特許第6475719号(P6475719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6475719チタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の無鉛圧電セラミック材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475719
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】チタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の無鉛圧電セラミック材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/465 20060101AFI20190218BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20190218BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C04B35/465
   H01L41/187
   H01L41/43
   H01L41/09
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-532275(P2016-532275)
(86)(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公表番号】特表2016-531073(P2016-531073A)
(43)【公表日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】EP2014063132
(87)【国際公開番号】WO2015018558
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年6月13日
(31)【優先権主張番号】102013013183.9
(32)【優先日】2013年8月7日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102014211465.9
(32)【優先日】2014年6月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502057452
【氏名又は名称】ピーアイ セラミック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘニッヒ、エーベルハルト
(72)【発明者】
【氏名】キナスト、アンチュ
(72)【発明者】
【氏名】テプファー、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン、ミヒャエル
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−150060(JP,A)
【文献】 特開2004−018321(JP,A)
【文献】 特表2011−501880(JP,A)
【文献】 特開2012−111660(JP,A)
【文献】 特開2003−201172(JP,A)
【文献】 特開2007−238376(JP,A)
【文献】 特開2011−068535(JP,A)
【文献】 特開2006−306668(JP,A)
【文献】 特開2002−160967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/46 − 35/47
H01L 41/09
H01L 41/187
H01L 41/314
H01L 41/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本組成
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.07、
または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.05
のチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の無鉛圧電セラミック材料であって、
圧電セラミック材料中のリンの濃度が250〜2000ppmであるような量でリン酸材料を添加されていることを特徴とし、前記ppm(parts per million)は、圧電セラミック組成の全質量に対するリンの質量に関し、
前記リン酸材料は、リン酸水素塩、またはリン酸二水素塩である無鉛圧電セラミック材料。
【請求項2】
基本組成は、
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1、または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1
である、請求項1に記載のチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の無鉛圧電セラミック材料。
【請求項3】
リン酸化合物は、KHPO、及び(NH)HPOからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無鉛圧電セラミック材料。
【請求項4】
無鉛圧電セラミック材料中のリンの濃度が270〜1800ppmであるような量でリン酸材料が添加されることを特徴とする、請求項1〜の少なくとも一項に記載の無鉛圧電セラミック材料。
【請求項5】
基本組成は、添加剤を酸化物または複合ペロブスカイトの形態で含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の無鉛圧電セラミック材料。
【請求項6】
先行する請求項1〜のいずれか一項に記載の無鉛圧電セラミック材料を製造する方法であって、
以下のステップ:
・基本組成の原料混合物を製造するステップと、
・基本組成のか焼物を製造するステップと、
・か焼物を微粉砕するステップと、
・スプレー造粒によって粒状物を製造する、または、多層もしくは「同時焼成」プロセス用流延スラリーを製造するステップと、
・標準大気中で焼結することを含む処理をさらに行うステップと
を特徴とし、前記ステップは記載順に行われ、リン酸添加剤は、微粉砕またはスプレー造粒の間、および/または、流延スラリーの調製の間に添加される、方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の無鉛圧電セラミック材料系の圧電セラミック多層アクチュエータ。
【請求項8】
少なくとも2つの電極を有する少なくとも1つの圧電セラミック体を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の無鉛圧電セラミック材料系の圧電セラミック部品。
【請求項9】
圧電セラミック体が圧電超音波振動子の形態である、請求項に記載の無鉛圧電セラミック材料系の圧電セラミック部品。
【請求項10】
巨大な粒成長を低減するための、基本組成
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO、式中、x+y+z=1および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.07、または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO、式中、x+y+z=1および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.05
のチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の圧電セラミック材料でのリン酸材料の使用であって、リン酸材料は、圧電セラミック材料中のリンの濃度が250〜2000ppmである量で使用され、前記ppm(parts per million)は、圧電セラミック組成の全質量に対するリンの質量に関し、
前記リン酸材料は、リン酸水素塩、またはリン酸二水素塩であるリン酸材料の使用。
【請求項11】
リンの濃度が270〜1800ppmである量で使用される、請求項10に記載のリン酸材料の使用。
【請求項12】
基本組成は、
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1、または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1
である、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
リン酸化合物は、KHPO、及び(NH)HPOからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1012のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文による定義された基本組成のチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の無鉛圧電セラミック材料、特に、均質材料内に<0.1重量%の鉛含有量を有するRoHS directive(ガイドライン2011/65/EU)の意味における無鉛材料に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の圧電アクチュエータ、圧電センサー、および他の圧電部品は、本先行技術を代表し、圧電セラミック材料を無鉛にする要求がますます増加している。
【0003】
先行技術の改良において、無鉛圧電セラミック材料をBST(チタン酸ビスマスナトリウム)系とする試みがなされてきた。
【0004】
これらの材料は、しばらくの期間知られており、基本組成は、特許第62202576号明細書(BST−BTおよびBST−BKT)および独国特許19530592(C2)号明細書(BST−BT−CT)に記載されている。例えば、チタン酸ストロンチウムを使用するこれらの材料の変更が、Takenaka(Sensor and Materials;3(1988)123−131)に総合的に記載されている。
【0005】
これらの基本研究を基に、さらなる実施形態が先行技術に記載されている。この点で、例えば、米国特許出願公開第2002/014196(A1)号明細書および欧州特許出願公開第1231192(A1)号明細書について述べる。
【0006】
すべてのBST系組成物の根本的な問題は、焼結の間の圧密が非常に悪く、高い伝導性に関連するいわゆる巨大な粒成長が発生することである。不均一構造を有する圧電セラミック体は、分極が不十分であり得、その結果、所望の材料特性が達成されず、または過度に高いレベルのばらつきが材料特性に生じる。マンガン、クロム、鉄、コバルトまたはニオブ酸塩による対象を絞った置き換えによって巨大な粒成長を抑制するために特開平2004−075449に提案が示された。
【0007】
マンガンおよび銅を使用するBST材料の変更に関する本発明者自身らの研究は、焼結挙動における部分的改善を示したが、やはり巨大な粒成長への連続した傾向および電気的データの悪化を示した。
【0008】
したがって、変更されたBST組成物は、材料中に不均一に分散した巨大な粒成長、または粗粒子状の構造の形成の傾向があるといえる。この場合、巨大粒の発生は制御できず、調製および焼結条件に強く依存する。粒成長は低い焼結温度によって抑制することができるが、しかし、<5.6g/cmの低い焼結密度をもたらす。望ましくない巨大な粒成長、または粗粒子状の構造の結果は、低温依存性かつ強く温度依存性の比電気絶縁抵抗、セラミック体の悪い分極率、メガヘルツ範囲での厚み振動の分散した振動挙動である。
【0009】
本発明者自身らの研究では、リーク電流が構造および温度に極めて依存することがさらに分かった。
【0010】
さらに、変更されたBST組成物はしばしば小さな焼結間隔を有すると述べられており、それは制御困難な技術的問題をもたらす。焼結間隔は、2つの温度仕様によって限定される範囲であると理解され、その範囲内でセラミックの必要な特性が材料の焼成の間に達成される。したがって、小さな焼結間隔は、焼成の間に非常に小さな温度許容度を使用することができる場合にのみ圧電セラミック材料の所望の特性が達成されるという結果を有し、それは制御することが技術的に困難である。したがって、比較的高い割合の製造物が廃棄物であるため、小さな焼結間隔は経済損失をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のことから、本発明の目的は、BST系の無鉛圧電セラミック材料を規定することであり、BST系の無鉛圧電セラミック材料は、均一で微粒子状の構造を示し、150℃の温度で≧510Ωの比電気絶縁抵抗を有する。本発明のさらなる目的は、BST系の無鉛圧電セラミック材料を規定することであり、BST系の無鉛圧電セラミック材料は大きな焼結間隔、特に≧40Kの焼結間隔を有する。
【0012】
本発明の目的は、請求項1に記載の特徴および対応する圧電セラミック材料を製造する方法の組み合わせ、および本発明による材料に基づいて製造された圧電セラミック体または多層アクチュエータによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、それは、基本組成
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.07、
好ましくは、0<x<1、0.1<y<0.25、0≦z≦0.07、
より好ましくは、0<x<1、0.1≦y≦0.20、0≦z≦0.03、
または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.05、
好ましくは、0<x<1、0.1<y<0.25、0≦z≦0.05、
より好ましくは、0<x<1、0.1≦y≦0.20、0≦z≦0.02、
または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−y(Bi0.50.5)TiO−zBaTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦1、
好ましくは、0<x<1、0.1<y<0.3、0≦z≦0.15、
より好ましくは、0<x<1、0.1≦y≦0.24、0≦z≦0.05
のチタン酸ビスマスナトリウム系の無鉛圧電セラミック材料に基づく。
【0014】
圧電セラミック材料中の蛍光体の濃度が100〜2000ppmであるような量でリン酸材料を添加することによって、本発明による圧電セラミック材料が得られる。
【0015】
本発明によれば、基本組成
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.07、
好ましくは、0<x<1、0.1<y<0.25、0≦z≦0.07、
より好ましくは、0<x<1、0.1≦y≦0.20、0≦z≦0.03、
または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.05、
好ましくは、0<x<1、0.1<y<0.25、0≦z≦0.05、
より好ましくは、0<x<1、0.1≦y≦0.20、0≦z≦0.02、
または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−y(Bi0.50.5)TiO−zBaTiO
式中、x+y+z=1
および0<x<1、0<y<1、0≦z≦1、
好ましくは、0<x<1、0.1<y<0.3、0≦z≦0.15、
より好ましくは、0<x<1、0.1≦y≦0.24、0≦z≦0.05
のチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の無鉛圧電セラミック材料であって、圧電セラミック材料中のリンの濃度が100〜2000ppmであるような量でリン酸材料を添加することを特徴とする、無鉛圧電セラミック材料によって目的が達成される。
【0016】
仕様ppm(parts per million)は、この場合、圧電セラミック組成物の全質量に対するリンの質量に関する。
【0017】
1つの好ましい実施形態では、本発明による圧電セラミック材料は、<0.1重量%の鉛含有量を有する。
【0018】
1つの好ましい実施形態では、本発明によるチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の圧電セラミック材料は、それが、以下の基本組成
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1、または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zCaTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1、または
x(Bi0.5Na0.5)TiO−y(Bi0.50.5)TiO−zBaTiO
式中、y≧0.1およびx+y+z=1
を有するように具体化され、圧電セラミック材料中のリンの濃度が100〜2000ppmであるような量でリン酸材料の添加が行われる。
【0019】
1つの好ましい実施形態では、無鉛圧電セラミック材料は、リン酸化合物が無機リン酸塩、リン酸水素、またはリン酸二水素であるように具体化される。
【0020】
特に好ましい実施形態では、無鉛圧電セラミック材料は、リン酸化合物がKHPO(KDP)および(NH)HPO(ADP)からなる群から選択されるように具体化される。
【0021】
本発明によるリン酸材料の添加の効果が、広い量的範囲で達成される一方、リン酸材料が、無鉛圧電セラミック材料中のリンの濃度が100〜2000ppmであるような量で添加されるように、無鉛圧電セラミック材料が具体化される場合に、特に有利な特性が達成されることが示された。
【0022】
本発明によるセラミック材料中のリンの濃度が、2000ppmを超える場合に、材料混合物を処理して圧電セラミック材料を形成する能力が悪化することが示された。100ppm未満の濃度では、本発明によって求められる効果は、もはや十分な程度に達成されない。
【0023】
1つの好ましい実施形態では、無鉛圧電セラミック材料中のリンの濃度が250〜2000ppm、より好ましくは270〜1800ppmであるような量でリン酸材料が使用される。
【0024】
無鉛圧電セラミック材料の特性は、基本組成が、添加剤を酸化物または複合ペロブスカイトの形態で含む点において特に有利なように影響を受ける場合があることが示された。
【0025】
本発明による無鉛圧電セラミック材料を使用して焼結間隔を≧40Kに設定することが驚くべきことに可能である。
【0026】
本発明は、また、様々な無鉛圧電セラミック材料を製造する方法に関する。本発明による方法は、以下のステップ:
・基本組成の原料混合物を製造するステップと、
・基本組成のか焼物を製造するステップと、
・か焼物を微粉砕するステップと、
・特にスプレー造粒によって粒状物を製造する、または多層もしくは「同時焼成」プロセス用流延スラリーを製造するステップと、
・標準大気中で焼結することを含む既知の様式でさらに処理するステップと
を含むように具体化されることが好ましい。
【0027】
「同時焼成」プロセスは、本発明の意味において、圧電セラミック材料からなるフィルムが最初に流延され、続いてまだグリーン状態である間に電極を付与される特に革新的な製造方法であると理解される。圧電素子は、例えば、独国特許第10234787号明細書に記載されるように、多くの個々のフィルムから積層され、続いて、単一の処理ステップで内部電極とともに焼結される。
【0028】
微粉砕および/またはスプレースラリーまたは流延スラリーの調製の間にリンまたはリン酸材料の添加を行うことができる。
【0029】
本発明による方法は、特に好ましくは、リンまたはリン酸材料の添加をスプレースラリーまたは流延スラリーの調製の間に行うように具体化される。この方法は、最初に基本組成の微粉砕された粉末の大規模工業製造を行い、リン添加の量および種類は、その後の処理ステップ(スプレースラリー、流延スラリー)の要件に適合させることができるという利点を有する。
【0030】
本発明による無鉛圧電セラミック材料を製造する1つの特に好ましい方法では、まず基本組成のか焼物が提供される。次いで、リンの添加を、好ましくはKDPまたはADPの形態で行い、これらは、270〜1800ppmの濃度で単結晶としての強誘電体である。この添加は、微粉砕の間、またはスプレースラリーまたは流延スラリーの調製の間に行うことができる。標準大気中で焼結することを含むこの種類の材料のさらなる処理を、既知の技術によって行う。
【0031】
さらに、上記圧電セラミック材料系の圧電セラミック多層アクチュエータは、本発明によるものである。そのような圧電セラミック多層アクチュエータは、例えば、独国特許第10234787号明細書または独国特許出願公開第202012012009号明細書から既知である。
【0032】
本発明は、また、少なくとも2つの電極を有する少なくとも1つの圧電セラミック体からなる、上記圧電セラミック材料系の圧電部品に関し、特に、特にその厚み振動で作動させられる圧電超音波振動子にも関する。
【0033】
使用されるリン酸材料は、焼結助剤として理解することができ、ここでリン成分は決定的に重要である。リンは確かに積極的に粒成長を阻害するが、リンが対応する圧電セラミック材料の圧電特性を悪化させるとする技術界の偏見は、BST基本組成物へのリンの対象を絞った添加によって克服される。
【0034】
驚くべきことに、リン酸材料の使用によって、巨大な粒成長の有効な抑制、したがって、均一で微粒子状の構造が達成されるだけでなく、圧電セラミック材料の≧40Kの広い焼結間隔も同時に達成されることが示された。これは、技術的に大変重要である。なぜなら、広い焼結間隔が、材料、多層アクチュエータ、または部品のコスト効率の良い製造のための必要条件であるからである。さらに、本発明による圧電セラミック材料は、≧510Ωの高い比電気絶縁抵抗を有しており、それは、記載された部品で使用するには非常に有利である。
【0035】
本発明による圧電セラミック材料で、均一で微粒子状の構造は、1120℃〜1240℃の温度範囲で≧40Kの広い焼結間隔をもたらす。さらに、高温での絶縁抵抗の増大、したがってより良好な分極挙動は、利点として注目すべきである。本発明による無鉛圧電セラミック材料に基づいて製造されたアクチュエータは、広い温度範囲にわたって高い絶縁抵抗を有し、その一方で本発明による超音波振動子は、高い結合係数で顕著な厚み振動を有する。
【0036】
驚くべきことに、リン酸添加剤を使用して、巨大な粒成長の抑制および均一で微粒子状の構造がもたらされ、脱分極温度の位置が、リン添加の種類および量によってある範囲内で影響を受ける場合があることは、まだ注目されていない。
【0037】
微粉砕またはスプレー造粒の間にリン酸添加剤を添加することができる。しかし、流延スラリーの調製の間にリン酸分散剤および/または添加剤を使用すること、またはそのようなスラリーの調製の間にリン酸バインダーを使用することも考えられる。
【0038】
リン酸分散剤および/または添加剤を適切に選択すると、微粉砕、流延またはスプレースラリーの粘性が悪影響を受けないという技術的な利点がもたらされる。
【0039】
さらに、リンの導入を使用することができ、それは、典型的な原料汚染および典型的な分散剤濃度で導入される値よりかなり大きく、その場合には、添加されるリン量は、対象を絞った様式で設定することができる。
【0040】
リンを含む液体を使用して、原料の混合または固体の浸透中にリンを添加することが1つの可能な選択肢である。しかし、アクセプタードーパントとしてリンを基本組成に組み入れることも考えられる(リンによるチタンの部分的な置き換え)。
【0041】
本発明による材料へのリンの添加を、ほぼあらゆる任意のリン酸材料の形態で行うことができることが示された。リン酸二水素カリウムまたはリン酸二水素アンモニウムは特に好ましいリン酸材料であるが、リンの添加は任意の他のリン酸材料によっても行うことができる。
【0042】
本出願の発明者らは、脱分極温度のある程度の低下がリン酸材料の添加に伴って起こることを研究によって実証した。脱分極温度の低下の効果は、この場合、異なるリン酸材料に応じて異なる。このように、例えば、リン酸二水素アンモニウムを添加する場合、リン酸二水素カリウムの添加の際よりも実質的により大きい脱分極温度の低下が生じることが示された。この予期しない効果は、本発明が、圧電セラミック材料のそうでなければ均一な特性と共に、付加的なリン酸材料の選択によってある範囲内で脱分極温度の低下を制御することができるというさらなる利点を有するという結果を有する。特定の脱分極温度が、圧電セラミック材料の所望の使用目的に依存して求められるので、これは重要である。脱分極温度のできるだけ小さな低下を求めることは一般に望ましく思われる一方、脱分極温度のより強い低下を達成することは、特定の適用について完全に有用であり得る。これは、圧電セラミック材料が非常に狭い温度間隔において機能的であるだけでよい使用目的に特に当てはまる。圧電セラミック材料の望ましい圧電特性が低温から脱分極温度に近づくと改善するので、そのような適用について、脱分極温度のより強い低下を求めることは完全に合理的であり得る。
本発明は、さらにまた、前述の基本組成のチタン酸ビスマスナトリウム(BST)系の圧電セラミック材料でのリン酸材料を使用して、巨大な粒成長を低減し、かつ均一で微粒子状の構造を達成することに関し、ここで、リン酸材料は、圧電セラミック材料中のリンの濃度が100〜2000ppm、特に250〜2000ppm、より好ましくは270〜1800ppmであるような量で使用される。本発明は、例示の実施形態および比較実験の記載に基づいてより詳細に以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、サンプル製造の一般的な技術順序を記載している。
図2図2(表1のサンプル1a〜1f)は、焼結温度への依存性における基本組成0.85(Bi0.5Na0.5)TiO−0.12BaTiO−0.03SrTiOについての焼結密度の曲線を示す。
図3】対応する光顕微鏡検査構造記録(図3)は、微粒子状の不十分に圧密された材料から調査した温度範囲の中央での巨大な粒成長へ、およびより高い焼結温度での粗粒子状の構造への推移を示す。
図4】サンプル温度に伴う絶縁抵抗の極端な低下は、不都合であることが分かった(図4、サンプル1a〜1f)。
図5a】許容できない導電率は、より高い電界強度およびより高温でのサンプル電流の記述において明白に認識可能である(図5a、サンプル1a〜1f)。
図5b】許容できない導電率は、より高い電界強度およびより高温でのサンプル電流の記述において明白に認識可能である(図5b、サンプル1d)。
図6】異なる温度で焼結されたサンプル(図6、サンプル1a〜1f)についてのインピーダンスの曲線および厚み振動の相の記述は、構造と共振挙動との関係を開示している(各場合に3つの個別のサンプルを示す)。
図7】光顕微鏡検査構造記録(図7、サンプル2a〜2h)からわかるように、本発明による≧250ppmのリンの添加は、均一で微粒子状の構造の生成を引き起こす。
図8図8(サンプル2a、2b、2c、2cおよび2g)は、本発明による≧250ppmのリンの量の添加の際に圧密の著しい向上を示す。
図9】より高温度では比絶縁抵抗のかなりの増加が多数桁で示される(図9、サンプル2a〜2h)。
図10a図10aは、本発明による≧250ppmのリンの割合で、サンプル電流のかなりの低下が高温でさえ認められることを明らかにする。
図10b図10bは、本発明による≧250ppmのリンの割合で、サンプル電流のかなりの低下が高温でさえ認められることを明らかにする。
図10c図10cは、本発明による≧250ppmのリンの割合で、サンプル電流のかなりの低下が高温でさえ認められることを明らかにする。
図10d図10dは、本発明による≧250ppmのリンの割合で、サンプル電流のかなりの低下が高温でさえ認められることを明らかにする。
図10e図10eは、本発明による≧250ppmのリンの割合で、サンプル電流のかなりの低下が高温でさえ認められることを明らかにする。
図11】異なる温度で焼結されたサンプルの特徴のある共鳴曲線を観察する場合、このように、本発明による≧250ppmのリンの割合で、異なる温度で焼結されたサンプル間の差は実質的に低減され、したがって、焼結間隔は、驚くべきことに、技術的に使用可能で、容易に実装可能な温度範囲に広げられ得ることは注目に値する(図11)。
図12図12(サンプル2a、2c〜2h、2j〜2l)は、異なるリン源および割合についての、脱分極温度Tdを表す。
図13図13は、本発明による組成物についての25〜150℃の温度範囲での電気機械的伸びおよびサンプル電流を示す。
図14図14(サンプル3)は、本発明による組成物についての25〜150℃の温度範囲での電気機械的伸びおよびサンプル電流を示す。
【実施例】
【0044】
以下に説明する測定結果は、基本系x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiOに関する。
【0045】
図1は、サンプル製造の一般的な技術順序を記載している。特許請求の範囲に記載されるようなリン酸材料の添加を行うことができる技術ステップは、「」で規定されている。
【0046】
原料の混合およびか焼物の微粉砕を、各々、撹拌器ビーズミルで行った。
【0047】
特に、次の技術ステップの間にリンの添加を行った:
FM 微粉砕
G 造粒中の添加
VS フィルム製造のための有機スラリー化の間の添加
【0048】
次の分類にしたがって構造の特性評価を行った:
0 処理することができない材料
1 微粒子状の均一構造
2 不均一構造、巨大な粒成長
3 粗粒子状の構造
【0049】
浮力法にしたがって、焼結されたシリンダ上でサンプル密度を決定し、規定焼結温度についての平均値として、または規定温度範囲で測定可能な電気的な値を有する最低焼結温度についての「g/cmでの密度」として明示する。
【0050】
電気計測については、直径12mm、絶縁端0.5mm、および厚さ0.5mmの金属化サンプルを使用した。80℃、15分間、5kV/mmで分極を行った。
【0051】
測定値のばらつきが強く、共鳴曲線が乱れており、または最大位相角が放射または厚み振動において過度に低いサンプルを「S」で識別する。
【0052】
放射および厚み振動の結合係数はそれぞれkおよびkである。
【0053】
脱分極温度Tは、一般に、分極したサンプルの誘電率の温度依存性において変曲点として定義する。
【0054】
比絶縁抵抗ρisを、室温から200℃までの温度上昇で、分極したサンプル上で50Vで決定する。
【0055】
電気機械的伸びSを、2kV/mmでレーザー干渉計によって決定する。室温での値、および関連するサンプル電流Iを表に明示する。
【0056】
調査した温度範囲での特性値を表2に示す。
【0057】
図形および光顕微鏡検査構造記録は、それぞれのサンプル番号の下の表に定義された組成に関する。
【0058】
先行技術および是正される欠陥をより詳細に以下に記載する。
【0059】
【表1】
【0060】
図2(表1のサンプル1a〜1f)は、焼結温度への依存性における基本組成0.85(Bi0.5Na0.5)TiO−0.12BaTiO−0.03SrTiOについての焼結密度の曲線を示す。低い焼結温度での低密度、狭い焼結間隔、およびサンプルの分解(蒸発Bi、Na)によって引き起こされる高い焼結温度での密度の低下は特徴的である。
【0061】
対応する光顕微鏡検査構造記録(図3)は、微粒子状の不十分に圧密された材料から調査した温度範囲の中央での巨大な粒成長へ、およびより高い焼結温度での粗粒子状の構造への推移を示す。
【0062】
サンプル温度に伴う絶縁抵抗の極端な低下は、不都合であることが分かった(図4、サンプル1a〜1f)。結果は、不十分または不明確な分極、および過度に低いまたは強く変化する電気的な値である。
【0063】
許容できない導電率は、より高い電界強度およびより高温でのサンプル電流の記述において明白に認識可能である(図5a、サンプル1a〜1f、5b、サンプル1d)。アクチュエータの動作温度は、このように著しく制限される。
【0064】
異なる温度で焼結されたサンプル(図6、サンプル1a〜1f)についてのインピーダンスの曲線および厚み振動の相の記述は、構造と共振挙動との関係を開示している(各場合に3つの個別のサンプルを示す)。材料は、以下を特徴とする:
・それぞれの焼結温度での曲線形状の強いばらつき、
・焼結温度のばらつきの際の曲線形状の強いばらつき、および
・より高い焼結温度での極めて乱れた共振挙動。
【0065】
データを表1にまとめる。
【0066】
したがって、適用された焼結温度のどれも、十分に良好で再現可能な電気的または電気機械的な値をもたらさず、以前の技術は大規模工業製造に適していない。
【0067】
比較可能な挙動を、サンプル2a、5a、9a、10a、14および15によって示す。これらを表2に記載するが、特許請求の範囲には含まれない。
【0068】
【表2】
【0069】
以下の例示の実施形態は、本発明によって製造された組成物の挙動を示す。
【0070】
例示の実施形態1:
基本組成0.85(Bi0.5Na0.5)TiO−0.12BaTiO−0.03SrTiOをフローチャート(図1)にしたがって処理し、
・リン酸分散剤を微粉砕の間に添加し(PE169、製造者Akzo Nobel)、
・またはリン酸二水素カリウムを造粒中にバインダーへの添加によって導入した。
【0071】
2275ppmのP(TP)のサンプル2iおよび2695ppmのP(ADP)のサンプル2mは、このように処理することができない。
【0072】
光顕微鏡検査構造記録(図7、サンプル2a〜2h)からわかるように、本発明による≧250ppmのリンの添加は、均一で微粒子状の構造の生成を引き起こす。
【0073】
図8(サンプル2a、2b、2c、2cおよび2g)は、本発明による≧250ppmのリンの量の添加の際に圧密の著しい向上を示す。
【0074】
さらに、驚くべきことに、より高温度では比絶縁抵抗のかなりの増加が多数桁で示される(図9、サンプル2a〜2h)。このように、サンプルの十分に良好で再現可能な分極は、250ppmから確保される。
【0075】
図10a〜10eは、本発明による≧250ppmのリンの割合で、サンプル電流のかなりの低下が高温でさえ認められることを明らかにする。このように、アクチュエータの動作は、より高い動作温度でも可能である。
【0076】
サンプル特性のばらつきを実質的に低減する。異なる温度で焼結されたサンプルの特徴のある共鳴曲線を観察する場合、このように、本発明による≧250ppmのリンの割合で、異なる温度で焼結されたサンプル間の差は実質的に低減され、したがって、焼結間隔は、驚くべきことに、技術的に使用可能で、容易に実装可能な温度範囲に広げられ得ることは注目に値する(表3a、3b、図11)。
【0077】
【表3a】
【0078】
【表3b】
【0079】
驚くべきことに、脱分極温度はリン酸材料の選択によって広範囲に設定され得る。図12(サンプル2a、2c〜2h、2j〜2l)は、異なるリン源および割合についての、脱分極温度Tdを表す。したがって、特に適用のために脱分極温度を変える可能性が広げられる。
【0080】
例示の実施形態2:
表2によるサンプル3、4、5b、6および2nは、本発明による変更のさらなる例であり、それは、基本組成0.85(Bi0.5Na0.5)TiO−0.12BaTiO−0.03SrTiOの大規模工業プロセスにおいて適用可能である。
【0081】
実施例3および5bにおいて、材料を微粉砕までリンなしで処理し、リンを、最初にスプレー造粒のためのスラリー化の間に添加したことを本質的な技術的利点と見なすことができる。
【0082】
実施例4、6において、リンの添加を微粉砕の間に行い、実施例2nにおいて、フィルム流延のための有機スラリー化の間に行った。
【0083】
一次成形プロセス(圧密またはフィルム流延)と無関係に微粉砕まで大規模な工業材料処理を均一に行うことは有利であり、したがって、リン添加の種類および量は、それぞれの成形プロセスに最良に適合させることができる。
【0084】
しかし、粘性決定リン酸分散剤またはバインダー、および実質的に「粘性中立」添加剤(KDPまたはADP)の可能な組み合わせも有利であり得る。
【0085】
図13および14(サンプル3)は、本発明による組成物についての25〜150℃の温度範囲での電気機械的伸びおよびサンプル電流を示す。
【0086】
例示の実施形態3:
表2は、本発明によるさらなる例として、BaTiOおよびSrTiOの割合に関する、基本組成x(Bi0.5Na0.5)TiO−yBaTiO−zSrTiOのばらつきを含む。
【0087】
【表4】
表2からの抜粋
【0088】
範囲y≧0.10では、材料系は、基本組成0.85(Bi0.5Na0.5)TiO−0.12BaTiO−0.03SrTiOとしてのリン変更に対して同様に挙動する。
【0089】
範囲y<0.10は、上の請求された値の範囲でリンの割合を必要とする。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図10d
図10e
図11
図12
図13
図14