(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6475815
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の再生処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20190218BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20190218BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20190218BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20190218BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20190218BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/04 G
H02J7/04 F
H02J7/02 E
H02J7/04 L
H02J7/10 L
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-241593(P2017-241593)
(22)【出願日】2017年12月18日
【審査請求日】2017年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316004192
【氏名又は名称】株式会社BRS
(74)【代理人】
【識別番号】100090712
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 忠秋
(72)【発明者】
【氏名】西田 武次
【審査官】
永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−080552(JP,A)
【文献】
特開2015−060775(JP,A)
【文献】
特開2017−045621(JP,A)
【文献】
特開2016−051570(JP,A)
【文献】
特開2017−091923(JP,A)
【文献】
特開2004−134139(JP,A)
【文献】
特開2012−59517(JP,A)
【文献】
特開2014−158414(JP,A)
【文献】
特開平11−307134(JP,A)
【文献】
特表2016−518807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42−10/48
H02J7/00−7/12
7/34−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化したリチウムイオン電池をセルごとに再生処理するに際し、休止期間を挟みながら直流のベース電流と方形波のパルス電流とを重畳して充電電流とする充電期間を周期的に繰り返して対象セルに通電するとともに、対象セルのセル温度が設定値を超えると通電を中断し、通電を中断したら対象セルのセル温度が設定値より低い所定の再開温度以下に低下するのを待って通電を再開し、充電電圧が対象セルの定格充電電圧に基づく所定の設定値に達するか対象セルの充電量が所定値に達することにより通電を終了することを特徴とするリチウムイオン電池の再生処理方法。
【請求項2】
充電電圧は、通電中の対象セルの端子電圧を1秒ごと以下の頻度でサンプリングして瞬時値を検出することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池の再生処理方法。
【請求項3】
通電を終了したら、所定時間の静置後、容量試験を実施することを特徴とする請求項1または請求項2記載のリチウムイオン電池の再生処理方法。
【請求項4】
所定時間の静置後、セル温度が規定値を超えているときは、セル温度が規定値以下に低下するのを待って容量試験を実施することを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン電池の再生処理方法。
【請求項5】
セル温度の低下を待つとき、対象セルを強制冷却することを特徴とする請求項4記載のリチウムイオン電池の再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、劣化したリチウムイオン電池を電気的に再生し、再使用するためのリチウムイオン電池の再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
劣化したリチウムイオン電池を電気的に再生処理する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
従来の再生処理方法は、リチウムイオン電池の負極を正極よりも高い電位とした後、負極の電位を正極よりも低い電位とする電位制御工程を少なくとも1サイクル実施することによる。なお、負極の電位は、正極の電位より0.1〜2Vの範囲で高くした後、正極の電位より0.1〜5Vの範囲で低くするものとし、両者の電位の保持時間は、たとえば中間に1秒の休止時間を挟んでそれぞれ10秒程度とする。ただし、前者の保持時間は、0.1〜30秒とし、後者の保持時間はパルス的に逆電位制御してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−169094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、リチウムイオン電池の再生処理用の外部電源は、出力電位を反転制御するとともに、電池の充放電電流を通電させる特殊な電源装置が必要であるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、パルス性の充電電流を採用することによって、一般的な直流電源を使用することができるリチウムイオン電池の再生処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、劣化したリチウムイオン電池をセルごとに再生処理するに際し、休止期間を挟みながら直流のベース電流と方形波のパルス電流とを重畳して充電電流とする充電期間を周期的に繰り返して対象セルに通電するとともに、対象セルのセル温度が設定値を超えると通電を中断し、通電を中断したら対象セルのセル温度が設定値より低い所定の再開温度以下に低下するのを待って通電を再開し、充電電圧が対象セルの定格充電電圧に基づく所定の設定値に達するか対象セルの充電量が所定値に達することにより通電を終了することをその要旨とする。
【0008】
なお、充電電圧は、通電中の対象セルの端子電圧を1秒ごと以下の頻度でサンプリングして瞬時値を検出することができる。
【0009】
また、通電を終了したら、所定時間の静置後、容量試験を実施してもよく、所定時間の静置後、セル温度が規定値を超えているときは、セル温度が規定値以下に低下するのを待って容量試験を実施してもよく、セル温度の低下を待つとき、対象セルを強制冷却してもよい。
【発明の効果】
【0010】
かかる発明の構成によるときは、劣化したリチウムイオン電池をセルごとに有効に再生処理することができる。なお、方形波のパルス電流は、0.5C±10%程度とし、直流のベース電流は、パルス電流の1/10程度に設定するとよい。ただし、ここでいうCは、いわゆるCレートであり、再生対象のセル、すなわち対象セルが1時間で満充電状態から完全な放電状態にまで放電される時の電流値を1Cとする。そこで、たとえば定格容量Qo Ahのセルの1C相当の電流値は、Qo Aである。また、パルス電流は、パルス周波数1〜20kHz 程度、デューティ25〜40%程度に設定するのがよく、1回当りの充電期間、休止期間は、それぞれ5分程度、1分程度に設定するのがよい。ただし、これらの再生処理用のパラメータは、対象セルの種別、容量などにより実験的に最適値を定めるものとする。
【0011】
一方、再生処理中のリチウムイオン電池の対象セルは、セル温度を常時検出して監視し、セル温度が設定値を超えると通電を中断して有害な熱暴走の発生を阻止する。なお、セル温度は、たとえば対象セルの上面温度および/または端子温度を検出することが好ましい。また、充電電圧(通電中の対象セルの端子電圧)が設定値に達するか、充電電流による対象セルの充電量が所定値に達することにより、通電を終了して再生処理を完了させることができる。ただし、再生処理を完了させるための充電電圧の設定値、充電量の所定値は、それぞれたとえば対象セルの定格充電電圧の10%増程度、定格容量の10〜20%増程度に定めることができる。
【0012】
セル温度が設定値を超えて通電を中断したときは、セル温度が設定値より低い所定の再開温度以下に低下するのを待って通電を再開することにより、対象セルの再生処理を一層安全に続行することができる。
【0013】
通電を終了して再生処理が完了したら、たとえば1時間以上の所定時間の静置後、容量試験を実施して再生処理の成否を確認する。なお、所定時間の静置後のセル温度が所定の規定値を超えるときは、そのまま静置を継続し、または、たとえば風冷の強制冷却によりセル温度が規定値以下に低下するのを待つ。容量試験は、たとえば0.2Cの一定放電電流により所定の放電終止電圧まで放電させるとき、定格容量の80%以上の容量が確認できたら再生処理を合格とする。なお、容量試験に先き立って対象セルのセル電圧、内部抵抗を計測して記録することにより、以後のクレーム調査等に資することができる。また、容量試験中のセル温度も併せて計測記録してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0016】
リチウムイオン電池の再生処理方法は、マイクロコンピュータ11、直流電源12、トランジスタスイッチ13を主要部材とする再生処理装置によって実施する(
図1)。
【0017】
直流電源12の出力は、トランジスタスイッチ13と、再生処理対象となるリチウムイオン電池の対象セルBとを介して接地されている。トランジスタスイッチ13には、マイクロコンピュータ11からの制御信号Sが入力されており、トランジスタスイッチ13は、制御信号Sに従って、対象セルBに対する直流電源12からの充電電流Ic を任意に制御することができる。なお、トランジスタスイッチ13と対象セルBとの間には、充電電流Ic を検出する電流センサ14が付設されている。ただし、トランジスタスイッチ13は、図示のトランジスタ素子以外の半導体スイッチ素子に代えてもよい。
【0018】
マイクロコンピュータ11には、対象セルBの端子電圧Vt の他、電流センサ14からの充電電流Ic 、温度センサ15からのセル温度Tが入力されている。ただし、温度センサ15は、たとえば放射温度計であって、対象セルBの上面温度および/または端子温度を検出して電気信号として出力することができる。なお、温度センサ15は、対象セルBの複数箇所の温度を検出するとき、その中の最高温度をセル温度Tとして出力してもよい。
【0019】
リチウムイオン電池の再生処理の手順は、たとえば
図2のフローチャートのとおりである。ただし、以下の説明は、対象セルBとして、中国Winston Battery社製リチウムイオン電池セルWB−LYP40AHA(LiFePO4 正極、定格容量40Ah、定格電圧3.4V、充電電圧4.0V、放電終止電圧2.8V)を再生対象とする場合を例示している。
【0020】
再生すべきリチウムイオン電池は、まず、セルごとに受入検査を実施する(
図2のステップ(1)、以下単に(1)のように記す)。すなわち、リチウムイオン電池は、たとえば電槽の亀裂や割れ、端子の溶着・破損などの機械的な損傷の有無をチェックして不良品を再生処理の対象から除外する。
【0021】
受入検査済みのリチウムイオン電池は、セルごとにセル電圧、内部抵抗を計測し(2)、セル電圧が規定の放電終止電圧以上のものについて、たとえば放電電流0.2Cにより放電終止電圧まで放電処理を実施した上で(3)、再生処理工程に移行する(4)。なお、ステップ(2)の事前計測において、セル電圧が放電終止電圧未満のものは、ステップ(3)の放電処理を省略する。
【0022】
ステップ(4)の再生処理の詳細は、後述する。再生処理が終了すると(4)、1時間以上の所定時間の静置後(5)、セル電圧、内部抵抗を計測記録した上(6)、容量試験を実施する(7)。ただし、ステップ(5)において、所定時間経過後のセル温度Tがたとえば35℃の規定値を超える場合は、静置したまま自然冷却または強制冷却によりセル温度Tが規定値以下に低下するのを待つ。また、ステップ(7)の容量試験は、たとえば放電電流0.2Cにより放電終止電圧まで放電させ、定格容量の80%以上の容量を確認して再生処理の合否を判定する。その後、たとえば充電電流0.2Cで6時間定電流充電し、定格容量の1.2倍の充電量を仕上充電して(8)、一連の処理を完了することができる。
【0023】
図2のステップ(4)の再生処理は、マイクロコンピュータ11を含む
図1の再生処理装置により、たとえば
図3のプログラムフローチャートに従う。
【0024】
プログラムは、まず、マイクロコンピュータ11によりトランジスタスイッチ13を制御し、対象セルBに対して直流電源12からの充電電流Ic の通電を開始する(
図3のステップ(1)、以下、単に(1)のように記す)。なお、充電電流Ic は、ベース電流Ib =0.05C=2Aとパルス電流Ip =0.5C=20Aとを重畳し(
図4)、休止期間T2 =1分を挟みながら充電期間T1 =5分のサイクルを繰り返すものとする。また、パルス電流Ip のパルス周波数10kHz とし、デューティd=30%とする。なお、
図4の横軸は、時間tである。
【0025】
つづいて、プログラムは、対象セルBのセル温度Tが設定値Ts を超えていないことを確認しながら(2)、通電中の対象セルBの端子電圧Vt 、すなわち充電電圧Vc が所定の設定値Vs =4.4Vに達するか(3)、または充電電流Ic による対象セルBの充電量Qが所定値Qs =1.2Qo =48Ahに到達するまで通電を継続し((4)、(2)…(4))、ステップ(3)、(4)のいずれかの条件成立により充電電流Ic の通電を終了して再生処理を完了する(5)。ここで、Qo =40Ahは、対象セルBの定格容量である。
【0026】
なお、通電中の対象セルBの端子電圧Vt 、すなわち充電電圧Vc は、対象セルBの定格電圧3.4V付近では再生の進行により殆ど変化しないが、対象セルBが満充電に近付くと急激に上昇する傾向がある。そこで、マイクロコンピュータ11は、ステップ(3)の判断のために、端子電圧Vt をたとえば1秒ごと以下の高頻度でサンプリングし、充電電圧Vc の瞬時値を検出して計測するものとする。また、ステップ(4)の判断に使用する充電量Qは、充電電流Ic の充電期間T1 、休止期間T2 の現時点までの現実の通電サイクル数Nとして、たとえばQ=(dIp +(1−d)Ib )T1 ・N/60Ahとして算出することができ、通電サイクル数Nは、たとえば充電電流Ic に基づき、マイクロコンピュータ11により計数することができる。
【0027】
一方、充電電流Ic の通電中に対象セルBのセル温度Tが設定値Ts =45℃を超えると(2)、充電電流Ic の通電を中断して(6)、セル温度Tが再開温度Tr =40℃以下に低下するのを待つ(7)。また、セル温度T≦Tr になると(7)、充電電流Ic の通電を再開し(1)、再生処理を続行する((1)、(2)、(3)…(2))。
【0028】
図2、
図3のフローチャートによる再生処理結果データの一例を示すと、
図5、
図6のとおりである。すなわち、再生処理の事前計測において容量0Ah、放電不可状態にまで劣化していた12個の対象セルB(
図5)は、その全数が容量再生率99〜105.5%に良好に再生処理することができた(
図6)。
【0029】
以上の説明において、直流電源12は、所定のベース電流Ib 、パルス電流Ip からなる充電電流Ic を対象セルBに通電するに際し、マイクロコンピュータ11により出力電圧を併せて制御してもよい。また、対象セルBは、同一種別、同一仕様の複数個を直列接続し、充電電流Ic を一挙に通電開始してもよい。ただし、この場合であっても、各対象セルBの端子電圧Vt 、セル温度Tを個別に計測監視することにより、
図3のステップ(1)以外の各ステップ、
図2のステップ(5)以降の各ステップを対象セルBごとに実行するものとする。なお、この発明は、正極がLiFePO4 、LiCoO2 、LiMn2 O4 、LiNix Mny Co2 O2 、LiNix Coy Al2 O2 などの各種のリチウムイオン電池に適用可能である。また、
図1の再生処理装置は、一般的な直流電源12を使用することができ、実質的にそのまま鉛蓄電池の再生処理にも適用可能である(たとえば特許第3723795号公報参照)。
【産業上の利用可能性】
【0030】
この発明は、電気自動車用、電動工具用、電動自転車用などを含むあらゆる用途のリチウムイオン電池に対し、広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
B…対象セル
Ic …充電電流
Ib …ベース電流
Ip …パルス電流
T1 …充電期間
T2 …休止期間
T…セル温度
Ts …設定値
Tr …再開温度
Vc …充電電圧
Vs …設定値
Q…充電量
Qs …所定値
特許出願人 株式会社 BRS
【要約】
【課題】一般的な直流電源を使用して再生処理する。
【解決手段】休止期間T2 を挟みながらベース電流Ib 、パルス電流Ip を重畳して充電電流Ic とする充電期間T1 を繰り返して対象セルBに通電し、セル温度Tが設定値Ts を超えることにより通電を中断し、充電電圧Vc が設定値Vs に達するか充電量Qが所定値Qs に達することにより通電を終了する。
【選択図】
図3