特許第6476043号(P6476043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6476043消化性潰瘍の予防又は治療剤,及び予防又は治療のための食品添加物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476043
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】消化性潰瘍の予防又は治療剤,及び予防又は治療のための食品添加物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/68 20060101AFI20190218BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20190218BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20190218BHJP
【FI】
   A61K35/68
   A61P1/04
   A23L33/10
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-79534(P2015-79534)
(22)【出願日】2015年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-94381(P2016-94381A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2018年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-227305(P2014-227305)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【弁理士】
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 絵梨子
(72)【発明者】
【氏名】朝山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】岩田 修
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】大串 美沙
(72)【発明者】
【氏名】原田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 長久
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−118374(JP,A)
【文献】 特開2014−098095(JP,A)
【文献】 特許第2903318(JP,B2)
【文献】 特開2014−027929(JP,A)
【文献】 YOSHIZAWA, M. et al.,Protective Effects of Barely and Its Hydrolysates on Gastric Stress Ulcer in Rats,Yakugaku Zasshi,2004年,Vol.124, No.8,p.571-75
【文献】 KONG W.H. et al.,Effect of β-1,3-glucan on Experimental Gastric Ulcer,Shandong Daxue Xuebao, Ziran Kexueban,2001年,Vol.36, No.1,p.107-12,CAplus [online], US:American Chemical Society [retrieved on 2015.12.24], Retrieved from: STN, Access
【文献】 嵐田 亮,光合成研究,2012年,Vol.22, No.1,p.33-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 31/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナを有効成分として含む消化性潰瘍の予防又は治療剤。
【請求項2】
心因性ストレスに起因する前記消化性潰瘍の予防又は治療用であることを特徴とする請求項記載の消化性潰瘍の予防又は治療剤。
【請求項3】
前記消化性潰瘍は、胃潰瘍であることを特徴とする請求項1又は2記載の消化性潰瘍の予防又は治療剤。
【請求項4】
ユーグレナを有効成分として含む消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化性潰瘍の予防又は治療剤,及び予防又は治療のための食品添加物,iNOS発現抑制剤及びCOX-2発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
消化性潰瘍とは、消化管の粘膜層において上皮組織の部分的欠損が深部に及んでいる潰瘍を指す。発症の原因としては、胃酸、ペプシン、ストレス、ヘリコバクターピロリ(以下、「ピロリ菌」という。)または非ステロイド性抗炎症薬(以下、「NSAID」という。)等の攻撃因子と、消化管の粘膜防御因子、すなわち、粘液・粘膜関門や血流・微小循環、増殖因子、プロスタグランジンの機能の平衡がくずれて潰瘍が生じるというバランス説が基本的な考えとなっている。
消化性潰瘍の主なものとして、胃潰瘍と十二指腸潰瘍がある。
胃潰瘍は、主として胃粘膜の防御機構が弱まることで起こる。ピロリ菌感染、NSAIDやストレスにより防御機構が弱まって胃粘膜に傷ができ、それが潰瘍に進む。十二指腸潰瘍は、胃酸の分泌が高くなり、それが胃酸の攻撃に対する抵抗力が弱い十二指腸の粘膜を傷つけて起こる。ピロリ菌感染も十二指腸の粘膜を弱める。また、脂肪分の多い食事などが、胃酸の分泌を増やすことに繋がる。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の三大原因は、ピロリ菌感染、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ストレスである。
【0003】
これらの原因のうちのストレスとして、社会的なストレス等により、心因性ストレスを主因とするストレス性潰瘍が形成されることがある。心因性ストレスを受け易い環境にある人や、心因性ストレスを感じやすい性質の人が、日常生活の中で、副作用なく摂取できる、ストレス性潰瘍予防薬の開発が望まれている。
また、心因性ストレス以外のピロリ菌やNSAIDを原因とする消化性潰瘍にも用いることができ、副作用のない消化性潰瘍の予防,治療剤の開発も望まれている。
【0004】
集中治療室の患者において、48時間以上の人工呼吸管理と、凝固障害が発生しているという二つの危険因子がある場合には、臨床的に意味のある消化管出血の発生リスクが向上し、死亡率が向上するとの報告がある。従って、集中治療室において、これら二つの危険因子が存在する場合に、ストレス性消化管潰瘍予防目的のPPI(プロトンポンプ阻害薬)又はHRA(ヒスタミン2受容体アンタゴニスト)の投与によるストレス性潰瘍・出血の予防的治療が一般的に行われている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mitchell J. Spirt et al., “Update on Stress Ulcer Prophylaxis in Critically Ill Patients,” [online], Crit Care Nurse 2006, 26:18-28., [2014年6月24日検索],インターネット(http://ccn.aacnjournals.org/content/26/1/18.full.pdf+html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非経腸栄養時には、HRA投与群で有意に消化管出血が抑制されるが、経腸栄養時には、HRA投与群において、消化管出血予防効果が消失するだけでなく、肺炎のリスクが上昇するという報告がある(Crit Care 2012; 16: 322)。
また、PPIは、HRAよりも推奨されているが、強力な胃酸分泌抑制剤であり、胃がん(Br. J. Cancer, 100, 1503〜1507(2009))、肺炎(JAMA., 301, 2120〜2128(2009))発症リスク向上が報告され、骨折、腸管感染症発症リスク向上の可能性が推定されている。
このように、従来の抗潰瘍薬には、副作用があり、集中治療室の患者は、ストレス性潰瘍・出血のリスクがあるにも拘わらず、医師は、集中治療室の患者への消化性潰瘍の予防的治療に慎重にならざるを得なかった。
【0007】
一方、不安や恐怖などの心因性ストレスは、それだけで胃潰瘍・十二指腸潰瘍を起こすことは少ないと考えられていた。しかし、近年の大震災前後の消化性潰瘍の発生状況を集計した研究では、震災後3カ月間に起きた消化性潰瘍及び純粋なストレス性潰瘍が、前年度同期間と対比して増加したことが確認され、心因性ストレス単独でも消化性潰瘍を発症することが示された(J Gastroenterol. 2013 Apr;48(4):483-90. doi: 10.1007/s00535-012-0681-1. Epub 2012 Oct 3.)。
自然災害,大規模火災,事故,犯罪等発生時や戦時には、多数の負傷者,被害者,支援者等が心因性ストレスに晒され、心因性ストレスによるストレス性潰瘍のリスクが向上する。しかし、このような状況下では、負傷者等の数に比べて医師の数が限定されるため、副作用の強いPPI,HRA等を、多数の被害者等にストレス性潰瘍の予防のために同時に継続投与することは、現実的に難しい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、副作用の殆どない消化性潰瘍の予防又は治療剤,及び予防又は治療のための食品添加物,iNOS発現抑制剤及びCOX-2発現抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明によれば、ユーグレナ由来物質を有効成分として含む消化性潰瘍の予防又は治療剤により解決される。
【0010】
本発明の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、これまでに副作用の報告がなく、食品衛生法に合致する程度の安全性を備えたユーグレナに由来する物質を有効成分としているため、従来の消化性潰瘍の予防又は治療剤のような副作用がなく、長期間の継続的投与が可能である。
従って、社会的な心因性のストレスを受けている人や患者に、予防的又は治療のために、継続的に投与可能となる。
また、集中治療室で推奨されている消化性潰瘍の予防薬としても好適に用いることができる。副作用の報告がないため、従来の消化性潰瘍の予防薬と異なり、集中治療室の患者への投与にそれほど慎重になる必要がない。
【0011】
このとき、前記ユーグレナ由来物質は、ユーグレナ,パラミロン又は該パラミロンを酸で処理したパラミロン酸処理物であってもよい。
このように構成しているため、消化性潰瘍の予防,治療効果を、副作用なく奏することができる。
特に、ユーグレナ由来物質としてユーグレナを用いた場合、ユーグレナが備えるビタミン,アミノ酸,脂肪酸等多様な栄養素を、併せて人又は患者に投与することができ、人又は患者の栄養状態の向上も同時に図ることができる。
従って、例えば、集中治療室の患者に、消化性潰瘍の予防剤として投与した場合には、消化性潰瘍の予防効果が得られると同時に、栄養状態を改善し、体力の回復を促進できる。
【0012】
このとき、心因性ストレスに起因する前記消化性潰瘍の予防又は治療用であってもよい。
また、前記消化性潰瘍は、胃潰瘍であってもよい。
【0013】
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナ由来物質を有効成分として含む消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物により解決される。
これまでに副作用の報告がなく、食品衛生法に合致する程度の安全性を備えたユーグレナに由来する物質を有効成分としているため、従来の消化性潰瘍の予防又は治療剤のような副作用がなく、長期間の継続的摂取が可能である。
従って、社会的に心因性のストレスを受けている人や患者に、予防的又は治療のために、継続的に投与可能となる。
例えば、震災後等に多数の人が同時に心因性のストレスを受けているような状況において、本発明の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物を含む食品等を被災者,支援者等に配布することにより、多数の人が消化性潰瘍に罹患することを、医師の処方なく、予防、抑制できる。
【0014】
更に、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナ由来物質を有効成分として含むiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)発現抑制剤により解決される。
このように、炎症の増悪作用を有するiNOSの発現の抑制作用を有するユーグレナ由来物質を、有効成分として含むため、ストレスによる酸化障害を軽減することで消化性潰瘍が抑制できる。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナ由来物質を有効成分として含むCOX-2発現抑制剤により解決される。
このように、COX-2の発現の抑制作用を有するユーグレナ由来物質を有効成分として含むため、炎症の増悪作用を有するプロスタグランジンの生合成の律速酵素であるCOX-2の発現の抑制を通して、ストレスによる酸化障害を軽減することで、消化性潰瘍が抑制できる。
また、前記課題は、本発明によれば、ユーグレナ由来物質を有効成分として含み、生体内のストレス刺激を抑制するストレス抑制剤により解決される。
本発明のストレス抑制剤は、iNOS,COX-2の発現の抑制作用を有するユーグレナ由来物質を有効成分として含むため、プロスタグランジンや活性酸素等の生化学由来のストレス等の生体内のストレス刺激を抑制可能となる。従って、ストレス刺激に起因する酸化傷害等の細胞損傷が軽減され、消化性潰瘍が抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の消化性潰瘍の予防又は治療剤によれば、これまでに副作用の報告がなく、食品衛生法に合致する程度の安全性を備えたユーグレナを有効成分としているため、従来の消化性潰瘍の予防又は治療剤のような副作用がなく、長期間の継続的投与が可能である。
従って、社会的に心因性のストレスを受けている人や患者に、予防的又は治療のために、継続的に投与可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験例1において、各群の食餌を摂取させた14日間の食餌摂取量を示すグラフである。
図2】試験例1において、各群の食餌を摂取させた14日間の体重を示すグラフである。
図3】試験例1において、各群の代表例の胃潰瘍を撮影した写真である。
図4】試験例1において、各群の胃潰瘍面積の測定結果を示すグラフである。
図5】試験例2において、iNOS mRNA,COX-2 mRNA及びβ-アクチンmRNAの検出バンドを示す写真である。
図6】試験例2において、iNOS/β-アクチンを示すグラフである。
図7】試験例2において、COX-2/β-アクチンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る消化性潰瘍の予防又は治療剤,及び予防又は治療のための食品添加物について、図1図7を参照しながら説明する。
<消化性潰瘍について>
消化性潰瘍とは、消化管の粘膜層において上皮組織の部分的欠損が深部に及んでいる潰瘍を指す。特に、胃酸、ペプシン、心因性ストレス、ピロリ菌またはNSAID等の攻撃によって消化管に生じる潰瘍を意味する。
消化性潰瘍には、食道、胃及び十二指腸に発生する上部消化管潰瘍、小腸及び大腸に発症する下部消化管潰瘍を含む。また、ピロリ菌除菌治療後の消化性潰瘍や逆流性食道炎や胃食道逆流症などが包含される。
<消化性潰瘍の予防又は治療剤>
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、ユーグレナ由来物質を含む消化性潰瘍の予防又は治療剤である。
ユーグレナ由来物質としては、ユーグレナ,ユーグレナの藻体乾燥物,パラミロン,パラミロン加工品等が好適に用いられる。
【0018】
ユーグレナ(属名:Euglena,和名:ミドリムシ)は、食糧,飼料,燃料等としての利用が有望視されている生物資源として、注目されている。
ユーグレナは、ビタミン,ミネラル,アミノ酸,不飽和脂肪酸など、人間が生きていくために必要な栄養素の大半に該当する59種類もの栄養素を備え、多種類の栄養素をバランスよく摂取するためのサプリメントとしての利用や、必要な栄養素を摂取できない貧困地域での食糧供給源としての利用の可能性が提案されている。なお、59種類の栄養素には、抗酸化作用を持つ物質も含む。
【0019】
ユーグレナは、食物連鎖の最底辺に位置し、捕食者により捕食されることや、光,温度条件,撹拌速度などの培養条件が他の微生物に比べて難しいなどの理由から、大量培養が難しいとされてきたが、近年、本発明者らの鋭意研究によって、大量培養技術が確立され、パラミロンの大量供給の途が開かれた。
ユーグレナは、鞭毛運動をする動物的性質をもちながら、同時に植物として葉緑体を持ち光合成を行うユニークな生物であり、ユーグレナ自体やユーグレナ由来の物質に、多くの機能性があることが期待されている。
【0020】
ユーグレナ細胞としては、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス・クレブス,ユーグレナ・グラシリス・バルバチラス等の種や、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM−ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株由来のβ−1,3−グルカナーゼ、Euglena intermedia, Euglena piride、及びその他のユーグレナ類、例えばAstaia longaであってもよい。
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用してもよく、また、すでに単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。
本発明のユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え,形質導入,形質転換等により得られたものも含有される。
【0021】
ユーグレナ細胞の培養において、培養液としては、例えば、窒素源,リン源,ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer-Myers培地((NHHPO 1.0g/L,KHPO 1.0g/L,MgSO・7HO 0.2g/L,CaCl・2HO 0.02g/L,Fe(SO・7HO 3mg/L,MnCl・4HO 1.8mg/L,CoSO・7HO 1.5mg/L,ZnSO・7HO 0.4mg/L,NaMoO・2HO 0.2mg/L,CuSO・5HO 0.02g/L,チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L,シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。また、そのほか、ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、株式会社学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地,Koren-Hutner培地を用いてもよい。
【0022】
培養液のpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
ユーグレナ細胞の培養は、太陽光を直接利用するオープンポンド方式、集光装置で集光した太陽光を光ファイバー等で送り、培養槽で照射させ光合成に利用する集光方式等により行ってもよい。
また、ユーグレナ細胞の培養は、例えば供給バッチ法を用いて行われ得るが、フラスコ培養や発酵槽を用いた培養,回分培養法,半回分培養法(流加培養法),連続培養法(灌流培養法)等、いずれの液体培養法により行ってもよい。
【0023】
培養は、オープンポンド型,レースウェイ型,チューブ型等の公知の培養装置や、坂口フラスコ、三角フラスコ、試薬ビンなどの実験用の培養容器を用いて行うことができる。ユーグレナはCOを資化するため、独立栄養培地であるCramer-Myers培地を用いて培養する場合は1〜5%COを含む空気を培地中に通過させることが好ましい。また、さらに、葉緑体を十分に発達させるために、培地1リットルあたり1〜5g程度のリン酸アンモニウムを加えるとよい。培養温度は、通常20〜34℃で、特に28〜30℃が好適である。また、培養条件にもよるが、ユーグレナは通常、培養開始後2〜3日で対数増殖期となり、4〜5日程度で定常期に到達する。
ユーグレナは、光照射下で培養(明培養)されてもよく、無照射で培養(暗培養)されてもよい。
【0024】
ユーグレナ細胞の分離は、例えば、培養液の遠心分離または単純な沈降,膜濾過等によって行われる。
ユーグレナの藻体乾燥物は、分離されたユーグレナ細胞を洗浄後、公知の方法で真空凍結乾燥することにより調製される。但し、藻体乾燥物の調整は、噴霧乾燥、加熱真空乾燥等により行ってもよい。
【0025】
パラミロン(Paramylon)は、約700個のグルコースがβ-1,3-結合により重合した高分子体(β-1,3-グルカン)であり、ユーグレナ属が含有する貯蔵多糖である。パラミロン粒子は、扁平な回転楕円体粒子であり、β-1,3-グルカン鎖がらせん状に絡まりあって形成されている。
【0026】
パラミロンは、すべての種,変種のユーグレナ細胞内に顆粒として存在し、その個数,形状,粒子の均一性は、種により特徴がある。
パラミロンは、グルコースのみからなり、E. gracilis Zの野生株と葉緑体欠損株SM-ZKから得られたパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700である。
パラミロンは、水,熱水には不溶性であるが、希アルカリ,濃い酸,ジメチルスルホキシド,ホルムアルデヒド,ギ酸に溶ける。
パラミロンの平均密度は、E. gracilis Zでは、1.53、E. gracilis var. bacillaris
SM-L1では、1.63である。
【0027】
パラミロンは、粉末図形法を用いたX線解析によれば、3本の直鎖状β−グルカンが右巻きの縄のように捻じれあったゆるやかならせん構造をとっている。このグルカン分子がいくつか集まってパラミロン顆粒を形成する。パラミロン顆粒は、結晶構造部分が非常に多く約90%を占め、多糖類の中で最も結晶構造率の高い化合物である。また、パラミロンは、水を含みにくい(ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、株式会社学会出版センター))。
なお、パラミロン(株式会社ユーグレナ製)の粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定したときのメジアン径が、1.5〜2.5μmである。
【0028】
パラミロン粒子は、培養されたユーグレナ属から任意の適切な方法で単離および微粒子状に精製され、通常粉末体として提供されている。
例えば、パラミロン粒子は、(1)任意の適切な培地中でのユーグレナ細胞の培養;(2)当該培地からのユーグレナ細胞の分離;(3)分離されたユーグレナ細胞からのパラミロンの単離;(4)単離されたパラミロンの精製;および必要に応じて(5)冷却およびその後の凍結乾燥により得ることができる。
パラミロンの単離は、例えば、大部分が生物分解される種類の非イオン性または陰イオン性の界面活性剤を用いて行われ得る。パラミロンの精製は、実質的には単離と同時に行われ得る。
【0029】
なお、ユーグレナからのパラミロンの単離および精製は周知であり、例えば、E. Ziegler, "Die naturlichen und kunstlichen Aromen"Heidelberg, Germany, 1982, Chapter 4.3 "Gefriertrocken"、DE 43 28 329、または特表2003−529538号公報に記載されている。
【0030】
パラミロンの加工品としては、例えば、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンを酸で処理した後アルカリでゲル化することによりアモルファス化したアモルファスパラミロンが挙げられる。
本実施形態で用いるアモルファスパラミロンは、ユーグレナから公知の方法で生成された結晶性のパラミロンに対する相対結晶度が、1〜20%である。
但し、この相対結晶度は、特許第5612875号公報記載の方法により求めたものである。
つまり、アモルファスパラミロン及びパラミロンを、それぞれ、粉砕機(Retsh社製ボールミルMM400)にて、振動数20回/秒で5分間粉砕後、X線回折装置(スペクトリス社製H’PertPRO)を用い、管電圧45KV、管電流40mAにて、2θが5°乃至30°の範囲でスキャンを行い、パラミロンとアモルファスパラミロンの2θ=20°の付近の回折ピークPc,Paを得る。
このPc,Paの値を用い、アモルファスパラミロンの相対結晶度を、
アモルファスパラミロンの相対結晶度=Pa/Pc×100(%)
により算出する。
【0031】
本実施形態で用いるアモルファスパラミロンは、特許第5612875号公報記載の方法に従い、結晶性のパラミロン粉末を、アルカリ処理した後に酸で中和し、その後洗浄、水分除去工程を経て、乾燥を行うことにより調製される。
パラミロンの加工品には、その他、公知の種々の方法によりパラミロンを化学的又は物理的に処理して得た水溶性パラミロン、硫酸化パラミロン等や、パラミロン誘導体も含まれる。
【0032】
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、消化性潰瘍の予防剤又は予防薬、或いは、治療剤又は治療薬として利用できる。
消化性潰瘍の予防剤又は予防薬は、消化性潰瘍を罹患するリスクの高い人、例えば、心因性ストレスがかかっている人、消化性潰瘍の治療を完了した人、ピロリ菌の除菌治療を行った人、ピロリ菌の除菌治療に失敗した人等に投与され得る。
また、消化性潰瘍の予防剤又は予防薬は、潰瘍の前段階の症状、例えば、消化管の炎症、ならびに食道、胃、十二指腸および小腸などの消化管の粘膜の損傷に起因する胸部不快感、腹部不快感、もたれ感および腹部膨満感などの症状に適用され得る。
【0033】
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、食品衛生法の基準等を満たしたユーグレナ,パラミロン又は該パラミロンを酸で処理したパラミロン酸処理物を有効成分としている。ユーグレナ,パラミロン又は該パラミロンを酸で処理したパラミロン酸処理物は、食品として日常的に摂取可能な程度の安全性を備えており、これまでに、副作用の報告がない。
従って、本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤を、薬効を奏する量、医薬として消化性潰瘍罹患前の人又は患者に投与した場合に、医学的に許容できる程度を超える副作用がない。
【0034】
よって、本実施形態の消化性潰瘍の予防剤を、心理・社会的ストレスのかかり易い環境にある人、例えば、心因性ストレスのかかりやすい職場,住環境にある人や試験等の準備中の人向けの消化性潰瘍予防薬として、長期間継続投与できる。
また、消化性潰瘍の治療を完了した人は、消化性潰瘍を再発しやすいため、本実施形態の消化性潰瘍の予防剤を、消化性潰瘍の治療を完了した人向けの消化性潰瘍再発予防、抑制薬として、継続投与することができる。
【0035】
更に、集中治療室において、48時間以上の人工呼吸管理と、凝固障害が発生しているという二つの危険因子があるなど、消化性潰瘍の予防治療が推奨される患者に対して、本実施形態の消化性潰瘍の予防剤を投与することができる。特に、これらの患者のうち、経腸栄養開始後の患者向けの消化性潰瘍の予防剤として用いると好適である。
集中治療室の消化性潰瘍の予防治療が推奨される患者に対し、従来は、PPIやHRAなど、肺炎等の副作用のある薬剤が用いられており、元々重篤な状態にあって体力の低下している患者に重篤な副作用が生じる可能性があった。しかし、本実施形態の消化性潰瘍の予防薬によれば、医学的に許容できる程度を超える副作用がないため、従来のように、集中治療室の消化性潰瘍の予防治療に慎重になる必要がない。
消化性潰瘍の予防剤として、ユーグレナの藻体又は藻体乾燥物を有効成分として含む消化性潰瘍の予防剤を用いた場合には、ユーグレナの備えるビタミン,ミネラル,アミノ酸類,不飽和脂肪酸等の約60種の栄養素も患者に供給することができ、体力の低下した集中治療室の患者に栄養を供給して体力の回復を図ることができる。特に経腸栄養開始後の患者に対しては、栄養の摂取を促進できる。
【0036】
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、消化性潰瘍の予防又は治療作用を有効に発揮できる量のユーグレナ由来物質とともに、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、消化性潰瘍の予防又は治療作用を有する医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、医薬品であっても、医薬部外品であってもよい。
当該医薬組成物は、内用的に適用されても、また、外用的に適用されてもよい。したがって、当該医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/または腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。
当該医薬組成物の剤型としては、適用の形態により、適当に設定できるが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤、等の固形製剤;液剤、懸濁剤等の液状製剤、軟膏剤、ゲル剤等の半固形剤があげられる。
【0037】
本実施形態の消化性潰瘍の治療剤又は治療薬は、消化性潰瘍を罹患している患者に対して、単独または他のPPIやHRA等の消化性潰瘍薬と併用して投与することができる。
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、体重40〜90kgの人であれば、ユーグレナ粉末,パラミロン粉末又はパラミロン加工品粉末の量が、1日あたり0.05g以上,好ましくは、1g以上の量になるように、投与される。
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、投与開始後90日程度で薬効が生じるため、100〜300日投与されるとよい。
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療剤は、生体において、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)及びCOX-2(誘導型シクロオキシゲナーゼ)の発現の抑制により、生体のストレス刺激による酸化障害を軽減することにより、消化性潰瘍を抑制する。
生体のストレス刺激とは、心因的ストレスが原因で発生する外部からのストレス刺激(ストレッサー)をいい、本明細書では、生化学由来のストレス,より具体的には、酸化ストレスを含む。生体は、ストレス刺激に対して、ストレス生体応答をする。
【0038】
<消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物>
本実施形態の消化性潰瘍の予防のための食品添加物は、消化性潰瘍を罹患するリスクの高い人、例えば、心因性ストレスがかかっている人、消化性潰瘍の治療を完了した人、ピロリ菌の除菌治療を行った人、ピロリ菌の除菌治療に失敗した人等に摂取され得る。
また、消化性潰瘍の予防のための食品添加物は、潰瘍の前段階の症状、例えば、消化管の炎症、ならびに食道、胃、十二指腸および小腸などの消化管の粘膜の損傷に起因する胸部不快感、腹部不快感、もたれ感および腹部膨満感などの症状に適用され得る。
また、本実施形態の消化性潰瘍の治療のための食品添加物は、消化性潰瘍を罹患している患者が、単独または他のPPIやHRA等の消化性潰瘍薬と併用して、摂取することができる。
【0039】
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物は、食品衛生法の基準等を満たしたユーグレナ,パラミロン又は該パラミロンを酸で処理したパラミロン酸処理物を有効成分としている。ユーグレナ,パラミロン又は該パラミロンを酸で処理したパラミロン酸処理物は、食品として日常的に摂取可能な程度の安全性を備えており、これまでに、副作用の報告がない。
従って、本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物を、消化性潰瘍罹患前の人又は患者が、消化性潰瘍の予防又は治療の機能を奏する量摂取した場合に、医学的に許容できる程度を超える副作用がない。
従って、本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物は、長期間の継続的摂取が可能である。
【0040】
例えば、大地震・津波等の自然災害,大規模のテロリズムや犯罪,広域の火災や大規模な事故,感染症のパンデミックなど、多数の人に同時に一定の期間心因性ストレスがかかるような状況において、本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物を含む食品を、該当地域の被災者,被害者,負傷者,支援者等に対して、所定期間摂取可能な量を配布し、各自で摂取させることができる。
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物は、医薬ではないため、医師の処方が不要であり、大規模の災害等で医師が不足する場合でも、各自で摂取させることが可能となり、多数の被災者等が心因性ストレス消化性潰瘍に罹患することを効率的に抑制できる。
【0041】
本実施形態の消化性潰瘍の予防又は治療のための食品添加物は、消化性潰瘍の予防又は治療作用を生体内で発揮できる有効な量のユーグレナ由来物質を食品素材として、各種食品に配合することにより、消化性潰瘍の予防又は治療作用を有する食品組成物を提供することができる。すなわち、本発明は、食品の分野において、消化性潰瘍の予防用又は治療用と表示された食品組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病院患者用食品、サプリメント等をあげることができる。また、食品添加物として用いることもできる。
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル等を挙げることができる。また、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であってもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を具体的実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
次の実施例1〜3の試料を調整し、下記試験例1において、胃潰瘍モデルにおける薬理作用を確認した。
(実施例1)
ユーグレナグラシリス粉末(株式会社ユーグレナ製)を、実施例1のユーグレナとした。
(実施例2)
結晶性のパラミロンを、以下の手順により調製した。
つまり、実施例1のユーグレナグラシリス粉末(株式会社ユーグレナ製)を蒸留水に入れ、室温で2日間撹拌した。これを超音波処理して細胞膜を破壊し、遠心分離により粗製パラミロン粒子を回収した。回収したパラミロン粒子を1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散し、95℃で2時間処理し、再度遠心分離により回収したパラミロン粒子を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散して50℃で30分間処理した。当該操作により脂質やタンパク質を除去し、その後アセトンおよびエーテルで洗浄した後、50℃で乾燥して、精製パラミロン粒子を得た。
調製したパラミロンを、実施例2のパラミロンとした。
【0043】
(実施例3)
実施例2で調製したパラミロンを用いて、特許第5612875号公報記載の方法に従い、アモルファスパラミロンを調製した。
つまり、実施例2で調製した結晶性のパラミロン粉末を、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に、パラミロン粉末を5%(w/v)添加して溶解させ、1〜2時間スターラで撹拌して、アルカリ処理した。その後、1Nの塩酸を、パラミロン粉末が溶解した1N水酸化ナトリウム水溶液に滴下して中和した。遠心分離の後上澄みを捨て、沈殿を蒸留水で洗浄する工程を繰り返した後、沈殿したゲルを回収し、凍結させた後凍結乾燥機で凍結乾燥し、実施例3のアモルファスパラミロンを得た。
【0044】
(試験例1 胃潰瘍モデルにおける薬理作用の確認)
ラットを用いた水浸拘束ストレス試験において、実施例1のユーグレナ、実施例2のパラミロン、実施例3のアモルファスパラミロンを摂取させ、実施例1〜3の胃潰瘍抑制作用を確認する試験を行った。
6週齢の雄性ラット(Wistar)を用い、試験開始4日前から馴化のための食餌(CLEA Rodent Diet CE−2;日本クレア株式会社)により、予備飼育を行った後、コントロール群、実施例1のユーグレナ群、実施例2のパラミロン群、実施例3のアモルファスパラミロン群に、14日間、表1の食餌を与えた。
表1において、実施例1群の食餌は、コントロール群の各配合を、それぞれ97%の量に減らした上で、全量の3%量のユーグレナを添加して調整した。実施例2,3群の食餌では、コントロール群のセルロース量を3%減量し、パラミロン又はアモルファスパラミロンを3%添加して調整した。パラミロン又はアモルファスパラミロンは、グルカンであるため、栄養的にセルロースを代替できるのに対し、ユーグレナは、グルカンのみでなく種々の栄養素を備えているため、食餌の各配合の3%ずつと代替したものである。
その結果、各群の食餌における三大栄養素のエネルギー比率及びエネルギー密度は、表2の通りとなり、栄養のバランスが各群でほぼ同等となった。
各群の食餌を摂取させた14日間の食餌摂取量を図1に、体重を図2に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
各群に14日間表1の食餌を与えた後、1晩絶食した。
その後、各群のラットを拘束用ストレスケージに入れ、18時間、胸部まで水中に浸した。その後、ラットを解剖し、胃潰瘍を確認した。
各群のラットの体重を測定後、各群の腎臓、脾臓、十二指腸、精巣上体脂肪組織を摘出して重量を測定して、ラットの体重に対する各臓器の重量を算出して相対重量を求めた。結果、コントロール群と比較し、十二指腸を除く臓器においては、特に臓器相対重量に変化はみられなかった。しかしながら、十二指腸のみ実施例1及び2において有意に増加を示した(Tukey - Kramer検定によりp<0.05)。このことから、本発明は消化器を増大し、作用することが考えられる。十二指腸の相対重量を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
また、各群の胃を摘出して、粘膜面の潰瘍を撮影し、測定した。
各群の代表例の胃潰瘍の写真を図3に、潰瘍面積の測定結果を図4に示す。
図3に示すように、コントロール群では、血液が滲んで黒化した胃潰瘍部分(楕円の内部)が明瞭に観察されたのに対し、実施例1〜3群では、胃潰瘍部分が、コントロール群に対比して明らかに小さくなっていた。特に、実施例1,2群では、胃潰瘍部分が顕著に小さくなっていた。
また、図4に示すように、コントロール群と比較し、実施例1群において、胃潰瘍の面積が有意に低下していた(Tukey - Kramer検定によりp<0.05)。また、実施例2及び3においても低下する傾向がみられた。さらに表3で示すように、実施例1及び2で十二指腸の相対重量が増加することから、消化器をストレスから防御する作用機序があることが考えられた。
【0050】
(試験例2)
ラットを用いた同様の水浸拘束ストレス試験において、表1の実施例1のユーグレナ、実施例2のパラミロン、実施例3のアモルファスパラミロンの食餌を摂取させたラットと、表1のコントロールの食餌を摂取させたラットについて、同様の方法で3.5時間、胸部まで水中に浸したラットを解剖した。その後、コントロール群、実施例1〜3のラットの胃粘膜を採取し、RT-PCR(T100TM Thermal Cycler (BIO-RAD)Systemを使用)にて増幅、PCR産物を2%アガロースゲル上で解析し、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)の発現とCOX-2(誘導型シクロオキシゲナーゼ)の発現について確認した。
【0051】
ここで、iNOSとは、酸化反応により、L-アルギニン及び酸素から一酸化窒素を生成する一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase:NOS)の一種である。NOSは、神経型(I型,1neutronal NOS:nNOS)、血管内皮型(III型,endothlial NOS:eNOS)、誘導型(II型,inducible NOS: iNOS)に分類されている。iNOSには、カルモジュリンとカルシウムが元々結合しており、細胞内遊離カルシウムの増加を必要としない。サイトカイン,細胞内毒素で誘導され、炎症病態での関与が知られている。iNOS由来の一酸化窒素は、宿主防御システムにおいて、抗ウイルス,抗細菌作用を示し、重要な感染防御機能を果たしているが、一方で、炎症の増悪も引き起こす(福大医学紀要(Med. Bull, Fukuoka Univ.):29(4),247-255,2002)。
また、COX-2は、シクロオキシゲナーゼ(COX)の一種である。COXは、プロスタグランジン(PG)生合成の律速酵素であって、2つのアイソザイムCOX-1,COX-2が存在する。COX-2は誘導型酵素であり炎症や腫瘍形成などの病態に関係し、細胞内では核膜に主として存在する。炎症部位において発現しているCOXは、主にCOX-2であり、炎症部位でCOX-2の発現により合成されたPGは、炎症を増悪する。
【0052】
解析の結果を、図5図7に示す。図5に示すように、434bp,253bp及び162bpの位置に、バンドが認められ、PCR産物として、それぞれ、iNOS mRNA,COX-2 mRNA及びβ-アクチンmRNAが検出された。iNOSおよびCOX-2はβ‐アクチンで補正し、コントロールを1.0とするときの各群の相対指数を図に示した。
図6にはiNOS/β‐アクチンを、図7には、COX-2/β‐アクチンを示した。図6の結果より、コントロール群と比較して、ユーグレナ群、パラミロン群及びアモルファスパラミロン群において、iNOSの発現の抑制が認められた。特にパラミロン群、アモルファスパラミロン群では有意に抑制していた(Turkey-Kramer検定により、p<0.05)。
【0053】
図7のように、コントロール群と比較して、ユーグレナ群、パラミロン群において、有意にCOX-2の発現が抑制された(Turkey-Kramer検定により、p<0.05)。
よって、ユーグレナ,パラミロン及びアモルファスパラミロンの摂取により、iNOS及びCOX-2の発現の抑制が認められていることから、ストレスによる酸化障害を軽減することで胃潰瘍の抑制をしたことが考えられた。
つまり、ユーグレナ,パラミロン及びアモルファスパラミロンは、炎症の増悪作用を有するiNOSの発現の抑制、及び/又は炎症の増悪作用を有するPGの生合成の律速酵素であるCOX-2の発現の抑制を通して、抗炎症作用を発揮することが分かった。
また、本実施例のユーグレナ,パラミロン及びアモルファスパラミロンは、iNOSの発現抑制作用及び/又はCOX-2の発現抑制作用を有することが示された。従って、本実施例のユーグレナ,パラミロン及びアモルファスパラミロンは、iNOS発現抑制剤,COX-2発現抑制剤及び抗炎症剤として用いることができることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7