(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475981
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】ネジ式機械式継手による鋼管柱の接合の管理方法
(51)【国際特許分類】
F16B 7/18 20060101AFI20190218BHJP
F16B 31/02 20060101ALN20190218BHJP
【FI】
F16B7/18 A
!F16B31/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-264457(P2014-264457)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-125520(P2016-125520A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】504365799
【氏名又は名称】株式会社特殊構工法計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】水本 実
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】矢部 文生
(72)【発明者】
【氏名】市村 喜作
【審査官】
鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−311028(JP,A)
【文献】
特開平08−028534(JP,A)
【文献】
特開2013−174088(JP,A)
【文献】
実開昭54−112969(JP,U)
【文献】
実開昭55−071810(JP,U)
【文献】
特開平11−247184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 31/00
F16B 31/02
F16B 7/18
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ式機械式継手による鋼管柱の接合を管理する方法であって、
前記鋼管柱を接合する工程を実施する前であって、前記ネジ式機械式継手を前記鋼管柱に溶接する前に、前記ネジ式機械式継手に予め設定した管理値のトルクを導入して、雄ネジと雌ネジとの相対的な回転方向の位置を認識するための印を、前記雄ネジの外周面と前記雌ネジの外周面とに記す工程を実施し、その後、前記雄ネジと前記雌ネジとを分離し、
前記鋼管柱を接合する工程において、前記印を基準にして、トルクを導入するときの前記雄ネジと前記雌ネジとの相対的な回転方向の位置を決める、ネジ式機械式継手による鋼管柱の接合の管理方法。
【請求項2】
前記鋼管柱に設けられる仕口プレートと前記ネジ式機械式継手との相対的な回転方向の位置とを、前記印を基準にして決める請求項1に記載の鋼管柱の接合の管理方法。
【請求項3】
ネジ式機械式継手による鋼管柱の接合を管理する方法であって、
前記鋼管柱を接合する工程を実施する前に、前記ネジ式機械式継手に予め設定した管理値のトルクを導入して、雄ネジと雌ネジとの相対的な回転方向の位置を認識するための印を、前記雄ネジの外周面と前記雌ネジの外周面とに記す工程を実施し、その後、前記雄ネジと前記雌ネジとを分離し、
前記鋼管柱を接合する工程において、前記印を基準にして、トルクを導入するときの前記雄ネジと前記雌ネジとの相対的な回転方向の位置を決め、
前記鋼管柱に設けられる仕口プレートと前記ネジ式機械式継手との相対的な回転方向の位置とを、前記印を基準にして決める鋼管柱の接合の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ式機械式継手による鋼管柱の接合の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管柱の施工の際に上下の鋼管柱を接合する方法として、ネジ式機械式継手により接合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、鋼管杭の施工の際に上下の鋼管をネジ式機械式継手により接合する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の鋼管杭の接合方法では、ネジ式機械式継手に導入するトルクを管理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−174088号公報
【特許文献2】特開平11−107272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鋼管杭は地盤により拘束されていることから、鋼管杭のネジ式機械式継手のガタツキや緩みは抑えられるのに対して、鋼管柱のネジ式機械式継手の周囲にはガタツキや緩みを抑えるものは存在しない。よって、鋼管柱のネジ式機械式継手による接合の管理は、鋼管杭のそれよりも高い精度を要求される。
【0005】
また、鋼管柱が長大の場合には、接合作業の回数が多くなるため、高い精度の管理を実施しつつ、作業性を向上させることも要求される。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鋼管柱のネジ式機械式継手による接合の管理を高い精度で実施すると共に、接合作業の作業性を向上させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るネジ式機械式継手による鋼管柱の接合の管理方法は、前記鋼管柱を接合する工程を実施する前
であって、前記ネジ式機械式継手を前記鋼管柱に溶接する前に、前記ネジ式機械式継手に予め設定した管理値のトルクを導入して、雄ネジと雌ネジとの相対的な回転方向の位置を認識するための印を、前記雄ネジの外周面と前記雌ネジの外周面とに記す工程を実施し、その後、前記雄ネジと前記雌ネジとを分離し、前記鋼管柱を接合する工程において、前記印を基準にして、トルクを導入するときの前記雄ネジと前記雌ネジとの相対的な回転方向の位置を決めるものである。
【0008】
前記ネジ式機械式継手による鋼管柱の接合の管理方法において、
前記鋼管柱に設けられる仕口プレートと前記ネジ式機械式継手との相対的な回転方向の位置とを、前記印を基準にして決めてもよい。
【0009】
また、本発明に係るネジ式機械式継手による鋼管柱の接合の管理方法は、前記鋼管柱を接合する工程を実施する前に、前記ネジ式機械式継手に予め設定した管理値のトルクを導入して、雄ネジと雌ネジとの相対的な回転方向の位置を認識するための印を、前記雄ネジの外周面と前記雌ネジの外周面とに記す工程を実施し、その後、前記雄ネジと前記雌ネジとを分離し、前記鋼管柱を接合する工程において、前記印を基準にして、トルクを導入するときの前記雄ネジと前記雌ネジとの相対的な回転方向の位置を決め、前記鋼管柱に設けられる仕口プレートと前記ネジ式機械式継手との相対的な回転方向の位置とを、前記印を基準にして決め
るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋼管柱のネジ式機械式継手による接合の管理を高い精度で実施すると共に、接合作業の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るコンクリート充填鋼管柱を示す立面図(部分断面図)である。
【
図3】本実施形態に係る鋼管柱のネジ式機械式継手による接合を管理する方法を実施する手順を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る鋼管柱のネジ式機械式継手による接合を管理する方法を実施する手順を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る鋼管柱のネジ式機械式継手による接合を管理する方法を実施する手順を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る鋼管柱のネジ式機械式継手による接合を管理する方法を実施する手順を示す図である。
【
図7】矩形状のダイアプレートが設けられた鋼管柱とネジ式機械式継手との相対的な回転方向の位置を決める手順を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態に係る鋼管柱2を示す立面図(部分断面図)である。この図に示すように、鋼管柱2は、坑7内に建て込まれた逆打ち支柱であり、複数の鋼管柱1がネジ式機械式継手10により接合されて杭3に達する長さとなっている。
【0013】
また、CFT柱2の仕口部には、ダイアプレート9が設けられている。このダイアプレート9は、通しダイアフラム又は外ダイアフラム、例えば周方向の位置に制限のない円盤状、円環状の鋼材、あるいは梁の位置に対応するように周方向の位置が決められた矩形状の鋼材であり、鋼管柱1の外周面から水平に張り出している。
【0014】
ネジ式機械式継手10は、互いに螺合する雄ネジ5と雌ネジ6とを備える。雄ネジ5は、各鋼管柱1の下端に設けられ、雌ネジ6は、各鋼管柱1の上端に設けられており、雄ネジ5と雌ネジ6とが締結されることにより、上下の鋼管柱1が接合されている。なお、雄ネジ6と雌ネジ6とを上下逆にしてもよい。
【0015】
図2は、ネジ式機械式継手10を示す断面図である。この図に示すように、ネジ式機械式継手10の雄ネジ5は、鋼管柱1の下端に溶接等により固定され、雌ネジ6は、鋼管柱1の上端に溶接等により固定されている。ネジ式機械式継手10は、差込式多条平行ネジ構造の無溶接継手である。ここで、雄ネジ5と雌ネジ6とは、ショルダー面5A、6Aが接触すると共にロード面5B、6Bが接触した状態で締結されている。これにより、ロード面5B、6Bにおいて雄ネジ5と雌ネジ6との間での引張力の伝達が行われると共に、ショルダー面5A、6Aにおいて雄ネジ5と雌ネジ6との間での圧縮力の伝達が行われる。
【0016】
ところで、ネジ式機械式継手10にガタツキや緩みが生じないように、ネジ式機械式継手10を締結する際には、所定値以上のトルクを導入する必要がある。そこで、本実施形態に係る接合管理方法では、以下説明するように鋼管柱1のネジ式機械式継手10による接合を管理する。
【0017】
図3〜
図6は、本実施形態に係る鋼管柱1のネジ式機械式継手10による接合を管理する方法を実施する手順を示す図である。まず、
図3に示すように、工場において、鋼管柱1に溶接する前のネジ式機械式継手10に、予め設定した管理値T0のトルクを導入する。ここで、トルクの管理値T0は、予め実験や解析を実施して適正値を求めておくが、下限のみを設定してもよく、下限と上限とを設定してもよい。上限については、雄ネジ5及び雌ネジ6に塑性変形を生じさせるような過大な大きさにならないように設定する。
【0018】
本工程では、雄ネジ5を、ネジ部を上向きにして回り止めした状態で台座8に固定し、該雄ネジ5と雌ネジ6とを螺合させる。なお、雄ネジ5と雌ネジ6とを上下逆にしてもよい。ここで、罫書き(墨付け)11を、雄ネジ5と雌ネジ6との外周面に記しておき、雄ネジ5の上端と雌ネジ6の下端とを罫書き11の位置を合わせて嵌め合わせてから、雌ネジ6を回転させる。
【0019】
次に、ジャッキ、ウインチ、トルクレンチ、レバーブロック(登録商標)又はチェーンブロック等を使用して、ネジ式機械式継手10にトルクを導入し、該トルクを上記管理値T0まで上昇させる。
【0020】
次に、
図4に示すように、雄ネジ5と雌ネジ6との外周面に罫書き(墨付け)12を入れる。本工程では、直線である罫書き12を、雄ネジ5と雌ネジ6との境界線に対して直交し雄ネジ5と雌ネジ6とに跨るように記す。
【0021】
次に、雄ネジ5と雌ネジ6との締付を緩めて両者を分離し、それぞれを鋼管柱1の端部に溶接する。ここで、工場において締結して罫書き12を入れた雄ネジ5と雌ネジ6とには、同一の識別表示(図中No.1)を記しておく。
【0022】
現場では、
図5及び
図6に示すように、坑7から突出した鋼管柱1に設けられた雌ネジ6と、その上の鋼管柱1に設けられた雄ネジ5とを螺合させてトルクを導入する。まず、
図5に示すように、ネジ式機械式継手10の雄ネジ5と雌ネジ6との識別表示を一致させる。また、雄ネジ5の下端と雌ネジ6の上端とを罫書き11の位置を合わせて嵌め合わせ、手動又は機械により上側の鋼管柱1を回転させて雄ネジ5と雌ネジ6とを螺合させる。
【0023】
次に、
図6に示すように、ネジ式機械式継手10に、ジャッキ、ウインチ、トルクレンチ、レバーブロック(登録商標)又はチェーンブロック等を使用してトルクを導入する。ここで、本工程では、雄ネジ5側の罫書き12と雌ネジ6側の罫書き12との位置が一致し、あるいは、雄ネジ5側の罫書き12が雌ネジ6側の罫書き12の位置を超えるまで雄ネジ5を雌ネジ6に対して相対的に回転させる。
【0024】
以上説明したように、本実施形態に係る接合管理方法では、鋼管柱1を接合する工程を実施する前に、ネジ式機械式継手10に予め設定した管理値のトルクを導入して、雄ネジ5と雌ネジ6との相対的な回転方向の位置を認識するための罫書き12を、雄ネジ5の外周面と雌ネジ6の外周面とに記す工程を実施し、その後、雄ネジ5と雌ネジ6とを分離し、鋼管柱1を接合する工程において、罫書き12を基準にして、トルクを導入するときの雄ネジ5と雌ネジ6との相対的な回転方向の位置を決める。
【0025】
これにより、鋼管柱1を接合する工程において、雄ネジ5側と雌ネジ6側との罫書き12の位置が一致するまで回転させる等の簡単な作業により、確実に管理値以上のトルクをネジ式機械式継手10に導入できる。従って、接合作業の時間を短縮できることにより工期の短縮を実現できると共に、ネジ式機械式継手10による接合の高精度な品質管理を実現できる。
【0026】
また、ネジ式機械式継手10を鋼管柱1に溶接する前に、罫書き12を雄ネジ5の外周面と雌ネジ6の外周面とに記す工程を実施する。即ち、鋼管柱1に溶接されていないネジ式機械式継手10に管理値のトルクを導入して罫書き12を記す作業を実施することにより、当該作業を容易化できる。また、当該作業を工場での作業とすることにより、工事現場での工数を低減でき、工期の短縮を実現できる。
【0027】
さらに、罫書き11を、雄ネジ5と雌ネジ6との外周面に記しておき、この罫書き11を基準にして、雄ネジ5の上端と雌ネジ6の下端とを嵌め合わせてから、雌ネジ6を回転させ、そして、上記罫書き12を記す作業を実施する。これによって、鋼管柱1を接合する工程では、罫書き11を基準にして、雄ネジ5の上端と雌ネジ6の下端とを嵌め合わせてから、雄ネジ5側と雌ネジ6側との罫書き12の位置が一致するまで回転させることで、差込式多条平行ネジ構造のネジ式機械式継手10に管理値のトルクを導入できる。
【0028】
図7は、矩形状のダイアプレート9が設けられた鋼管柱1とネジ式機械式継手10との相対的な回転方向の位置を決める手順を示す斜視図である。この図に示すように、ダイアプレート9の鋼管柱1の軸周り(ネジ式機械式継手10の回転方向)の位置を、罫書き12の位置を基準にして設定する。例えば、ダイアプレート9の一辺の中央部の位置と、罫書き12の位置とを一致させる。あるいは、ダイアプレート9の一の角部の位置と、罫書き12の位置とを一致させる。
【0029】
ここで、ダイアプレート9に先立ってネジ式機械式継手10を鋼管柱1に溶接する場合には、ダイアプレート9を鋼管柱1に溶接する際に、ダイアプレート9の所定位置と罫書き12の位置とを合わせる。一方、ネジ式機械式継手10に先立ってダイアプレート9を鋼管柱1に溶接する場合には、ネジ式機械式継手10を鋼管柱1に溶接する際に、ダイアプレート9の所定位置と罫書き12の位置とを合わせる。
【0030】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、罫書き12をネジ式機械式継手10に記す作業を、鋼管柱1に溶接する前に、かつ、工場において実施したが、当該作業を、鋼管柱1に溶接した後や、工事現場において実施する等してもよい。
【0031】
さらに、上述の実施形態では、雄ネジ5と雌ネジ6との嵌合開始位置を認識するための罫書き11をネジ式機械式継手10に記す作業を、トルクを導入する前に実施したが、トルクを導入した後に実施してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 鋼管柱、2 鋼管柱、3 杭、5 雄ネジ、5A ショルダー面、5B ロード面、6 雌ネジ、6A ショルダー面、6B ロード面、7 坑、8 台座、9 ダイアプレート、10 ネジ式機械式継手、11 罫書き、12 罫書き