特許第6476170号(P6476170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 医化学創薬株式会社の特許一覧

特許6476170抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途
<>
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000003
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000004
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000005
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000006
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000007
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000008
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000009
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000010
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000011
  • 特許6476170-抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476170
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/32 20060101AFI20190225BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20190225BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20190225BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20190225BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190225BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20190225BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20190225BHJP
【FI】
   C07K16/32ZNA
   G01N33/574 A
   C12Q1/02
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   !C12N15/13
   !C12P21/08
【請求項の数】15
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-516380(P2016-516380)
(86)(22)【出願日】2015年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2015062761
(87)【国際公開番号】WO2015166934
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-92299(P2014-92299)
(32)【優先日】2014年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-01845
(73)【特許権者】
【識別番号】514032452
【氏名又は名称】医化学創薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】西村 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】三好 利尚
(72)【発明者】
【氏名】成地 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正治
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−505775(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050528(WO,A1)
【文献】 特表平2−503387(JP,A)
【文献】 BARRESI Gaetano et al.,THE IMMUNOEXPRESSION OF Tn, SIALYL-Tn AND T ANTIGENS IN CHRONIC ACTIVE GASTRITIS IN RELATION TO HELI,Pathology,2001年,Vol.33,p.298-302
【文献】 PINHO Sandra et al.,Biological significance of cancer-associated sialyl-Tn antigen: Modulation of malignant phenotype in,Cancer Letters,2007年,Vol.249,p.157-170
【文献】 MADSEN Caroline B. et al.,Potential for novel MUC1 glycopeptide-specific antibody in passive cancer immunotherapy,Immunopharmacology and Immunotoxicology,2013年,Vol.35, No.6,p.649-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトMUC1に対するモノクローナル抗体であって、ヒトMUC1タンデムユニット並びに前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列中のスレオニン及びセリンのいずれか1つにO−結合型糖鎖コア0(Tn)を有する糖ペプチドを特異的に認識する、前記抗体であって、
前記抗体は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を有しており、前記重鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1,CDR2,CDR3を含み、CDR1は配列番号8のアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号9のアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号10のアミノ酸配列からなり、前記軽鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1’,CDR2’,CDR3’を含み、CDR1’は配列番号11のアミノ酸配列からなり、CDR2’は配列番号12のアミノ酸配列からなり、CDR3’は配列番号13のアミノ酸配列からなる、又は前記抗体は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を有しており、前記重鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1,CDR2,CDR3を含み、CDR1は配列番号16のアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなり、前記軽鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1’,CDR2’,CDR3’を含み、CDR1’は配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR2’は配列番号20のアミノ酸配列からなり、CDR3’は配列番号21のアミノ酸配列からなる、前記抗体。
【請求項2】
前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列は配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)は前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の8位のスレオニンに結合する、請求項1に記載されたモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列は配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)は前記配列番号2で示されるアミノ酸配列の8位のセリンに結合する、請求項1に記載されたモノクローナル抗体。
【請求項4】
下記i)〜iii)に示す結合特性を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
i)前記O−結型糖鎖コア0(Tn)が、O−結合型糖鎖T又はSTに置換された糖ペプチドに結合せず
ii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、かつ
iii)MUC2のタンデムユニットペプチド又はMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
【請求項5】
下記i)〜v)に示す結合特性を有するか、または受託番号NITE BP−01845として寄託されたハイブリドーマ細胞系により分泌されるモノクローナル抗体SN−101である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
i)MUC1由来の糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thr−Cysに結合し、
ii)前記MUC1由来の糖ペプチドのTn糖鎖が、T又はSTに置換された糖ペプチドに結合せず
iii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、
iv)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するMUC2のタンデムユニットペプチド又は配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
【請求項6】
下記i)〜vi)に示す結合特性を有するか、又はハイブリドーマ株3C10−E11により分泌されるモノクローナル抗体SN−102である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
i)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するベプチドの8位のスレオニンにTn糖鎖が結合した糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thrに結合し、
ii)前記MUC1由来の糖ペプチドのTn糖鎖が、T又はSTに置換された糖ペプチドに結合しないか、結合しても弱い結合であり、
iii)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、
iv)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの14位のセリン、15位のスレオニンにTn糖鎖が修飾された糖ペプチドには結合せず、
v)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドのスレオニン、セリンの全てにTn糖鎖が修飾された糖ペプチドには結合し、
iv)MUC2のタンデムユニットペプチド又はMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
【請求項7】
配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号7のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
MUC1の特異的検出に用いるための請求項1〜8のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項12】
ヒト体液サンプル中のMUC1を特異的に検出する方法であって、
(a)上記サンプルを請求項1〜8のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体と接触させ、
(b)接触後のサンプルにおける抗体−抗原複合体の形成を測定することを含む、前記方法。
【請求項13】
前記体液サンプル中の、MUC1の異常な発現がみられる悪性腫瘍の有無の検出に用いるための請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記悪性腫瘍が乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、及び卵巣癌からなる群より選択されるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(a)請求項1〜8のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体と、
(b)抗体−抗原複合体を測定するための試薬を含む、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体を有効成分として含有する、悪性腫瘍の予防又は/及び治療用の医薬組成物。
【請求項17】
前記悪性腫瘍が乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、及び卵巣癌からなる群より選択されるものである、請求項16記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片及びその用途に関する。より特定するとMUC1糖ペプチドに対する抗体又はその抗原結合性断片及びこれを用いた悪性腫瘍の診断技術及び予防又は/及び治療技術に関する。
(関連出願の相互参照)
本出願は、2014年4月28日出願の日本特願2014−92299号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
MUC1はムチン糖タンパク質の1種であり、MUC1遺伝子(MUC1)にコードされたコアタンパク質と、O-型糖鎖結合を介してコアタンパク質に結合した無数の糖鎖をもつ。ムチンには上皮細胞などが産生する分泌型ムチンと、疎水性の膜貫通部位を持ち細胞膜に結合した状態で存在する膜結合型ムチンがある。MUC1は、上皮細胞の膜結合型ムチンであり、正常細胞では乳腺細胞の先端面や乳脂肪滴、あるいは膵臓、腎臓やいくつかの腺上皮細胞に存在する[非特許文献1]。分子サイズは400kDa以上で、その50%をO-結合型糖鎖が占める。本糖タンパク質は、短いN末端領域、水酸基を持つアミノ酸が25%を占めるタンデムリピートからなる中央領域、31アミノ酸からなる膜貫通領域、細胞質側の短いC末端領域からなり、中央領域を含む細胞外領域は種々の条件で切断され遊離する。各タンデムリピート(タンデムユニット)は、5つのO-糖鎖修飾可能な部位を有する20アミノ酸(Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-Ser-Ala)よりなる。タンデムリピートの数は対立遺伝子依存的に20〜125の間で変動するので、この領域はVNTR(variable number of tandem repeats)と言われる。VNTR領域は、個体によって発現される反復数が遺伝的に異なるサイズ多型を生じるとともに、特定のアミノ酸の遺伝子変異による4種の配列多型が知られる。配列多型の中ではPro-Asp-Thr-Arg(PDTR)からPro-Glu-Ser-Arg(PESR)への変異頻度が高い[非特許文献2]。
【0003】
MUC1は、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌など多くの癌で過剰発現することが知られ、特に乳癌、卵巣癌、膵癌では90%以上で過剰発現が認められる。更に、MUC1の高発現は種々の癌の予後不良を伴い、癌患者では血中の遊離MUC1濃度が上昇する[非特許文献1]。
【0004】
MUC1のVNTRs領域のセリン、スレオニン残基へのO-糖鎖修飾で最初に転移される糖は、GalNAc(Tnと表記されることがある)の場合が最も多く、この結果Tn抗原が生成する。Tnは正常MUC1では殆ど見られないが、癌由来のMUC1で認められる。次いで、Tnにシアル酸、ガラクトース、又はGlcNAcが付加して、それぞれsialyl-Tn(STn)、コア1(T)又はコア2が生成する。コア2にシアル酸が付加するとシアリルT(ST)が生成する。STnに更に他の糖鎖が付加されることはないが、TnにはGlcNAc、GalNAcが転移される。癌細胞において、O-型糖鎖は不完全に処理されて、癌に一般的な糖抗原Tn(GalNAc α-1-Ser/thr)、STn(Sia α2-6 GalNAc α1-O-Ser/Thr)、T(Gal β1-3 GalNAc α-1-O-Ser/Thr)、コア2(GlcNAc β1-3GalNAc α1-O-Ser/Thr)、ST(Sia α2-3Gal β1-3GalNAc α1-O-Ser/Thr/Sia α2-6(Gal β1-3)GalNAc α1-O-Ser/Thr)の発現をもたらす。癌が進行する間に、MUC1のタンデムリピート中の5つのO-糖鎖修飾可能な部位へのこのような異なる糖鎖修飾に起因して抗原構造(エピトープ)は変化する[非特許文献4]。尚、最初にGalNAcが転移されたO-グリカンのコア構造は多種知られ、番号が付けられ、コア0、1及び2のコア構造を以下に示す。
コア0(Tn antigen) GalNAc
コア1(T antigen) Galβ1-3GalNAc
コア2: Galβ1-3(GlcNAcβ1-6) GalNAc
【0005】
MUC1コアタンパク質のO-グリコシル化による糖鎖付加は、上皮細胞表層の保護、免疫反応、細胞接着、炎症反応、及び癌化、癌転移に重要な役割を果たしている。癌化によるMUC1の過剰発現や、O-グリコシル化の劇的な変化と癌化及び癌転移との関連性が報告されている。更に、MUC1に対するモノクローナル抗体が、乳癌や卵巣癌を対象とした診断薬及び治療薬としての研究開発が進められている[非特許文献1]。又最近、癌進行及び転移にはMUC糖タンパク質とガレクチンの相互作用が重要であることが認められるようになった[非特許文献5]。
【0006】
過去に、精製したMUC1並びにMUC1に由来する合成ペプチド及びグリコペプチドに対する多数のモノクローナル抗体が報告されている[特許文献1−5、非特許文献6、7]。これらの抗体の殆どの最小配列認識は、MUC1のタンデムリピートのペプチド中のAla-Pro-Thr-Arg-Pro-Ala-Proに存在すると考えられる。この配列中に含まれるスレオニンについては、重度にO-グリコシル化されているため、MUC1に結合する抗体の選択性及び親和性に影響を及ぼすことが考えられる。しかし、上記報告中のいずれのモノクローナル抗体も、エピトープであるペプチドの糖鎖結合の有無による差異は認識できたとしても、その糖鎖構造の差異までは認識できなかった。そのため、癌細胞に対する選択性は不十分であった。それに対して本発明者らは、MUC1の癌関連構造STnに対する正常組織関連構造の交差反応性比が高い抗体を作製した[特許文献6、7]。しかし、これらの抗体も、MUC1のコアペプチド構造及びコアペプチドにO-グリコシル化された各種糖ペプチド構造の差異を正確に識別することは困難であった。
【0007】
[特許文献1]日本特許第3698370号明細書
[特許文献2]日本特表2002−502621公報
[特許文献3]日本特表2003−519096公報
[特許文献4]米国特許出願公報2006/0292643
[特許文献5]日本特表2010−505775公報
[特許文献6]WO02010/050528
[特許文献7]WO02011/135869
[特許文献8]日本特開2006−111618号公報
【0008】
[非特許文献1]Beatsonら、Immunother.2:305-327 (2010)
[非特許文献2]Engelmannら、J. Biol. Chem. 276: 27764-27769 (2001)
[非特許文献3]Bafinaら、Oncogene 29: 2893-2904 (2010)
[非特許文献4]Clin.Cancer Res.19: 1981-1983 (2013)
[非特許文献5]Liuら、Nature Rev Cancer 5:29-41 (2005)
[非特許文献6]Danielczykら、Cancer Immunol. Immunother. 55: 1337-1347 (2006)
[非特許文献7]Caoら、Histochem. Cell Biol.115:349-356 (2001)
[非特許文献8]Ohyabuら、J. Am. Chem.Soc. 131: 17102-17109 (2009)
[非特許文献9]Matsusitaら、Biochim. Biophy. Acta 1840: 1105-1116 (2014)
[非特許文献10]Hashimotoら、Chem. Eur. J. 17: 2393-2404 (2011)
[非特許文献11]Lu-Gangら、J. Biol. Chem.282: 773-781 (2007)
特許文献1〜8及び非特許文献1〜11の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、抗体の特異性解析及びエピトープマッピングを正確に実施することができる、高感度・高性能の糖ペプチド固定化マイクロアレイを開発し、真のエピトープ構造を決定する新たな方法を確立した。この方法を用いて前記した既存の7つの抗MUC1抗体のエピトープ解析を行った。その結果、いずれの抗体もMUC1のコアペプチド構造及びコアペプチドにO-グリコシル化された糖ペプチド構造の差異を認識できないことが明らかになった[非特許文献8、9]。
【0010】
更に本発明者らは、抗MUC1抗体のエピトープ領域では側鎖に結合する糖鎖の構造特異的に主鎖ペプチドのコンフォメーション変化が誘起されていることをNMRにより証明した。さらに、ペプチドのコンフォメーションが特定のアミノ酸残基での糖鎖修飾により敏感に変化しており、これが抗MUC1抗体の抗原構造を規定していることを明らかにした[非特許文献8]。また、ムチン由来の合成糖ペプチドの3次元構造の変化をMS及びNMRを用いて解析した。それにより、糖ペプチドのコンフォメーションが、ペプチドに数個存在するスレオニン残基への糖鎖修飾によって影響され、特定位置の糖鎖修飾がペプチド主鎖の安定したコンフォメーションをもたらすという新知見を示した[非特許文献10]。
【0011】
これらの知見を踏まえて、本発明は、癌細胞で高発現をするO-結合型糖鎖を有する糖ペプチドに特異的な抗MUC1抗体を提供することを解決すべき課題とする。ここで、「O-結合型糖鎖を有する糖ペプチドに特異的」とは、MUC1のコアペプチド構造及びコアペプチドにO-グリコシル化された各種糖ペプチド構造の差異を正確に識別することができることを意味する。
【0012】
さらに本発明は、この抗体作製に適した抗原となる合成糖ペプチドを提供することを解決すべき課題とする。加えて、本発明は、前記抗体による癌の診断と予防又は/及び治療の新たな手段及び方法を提供することも解決すべき課題とする。
【0013】
本発明者は、糖鎖及び糖ペプチドに関して本発明者らが得た新しい技術と知見を応用して、上記課題を解決するために、MUC1のVNTRs領域のセリン、スレオニン残基へのO-糖鎖修飾で最初に転移されるコア糖構造であるTnを有する糖ペプチドを人工的に合成し、この人工的に合成した糖ペプチドを抗原に用いてモノクローナル抗体を作製した。前記Tnを有する糖ペプチド(以下、Tn抗原と呼ぶことがある)から得られた抗MUC1抗体のいくつかについて、抗原に用いた糖ペプチドを含む各種ムチンのVNTRs領域に由来する糖ペプチドを搭載したマイクロアレイを用いて抗体の特異性解析を行い、抗体の特性を検討した。更にこれらの抗体は、各種癌細胞に発現したMUC1への結合・集積、癌患者血清に対する反応、癌細胞増殖抑制作用、癌転移抑制作用などについて検討した。これらの検討の結果、MUC1のコアペプチド構造及びコアペプチドにO−グリコシル化された各種糖ペプチド構造の差異を正確に識別することができる抗体を見出し、それに基づいて本発明は完成された。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の通りである。
[1]
ヒトMUC1に対するモノクローナル抗体であって、ヒトMUC1タンデムユニット並びに前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列中のスレオニン及びセリンのいずれか1つにO−結合型糖鎖コア0(Tn)を有する糖ペプチドを特異的に認識する、前記抗体又はその抗原結合性断片。
[2]
前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列は配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)は前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の8位のスレオニンに結合する、[1]に記載されたモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
[3]
前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列は配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)は前記配列番号2で示されるアミノ酸配列の8位のセリンに結合する、[1]に記載されたモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
[4]
下記i)〜iii)に示す結合特性を有する[1]〜[3]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
i)前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)が、O−結合型糖鎖T又はSTに置換された糖ペプチドに結合せず
ii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、かつ
iii)MUC2のタンデムユニットペプチド又はMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
[5]
免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を有しており、前記重鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1, CDR2, CDR3を含み、CDR1は配列番号8のアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号9のアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号10のアミノ酸配列からなり、前記軽鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1', CDR2', CDR3'を含み、CDR1'は配列番号11のアミノ酸配列からなり、CDR2'は配列番号12のアミノ酸配列からなり、CDR3'は配列番号13のアミノ酸配列からなる、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
[6]
免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を有しており、前記重鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1, CDR2, CDR3を含み、CDR1は配列番号16のアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなり、前記軽鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1', CDR2', CDR3'を含み、CDR1'は配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR2'は配列番号20のアミノ酸配列からなり、CDR3'は配列番号21のアミノ酸配列からなる、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
[7]
配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号7のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、[5]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[8]
配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する、[6]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[9]
前記抗原結合性断片は、前記相補性決定領域CDR1, CDR2, CDR3, CDR1', CDR2', 及び CDR3'の少なくとも1つを含むペプチドである、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[10]
前記抗原結合性断片は、Fab、F(ab')2、Fab'、diabody、一本鎖抗体(例えば、scFv、dsFv)、二価特異的抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体である[1]〜[9]のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[11]
MUC1の特異的検出に用いるための[1]〜[10]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
[12]
ヒト体液サンプル中のMUC1を特異的に検出する方法であって、
(a)上記サンプルを[1]〜[10]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片と接触させ、
(b)接触後のサンプルにおける抗体(又はその抗原結合性断片)−抗原複合体の形成を測定することを含む、前記方法。
[13]
前記体液サンプル中の、MUC1の異常な発現がみられる悪性腫瘍の有無の検出に用いるための[12]に記載の方法。
[14]
前記悪性腫瘍が乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、及び卵巣癌からなる群より選択されるものである、[13]に記載の方法。
[15]
(a)[1]〜[10]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片と、
(b)抗体(又はその抗原結合性断片)−抗原複合体を測定するための試薬を含む、[12]〜[14]のいずれか1項 に記載の方法に使用するためのキット。
[16]
[1]〜[10]のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する、 悪性腫瘍の予防又は/及び治療用の医薬組成物。
[17]
前記悪性腫瘍が乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、及び卵巣癌からなる群より選択されるものである、[16]記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ヒトMUC1に対するモノクローナル抗体であって、かつMUC1のタンデムユニットペプチドのO-結合型糖鎖がコア0(Tn)であるMUC1を特異的に認識し、前記O-結合型糖鎖が付加していないnaked peptideや前記O-結合型糖鎖がTn以外であるMUC1糖ペプチドを識別し結合しない、抗MUC1抗体及び抗体を作製するための抗原糖ペプチドを用いた方法が提供される。本発明の抗MUC1抗体を用いることにより、特異的かつ高感度に、信頼性をもって、かつ簡便にMUC1タンパク質を検出することができ、正常対照に対してMUC1発現の変化が認められる悪性腫瘍や炎 症疾患を判定することが可能になる。更に本発明の抗MUC1抗体で癌の進行や転移を抑えることによって、癌の予防又は/及び治療薬として用いることが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】MUC1由来糖ペプチドのMALDI-TOFMSスペクトル。
図2】MUC2由来糖ペプチドのMALDI-TOFMSスペクトル。
図3】MUC4由来糖ペプチドのMALDI-TOFMSスペクトル。
図4】糖ペプチド固定化マイクロアレイによるSN-101及びSN-102の反応特異性評価。
図5】抗体SN-101又は抗体SN-102によるMUC1 発現細胞の免疫蛍光染色結果。
図6】抗体SN-101による細胞増殖阻害実験結果。
図7】抗体SN-101及びSN-102の可変領域のアミノ酸配列を示す。
図8】抗体SN-101の可変領域を含むアミノ酸配列を示す。
図9】抗体SN−102の可変領域を含むアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.抗原糖ペプチド及び抗体
本発明に係わる抗体は、ヒトMUC1に対するモノクローナル抗体であって、ヒトMUC1タンデムユニット並びに前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列中のスレオニン及びセリンのいずれか1つにO−結合型糖鎖コア0(Tn)を有する糖ペプチドを特異的に認識する、前記抗体である。
【0018】
本発明に係わる抗体の一例は、前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列は配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)は前記配列番号1で示されるアミノ酸配列の8位のスレオニンに結合するモノクローナル抗体である。本発明に係わる抗体の別の一例は、前記ヒトMUC1タンデムユニットのアミノ酸配列は配列番号2で示されるアミノ酸配列を含み、かつ前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)は前記配列番号2で示されるアミノ酸配列の8位のセリンに結合するモノクローナル抗体を挙げることができる。
【0019】
これら本発明の抗体は、下記i)〜iii)に示す結合特性をさらに有するものであることができる。
i)前記O−結合型糖鎖コア0(Tn)が、O−結合型糖鎖T又はSTに置換された糖ペプチドに結合せず
ii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、かつ
iii)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するMUC2のタンデムユニットペプチド又は配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
【0020】
1−1.抗原糖ペプチド
MUC1のタンデムリピートのO−結合型糖鎖として最初にコアペプチドに転移される糖はGalNAcの場合が最も多く、この結果Tn抗原が生成する。Tnは正常MUC1では殆ど見られないが、癌由来のMUC1で認められる。
【0021】
ヒトMUC1のタンデムユニットペプチドは、下記アミノ酸配列を有する。
Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr(配列番号1)
【0022】
また、ヒトMUC1のタンデムユニットペプチド変異体は、下記のアミノ酸配列を有する。
Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Glu-Ser-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr(配列番号2)
【0023】
抗原作製においては、上記いずれかのペプチドの所定のアミノ酸にO-結合型糖鎖を付加した糖ペプチドを抗原として用いることができる。このO-結合型糖鎖を付加した糖ペプチドは、人工的に合成したものである。
【0024】
前記O-結合型糖鎖は、Tnのコア構造(GalNAc)を有する糖鎖である。さらに、前記O-結合型糖鎖は、前記配列番号1又は2で示されるアミノ酸配列を有するタンデムユニットペプチドの8番目のアミノ酸であるスレオニン(Thr)又はセリン(Ser)に結合する。
【0025】
抗原糖ペプチドの合成は、本発明者らが開発した、マイクロ波と酵素合成法とを高度に活用した合成技術により行うことができる。より具体的には、例えば、非特許文献9や特許文献6〜8記載の方法に準じて実施できる。非特許文献9及び特許文献6〜8の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【0026】
1−2.抗体:
本発明の抗体は、1−1に記載の糖ペプチドを抗原として用いて常法により調製できる。抗原糖ペプチドは、抗原性を高めるためキャリアタンパク質と結合させても良く、その場合、上記糖ペプチドのC末端にキャリアタンパク質との結合に必要なCysを付加したものを合成し、抗原糖ペプチドとして用いることができる。キャリアタンパク質としては、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン(OVA)などがあり、当技術分野では公知であり市販のキットも販売されている。抗原を哺乳類、例えばマウス、ウサギ、ラットなどに投与する。免疫は主として静脈内、皮下、腹腔内、足蹠に注入することにより行われる。また免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜5回の免疫を行う。最終の免疫日から数日から90日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、リンパ節細胞、脾臓細胞、末梢血細胞などが挙げられる。ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。ミエローマ細胞は、一般に入手可能な株化細胞を用いることができる。使用する細胞としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生育できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが望ましい。ミエローマ細胞としては、例えばSP2、P3X63-Ag.8.UI(P3U I)、NS-1などのミエローマ細胞株が挙げられる。
【0027】
細胞融合後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、細胞懸濁液をウシ胎児血清含有RPM-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまく。各ウェルに選択培地(例えばHAT培地)を加え、以後適当に選択培地を交換して細胞培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、10〜30日程度で生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。次に、ハイブリドーマの上清を、MUC1に反応する抗体が存在するか否かについて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等を用いてスクリーニングする。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。
【0028】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法などを採用することができる。抗体の精製は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることによって精製することができる。
【0029】
本発明において使用可能なモノクローナル抗体のグロブリンタイプは、特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでも良いが、IgG及びIgMが好ましい。
【0030】
前記ハイブリドーマを用いて作製される本発明の抗MUC1モノクローナル抗体はマウス抗体であるが、マウス抗体は公知の幾つかの確立された技法を用いて、キメラ抗体、またはヒト化抗体に変換し製造することができ(変換方法は後述する)、本発明の抗マウスMUC1モノクローナル抗体と同様の抗原特異性を有するキメラ抗体、及びヒト化抗体も本発明の抗体に包含される。さらに、本発明の抗マウスMUC1モノクローナル抗体と同様の抗原特異性を有し、かつ異なる抗原特異性を有する二価特異的抗体も、本発明の抗体に包含される。
【0031】
本発明のモノクローナル抗体の具体例は、実施例にも記載されているモノクローナル抗体SN−101及びSN102である。モノクローナル抗体SN−101は、ブダペスト条約に基づき独立行政法人製品評価技術 基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2014年4月18日に受託番号NITE BP−01845として寄託されたハイブリドーマ細胞系により分泌される、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体SN102は、ハイブリドーマ株3C10−E11(実施例参照)により分泌される、モノクローナル抗体である。
【0032】
モノクローナル抗体SN-101は、配列番号6のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号7のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する抗体である。さらに、モノクローナル抗体SN-101は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を有しており、前記重鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1, CDR2, CDR3を含み、CDR1は配列番号8のアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号9のアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号10のアミノ酸配列からなり、前記軽鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1', CDR2', CDR3'を含み、CDR1'は配列番号11のアミノ酸配列からなり、CDR2'は配列番号12のアミノ酸配列からなり、CDR3'は配列番号13のアミノ酸配列からなる。
【0033】
モノクローナル抗体SN-102は、配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する。さらに、モノクローナル抗体SN−102は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を有しており、前記重鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1,CDR2,CDR3を含み、CDR1は配列番号16のアミノ酸配列からなり、CDR2は配列番号17のアミノ酸配列からなり、CDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなり、前記軽鎖可変領域ドメインは、その配列中に、相補性決定領域CDR1’,CDR2’,CDR3’を含み、CDR1’は配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR2’は配列番号20のアミノ酸配列からなり、CDR3’は配列番号21のアミノ酸配列からなる。
【0034】
モノクローナル抗体SN−101は、下記i)〜v)に示す結合特性を有する。
i)MUC1由来の糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thr−Cysに結合し、
ii)前記MUC1由来の糖ペプチドのTn糖鎖が、T又はSTに置換された糖ペプチドに結合せず
iii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、
iv)配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するMUC2のタンデムユニットペプチド又は配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
【0035】
尚、モノクローナル抗体SN−101は、C末端にCysを有さない、MUC1由来の糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thrにも結合し、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)には結合しない。
【0036】
モノクローナル抗体SN−102は、下記i)〜vi)に示す結合特性を有する。
i)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの8位のスレオニンにTn糖鎖が結合した糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thrに結合し、
ii)前記MUC1由来の糖ペプチドのTn糖鎖が、T又はSTに置換された糖ペプチドに結合しないか、結合しても弱い結合であり、
iii)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、
iv)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの14位のセリン、15位のスレオニンにTn糖鎖が修飾された糖ペプチドには結合せず、
v)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドのスレオニン、セリンの全てにTn糖鎖が修飾された糖ペプチドには結合し、
iv)MUC2のタンデムユニットペプチド又はMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しない。
【0037】
尚、モノクローナル抗体SN−102は、C末端にCysを有する、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの8位のスレオニンにTn糖鎖が結合した糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thr−Cysにも結合し、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)には結合しない。
【0038】
本発明は、前記モノクローナル抗体に加えて、前記モノクローナル抗体の抗原結合性断片を包含する。前記抗原結合性断片は、前記SN−101又はSN−102の相補性決定領域CDR1,CDR2,CDR3,CDR1’,CDR2’,及びCDR3’の少なくとも1つを含むペプチドである。前記抗原結合性断片は、例えば、Fab、F(ab’)2、Fab’、diabody、一本鎖抗体(例えば、scFv、dsFv)であることができる。但し、抗原結合性断片は、上記に限定される意図ではなく、前記SN−101又はSN−102の相補性決定領域CDR1,CDR2,CDR3,CDR1’,CDR2’,及びCDR3’の少なくとも1つを含むペプチドであり、SN−101と同様の上記i)〜v)に示す結合特性を有するもの、又はSN−102と同様の上記i)〜vi)に示す結合特性を有するものであればよい。さらに、キメラ抗体及びヒト化抗体、並びに二価特異的抗体は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)ドメイン及び免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)ドメインが、前記SN−101又はSN−102の相補性決定領域CDR1,CDR2,CDR3,CDR1’,CDR2’,及びCDR3’を含むペプチドであり、SN−101と同様の上記i)〜v)に示す結合特性を有するもの、又はSN-102と同様の上記i)〜vi)に示す結合特性を有するものであればよい。
【0039】
抗原結合性断片とその作製方法の例について以下に説明する。
[Fab、F(ab')2、Fab']
作製法(1) :マウスモノクローナル抗体を所定の酵素で消化したり、還元処理によりジスルヒド結合を切断することにより作製できる。
・Fab:Papainによる消化。
・F(ab')2:Pepsinによる消化。
・Fab':Pepsinによる消化及びβ-mercaptoethanolを用いた還元処理によるジスルヒド結合の切断。
【0040】
作製法(2):遺伝子組換え技術を用いたタンパク質発現技術により作製できる。
・Fab:
・VH(H鎖可変領域)とCH1(H鎖定常領域ドメイン1)をコードする塩基配列
・VL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)をコードする塩基配列
上記2配列を大腸菌もしくは動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでFabを得る。
【0041】
・F(ab')2、Fab':
・VH(H鎖可変領域)とCH1(H鎖定常領域ドメイン1)、2量体を形成するための
システインを含むヒンジ領域をコードする塩基配列
・VL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)をコードする塩基配列
記2配列を大腸菌もしくは動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでF(ab')2及びFab'を得る。。
【0042】
[scFv, dsFv]
作製法: 遺伝子組換え技術を用いたタンパク質発現技術により作製することができる。
・scFv:
・VH(H鎖可変領域)をコードする塩基配列
・リンガー配列: 「GSSSGSSSSGSSSSGSSSS」など、フレキシブルなアミノ酸を
コードする塩基配列
・VL(L鎖可変領域)をコードする塩基配列
一続きのVH-linker-VLもしくはVL-linker-VHの融合タンパク質として大腸菌もしくは動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでscFvを得る。
【0043】
・dsFv:
・VH(H鎖可変領域)をコードする塩基配列
・VL(L鎖可変領域)をコードする塩基配列
VH、VLのC末側にシステインを挿入し、大腸菌もしくは動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでdsFvを得る。
【0044】
[diabody]
作製法: 遺伝子組換え技術を用いたタンパク質発現技術により作製することができる。
(1)抗原Xに対するVH(H鎖可変領域)をコードする塩基配列
(2)抗原Xに対するVL(L鎖可変領域)をコードする塩基配列
(3)抗原Yに対するVH(H鎖可変領域)をコードする塩基配列
(4)抗原Yに対するVL(L鎖可変領域)をコードする塩基配列
(5)リンガー配列: 「GSSSGSSSSGSSSSGSSSS」など、フレキシブルなアミノ酸を
コードする塩基配列
一続きのVH(1)-linker(5)-VL(4)とVH(3)-linker(5)-VL(2)を融合タンパク質として大腸菌もしくは動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでdiabodyを得る。
【0045】
[キメラ抗体、またはヒト化抗体]
・キメラ抗体:
作製法: 遺伝子組換え技術を用いたタンパク質発現技術により作製することができる。
・マウスVH(H鎖可変領域)とヒト抗体H鎖定常領域をコードする塩基配列
・マウスVL(L鎖可変領域)とヒト抗体L鎖定常領域をコードする塩基配列
上記2配列を動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでキメラ抗体を得る。
【0046】
・ヒト化抗体:
作製法 遺伝子組換え技術を用いたタンパク質発現技術により作製することができる。
・マウスVH(H鎖可変領域)を構成するFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4のうちCDR1, CDR2, CDR3をヒト抗体可変領域VHのFR1, FR2, FR3, FR4の間に挿入したヒト化VHとヒト抗体H鎖定常領域をコードする塩基配列
・マウスVL(L鎖可変領域)を構成するFR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4のうちCDR1, CDR2, CDR3をヒト抗体可変領域VLのFR1, FR2, FR3, FR4の間に挿入したヒト化VLとヒト抗体L鎖定常領域をコードする塩基配列
上記2配列を動物細胞(CHO、HEK293、昆虫細胞)で発現させるために、各々の細胞に適した発現ベクターへ組込組込んだ後、細胞へ遺伝子導入し組換えタンパク質として産生することでヒト化抗体を得る。
【0047】
2−1.ヒト体液サンプル中のMUC1を特異的に検出する方法
本発明は、ヒト体液サンプル中のMUC1を特異的に検出する方法を包含し、この方法は以下の(a)及び(b)の工程を含む。
(a)上記サンプルを本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片と接触させる、
(b)接触後のサンプルにおける抗体(又はその抗原結合性断片)−抗原複合体の形成を測定する。
【0048】
2−2.ヒトMUC1の免疫学的測定用キット
本発明のキットは、上記本発明のヒトMUC1検出方法に使用するためのキットであって、
(a)本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片と、
(b)抗体(又はその抗原結合性断片)−抗原複合体を測定するための試薬とを含む。
【0049】
上記キットに用いられる本発明の本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片(単に、抗MUC1抗体と呼ぶこともある)は、担体に固定化することができる。担体は、抗原が付着し得る、当業者に公知の任意の物質であり得る。例えば、担体は、マイクロタイタープレートの試験ウェルまたはニトロセルロースもしくは他の適切な膜であり得る。あるいは、担体は、ビーズまたはディスク(例えば、ガラス、ファイバーガラス、ラテックス、またはポリスチレンもしくはポリ塩化ビニルのようなプラスチック物質)であり得る。担体はまた、磁性粒子または光学繊維センサーであり得る。
【0050】
本発明の抗MUC1抗体は、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質、または目視判定可能な官位測定法などでは金コロイドや着色ラテックスなどにより標識され得る。標識に用いられる放射性同位元素としては、14C、3H、32P、125I、131Iなどであり、特に、125Iが好適に用いられる。これらは、クロラミンT法、ペルオキシダーゼ法、Iodogen法、ボルトハンター法などにより、モノクローナル抗体に結合され得る。標識に用い得る酵素としては、例えば、βガラクトシダーゼ(βGAL)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などを含む。これらは常法によりモノクローナル抗体に結合され得る。標識に用いる蛍光物質としては、フルオレセイン、フルオレサミン、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネートなどがある。標識に用いる発光物質としては、ルシフェリン、ルミノール誘導体、アクリジニウムエステルなどがある。簡易測定法などでは、金コロイドや着色ラテックスを用いてもよい。
【0051】
抗体(又はその抗原結合性断片)−抗原複合体を測定するための試薬は、用いられる免疫学的測定方法に応じて適宜 決定できる。ヒト体液サンプル中にヒトMUC1が含まれる場合に形成される抗体−抗原複合体を検出し得る公知の試薬を用いることができる。
【0052】
本発明において、「ヒト体液サンプル」とは、例えば、ヒトの血漿、血清、血液、尿、 唾液、癌組織分泌物などのヒトMUC1を含む可能性がある試料である。
【0053】
本発明のMUC1の特異的検出方法は、抗体として本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いること以外は、従来公知の免疫学的測定方法を用いて実施できる。従来公知の免疫学的測定方法としては、例えば、免疫組織化学染色法及び免疫電顕法、並びに免疫アッセイ[酵素免疫アッセイ(ELISA、EIA)、蛍光免疫アッセイ、放射性免疫アッセイ(RIA)、免疫クロマト法、免疫凝集法及びウエスタンブロット法等]等を挙げることができる。工程(b)における接触後のサンプルに形成された抗体−抗原複合体形成を測定する方法は、免疫学的測定方法に応じて適宜選択できる。
【0054】
免疫学的測定法についてより詳細に説明する。本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片(第1のモノクローナル抗体)を固相に固定し、抗原を含む試料と共にインキュベートする工程、さらに標識した第2のモノクローナル抗体を加えて、得られた混合物をインキュベートする工程、および混合物中の生成した標識された抗原抗体複合体を検出する工程を包含するサンドイッチ免疫学的測定法が例示される。また、本発明の免疫学的測定法では、試料と、固相化した第1のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片および標識した第2のモノクローナル抗体とを同時にインキュベートしてもよい。サンドイッチ免疫学的測定法としては、その検出方法により、サンドイッチ放射免疫測定法(RIA法)、サンドイッチ酵素免疫測定法(EIA法)、サンドイッチ蛍光免疫測定法(FIA法)、サンドイッチ発光免疫測定法(CLIA法)、サンドイッチ発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、サンドイッチ法に基づく免疫クロマトグラフ法などの全てのサンドイッチ免疫測定法が応用しうる。定量のためには、RIA法、EIA法が好ましい。
【0055】
好ましい実施態様によれば、サンドイッチRIA法が行われ得る。サンドイッチRIA法は、具体的には、標準溶液または試料に、第1のモノクローナル抗体(本発明のモノクローナル抗体)を固相したビーズを加えて混和し、4℃から45℃、好ましくは25℃から37℃で、1から4時間、好ましくは2時間インキュベートする(第1反応)。洗浄後、例えば125Iで標識した第2のモノクローナル抗体を含む溶液を加え、4℃〜45℃、好ましくは25℃から37℃で、1から4時間好ましくは2時間インキュベートし、ビーズ上に抗体/抗体複合体を形成する(第2反応)。洗浄後、ビーズに結合した抗原抗体複合体の放射活性をガンマーカウンターなどで検出することによりの量を測定し得る。他の好ましい実施態様によれば、サンドイッチEIA法が行われ得る。サンドイッチEIA法は、具体的には、標準溶液または試料に、第1のモノクローナル抗体を固定したビーズを加えて混和し、4℃から45℃、好ましくは25℃から37℃で、1から4時間、好ましくは2時間インキュベートする(第1反応)。洗浄後、酵素標識、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識した第2のモノクローナル抗体を含む溶液を加え、4℃〜45℃、好ましくは25℃〜37℃で、1〜4時間好ましくは2時間インキュベートし、ビーズ上に抗体−抗体からなる免疫複合体を形成する(第2反応)。ビーズ上の酵素活性を、酵素に特異的な基質、例えば、標識酵素がHRPであればテトラメチルベンヂチン(TMB)を介して比色法により測定し、それによりビーズ上の捕獲された量を測定し得る。比色定量は、通常の分光光度計などで行われ得る。
【0056】
2−3.ヒトMUC1の検出
本発明の方法は、体液サンプル中のMUC1の異常な発現がみられる悪性腫瘍の有無の検出に用いることができる。MUC1の異常な発現がみられる悪性腫瘍としては、例えば、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、及び卵巣癌からなる群より選択されるものである。本発明の抗体は、上述したように、MUC1と特異的に反応するために、ヒトMUC1に関連する、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、及び卵巣癌などの悪性腫瘍の検出に有効である。
【0057】
MUC1の過剰発現が乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌などの悪性腫瘍において報告されている。特に乳癌、卵巣癌、及び膵癌では90%以上でMUC1の過剰発現が認められている。MUC1の高発現は種々の癌の予後不良を伴い、癌患者では血中の遊離MUC1濃度が上昇する。[非特許文献1]
【0058】
更に、癌化や癌進行、転移に伴って、MUC1のO-グリカンの劇的な変化が起こることが報告されている[非特許文献1]。MUC1のVNTRs領域に見られるO-糖鎖修飾は、正常上皮組織では通常8−10個の単糖ユニットを含むポリラクトサミン型の長鎖及び分岐鎖糖で構成される。正常MUC1は細胞外領域がこのような沢山の糖鎖で修飾されることで、粘膜の保護や水和、潤滑作用、細菌や異物の攻撃からの保護作用、細胞間及び細胞マトリックス間相互作用の調節作用を示す。又、MUC1は正常細胞では細胞頂端(apical)に発現するが、癌細胞では頂端発現が無くなり無極性発現となり、細胞表層全体にMUC1が表出する。その際に、VNTR領域のO-糖鎖修飾のパターンは一変し、正常細胞に見られた長鎖及び分岐鎖で構成される複雑な糖鎖に変わって、 単純で短い糖鎖によるO-糖鎖修飾が認められる。癌化に伴うMUC1の無極性発現及び低糖鎖修飾は、正常な潜在的(cryptic)ペプチドエピトープの露出及び新規炭水化物エピトープを創出させる。従って、MUC1のこれらのエピトープ の内の、修飾糖鎖がTnであるエピトープに特異的に反応する本発明の抗体は、正常及び癌のMUC1を区別して認識することができ、ヒトMUC1に関連する悪性腫瘍の検出において用いることができる。更に癌細胞に陽性のMUC1のみを攻撃する場合に利用することも可能になる。
【0059】
本発明の免疫学的測定用キットは、上述した本発明の抗MUC1抗体又はその抗原結合性断片を含むものである。従って、本発明のキットを用いて、疾患への罹患又は障害の存在が疑われる被検体から採取したサンプル中に含まれるヒトMUC1を特異的に検出することによって、該被験体の疾患または障害の存在を迅速かつ簡便に判定するために利用ができる。このような免疫学的測定方法を利用した疾患又は障害の判定用試薬は周知であり、当業者であれば、抗体以外の適当な成分を容易に選択することができる。また本発明の免疫学的測定用キットは、免疫学的測定方法を行うための手法であればいずれの方法においても利用することができる。
【0060】
本発明は、本発明の抗体を用いる癌の診断法、本発明の抗体を含む診断剤、あるいは抗体を含む診断キットを提供することもできる。本発明の癌の診断法、診断剤または診断キットにおいて含まれる抗体は、上述した本発明の抗体である。本発明の抗体は、前述の特定の癌に特異的に結合することができることから、これらの癌の診断に使用されうる。
【0061】
本発明の抗体は、前述した悪性腫瘍の診断のためまたは患者における疾患の進行をモニターするためのマーカーとして使用され得る。1つの実施態様において、患者の癌は、患者から得られる生物学的サンプルについてのMUC1レベルを本発明の抗体を用いて求め、その結果をあらかじめ決定されたカットオフ値と比較して評価することにより悪性腫瘍の診断等にも利用することができる。
【0062】
上記(b)で得られた測定結果と対照サンプルに於いて同様の(a)及び(b)の工程を経て得られた測定結果とを比較して、測定された体液サンプルにおける悪性腫瘍の有無の検出に用いることができる。対照サンプルは、健常人から入手した体液サンプルであることができる。
【0063】
癌の存在または非存在を決定するために、固相支持体に結合して留まるレポーター基から検出されるシグナルは、一般に、あらかじめ決定されたカットオフ値に対応するシグナルと比較される。1つの実施態様において、カットオフ値は、固定された抗体が癌を有さない患者からのサンプルとともにインキュベートされた場合に得られるシグナルの平均値である。一般に、あらかじめ決定されたカットオフ値を上回る3つの標準偏差であるシグナルを生じるサンプルは、癌について陽性であると考えられる。カットオフ値は、例えば、診断試験結果のそれぞれの可能なカットオフ値に対応する真の陽性の割合(すなわち、感受性)および偽陽性の割合(100%−特異性)の組のプロットから決定され得る。上部左隅に最も近いプロット上のカットオフ値(すなわち、最大領域を含む値)は最も正確なカットオフ値であり、そして本発明の方法により決定されるカットオフ値より高いシグナルを生じるサンプルは陽性であると考えられ得る。あるいは、カットオフ値は、プロットに沿って、偽陽性の割合を最小にするために左にシフトし得るか、または偽陰性の割合を最小にするために右にシフトし得る。一般に、本方法により決定されるカットオフ値より高いシグナルを生じるサンプルは、その癌について陽性であるとされる。
【0064】
3.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する悪性腫瘍の予防又は/及び治療用の医薬組成物であり、任意で医薬的に許容される担体を含むことかできる。前記悪性腫瘍が乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌からなる群より選択されるものである。
【0065】
本発明の抗MUC1抗体及びその抗原結合性断片は、それぞれMUC1が関わる疾患の予防及び/又は治療に用いることができる。MUC1が関わる疾患としては、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌などの悪性腫瘍がある。これらの悪性腫瘍の患者においては、MUC1の発現の異常、MUC1の糖鎖構造の異常及びそれによる機能の異常が認められるので、本発明の抗MUC1抗体は悪性腫瘍を抑制する作用によって、悪性腫瘍を予防又は/及び治療することが可能である。
【0066】
本発明の抗MUC1抗体及びその抗原結合性断片は、それぞれMUC1発現の異常、MUC1の糖鎖構造の異常及びそれによる機能の異常が認められる乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌に対し、それらの異常によって生起される細胞増殖の亢進や癌細胞転移などを抑制することによって、癌の予防又は/及び治療をすることが可能である。
【0067】
更に最近、乳癌や大腸癌などの癌転移にはMUC1とガレクチンの相互作用が重要であることが認められている[非特許文献11]。癌細胞が浸潤や転移する際には、原発部位を離れ周辺の細胞外マトリックス及び内皮細胞に浸潤し、血管及びリンパ管に浸透して、最終的に2次部位に付着し増殖する。癌細胞を循環から転移部位への遊出は、(i)循環する癌細胞の停止及び癌細胞と血管内皮細胞との一過性の弱い接触(ドッキング)(ii)種々の接着受容体(インテグリンやカドヘリンなど)とそのリガンドの発現/局在の変化の誘導、及びそれに続く(iii)癌細胞の血管内皮細胞への強い付着(ロッキング)のプロセスを踏むが、これら3つのプロセスにMUC1とガレクチン3の相互作用が主要な役割を果たしていることが分かってきた。ガレクチンは、β-ガラクトシド構造を認識して結合あるいは糖鎖同士を架橋するタンパク質を総称するが、ガレクチン3は15種あるガレクチンの1種で、内皮細胞や免疫細胞の細胞質内、核、細胞表面、細胞外マトリックス等に存在することが知られている。癌細胞のMUC1がガレクチン3に結合すること、転移癌患者の血中ガレクチン3濃度は、正常対照に比べて上昇していること、循環癌細胞の血管内皮細胞への接着が癌細胞のMUC1発現及び内皮細胞の細胞外ガレクチン3の存在に依存すること、細胞外ガレクチン3の癌細胞MUC1への結合によってMUC1の細胞表層の局在が著しく変化し癌細胞と血管内皮細胞の結合が強くなることなどがこれまで認められ、血中ガレクチンとMUC1の相互作用が癌細胞の遠隔臓器への転移に重要な基本的分子機構であることを明らかにされている。従って、MUC1とガレクチン3との結合をブロックすることができれば、上記の癌転移プロセスの(i)〜(iii)はいずれも抑止され、癌転移は抑制されることが可能になると考えられる。
【0068】
後述の実施例において、本発明の抗体が、MUC1とガレクチン3の結合を阻害することを示した。従って、本発明の抗体を用いて、癌化によりMUC1を過剰発現する癌の転移の予防及び/又は治療が可能であることが明らかになった。
【0069】
本発明の抗MUC1モノクローナル抗体はマウス抗体である。本発明の医薬組成物に用いる抗体は、マウス抗体をキメラ抗体、ヒト化抗体、または二価特異的抗体に変換したものであることが好ましい。マウス抗体のキメラ抗体、またはヒト化抗体への変換は、例を前述したように、公知の方法を用いて行うことができる。
【0070】
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を有効成分として、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
【0071】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−60と併用してもよい。
【0072】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。また、リポソームも細胞送達のために該薬剤をカプセル化するために使用可能である。
【0073】
投与は、経口又は非経口であり、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
【0074】
本発明の抗体の用量および投与方法は、患者の年齡、体重、性別、治療すべき症状の性質もしくは重篤度等により適宜選択することができる。本抗体を含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1,000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、患者あたり0.01〜100,000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患 者の年齢、体重、性別、症状などにより変動するが、当事者であれば適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0075】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0076】
糖ペプチドの合成
抗体の特異性評価のための糖ペプチドの合成法を以下に示した。いずれの化合物も特異性評価に用いるための架橋用のケトンを、また化合物1〜4にはCysを結合させた配列の化合物を合成した。
【0077】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-Cys-NH2(化合物1)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてTentaGel SRAM resin(0.24mmol/g,50mg, 12μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(48μmol)、HBTU(48μ mol)とHOBt(48μmol)、DIEA(72μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相 樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物1を得た (6.3 mg,収率22%)。
【0078】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Tn)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-Cys-NH2(化合物2)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてTentaGel SRAM resin(0.24mmol/g,100mg, 36μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(144μmol)、HBTU(144μmol)とHOBt(144μmol)、DIEA(216μmol)のDMF溶液で6分間反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac3GalNAcα(1→O)](43μmol)、HBTU(43μmol)とHOBt(43μmol)、DIEA(108μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(43μmol)とHOBt(43μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を 濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物2を得た(13.3 mg,収率15%)。
【0079】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(T)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-Cys-NH2(化合物3)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてTentaGel SRAM resin(0.24mmol/g,200mg, 48μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(192μmol)、HBTU(192μmol)とHOBt(192μmol)、DIEA(288μmol)のDMF溶液で6分間反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac4Galβ(1→3)Ac2GalNAcα(1→O)(58μmol)、HBTU(58μmol)とHOBt(58μmol)、DIEA(144μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(58μmol)とHOBt(58μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物3を得た (22.0mg,収率17%)。
【0080】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Sialyl-T)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly- Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-Cys-NH2(化合物4)の合成
化合物3(10mM, 300μl, water)を1000mM HEPESバッファー(pH7.0, 30μl),1000mM HEPESバッファー(pH7.0, 30μl),1000mM MnCl2(6μl),150mM CMP−NeuAc(60μl),1.4U/mLα2,3−(O)−Sialyltransferase, Rat, Reconbinant, S. frugiperda(30μl, Calbiochem), water(74μl)を混合した反応液に混合した。25℃で24時間インキュベート後、反応液を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として 化合物4を得た(5.5 mg,収率60%)。
【0081】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物5)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.45mmol/g ,100mg, 45μmol, バイオタージ社製)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(180μmol)、HBTU(180μ mol)とHOBt(180μmol)、DIEA(270μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相 樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物5を得た (45.8 mg,収率45%)。
【0082】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Tn)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物6)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.45mmol/g ,100mg, 45μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(180μmol)、HBTU(180μ mol)とHOBt(180μmol)、DIEA(270μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac3GalNAcα(1→O)](54μmol)、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)、DIEA(135μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を 濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物6を得た(43.2 mg,収率39%)。
【0083】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser(Tn)-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物7)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.45mmol/g ,100mg, 45μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(180μmol)、HBTU(180μ mol)とHOBt(180μmol)、DIEA(270μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Ser[Ac3GalNAcα(1→O)](54μmol)、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)、DIEA(135μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を 濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物7を得た(21.1 mg,収率19%)。
【0084】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr(Tn)-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物8)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.45mmol/g ,100mg, 45μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(180μmol)、HBTU(180μ mol)とHOBt(180μmol)、DIEA(270μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac3GalNAcα(1→O)](54μmol)、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)、DIEA(135μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を 濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物8を得た(48.2 mg,収率43%)。
【0085】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr(Tn)-Ser(Tn)-Ala-Pro-Asp-Thr(Tn)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser(Tn)-Thr(Tn)-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物9)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.45mmol/g ,100mg, 45μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(180μmol)、HBTU(180μ mol)とHOBt(180μmol)、DIEA(270μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac3GalNAcα(1→O)]またはFmoc−Ser[Ac3GalNAcα(1→O)](54μmol)、HBTU(54μmol)とHOBt(54μmol)、DIEA(135μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(54μmol)とHOBt(54mol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を 濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物9を得た(37.8 mg,収率25%)。
【0086】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(T)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物10)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.90mmol/g ,200mg, 90μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450M Hz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(360μmol)、HBTU(360μ mol)とHOBt(360μmol)、DIEA(540μmol)のDMF溶液で6分間 反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac4Galβ(1→3)Ac2GalNAcα(1→O)](108μmol)、HBTU(108μmol)とHOBt(108μmol)、DIEA(270μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(108μmol)とHOBt(108μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を 濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物10を得た(110 mg,収率46%)。
【0087】
5-oxohexanoyl-Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Sialyl-T)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly- Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr-NH2(化合物11)の合成
化合物8(10mM, 496μl, water)を1000mM HEPESバッファー(pH7.0, 30μl),1000mM MnCl2(8μl), 200mM CMP−NeuAc(95μl), 1.4U/mLα2,3−(O)−Sialyltransferase, Rat, Reconbinant, S. frugiperda(28μl, Calbiochem), water(212μl)を混合した反応液に混合した。25℃で24時間インキュベート後、反応液を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として 化合物11を得た(14 mg,収率96%)
【0088】
5-oxohexanoyl-Pro-Pro-Thr-Thr-Thr-Pro-Ser-Pro-Pro-Pro-Thr-Ser-Thr-Thr- Thr-Leu-Pro-Pro-Thr-NH2(化合物12)の合成
ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.48mmol/g ,25mg, 12μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(48μmol)、HBTU(48μmol)とHOBt(48μmol)、DIEA(72μmol)のDMF溶液で9分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/ v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水:トリイソプロピルシラン(95: 2.5:2.5, v/v/v)で1時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えて pH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物12を得た(7.2 mg,収率30%)。
【0089】
5-oxohexanoyl-Pro-Pro-Thr-Thr(Tn)-Thr(Tn)-Pro-Ser-Pro-Pro-Pro-Thr-Ser-Thr-
Thr(Tn)-Thr(Tn)-Leu-Pro-Pro-Thr-NH2(化合物13)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてRink Amide-ChemMatrix resin(0.48mmol/ g,25mg, 12μmol)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(48μmol)、HBTU(48μmol)とHOBt(48μmol)、DIEA(72μmol)のDMF溶液で9分間反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac3GalNAcα(1→O)](14μmol)、PyBOP(14μmol)とHOAt(14μmol)、DIEA(36μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、PyBOP(14μmol)とHOAt(14μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射 (40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水:トリイソプロピルシラン(95:2.5:2.5, v/v/v)で1時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物13を得た(4.7 mg,収率14%)。
【0090】
5-oxohexanoyl-Ser-Ala-Ser-Thr-Gly-His-Ala-Thr-Pro-Leu-Pro-Val-Thr-Asp-Thr-Ser-Cys-NH2(化合物14)の合成
ペプチド固相合成は、固相担体としてTentaGel SRAM resin(0.24mmol/g,200mg, 48μmol,ラップポリマー社製)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(192μmol )、HBTU(192μmol)とHOBt(192μmol)、DIEA(288μm ol)のDMF溶液で6分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85,v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5,v/v)で2時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物14を得た(9.0 mg,収率11%)。
【0091】
5-oxohexanoyl-Ser-Ala-Ser-Thr-Gly-His-Ala-Thr(Tn)-Pro-Leu-Pro-Val-Thr-Asp-Thr- Ser-Cys-NH2(化合物15)の合成
糖ペプチド固相合成は、固相担体としてTentaGel SRAM resin(0.24mmol/g,200mg, 48μmol,ラップポリマー社製)を用いた。アミノ酸伸長反応は、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、Fmocアミノ酸誘導体(192μmol)、HBTU(192μmol)とHOBt(192μmol)、DIEA(288μmol)のDMF溶液で6分間反応した。糖鎖置換アミノ酸伸長反応は、Fmoc−Thr[Ac3GalNAcα(1→O)](58μmol)、HBTU(58μmol)とHOBt(58μmol)、DIEA(144μmol)のDMF溶液でマイクロ波照射下10分間反応した。さらに、HBTU(58μmol)とHOBt(58μmol)を加えてマイクロ波照射下10分間反応した。無水酢酸/DIEA/DMF(10:5:85, v/v/v)溶液で室温下1分間処理して未反応のアミノ基のアセチル化を実施した。続いて、マイクロ波照射(40W、2450MHz、50℃)の条件下、20%ピペリジン/DMFで3分間処理してFmoc基を脱保護した。糖ペプチドの合成は、これら3工程(1)各種Fmocアミノ酸での伸長、(2)アセチル化処理、(3)脱Fmoc化を順 次繰り返した。得られた固相樹脂をトリフルオロ酢酸:水(95:5, v/v)で2時間処理した。反応液を濾過しエーテルを加えて沈殿させて、粗結晶を得た。粗生成物をメタノールに溶解して、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0−12.5に調整して室温下1時間処理した。10%酢酸を加えてpH7付近に調整した後、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製を行い、凍結乾燥粉末として化合物15を得た(13.0 mg,収率14%)。
【0092】
化合物1〜15の同定データを以下にまとめて記載する。
MUC1由来糖ペプチドのMALDI-TOFMSスペクトル(図1
(a)化合物1, m/z calcd for C100H160N30O34S [M + H]+ 2358.151, found 2358.383;
(b)化合物2, m/z calcd for C108H173N31O39S [M + H]+ 2561.231, found 2561.457;
(c)化合物3, m/z calcd for C114H183N31O44S [M + H]+ 2723.283, found 2723.504;
(d)化合物4, m/z calcd for C125H200N32O52S [M + H]+ 3014.379, found 3014.640
(e)化合物5, m/z calcd for C97H156N29O33 [M + H]+ 2255.142, found 2254.927;
(f)化合物6, m/z calcd for C105H169N30O38 [M + H]+ 2458.221, found 2457.954;
(g)化合物7, m/z calcd for C105H169N30O38 [M + H]+ 2458.221, found 2458.077;
(h)化合物8, m/z calcd for C105H169N30O38 [M + H]+ 2458.221, found 2458.159
(i)化合物9, m/z calcd for C137H221N34O58 [M + H]+ 3270.538, found 3270.308
(j)化合物10, m/z calcd for C111H179N30O43 [M + H]+ 2620.274, found 2620.049;
(k)化合物11, m/z calcd for C122H196N31O51 [M + H]+ 2911.369, found 2911.207;
MUC2由来糖ペプチドのMALDI-TOFMSスペクトル(図2
(l)化合物12, m/z calcd for C90H144N20O31 [M + Na]+ 2024.020, found 2024.111;
(m)化合物13, m/z calcd for C122H196N24O51 [M + Na]+ 2836.338, found 2836.501
MUC4由来糖ペプチドのMALDI-TOFMSスペクトル(図3
(n) 化合物14, m/z calcd for C73H181N20O28S [M + Na]+ 1777.804, found 1777.910;
(o) 化合物15, m/z calcd for C81H131N21O33S [M + Na]+ 1980.884, found 1981.045;
【0093】
実施例1
Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Tn)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thrを抗原として 用いたモノクローナル抗体の作製Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Tn)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-ThrのC末端にキャ リアータンパク質結合に必要なCysを付加した化合物Gly-Val-Thr-Ser-Ala-Pro-Asp-Thr(Tn)-Arg-Pro-Ala-Pro-Gly-Ser-Thr-Ala-Pro-Pro-Ala-His-Gly-Val-Thr Cys-NH2(85μg)をキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)とコンジュゲートし、マウスBDF-1テールベースに投与し免疫反応を惹起した。17日後に同様の方法で化合物3の追加免疫を行い、3日後に採血して腸骨リンパ節を採集した。採集した細胞はミエローマ細胞SP2と細胞融合後、HAT選択培地で培養し抗体 産生細胞を選択した。次に、得られたハイブリドーマの培養上清をELISAプレート上にまき、化合物2との結合反応でスクリーニングした。
【0094】
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体SN-101を産生するハイブリドーマ株3A9-4B1(NPMD受託番号NITE BP-01845)および目的のモノクローナル抗体SN-102を産生するハイブリドーマ株3C10-E11を樹立した。
【0095】
実験例2 モノクローナル抗体(SN-101及びSN-102)産生細胞株の培養と、抗体の精製取得
培養法:SN-101を産生するハイブリドーマ株NITE BP-01845を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI-1640培地で増殖させた。回収した8.1×106個の細胞に対し、22 mlの無血清培地Panserin H4000(PAN-Biotech)を加えて懸濁し、培養することにより、この培地への馴化を行った。馴化した細胞を同培地で1.0×108個程度まで増殖させ、5.0×105/mlとなるように継代した。これを2週間静置培養した後に、遠心分離により培養上清を得た。もう一方の抗体SN-102を産生するハイブリドーマ株3C10-E11についても上記方法と同様に培養し、培養上清を得た。
【0096】
精製法:培養したハイブリドーマ株NITE BP-01845から、SN-101を以下の方法で精製した。培養上清200 mLを0.45 μmのフィルターでろ過し、抗体精製の材料とした。または培養上清に硫酸アンモニウムを加えて50%飽和とし、10000 g、20分間の遠心分離により沈殿を回収した。これを10 mlのPBSに溶解し、さらに同溶液に対して透析したものを精製材料として、HiTrap Protein G HPカラム(GEヘルスケア)によるアフィニティークロマトグラフィーに供した。AKTA explorer 100(GEヘルスケア)に接続したHiTrap Protein G HPカラムを、20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)で平衡化し、試料を添加した。同緩衝液でカラムに結合しない不要な成分を洗浄した後に、結合した抗体を0.1 Mグリシン塩酸緩衝液(pH 2.5)で溶出し、少量の1 Mトリス塩酸緩衝液(pH 9.0)の添加により中和した。また、カラムを通過した画分を繰り返しカラムに添加、溶出することにより、抗体の回収率が向上した。ここまでの作業を通して、SN-101を2.3 mg得ることができた。もう一方の3C10-E11の培養上清200 mLからは、同様の精製法を行った結果、SN-102が8.3 mg得られた。
【0097】
実施例3 抗体との反応特異性評価
糖ペプチド固定化アレイの作製
糖鎖固定化アレイ用基板(住友ベークライト社製)を2M HClで37℃、2時間処理し、t−ブトキシカルボニル基(Boc基)の脱保護を行った。水で2回洗浄後、乾燥させ、基板表面にアミノオキシ基を作製した。表1に示した各合成糖ペプチドにスポッティング溶液(25mM AcOH/Pyridine, 0.005%Triton X-100, pH 5.4)を加え溶解し、スポッター(BioChip Arrayer,、Cartesian社製)、スポットピン(CMP, ピン径0.4mm、Arraylt社)を用いて基板にスポッティングし、80℃、1時間反応させ、基板に糖ペプチドを固定化した。水で1回洗浄後、10mg/mLの無水コハク酸に浸漬させ、室温で3時間反応し、未反応のアミノオキシ基の保護を行った。水で2回洗浄し、乾燥した。
【0098】
培養上清を下記反応溶液で10倍希釈した。糖ペプチド固定化アレイにハイブリカバー(住友ベークライト社製)を被せ、希釈溶液70μLを展開し、室温で2時間反応した。ハイブリカバーを外し下記洗浄溶液及び水で一回ずつ基板を洗浄した。基板を乾燥させた後、ハイブリカバーをかぶせ、Anti-IgG(H+L), Mouse, Goat-Poly, Cy3(ロックランドイムノケミカルズ社製)を下記溶液で1μg/mLに調製したものを基板上に展開し、室温で1時間反応した。反応後、前記洗浄液で洗浄。測定はスキャナ(Typhoon TRIO+、GEヘルスケア)を用いてCy3の蛍光強度を測定した。蛍光応答のデジタル画像はArray VisionTMSoftware version 8(GEヘルスケア)を用いて作成した。結果を図4に示す。反応溶液:50mM Tris・HCl (pH 7.4)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05% Tween 20 洗浄溶液:50mM Tris・HCl (pH 7.4)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05% Tr iton X-100
【表1】
化合物1〜4:配列番号3
化合物5〜11:配列番号1
化合物12〜13:配列番号4
化合物14〜15:配列番号5
【0099】
抗体SN-101及び抗体SN-102の特徴
抗体SN−101及び抗体SN−102は、それぞれMUC1に由来する糖ペプチドの糖鎖Tn構造及び修飾位置を下記のように特異的に認識し結合した。
SN−101
(i)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの8位のスレオニンにTn糖鎖が結合した糖ペプチド
Gly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thr−Cysに結合し
(ii)前記MUC1由来の糖ペプチドのTn糖鎖が、T又はSTに置換された糖ペプチドに結合せず
(iii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、
(iv)MUC2のタンデムユニットペプチド又はMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しなかった。
【0100】
SN−102
(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの8位のスレオニンにTn糖鎖が結合した糖ペプチドGly−Val−Thr−Ser−Ala−Pro−Asp−(Tn)Thr−Arg−Pro−Ala−Pro−Gly−Ser−Thr−Ala−Pro−Pro−Ala−His−Gly−Val−Thrに結合し
(ii)前記MUC1由来の糖ペプチドのTn糖鎖が、T又はSTに置換された糖ペプチドに結合しないか、結合しても弱い結合であり
(iii)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチド(naked peptide)に結合せず、
(iV)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの14位のセリン、15位のスレオニンにTn糖鎖が修飾された糖ペプチドには結合せず
(V)配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するペプチドのスレオニン、セリンの全てにTn糖鎖が修飾された糖ペプチドには結合し
(iv)MUC2のタンデムユニットペプチド又はMUC4のタンデムユニットペプチドにTnが修飾された糖ペプチドに結合しなかった。
【0101】
実施例4 患者血清中のMUC1糖ペプチドの検出
抗体SN-101を用いて、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌、膵癌、大腸癌及び卵巣癌検体血清中に抗原糖ペプチドが検出されるかを検討した。検体数は、臨床的に明らかに該疾患と診断された患者血清5〜10例、陰性コントロールとして正常血清数例とした。正常血清では抗原糖ペプチドが検出されなかったが、患者血清では抗原糖ペプチドが検出された。
【0102】
実施例5 抗体SN-101及び抗体SN-102によるMUC1 発現細胞の免疫蛍光染色
乳癌細胞株OCUB-Mを10% FBSを含むD-MEM中で5% CO2下、37℃で一晩培養した。培地を吸引除去し、PBSで細胞層を洗浄後、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで10分間固定した。続いて0.1% Triton XTM-100を含むPBSで浸透処理した後に、ブロッキングバッファー(1% BSA含有PBS)で20分間ブロッキングを行った。次にブロッキングバッファーで希釈した抗体SN-101または抗体SN-102の10 μg/mL溶液を1時間反応させた。陰性コントロールには、一次抗体の代わりにブロッキング液を反応させたものを用意した。抗体溶液を除き、PBSで洗浄した後に、2 μg/mL のAlexa FluorR 555標識抗マウスIgG抗体を反応させた。PBSで洗浄し、封入した後に、オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-9000(KEYENCE)で観察したところ、特異的な染色像が得られた(図5参照)。
【0103】
実施例6 細胞増殖阻害実験
DMEM (10% FBS) 培地にて培養した乳癌細胞 OCUB-M を 1 ウェルあたり3x103個となるように96ウエルプレートに播種した。5%CO2 雰囲気下37℃で 48 時間培養した後、抗体SN-101を終濃度 0.565 mg/mL、あるいは1.13 mg/mL となるように添加した。5%CO2雰囲気下37℃で48 時間培養した後、Cell Titer 96Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay (Promega) 試薬を1 ウェルあたり、20 μL 添加、5%CO2雰囲気下37℃で2 時間インキュベートした。490 nm の吸光度を測定した結果、コントロールと比較して濃度依存的に細胞数の減少を認めた(図6参照)。
【0104】
実施例7 ガレクチン3結合阻害実験
8ウェル型チェンバースライドに、RPMI-1640(10% FBS)に浮遊させた乳癌細胞MCF-7を4.8x103個ずつ添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で16時間培養した。培地を吸引除去し、細胞が2 mm浸る程度の4% ホルムアルデヒド in PBSを加えた。細胞を15分間固定した。固定液を吸引除去し、PBSで各5分間、3回洗浄した。ブロッキングバッファー(5% BSA含有PBS)で1時間ブロッキングをおこなった。ブロッキング液を吸引除去し、当該抗体のみ、様々な濃度のSN-101とガレクチン3とを混合し、4℃で2時間インキュベートした。抗体を吸引除去した後、PBSで各5分間、3回洗浄した。Cy5ラベル化抗マウスIgG抗体を添加し、暗室、室温で1時間インキュベートした。2次抗体を吸引除去した後、PBSで各5分間、3回洗浄した。オールインワン蛍光顕微鏡BZ-9000(KEYENCE)で観察したところ、当該抗体濃度依存的にガレクチン3とMUC1との結合阻害が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明により、ヒトMUC1のタンデムユニットペプチドにO-結合型糖鎖Tnで修飾された糖ペプチドを極めて特異的に認識する抗体が提供される。本発明の抗MUC1抗体を用いることで、Tnで修飾された糖ペプチドエピトープ特異的に、高感度に、信頼性をもって、かつ簡便に MUC1の存在を検出することができ、MUC1に関連する疾患として悪性腫瘍を判定することが可能になるので、医療診断分野において有用と考えられる。更に、本発明の抗MUC1抗体は、MUC1が関わる癌細胞の機能に影響を与えることにより、癌治療など医薬分野において有用であると考えられる。

【配列表フリーテキスト】
【0106】
配列番号1:ヒトMUC1のタンデムユニットペプチドのアミノ酸配列
配列番号2:ヒトMUC1のタンデムユニットペプチドの変異体のアミノ酸配列
配列番号3:ヒトMUC1のタンデムユニットペプチドのC末端にCysを付加したペプチドのアミノ酸配列
配列番号4:ヒトMUC2のタンデムユニットペプチドのアミノ酸配列
配列番号5:ヒトMUC4のタンデムユニットペプチドのアミノ酸配列
配列番号6:SN−101Hのアミノ酸配列
配列番号7:SN−101Lのアミノ酸配列
配列番号8:SN−101HのCDR1のアミノ酸配列
配列番号9:SN−101HのCDR2のアミノ酸配列
配列番号10:SN−101HのCDR3のアミノ酸配列
配列番号11:SN−101LのCDR1のアミノ酸配列
配列番号12:SN−101LのCDR2のアミノ酸配列
配列番号13:SN−101LのCDR3のアミノ酸配列
配列番号14:SN−102Hのアミノ酸配列
配列番号15:SN−102Lのアミノ酸配列
配列番号16:SN−102HのCDR1のアミノ酸配列
配列番号17:SN−102HのCDR2のアミノ酸配列
配列番号18:SN−102HのCDR3のアミノ酸配列
配列番号19:SN−102LのCDR1のアミノ酸配列
配列番号20:SN−102LのCDR2のアミノ酸配列
配列番号21:SN−102LのCDR3のアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]