(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475758
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材と拡管された鋼管並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20190218BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20190218BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20190218BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/04
C22C38/38
C21D8/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-573751(P2016-573751)
(86)(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公表番号】特表2017-525841(P2017-525841A)
(43)【公表日】2017年9月7日
(86)【国際出願番号】KR2014011531
(87)【国際公開番号】WO2015194717
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0073369
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ ハク チョル
(72)【発明者】
【氏名】ソ イン シク
(72)【発明者】
【氏名】イ スン ギ
(72)【発明者】
【氏名】イ ホン ジュ
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−515864(JP,A)
【文献】
特開平09−249940(JP,A)
【文献】
特開平10−121202(JP,A)
【文献】
特表2009−506206(JP,A)
【文献】
特開2012−036439(JP,A)
【文献】
特表2008−528809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/00
C21D 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
前記C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たしており、
微細組織がオーステナイト単相組織からなることを特徴とする拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材。
【請求項2】
質量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、
前記C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たしており、
微細組織が、5〜50面積%のマルテンサイトと50〜95面積%のオーステナイトからなることを特徴とする拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管された鋼管。
【請求項3】
質量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、前記C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たす鋼スラブを再加熱した後、仕上げ圧延温度が850〜1050℃になるように熱間圧延して熱延鋼材を得る段階と、
前記熱延鋼材を5℃/s以上の速度で600℃以下まで冷却する段階と、を含むことを特徴とする拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材の製造方法。
【請求項4】
質量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部がFe及びその他の不可避不純物からなり、前記C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たしており、
微細組織がオーステナイト単相組織からなる熱延鋼材を造管して鋼管を得る段階と、
前記鋼管を拡管する段階と、を含むことを特徴とする拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管された鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記鋼管を得る段階後に、前記鋼管の横断面の形状が円形を有するように前記鋼管の形状を調整する加工を行う段階を更に含むことを特徴とする請求項4に記載の拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管された鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材と拡管された鋼管並びにこれらの製造方法に係り、より詳しくは、微細組織がオーステナイト単相組織からなる鋼材および微細組織がマルテンサイトとオーステナイトからなる鋼管を含む拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材と拡管された鋼管並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地表から地下の油田まで鋼管を敷設するためには、まず地表から所定の深さまで掘削し、ケーシングと呼ばれる鋼管を埋設することで、壁の崩壊を防止する。その後、ケーシングの先端から更に地下を掘削して、より深い井戸を掘り、先に埋設したケーシングの内部を介して新しいケーシングを埋設する。この作業を繰り返すことで、最終的に油田に達する油井管(チュービング)を敷設する。非常に深い井戸を掘削する場合は、直径が異なる多くの種類のケーシングを必要とする。これは、原油やガスを介する油井管の直径は決まっているためである。これにより、直径方向における掘削面積を広くする必要がある。したがって、ケーシングとして用いられるための鋼管には、優れた拡管性が求められる。
【0003】
一方、このような鋼管は、内部から外部方向に引張応力が与えられて拡管されるが、鋼管に外圧による応力が外部から内部方向に与えられた場合、すなわち、圧縮応力がかかった場合は、この圧縮応力に対する耐力が急激に低下するという問題がある。これは、バウシンガー効果(Bauschinger’s effect)として知られているが、塑性変形後に、塑性のための方向の応力とは反対の応力を加える場合、元から有していた圧縮降伏強度より低い応力でも変形が生じるという現象が原因である。したがって、拡管用鋼管には、優れた拡管性だけでなく、優れた圧壊(collapse)抵抗性を発揮することができる高いレベルの圧縮降伏強度も求められる。
【0004】
従来は、拡管用鋼管の製造のためには、延伸率に優れた低強度のフェライト−パーライト組織を有する炭素鋼を用いた。このような代表的な技術として特許文献1が挙げられる。炭素鋼の場合は、拡管性が20%未満の低い水準であるため、拡管用鋼材として用いるのに限界があり、拡管後の強度の確保も容易ではないだけでなく、バウシンガー効果が原因で圧壊抵抗性が低いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4833835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた拡管性及び圧壊抵抗性を有する高強度拡管用鋼材と拡管された鋼管並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、重量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たしており、微細組織がオーステナイト単相組織からなる拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材を提供する。
【0008】
本発明の他の実施形態は、重量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たしており、微細組織が、5〜50面積%のマルテンサイトと50〜95面積%のオーステナイトからなる拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管された鋼管を提供する。
【0009】
本発明の更に他の実施形態は、重量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たす鋼スラブを再加熱した後、仕上げ圧延温度が850〜1050℃になるように熱間圧延して熱延鋼材を得る段階と、熱延鋼材を5℃/s以上の速度で600℃以下まで冷却する段階と、を含む拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管用鋼材の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の更に他の実施形態は、重量%で、Mn:12〜18%、C:0.3〜0.6%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、C及びMnは、23≦35.5C+Mn≦38の条件を満たしており、微細組織が、オーステナイト単相組織からなる熱延鋼材を造管して鋼管を得る段階と、鋼管を拡管する段階と、を含む拡管性及び圧壊抵抗性に優れた高強度拡管された鋼管の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、均一延伸率に優れ、高い拡管性を有するだけでなく、造管後の鋼材の形状が円形になるようにするための加工時にマルテンサイトが形成されるようにすることによって、優れた圧縮降伏強度を有する拡管用鋼材及び拡管された鋼管、並びにこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による実施例3の微細組織写真である。
【
図2】本発明の範囲を外れる比較例5の微細組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、従来の拡管用鋼材が有していた問題を解決するための研究を行っていたところ、高マンガン鋼は、オーステナイト系鋼材特有の優れた均一延伸率を有するため優れた拡管性を確保することができ、且つ正偏析帯と負偏析帯の合金組成の違いにより、負偏析帯のオーステナイト安定度が低くなることを見出した。これにより、拡管による変形を行うことによって負偏析帯のオーステナイトがマルテンサイトに変態するようにして、組織の内部に多量の転位マルテンサイトを生成させることにより、バウシンガー効果を低下させることができるという知見を得て、本発明を完成させた。
【0015】
マンガン(Mn):12〜18重量%
Mnは、代表的なオーステナイト安定化元素であって、均一延伸率を向上させて拡管性を改善させることができる。また、Mnは、鋳造時に鋼材の内部に偏析するという現象を起こす。本発明では、この現象を利用し、拡管時に、Mnの偏析が活発に行われる正偏析帯ではオーステナイトが安定して存在するように、一方正偏析帯に比べてMnの含有量が少ない負偏析帯ではオーステナイトがマルテンサイトに変態するようにして、最終的には鋼材の厚さ方向にオーステナイトとマルテンサイトとが反復的な層状構造を有するようにして圧壊抵抗性を向上させた。
但し、Mnが12重量%未満の場合は、オーステナイトの安定化度が低下して、マルテンサイト組織が形成される可能性がある。その結果、オーステナイト単相組織を確保することが困難になるために拡管性が低下する可能性がある。また、18重量%を超えた場合は、負偏析帯におけるオーステナイト安定化度が過度に高くなり、拡管による変形を加えてもマルテンサイトに変態しないことがあるという問題が発生する。
よって、Mnの含有量は、12〜18重量%の範囲を有することが好ましい。また、Mnの下限は、より好ましくは13重量%、更に好ましくは14重量%である。更に、Mnの含有率の上限は、より好ましくは17重量%、更に好ましくは16重量%である。
【0016】
炭素(C):0.3〜0.6重量%
Cは、オーステナイト安定化元素であって、均一延伸率を向上させる役割を果たすだけでなく、強度を向上させ、加工硬化率を高めるのに有利な元素である。また、Cも、Mnが偏析する領域に偏析しやすいため、拡管後の微細組織がオーステナイトとマルテンサイトとの反復的な層状構造を有するようにすることによって圧壊抵抗性を向上させる役割を果たす。
但し、Cの含有量が0.3重量%未満の場合は、強度及び加工硬化率の向上効果が低下する可能性があるだけでなく、Mnと同様に、オーステナイト安定化度が低下してマルテンサイト組織が形成されることがある。その結果、オーステナイト単相組織を確保することが困難になるため拡管性が低下するおそれがある。また、0.6重量%を超えた場合には、カーバイドが多く析出して均一延伸率を低下させ、優れた拡管性を確保することが困難となり得る。また、負偏析帯におけるオーステナイト安定化度が過度に高くなり、拡管による変形が加わってもマルテンサイトに変態しないという問題が発生する可能性がある。
よって、Cの含有量は、0.3〜0.6重量%の範囲を有することが好ましい。また、Cの下限は、より好ましくは0.35重量%、更に好ましくは0.4重量%である。なお、Cの上限は、より好ましくは0.55重量%、更に好ましくは0.5重量%である。
【0017】
本発明が提案する鋼材は、Mn及びCが上記の組成範囲を満たすとともに、23≦35.5C+Mn≦38で表される成分関係式を満たすことが好ましい。
式35.5C+Mnの値が23未満の場合には、オーステナイト安定化度が減少して、オーステナイト単相組織を得ることが困難になために拡管性が低下する可能性がある。また、式35.5C+Mnの値が38を超える場合には、オーステナイト安定化度が過度に増加して拡管後も負偏析帯においてオーステナイトがマルテンサイトに変態しないという問題が発生して、圧壊抵抗性が低下するおそれがある。
【0018】
本発明が提案する鋼材は、上述した合金組成及び成分関係式を満たす場合には、追加の合金元素を添加しなくても、優れた拡管性及び圧壊抵抗性を確保することができる。但し、後述するような理由により、Cr5重量%以下、又はCu2重量%以下のうちの1種または2種を更に含むことができる。
【0019】
クロム(Cr):5重量%以下
Crは、強度を向上させるのに有利な元素である。但し、Crが5重量%を超えた場合は、カーバイドが多量に析出して延伸率が低下する可能性がある。
【0020】
銅(Cu):2重量%以下
Cuは、延伸率を向上させるのに有利であるだけでなく、耐腐食性を向上させる元素である。但し、Cuが2重量%を超えた場合は、オーステナイトが安定化しすぎるために、オーステナイトがマルテンサイトに変態することが困難になり得る。
【0021】
一方、本発明の鋼材は、アルミニウム(Al)を微量含んでもよい。しかし、Alは、オーステナイトを安定化させる元素であり、負偏析帯においてオーステナイトがマルテンサイトに変態するのを妨害し、拡管を行ってもオーステナイト単相組織が形成されることがあるため、本発明ではAlを含まないことが好ましい。
【0022】
本発明が提案する鋼材は、オーステナイト単相組織を有することが好ましく、これにより、優れた均一延伸率及び加工硬化率を確保することができる。但し、本発明の鋼材の微細組織は、製造工程上必然的に形成されるカーバイド析出物を含むことがある。カーバイド析出物の上限は1面積%以下に制限することが好ましい。カーバイド析出物の上限が1面積%を超えた場合には、延伸率が低下して優れた拡管性を確保することが困難となり得る。
【0023】
また、本発明の鋼材は、拡管工程を行うことにより負偏析帯においてオーステナイトがマルテンサイトに変態するようにして、組織の内部に多量の転位マルテンサイトを生成させ、マルテンサイトと正偏析帯のオーステナイトとが鋼材の厚さ方向に交互に存在する層状構造の微細組織を有するようにすることにより、バウシンガー効果を低減させることができる。
【0024】
マルテンサイト及びオーステナイトは、それぞれ5〜50面積%及び50〜95面積%の分率を有することが好ましい。ここで、マルテンサイトが50面積%を超えるか、またはオーステナイトが50%未満の場合には、多量に形成されるマルテンサイト内にクラックが発生し、更にオーステナイトの分率も不足して、延伸率が低下する可能性がある。また、マルテンサイトが5面積%未満であるか、もしくはオーステナイトが95面積%を超えた場合は、バウシンガー効果の低減が容易ではないため圧縮降伏強度が低くなるおそれがある。
【0025】
上述のように、本発明は、上記の合金組成を有し、微細組織が、5〜50面積%のマルテンサイトと50〜95面積%のオーステナイトからなる鋼管を提供することができる。これにより、両端が固定された拡管試験時に、30%以上の拡管率を確保することができ、オーステナイトとマルテンサイトが径方向に交互に存在する層状構造を有するようにすることにより、拡管後に500MPa以上の優れた圧縮降伏強度を確保し、高い圧壊抵抗性を有することができる。
【0026】
以下、本発明の鋼材及び鋼管の製造方法について説明する。
【0027】
まず、上述の合金組成を有する鋼スラブを再加熱した後、熱間圧延して熱延鋼材を得る。このとき、上記熱間圧延は、仕上げ圧延温度が850〜1050℃になるようにして行うことが好ましい。上記仕上げ圧延温度が850℃未満の場合は、カーバイドが析出して均一延伸率が低下する可能性があり、微細組織がパンケーキ化して、組織異方性に起因する不均一延伸が発生するおそれがある。また、上記仕上げ圧延温度が1050℃を超えた場合には、結晶粒が粗大化し、強度が低下するという問題が発生する可能性がある。よって、上記仕上げ圧延温度は、850〜1050℃の範囲を有することが好ましい。一方、上記再加熱は、当該技術分野で通常的に用いられる温度範囲内で行われればよいため、本発明では上記再加熱温度の範囲について特に限定しない。
【0028】
熱間圧延を通じて得られる熱延鋼材を5℃/s以上の速度で600℃以下まで冷却することが好ましい。これにより、結晶粒界において炭化物が析出するのを抑制し、拡管性の低下を防止することができる。冷却速度が5℃/s未満であるか、または冷却停止温度が600℃を超えた場合には、カーバイドが析出し、延伸率が低下するという問題が発生する可能性がある。よって、冷却は、5℃/s以上の速度で600℃以下まで行われることが好ましい。冷却速度は、10℃/s以上の速度を有することがより好ましく、15℃/s以上の速度を有することが更に好ましい。但し、工程条件上限界があるため、500℃/sを超えることは困難である。冷却停止温度も600℃以下の条件を満たしていれば、本発明の効果を得ることができるため、その下限については特に限定しない。冷却停止温度は500℃以下であることがより好ましい。
【0029】
その後、鋼管を製造するために、上記のように冷却された熱延鋼材を造管して鋼管を得る。但し、このようにして得られる鋼管は、その形状が円形を有していないことから、製品として用いることが困難であるため、上記鋼管の形状を調整する加工を行い、上記鋼管の形状が円形を有するようにすることが好ましい。このとき、加工は、上記鋼管を1〜10%の変形率で縮管または拡管する工程であってもよい。ここで、上記拡管は、鋼管製造後にケーシングなどの製品に適用されて拡管する場合とは区別されることに留意する必要がある。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を通じて本発明を詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明をより詳細に説明するための例示であるだけで、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0031】
(実施例)
下記表1のような合金組成を有する鋼スラブを、表2に記載された条件を用いて熱延鋼材を得た。この熱延鋼材を造管して鋼管を得た後、鋼管の形状が円形になるように5%の変形率で加工を行った。このようにして得られた鋼管に対して、微細組織の分率及び拡管率を測定し、その結果を下記表3に示した。また、鋼管に対して30%の拡管率で拡管を行った後、微細組織の分率及び圧縮降伏強度を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
上記表1〜3から分かるように、本発明が提案する合金組成と製造条件とを満たしている実施例1〜6の場合は、拡管前にはオーステナイト単相組織を有するが、拡管後は5〜50面積%のマルテンサイトと50〜95面積%のオーステナイトとからなる微細組織を確保することで、優れた拡管率及び圧縮降伏強度を有することが分かる。
【0036】
これに対し、比較例1〜3の場合は、本発明が提案する合金組成を有するとはいえ、製造条件を満たしていないため、それぞれ圧延中(比較例1)、冷却中(比較例2)、冷却完了後(比較例3)に炭化物が析出し、均一延伸率が低下するため、拡管率が著しく低くなることが分かる。更に、拡管時に破断が発生するため、圧縮降伏強度を測定することが不可能であった。
【0037】
比較例4の場合は、本発明が提案する成分関係式の値が23以上であるという条件を満たしていないため、負偏析帯に先にマルテンサイトが生成し、拡管後もマルテンサイトが過剰に生成するため、拡管率が低い水準であったことが分かる。
【0038】
比較例5の場合は、本発明が提案する成分関係式の値が38以下であるという条件を満たしていないため、オーステナイトが過度に安定化して拡管後のマルテンサイトへの変態が少なくなり、その結果、バウシンガー効果が大きくなり、圧縮降伏強度が低い水準であることが分かる。
【0039】
比較例6の場合は、Cの含有量が非常に低く、マルテンサイトに変態しても、組織の内部にCの量が少ないため、圧縮降伏強度が低い水準であることが分かる。
【0040】
図1は実施例3の微細組織写真であり、
図2は比較例5の微細組織写真である。
図1に示すように、本発明の条件を満たしている場合は、拡管後に適正分率のマルテンサイトが形成されることが分かる。一方、本発明の合金組成を満たしていない場合は、
図2に示すように、マルテンサイトが少ししか形成されないためにバウシンガー効果が大きくなってしまったことが分かる。