【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回収された環境汚染ガス、例えば機器の交換や故障時において回収されたフロンガス類の冷媒ガスには、機器の損耗に伴う金属粉や潤滑油の混入、或いは稀ではあるが使用中の温度変化などで変性した冷媒ガスが混合されており、又回収中に配管内のゴミ,水分,空気なども混入して回収される。更に、冷媒ガスの回収装置は、回収する冷媒ガスの種類ごとに専用の回収装置に交換されるわけではないため、回収装置内に残留している異種ガスが混入された状態で回収されている。そのため、回収された冷媒ガスはそのままの状態では再使用に供することができない。
【0009】
フィルターによって異物を除去するとともに、特許文献2に示すような沸点の違いに着目して、蒸留或いは精留によってガスの分離を実行したとしても、再使用可能な純度までガス分離の精度を高めることは困難である。何故なら、ガスは沸点以下であっても平衡圧になるまで蒸発して存在するし、共沸現象が起きたりするためである。冷媒ガスにとって異種ガスの混入は冷却性能に直接的に大きな影響を与えるため、純度の維持は重大な課題である。また、半導体製造過程で使用されるドライエッチング剤であるCF
4に代表されるガスでは製品に与える影響は甚大であるため、更に純度維持は重要で厳密に管理されている。
【0010】
よって、特許文献2に示す蒸留や精留を用いた冷媒ガスの分離手段では、異種ガスが混入している場合、これを除去して使用可能な純度まで精製するという問題を解決することができず、最も重要な純度を回復させることが難しいため、これらの分離手段は専ら異種ガスの混入が使用目的に応じた所定の基準値以下の場合に限定されている。よって、再使用されている冷媒ガスは、純度の要求が高くない極く一部のガスにとどまっているのが現状である。異種ガスの混入が基準値を超える冷媒ガスは破壊処理や分解処理されているのが一般的である。
【0011】
このことは、冷媒ガス等の環境汚染ガスに限ることではなく、どのようなガスであっても一定の目的を達成するために使用するガスである以上、純度が下がると目的とする性能を維持することができなくなるため、それらの回収ガスの再使用は厳しく制限されている。
【0012】
また、シリカゲル,活性アルミナ,ゼオライト等の吸着材を用いた分離手段も知られており、これらの吸着材を用いてガス中の水蒸気だけを選択的に吸着分離することは行われている。具体的には、極性のある水分子の特性を利用して、シリカゲルなどの親水性の強い吸着材を用いて分離吸着させる手段と、ゼオライトなどの水分子だけが通過可能な細孔を持つ吸着材を用いて水蒸気だけを吸着させる手段が知られている。
【0013】
吸着材は多種類のものが提供されているが、その多くは多孔質であって細孔径の分布が広いため、広範囲のガスを吸着することはできるものの、多様なガスに汎用的に使用することが困難であり、使用可能で実用性の高い吸着材を自在に選択できる状況にない。また、既存の吸着材を使用して特定のガスを選択して吸着することはできない。なお、前記したように水分子の極性等のガスの特性を利用して吸着する手段は使用可能なガスが限定的である。
【0014】
水蒸気の場合、水分子の直径は0.3nm程度であり、他のガスの分子直径に比べて少し小さいため、水分子のみが通過可能なサイズの細孔を有する多孔質素材、具体的にはゼオライトを選択することにより、水分子のみを選択して分離することが可能である。しかしながら、複数種類のガスや不純物を含有したガス体から目的ガスのみ分離するために、目的ガスのみを通過させ、或いは通過させない吸着材としての多孔質素材を得るためには、細孔径を0.01nm〜0.03nm程度のオーダーで自在に選択できる多孔質素材が必要となる。何故なら、ガスの分子直径は0.2nm〜2nmと想定され、中でもフロンガス類の冷媒ガスの分子直径は、冷媒ガスの種類により0.3nmから0.5nmあたりまでの狭い範囲に密集して分布しているため、前記オーダーの径差を有する吸着材でなければ、目的ガスのみを選択吸着することができないためである。
【0015】
ゼオライトは細孔径にばらつきがなく安定した細孔径を有する吸着材として注目され、天然のものも含めて200種類程度が今日まで盛んに研究開発されてきたが、産業的に実用されているのは僅かに20種類程度と少ない。そこで、市販されている代表的なゼオライトの構造コードによる種類と細孔径を表1に示す。表1において、ゼオライトの細孔径を短径×長径で表しており、均一な細孔径を複数有するものについては、それぞれの細孔径を記載してある。例えば、構造コードEDIのゼオライトは「0.20nm×0.31nm」と「0.28nm×0.38nm」の2種類の細孔径からなる均一な細孔を有し、構造コードLTAのゼオライトは、「0.41nm×0.41nm」の1種類の細孔径からなる均一な細孔を有する。
【0016】
【表1】
【0017】
また、金属と有機リガンドが相互作用することで、多孔質の配位ネットワーク構造をもつ材料である金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)なども安定した細孔径をもつ物質として最近注目されている。しかしながら、金属有機構造体(以下、「MOF」という)は未だ提供されている種類が少ない。そのため、前記したゼオライトやMOFを使用したとしても細孔径を0.01nm〜0.03nm程度のオーダーで自在に選択することはできないため、既存の多孔質素材はいずれも多様なガスを吸着する吸着材として使用することができない。そのため、前記した既存の分離手段を利用して多様な分子径を有する目的ガスを純度を維持して分離することは困難である。
【0018】
ゼオライトは、ガスの分子直径とほぼ同様の0.2nm〜2nmの細孔径の範囲において均一な細孔を有している。そのため、ゼオライトが分離対象としてのガスの分子径に対応して0.01nm〜0.03nm程度のオーダーで自在に選択できる豊富な品揃えを有していれば、その中から分離基準となる細孔径を有するゼオライトを選択すればよいが実際はそうはなっていない。そこで、実用されている各種ゼオライトと、冷媒ガス及び製造業などで雰囲気ガスや原料ガスとして産業用途に使用されている代表的な産業用ガスの分子径を比較検討した。そのデータを表2に示すとともに、
図12にグラフ化して示す。ゼオライトとしては、細孔径が0.330nm〜0.470nmの範囲に属している構造コードRHO,CHA,MWW,AEL,LTA,FER,TONの7種類のゼオライト(以下、それぞれ「ゼオライトRHO」,「ゼオライトCHA」,「ゼオライトMWW」,「ゼオライトAEL」,「ゼオライトLTA」,「ゼオライトFER」,「ゼオライトTON」という)を使用した。なお、各ゼオライトの細孔径は、表1に示す短径を表示し、均一な細孔径を複数有する「ゼオライトMWW」及び「ゼオライトFER」については、短径が最も大きい細孔径を表示している。これは、ガスの分子径は、後述するように球の直径として表わされるため、ガスの分子径が多孔質素材の細孔の短径より小さい場合は、ガスの分子は多孔質素材の細孔を通過でき、そうでない場合は、多孔質素材からの斥力により細孔を通過できないためである。
【0019】
冷媒ガスとしては、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)であるR22,HFC(ハイドロフルオロカーボン)であるR32,R125,R134a,R143aの5種類の冷媒ガスを使用した。産業用ガスとしては、窒素(N
2),酸素(O
2),アルゴン(Ar)等の18種類のガスを使用した。なお、冷媒ガスの分子径は後述する
図11における0℃における分子径を使用し、その他のガスについては、移動現象論に関する書籍「Transport Phenomena」(R. Byron Bird ,Warren E. Stewart,Edwin N. Lightfoot 共著)から抜粋して使用した。
【0020】
【表2】
【0021】
表2では、各種ゼオライトの細孔径及びガスの分子径を0.01nmのオーダーで分類し、
図12では各種ガスの分子径を小さいものから順に点グラフとして表示するとともに、ゼオライトの細孔径を横線で示した。表2及び
図12に示すように各種ガスの分子径は狭い範囲に密集しており、これらのガスをゼオライト、或いは他の多孔質素材を使用して分離するためには、ガスの分子径の中間の細孔径を有するゼオライト又は他の多孔質素材が必要となる。しかしながら、表2及び
図12に示すようにそのようなオーダーでゼオライトは提供されていないのが現実であり、ゼオライトに代わる他の多孔質素材も提供されていない。例えば、細孔径が0.46nmのゼオライトTONであれば、表2,
図12に示した全てのガスが通過してしまい、細孔径が0.38nmのゼオライトCHAでは、分子径が0.368nmの窒素より分子径が小さいガスは全て通過してしまい目的とするガスのみを分離することができない。
【0022】
表2に示す細孔径の範囲(0.330nm〜0.470nm)においては掲示した7種類の構造コードを有するゼオライト以外に市販されているゼオライトは存在せず、又表1に示すように市販されているゼオライトそのものの数が少ない。よって、ガスの分子径が存在する0.2nm〜2nmの範囲で、分離基準として使用でき、或いは吸着手段として利便性を有するために必要とされる0.01nm〜0.03nm程度のオーダーで自在に選択できる多孔質素材は存在していないため、複数のガスを含有するガス体から目的ガスを純度高く分離する方法やガスを吸着するための吸着材の汎用性を高めるための方法は未だ提供されていない。
【0023】
そこで、本発明は上記した従来のガスの分離手段が有している課題を解決
するために、回収ガスやその他のガス体に含まれるガス
の分子径を
変化させて、ガス体から、再使用可能な純度を維持した状態で目的ガスのみを分離することができるガス
の分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
冷媒ガス等の各種ガス体から目的ガスのみを通過させるために必要とされる0.01nm〜0.03nm程度のオーダーで自在に選択できる多孔質素材が存在しない事実に基づけば、前記課題を解決するためには、分離手段として使用可能な多孔質素材の選択基準を緩和し、汎用性を高め、既存の多孔質素材を分離手段として使用可能とすることによって解決可能とすることが必要と考え、その研究に着手した。
【0025】
ガスの分子が分離手段としての多孔質素材の細孔を通過することの可否は、多孔質素材の細孔径とガスの分子径との相対的な関係によって決定される。多孔質素材の細孔径は、ゼオライトやMOFのように均一な細孔であっても、活性炭やシリカゲルのように一定の分布幅を有する細孔であっても、その細孔径及び分布は多孔質素材毎に特定されており、測定することが可能である。
図13はゼオライトの細孔径と他の多孔質素材の細孔径の分布の一例を示すグラフである。図において、21,22,23,24は、それぞれ均一な細孔径0.28nm,0.4nm,0.46nm,0.74nmを有して市販されているゼオライトEDI,ゼオライトAEL,ゼオライトTON,ゼオライトFAUを示している。一方、25,26は一定の細孔分布を有する他の多孔質素材を示しており、例えば多孔質素材25は細孔径が0.3nm〜0.6nmの範囲に分布しており、多孔質素材26は細孔径が0.6nm〜1.4nmの範囲に分布している。多孔質素材に関する研究は日々進化しており、近時は限られた狭い範囲の分子径分布を有する多孔質素材、例えば分子ふるい炭素も提供されている。また、既存のシリカゲル,活性アルミナ,アルミノリン酸塩型モレキュラーシープ,多孔性シリカ,イオン交換樹脂等において狭い範囲の分子径分布を有する素材の開発が期待されているところである。
【0026】
ガスの分子が多孔質素材の細孔を通過することの可否は、通過量や通過効率を考慮しなければ、多孔質素材にガスの分子径よりも大きい細孔が存在するか否かである。多孔質素材の細孔径及び分布は多孔質素材毎に特定されるため、専らガスの分子の直径に左右されることとなる。そこで、ガスの分子径についての知見を得るために、気体分子間の位置エネルギーU(ポテンシャル)を数式を用いて近似的に表し、平均自由工程、拡散係数等の気体分子の輸送現象を考える場合に必要な気体分子の直径を与える経験的モデルであるレナード−ジョーンズ・ポテンシャル(Lennard-Jones・potential)に着目し、窒素(N
2)を例として分子間の距離Rについて検証を行った。
【0027】
レナードジョーンズは気体分子間に働く力は、気体分子間の距離Rが大きいと0であり、充分に小さいと斥力となり、適当な大きさだと引力(ファン・デル・ワールス力)となるため、気体分子間の位置エネルギーU(ポテンシャル)はRの関数で表せると考え、下記(1)式なる仮説を提案した。
【0028】
【数1】
【0029】
(1)式において、m=12,n=6 とした場合の値が実験値に適合するとしてよく用いられており(12,6)−ポテンシャルと呼ばれて下記(2)式で表される。(ε、σ)はレナードジョーンズパラメータであり、εはポテンシャルの最小値を表し、σはU=0の場合の分子間の距離を表している。σの値は、平均自由行程、拡散係数等を求める場合の分子直径として一般に用いられる。
【0030】
【数2】
【0031】
窒素ガスについてのε、σの値はレナードジョーンズパラメータより、ε=0.00789eV,σ=0.368nmで与えられているため、これを(2)式に代入し、得られたポテンシャルを
図18に示す。
【0032】
一方で、分子の運動エネルギーの目安を kT(kはボルツマン定数、Tは絶対温度)とすると、例えば温度300Kの時のUを求めると次の通りである。
U=kT=8.6171×10
-5×300
次に、この値を(2)式に代入してσ
300を求めると[σ
300=0.936σ]となる。よって、元の衝突距離(分子直径)より、約7%ほど小さくなっている。これを図示すると
図19に示すようになる。
【0033】
以上のことから、ガスの分子の衝突距離σ、即ち分子径dは温度条件によって変化するとの知見を得た。
図14はポテンシャルエネルギーのみによるガスの分子nの衝突距離σ1(分子径d1)を表す模式図であり、
図15は温度300Kの時のガスの分子nの衝突距離σ2(分子径d2)を表している。なお、図において、ガスの分子nの中心は回転中心を、内側の円は回転半径を外側の円は電子雲の存在を模式的に表している。前記した窒素の例では、σ2(d2)はσ1(d1)に比べて、7%程減少している。これは、熱エネルギーが運動エネルギーに変換され分子速度が速くなり衝突の際、斥力に逆らって原子核に接近できる距離が近くなると考えられる。そこで、ガスの分子nが、d2より大きくてd1より小さい細孔30aを有する多孔質素材30を通過しようとする場合を模式的に表すと、ガスの分子nの分子径がd1の場合は
図16に示すように、ガスの分子nは斥力で跳ね返されて通過できないが、ガスの分子nの分子径がd2の場合は
図17に示すように弾力的に抜けることができる。即ち、同じガスの分子nであっても、その分子径dは温度によって変化するのである。なお、多孔質素材30の表面部分には、束縛程度が少ない電子が存在するため、気体に比べ少なくはなるが電子雲が存在するため、外側部分はこの電子雲を表している。
【0034】
前記検証で使用したレナード−ジョーンズ・ポテンシャルは経験的モデルに基づく仮定であるとともに、温度,圧力などの関係についても明確にされていないが、分子間の位置エネルギー(U)=0の場合の分子間の距離σは、レナードジョーンズパラメータとして与えられている。
【0035】
ガスの分子径は一般的に粘性係数、熱伝導係数を実測することによって知ることができる。マックスウエルは分子を剛体球と仮定したうえで、粘性係数を分子動力学から下記(3)式となることを示した。
【0036】
【数3】
【0037】
分子速度aは1原子分子、2原子分子の場合、マックスウエル速度分布における分子平均速度を用いて分子径を求めるとレナードジョーンズパラメータの値や、分子容、沸点などから求めた値と近い値を示す知見を得たため、分子平均速度をそのまま用いることとし、分子平均速度は下記(4)式と表せる。この式は粘性係数が絶対温度の平方根に比例することを示しており、この温度における分子平均速度で定義されている。このことは、1原子分子、2原子分子は仮定通り、かなり剛体球に近い弾性体であることを示している。
【0038】
【数4】
【0039】
多原子分子の場合、音速を分子速度aとして求めた分子径が先に述べた一般的に用いられている分子径によく適合する知見を経験的に得たことから下記(5)式で示す音速を用いて分子径を求める。
【0040】
【数5】
【0041】
(5)式において、
はマックスウエルによる2乗平均速度であり、下記(6)式で表され、音速と密接な関係にあることがわかる。
【0042】
【数6】
【0043】
また、γは比熱比でγ=Cp/CvでCpは定圧比熱、Cvは定容比熱であり実測しても求められるが、分子の自由度からも求めることができ、自由度をFとすると下記(7)式となる。多原子分子の場合自由度6であるからγ=8/6=1.333となる。この値は常温付近では温度に依存しないことが確認されている。これらにより分子径dは粘性係数を測定すれば下記(8)式から求めることができる。
【0044】
【数7】
【0045】
【数8】
【0046】
多原子分子は剛体球とはみなせず弾性をもつ性状であると推定される。音の伝搬は分子が衝突を繰り返すことにより伝搬されるから、この伝搬速度(音速)は分子の弾性的性状、すなわち粘性を包含した結果の速度であると考えられるから、音速を用いることに十分な合理性があると考えられる。一方、熱伝導度から求める場合は下記(9)式によってκを計測すれば同様にしてdを求めることができる。
【0047】
【数9】
【0048】
冷媒ガスについては実測した粘性係数が示されているため、その一例としてHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)であるR22,HFC(ハイドロフルオロカーボン)であるR32,R125,R134a,R143aの5種類のガスの粘性係数を表3に示す。この表3をグラフ化したものが
図10である。表3,
図10に示すように前記5種類の冷媒ガスの粘性係数は温度によって変化していることが判る。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示す粘性係数に基づき、R32,R125,R134a,R143a,R22の5種類のガスについて−30℃〜50℃までの温度範囲において10℃毎の分子径を前記した計算方法に従って計算した。その結果を表4に示す。この表4をグラフ化したものが
図11である。
【0051】
【表4】
【0052】
表4,
図11に示すように、例えば、R22では、−30℃〜50℃の温度範囲において分子直径が0.43nm〜0.39nmの範囲で連続的に変化しており、変化幅は0.0392nmである。同様に、R143aでは、0.455nm〜0.395nmの範囲で連続的に変化しており、変化幅は0.0599nmである。温度条件を更に変化させれば、分子径も更に変化すると推測される。これらの結果から、冷媒ガスの分子直径は、温度の影響を受けて変化する。なお、数式の導出過程から、圧力の影響は殆ど受けないことがわかる。したがって、ガスの分子径は温度と粘性係数を計測することによって算出できる。
【0053】
よって、温度によってガスの分子間距離、即ち分子径が変化するのであれば、例えば常温或いは特定の温度では多孔質素材の細孔径の最大値がガスの分子径を下回るため、ガスの分子が細孔を通過できない多孔質素材であっても、ガスの温度を
変更することによってガスの分子径を変化させることによって、同じ多孔質素材であっても細孔径の最大値がガスの分子径を上回るようになり、ガスの分子が多孔質素材の細孔を通過できることとなる。また、逆にガスの温度条件
を変更することによって、即ちガスの分子径が変化することによって、多孔質素材の細孔を通過できていたガスの分子が通過できなくなる。
【0054】
そこで、本発明者は従来、再使用を可能とする純度の高いガスの分離のためには、分離手段として、0.01nm〜0.03nm程度のオーダーで自在に選択できる多孔質素材が必要であるところ、ガスの分子径を温度条件によって一定の範囲で変化させることによって、使用可能な多孔質素材の選択基準を緩和し、多孔質素材の汎用性を高めることによって、従来の課題を解決する本発明を完成した。
【0055】
本発明は、
分離対象としての目的ガスを含む複数のガスを含有する
ガス体を多孔質素材からなる分離手段に供給し、目的ガスのみを多孔質素材の細孔を通過させ、又は通過させないことによって、ガス体から目的ガスを分離するガスの分離方法であって、ガス体の温度を、特定の温度条件に変更することによって、ガス体に含まれる
目的ガス又はその他のガスのどちらか一方の分子径が多孔質素材の細孔径より大径に、かつ、他方の分子径が多孔質素材の細孔径より小径となるように変化させるガスの
分離方法を基本として提供する。そして、ガス体の温度をガス体に含まれるガスが変質しない温度範囲で
変更する手段、ガス体の温度を、−70℃〜300℃の温度範囲において
変更する手段、及びガス体中のガスの分子径を、常温の分子径を基準として±0.01nm〜0.1nmの範囲で変化
させる手段を提供する。
【0056】
そして
、前記温度条件及び選択した多孔質素材から、目的ガスの分離を実施するための特定の温度条件と特定の多孔質素材を決定する手段を提供する。
【0057】
そして、目的ガスと、その他のガスの分子径が0.01nm以上離間している手段、細孔径が均一サイズに特定された多孔質素材を使用する手段、細孔径が一定範囲に分布している多孔質素材を使用し、細孔分布の上限が、目的ガス又はその他のガスのどちらか一方の分子径より大径であって、かつ、他方の分子径より小径である多孔質素材を使用する手段及び0.2nm〜2nmの範囲の細孔径を有する多孔質素材を使用する手段を提供する。
【0058】
更に、多孔質素材の原料がゼオライト,MOF又は分子ふるい炭素を原料として形成された手段、ガス体が、クロロフルオロカーボン(CFC)類,ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類,ハイドロフルオロカーボン(HFC)類,テトラフルオロメタン(CF
4)を含むパーフルオロカーボン(PFC)類,六フッ化硫黄(SF
6),ハロン類,四塩化炭素(CCl
4 ),トリクロロエタン,メタン,臭化メチル,ヘリウム,窒素酸化物(NOx),二酸化炭素(CO
2),硫黄酸化物(SOx),水素(H
2),窒素(N
2),酸素(O
2),アルゴン(Ar)から選択された1又は複数のガスを含んでいる手段
を提供する。
【0059】
そして、分離手段が多孔質素材の分離膜からなる手段、目的ガスのみが分離膜を通過すること、又は通過しないことにより、ガス体を目的ガスとその他のガスに分離する手段、分離手段が多孔質素材の吸着材からなる手段、及び目的ガスのみを吸着材の孔を通過させて、吸着材に吸着させることによって、又は目的ガスのみを吸着材の孔を通過させないことによって、ガス体から目的ガスを分離する手段を提供する。
【0060】
また、前記したガスの分離方法であって、下記の工程1〜工程8を順次行うことを特徴とするガスの分離方法を提供する。
工程1:ガス体の成分を分析する工程。
工程2:温度条件の
変更に伴うガス体に含まれるガスの粘性係数を測定する工程。
工程3:測定した粘性係数から、温度条件の
変更に伴うガス体の分子径を算出する工程。
工程4:ガス体中の分離対象である目的ガスと、その他のガスの分子径が
一定以上離間している温度条件を抽出する工程。
工程5:多孔質素材の細孔径及び細孔分布を測定する工程。
工程6:抽出した温度条件において、目的ガス又はその他のガスのどちらか一方の分子径より大径の細孔を有し、かつ、他方の分子径より小径の細孔を有する多孔質素材を選択する工程。
工程7:抽出した温度条件と選択した多孔質素材から、目的ガスの分離を実施するための特定の多孔質素材と特定の温度条件を決定する工程。
工程8:特定の温度条件に保持したガス体を、特定の多孔質素材からなる分離手段に供給して、ガス体から目的ガスを分離する工程。
【0061】
更に、工程1の前工程として、ガス体から固形物,油分,汚染物を除去する前処理工程を行う手段を提供する。
【発明の効果】
【0062】
以上記載した本発明によれば、ガスの分子径を温度条件によって一定範囲
で変化させることができるため、ガスの吸着や分離のために使用する多孔質素材に汎用性を付与することができ、広範囲のガスに対応することが可能となる。即ち、本発明によって、従来では処理できなかったガスを既存の多孔質素材を使用して処理できるため、混合ガスの分離や不要なガスの除去、必要なガスの選択的な分離・再利用、ガスを多孔質素材に吸着させることによるガス貯蔵の効率化等が可能となる。
【0063】
何より、ガスの分離手段として使用可能な多孔質素材の選択基準を緩和すること、具体的には再使用を可能とする純度の高いガスの分離のためには、分離手段として、0.01nm〜0.03nm程度のオーダーの多孔質素材が必要であるところ、そのオーダーを1桁緩和して0.2nm〜2nmの範囲の細孔径を有する既存の多孔質素材を使用可能とすることができる。そのため、人工的に製造された高価な合成ゼオライトよりも安価に得られるものの種類が僅かであるため、分離手段として使用することが困難であった天然のゼオライトを分離手段として使用する途を開くことができる。
【0064】
そして、温度条件を
変更することによってガスの分子径を変化させることを可能とした結果、分離作業のハンドリングがよく、再使用を前提とした純度の高いガスの分離を実用レベルで実現することができる。しかも、目的ガスが分離手段を通過する方法によっても、又は通過しない方法によっても分離することができる。
【0065】
また、分離手段としての多孔質素材に特に限定はなく、ゼオライトのように均一な細孔径を有する素材はもちろん、細孔径が一定の分布範囲を有する素材であっても、ガス体中の分離対象である目的ガスと、その他のガスの分子径
を一定以上離間させる温度条件において、ガス体中の目的ガス又はその他のガスのどちらか一方の分子径より大径の細孔を有し、かつ、他方の分子径より小径の細孔を有すれば使用可能である。そのため、使用する多孔質素材の選択が容易であるとともに、その幅が広がるため、最適の多孔質素材を選択することが容易である。よって、本発明によれば、複数の多孔質素材を使用して、複数種類のガスや不純物を含有したガス体から目的ガスを再使用可能な純度を維持して分離することができる。
【0066】
多孔質素材を吸着材として使用し、本発明によって温度
条件を
変更することによってガスの分子径を小さく変化させ
て、従来吸着できなかったガスを吸着可能とし、かつ、貯蔵する際にも温度
条件を
変更することによってガスの分子径を大きくすることで脱着を抑制することが可能となるため、多孔質素材をガスの貯蔵に使用することが可能となる。また、多孔質素材を分離膜として使用することにより、吸着・脱着を介さず、多孔質素材の細孔をガスが通過することだけで分離が可能となる。多孔質素材からなる分離膜は製造が困難なことから、限られた多孔質素材しか用いられておらず、適用可能なガスの種類が限られていたが、本発明によって適用可能なガスの範囲を広げることができる。