若しくはtrpE遺伝子によってコードされるアントラニル酸塩合成酵素の活性が増大されてないものである、組換えエシェリキア属微生物。
【請求項2】
組換えエシェリキア属微生物は染色体のトリプトファンオペロンにおいて、配列番号1の塩基配列を含む発現調節部位のうち配列番号3に示される塩基配列の全体又は一部が欠損するようにさらに変形されたものである、請求項1に記載の組換えエシェリキア属微生物。
【請求項3】
trpD遺伝子が、配列番号37に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードし、trpC遺伝子が、配列番号38に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードし、trpB遺伝子が、配列番号39に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードし、及び
trpA遺伝子が、配列番号40に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項2に記載の組換えエシェリキア属微生物。
【請求項4】
組換えエシェリキア属微生物が大腸菌である、請求項1に記載の組換えエシェリキア属微生物。
【請求項5】
L−トリプトファン産生に適した条件下で請求項1に記載の組換えエシェリキア属微生物を培養する工程を含む、L−トリプトファンの産生方法。
【請求項6】
組換えエシェリキア属微生物は、染色体のトリプトファンオペロンにおいて、配列番号1の塩基配列を含む発現調節部位のうち配列番号3に示される塩基配列の全体又は一部が欠損するようにさらに変形されたものである、請求項に記載のL−トリプトファンの産生方法。
【請求項7】
組換えエシェリキア属微生物が大腸菌である、請求項5に記載のL−トリプトファンの産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−トリプトファン産生能が強化されたエシェリキア属微生物及びこれを用いてL−トリプトファンを産生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
必須アミノ酸の一つであるL−トリプトファンは、飼料添加剤だけではなく、輸液剤などの医薬品の原料及び健康食品の素材などとして広く用いられてきており、化学合成法、酵素反応法、発酵法などにより産生されてきている。
中でも、最近には、微生物による発酵法が主流をなしており、このときに汎用される微生物は、産業化初期の化学的な突然変異を用いた類似体耐性選別菌株であるが、1990年代に入り、遺伝子組換え技術の眩しい発展と分子レベルの調節機序が明らかにされることに伴い、遺伝子組換え技法を用いた大腸菌とコリネバクテリウム組換え菌株が汎用されている。
微生物によるトリプトファンの産生は、解糖過程(glycolysis)の中間産物であるホスホエノールピルビン酸(PEP:PhospoEnolPyruvate)とペントースリン酸回路の中間物質であるエリトロース−4−リン酸(E4P:Erythrose-4-Phosphate)とが重合反応して得られる3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸(DAHP:3-DeoxyD-arobino-heptulosonate-7-phosphate)から始まる。次いで、芳香族共通生合成経路を経てコリスミ酸(chorismate)から分岐される生合成経路により産生される。具体的には、トリプトファンは、遺伝子trpEから合成されるアントラニル酸塩合成酵素(anthranilate synthase, EC 4.1.3.27)、遺伝子trpDから合成されるアントラニル酸塩合成酵素(anthranilate synthase, EC 4.1.3.27)とアントラニル酸塩PRPPトランスフェラーゼ(anthranilate PRPP transferase, EC2.4.1.28)、遺伝子trpCから合成されるインドール−3−グリセロールリン酸合成酵素(indole-3-glycerol phosphate synthase, EC 4.1.1.48)とホスホリボシルアントラニル酸塩異性化酵素(phosphoribosylanthranilateisomerase)、遺伝子trpBとtrpAから合成されるトリプトファン合成酵素(tryptophansynthase, EC 4.2.1.20)により合成される。前記反応を媒介する酵素をコードする遺伝子群であるtrpEDCBAは、一つの調節部位を含むオペロン構造として染色体の内部に存在する。
トリプトファンオペロンは、通常、細胞が要求する十分な量のトリプトファンを産生するように活発に転写するが、周りにトリプトファンがあれば、リプレッサ(repressor)がトリプトファンと結合してトリプトファンオペロンが不活性化されるため転写が抑制される。また、トレオニン、フェニルアラニン、ロイシン、トリプトファン、ヒスチジンなどのアミノ酸生合成オペロンの場合、減衰機序(attenuation)という別の調節機序を有している(J Bacteriol.(1991) 173,2328-2340)。この減衰機序は、染色体上でプロモータとオペロンの最初の遺伝子との間の領域が有している特異な配列区間において、アミノ酸に乏しい条件下ではmRNAの構造が解読し易い構造に変わって生合成遺伝子の発現を促すが、当該アミノ酸に富んだ条件下では短く転写されたmRNAがヘアピン構造(hairpinstructure)と命名された3次元的構造を形成して解読過程を妨げる機序であることが知られている(J Biol Chem., (1988) 263:609-612)。
L−トリプトファン産生菌株の開発方向は、初期には、最終産物であるトリプトファンにより阻害されるトリプトファン生合成経路酵素のフィードバック阻害を克服したり、トリプトファン生合成酵素の発現強化のために染色体やベクターの形でトリプトファンオペロン遺伝子のコピー数を増やしたりするといったように、代謝過程の酵素合成の強化による効率化が主たる目標であった(Appl. Environ. Microbiol.,(1982)43:289-297; Appl. Microbiol. Biotechnol.,(1993)40:301-305; Trends Biotechnol.,(1996) 14:250-256)。
L−トリプトファンの産生能を微生物に与えるための方法としては、大きく、化学的な突然変異によりトリプトファン類似体もしくは中間産物であるアントラニル酸塩に耐性を有するように選別する方法や、遺伝工学的な方法により改変する方法が挙げられる。化学的な突然変異を用いたケースとしては、大韓民国登録特許第1987−0001813号、大韓民国登録特許第0949312号などが挙げられ、遺伝工学的な方法を用いたケースとしては、芳香族アミノ酸経路に入ってくる生合成を増加させるためにトランスケトラーゼ(transketolase)をコードするtktA遺伝子や、ガラクトースパーミアーゼ(galactosepermease)をコードするgalP遺伝子を強化してエリトロース−4−リン酸(E4P:Erythrose-4-Phosphate)やホスホエノールピルビン酸(PEP:PhospoEnolPyruvate)の供給をそれぞれ増加させ、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸(DAHP:3-DeoxyD-arobino-heptulosonate-7-phosphate)合成酵素のフィードバック阻害を解除して芳香族経路を強化するような戦略を導入した菌株(TrendsBiotechnol.,(1996)14:250-256, MicrobialCell Factories (2009) 8:19)、あるいは、トリプトファンオペロン遺伝子をベクター若しくは染色体の内部にさらに導入した菌株(Appl. Environ. Microbiol.,(1982) 43:289-297, Appl. Microbiol. Biotechnol.,(1993)40:301-305)などが挙げられ、種々のアプローチがある。
しかしながら、生合成酵素のフィードバック阻害を解除するとともにトリプトファンオペロンを導入しても、オペロン遺伝子の転写レベルで抑制及び減衰などの調節機序が存在するため、当該遺伝子を強化した分だけトリプトファンの歩留まりが増加しないという難点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】大韓民国登録特許第1987−0001813号
【特許文献2】大韓民国登録特許第0949312号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Bacteriol.(1991) 173,2328-2340)
【非特許文献2】J Biol Chem., (1988) 263:609-612)
【非特許文献3】Appl. Environ. Microbiol.,(1982)43:289-297
【非特許文献4】Appl. Microbiol. Biotechnol.,(1993)40:301-305
【非特許文献5】Trends Biotechnol.,(1996) 14:250-256)
【非特許文献6】TrendsBiotechnol.,(1996)14:250-256
【非特許文献7】MicrobialCell Factories (2009) 8:19)
【非特許文献8】Appl. Environ. Microbiol.,(1982) 43:289-297
【非特許文献9】Appl. Microbiol. Biotechnol.,(1993)40:301-305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、L−トリプトファンを産生する菌株でオペロン遺伝子の転写レベルの抑制及び減衰を解除する方法及びこれを用いてトリプトファン生合成酵素を強化する方法を開発するために鋭意努力した。さらに、本発明者らは、種々のトリプトファン産生菌株がトリプトファンオペロンを強化することにより、中間物質であるアントラニル酸塩の蓄積に起因して歩留まりが上がらないという問題を解決するために、トリプトファンオペロン遺伝子のうちアントラニル酸塩合成酵素(anthranilatesynthase、TrpE)をコードする遺伝子を除く残りの遺伝子群のみをフィードバック阻害や抑制機序などの調節機序が解除された形で発現させてトリプトファンの産生歩留まりは上がり、アントラニル酸塩の蓄積は低減されたトリプトファン産生菌株を作製するに至った。
本発明の目的は、トリプトファンオペロンの抑制及び減衰調節が解除され、アントラニル酸塩の蓄積が低減されるように変形された、L−トリプトファンの産生能が強化されたエシェリキア属微生物を提供することである。
本発明の他の目的は、前記エシェリキア属微生物を用いてL−トリプトファンを産生する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、内在的トリプトファンオペロンにおいて、配列番号1の塩基配列を有する発現調節部位のうち配列番号2の塩基配列を有するリーダペプチド(leader peptide)の全体又は一部が欠損されてL−トリプトファンの産生能が強化されたL−トリプトファンを産生する組換えエシェリキア属微生物を提供する。
発明は、また、前記組換えエシェリキア属微生物を培養する段階を含むことを特徴とするL−トリプトファンの産生方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により製造された組換え微生物は、アントラニル酸塩の過多蓄積という現象を解消し、L−トリプトファンを高い歩留まりで産生するのに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、大腸菌染色体内に存在するトリプトファンオペロン遺伝子とその調節部位及びこの明細書に記述された欠失の形を簡単に示す図である。A)大腸菌染色体内に存在するトリプトファンオペロン遺伝子とその調節部位(Ptrp)B)Ptrp形C)リーダペプチドをコードする遺伝子trpLが欠失された形(DtrpL)D)リーダペプチドをコードする遺伝子trpL及び減衰調節因子が欠失された形(Dtrp_att)
図2図2は、トリプトファンオペロン発現調節部位の強度の測定のために用いられたpCL−GFPベクターを示す図である。
図3図3は、トリプトファン生合成遺伝子trpDCBAを染色体内に導入してコピー数を増加するためのベクターpINT17E−Patt−trpDCBAを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、内在的トリプトファンオペロンにおいて、配列番号1の塩基配列を有する発現調節部位のうち配列番号2の塩基配列を有するリーダペプチド(leader peptide)の全体又は一部が欠損された、L−トリプトファンの産生能が強化された組換えエシェリキア属微生物を提供する。
【0010】
前記「トリプトファンオペロン(tryptophan operon or Trp operon)」という用語は、trpEDCBA遺伝子をいずれも包括する全体オペロンを示し、配列番号9に記載されている塩基配列を有する。
本発明で使用可能なL−トリプトファン産生微生物は、L−トリプトファン産生能を有する微生物であれば、原核微生物のいずれも含む。例えば、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物菌株が挙げられる。好ましくは、エシェリキア属に属する微生物であり、さらに好ましくは、大腸菌である。特に好ましくは、前記大腸菌は、アントラニル酸塩合成酵素(trpE)、アントラニル酸塩PRPPトランスフェラーゼ(trpD)、ホスホリボシルアントラニル酸塩異性化酵素(trpC)、トリプトファン合成酵素(trpA、trpB)などのトリプトファン生合成酵素の活性が強化されながらフィードバック解除形の3−デオキシ−D−アラビノヘプツロソン酸−7−リン酸合成酵素(aroG)を用い、3−デヒドロキナ酸塩合成酵素(aroB)、シキミ酸脱水素酵素(aroE)、シキミ酸リン酸化酵素(aroL)、5−エノール酸ピルビルシキミ酸−3−リン酸合成酵素(aroA)、コリスミ酸合成酵素(aroC)などの芳香族生合成経路の酵素活性が強化され、トリプトファン生合成経路の中間物質であるセリンとPRPPの供給を強化するためにホスホグリセリン酸脱水素酵素(serA)若しくはケトール転移酵素(tktA)の活性が強化され、芳香族経路の他の枝であるプレフェン酸脱水酵素、コリスミ酸ムターゼ(pheA)若しくはプレフェン酸脱水素酵素、コリスミ酸ムターゼ(tyrA)とトリプトファンを分解したり再流入したりするトリプトファン加水分解酵素(tnaA)、トリプトファントランスポータ(tnaB、mtr)の活性が除去される。
さらに好ましくは、本発明による組換え大腸菌CA04−2004(受託番号KCCM11246P)である。
【0011】
前記内在的トリプトファンオペロンの「発現調節部位(expression regulatory region)」という用語は、プロモータ(promoter)、リーダペプチド(leaderpeptide)及び内在的減衰調節因子(attenuator)が含まれている領域を意味し、好ましくは、配列番号1に記載されている塩基配列を有する。
前記「リーダペプチド(leader peptide)」という用語は、遺伝子開始コドン上流の先導配列によりコードされる低分子量のペプチドを意味し、好ましくは、配列番号2に記載されている塩基配列を有する。これにより発現されるポリペプチドは、配列番号4に記載されているアミノ酸配列を有する。このリーダペプチドは、トリプトファンの濃度が高ければ、ヘアピン構造を形成することにより、内在的減衰調節因子の構造形成を促して転写を終結する。
【0012】
本発明における「欠損(deletion)」は、目的遺伝子の開始コドンに相当する塩基配列から終結コドンまでの塩基配列領域若しくはその調節部位塩基配列のうちの一部若しくは全部を染色体の内部から除去した形を意味する。
本発明は、また、配列番号3の塩基配列を有する内在的減衰調節因子(attenuator)の全体又は一部がさらに欠損されてL−トリプトファンの産生能が強化されたことを特徴とする組換えエシェリキア属微生物を提供する。
前記「内在的減衰調節因子(endogeneousattenuator)」という用語は、減衰機序を引き起こす発現調節部位のうちプロモータ及びリーダペプチドを除く配列番号3の塩基配列を有する領域を意味する。
【0013】
本発明は、さらに、トリプトファンオペロンがコードするタンパク質の活性がさらに強化された組換えエシェリキア属微生物を提供する。
本発明は、さらに、アントラニル酸塩合成酵素をコードするtrpE遺伝子を除くトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAによりコードされたタンパク質の活性がさらに強化されたことを特徴とする組換えエシェリキア属微生物を提供する。
【0014】
前記「トリプトファン生合成遺伝子群(tryptophan biosynthesiscluster)」という用語は、トリプトファンオペロンの遺伝子であるtrpE、trpD、trpC、trpB、trpAのうちの2以上の組み合わせからなる遺伝子の形を意味する。好ましくは、配列番号10の塩基配列を有するtrpDCBA遺伝子群であってもよく、ここで、前記trpD遺伝子は、配列番号37のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、前記trpC遺伝子は、配列番号38のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、前記trpB遺伝子は、配列番号39のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、前記trpA遺伝子は、配列番号40のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。
【0015】
トリプトファンオペロンのうちtrpE遺伝子によりコードされるアントラニル酸塩合成酵素を除くトリプトファン生合成遺伝子群のみの活性を強化する理由は、トリプトファン産生菌株がトリプトファンオペロンを強化することにより中間物質であるアントラニル酸塩が蓄積される結果、歩留まりが上がらないという問題を解決するためである。
遺伝子の発現を強化する方法としては、1)染色体内又は細胞内のコピー数を増加する方法、2)染色体の自己プロモータをより強力な形の外来プロモータに置換したり活性が強化された形に変形したりする方法が挙げられる。
【0016】
前記コピー数を増加させる方法としては、遺伝子をベクターに導入して発現を強化する方法が挙げられる。本発明で使用可能なベクターは、プラスミドベクターであり、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などが挙げられる。本発明で使用可能なベクターは、特に制限されるものではなく、公知の発現ベクターが挙げられる。好ましくは、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどが挙げられる。最も好ましくは、pACYC177、pCL、pCC1BACベクターが挙げられる。
一方、前記使用可能な外来プロモータとしては、trc、lac、tacなど公知のプロモータが挙げられるが、これに制限されるものではない。また、染色体の自己プロモータをより強力な形に変形するために、上述したように、リーダペプチドの全体又は一部を欠損させてさらに内在的減衰調節因子の全体又は一部を欠損させてもよいが、これに制限されるものではない。
【0017】
本発明の好適な態様において、本発明は、内在的トリプトファンオペロンの配列番号1の塩基配列を有する発現調節部位のうち配列番号2の塩基配列を有するリーダペプチド(leader peptide)の全体又は一部が欠損され、配列番号3の塩基配列を有する内在的減衰調節因子(attenuator)の全体又は一部が欠損されてL−トリプトファンの産生能が強化され、さらにアントラニル酸塩合成酵素をコードするtrpE遺伝子を除くトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAがコードするそれぞれ配列番号37、38、39及び40のアミノ酸配列を有するタンパク質の活性を強化させて製造した、L−トリプトファンを産生する組換えエシェリキア属微生物を製造し、これを受託番号KCCM11246Pで寄託した。
【0018】
本発明は、さらに、前記L−トリプトファンの産生能が強化された組換えエシェリキア属微生物を培養する段階を含むことを特徴とするL−トリプトファンの産生方法を提供する。
本発明の好適な態様において、本発明は、内在的トリプトファンオペロンにおいて、配列番号1の塩基配列を有する発現調節部位のうち配列番号2の塩基配列を有するリーダペプチド(leader peptide)の全体又は一部が欠損され、配列番号3の塩基配列を有する内在的減衰調節因子(attenuator)の全体又は一部が欠損されてL−トリプトファンの産生能が強化され、さらに、アントラニル酸塩合成酵素をコードするtrpE遺伝子を除くトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAの発現を強化してトリプトファンオペロンがコードするタンパク質の活性が強化されて、L−トリプトファン産生能が強化された組換えエシェリキア属微生物を培養する段階を含む方法を提供する。
【0019】
本発明の微生物の培養に用いられる培地は、通常のエシェリキア属微生物の培養に用いられる培地であればいずれも使用可能であるが、このとき、その他の培養条件として、本発明の微生物の要求条件を適切に満たさなければならない。好ましくは、本発明の微生物を適当な炭素源、窒素源、アミノ酸、ビタミンなどを含有する通常の培地内で好気性条件下で温度、pHなどを調節しながら培養する。
このとき、炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マンニトール、ソルビトールなどの炭水化物、糖アルコール、グリセロール、ピルビン酸、乳酸及びクエン酸などのアルコール及び有機酸、グルタミン酸、メチオニン及びリシンなどのアミノ酸などが挙げられ、澱粉加水分解物、糖みつ、廃糖みつ、米糠、キャッサバ、サトウキビ残渣及びトウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができる。好ましくは、前記有機栄養源は、グルコース及び殺菌された前処理糖みつ(すなわち、還元糖に転換された糖みつ)などの炭水化物であり、その他の適正量の炭素源を制限なしに様々に用いることができる。
【0020】
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムなどの無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸及びペプトン、NZ−アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麥芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物など有機窒素源が挙げられ、これらの窒素源は単独で又は組み合わせて用いることができる。
前記培地には、リン源(phosphorus sources)としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又は対応するナトリウム含有塩が含まれる。
無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン及び炭酸カルシウムなどが挙げられ、これらに加えて、アミノ酸、ビタミン及び適切な前駆体などが含まれてもよい。これらの培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができる。
【0021】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸及び硫酸などの化合物を培養物に適切な方式で添加して培養物のpHを調整してもよい。
さらに、培養中には脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を添加して気泡生成を抑制してもよい。また、培養物の好気状態を維持するために、培養物内に酸素又は酸素含有気体を注入してもよい。嫌気及び微好気状態を維持するために気体を注入しなくてもよく、若しくは、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。
【0022】
培養物の温度は、通常は27℃〜37℃、好ましくは30℃〜35℃である。培養期間は、目的物質の目標生産量が得られるまで続けてもよく、好ましくは10〜100時間である。
本発明の前記培養段階で産生されたL−アミノ酸は、さらに精製又は回収する段階を含んでいてもよく、前記精製又は回収に際しては、本発明の微生物の培養方法、例えば、回分式、連続式又は流加式培養方法などにより当該分野で周知の好適な方法を用いて培養液から目的とするL−アミノ酸を精製又は回収することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1:トリプトファン生合成発現調節部位の解除のためにリーダペプチドが除去された形の発現調節部位とGFP融合ベクターの作製
図1に示すように、プロモータ(P)、リーダペプチド(L)及び減衰調節因子(A)からなるトリプトファンオペロンの発現調節部位のうちリーダペプチド(L)をコードする遺伝子であるtrpLが欠損された発現調節部位(以下、「DtrpL」と称する;図1におけるCに相当する)を増幅するために、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection:ATCC)から購買した大腸菌W3110菌株の染色体(GenBank accessionnumber AC000091)を鋳型として重合酵素連鎖反応(Polymerase ChainReaction;以下、「PCR法」と称する。)により増幅した。
【0024】
具体的に、プライマー1及びプライマー2を用いて94℃で1分間の変性、58℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合の条件ををPfuポリメラーゼで30回繰り返し行うPCR法により5’領域にKpnI制限酵素サイトを有する155bpの断片を増幅した。第二に、プライマー3及びプライマー4を用いて上記のPCR法により3’領域にEcoRV制限酵素サイトを有する105bpの断片を増幅した。得られたDNA断片は、GeneAllExpinTMGEL SVキット(大韓民国ソウル)で分離した後、交差PCRのための鋳型として用いた。
【0025】
前記DtrpLを作製するために、プライマー1及びプライマー4を用いて上記のようにして得られた両DNA断片を鋳型として交差PCRを行った。具体的に、上記のPCR法により245bpの断片を増幅した(配列番号5)。増幅された断片は、制限酵素KpnIとEcoRVで処理した後、同じ酵素で処理されたpCL1920GFP(配列番号8)でライゲーション(ligation)することによりpCL−DtrpL−GFPを作製した。
【0026】
トリプトファンオペロンの発現調節部位のうちリーダペプチド(L)及び減衰調節因子(A)をコードする遺伝子部位が一緒に欠損された形(以下、「Dtrp_att」と称する。)を増幅するために、前記大腸菌W3110菌株の染色体を鋳型としてプライマー1及びプライマー5を用いて前記PCR法により5’領域にKpnIを有し、且つ、3’領域にEcoRV制限酵素サイトを有する148bpの断片を増幅した(配列番号6)。増幅された断片は、制限酵素KpnIとEcoRVで処理した後、同じ酵素で処理されたpCL1920GFPでライゲーションすることによりpCL−Dtrp_att−GFPを作製した。
【0027】
また、今後の実験で対照群として用いるための野生型発現調節部位を有するベクターを作製するために、大腸菌W3110菌株の染色体を鋳型としてプライマー1及びプライマー4を用いて上記のPCR法により5’領域にKpnIを有し、且つ、3’領域にEcoRV制限酵素サイトを有する290bpの断片を増幅した。増幅された断片は、制限酵素KpnIとEcoRVで処理した後、同じ酵素で処理されたpCL1920GFPでライゲーションすることによりpCL−Ptrp−GFPを作製した。
【0028】
プライマー1
5’TTAGGTACCGGCGCACTCCCGTTCTGGATA3’(配列番号11)
プライマー2
5’ACTGCCCGTTGTCGATACCCTTTTTACGT3’(配列番号12)
プライマー3
5’TCGACAACGGGCAGTGTATTCACCATG3’(配列番号13)
プライマー4
5’AATGATATCTGTTATTCTCTAATTTTGTT3’(配列番号14)
プライマー5
5’AATGATATCACCCTTTTTACGTGAACTTG3’(配列番号15)
【0029】
実施例2:GFPの発現量の測定
上述した実施例1に従い作製されたpCL−DtrpL−GFP、pCL−Dtrp_att−GFP及びpCL−Ptrp−GFPベクターを野生型菌株である大腸菌W3110とトリプトファン産生菌株である大腸菌KCCM10812Pに形質転換方法によりそれぞれ導入した後にGFPの強度を測定した。
【0030】
この実施例に用いられた母菌株である大腸菌KCCM10812P(大韓民国登録特許10−0792095)は、L−フェニルアラニン産生能を有する大腸菌変異株(KFCC10066、大韓民国特許1985−0001232)から由来した菌株であり、染色体上のトリプトファン要求性が解除され、pheA、trpR、mtr及びtnaAB遺伝子が不活性化され、aroG、trpE遺伝子が変異されたことを特徴とするL−トリプトファン産生能を有する組換え大腸菌である。
具体的には、250mlのフラスコに準備された25mlのM9培地(0.5%グルコース及び2g/L酵母抽出物を添加し、KCCM10812の場合には0.1g/Lチロシン、0.1g/Lフェニルアラニンをさらに添加する)に菌体を1/100(v/v)接種し、37℃で培養して当該ODから遠心分離により菌体を回収し、回収された菌体は1xTEで1回洗浄してGFPの測定に用いた。GFPの測定は、Synergy HTマルチモード・マイクロプレーン・リーダー(米国バイオテック社製)を用いて行った。
測定結果を表1に示す。OD1とOD3は、それぞれ培養液を適正な希釈濃度に希釈した後、島津社(Shimadzu)のUVミニ−1240(UV mini-1240)吸光計を用いて600nmで測定したOD値を示す。
【0031】
表1に示すように、野生型であるW3110菌株の場合、Ptrpの相対強度を1としたとき、リーダペプチドと減衰調節因子が除去されたDtrp_attの相対強度が、OD値が1である場合(OD1)には約7倍、OD値が3である場合(OD3)には10倍と最も強く、リーダペプチドのみを除去したDtrpLは野生型発現調節部位(Ptrp)に比べて約1.5〜2倍増加した。これに比べて、産生菌であるKCCM10812Pに導入したときには、Ptrpの相対強度を1としたとき、リーダペプチドと減衰調節因子が除去されたDtrp_attの相対強度が、OD値が1である場合(OD1)には約19倍、OD値が3である場合(OD3)には27倍と最も強く、リーダペプチドのみを除去したDtrpLは野生型発現調節部位(Ptrp)に比べて約4倍増加した。この結果から、野生型の場合、産生菌に比べて弱いとはいえ、リーダペプチド若しくは減衰調節因子の除去により発現の増加が現れることを確認することができる。
【表1】
【0032】
実施例3:発現調節部位が置換されたトリプトファンオペロン(trpEDCBA)を有するベクターの作製
実施例2の結果に基づいて、トリプトファンオペロン遺伝子をベクターの形に強化する大腸菌を作製するために、母菌株である大腸菌KCCM10812Pの染色体を鋳型としてプライマー6及びプライマー7を用いて上記のPCR法により6564bpの断片を増幅した(配列番号9)。
【0033】
増幅されたDNA断片は、GeneAllExpinTMGEL SVキット(大韓民国ソウル)により回収した後、制限酵素EcoRVとHindIIIで処理して準備した。準備されたDNA断片とクローニングのために、pCL−Dtrp_att−GFP、pCL−DtrpL−GFP、pCL−Ptrp_GFPベクターはEcoRVとHindIIIで処理してGFP部分を除去した4291bpに作製した。準備されたベクターとインサート(insert)は、ライゲーション後に形質転換方法により大腸菌DH5aに導入し、この過程を経てpCL−Dtrp_att−trpEDCBA、pCL−DtrpL−trpEDCBA、pCL−Ptrp_trpEDCBAベクターをそれぞれ作製した。
【0034】
プライマー6
5’CCCGATATCATGCAAACACAAAAACCGAC3’(配列番号16)
プライマー7
5’GGGAAGCTTAAAGGATCCGTGGGATTAACTGCGCGTCGCCGCTTT3’(配列番号17)
【0035】
実施例4:発現調節部位が置換され、trpEが除外されたトリプトファン生合成遺伝子群(trpDCBA)を有するベクターの作製
上述した実施例1に従い作製されたpCL−Dtrp_att−GFP、pCL−DtrpL−GFP、pCL−Ptrp_GFPベクターのGFP領域をtrpDCBAに置換するベクターを作製するために、pCLDtrp_att−GFP、pCL−DtrpL−GFP、pCL−Ptrp_GFPベクターをEcoRVとHindIIIで処理してGFP部分を除去した4291bpに作製した。
次いで、トリプトファンオペロンのうちtrpDCBA遺伝子をベクターの形に強化する大腸菌を作製するために、母菌株である大腸菌KCCM10812P染色体を鋳型としてプライマー7及びプライマー8を用いて上記のPCR法により5002bpの断片を増幅した(配列番号10)。
【0036】
増幅されたDNA断片は、GeneAllExpinTMGEL SVキット(大韓民国ソウル)により回収した後、制限酵素EcoRVとHindIIIで処理して準備した。準備されたベクターとインサートは、ライゲーション後に形質転換方法により大腸菌DH5aに導入し、その結果、pCL−Dtrp_att−trpDCBA、pCL−DtrpL−trpDCBA、pCL−Ptrp_trpDCBAベクターをそれぞれ作製した。
【0037】
プライマー8
5’AAAGATATCATGGCTGACATTCTGCTGCT3’(配列番号18)
【0038】
実施例5:様々な発現調節部位を有するトリプトファンオペロン遺伝子の低いコピー数のベクターの作製
大腸菌内で低いコピー数で発現される代表的なベクターは、pCC1BAC(米国エピセンター社製)である。このベクターを用いてトリプトファンオペロン遺伝子を低いコピー数で発現させるために、上述した実施例3と4に従い作製されたpCL−Dtrp_att−trpEDCBA、pCL−DtrpL−trpEDCBA、pCL−Ptrp_trpEDCBAとpCL−Dtrp_att−trpDCBA、pCL−DtrpL−trpDCBA、pCL−Ptrp_trpDCBAベクターを制限酵素HindIIIで切断した。
【0039】
切断後に得られたDNA断片は、アガロースゲル電気泳動後にそれぞれのサイズ通りに切断してGeneAllExpinTMGEL SVキット(大韓民国ソウル)を用いて回収し、pCC1BACのHindIII位置が切断されたベクターを用いてライゲーション後に形質転換方法により大腸菌DH5aに導入した。
導入された菌株は、LBCm固体培地(LB+クロラムフェニコール寒天平板)に塗抹してCm耐性を有する菌体を対象に確認を行い、pBAC−Dtrp_att−trpEDCBA、pBAC−DtrpL−trpEDCBA、pBAC−Ptrp_trpEDCBAとpBAC−Dtrp_att−trpDCBA、pBAC−DtrpL−trpDCBA、pBAC−Ptrp_trpDCBAベクターを作製した。
【0040】
実施例6:pheA遺伝子が不活性化された大腸菌菌株の作製
野生型大腸菌W3110菌株からトリプトファン産生菌株に近い菌株を作製するためにコリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase)/プレフェン酸脱水酵素(prephenate dehydratase、CM−PDT)をコードするpheA遺伝子(NCBI gene ID:12934467)を相同組換えによる欠失により不活性化させた。CM−PDTは、コリスミ酸(chorismate)からフェニルアラニン(phenylalanine)を生成する最初の段階にある酵素であり、pheA遺伝子欠損はフェニルアラニン生合成経路を抑制するのに用いられた。このために、Datsenko KAらにより開発されたラムダレッドリコンビナーゼ(lambda Redrecombinase)を利用した突然変異作製法であるワンステップ弱化方法を用いた(One-step inactivation of chromosomalgenes in Escherichia coli K-12 using PCR products, Datsenko KA, Wanner BL., Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Jun6;97(12):6640-5)。遺伝子内部への挿入を確認するためのマーカーとしては、pUCprmfmloxPのクロラムフェニコール遺伝子を用いた(大韓民国公開特許:2009−0075549)。
前記pheA遺伝子の一部分とpUCprmfmloxPベクターのクロラムフェニコール(Chloramphenicol)耐性遺伝子の一部の塩基配列を有するプライマー9及びプライマー10を用いて、ベクターpUCprmfmloxPを鋳型とするPCR法により約1200bpの遺伝子断片を増幅した。
【0041】
プライマー9
5’−GGCCTCCCAAATCGGGGGGCCTTTTTTATTGATAACAAAAAGGCAACACTAGGTGACACTATAGAACGCG−3’(配列番号19)
プライマー10
5’−AACAGCCCAATACCTTCATTGAACGGGTGATTTCCCCTAACTCTTTCAATTAGTGGATCTGATGGGTACC−3’(配列番号20)
【0042】
また、前記PCR増幅により得られたDNA断片を0.8%アガロースゲル電気泳動後に溶出し、2次PCRの鋳型として用いた。2次PCRは、前記溶出した1次PCR産物を鋳型とし、1次DNA断片の5’及び3’領域の20bpの相補的塩基配列と、さらにpheA遺伝子の5’及び3’領域を有するプライマー11及びプライマー12とをそれぞれ用いて、さらにPCR法により、約1300bpの遺伝子断片を増幅した。前記過程を経て得られたDNA断片は、0.8%アガロースゲル電気泳動後に溶出し、これを組換えに用いた。
【0043】
プライマー11
5’−GAATGGGAGGCGTTTCGTCGTGTGAAACAGAATGCGAAGACGAACAATAAGGCCTCCCAAATCGGGGGGC−3’(配列番号21)
プライマー12
5−GGCACCTTTTCATCAGGTTGGATCAACAGGCACTACGTTCTCACTTGGGTAACAGCCCAATACCTTCATT−3’(配列番号22)
【0044】
Datsenko KAらにより開発された方法によりpKD46ベクターで形質転換されたW3110大腸菌を形質転換菌株(competent strain)として製造した後、形質転換は、PCR法で得られた前記1300bpの遺伝子断片を流入することにより行った。LB培地でクロラムフェニコール耐性を有している菌株を選別した。さらにプライマー13及びプライマー14を用いたPCR法で得られたサイズが約2500bpの遺伝子断片でpheA遺伝子の欠失を確認した。
【0045】
プライマー13
5’−TTGAGTGTATCGCCAACGCG−3’(配列番号23)
プライマー14
5’−AAAGCCGCGTGTTATTGCGT−3’(配列番号24)
【0046】
前記選別されたクロラムフェニコール耐性を有する1次組換え菌株からpKD46ベクターを除去した後、pJW168ベクターを導入してクロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去した(Gene,(2000)247, 255-264)。最終的に得られた菌体は、プライマー13及びプライマー14を用いたPCR法により得られた約500bpの増幅産物であり、そこに意図した通り欠失が生じた。なお、作製された菌株を大腸菌W3110trpΔ1と命名した。
【0047】
実施例7:tnaAB遺伝子が不活性化された大腸菌菌株の作製
前記実施例6に従い作製された大腸菌W3110trpΔ1菌株からトリプトファン分解酵素(tryptophanase)をコードするtnaAとトリプトファンインポータ(importer)をコードするtnaB遺伝子のオペロン形であるtnaAB(NCBIgene ID:12933600、12933602)遺伝子を相同組換えにより欠失させた。前記欠損によりトリプトファンが生成された後に分解される経路を遮断し、生成されて培地内に分泌されたトリプトファンの細胞内への再移動を防いでトリプトファン産生菌株の特性を与えることができる。このために、実施例6の方法と同様にして、前記tnaAB遺伝子の一部分とpUCprmfmloxP遺伝子のクロラムフェニコール耐性遺伝子の一部の塩基配列を有するプライマー15及びプライマー16を用いてベクターpUCprmfmloxPを鋳型としてPCR法により約1200bpの遺伝子断片を増幅した。さらに、前記PCR増幅により得られたDNA断片は、実施例6の方法と同様にして、プライマー17及びプライマー18を用いたPCR法により1300bpの遺伝子断片を増幅した
【0048】
プライマー15
5’−TTAGCCAAATTTAGGTAACACGTTAAAGACGTTGCCGAACCAGCACAAAAAGGTGACACTATAGAACGCG−3’(配列番号25)
プライマー16
5’−ATGAAGGATTATGTAATGGAAAACTTTAAACATCTCCCTGAACCGTTCCGTAGTGGATCTGATGGGTACC−3’(配列番号26)
プライマー17
5’−TGATTTCCTGAGAGGCAAGAAGCCAGCGAATGGCTGGCTTCTTGAAGGATTTAGCCAAATTTAGGTAACA−3’(配列番号27)
プライマー18
5’−AATCGGTATAGCAGATGTAATATTCACAGGGATCACTGTAATTAAAATAAATGAAGGATTATGTAATGGA−3’(配列番号28)
【0049】
tnaAB遺伝子を欠損させるために、実施例6の方法と同様にして、ベクターpKD46が導入された大腸菌W3110trpΔ1を形質転換菌株として製造した後、PCR法により得られた1300bpの遺伝子断片を流入することにより形質転換した。LB培地でクロラムフェニコール耐性を有している菌株を選別した。さらにプライマー19及びプライマー20を用いたPCR法により得られたサイズが約5400bpの遺伝子断片でtnaAB遺伝子の欠失を確認した。
【0050】
プライマー19
5’−CGGGATAAAGTAAAACCAGG−3’(配列番号29)
プライマー20
5’−CGGCGAAGGTAAGTTGATGA−3’(配列番号30)
【0051】
クロラムフェニコール耐性を有する1次組換え菌株から、実施例6の方法と同様にしてpKD46ベクターを除去した後、クロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去した。最終的に得られた菌体は、プライマー19及びプライマー20を用いたPCR法により得られた約550bpの増幅産物であり、そこに意図した通り欠失が生じた。なお、作製された菌株を大腸菌W3110trpΔ2と命名した。
【0052】
実施例8:様々な発現様相を有するトリプトファンオペロンを有する菌株のL−トリプトファン産生性の確認
上述した実施例3、4及び5に従い作製されたベクターを導入した大腸菌の効果の評価を、実施例6及び7に従い作製されたW3110trpΔ2を母菌株として用い、グルコースを炭素源として用いて行った。
力価の評価のために菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、下記表2に示す組成からなる25mlのフラスコ力価培地に一白金耳ずつ接種した。菌株の接種後に37℃、200rpmで48時間培養し、それから得られた結果を表3に示す。全ての結果は、3つのフラスコ結果の平均値で示す。
【表2】
【表3】
【0053】
前記表3の結果から明らかなように、母菌株である大腸菌W3110trpΔ2に種々のベクターを組み合わせて導入したとき、トリプトファンオペロンのみを強化し続ければ、アントラニル酸塩が蓄積されてしまう結果、トリプトファン歩留まりに肯定的な効果を奏さない。Trpオペロンを強化するとともに、trpDCBAを強化するように変形された菌株は、トリプトファンオペロンのみが強化されたときよりもアントラニル酸塩の蓄積が低減される結果、トリプトファン歩留まりには肯定的な効果を示すことが分かる。このため、蓄積されたアントラニル酸塩の低減がトリプトファン産生菌株ではL−トリプトファンの最終的な歩留まりを高めるための最善の方法であることを確認した。
【0054】
実施例9:様々な発現様相を示すトリプトファンオペロンを有する菌株のL−トリプトファン産生性の確認
実施例3、実施例4及び実施例5に従い作製されたベクターを下記表5のように組み合わせ、トリプトファン産生菌株である母菌株の大腸菌KCCM10812Pに導入してグルコースを炭素源として用いて力価評価を行った。実施例8の結果から明らかなように、トリプトファンオペロンの強化とともに、trpDCBAの強化も重要であると認められ、トリプトファンを産生する産生菌株における効果を検証しようとした。
力価の評価のために菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、下記表4に示す組成からなる25mlのフラスコ力価培地に一白金耳ずつ接種した。菌株の接種後に37℃、200rpmで48時間培養し、それから得られた結果を表5に示す。全ての結果は、3つのフラスコ結果の平均値で示す。
【表4】
【表5】
*33時間測定値
**48時間測定値
【0055】
前記表5の結果から明らかなように、母菌株である大腸菌KCCM10812Pに種々のベクターを組み合わせて導入したとき、トリプトファンオペロンのみを強化し続ければ、アントラニル酸塩が蓄積されてしまう結果、成長がやや鈍化されてトリプトファン歩留まりに肯定的な効果を奏さない。これに対し、pCLベクターでオペロンを強化し、pBACベクターでtrpDCBAを強化するように変形された菌株は、トリプトファンオペロンのみが強化されたときよりもアントラニル酸塩の蓄積が低減される結果、トリプトファン歩留まりには肯定的な効果を示すことが分かる。このため、蓄積されたアントラニル酸塩の低減がトリプトファン産生菌株ではL−トリプトファンの最終的な歩留まりを高めるための最善の方法であることを確認した。
【0056】
実施例10:染色体内トリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAのコピー数が増加され、アントラニル酸塩が低減された菌株の作製
実施例9における結果に基づいて、染色体内トリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAのコピー数を増加するためにベクターを作製した。
実施例5で言及されたpCL−Dtrp_att−trpDCBAからDtrp_att−trpDCBA領域を制限酵素EcoRI及びBamHIで切断して、同じ制限酵素で切断したpINT17EにライゲーションすることによりpINT17E−Patt−trpDCBAを得た。次いで、これをトリプトファン産生菌株として母菌株である大腸菌KCCM10812Pに導入してトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAのコピー数を増加するために、実施例6でのように、Datsenko KAらにより開発されたラムダレッドリコンビナーゼ(lambda Red recombinase)を利用した突然変異作製法であるワンステップ不活性化方法に用いられるpKD46を用いた。遺伝子内部への挿入を確認するためのマーカーとしては、pUCprmfmloxPのクロラムフェニコール遺伝子を用いた。先ず、pKD46を導入した母菌株にpINT17E−Patt−trpDCBAを形質転換した後、37℃で1日〜2日間培養してコロニーを得た。得られたコロニーを対象に、染色体内部に正常に挿入されたか否かをプライマー21及びプライマー22を用いてPCR法により約2000bpの断片を増幅して確認した。
【0057】
プライマー21
5’TATTTGCTGTCACGAGCAGG3’(配列番号31)
プライマー22
5’AGTTCCGGCATACAACCGGCTT3’(配列番号32)
【0058】
クロラムフェニコール耐性を有する1次組換え菌株からpKD46を除去した後、pJW168を導入してクロラムフェニコールマーカー遺伝子を菌体から除去した(Gene,(2000)247,255-264)。プライマー23及びプライマー24を用いてPCR法により得られた約5000bpの増幅産物とプライマー25及びプライマー26を用いて得られた約6500bpの増幅産物により、染色体の内部に内在的に存在するトリプトファンオペロンに続いて、連続してtrpDCBAが存在していることを確認し、これをKCCM10812P/trpDCBAと命名した。
【0059】
プライマー23
5’TAATACGACTCACTATAGGG3’(配列番号33)
プライマー24
5’CTGTTGGGCGGAAAAATGAC3’(配列番号34)
プライマー25
5’TGATCGCCAGGGTGCCGACG3’(配列番号35)
プライマー26
5’CCCTATAGTGAGTCGTATTA3’(配列番号36)
【0060】
このようにして得られたtrpDCBAコピー数の増加菌株にさらに1コピーを挿入するために、このようにして得られたKCCM10812P/trpDCBA菌株にpKD46を導入し、pINT17E−Patt−trpDCBAベクターをKCCM10812P/trpDCBA/pKD46に導入して上述した方法に従い染色体内に2コピーが挿入された菌株を作製した。作製された菌株は、KCCM10812P/2trpDCBAと命名した。これを2011年12月29日付けで韓国ソウル特別市西大門区弘済1洞361−221番地所在の国際寄託機関である韓国種菌協会付設韓国微生物保存センターに受託番号KCCM11246Pで寄託した。
【0061】
実施例11:トリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAによりコードされるタンパク質の活性が増加されたL−トリプトファン産生菌株の効果の確認
実施例10に記述されている方法に従い、トリプトファン産生菌株である大腸菌KCCM10812PにtrpDCBAをさらに導入して、トリプトファン生合成経路の一部の酵素の活性が強化されたKCCM10812P/trpDCBAの力価の評価をグルコースを炭素源として用いて行った。
力価の評価のために菌体を白金耳で接種した後、LB固体培地で一晩培養し、下記表4に示す組成からなる25mlのフラスコ力価培地に一白金耳ずつ接種した。菌株の接種後に37℃、200rpmで48時間培養し、それから得られた結果を表6に示す。全ての結果は、3つのフラスコ結果の平均値で示す。
【表6】
*33時間測定値
**48時間測定値
【0062】
前記表6から明らかなように、染色体の内部にトリプトファン生合成遺伝子群trpDCBAを1コピー追加したときにはアントラニル酸塩の濃度が39%下がるが、2コピーを追加したときには母菌株に比べて69%下がるという結果が得られた。
また、L−トリプトファン濃度の場合、それぞれ10%、13%増加する結果が得られた。表6に示すように、trpDCBAのコピーを増加したときにグルコースの消耗速度がやや下がる場合もあるが、全体的に見たとき、トリプトファン生合成遺伝子群の強化がL−トリプトファン濃度の増加とアントラニル酸塩濃度の低減に良好な影響を及ぼすことを確認した。
【0063】
以上の説明から、本発明が属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須的な特徴を変更することなく異なる具体的な形態で実施可能であるということが理解できる筈である。これと関連して、以上述べた実施形態は、あらゆる面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、前述した詳細な説明ではなく、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲並びにその等価概念から導き出されるあらゆる変更又は変形が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11246P
受託日:20111229


図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]