(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒状の弁本体と、該弁本体の内部にて軸方向に沿ってスライド自在に設けられた弁体と、前記弁本体の周面に開口して設けられた複数のポートと、を備えたスライド式切換弁であって、
前記複数のポートは、前記弁本体の内部に流体を流入させる流入ポートと、該流入ポートに対して前記弁本体の径方向反対側に設けられる第一ポートと、前記第一ポートの前記軸方向一方側に設けられる第二ポートと、前記第一ポートの前記軸方向他方側に設けられる第三ポートと、を有し、該第一、第二、第三の各ポートが前記弁本体の弁座の案内面に開口して設けられ、
前記弁体は、前記軸方向一方側にスライドして前記第一ポートと前記第二ポートとを連通させる第一位置と、前記軸方向他方側にスライドして前記第一ポートと前記第三ポートとを連通させる第二位置と、の間を前記案内面に案内されて移動することで流路を切り換える弁部材を有して構成され、
前記弁部材には、前記案内面と対向し該案内面と略平行に設けられる連結板部を有した連結部材が連結され、
前記弁部材は、前記弁座に向かって開口するドーム状の椀部と、該椀部の開口縁から外方に延びるフランジ部と、を有して形成され、
前記フランジ部には、前記弁座の前記案内面に摺接する平坦な摺接面と、前記椀部の周辺にて厚肉状に形成された厚肉部と、該厚肉部から前記軸方向一方側及び他方側に延びて該厚肉部よりも前記摺接面の反対面側が薄く形成された薄肉部と、が設けられ、
前記厚肉部が前記連結板部と前記案内面との間に位置することを特徴とするスライド式切換弁。
前記フランジ部における前記摺接面の反対面側において、前記厚肉部と前記薄肉部との間に段差が設けられるか、又は、前記厚肉部から前記薄肉部に向かって傾斜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
前記フランジ部の前記軸方向の長さ寸法は、前記第二ポート及び前記第三ポートの最外縁間距離よりも大きく形成され、該フランジ部における前記軸方向一方側及び他方側の両端縁には、前記椀部に向かって凹んだ凹部が形成され、
前記第一位置と前記第二位置との中間位置に前記弁体が位置した際に、前記軸方向一方側の凹部が前記第二ポートに連通するとともに、前記軸方向他方側の凹部が前記第三ポートに連通することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスライド式切換弁。
流体である冷媒を圧縮する圧縮機と、冷却モード時に凝縮器として機能する第一熱交換器と、冷却モード時に蒸発器として機能する第二熱交換器と、前記第一熱交換器と前記第二熱交換器との間にて冷媒を膨張させて減圧する膨張手段と、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスライド式切換弁と、を備えたことを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【背景技術】
【0002】
従来、ルームエアコン等の空気調和機で利用される冷凍サイクルとして、冷却モード(冷房)運転時に圧縮機、室外熱交換器、膨張弁、及び室内熱交換器を経由して冷媒を圧縮機に環流させ、加温モード(暖房)運転時に圧縮機、室内熱交換器、膨張弁、及び室外熱交換器を経由して冷媒を圧縮機に環流させるように、冷媒の環流方向を逆転させるものが利用されている。このような冷凍サイクルにおける冷媒の環流経路を逆転させる流路切換弁(所謂、四方切換弁)として、弁本体の内部にスライド自在に設けられた弁体を備えたスライド式切換弁が広く用いられている。
【0003】
スライド式切換弁の弁本体には、圧縮機の吐出口にD継手を介して接続されて高圧冷媒を流入させる流入ポートと、圧縮機の吸入口にS継手を介して接続されて冷媒を圧縮機に還流させる流出ポートと、室内熱交換器にE継手を介して接続される室内側ポートと、室外熱交換器にC継手を介して接続される室外側ポートと、が設けられている。そして、スライド式切換弁は、一方側にスライドさせた弁体の弁部材によって流出ポートと室内側ポートとを連通させるとともに、弁本体内部によって流入ポートと室外側ポートとを連通させる冷却モードと、他方側にスライドさせた弁部材によって流出ポートと室外側ポートとを連通させるとともに、弁本体内部によって流入ポートと室内側ポートとを連通させる加温モードと、が切り替えられるようになっている。
【0004】
このようなスライド式切換弁として、冷却モードと加温モードとの切り換え時における切換え不良の防止と、異常圧力上昇による機器停止の防止とを意図した構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載された従来のスライド式切換弁は、椀部(凹部)とフランジ部とを有した合成樹脂製の弁部材(摺動弁体)を備え、フランジ部の両端部の幅方向中間部に切欠き穴部が形成されている。これらの切欠き穴部は、モード切り換え時の中間位置において、流入ポートと流出ポートとを室内側ポート及び室外側ポートを介してバイパス連通させることで、異常な圧力上昇が抑制され、圧縮機が停止する事態が防止されるようになっている。また、従来のスライド式切換弁では、切欠き穴部の大きさを適宜に設定することで、弁部材の中間位置において、バイパス連通させた流入ポートから流出ポートに流出させる中間流体の流量が過剰になることが抑制される。このように中間流量を制御することで、モード切り換え時の高圧側と低圧側との圧力差の低下を抑え、弁体の切換え不良が防止されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたような従来のスライド式切換弁では、モード切り換え時の異常圧力上昇と切換え不良の改善が図られているものの、冷却モード及び加温モードにおける高圧側流体の流量低下が生じてしまう可能性がある。すなわち、前述したように、弁部材のフランジ部がスライド方向に延長されたことによって、加温モード時には一方側のフランジ部によって室内側ポートの一部が覆われ、冷却モード時には他方側のフランジ部によって室外側ポートの一部が覆われ、流入ポートから室内側ポートや室外側ポートへ向かう高圧側流体の流路抵抗が増大することとなる。
【0007】
本発明の目的は、冷却モード及び加温モードにおける高圧側流体の流量低下を抑制することができるスライド式切換弁及び冷凍サイクルシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスライド式切換弁は、筒状の弁本体と、該弁本体の内部にて軸方向に沿ってスライド自在に設けられた弁体と、前記弁本体の周面に開口して設けられた複数のポートと、を備えたスライド式切換弁であって、前記複数のポートは、前記弁本体の内部に流体を流入させる流入ポートと、該流入ポートに対して前記弁本体の径方向反対側に設けられる第一ポートと、前記第一ポートの前記軸方向一方側に設けられる第二ポートと、前記第一ポートの前記軸方向他方側に設けられる第三ポートと、を有し、該第一、第二、第三の各ポートが前記弁本体の弁座
の案内面に開口して設けられ、前記弁体は、前記軸方向一方側にスライドして前記第一ポートと前記第二ポートとを連通させる第一位置と、前記軸方向他方側にスライドして前記第一ポートと前記第三ポートとを連通させる第二位置と、の間を
前記案内面に案内されて移動することで流路を切り換える弁部材を有して構成され、
前記弁部材には、前記案内面と対向し該案内面と略平行に設けられる連結板部を有した連結部材が連結され、前記弁部材は、前記弁座に向かって開口するドーム状の椀部と、該椀部の開口縁から外方に延びるフランジ部と、を有して形成され、前記フランジ部には、前記弁座
の前記案内面に摺接する平坦な摺接面と、前記椀部の周辺にて厚肉状に形成された厚肉部と、該厚肉部から前記軸方向一方側及び他方側に延びて該厚肉部よりも前記摺接面の反対面側が薄く形成された薄肉部と、が設けられ
、前記厚肉部が前記連結板部と前記案内面との間に位置することを特徴とする。
【0009】
このような本発明によれば、弁部材のフランジ部において軸方向一方側及び他方側に延びる薄肉部が形成されていることで、薄肉部の上面側(摺接面の反対面側)に流体を通過させることができる。従って、フランジ部が軸方向(スライド方向)の一方側及び他方側に延長され、第二ポート及び第三ポートの一部を覆うとしても、薄肉部の上面側を通過させた流体を第二ポートや第三ポートへ向かって流しやすくなることから、高圧側の流体の流量低下を抑制することができる。
【0010】
この際、前記フランジ部における前記摺接面の反対面側において、前記厚肉部と前記薄肉部との間に段差が設けられるか、又は、前記厚肉部から前記薄肉部に向かって傾斜が設けられていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、厚肉部から薄肉部に向かって段差や傾斜が設けられていることで、流体の流れを阻害しにくくできることから、高圧側の流体の流路抵抗を低減することができる。
【0012】
さらに、前記フランジ部における前記摺接面の反対面側において、前記薄肉部の端縁には面取り部が設けられていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、薄肉部の端縁には面取り部が設けられていることで、薄肉部の上面側を通過させた流体を第二ポートや第三ポートへ向かって円滑に案内することができ、高圧側の流体の流路抵抗をより一層低減することができる。
【0014】
また、前記フランジ部の前記軸方向の長さ寸法は、前記第二ポート及び前記第三ポートの最外縁間距離よりも大きく形成され、該フランジ部における前記軸方向一方側及び他方側の両端縁には、前記椀部に向かって凹んだ凹部が形成され、前記第一位置と前記第二位置との中間位置に前記弁体が位置した際に、前記軸方向一方側の凹部が前記第二ポートに連通するとともに、前記軸方向他方側の凹部が前記第三ポートに連通することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、フランジ部の長さ寸法が第二ポート及び第三ポートの最外縁間距離よりも大きく形成されるとともに、フランジ部における軸方向一方側及び他方側の両端縁に凹部が形成され、モード切り換え時の中間位置において一方側の凹部が第二ポートに連通し、他方側の凹部が第三ポートに連通することで、モード切換え不良及び異常圧力上昇を防止することができる。
【0016】
本発明の冷凍サイクルシステムは、流体である冷媒を圧縮する圧縮機と、冷却モード時に凝縮器として機能する第一熱交換器と、冷却モード時に蒸発器として機能する第二熱交換器と、前記第一熱交換器と前記第二熱交換器との間にて冷媒を膨張させて減圧する膨張手段と、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスライド式切換弁と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
このような本発明の冷凍サイクルシステムによれば、冷却モード運転時及び加温モード運転時において、前述と同様に、スライド式切換弁における高圧側の冷媒の流量低下を抑制することができる。従って、冷凍サイクルの運転効率を向上させてエネルギー消費効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスライド式切換弁及び冷凍サイクルシステムによれば、冷却モード及び加温モードにおける高圧側の流量低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る冷凍サイクルの概略構成図である。
【
図2】前記冷凍サイクルに用いられる第1実施形態のスライド式切換弁を示す断面図である。
【
図3】前記スライド式切換弁に用いられる弁部材を示す斜視図である。
【
図4】前記スライド式切換弁における流体の流れを示す断面図である。
【
図5】前記スライド式切換弁における流体の流れを示す断面図であり、
図4に矢視V−V線で示す断面図である。
【
図6】前記冷凍サイクルに用いられる第2実施形態のスライド式切換弁を示す断面図である。
【
図7】前記スライド式切換弁に用いられる弁部材を示す斜視図である。
【
図8】前記スライド式切換弁における流体の流れを示す断面図である。
【
図9】前記スライド式切換弁における流体の流れを示す断面図であり、
図8に矢視IX−IX線で示す断面図である。
【
図10】前記スライド式切換弁におけるモード切り換え状態を示す平面図である。
【
図11】本発明の変形例に係るスライド式切換弁の一部を拡大して示す断面図である。
【
図12】本発明の他の変形例に係るスライド式切換弁の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態の冷凍サイクル1は、ルームエアコン等の空気調和機に利用されるものであって、冷媒を圧縮する圧縮機2と、冷却モード時に凝縮器として機能する第一熱交換器としての室外熱交換器3と、冷却モード時に蒸発器として機能する第二熱交換器としての室内熱交換器4と、室外熱交換器3と室内熱交換器4との間にて冷媒を膨張させて減圧する膨張手段としての膨張弁5と、スライド式切換弁である四方切換弁10と、四方切換弁10の流路を切換え制御するパイロット電磁弁6と、を備え、これらが冷媒配管によって連結されている。なお、膨張手段としては、膨張弁5に限らず、キャピラリでもよい。
【0021】
この冷凍サイクル1は、加温モード(暖房運転)において、圧縮機2、四方切換弁10、室内熱交換器4、膨張弁5、室外熱交換器3、四方切換弁10及び圧縮機2の順に冷媒が流れる暖房サイクルを構成する。一方、
図1に示す冷却モード(冷房運転)において、圧縮機2、四方切換弁10、室外熱交換器3、膨張弁5、室内熱交換器4、四方切換弁10及び圧縮機2の順に冷媒が流れる冷房サイクルを構成する。この暖房サイクルと冷房サイクルとの切換えは、パイロット電磁弁6による四方切換弁10の切換え動作によって行われる。
【0022】
本発明の第1実施形態に係る四方切換弁を
図2〜5に基づいて説明する。
図2に示すように、第1実施形態の四方切換弁10は、円筒状の弁本体11と、この弁本体11の内部にスライド自在に設けられた弁体12と、圧縮機2の吐出口に連通する高圧側導管(D継手)13と、圧縮機2の吸込口に連通する低圧側導管(S継手)14と、室内熱交換器4に連通する室内側導管(E継手)15と、室外熱交換器3に連通する室外側導管(C継手)16と、を備えて構成されている。
【0023】
円筒状の弁本体11は、その軸方向両端部を塞ぐ栓体17,18と、弁本体11の内部に固定された弁座19と、を有し、全体に密閉されたシリンダーとして構成されている。栓体17,18には、それぞれパイロット電磁弁6に連通された導管17A,18Aが接続されている。弁座19には、低圧側導管14、室内側導管15、及び室外側導管16の先端が挿入されるとともに、後述する第一〜第三のポート11B,11C,11Dを構成する開口が設けられている。弁座19の内面は、弁体12をスライド案内する案内面19Aとなっている。
【0024】
弁本体11には、その周面に開口した複数のポート11A,11B,11C,11Dが形成されている。すなわち、高圧側導管13が接続されて弁本体11の内部に高圧冷媒H(流体)を流入させる流入ポート11Aと、流入ポート11Aに対して弁本体11の径方向反対側にて弁座19に開口する第一ポート11B、第二ポート11C、及び、第三ポート11Dと、が設けられている。第一ポート11Bは、流入ポート11Aに対向して弁本体11の軸方向略中央に設けられ、第二ポート11Cは、弁本体11の軸方向に沿って第一ポート11Bの一方側(
図2の左側)に隣り合って設けられ、第三ポート11Dは、弁本体11の軸方向に沿って第一ポート11Bの他方側(
図2の右側)に設けられている。
【0025】
第一ポート11Bには、低圧側導管14が接続されて低圧冷媒L(流体)を流出させることで、当該第一ポート11Bが流出ポートを構成する。第二ポート11Cには、室内側導管15が接続されることで、当該第二ポート11Cが室内側ポートを構成し、第三ポート11Dに室外側導管16が接続されることで、当該第三ポート11Dが室外側ポートを構成している。高圧側導管13は、流入ポート11A周辺の弁本体11にろう付け固定され、低圧側導管14、室内側導管15及び室外側導管16は、それぞれ第一〜第三のポート11B,11C,11D周辺の弁本体11及び弁座19にろう付け固定されている。
【0026】
弁体12は、弁本体11の内周面に摺接する左右一対のピストン体21,22と、一対のピストン体21,22を連結して弁本体11の軸方向に沿って延びる連結部材23と、連結部材23に支持される弁部材24と、を有して構成されている。弁本体11の内部空間は、一対のピストン体21,22間に形成される高圧室R1と、一方のピストン体21と栓体17との間に形成される第一作動室R2と、他方のピストン体22と栓体18との間に形成される第二作動室R3と、に仕切られている。
【0027】
連結部材23は、金属板材からなり、弁本体11の軸方向に沿って延び弁座19の案内面19Aと平行に設けられる連結板部23Aと、連結板部23Aの一方側端部が折り曲げられてピストン体21に固定される固定片部23Bと、連結板部23Aの他方側端部が折り曲げられてピストン体22に固定される固定片部23Cと、を有して形成されている。連結板部23Aには、弁部材24を保持する保持孔23Dと、冷媒を流通させる2箇所の貫通孔23Eと、が形成されている。
【0028】
弁部材24は、合成樹脂製の一体成形部材であって、
図3〜5にも示すように、弁座19に向かって凹状に開口した椀部25と、この椀部25の開口縁から外方に延びるフランジ部26と、を有して形成されている。椀部25は、平面視で長円形状を有したドーム状に形成され、連結部材23の保持孔23Dに挿入されている。椀部25の内部には、第一ポート11Bと第二ポート11Cとを連通させて第三ポート11Dを連通させないか、又は、第一ポート11Bと第三ポート11Dとを連通させて第二ポート11Cを連通させないような連通空間R4が形成されている。
【0029】
フランジ部26は、平面視で外形が長方形状に形成され、弁座19の案内面19Aと摺接する平坦な摺接面26Aを有し、摺接面26Aには、椀部25の内面と連続する開口縁26Bが形成されている。また、フランジ部26には、椀部25の周辺にて厚肉状に形成された厚肉部27と、この厚肉部27から軸方向一方側及び他方側に延びて形成された薄肉部28と、厚肉部27と薄肉部28との間を段付き状に接続する段差部29と、が設けられている。
【0030】
厚肉部27は、連結板部23Aと弁座19の案内面19Aとの間に位置するとともに、連結部材23の連結板部23Aにわずかな隙間を介して対向して設けられている。ここで、通常状態においては、高圧室R1と連通空間R4との圧力差により摺接面26Aが案内面19Aに密接され、弁部材24が浮き上がることはない。ただし、四方切換弁10が高圧側導管13側を下に向けて設置され、モード切り換え時に圧力差が小さくなった場合において、案内面19Aから弁部材24が浮き上がる可能性が無いとは言えず、そのような場合であっても、厚肉部27の上面が連結板部23Aに当接することで弁部材24の移動が規制され、案内面19Aから摺接面26Aが必要以上に離隔しないようになっている。これにより、弁部材24に作用する圧力差や弁部材24に作用する流体の流れによる力が微小であっても弁部材24の摺接面26Aが案内面19Aに再度密着しやすくなっている。
【0031】
薄肉部28は、厚肉部27よりも摺接面26Aの反対面側が薄く形成され、この薄肉部28と連結板部23Aとの間には、厚肉部27における隙間よりも大きな隙間Sが形成されている。また、薄肉部28の三方の端縁には、摺接面26Aの反対面側において、円弧状の面取り部28Aが設けられている。段差部29は、摺接面26A、厚肉部27及び薄肉部28の上面(摺接面26Aの反対面)と略直交する鉛直面によって構成され、椀部25の外周と略同径の平面視円弧状に形成されている。
【0032】
以上の四方切換弁10では、パイロット電磁弁6及び導管18Aを介して第二作動室R3に高圧冷媒が導入されると、
図2に示すように、ピストン体22が押圧されて弁体12が弁本体11の軸方向一方側(
図2の左側)にスライドされる。一方、パイロット電磁弁6及び導管17Aを介して第一作動室R2に圧縮機2から吐出された高圧冷媒Hが導入されると、ピストン体21が押圧されて弁体12が弁本体11の軸方向他方側(
図2の右側)にスライドされる。ここで、弁本体11の軸方向一方側にスライドされた弁体12の位置(
図2に示す位置)を第一位置とし、弁本体11の軸方向他方側にスライドされた弁体12の位置を第二位置とする。
【0033】
弁体12が第一位置にある状態において、
図2に示すように、弁部材24の椀部25は、その連通空間R4によって第一ポート11Bと第二ポート11Cとを連通させる。また、椀部25が第三ポート11Dよりも一方側に位置することから、この第三ポート11Dは、弁本体11の内部(高圧室R1)を介して流入ポート11Aと連通される。すなわち、弁体12が第一位置にある状態は、流入ポート11Aと第三ポート11Dとが連通され、第一ポート11Bと第二ポート11Cとが連通された冷却モード(冷房運転)となる。
【0034】
また、弁体12が第二位置にある状態において、弁部材24の椀部25は、その連通空間R4によって第一ポート11Bと第三ポート11Dとを連通させる。また、椀部25が第二ポート11Cよりも他方側に位置することから、この第二ポート11Cは、弁本体11の内部(高圧室R1)を介して流入ポート11Aと連通される。すなわち、弁体12が第二位置にある状態は、流入ポート11Aと第二ポート11Cとが連通され、第一ポート11Bと第三ポート11Dとが連通された加温モード(暖房運転)となる。
【0035】
以上のような冷却モード(又は加温モード)において、弁部材24のフランジ部26は、
図4にも示すように、第三ポート11D(又は第二ポート11C)の一部に重なって位置することとなる。このため流入ポート11Aから高圧室R1に流入した高圧冷媒Hのうち、連結部材23の貫通孔23Eを通過した高圧冷媒Hの一部はフランジ部26により流れが阻害されるものの、
図5にも示すように、連結部材23の周囲から連結板部23Aと薄肉部28との隙間Sに流れこんだ高圧冷媒Hが第三ポート11D(又は第二ポート11C)に向かって流れることとなる。また、隙間Sに流れこんだ高圧冷媒Hは、薄肉部28の上面に沿って流れ、面取り部28Aによって円滑に第三ポート11D(又は第二ポート11C)に導かれるようになっている。
【0036】
以上の本実施形態によれば、弁部材24のフランジ部26に薄肉部28が形成されていることで、薄肉部28の上面側と連結板部23Aとの隙間Sに高圧冷媒Hを通過させ、この高圧冷媒Hを第二ポート11Cや第三ポート11Dに導くことができる。従って、フランジ部26が弁本体11の軸方向に延長され、第二ポート11Cや第三ポート11Dの一部を覆うとしても、薄肉部28の上面側を通過させた高圧冷媒Hを第二ポート11Cや第三ポート11Dへ向かって流しやすくなることから、高圧冷媒Hの流量低下を抑制することができる。
【0037】
また、弁部材24の厚肉部27と薄肉部28との間に段差部29が設けられていることで、隙間Sを確保して高圧冷媒Hの流れを阻害しにくくできることから、高圧冷媒Hの流路抵抗を低減することができる。さらに、薄肉部28の端縁に面取り部28Aが設けられていることで、薄肉部28の上面側を通過させた高圧冷媒Hを第二ポート11Cや第三ポート11Dへ向かって円滑に案内することができ、高圧冷媒Hの流路抵抗をより一層低減することができる。
【0038】
以上のように四方切換弁10における高圧冷媒Hの流量低下を抑制することができるので、冷凍サイクル1における冷却モード運転時及び加温モード運転時において、運転効率を向上させてエネルギー消費効率の向上を図ることができる。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態に係る四方切換弁を
図6〜10に基づいて説明する。本実施形態の四方切換弁10は、第1実施形態の弁部材24に対して、形状の異なる弁部材24Aを備える点が相違し、他の構成は第1実施形態と同一又は同様である。以下、第1実施形態との相違点について詳しく説明し、第1実施形態と同一又は同様な構成については同符号を付して説明を省略又は簡略することがある。
【0040】
本実施形態の四方切換弁10において、弁部材24Aのフランジ部26には、
図6、7に示すように、弁本体11の軸方向一方側及び他方側の両端縁から椀部25に向かって半円弧状に凹んだ凹部30が形成されている。これらの凹部30には、摺接面26Aの反対面側において、円弧状の面取り部30Aが設けられている。
【0041】
このような凹部30を有する弁部材24Aによれば、
図8、9にも示すように、連結部材23の周囲から連結板部23Aと薄肉部28との隙間Sに流れこんだ高圧冷媒Hが第三ポート11D(又は第二ポート11C)に向かって流れるとともに、連結部材23の貫通孔23Eを通過した高圧冷媒Hが直線的に凹部30を通って第三ポート11D(又は第二ポート11C)に流れることとなる。また、隙間Sに流れこんだ高圧冷媒Hは、薄肉部28の上面に沿って流れ、凹部30の面取り部30Aによって円滑に第三ポート11D(又は第二ポート11C)に導かれるようになっている。
【0042】
また、弁部材24Aは、
図10に示すように、第一〜第三のポート11B,11C,11Dに対する大きさ及び形状が設定されている。すなわち、第一〜第三のポート11B,11C,11Dは等間隔で設けられ、第二ポート11C及び第三ポート11Dの最外縁間距離(長さ寸法L1)に対して、弁部材24Aにおけるフランジ部26の軸方向の長さ寸法L2が長さ寸法L1よりも大きく(L1<L2)設定されている。また、凹部30の深さ寸法L3は、フランジ部26の長さ寸法L2から両端縁の凹部30の深さ寸法L3(2L3)を差し引いた長さ(L2−2L3)が長さ寸法L1よりも小さく(L1>L2−2L3)なるように設定されている。
【0043】
従って、
図10(A)に示すように、冷却モードの第一位置(又は加温モードの第二位置)において、フランジ部26が第三ポート11D(又は第二ポート11C)の一部を覆ったとしても、第三ポート11D(又は第二ポート11C)に対する高圧冷媒Hの流路面積を凹部30によって拡大することができる。また、
図10(B)に示すように、弁部材24Aが第一位置と第二位置との中間位置に弁部材24Aが位置した際に、一方側の凹部30が第二ポート11Cに連通するとともに、他方側の凹部30が第三ポート11Dに連通する。このように凹部30、第二ポート11C及び第三ポート11Dを介して、高圧室R1と連通空間R4とが連通されることで、高圧冷媒Hの一部が第一ポート11Bに流れる中間流量が発生する。ここで、凹部30の大きさ(深さ寸法L3)は、中間流量が大きくなり過ぎず、高圧冷媒Hと低圧冷媒Lとの圧力差が小さくならないように設定されている。
【0044】
また、
図10(C)に示すように、第一位置から第二位置(又は第二位置から第一位置)への移動途中において、中間位置から若干ずれた位置に弁部材24Aが移動すると、一方の凹部30が第二ポート11C(又は第三ポート11D)に連通し、他方の凹部30が第三ポート11D(又は第二ポート11C)に非連通となる。この際、一方の凹部30と第二ポート11C(又は第三ポート11D)との連通部の面積が大きくなることから、中間流量が最大となるが、その場合でも高圧冷媒Hと低圧冷媒Lとの圧力差が小さくならないように、フランジ部26の長さ寸法L2及び凹部30の深さ寸法L3が設定されている。
【0045】
以上の本実施形態によれば、モード切り換え時の中間位置において、フランジ部26に形成された左右の凹部30が第二ポート11C及び第三ポート11Dに連通することで、フランジ部26の長さ寸法L2が第二ポート11C及び第三ポート11Dの最外縁間距離(長さ寸法L1)よりも大きい場合であっても、中間流量がゼロになることがなく、異常圧力上昇を防止することができる。さらに、中間流量が大きくなり過ぎず、高圧冷媒Hと低圧冷媒Lとの圧力差が小さくならないように凹部30の大きさが設定されているので、圧力差を確保してモード切換え不良を防止することができる。
【0046】
また、前記第1施形態と同様に、弁部材24Aのフランジ部26に薄肉部28が形成されていることで、高圧冷媒Hの流量低下を抑制することができるとともに、弁部材24Aに凹部30が形成されていることで、連結部材23の貫通孔23Eを通過した高圧冷媒Hを直線的に第三ポート11D(又は第二ポート11C)に流すことができ、高圧冷媒Hの流量低下をより一層抑制することができる。さらに、凹部30の面取り部30Aによって、高圧冷媒Hを円滑に第三ポート11D(又は第二ポート11C)に導くことで、高圧冷媒Hの流路抵抗をより一層低減することができる。
【0047】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、前記実施形態では、ルームエアコン等の空気調和機に利用される冷凍サイクル1を例示したが、本発明の冷凍サイクルは、空気調和機に限らず、加温モードと冷却モードとが切り換えられる機器であればどのようなものにも利用可能である。また、本発明のスライド式切換弁は、冷凍サイクルにおける切換弁に利用されるものに限らず、気体や液体などの様々な流体を流通させる各種の配管システムに利用可能である。
【0048】
また、前記実施形態では、弁部材24,24Aのフランジ部26は、厚肉部27と薄肉部28との間を段付き状に接続する段差部29を有して形成されていたが、これに限らず、
図11に示す形状であってもよい。すなわち、
図11に示す弁部材24Bにおいて、フランジ部26は、厚肉部27から薄肉部28に向かって傾斜した傾斜部31を有して構成されている。このような傾斜部31によっても、連結板部23Aとフランジ部26との隙間Sに流れこんだ高圧冷媒Hを傾斜部31に沿って第三ポート11D(又は第二ポート11C)に向かって流すことができる。
【0049】
また、前記実施形態では、弁部材24,24Aの薄肉部28の端縁に円弧状の面取り部28Aが形成されていたが、これに限らず、
図12に示す形状であってもよい。すなわち、
図12に示す弁部材24Cにおいて、薄肉部28の端縁には、傾斜面状の面取り部28Bが形成されている。このような面取り部28Bによっても、薄肉部28の上面側を通過させた高圧冷媒Hを第二ポート11Cや第三ポート11Dへ向かって円滑に案内することができ、高圧冷媒Hの流路抵抗を低減することができる。
【0050】
また、前記第2実施形態では、弁部材24Aのフランジ部26の長さ寸法L2が第二ポート11C及び第三ポート11Dの最外縁間距離(長さ寸法L1)よりも大きく設定されていたが、本発明におけるフランジ部の長さ寸法は、第二ポート及び第三ポートの最外縁間距離と等しくてもよいし、第二ポート及び第三ポートの最外縁間距離よりも小さくてもよく、フランジ部の長さ寸法は適宜に設定することができる。
【0051】
また、前記第2実施形態では、フランジ部26の両端縁に凹部30が形成されていたが、凹部は必須ではなく適宜に省略することができるとともに、凹部の形状も任意に選択可能である。すなわち、凹部としては、前記第2実施形態のように椀部25に向かって半円弧状に凹んだ凹部30に限らず、四角や三角等の多角形状に凹んだものでもよいし、フランジ部の端縁に沿ってジグザグ状に形成されたものでもよいし、フランジ部の端縁全体が湾曲して形成されたものでもよい。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。