特許第6475809号(P6475809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6475809
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】球状黒鉛鋳鉄とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/04 20060101AFI20190218BHJP
   C21D 5/00 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C22C37/04 F
   C21D5/00 T
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-209530(P2017-209530)
(22)【出願日】2017年10月30日
【審査請求日】2017年12月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月10日に公益社団法人日本鋳造工学会が発行した第169回全国講演大会講演概要集の第7頁にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月27日に東京都市大学世田谷キャンパスで開催された公益社団法人日本鋳造工学会の第169回全国講演大会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000125842
【氏名又は名称】虹技株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091834
【弁理士】
【氏名又は名称】室田 力雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】井上 達央
(72)【発明者】
【氏名】西川 進
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−264644(JP,A)
【文献】 特開平02−166257(JP,A)
【文献】 特開2017−039977(JP,A)
【文献】 米国特許第04484953(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/00− 37/10
C21D 5/00− 5/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C+1/3Siで計算される炭素当量が3.8〜4.6の球状黒鉛鋳鉄であって、球状黒鉛を分散させた基地組織が、フェライト、ベイナイト、及びオーステナイトからなる3組織混合基地組織からなり、
成分組成として、質量パーセントで、
:3.3〜4.0%、
Si :1.5〜4.0%、
Mn :1.0〜2.0%、
Cu+Ni :1.0〜6.5%、
Mg :0.015〜0.060%、
Al :0.02〜0.20%、
を含有し、残部がFeからなることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄。
【請求項2】
成分組成として、質量パーセントで、
C :3.5〜4.0%、
Si :1.8〜3.0%
Mn :1.0〜1.6%
Cu+Ni :1.0〜5.0%
Mg :0.020〜0.060%、
Al :0.03〜0.15%
を含有し、残部がFeからなり、
且つC+1/3Siで計算される炭素当量が4.1〜4.5であることを特徴とする請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄。
【請求項3】
引張強さが728〜880MPaで、伸びが13〜19%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状黒鉛鋳鉄。
【請求項4】
鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、
C :3.0〜4.0%、
Si :1.5〜4.5%
Mn :0.5〜3.0%
Cu+Ni :0.5〜8.0%
Mg :0.015〜0.060%、
Al :0.01〜0.20%
を含有し、残部がFeからなり、
先ず鋳放し工程として、C+1/3Siで計算される炭素当量が3.5〜4.7の溶湯を球状化処理後に鋳込み、これによってパーライトの基地組織中に、球状黒鉛若しくは周囲にフェライトの析出した球状黒鉛が分散した鋳放し鋳鉄とし、
次に予備処理工程を経て或いは経ることなく熱処理工程に進み、
熱処理工程では、前記鋳放し鋳鉄若しくは前記予備処理工程を経た予備処理鋳鉄を、先ず第1熱処理温度600〜780℃に一定時間保持し、これによって前記パーライトの基地組織を分解することで、フェライトの基地組織中に、オーステナイトとセメンタイト及び球状黒鉛が分散した第1熱処理鋳鉄とし、
次に前記第1熱処理鋳鉄を、引き続いて、前記第1熱処理温度600〜780℃から100〜70℃上昇させてなるフェライトとオーステナイトの2組織共存温度領域の第2熱処理温度700〜850℃に一定時間保持し、これによって前記第1熱処理鋳鉄のフェライトの基地組織をフェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織にすると共に、セメンタイトを固溶させることで、フェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第2熱処理鋳鉄とし、
次に前記第2熱処理鋳鉄を、引き続いて、前記第2熱処理温度からベイナイト変態温度領域の第3熱処理温度250〜450℃に急冷して一定時間保持し、これによって前記第2熱処理鋳鉄のフェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織中のオーステナイトをベイナイトと残留オーステナイトにし、よってフェライト、ベイナイト、オーステナイトからなる3組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第3熱処理鋳鉄とし、その後冷却して、前記第3熱処理鋳鉄の組織を維持した球状黒鉛鋳鉄を得ることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄の製造方法
【請求項5】
予備処理工程においては、鋳放し鋳鉄を、先ず第1予備処理温度900〜1100℃に一定時間保持して、鋳放し鋳鉄をオーステナイト化することで、オーステナイト基地組織中に球状黒鉛が分散した組織とし、次に前記第1予備処理温度からパーライト変態温度領域である第2予備処理温度500〜700℃に急冷して一定時間保持し、これによってオーステナイト基地組織をパーライト化することで、パーライト基地組織中に球状黒鉛が分散した予備処理鋳鉄を得ることを特徴とする請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法
【請求項6】
鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、
:3.3〜4.0%、
Si :1.5〜4.0%、
Mn :1.0〜2.0%、
Cu+Ni :1.0〜6.5%、
Mg :0.015〜0.060%、
Al :0.02〜0.20%、
を含有し、残部がFeからなり、
且つ炭素当量が3.8〜4.6であることを特徴とする請求項4又は5に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
【請求項7】
鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、
:3.5〜4.0%、
Si :1.8〜3.0%、
Mn :1.0〜1.6%、
Cu+Ni :1.0〜5.0%、
Mg :0.020〜0.060%、
Al :0.03〜0.15%、
を含有し、残部がFeからなり、
且つ炭素当量が4.1〜4.5であることを特徴とする請求項6に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状黒鉛鋳鉄とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球状黒鉛鋳鉄は高い強度と伸びが得られるが、その機械的性質は鋼には及んでいない。鋼並みの機械的性質が得られれば、球状黒鉛鋳鉄の使用用途を拡大することができる。その方法としては黒鉛の微細化等が考えられるが、黒鉛の微細化を図る場合には、鋳物の厚み等の形状に制限が生じる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53−134723号公報
【特許文献2】特開昭52−62116号公報
【特許文献3】特開昭62−89808号公報
【特許文献4】特開2017−39977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の発明は、微細なパーライトを有する球状黒鉛鋳鉄を開示している。この特許文献1の球状黒鉛鋳鉄は、パーライトを均質に分散させた球状黒鉛鋳鉄であるので、鋳放し状態のパーライト球状黒鉛鋳鉄よりも靱性に優れるが、引張強さが69.6〜55.3kg/mmで、伸びが15.8〜11.9%程度であり、強度、伸びともそれほど良好とは言えない。
上記特許文献2の発明は、フェライトとパーライトからなる球状黒鉛鋳鉄を開示している。即ち、軟らかいフェライトと硬めのパーライトの2組織混合の基地組織となる。この種、2組織混合基地組織の球状黒鉛鋳鉄は、一般的には、パーライト単独の基地組織の球状黒鉛鋳鉄よりも、伸びが増加する一方、強度が低下する傾向にある。
この特許文献2の球状黒鉛鋳鉄に限れば、引張強さが80〜70kg/mmで、伸びが13〜10%程度であり、伸びが多少劣る。
上記特許文献3、4の発明は、ベイナイトとオーステナイトからなる球状黒鉛鋳鉄が開示されている。即ち、硬いベイナイトと軟らかいオーステナイトの2組織混合の基地組織となる。この種、2組織混合基地組織の球状黒鉛鋳鉄は、一般的には、強度は高いが伸びが低い傾向にある。
特許文献3の球状黒鉛鋳鉄では、引張強さが100〜90kgf/mm、伸びが10〜5%程度であり、伸びが劣る。また特許文献4の球状黒鉛鋳鉄では、引張強さが1000〜880N/mm、伸びが14〜7%程度で、伸びが劣る。
【0005】
そこで本発明は上記従来技術の欠点を解消し、球状黒鉛鋳鉄の基地組織として、存在し得る各相を広く考慮し、強度と伸びの両方がより良好で、且つバランスのとれた基地組織を備えた球状黒鉛鋳鉄の提供、並びにその製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の球状黒鉛鋳鉄は、C+1/3Siで計算される炭素当量が3.8〜4.6の球状黒鉛鋳鉄であって、球状黒鉛を分散させた基地組織が、フェライト、ベイナイト、及びオーステナイトからなる3組織混合基地組織からなり、成分組成として、質量パーセントで、C:3.3〜4.0%、Si:1.5〜4.0%、Mn:1.0〜2.0%、Cu+Ni:1.0〜6.5%、Mg:0.015〜0.060%、Al:0.02〜0.20%、を含有し、残部がFeからなることを第1の特徴としている。
また本発明の球状黒鉛鋳鉄は、上記第1の特徴に加えて、成分組成として、質量パーセントで、C:3.5〜4.0%、Si:1.8〜3.0%、Mn:1.0〜1.6%、Cu+Ni:1.0〜5.0%、Mg:0.020〜0.060%、Al:0.03〜0.15%、を含有し、残部がFeからなり、且つC+1/3Siで計算される炭素当量が4.1〜4.5であることを第2の特徴としている。
また本発明の球状黒鉛鋳鉄は、上記第1又は第2の特徴に加えて、引張強さが、728〜880MPaで、伸びが13〜19%であることを第3の特徴としている。
また本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、C:3.0〜4.0%、Si:1.5〜4.5%、Mn:0.5〜3.0%、Cu+Ni:0.5〜8.0%、Mg:0.015〜0.060%、Al:0.01〜0.20%、を含有し、残部がFeからなり、
先ず鋳放し工程として、C+1/3Siで計算される炭素当量が3.5〜4.7の溶湯を球状化処理後に鋳込み、これによってパーライトの基地組織中に、球状黒鉛若しくは周囲にフェライトの析出した球状黒鉛が分散した鋳放し鋳鉄とし、
次に予備処理工程を経て或いは経ることなく熱処理工程に進み、
熱処理工程では、前記鋳放し鋳鉄若しくは前記予備処理工程を経た予備処理鋳鉄を、先ず第1熱処理温度600〜780℃に一定時間保持し、これによって前記パーライトの基地組織を分解することで、フェライトの基地組織中に、オーステナイトとセメンタイト及び球状黒鉛が分散した第1熱処理鋳鉄とし、
次に前記第1熱処理鋳鉄を、引き続いて、前記第1熱処理温度600〜780℃から100〜70℃上昇させてなるフェライトとオーステナイトの2組織共存温度領域の第2熱処理温度700〜850℃に一定時間保持し、これによって前記第1熱処理鋳鉄のフェライトの基地組織をフェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織にすると共に、セメンタイトを固溶させることで、フェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第2熱処理鋳鉄とし、
次に前記第2熱処理鋳鉄を、引き続いて、前記第2熱処理温度からベイナイト変態温度領域の第3熱処理温度250〜450℃に急冷して一定時間保持し、これによって前記第2熱処理鋳鉄のフェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織中のオーステナイトをベイナイトと残留オーステナイトにし、よってフェライト、ベイナイト、オーステナイトからなる3組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第3熱処理鋳鉄とし、その後冷却して、前記第3熱処理鋳鉄の組織を維持した球状黒鉛鋳鉄を得ることを第4の特徴としている。
また本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、上記第4の特徴に加えて、予備処理工程においては、鋳放し鋳鉄を、先ず第1予備処理温度900〜1100℃に一定時間保持して、鋳放し鋳鉄をオーステナイト化することで、オーステナイト基地組織中に球状黒鉛が分散した組織とし、次に前記第1予備処理温度からパーライト変態温度領域である第2予備処理温度500〜700℃に急冷して一定時間保持し、これによってオーステナイト基地組織をパーライト化することで、パーライト基地組織中に球状黒鉛が分散した予備処理鋳鉄を得ることを第5の特徴としている。
また本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、上記第4又は第5の特徴に加えて、鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、C:3.3〜4.0%、Si:1.5〜4.0%、Mn:1.0〜2.0%、Cu+Ni:1.0〜6.5%、Mg:0.015〜0.060%、Al:0.02〜0.20%、を含有し、残部がFeからなり、且つ炭素当量が3.8〜4.6であることを第6の特徴としている。
また本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、上記第6の特徴に加えて、鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、C:3.5〜4.0%、Si:1.8〜3.0%、Mn:1.0〜1.6%、Cu+Ni:1.0〜5.0%、Mg:0.020〜0.060%、Al:0.03〜0.15%、を含有し、残部がFeからなり、且つ炭素当量が4.1〜4.5であることを第7の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄によれば、C+1/3Siで計算される炭素当量が3.8〜4.6の球状黒鉛鋳鉄であって、球状黒鉛を分散させた基地組織が、フェライト、ベイナイト、及びオーステナイトからなる3組織混合基地組織からなり、成分組成として、質量パーセントで、C:3.3〜4.0%、Si:1.5〜4.0%、Mn:1.0〜2.0%、Cu+Ni:1.0〜6.5%、Mg:0.015〜0.060%、Al:0.02〜0.20%、を含有し、残部がFeからなるので、
フェライトによる伸びと、ベイナイトによる強度と、オーステナイトによる伸びと強度とを期待できる。また形状のよい球状黒鉛を晶出させることができると共に、共晶セメンタイトの晶出を防止することができる。よって良好な球状黒鉛を3組織混合基地組織に分散させた球状黒鉛鋳鉄として、良好な伸び、並びに良好な強度をバランスよく備えたものを得ることができる。またフェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織を微細且つ均一に分散させた3組織混合基地組織を安定して実現することができ、よって良好な機械的強度と伸びを備えた球状黒鉛鋳鉄を安定して提供することができる。
請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄によれば、上記請求項1に記載の構成による効果に加えて、鋳鉄の成分組成並びに炭素当量を、そこに記載した成分組成の範囲並びに炭素当量の範囲に限定したので、
フェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織を一層微細且つ均一に分散させた3組織混合基地組織を一層安定した状態で実現することができ、よって一層良好な機械的強度と伸びを備えた球状黒鉛鋳鉄を一層安定して提供することができる。
請求項3に記載の球状黒鉛鋳鉄によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による効果に加えて、引張強さが、728〜880MPaで、伸びが13〜19%であるので、
引張強さが十分に高く、加えて伸びも十分に良好な球状黒鉛鋳鉄を現に提供することができる。
【0008】
請求項4に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法によれば、鋳鉄の成分組成として、質量パーセントで、C:3.0〜4.0%、Si:1.5〜4.5%、Mn:0.5〜3.0%、Cu+Ni:0.5〜8.0%、Mg:0.015〜0.060%、Al:0.01〜0.20%、を含有し、残部がFeからなり、
鋳放し工程で、C+1/3Siで計算される炭素当量が3.5〜4.7の溶湯を球状化処理後に鋳込んで、パーライトの基地組織中に、球状黒鉛若しくは周囲にフェライトの析出した球状黒鉛が分散した鋳放し鋳鉄とし、
熱処理工程では、先ず第1熱処理温度である600〜780℃に一定時間保持して、フェライトの基地組織中にオーステナイトとセメンタイト及び球状黒鉛が分散した第1熱処理鋳鉄とし、
次に引き続いて第2熱処理温度である700〜850℃の2組織共存温度領域に温度を上昇させて一定時間保持し、これによってフェライトとオーステナイトからなる2組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第2熱処理鋳鉄とし、
次に第2熱処理温度からベイナイト変態温度領域である第3熱処理温度250〜450℃に急冷して、一定時間保持することでフェライト、ベイナイト、オーステナイトからなる3組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第3熱処理鋳鉄とし、
その後冷却して、第3熱処理鋳鉄の組織を維持した球状黒鉛鋳鉄を得たので、
フェライト、ベイナイト及びオーステナイトが十分に微細で且つ均一に分散した3組織混合基地組織からなる球状黒鉛鋳鉄を安定して得ることができる。よって強度に十分優れ、且つ伸びにも十分優れた、従来にない、球状黒鉛鋳鉄を提供することができる。
請求項5に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法によれば、上記請求項4に記載の構成による効果に加えて、予備処理工程においては、鋳放し鋳鉄を、先ず第1予備処理温度900〜1100℃に一定時間保持して、鋳放し鋳鉄をオーステナイト化することで、オーステナイト基地組織中に球状黒鉛が分散した組織とし、次に前記第1予備処理温度からパーライト変態温度領域である第2予備処理温度500〜700℃に急冷して一定時間保持し、これによってオーステナイト基地組織をパーライト化することで、パーライト基地組織中に球状黒鉛が分散した予備処理鋳鉄を得るので、
この予備処理工程によって、得られるパーライト基地組織を十分に微細化することができ、その微細化したパーライト基地組織に球状黒鉛が分散した予備処理鋳鉄を得ることができる。
よって、この予備処理鋳鉄を用いて更に熱処理工程を行うことで、得られる球状黒鉛鋳鉄のフェライト、ベイナイト、及びオーステナイトからなる3組織混合基地組織を、一層安定して、微細且つ均一にすることができる。よって更に一層、強度と伸びにも十分優れた球状黒鉛鋳鉄を提供することができる
請求項6に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法によれば、上記請求項4又は5に記載の構成による効果に加えて、鋳鉄の成分組成並びに炭素当量を、そこに記載した成分組成の範囲並びに炭素当量の範囲に更に限定したので、
フェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織を、より安定した状態で、微細且つ均一に分散させた3組織混合基地組織を実現することができ、よって球状黒鉛を3組織混合基地組織に分散させた球状黒鉛鋳鉄として、より良好な機械的強度と伸びを備えたものを一層安定して提供することができる。
請求項7に記載の球状黒鉛鋳鉄の製造方法によれば、上記請求項6に記載の構成による効果に加えて、鋳鉄の成分組成並びに炭素当量を、そこに記載した成分組成の範囲並びに炭素当量の範囲に更に一層限定したので、
フェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織を更に一層微細且つ均一に分散させた3組織混合基地組織を、更に一層安定して実現することができる。また形状も更に一層良好な球状黒鉛を、更に一層安定して実現することができる。よって更に一層良好な機械的強度と伸びを備えた球状黒鉛鋳鉄を安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における鋳放し工程による鋳放し鋳鉄の組織例1を示す図面代用写真である。
図2】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における鋳放し工程による鋳放し鋳鉄の組織例1を説明する模式図である。
図3】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における鋳放し工程による鋳放し鋳鉄の組織例2を示す図面代用写真である。
図4】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における鋳放し工程による鋳放し鋳鉄の組織例2を説明する模式図である。
図5】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における予備処理工程を説明する図である。
図6】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における予備処理工程の第1予備処理温度での処理により生じる組織例を示す模式図である。
図7】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における予備処理工程の第2予備処理温度での処理より生じる組織例を示す模式図である。
図8】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程を説明する図である。
図9】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程の第1熱処理温度での処理による第1熱処理鋳鉄の組織例を示す図面代用写真である。
図10】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程の第1熱処理温度での処理による第1熱処理鋳鉄の組織例を説明する模式図である。
図11】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程の第2熱処理温度での処理による第2熱処理鋳鉄の組織例を示す図面代用写真である。
図12】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程の第2熱処理温度での処理による第2熱処理鋳鉄の組織例を説明する模式図である。
図13】本発明を説明するFe−C−2.4%Siの3元系状態図である。
図14】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程の第3熱処理温度での処理による第3熱処理鋳鉄の組織例を示す図面代用写真である。
図15】本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法における熱処理工程の第3熱処理温度での処理による第3熱処理鋳鉄の組織例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の球状黒鉛鋳鉄とその製造方法について、使用する鋳鉄材料の成分組成における各成分元素の含有範囲について以下に説明する。なお、以下において含有量は質量%で記載する。
【0011】
Cの含有量は、3.0〜4.0%とする。
Cは球状黒鉛を晶出させるのに必須の元素である。Cの含有量が3.0%未満では、鋳造欠陥や引け巣、チル化が生じ易くなる。一方、4.0%を超えると、キッシュグラファイトが晶出し易く、強度と伸びの低下を招く。
Cの含有量は、引け巣、チル化の発生防止とキッシュグラファイトの晶出防止を考慮して、3.3〜4.0%が好ましく、更に好ましくは3.5〜4.0%とするのが良い。
【0012】
Siの含有量は、1.5〜4.5%とする。
Siは強い黒鉛化作用があり、添加量の1/3の割合で炭素当量に含まれる。Siの含有量が1.5%未満では、黒鉛化作用を十分発揮させることができない。また4.5%を超えると、黒鉛の球状化の不良を起こし易い。
Siの含有量は、Cの黒鉛化促進と黒鉛の球状化効果を考慮して、1.5〜4.0%が好ましく、更に好ましくは1.8〜3.0%とするのがよい。
【0013】
炭素当量(CE値)は、3.5〜4.7とする。
本発明では、炭素当量(CE値)を、CE=C%+(1/3)・Si%として計算している。
炭素当量が3.5未満では、共晶セメンタイトの晶出が懸念される。一方、炭素当量が4.7を超えると、晶出する球状黒鉛の形状が悪くなり易い問題がある。また形状の悪い球状黒鉛部分が切欠きとして作用し易くなり、機械的性質が悪くなる。
炭素当量は、共晶セメンタイトの晶出、晶出する黒鉛の形状を考慮して、3.8〜4.6がより好ましく、更に好ましくは4.1〜4.5とするのがよい。
なお、前記C、Si以外の成分元素の炭素当量も加えて、総炭素当量をもって炭素当量とすることもできる。本発明の炭素当量はC+1/3Siで計算しているが、他の成分元素の炭素当量も加えて計算した値とすることもできる。
【0014】
Mnの含有量は、0.5〜3.0%とする。
Mnはオーステナイトを安定化させ、焼入れ性を向上させる。Mnの含有量が0.5%未満では、オーステナイト安定化の効果が低い。また3.0%を超えると、チル化を促進し、熱処理や機械的性質に悪影響を与える。
Mnの含有量は、焼入れ性の向上、チル化の防止とオーステナイト安定化の効果を考慮して、1.0〜2.0%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜1.6%とするのがよい。
【0015】
Cuは黒鉛化促進作用があるため、Mnによるチル化を抑制する。更にオーステナイトを安定化させて焼入れ性を向上させる作用がある。しかしながらオーステナイトには3.0%までしか固溶しない。
Niは黒鉛化促進作用があるため、Mnによるチル化を抑制する。更にオーステナイトを安定化させて焼入れ性を向上させる作用がある。NiはFeに多量に固溶できるが、添加量が増えると、オーステナイトが非常に安定となり、フェライトやベイナイトの組織が得られなくなる。
CuとNiの含有量は、その合計値で、Cu+Ni=0.5〜8.0%とする。
CuとNiの含有量が合計値で0.5%未満では、オーステナイトの安定性が低く、オーステナイトが得られ難くなることが懸念される。
またCuとNiの含有量が合計値で8.0%を超えると、オーステナイトが非常に安定となり、フェライトやベイナイトの組織が得られなくなる。
CuとNiの含有量の合計値は、前記オーステナイトの安定性を考慮して、1.0〜6.5%がより好ましく、更に好ましくは1.0〜5.0%とするのがよい。
【0016】
Mgの含有量は、0.015〜0.060%とする。
Mgは溶湯中で気化し、その気泡中にCが拡散してゆき、球状黒鉛を作り出すため、球状黒鉛鋳鉄の作製には必須である。溶湯に残留するMgの含有量が0.015%未満では、黒鉛が自由に成長し、球状ではなく、片状となり易い。一方、残留するMgが0.060%を超えると、Mgの有する炭化物形成促進作用により炭化物が晶出し易くなり、好ましくない。
Mgの含有量は、球状黒鉛の生成促進と炭化物生成の抑制を考慮して、好ましくは0.020〜0.060%とするのがよい。
【0017】
Alの含有量は、0.01〜0.20%とする。
Alは溶湯中の窒素濃度を下げ、黒鉛化促進作用がある。Alの含有量が0.01%未満では、窒素濃度を下げる効果が不十分となる。また0.20%を超えると、湯流れが悪くなる。
Alの含有量は、黒鉛化促進作用、湯流れを考慮して、0.02〜0.20%がより好ましく、更に好ましくは0.03〜0.15%とするのがよい。
【0018】
上記各添加元素の含有量の残部がFeである。
【0019】
本発明の実施形態に係る球状黒鉛鋳鉄は、3.5〜4.7の炭素当量に調整され、球状黒鉛が分散する基地組織が、フェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織からなる基地組織に調整された、球状黒鉛鋳鉄である。
球状黒鉛が分散する基地組織を、フェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織で構成することで、フェライトによる伸びと、ベイナイトによる強度と、オーステナイトによる伸びと強度とを期待できる。
炭素当量の範囲を3.5〜4.7に限定することで、形状のよい球状黒鉛を晶出させることができると共に、共晶セメンタイトの晶出を防止することができる。
オーステナイトが強度と伸びの両方を担うのであれば、フェライトを入れずに、ベイナイトとオーステナイトとで基地組織を構成すればよいという考え方もある。しかし、ベイナイトとオーステナイトとの2組織だけで基地を構成しようとする場合には、実際上において、ベイナイトが大半でオーステナイトが僅かとなるような割合にしないと、オーステナイトが不安定となって、マルテンサイトに容易に変態してしまう。
このため、ベイナイトとオーステナイトだけで基地組織を構成しようとすると、結果としてオーステナイトの割合が少なくなり、伸び(延性)が落ちることになる。
フェライトとベイナイトとオーステナイトで基地組織を構成する場合は、相対的にオーステナイトが減少するが、その減少したオーステナイトは安定する。そしてオーステナイトの減少した分をフェライトで補うことで、伸び(延性)を補うことができる。
基地組織を構成するオーステナイトは残留オーステナイトであり、加工誘起変態により、マルテンサイトに変態して、強度に寄与することができる。
【0020】
本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法について説明する。
<鋳放し工程>
先ず第1工程では、上記で説明した球状黒鉛鋳鉄の成分組成を持つように原料を調整し、これを電気炉に入れて1350〜1550℃で溶解し、その後1550℃で取鍋に移して黒鉛球状化処理を施し、1450℃で鋳型に鋳込む。Alは溶解後に溶湯に添加する。また必要に応じて接種剤を添加する。その後、所定の形状に鋳込んで鋳放し鋳鉄を得る。
図1図4を参照して、鋳放し鋳鉄の組織は、パーライトからなる基地組織に球状黒鉛が分散した組織(図1図2)、若しくはパーライトからなる基地組織に、フェライトが周囲に晶出した球状黒鉛(ブルスアイ)が分散した組織(図3図4)となる。
鋳放し鋳鉄は、次に説明する予備処理工程を経て、或いは経ることなく、熱処理工程に供される。
【0021】
<予備処理工程>
図5も参照して、鋳放し状態の鋳鉄を出発鋳鉄として、以下の予備処理を行う。
(第1予備処理)
上記鋳放し工程で得られた鋳放し状態の鋳造品を用いる。
先ず第1予備処理温度900〜1100℃まで昇温し、0.5〜2時間保持する。この保持時間は、慎重には1〜6時間とすることができる。
第1予備処理により、鋳放し鋳鉄組織である、パーライトからなる基地組織に球状黒鉛が分散した組織(図1図2)、若しくはパーライトからな基地組織に、フェライトが周囲に晶出した球状黒鉛(ブルスアイ)が分散した組織(図3図4)から、オーステナイト基地組織に球状黒鉛が分散した組織(図6参照)となる。
【0022】
(第2予備処理)
次に第2予備処理を行う。第2予備処理は、第1予備処理後に引き続き、前記第1予備処理温度からパーライト変態温度領域である第2予備処理温度500〜700℃に急冷して一定時間保持し、これによってオーステナイト基地組織をパーライト化することで、パーライト基地組織中に球状黒鉛が分散した予備処理鋳鉄(図7参照)を得る。
前記第2予備処理温度は、500℃〜700℃で行う。定性的に言えば、ベイナイトが析出しない温度まで急冷する。冷却速度は5℃/秒以上が好ましい。
前記第2予備処理温度は、基地のパーライト化をより確実且つ微細にすることを考慮して、より好ましくは500〜650℃、更に好ましくは550〜650℃である。
前記第2予備処理温度での保持時間は、例えば0.5〜3時間とすることができる。この保持時間は、パーライト化をより確実にすることを考慮して、慎重には1〜6時間、更に3〜12時間とすることができる。
第2予備処理温度での処理が終了すると、常温まで冷却する。この冷却速度は特に限定されない。
以上の予備処理工程を経ることで、鋳放し鋳鉄は、基地組織が十分に微細なパーライトからなり、その微細パーライト基地組織に球状黒鉛が分散した状態の予備処理鋳鉄となる。
【0023】
<熱処理工程>
図8を参照して、熱処理工程では、前記鋳放し鋳鉄を用い、或いは前記予備処理工程を経た予備処理鋳鉄を用いて、第1〜第3の熱処理を施す。
【0024】
(第1熱処理)
先ず前記鋳放し鋳鉄、又は予備処理工程を経た予備処理鋳鉄を、第1熱処理温度600〜780℃まで昇温し、0.5〜12時間保持する。この保持時間は、慎重には1〜24時間、より慎重には1〜48時間とすることができる。時間が長いとコストアップとなる。
図9図10を参照して、この第1熱処理は、鋳放し鋳鉄若しくは予備処理鋳鉄のパーライト基地組織のセメンタイト(Fe3C)を分解して、大部分を占めるフェライトと、オーステナイトとにし、分解しきれなかったセメンタイトも粒状化する熱処理である。球状黒鉛は、図9図10には表していないが、引き続き基地中に分散する。
基地はフェライトの粒界にオーステナイトが析出した状態となる。そして球状黒鉛が基地中に分散した組織になる。
本第1熱処理では、パーライト中のセメンタイトが分解することで、主に粒界をオーステナイト化することができ、組織を均一且つ微細にすることができる。
このように第1熱処理により、フェライト、オーステナイト、球状黒鉛、多少残留することのある粒状セメンタイトからなる第1熱処理鋳鉄組織となる。
前記パーライト中のセメンタイトが分解しない場合は、パーライトが未分解のまま残ることになる。すると、その後に行う第2熱処理で温度を上げたときに、前記残ったパーライトの領域が大きなオーステナイト粒となり、オーステナイト粒が大小まだらとなって、組織が均一にならない。
前記第1熱処理温度は、パーライト中のセメンタイトの分解を良好に行わせることを考慮して、630〜780℃がより好ましく、680〜760℃が更に好ましい。
【0025】
(第2熱処理)
前記第1熱処理が終わると、引き続き第2熱処理を行う。
第2熱処理では、前記第1熱処理温度600〜780℃から100〜70℃上昇させてなるフェライト、オーステナイトの2組織共存温度領域(α+γ領域)の第2熱処理温度700〜850℃に一定時間保持し、これによって前記第1熱処理鋳鉄のフェライトの基地組織をフェライトとオーステナイトの2組織混合基地組織にすると共に、セメンタイトを固溶させることで、フェライトとオーステナイトの2組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第2熱処理鋳鉄とする。
前記第2熱処理温度700〜850℃は、図13を参照して、フェライトとオーステナイトが共存できる温度範囲である。Siを適当に含有させることで、Fe−C二元系状態図では存在しなかった、フェライト+オーステナイト+黒鉛の領域を存在させることができる。この領域の温度に一定時間保持することで、フェライトとオーステナイトとが微細且つ均一に分散した2組織混合基地組織とすることができる(図11図12参照)。
前記第2熱処理温度は、フェライト、オーステナイトの2組織混合基地組織の好ましい実現を考慮して、730〜830℃がより好ましく、740〜800℃が更に好ましい。
また保持時間は、0.5〜3時間保持する。この保持時間は、慎重には1〜6時間、より慎重には1〜12時間とすることができる。
【0026】
(第3熱処理)
前記第2熱処理が終わると、引き続き第3熱処理を行う。
第3熱処理では、前記第2熱処理温度からベイナイト変態温度領域の第3熱処理温度250〜450℃に急冷して一定時間保持し、これによって前記第2熱処理鋳鉄のフェライトとオーステナイトの2組織混合基地組織中のオーステナイトを、ベイナイトと残留オーステナイトにし、よってフェライト、ベイナイト、オーステナイトの3組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第3熱処理鋳鉄とする。
第3熱処理温度はベイナイト変態温度領域である。具体的には250〜450℃の温度範囲とし、そのベイナイト変態温度領域に急冷する。急冷は5℃/秒以上とする。
前記第3熱処理温度が250℃未満の場合は、マルテンサイト変態が起こる可能性があり、好ましくない。また第3熱処理温度が450℃を超えると、パーライト組織が生じる可能性があり、好ましくない。
第3熱処理温度は、ベイナイト組織の好ましい実現を考慮して、250〜400℃がより好ましく、300〜400℃が更に好ましい。
第3熱処理温度での保持時間は、0.5〜6時間とすることができる。この保持時間は、ベイナイトの十分な現出を考慮して、慎重には1〜12時間、より慎重には1〜24時間とすることができる。
第3熱処理による第3熱処理鋳鉄の組織は、図14の図面代用写真、図15の模式図に示すような組織となる。即ち、フェライトとベイナイトと残留オーステナイトとが微細に且つ均一に混ざった3組織混合基地に球状黒鉛が分散した組織となる。
即ち、第2熱処理による球状黒鉛+フェライト+オーステナイトからなる第2熱処理鋳鉄の組織中のオーステナイトが、ベイナイトと残留オーステナイトとなって、第3熱処理鋳鉄となっている。
第3熱処理鋳鉄の組織中のベイナイトは、詳しくは残留オーステナイトの粒内で、ラス若しくは板状の形で存在している。
【0027】
第3熱処理が終了すると、冷却し、好ましくは空冷若しくは急冷し、前記第3熱処理鋳鉄の組織をそのまま維持した球状黒鉛鋳鉄を得る。この熱処理工程を経た球状黒鉛鋳鉄は、フェライト、ベイナイト、オーステナイトの各粒径が10μm以下となる3組織混合基地組織を有し、その3組織混合基地に球状黒鉛が分散した組織となる。
【0028】
以上をまとめると、予備処理工程では、鋳放し鋳鉄の基地組織を、微細なパーライトに改良している。
また熱処理工程では、その第1熱処理でパーライト基地組織中のセメンタイトを分解して、基地をフェライトとそのフェライト粒の粒界にオーステナイトが析出した、均一で微細な基地組織を持つ第1熱処理鋳鉄に改良される。
第2熱処理では、前記第1熱処理鋳鉄を、α+γの2相領域で保持することで、フェライト、オーステナイトの微細で且つ均一な2組織混合基地組織中に球状黒鉛が分散した第2熱処理鋳鉄に改良される。
第3熱処理では、第2熱処理鋳鉄をベイナイト変態させることで、フェライト、ベイナイト、オーステナイトからなる微細で且つ均一な3組織混合基地組織に球状黒鉛が分散した、本発明の球状黒鉛鋳鉄が得られる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄において、伸び、強度共に良好な機械的性質を得ることができるが、その理由1は、組織が微細で均一となることである。一部に粗大な粒があると、その部分から破壊され易いが、本発明では全体が均一且つ微細な基地組織になっている。その理由2は、基地組織のバランスが良いことである。フェライトが伸びを担い、ベイナイトが強度を担い、オーステナイトが伸びと強度を担う。オーステナイトはフェライトよりも伸びが良く、しかも加工誘起変態によりマルテンサイトに変態するので、強度への寄与も大きい。
【0029】
なお、上記第3熱処理が終了した時点で、直ぐに冷却するのではなく、焼戻し処理からなる第4熱処理を行うことができる。
この第4熱処理により、硬いベイナイトを軟化させ、延性を上げることができる。第4熱処理による焼戻しにより、温度を上げることで、ベイナイトに固溶している炭素が周りのオーステナイトへ移行し、ベイナイトは軟化する。またオーステナイトは炭素が固溶することで安定し、残留オーステナイトとして残り易くなって、より良好な組織状態となる。
第3熱処理が終了すると、第4熱処理として、温度を350〜550℃に上げ、0.5〜6時間保持する。温度を上げ過ぎるとオーステナイトがフェライトと炭化物に分解されるため、不適となる。また温度が低過ぎると、ベイナイトの軟化が起こらず、延性を上げることができない。第4熱処理が終了すると、常温まで冷却する。冷却は、空冷や急冷で行うことができる。第4熱処理後の組織は、見た目としては第3熱処理で処理を終了したものと変わらない。
第4熱処理温度は、ベイナイト組織の好ましい軟化による延性増加を考慮して、350〜500℃がより好ましく、400〜500℃が更に好ましい。また第4熱処理温度での保持時間は、ベイナイトの好ましい軟化による延性増加を考慮して、慎重には0.5〜12時間、より慎重には1〜12時間とすることができる。
【実施例】
【0030】
実施例1〜11に用いる鋳鉄材料組成ア〜ケ、比較例1、2に用いる鋳鉄材料組成コ、サを表1、表2に示す。
鋳鉄材料組成がア〜サとなるように、各原料を調整し、これを電気炉に入れ、1350〜1550℃で溶解し、その後1550℃で取鍋に移して黒鉛球状化処理を施し、1450℃で鋳型に鋳込む。Alは溶解後に溶湯に添加する。また必要に応じて接種剤を鋳込む。その後、所定の形状に鋳込んで鋳放し鋳鉄を得る。
この鋳放し鋳鉄を用いて、次の予備処理、熱処理を行う。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
各実施例1〜11及び比較例1、2について、組成ア〜サ、予備処理工程、熱処理工程の各条件を示すと共に、熱処理後に得られた各球状黒鉛鋳鉄の機械的性質、基地組織を、表3、表4に示す。機械的性質として、肉厚25mmのものにおける引張強さ、伸びを示す。
なお実施例3については、予備処理工程を経ることなく、熱処理工程のみを行っている。
他の実施例1、2、4〜11は予備処理工程を経た後に熱処理工程を行っている。
比較例1、2はAlが含有されていない。また比較例1は、予備処理工程を行わず、また熱処理工程の中の第1熱処理も行わず、第2熱処理だけを行って、オーステナイトをパーライト変態させたもので、基地組織がフェライトとパーライトからなる組織となっている。よって伸びはまずまずであるが、引張強さが664MPaで、十分とは言えない。
比較例2は、予備処理工程を行わず、また熱処理工程の中の第1熱処理も行わず、第2熱処理と第3熱処理だけを行って、オーステナイトをベイナイトと残留オーステナイトにしたもので、基地組織がベイナイトと残留オーステナイトからなり、フェライトを含まない組織となっている。よって引張強さ(強度)は高いが、伸びが10%で、十分ではない。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
実施例1〜11では、球状黒鉛を分散した基地組織が、フェライトとベイナイトと残留オーステナイトの3組織からなり、その3組織が微細に且つ均一に混合した状態となる(図14参照)。
よって実施例1〜11では、引張強さが728〜880MPaの範囲で、且つ伸びが13〜19%の範囲となって、球状黒鉛鋳鉄として、良好な強度で且つ良好な伸びを誇る機械的性質を発揮することができる。
【要約】
【課題】球状黒鉛鋳鉄の基地組織として、存在し得る各相を広く考慮し、強度と伸びの両方がより良好で、且つバランスのとれた基地組織を備えた球状黒鉛鋳鉄の提供、並びにその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】C+1/3Siで計算される炭素当量が3.5〜4.7の球状黒鉛鋳鉄であって、球状黒鉛を分散させた基地組織が、フェライト、ベイナイト、及びオーステナイトからなる3組織混合基地組織からなる。成分組成として、質量パーセントで、C:3.0〜4.0%、Si:1.5〜4.5%、Mn:0.5〜3.0%、Cu+Ni:0.5〜8.0%、Mg:0.015〜0.060%、Al:0.01〜0.20%、を含有し、残部がFeからなる球状黒鉛鋳鉄である。
【選択図】 図15
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15