【文献】
Accession No.A5FF23,Database UniProt [online],2007年 6月12日,<http://www.uniprot.org/uniprot/A5FF23.txt?version=1>
【文献】
Accession No.A6WF32,Database UniProt [online],2007年 8月21日,<http://www.uniprot.org/uniprot/A6WF32.txt?version=1>
【文献】
Accession No.C7PLM6,Database UniProt [online],2009年10月13日,<http://www.uniprot.org/uniprot/C7PLM6.txt?version=1>
【文献】
Accession No.D7W326,Database UniProt [online],2010年10月 5日,<http://www.uniprot.org/uniprot/D7W326.txt?version=1>
【文献】
Accession No.G8T8D0,Database UniProt [online],2012年 2月22日,<http://www.uniprot.org/uniprot/G8T8D0.txt?version=1>
【文献】
Accession No.A4AK12,Database UniProt [online],2007年 4月 3日,<http://www.uniprot.org/uniprot/A4AK12.txt?version=1>
【文献】
PUISTOLA U., et al.,Studies on the lysyl hydroxylase reaction I. Initial velocity kinetics and related aspects,Biochim. Biophys. Acta,1980年 1月11日,Vol.611, No.1,p.40-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を含む細胞が、前記2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAで形質転換された細胞である、請求項1
に記載のヒドロキシ-L-リジンの製造方法。
前記2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAが以下の(D)、(E)または(F)に示すDNAを含む、請求項2に記載のヒドロキシ-L-リジンの製造方法:
(D) 配列番号1、3、5、7、9または11で表される塩基配列を有するDNA;
(E) 配列番号1、3、5、7、9または11で表される塩基配列において1または数個の塩基が置換、欠失及び/または付加された塩基配列を含み、かつ2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;または
(F) 配列番号1、3、5、7、9または11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含み、かつ2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
前記2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素またはそれを含む細胞、前記細胞の調製物もしくは前記細胞を培養して得られた培養液を、2-オキソグルタル酸、および2価の鉄イオンの存在下、前記L-リジンに作用させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のヒドロキシ-L-リジンの製造方法。
L-リジンに作用してヒドロキシ-L-リジンを生成する活性を有し、かつ、以下の(A)、(B)または(C)に示すポリペプチドを含む、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素タンパク質を有するヒドロキシ-L-リジン生成用触媒:
(A) 配列番号2,4,6,8,10または12で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B) 配列番号2,4,6,8,10または12で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列を有し、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチド;または
(C) 配列番号2,4,6,8,10または12で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明を詳細に説明する。
<2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を用いたヒドロキシ-L-リジンの製造方法>
本発明のヒドロキシ-L-リジンの製造方法は、L-リジンに、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素またはそれを含む細胞、前記細胞の調製物もしくは前記細胞を培養して得られた培養液を作用させることを特徴とする。本発明の製造方法は、後述するように、2-オキソグルタル酸および2価鉄イオンの存在下、行なうことが好ましい。
本発明で使用される2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素(以下、「本発明のL-リジン水酸化酵素」と称することがある。)はL-リジンを水酸化する際の位置選択性および立体選択性が高いため、これを用いることにより、効率よく、光学純度の高いヒドロキシ-L-リジンを得ることができる。
本発明のL-リジン水酸化酵素は、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有する酵素であれば特に制限はないが、配列番号2,4,6,8,10または12に記載のアミノ酸配列を有するもの、又は該アミノ酸配列のホモログであって2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するものであることが好ましい。即ち、本発明のL-リジン水酸化酵素は、以下の(A)、(B)または(C)に示すポリペプチドを含むものであることが好ましい。
(A) 配列番号2,4,6,8,10または12で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B) 配列番号2,4,6,8,10または12で表されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換及び/または付加されたアミノ酸配列を有し、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチド;または
(C) 配列番号2,4,6,8,10または12で表されるアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
【0031】
本発明において使用しうる、配列番号2,4,6,8,10または12に記載のアミノ酸配列を有する2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素のホモログとしては、前記(B)に記載の通り、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を保持する限り、配列番号2,4,6,8,10または12に記載のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものが挙げられる。ここで「1または数個のアミノ酸」とは、例えば、1個〜100個、好ましくは1個〜50個、より好ましくは1個〜20個、さらに好ましくは1個〜10個、特に好ましくは1個〜5個、のアミノ酸である。
【0032】
また、上記ホモログは、前記(C)に記載の通り、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を保持する限り、配列番号2,4,6,8,10または12に示されるアミノ酸配列全長と少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するタンパク質であってもよい。
【0033】
本明細書において、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性とは、2-オキソグルタル酸依存的にL-リジンの3位、4位および/または5位の炭素原子に水酸基を付加する活性をいう。このような活性は、L-リジンを基質として含有し、さらに2-オキソグルタル酸を補酵素として含有する反応系において、酵素として、目的のタンパク質、該タンパク質を発現する細胞またはその調製物を作用させて、後述の実施例のようにヒドロキシ-L-リジンの生成を測定することにより確認することができる。
【0034】
配列番号2,4,6,8,10または12に記載のアミノ酸配列はそれぞれ、フラボバクテリウム・ジョンソネ(Flavobacterium johnsoniae) UW101株、キネオコッカス・ラジオトレランス(Kineococcus radiotolerans) SRS30216株、キチノファーガ・ピネンシス(Chitinophaga pinensis) DSM2588株、クリセオバクテリウム・グレウム(Chryseobacterium gleum) ATCC35910株、ニアステラ・コリエンシス(Niastella koreensis) GR20−10株、海洋性放線菌(marine actinobacterium) PHSC20C1のゲノム情報に基づくものである。
また、配列番号2,4,6,8,10または12に記載のアミノ酸配列はそれぞれ、タンパク質をコードすると予測されたDNA配列の翻訳アミノ酸配列GenBank accession No. ABQ06186、ABS05421、ACU60313、EFK34737、AEV99100およびEAR24255と同一である。いずれも、タンパク質として単離するなどして、実際に存在を確認した報告例は無く、タンパク質としての機能についても全く不明であったものである。
【0035】
配列番号2、6、8、および10のアミノ酸配列を含む本発明のL-リジン水酸化酵素は、L-リジンの4位を水酸化するので、(2S,4R)ヒドロキシ‐L−リジンを生成することができる。これらの中では、収率が高いことから、配列番号8が好ましい。
一方、配列番号4、および12のアミノ酸配列を含む本発明のL-リジン水酸化酵素は、L-リジンの3位を水酸化するので、(2S,3S)ヒドロキシ‐L−リジンを生成することができる。これらの中では、収率が高いことから、配列番号12が好ましい。
なお、本発明の製造方法において、複数の2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を併用してもよい。
【0036】
本発明に使用しうる2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素は、それぞれ、フラボバクテリウム・ジョンソネ(Flavobacterium johnsoniae)、キネオコッカス・ラジオトレランス(Kineococcus radiotolerans)、キチノファーガ・ピネンシス(Chitinophaga pinensis)、クリセオバクテリウム・グレウム(Chryseobacterium gleum)、ニアステラ・コリエンシス(Niastella koreensis)、または、海洋性放線菌(marine actinobacterium)から精製して得ることもできるが、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAをPCRやハイブリダイゼーションなどの公知の方法でクローン化し、それを適当な宿主で発現させることによって得ることもできる。
【0037】
配列番号2,4,6,8,10または12に示されるアミノ酸配列を有する2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAとしては、それぞれ、配列番号1,3,5,7,9または11の塩基配列を含むDNAが挙げられ、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1,3,5,7,9または11の塩基配列を含むDNAのホモログでもよい。即ち、本発明のL-リジン水酸化酵素をコードするDNAとしては、以下の(D)、(E)または(F)に示す塩基配列が挙げられる。
(D) 配列番号1、3、5、7、9または11で表される塩基配列を有するDNA;
(E) 配列番号1、3、5、7、9または11で表される塩基配列において1または数個の塩基が置換、欠失及び/または付加された塩基配列を含み、かつ2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;または
(F) 配列番号1、3、5、7、9または11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含み、かつ2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0038】
ホモログとしては、例えば、前記(E)に記載の通り、配列番号1、3、5、7、9または11の塩基配列において1または数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列を含むものが挙げられる。ここでいう1または数個の塩基とは、例えば、1個〜300個、好ましくは1個〜150個、より好ましくは1個〜60個、さらに好ましくは1個〜30個、特に好ましくは1個〜15個、の塩基である。
【0039】
さらに、上記DNAのホモログは、前記(F)に記載の通り、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1,3,5,7,9または11の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい
。
【0040】
当業者であれば、配列番号1,3,5,7,9または11のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res.10,pp.6487(1982)、Methods in Enzymol.100,pp.448(1983)、Molecular Cloning、PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))等を用いて適宜置換、欠失、挿入及び/または付加変異を導入することにより、上記のようなDNAホモログを得ることが可能である。
【0041】
また、配列番号2,4,6,8,10または12のアミノ酸配列またはその一部や、配列番号1,3,5,7,9または11で表される塩基配またはその一部をもとに、例えばDNA Databank of JAPAN(DDBJ)等のデータベースに対してホモロジー検索を行って、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素活性のアミノ酸情報またはそれをコードするDNAの塩基配列情報を手に入れることも可能である。
【0042】
本発明のヒドロキシ-L-リジンの製造方法においては、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を直接反応に使用してもよいが、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を含む細胞やその調製物もしくは同細胞を培養して得られた培養液を用いることが好ましい。
2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を含む細胞としては、もともと2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を有する微生物などの細胞を用いてもよいが、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードする遺伝子で形質転換された微生物などの細胞を用いることが好ましい。ここで、細胞としては、その生死は問わず、例えば、休止菌体等を好適に用いることができる。
【0043】
また、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を含む細胞の調製物としては、例えば、該細胞をアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン等の有機溶媒や界面活性剤により処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的または酵素的に破砕したもの等の細胞調製物、細胞中の酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等に代表される担体に固定化したもの等を用いることができる。
2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を含む細胞を培養して得られた培養液としては、例えば、該細胞と液体培地の懸濁液や、該細胞が分泌発現型細胞である場合は該細胞を遠心分離等で除去した上清やその濃縮物を用いることができる。
【0044】
上記のようにして単離された、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAを公知の発現ベクターに発現可能に挿入することにより、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素発現ベクターが提供される。そして、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAが導入された形質転換体を得ることができる。形質転換体は、宿主の染色体DNAに2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAを相同組み換えなどの手法によって発現可能に組み込むことによっても得ることができる。
【0045】
形質転換体の作製方法としては、具体的には、微生物などの宿主細胞において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターやウイルスベクター中に、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素をコードするDNAを導入し、構築された発現ベクターを該宿主細胞中に導入するか、もしくは、直接宿主ゲノム中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる方法が例示される。このとき、宿主において適当なプロモーターをDNAの5'−側上流に連結させることは好ましく、さらに、ターミネーターを3'−側下流に連結させることがより好ましい。このようなプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する細胞中において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、例えば、「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに宿主微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーターが詳細に記述されている。
【0046】
2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素を発現させるための形質転換の対象となる宿主微生物としては、宿主自体がL-リジンの反応に悪影響を与えない限り特に限定されることはなく、具体的には以下に示すような微生物を挙げることができる。
【0047】
エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属などに属する宿主ベクター系の確立されている細菌。
【0048】
ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属などに属する宿主ベクター系の確立されている放線菌。
【0049】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属などに属する宿主ベクター系の確立されている酵母。
【0050】
ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などに属する宿主ベクター系の確立されているカビ。
【0051】
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築および宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Molecular Cloningに記載の方法)。
【0052】
以下、具体的に、好ましい宿主微生物、各微生物における好ましい形質転換の手法、ベクター、プロモーター、ターミネーターなどの例を挙げるが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0053】
エシェリヒア属、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとしては、pBR、pUC系プラスミドなどが挙げられ、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PRなどに由来するプロモーターなどが挙げられる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどが挙げられる。
【0054】
バチルス属においては、ベクターとしては、pUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどを挙げることができ、また、染色体にインテグレートすることもできる。プロモーター及びターミネーターとしては、アルカリプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、α−アミラーゼ等の酵素遺伝子のプロモーターやターミネーターなどが利用できる。
【0055】
シュードモナス属においては、ベクターとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで確立されている一般的な宿主ベクター系や、トルエン化合物の分解に関与するプラスミド、TOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240(Gene,26,273−82(1983))などを挙げることができる。
【0056】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、ベクターとしては、pAJ43(Gene 39,281(1985))などのプラスミドベクターを挙げることができる。プロモーター及びターミネーターとしては、大腸菌で使用されている各種プロモーター及びターミネーターが利用可能である。
【0057】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、ベクターとしては、pCS11(特開昭57−183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196,175(1984))などのプラスミドベクターが挙げられる。
【0058】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、ベクターとしては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドなどが挙げられる。また、アルコール脱水素酵素、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、酸性フォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、エノラーゼといった各種酵素遺伝子のプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0059】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、ベクターとしては、Mol.Cell.Biol.6,80(1986)に記載のシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のプラスミドベクターなどを挙げることができる。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0060】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae)などがカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trendsin Biotechnology 7,283−287(1989))。
【0061】
また、上記以外でも、各種微生物に応じた宿主ベクター系が確立されており、それらを適宜使用することができる。
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が確立されており、特に昆虫(例えば、蚕)などの動物中(Nature 315,592−594(1985))や、菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系、及び大腸菌無細胞抽出液や小麦胚芽などの無細胞タンパク質合成系を用いた系が確立されており、好適に利用できる。
【0062】
本発明の製造方法では、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素、前記酵素を含む細胞、前記細胞の調製物もしくは前記細胞を培養して得られた培養液を、2-オキソグルタル酸の存在下、反応基質であるL-リジンに作用させることにより、下記一般式(I)
【0064】
(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子もしくはヒドロキシル基を示し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも一つはヒドロキシル基を示す)
で表されるヒドロキシ-L-リジンを製造することができる。
上記一般式(I)のR
1、R
2、R
3は、それぞれ、最終的に得たい化合物を考慮して選択すればよいが、中でも、R
1、R
2およびR
3の一つまたは二つがヒドロキシル基であることが好ましく、R
1、R
2およびR
3の一つがヒドロキシル基であることがより好ましい。
【0065】
本発明の製造方法は、L-リジンに、2-オキソグルタル酸、及び2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素またはそれを含む細胞、前記細胞の調製物もしくは前記細胞を培養して得られた培養液を作用させることができれば特に制限はないが、通常、水性媒体中、もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行われることが好ましい。本発明の製造方法は、さらに、2価の鉄イオンの存在下で行なうことが好ましい。
前記水性媒体としては、例えば、水又は緩衝液が挙げられる。
また、前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド等、反応基質の溶解度が高いものを使用することができる。前記有機溶媒としてはまた、反応副産物の除去等に効果のある、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン等を使用することもできる。
【0066】
反応基質となるL-リジンは、通常、基質濃度が0.01%w/v〜90%w/v、好ましくは0.1%w/v〜30%w/vの範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。
反応に必要な2-オキソグルタル酸は、通常、基質と等モルまたはそれ以上、好ましくは等モル〜1.2倍モルの範囲で添加する。2-オキソグルタル酸は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素への阻害作用があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。または2-オキソグルタル酸の代わりにグルコース等の宿主が代謝可能な安価な化合物を添加し、宿主に代謝させ、その過程で生じる2-オキソグルタル酸を反応に使用させることも可能である。
本発明の製造方法は、2価の鉄イオンの存在下で行なうことが好ましい。2価の鉄イオンは、通常0.01mM〜100mM、好ましくは0.1mM〜10mMの範囲で用いることが好ましい。2価の鉄イオンは、硫酸鉄などとして、反応開始時に一括して添加することができるが、反応中に、添加した2価の鉄イオンが3価に酸化されたり、沈殿を形成して減少してしまった場合には追添加することも効果的である。また、本発明のL-リジン水酸化酵素、該酵素を含む細胞、該細胞の調製物または該細胞を培養して得られる培養液に既に充分な量の2価の鉄イオンが含まれている場合は必ずしも添加しなくてもよい。
反応は、通常4℃〜60℃、好ましくは10℃〜45℃の反応温度で、通常pH3〜11、好ましくはpH5〜8で行われる。反応時間は通常、1時間〜72時間程度である。
【0067】
反応液に添加する細胞及び/又は該細胞調製物の量は、細胞を添加する場合は反応液にその細胞の濃度が通常、湿菌体重で0.1%w/v〜50%w/v程度、好ましくは1%w/v〜20%w/vとなるように添加し、酵素のような調製物を用いる場合には、酵素の比活性を求め、添加したときに上記細胞濃度になるような量を添加する。
【0068】
本発明の製造方法により生成するヒドロキシ-L-リジンは、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質などを遠心分離、膜処理などにより分離した後に、1−ブタノール、tert−ブタノールなどの有機溶媒による抽出、蒸留、イオン交換樹脂やシリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー、等電点における晶析や一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩等での晶析等を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
【0069】
<ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法>
本発明の方法により製造されたヒドロキシ-L-リジンはヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造に使用できる。
本発明のヒドロキシ-L-リジンからヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する方法としては、以下の3種類の方法が挙げられる。
【0070】
本発明のヒドロキシ-L-リジンからヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する第1の方法は以下に示すとおりである。
<I>ヒドロキシ-L-リジンに、<I−1>L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、L-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素を反応させるか、もしくは<I−2>D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素、およびアミノ酸ラセマーゼを反応させることにより、一般式(II)で表される1位に二重結合をもつ環状アミノ酸を生成させた後、得られた1位に二重結合をもつ環状アミノ酸に、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを作用させて、下記一般式(III)で表されるヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させることを特徴とする、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【化8】
【0071】
(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子もしくはヒドロキシル基を示し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも一つはヒドロキシル基を示す)
【0074】
スキーム1−1はL-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、L-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素とN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを使用する場合である(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子もしくはヒドロキシル基を示し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも一つはヒドロキシル基を示す)。
【0075】
まず、L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、L-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる酵素により化合物(a)(ヒドロキシ-L-リジン)を化合物(b)に変換し、化合物(b)は自発的に化合物(c)に変換される。そして、化合物(c)はN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)により化合物(d)(ヒドロキシ-L-ピペコリン酸)に変換される。
【0076】
ここで、L-アミノ酸オキシダーゼとしては、ヒドロキシ-L-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、配列番号26のアミノ酸配列を含むタンパク質、または配列番号26と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0077】
L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとしては、ヒドロキシ-L-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Nature, 1966, 211, 854に記載のタンパク質が挙げられる。
【0078】
L-アミノ酸トランスフェラーゼ(L-アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)としては、ヒドロキシ-L-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Eur. J. Biochem., 1998, 254, 347に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質または、該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0079】
N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとしては、上記一般式(II)の化合物をヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、配列番号24のアミノ酸配列を含むタンパク質または、配列番号24と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0081】
スキーム1−2はD-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素、およびアミノ酸ラセマーゼと、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを使用する場合である(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子もしくはヒドロキシル基を示し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも一つはヒドロキシル基を示す)。
【0082】
まず、アミノ酸ラセマーゼにより化合物(a)(ヒドロキシ-L-リジン)をD体の化合物(a’)(ヒドロキシ-D-リジン)に変換し、これをD-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる酵素により化合物(b)に変換し、化合物(b)は自発的に化合物(c)に変換される。そして、化合物(c)はN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(NMAADH)により化合物(d)(ヒドロキシ-L-ピペコリン酸)に変換される。
【0083】
アミノ酸ラセマーゼは、ヒドロキシ-L-リジンをヒドロキシ-D-リジンに変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、配列番号30のアミノ酸配列を含むタンパク質または、配列番号30と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0084】
D-アミノ酸オキシダーゼは、ヒドロキシ-D-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Biochemistry, 2005, 70, 40に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質または、該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0085】
D-アミノ酸デヒドロゲナーゼは、ヒドロキシ-D-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Microbiology, 2010, 156(Pt 1), 60およびProc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 2009, 106, 906に記載のDauAまたは、DauAと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0086】
D-アミノ酸トランスフェラーゼ(D-アミノ酸アミノトランスフェラーゼ)は、ヒドロキシ-D-リジンの2位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Protein Eng, 1998, 11, 53に記載のD-AATまたは、D-AATと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0087】
N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとしては、上記一般式(II)の化合物をヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、配列番号24のアミノ酸配列を含むタンパク質または、配列番号24と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0088】
スキーム1−1および1−2の反応は各酵素反応を別々に行ってもよいが、同一反応系で連続的に行うことが好ましい。
より好ましくは、各反応を触媒する酵素を含む細胞をヒドロキシ-L-リジンと反応させることにより行うことが好ましい。各反応を触媒する酵素を含む細胞は本来的にこれらの酵素を有する微生物を用いてもよいが、各酵素をコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましく、スキーム1−1の場合は、L-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、L-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素とN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼをそれぞれコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましく、スキーム1−2の場合は、D-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素とアミノ酸ラセマーゼとN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼをそれぞれコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。
【0089】
また、これらのDNAはそれぞれ染色体に組み込まれてもよいし、単一のベクター中にこれらのDNAを導入し、宿主を形質転換してもよいし、これらのDNAをそれぞれ別個にベクターに導入した後に宿主を形質転換してもよい。
【0090】
なお、微生物等の宿主細胞の形質転換方法、宿主の種類等は2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素の項目で述べたのと同様である。
【0091】
なお、N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼは補酵素にNAD(P)Hを必要とするため、NAD(P)Hの再生系も共存させることが好ましい。すなわち、上記NAD(P)Hを添加する場合には、NAD(P)Hから生成するNAD(P)
+をNAD(P)Hへの再生させることが生産効率向上のため好ましく、再生方法としては、1)宿主微生物自体のNAD(P)
+還元能を利用する方法、2)NAD(P)
+からNAD(P)Hを生成する能力を有する微生物やその調製物、あるいは、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などのNAD(P)Hの再生に利用可能な酵素(再生酵素)を反応系内に添加する方法、3)形質転換体を製造するに当たり、NAD(P)Hの再生に利用可能な酵素である上記再生酵素類の遺伝子を本発明のDNAと同時に宿主に導入する方法が挙げられる。
【0092】
このうち、上記1)の方法においては、反応系にグルコースやエタノール、ギ酸などを添加する方が好ましい。
また、上記2)の方法においては、上記再生酵素類を含む微生物、該微生物菌体をアセトン処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的または酵素的に破砕したもの等の菌体調製物、該酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等に代表される担体に固定化したもの等を用いてもよく、また市販の酵素を用いてもよい。この場合、再生酵素の基質となる化合物、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼを利用する場合のグルコース、ギ酸デヒドロゲナーゼを利用する場合のギ酸、アルコールデヒドロゲナーゼを利用する場合のエタノールもしくはイソプロパノールなどの添加も必要となる。
【0093】
スキーム1−1、または1−2の反応を同一反応系で連続的に行う場合は、ヒドロキシ-L-リジン、各酵素をコードする遺伝子群で形質転換された細胞、該形質転換体された細胞の調製物および/または該形質転換体された細胞を培養して得られた培養液を含有する水性媒体中もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
前記水性媒体としては、水又は緩衝液が挙げられる。また、前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド等、反応基質の溶解度が高いものを使用することができる。有機溶媒としてはまた、反応副産物の除去等に効果のある、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン等を使用することもできる。
【0094】
反応基質となるヒドロキシ-L-リジンは、通常、基質濃度が0.01%w/v〜90%w/v、好ましくは0.1%w/v〜30%w/vの範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。
必要に応じて、NAD(P)Hなどの補酵素を、通常、0.001mM〜100mM、好ましくは0.01mM〜10mM添加する。
反応は、通常4℃〜60℃、好ましくは10℃〜45℃の反応温度で、通常pH3〜11、好ましくはpH5〜8で行われる。反応時間は通常、1時間〜72時間程度である。
【0095】
本発明の方法により生成するヒドロキシ-L-ピペコリン酸は、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質などを遠心分離、膜処理などにより分離した後に、1−ブタノール、tert−ブタノールなどの有機溶媒による抽出、蒸留、イオン交換樹脂やシリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー、等電点における晶析や一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩等での晶析等を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
【0096】
本発明のヒドロキシ-L-リジンからヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する第2の方法は以下に示すとおりである。
<II>ヒドロキシ-L-リジンに、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ、L-リジン 6-トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素を反応させ、一般式(IV)で表される6位に二重結合をもつ環状アミノ酸を生成させた後、得られた6位に二重結合をもつ環状アミノ酸に、ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼを作用させて、一般式(III)で表されるヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させることを特徴とする、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【化11】
【0097】
(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子もしくはヒドロキシル基を示し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも一つはヒドロキシル基を示す)
【0098】
以下、スキームを例示して説明する(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子もしくはヒドロキシル基を示し、R
1、R
2およびR
3の少なくとも一つはヒドロキシル基を示す)。
【0100】
まず、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ、L-リジン 6-トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素により化合物(a)(ヒドロキシ-L-リジン)を化合物(b
’)に変換し、化合物(b’)は自発的に化合物(c’)に変換される。そして、化合物(c’)はピロリン-5-カルボン酸(P5C)レダクターゼにより化合物(d)(ヒドロキシ-L-ピペコリン酸)に変換される。
【0101】
L-リジン 6-オキシダーゼは、ヒドロキシ-L-リジンの6位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Biochim. Biophys. Acta., 2006, 1764 1577に記載のlodAまたは、lodAと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0102】
L-リジン 6-デヒドロゲナーゼは、ヒドロキシ-L-リジンの6位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、J. Biochem., 105, 1002-1008 (1989)に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質または、該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0103】
L-リジン 6-トランスフェラーゼ(リジン− 6 − アミノトランスフェラーゼ)は、ヒドロキシ-L-リジンの6位のアミノ基をオキソ基に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、国際公開公報WO2001/048216号に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質または、該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0104】
ピロリン-5-カルボン酸(P5C)レダクターゼは、一般式(IV)で表される化合物を一般式(III)で表されるヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、国際公開公報WO2001/048216号に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質または、該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0105】
スキーム2の反応は各酵素反応を別々に行ってもよいが、同一反応系で連続的に行うことが好ましい。
より好ましくは、各反応を触媒する酵素を含む細胞をヒドロキシ-L-リジンと反応させることにより行うことが好ましい。各反応を触媒する酵素を含む細胞は本来的にこれらの酵素を有する細胞を用いてもよいが、各酵素をコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましく、具体的には、L-リジン 6-オキシダーゼ、L-リジン 6-デヒドロゲナーゼ、L-リジン 6-トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる少なくとも一種の酵素とピロリン-5-カルボン酸(P5C)レダクターゼをそれぞれコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。
【0106】
なお、微生物等の宿主細胞の形質転換方法、宿主の種類等は2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素の項目で述べたのと同様である。
【0107】
スキーム2の反応を同一反応系で連続的に行う場合は、ヒドロキシ-L-リジン、各酵素をコードする遺伝子群で形質転換された細胞、該形質転換体の調製物および/または該形質転換体を培養して得られた培養液を含有する水性媒体中もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
反応条件、補酵素の添加および再生、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の回収方法は上記<I>の項で述べたのと同様である。
【0108】
本発明のヒドロキシ-L-リジンからヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造する第3の方法は以下に示すとおりである。
<III>ヒドロキシ-L-リジンに、リジンシクロデアミナーゼを作用させて、一般式(III)で表されるヒドロキシ-L-ピペコリン酸を生成させることを特徴とする、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造方法。
【0109】
リジンシクロデアミナーゼは、ヒドロキシ-L-リジンをヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換する反応を触媒しうるものであれば特に制限されないが、例えば、Biochimie 2007, 89, 591に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質または、該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、該活性を保持するタンパク質が挙げられる。
【0110】
リジンシクロデアミナーゼによる反応は、リジンシクロデアミナーゼを含む細胞をヒドロキシ-L-リジンと反応させることにより行うことが好ましい。リジンシクロデアミナーゼを含む微生物は本来的にこれらの酵素を有する細胞を用いてもよいが、リジンシクロデアミナーゼをコードするDNAで形質転換された細胞を用いることが好ましい。
【0111】
なお、微生物等の宿主細胞の形質転換方法、宿主の種類等は2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素の項目で述べたのと同様である。
【0112】
リジンシクロデアミナーゼによるヒドロキシ-L-リジンのヒドロキシ-L-ピペコリン酸への変換反応を行う場合は、ヒドロキシ-L-リジン、リジンシクロデアミナーゼをコードするDNAで形質転換された細胞、該形質転換体の調製物および/または該形質転換体を培養して得られた培養液を含有する水性媒体中もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
反応条件、補酵素の添加および再生、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸の回収方法は上記<I>の項で述べたのと同様である。
【0113】
なお、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素と、ヒドロキシ-L-リジンのヒドロキシ-L-ピペコリン酸への変換反応を行う酵素または酵素群を同時に用いてL-リジンから直接ヒドロキシ-L-ピペコリン酸を製造することもできるが、L-リジンに2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素が作用する前に、ヒドロキシ-L-リジンのヒドロキシ-L-ピペコリン酸への変換反応を行う酵素または酵素群がL-リジンに作用し、L-ピペコリン酸が副生する可能性もあるため、ヒドロキシ-L-リジンのヒドロキシ-L-ピペコリン酸への変換反応を行う酵素または酵素群についてはL-リジンにくらべてヒドロキシ-L-リジンに優先的に作用するものを選択する必要がある。この場合、2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素と、ヒドロキシ-L-リジンのヒドロキシ-L-ピペコリン酸への変換反応を行う酵素または酵素群のDNAで同時に宿主細胞を形質転換して用いてもよい。
【0114】
また、本発明の方法により製造されたヒドロキシ-L-リジンをヒドロキシ-L-ピペコリン酸の製造に使用する場合、ヒドロキシ-L-リジンの精製は省略し、ヒドロキシ-L-ピペコリン酸に変換した後のみに精製を行うことも可能である。
【0115】
[実施例]
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0116】
2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素遺伝子のクローニング
フラボバクテリウム・ジョンソネ( Flavobacterium johnsoniae)NBRC14942株由来L−アルギニンβヒドロキシラーゼVioCホモログHyl−1(GenBank Accession No. ABQ06186、配列番号2)をコードする遺伝子配列(hyl−1、配列番号1)を元に、hyl−1遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーhyl1_F(配列番号13)とhyl1_R(配列番号14)を設計、合成した。フラボバクテリウム・ジョンソネの染色体DNAを鋳型とし、常法に従ってPCR反応を行い、約1.0kbpのDNA断片を得た。
同様に、キネオコッカス・ラジオトレランス(Kineococcus radiotolerans)NBRC101839 株、キチノファーガ・ピネンシス(Chitinophaga pinensis)NBRC15968株、クリセオバクテリウム・グレウム(Chryseobacterium gleum)NBRC15054株、ニアステラ・コリエンシス(Niastella koreensis)NBRC106392株由来のVioCホモログについて、それぞれHyl−2(GenBank Accession No.ABS05421、配列番号4)、Hyl−3(GenBank Accession No.ACU60313、配列番号6)、Hyl−4(GenBank Accession No.EFK34737、配列番号8)、Hyl−5(GenBank Accession No.AEV99100、配列番号10)とした。各酵素をコードする遺伝子配列(hyl−2(配列番号3)、hyl−3(配列番号5)、hyl−4(配列番号7)、hyl−5(配列番号9))を元に、各遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーを設計、合成した。hyl−2に対してはプライマーhyl2_f(配列番号15)とhyl2_r(配列番号16)、hyl−3に対してはプライマーhyl3_f(配列番号17)とhyl3_r(配列番号18)、hyl−4に対してはプライマーhyl4_f(配列番号19)とhyl4_r(配列番号20)、hyl−5に対してはプライマーhyl5_f(配列番号21)とhyl5_r(配列番号22)を合成し、各株の染色体DNAを鋳型とし常法に従ってPCR反応を行った。それぞれ約1.0kbpのDNA断片を得た。
得られた5種のDNA断片をそれぞれ制限酵素NdeI、XhoIにより消化し、NdeI、XhoIにより消化したpET21a(Novagen)に定法に従ってライゲーションすることで、それぞれpEHYL1、pEHYL2、pEHYL3、pEHYL4、pEHYL5を得た。
また、海洋性放線菌marine actinobacterium PHSC20C1由来Hyl−6(GenBank Accession No.EAR24255、配列番号12)をコードする遺伝子配列(hyl−6、配列番号11)をDNA2.0社にて人工合成し、pJExpress401(DNA2.0)に挿入されたプラスミドpJHYL6を作製した。
次に得られた各プラスミドを用いて大腸菌(Eschelichia coli)BL21(DE3)(インビトロジェン製)を定法に従い形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pEHYL1、BL21(DE3)/pEHYL2、BL21(DE3)/pEHYL3、BL21(DE3)/pEHYL4、BL21(DE3)/pEHYL5、BL21(DE3)/pJHYL6を得た。導入した遺伝子を発現する菌体を得るために、各組換え大腸菌についてアンピシリン、およびlacプロモーター誘導物質を含む液体LB培地を用いて30℃で培養し、培養約20時間目に集菌した。
【実施例2】
【0117】
休止菌体反応による2-オキソグルタル酸依存型L-リジン水酸化酵素の活性確認
プラスチックチューブ内で5mM L−リジン、10mM 2−オキソグルタル酸、1mM L−アスコルビン酸、0.1mM硫酸鉄、そして、実施例1に準ずる方法で得られた組換え大腸菌を濁度OD
600=10となるように反応液を混合した。調製された混合液0.5mlを30℃、pH7.0で3時間反応させた。反応産物を1−fluoro−2,4−dinitrophenyl−5−L−alaninamide(FDAA)により誘導体化し、その後HPLCにより分析した。その結果、
図1,
図2に示す通り、BL21(DE3)/pEHYL2、BL21(DE3)/pJHYL6が3−ヒドロキシリジン標準品の保持時間8.04分に一致する化合物を生成することが確認された。また、BL21(DE3)/pEHYL1、BL21(DE3)/pEHYL3、BL21(DE3)/pEHYL4、BL21(DE3)/pEHYL5が4−ヒドロキシリジン標準品の保持時間8.16分に一致する化合物を生成することが確認された。
なお、HPLCによるヒドロキシリジン分析条件は以下の通りである。
カラム:ナカライテスク社製COSMOSIL 5C
18−AR−II(4.6mm×150mm)、移動相:50mMリン酸緩衝液(pH2.7)、流速:1.0mL/分、カラム温度:40℃、UV:340nm
【実施例3】
【0118】
(2S,3S)−3−ヒドロキシリジンの合成
1Lジャーファーメンターに、1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)35mL、脱塩水304mL、L−リジン塩酸塩1.28g、2−オキソグルタル酸2.05g、L−アスコルビン酸ナトリウム0.14g、硫酸鉄0.02g、アデカノールLG109 0.35g、及び実施例1に準ずる方法で得られた組換え大腸菌BL21(DE3)/pEHYL2の湿菌体8gを混合し、30℃、pH7.0、撹拌数500rpm、空気の通気量2.0vvmで17時間反応させた。反応終了はHPLCによる分析によりL−リジンのピーク消失を確認することで判断した。反応終了後の液から遠心分離および精密ろ過により菌体及び菌体残渣を取り除き、390gの濾液が得られた。
なお、HPLCによるL−リジン分析条件は以下の通りである。
カラム:住化分析センター社製SUMICHIRAL OA−6100(4.6mm×250mm)、移動相:1mM硫酸銅、流速:1.0mL/分、カラム温度:30℃、UV:254nm
濾液390gをイオン交換樹脂カラム(ダイヤイオン(登録商標)SK−1B(H型)60.0g)に通液し、水で洗浄した後、150mmolのアンモニアを含む水溶液で溶出させた。アンモニア溶出液を濃縮し、(2S,3S)−3−ヒドロキシリジン1.0g(6.17mmol、収率88%)を得た。
得られた(2S,3S)−3−ヒドロキシリジンの物性の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz,D
2O)δ,1.45−1.58(2H,m),1.63−1.73(1H,m),1.74−1.88(1H,m),2.93−3.04(2H,m),3.47(1H,d,J=4.3Hz),3.89(1H,dt,J=8.4, 4.5Hz)
【実施例4】
【0119】
(2S,3S)−3−ヒドロキシリジンの立体化学決定
フラスコに、実施例3に準ずる方法で得られた(2S,3S)−3−ヒドロキシリジン8.3mg(0.051mmol)、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.26ml、ベンジルオキシカルボニルクロリド18μl(0.13mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。さらに1mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.26ml、ベンジルオキシカルボニルクロリド18μl(0.13mmol)を添加し、室温で一晩反応させた後、テトラヒドロフラン0.5mlを添加して、60℃でさらに2時間反応させた。室温に冷却後、水酸化ナトリウム95mgを添加し、室温で一晩反応させた。反応液をトルエン−テトラヒドロフラン(1:1)で2回洗浄した後、濃塩酸250μlを添加して強酸性にし、さらに酢酸エチルで3回洗浄した後、水層を1−ブタノールで4回抽出した。1−ブタノール層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮し、白色固体として(4S,5S)−5−(3−ベンジルオキシカルボニルアミノプロピル)−2−オキソ−4−オキサゾリジンカルボン酸14.6mg(0.045mmol、収率89%)を得た。
NOESY測定の結果を下式に示す。3位水素原子(H
4)と4位水素原子(H
5)の間にクロスピークが観測され、4位と1’位間には観測されなかったことから、4位と5位の置換基はシス配置であることが確かめられた。酵素反応に用いたリジンの絶対配置はSであることから、本実施例で得られた5−(3−ベンジルオキシカルボニルアミノプロピル)−2−オキソ−4−オキサゾリジンカルボン酸は(4S,5S)の立体化学を持ち、その原料である3−ヒドロキシリジンは(2S,3S)の立体化学を有することが確かめられた。
得られた(4S,5S)−5−(3−ベンジルオキシカルボニルアミノプロピル)−2−オキソ−4−オキサゾリジンカルボン酸の物性の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz,MeOH−d
4)δ,1.39−1.53(3H,m,H
1',H
2'x2),1.59−1.68(1H,m,H
1'),3.02−3.08(2H,m,H
3'),3.60−3.64(1H,m,H
4),3.93−4.00(1H,m,H
5),4.90−5.02(2H,m,Bn),7.18−7.28(5H,m,Bn).
【化13】
【0120】
[参考例1]
[N−メチル−L−アミノ酸デヒドロゲナーゼ(以下、DpkA)、L−アミノ酸オキシダーゼ(以下、AIP)、グルコース−1−デヒドロゲナーゼ(以下、GDH)、及びアミノ酸ラセマーゼ(以下、KR)を共発現した組換え大腸菌JM109/pKW32(dpkA,aip,gdh,kr)の調製例]
(1)遺伝子のクローニング
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来DpkA(GenBank Accession No.BAD89743、配列番号24)をコードする遺伝子配列(以下dpkA、配列番号23)を元に、dpkA遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーdpkA_F(配列番号31)とdpkA_R(配列番号32)を設計、合成した。シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)の染色体DNAを鋳型とし、常法に従ってPCRを行い、約1.0kbpのDNA断片を得た。
マサバ(Scomber japonicus)由来のL−アミノ酸オキシダーゼ(GenBank Accession No.CAC00499)からシグナルペプチドを除いた配列にメチオニンを付加したタンパク質AIP(配列番号26)をコードする遺伝子配列(以下aip、配列番号25)を設計し、人工合成した。さらにaip遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーaip_F(配列番号33)とaip_R(配列番号34)を設計、合成した。常法に従ってPCRを行い、約1.5kbpのDNA断片を得た。
バチルス・サチルス(Bacillus subtilis)由来GDH(GenBank Accession No.NP_388275)において96番目のアミノ酸残基のグルタミン酸をアラニンに置換したタンパク質(配列番号28)をコードする遺伝子配列(以下gdh、配列番号27)を元に、gdhの遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーgdh_F(配列番号35)とgdh_R(配列番号36)を設計、合成した。
常法に従ってPCRを行い約0.8kbpのDNA断片を得た。
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来のKR(GenBank Accession No. NP_745855、配列番号30)をコードする遺伝子配列(以下kr、配列番号29)を元に、rk遺伝子の全長を増幅させるためのプライマーkr_F(配列番号37)とkr_R(配列番号38)を設計、合成した。シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)の染色体DNAを鋳型とし、常法に従ってPCRを行い、約1.2kbpのDNA断片を得た。
【0121】
(2)発現用プラスミドの調製
上記(1)で得られたDNA断片をそれぞれ制限酵素EcoRI及びXbaIにより消化し、MunI及びXbaIにより消化した国際公開公報WO2012/029819号に記載のプラスミドpKW32にLigation−Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いてtrcプロモーターの下流に導入し、それぞれpKW32dpkA,pKW32aip,pKW32gdh,pKW32krを得た。
続いて、pKW32aipをSpeI及びNdeIにより消化してaipを含む約2.4kbpのDNA断片を、pKW32dpkAをXbaI及びNdeIにより消化して得られた開環プラスミド約4.2kbpのdpkAの下流に導入して、pKW32(dpkA,aip)を得た。
さらに、pKW32gdhをSpeI及びNdeIにより消化してgdhを含む約1.7kbpのDNA断片を、pKW32(dpkA、aip)をXbaI及びNdeIにより消化して得られた開環プラスミド約5.7kbpのaipの下流に導入して、pKW32(dpkA,aip,gdh)を得た。
最後に、pKW32krをSpeI及びNdeIにより消化してkrを含む約2.1kbpのDNA断片を、pKW32(dpkA,aip,gdh)をXbaI及びNdeIにより消化して得られた開環プラスミド約6.5kbpのgdhの下流に導入して、pKW32(dpkA,aip,gdh,kr)を得た。
【0122】
(3)発現株の調製
上記(2)で得られたプラスミドpKW32(dpkA,aip,gdh,kr)を用いて、大腸菌(Escherichia coli)JM109(タカラバイオ株式会社製)を常法に従い形質転換し、組換え大腸菌JM109/pKW32(dpkA,aip,gdh,kr)を得た。
【実施例5】
【0123】
(2S,3S)−3−ヒドロキシピペコリン酸の製造
プラスチックチューブに、1Mトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液(pH8.0)0.75mL、脱塩水9.21mL、実施例3で得られた(2S,3S)−3−ヒドロキシリジン86mg、50mM NADPH 0.083ml、1.0Mグルコース0.7ml、及び参考例1で得られた組換え大腸菌JM109/pKW32(dpkA,aip,gdh,kr)の100g/Lけん濁液1.25mlを混合し、30℃、pH8.0、撹拌数1000rpmで20時間反応させた。反応終了はHPLCによる分析により(2S,3S)−3−ヒドロキシリジンのピーク消失を確認することで判断した。反応終了後の液から、遠心分離により菌体及び菌体残渣を取り除いた10.5gの上清を得た。
HPLCによる(2S,3S)−3−ヒドロキシリジン分析条件は以下の通りである。
カラム:SUPELCO社製CLC−D(4.6mm×150mm)、移動相:2mM硫酸銅、流速:1.0mL/分、カラム温度:30℃、UV:254nm
上清10.5gをイオン交換樹脂カラム(ダイヤイオン(登録商標)SK−1B(H型)4.0g)に通液し、水で洗浄した後、16.4mmolのアンモニアを含む水溶液で溶出させた。アンモニア溶出液を濃縮し、褐色固形物質255mgを取得した。NMR解析の結果、この固形物質は、(2S,3R)−3−ヒドロキシピペコリン酸を20重量%(0.35mmol、収率66.3%)、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを80重量%含有する混合物であった。
得られた固形物質の物性の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz, D
2O)δ,1.38−1.56(2H, m),1.73−1.85(2H, m),2.71−2.79(1H, m),3.04−3.11(1H, m),3.23(1H, d, J=7.6Hz),3.79−3.86(1H, m).
【実施例6】
【0124】
(2S,4R)−4−ヒドロキシリジンの合成
1Lジャーファーメンターに、脱塩水335mL、L−リジン塩酸塩1.28g、2-オキソグルタル酸2.05g、L−アスコルビン酸ナトリウム0.14g、硫酸鉄0.02g、アデカノールLG109 0.35g、及び実施例1に準ずる方法で得られた組換え大腸菌BL21(DE3)/pEHYL1の湿菌体8gを混合し、30℃、pH6.8、撹拌数500rpm、空気の通気量2.0vvmで19時間反応させた。反応終了はHPLCによる分析によりL−リジンのピーク消失を確認することで判断した。反応終了後の液から、遠心分離および精密ろ過により菌体及び菌体残渣を取り除いた。その結果345gの濾液が得られた。
なお、HPLCによるL−リジン分析条件は以下の通りである。
カラム:住化分析センター社製SUMICHIRAL OA−6100(4.6mm×250mm)、移動相:1mM硫酸銅、流速:1.0mL/分、カラム温度:30℃、UV:254nm
得られた濾液345gをNH
3で置換したイオン交換樹脂カラム(ダイヤイオン(登録商標)SK−1B(H型)40.0g)に通液し、水で洗浄した後、64mmolのアンモニアを含む水溶液で溶出させた。アンモニア溶出液を濃縮し、(2S,4R)−4−ヒドロキシリジン1.1g(6.79mmol、収率97%)を得た。
得られた(2S,4R)−4−ヒドロキシリジンの物性の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz,D
2O)δ,1.50−1.65(3H,m),1.71(1H,ddd,J=14.4,9.1,4.3Hz),2.62−2.75(2H,m),3.32(1H,dd,J=8.6,4.8Hz),3.72−3.80(1H,m).
【実施例7】
【0125】
(2S,4R)−4−ヒドロキシリジンの立体化学決定
フラスコに、実施例6で得られた(2S,4R)−4−ヒドロキシリジン47mg(0.30mmol)、水0.2ml、6N塩酸0.2mlを添加し、室温で1時間反応させた。反応液を濃縮し、白色結晶として粗(3S,5R)−3−アミノ−5−(2−アミノエチル)−2(3H)−ジヒドロフラノン二塩酸塩67mgを得た。
得られた粗(3S,5R)−3−アミノ−5−(2−アミノエチル)−2(3H)−ジヒドロフラノン二塩酸塩42mg(0.19mmol)、トリエチルアミン0.56ml(4.0mmol)、ジクロロメタン1mlをフラスコ仕込み、氷冷下トリフルオロ酢酸無水物0.14ml(1.0mmol)を添加した。2時間撹拌した後反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。得られた油状物質を酢酸エチルに溶解し、炭酸カリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した。水層を酢酸エチルで再抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、有機層を濃縮し、褐色油状物質43mgを取得した。NMR解析の結果、この油状物質は、(3S,5R)−3−トリフルオロアセチルアミノ−5−(2−トリフルオロアセチルアミノエチル)−2(3H)−ジヒドロフラノンを34重量%(0.044mmol、収率23%)、トリエチルアミン・トリフルオロ酢酸塩を66重量%含有する混合物であった。
NOESY測定の結果を下式に示す。3位水素原子(H
3)と5位水素原子(H
5)の間、及び4位水素原子の一方(H
4a)と、3位及び5位の水素原子の間にクロスピークが観測されたことから、3位と5位の置換基はシス配置であることが確かめられた。酵素反応に用いたリジンの絶対配置はSであることから、3−トリフルオロアセチルアミノ−5−(2−トリフルオロアセチルアミノエチル)−2(3H)−ジヒドロフラノンは(3S,5R)の立体化学を持ち、その原料である4−ヒドロキシリジンは(2S,4R)の立体化学を有することが確かめられた。
得られた(3S,5R)−3−トリフルオロアセチルアミノ−5−(2−トリフルオロアセチルアミノエチル)−2(3H)−ジヒドロフラノンの物性の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3)δ1.93−2.22(3H,m,H
4b,H
1'x2),2.76(1H,ddd,J=12.6,8.8,5.6Hz,H
4a),3.51−3.56(2H,m,H
2'),4.52−4.60(1H,m,H
5),4.75(1H,dd,J=11.9,9.1Hz,H
3),7.86(1H,brs,NH),8.87(1H,brs,NH).
【化14】
【実施例8】
【0126】
(2S,4R)−4−ヒドロキシピペコリン酸の製造
プラスチックチューブに、1Mトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液(pH8.0)0.75mL、脱塩水9.21mL、実施例6で得られた(2S,4R)−4−ヒドロキシリジン86mg、50mM NADPH 0.083ml、1.0Mグルコース0.7ml、及び参考例1で得られた組換え大腸菌JM109/pKW32(dpkA,aip,gdh,kr)の100g/Lけん濁液1.25mlを混合し、30℃、pH8.0、撹拌数1000rpmで20時間反応させた。反応終了はHPLCによる分析により(2S,4R)−4−ヒドロキシリジンのピーク消失を確認することで判断した。反応終了後の液から、遠心分離により菌体及び菌体残渣を取り除いた上清10.5gを得た。
HPLCによる(2S,4R)−4−ヒドロキシリジン分析条件は以下の通りである。
カラム:SUPELCO社製CLC−D(4.6mm×150mm)、移動相:2mM硫酸銅、流速:1.0mL/分、カラム温度:30℃、UV:254nm
上清10.5gをイオン交換樹脂カラム(ダイヤイオン(登録商標)SK−1B(H型)4.0g)に通液し、水で洗浄した後、16.4mmolのアンモニアを含む水溶液で溶出させた。アンモニア溶出液を濃縮し、褐色固形物質219mgを取得した。NMR解析の結果、この固形物質は、(2S,4R)−4−ヒドロキシピペコリン酸を22重量%(0.33mmol、収率62.6%)、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを78重量%含有する混合物であった。
得られた(2S,4R)−4−ヒドロキシピペコリン酸の物性の測定結果を以下に示す。
1H−NMR(400MHz, D
2O)δ,1.28−1.45(2H, m),1.91−1.99(1H, m),2.26−2.33(1H, m),2.77(1H, td, J=13.2, 3.1Hz),3.25(1H, ddd, J=13.2, 4.4, 2.6Hz),3.36−3.41(1H, m),3.78(1H, tt, J=11.1, 4.5Hz).