(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476213
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】モードファミリーを除去するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/08 20060101AFI20190218BHJP
H01S 3/06 20060101ALI20190218BHJP
H01S 3/083 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/06
H01S3/083
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-575294(P2016-575294)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公表番号】特表2017-509166(P2017-509166A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】US2014024786
(87)【国際公開番号】WO2015137945
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】516274313
【氏名又は名称】オーイーウェーブス,インク.
【氏名又は名称原語表記】OEWAVES,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】マレキ,ルート
(72)【発明者】
【氏名】マツコ,アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】サヴチェンコフ,アナトリー
(72)【発明者】
【氏名】ソロマティン,イオーリ
【審査官】
高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−511841(JP,A)
【文献】
特開2002−185064(JP,A)
【文献】
特開平05−206583(JP,A)
【文献】
特表2004−503816(JP,A)
【文献】
特表2010−530142(JP,A)
【文献】
特開2005−183963(JP,A)
【文献】
特開2006−267207(JP,A)
【文献】
特表2006−515081(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/154209(WO,A1)
【文献】
米国特許第07382808(US,B1)
【文献】
特開2005−043699(JP,A)
【文献】
特開2002−172528(JP,A)
【文献】
国際公開第01/093334(WO,A1)
【文献】
特表2007−508714(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0274944(US,A1)
【文献】
特開昭51−063092(JP,A)
【文献】
特開2012−185872(JP,A)
【文献】
特開2009−177154(JP,A)
【文献】
特表2004−503947(JP,A)
【文献】
Mher Ghulinyan et al.,Monolithic whispering-gallery mode resonators with vertically coupled integrated bus waveguides,IEEE Photnnics Technology Letters,米国,IEEE,2011年 8月15日,Vol. 23, No. 16,1166-1168
【文献】
A. Shaw et al.,Lasing properties of disk microcavity based on a circular Bragg reflector,Applied Physics Letters,米国,American Institute of Physics,1999年11月15日,Vol. 75, No. 20,3051-3053
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/02,3/04−3/0959,
3/098−3/102,3/105−3/131,
3/136−3/213,3/23−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモードファミリーを有するモノリシック共振器を提供するステップであって、前記モノリシック共振器は複数の空間的に異なる部分を備え、前記複数の空間的に異なる部分は第1の部分と第2の部分を備える、ステップ;
前記複数のモードファミリーのうちの少なくとも第1のモードファミリーの品質を劣化させるように、前記共振器の前記第2の部分の屈折率を変更するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記モノリシック共振器は、ウィスパリングギャラリーモード共振器及び全内部反射共振器のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のモードファミリーのうち、1つを除いて全てを排除するように、前記第2の部分に加えて、前記共振器の前記複数の空間的に異なる部分の少なくとも1つの部分の屈折率を変更するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の部分に加えて、前記共振器の前記複数の空間的に異なる部分の少なくとも1つの部分の屈折率を変更する前記ステップは、前記複数のモードファミリーのうちの1つの場所に突出部を形成するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のモードファミリーのうちのいずれも、互いに空間的に重ならない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記モノリシック共振器の前記第2の部分の屈折率を変更する前記ステップの前に、前記複数のモードファミリーのうち、劣化させる上記第1のモードファミリーを、ユーザが選択できるようにする、ユーザインタフェースを提示するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
屈折率を変更する前記ステップは、前記モノリシック共振器の前記第2の部分の表面に沿って少なくとも1つの窪みを形成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工具を用いて前記モノリシック共振器の前記第2の部分を引っ掻くことによって、前記少なくとも1つの窪みを形成するステップを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
高温の物体を用いて前記モノリシック共振器の前記第2の部分を切除することによって、前記少なくとも1つの窪みを形成するステップを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
レーザビームを用いて前記モノリシック共振器の前記第2の部分を切除することによって、前記少なくとも1つの窪みを形成するステップを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記窪みの幅は最大1ミクロンである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
屈折率を変更する前記ステップは、腐食性化学物質を用いて前記モノリシック共振器の前記第2の部分をエッチングするステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
屈折率を変更する前記ステップは、前記モノリシック共振器の前記第2の部分の表面の下に、局所的に改造された構造を形成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記局所的に改造された構造は、レーザを用いて形成される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記局所的に改造された構造は、放電を用いて形成される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
屈折率を変更する前記ステップは、前記モノリシック共振器の前記第2の部分の表面の下に、複数のボイドを形成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記複数のボイドは、水素イオン注入を用いて形成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記複数のボイドは、前記モノリシック共振器の最も近接した表面から最大5ミクロンの位置に形成される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記複数のボイドは、前記モノリシック共振器の最も近接した表面から最大3ミクロンの位置に形成される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記品質の劣化は、前記第1のモードの品質係数が少なくとも3桁低下することを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、光学的共振器である。
【背景技術】
【0002】
背景技術の説明は、本発明の理解に有用であり得る情報を含む。ここで提供される情報のいずれが、従来技術であるか、若しくは本出願が請求する発明に関連すること、又は明示的に若しくは暗に参照されるいずれの刊行物が従来技術であることは、了解事項ではない。
【0003】
本明細書に記載の全ての刊行物は、個々の刊行物又は特許出願それぞれが参照によって援用されることが具体的にかつ独立して示されているのと同程度に、参照によって援用される。援用される参照文献中の用語の定義又は用法が、本明細書において提供される該用語の定義とは一貫しないか、又は対照的である場合、本明細書において提供される該用語の定義が適用され、参照文献における該用語の定義は適用されない。
【0004】
導波路及び共振器に使用される材料は、レーザビームが生成するモードファミリーのタイプ及びモードファミリーの強度に、長きにわたって影響を与えてきた。1つ又は複数のモードファミリーの選択は、典型的には、使用される材料のジオメトリの変更に応じて行われる。ロフィンによる特許文献1は例えば、レーザの導波路の表面に窪みを導入することによってモードを選択できるようにする、モード選択技術を開示している。上記窪みの長さは、必要な場合に最低次のモードを選択するのを補助する。しかしながら、このような窪みの切削には、これに関わる工具の精妙さに関して、高い精度が必要とされる。
【0005】
リーガーによる特許文献2は、最初にあるモードファミリーのために必要な鏡反射度を計算し、続いて上記必要な鏡反射度を有する鏡を製造することによって、ユーザが当該モードファミリーを選択できるようにする。しかしながらリーガーの鏡は、望まれていない他のモードファミリーも生成する場合があり、サイズに関して50μm以内の精度しか有しない。リーガーはこのようなモード選択用鏡の製造を化学エッチングプロセスに頼っているため、強力なレーザのための比較的小型の鏡は作製できない。
【0006】
ゼイトナーによる特許文献3は、指定されたモードに関する循環性損失を増大させる相構造を形成するために、その切子面付近が薄くなった導波路を有する、導波路共振器を教示している。しかしながらゼイトナーの方法は、導波路の、上記切子面付近の領域しか改造できず、これにより、排除できるモードのタイプが制限される。ゼイトナーの方法はまた、モノリシック共振器よりもQファクタが低い傾向がある複数の材料製の共振器にしか適用できない。
【0007】
ペイハムバリアンによる特許文献4は、いくつかの波長の光を吸収する一方で他の波長の光を通過させる化学的ドーパントを用いることによって、あるモードを選択する方法を教示している。事前に選択されたモードファミリーは、上記事前に選択されたモードファミリー内の光を生成できる波長のみを許可するドーパントから作製された共振器及び導波路を使用することになる。しかしながら、所望の波長のみに共振器を通過させるために十分な選択性を有する対応するドーパントを有しないモードファミリーがいくつか存在する。このような状況では、過去の技術を使用しなければならない。
【0008】
よって、モノリシック共振器においてモードファミリーを選択するための、改善されたシステム及び方法に対する需要が存在し続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第2362502号
【特許文献2】米国特許第5745511号
【特許文献3】米国公開特許第20030147445号
【特許文献4】米国公開特許第20090154503号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下の説明は、本発明の理解に有用であり得る情報を含む。ここで提供される情報のいずれが、従来技術であるか、若しくは本出願が請求する発明に関連すること、又は明示的に若しくは暗に参照されるいずれの刊行物が従来技術であることは、了解事項ではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明及び請求するために使用される、成分の量を表す数、濃度等の特性、反応条件等は、いくつかの例では、用語「約(about)」によって修飾されているものとして理解されるものとする。従っていくつかの実施形態では、本説明及び添付の請求項中に挙げられている数的パラメータは概算値であり、これは、ある特定の実施形態が得たい所望の特性に応じて変更できる。いくつかの実施形態では、上記数的パラメータは、報告される有効桁数を考慮し、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるものとする。本発明の幅広い範囲のいくつかの実施形態に挙げられている数値範囲及びパラメータは概算値であるにもかかわらず、具体的な例に挙げられる数値は、実行できる程度に正確なものとして報告されたものである。本発明のいくつかの実施形態において提示される数値は、各試験測定において見られる標準偏差に必然的に起因する一定の誤差を含み得る。
【0012】
本明細書中の説明において、及び以下の特許請求の範囲全体を通して使用される場合、「ある(a、an)」及び「上記(the)」の意味は、そうでないことが文脈によって明らかに規定されている場合を除いて、複数に対する参照も含む。また本明細書中で使用される場合、「・・・内の(in)」は、そうでないことが文脈によって明らかに規定されている場合を除いて、「・・・内の(in)」及び「・・・上の(on)」を含む。
【0013】
本明細書中で使用される場合、かつそうでないことが文脈によって規定されている場合を除いて、用語「・・・に連結された(coupled to)」は、(互いに対して連結された2つの要素が互いに接触する)直接的な連結、及び(上記2つの要素間に少なくとも1つの追加の要素が配置される)間接的な連結の両方を含むことを意図したものである。従って用語「・・・に連結された(coupled to)」及び「・・・と連結された(coupled with)」は同義として使用される。
【0014】
そうでないことが文脈によって規定されている場合を除いて、本明細書中で挙げられる全ての範囲は、その端点を含むものとして解釈されるものとし、また非制限的な範囲は、商業上実用的な値を含むものとして解釈されるものとする。同様に、複数の値のリストは全て、そうでないことが文脈によって示されている場合を除いて、中間値を含むものと見做されるものとする。
【0015】
本明細書に記載の値の範囲の記載は単に、該範囲内の個々の値それぞれに対して個別に言及するための簡略化された方法として機能することを意図したものである。そうでないことが本明細書中で示されている場合を除いて、独立した値はそれぞれ、本明細書中で個別に挙げられているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、そうでないことが本明細書中で示されている場合を除いて、又は文脈によって明確に否定されている場合を除いて、いずれの好適な順序で実施できる。本明細書中の特定の実施形態に関して提供されるいずれの及び全ての例又は例示を意味する表現(例えば「・・・等(such as)」)の使用は、単に本発明を更に明らかにすることを意図したものであり、そうでないことが請求されている場合を除いて、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいずれの表現は、本発明の実施に必須のいずれの請求されていない要素を指示するものとして解釈されるものとする。
【0016】
本明細書において開示される本発明の代替的な要素又は実施形態のグループ分けは、限定として解釈してはならない。各グループの構成要素は、個別に、又は本明細書中に見られる該グループの他の構成要素、若しくは他の要素とのいずれの組み合わせにおいて、言及及び請求できる。あるグループの1つ又は複数の構成要素は、利便性及び/又は特許性のために、該グループに含むことができ、又は該グループから削除できる。いずれのこのような包含又は削除が実施される場合、明細書は本出願において、該グループを、修正されたことによって、添付の特許請求の範囲において使用される全てのマーカッシュ形式のグループの記載を満たすものとして包含するものと見做される。
【0017】
発明の主題は、モノリシック共振器を改造することによって、上記モノリシック共振器の1つ又は複数のモードファミリーのQファクタを低下させる、装置、システム及び方法を提供する。本方法を用いて、不必要なQファクタを低下させることにより、1つ又は複数のモードファミリーを事前選択できる。
【0018】
本明細書において使用される場合、「モノリシック共振器(monolithic resonator)」は、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、溶融シリカ、窒化ケイ素又は他のタイプの結晶若しくはガラス等の単一の材料から作製された、光学的共振器である。モノリシック共振器は、複数の基材を利得媒体に接着することによって形成された共振器を含まない。なぜならこのような共振器は、複数の材料から作製されているためである。本明細書において使用される場合、「光学的共振器(optical resonator)」は、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)共振器、全内部反射共振器及び鏡面レンズといった、光を節約するための定在波共振器を形成する、鏡のキャビティである。
【0019】
レーザ等の持続波(cw)光源をモノリシック共振器に向けると、キャビティ内で反射された光は一般に共振し、強め合う干渉によって、光周波数の1つ又は複数のモードファミリー内で強度を高める。これらのモードファミリー内の光は、共振器を通る特定の光路のみを通って共振する傾向があるため、この光路に沿ったいずれの地点において屈折率を変化させると、上記光路を通って共振する光のQファクタは劣化し得る。この方法は、共振器の表面に沿って空間的に互いに重ならない複数の光路を有する、複数のモードファミリーを有する共振器において、特に良好に機能する。
【0020】
好ましくは、Qファクタは少なくとも2桁、3桁、4桁又は5桁劣化し、該モードファミリーを事実上使用不可とする。本明細書において使用される場合、あるモードファミリーは、該モードファミリーのQファクタが少なくとも5桁劣化した場合に「排除され(eliminated)」る。好ましい実施形態では、1つを除いて全てのモードファミリーの光路に沿った屈折率を変化させることにより、共振器内の1つを除いて全てのモードファミリーが排除される。ユーザが、選択するべきモードファミリーを選択する(劣化させるべき他の全てのモードファミリーを事実上選択する)こと、又は劣化させるべき1つ若しくは複数のモードファミリーを選択することができるようにする、ユーザインタフェースを提示するシステムを使用してよい。
【0021】
共振器の一部分は、複数の方法で変更される屈折率を有してよい。例えば窪み又は共振キャビティを、上記共振器の表面に沿って切削又はエッチングすることによって、上記表面を使用して共振するモードファミリーを劣化させることができる。本明細書において使用される場合、「窪み(pit)」は、表面に沿って形成された凹部であり、「共振キャビティ(resonant cavity)」は、変更された屈折率を有する2つの窪みの間の領域である。このような窪みは、例えば鋭利な工具、高温工具、レーザ又は腐食性化学物質を用いて、上記表面に切削又はエッチングしてよい。考えられる窪みは好ましくは最大1又は2ミクロンであり、1ナノメートルもの小ささとしてもよい。共振キャビティは一般に、少なくとも幅0.5又は1ミクロンである。
【0022】
単一のモードファミリーを選択する際、表面全体を削り落として突出部を形成でき、この突出部は、劣化しないまま残される唯一の光路となる。他の実施形態では、フェムト秒パルスレーザ又は放電を用いて、1つ又は複数の局所的に改造された構造を、共振器の表面の直下に形成することにより、屈折率を変化させてよい。このような局所的に改造された構造は例えば、材料内のボイド、埋め込み又は密度変移であってよい。共振器の表面の下に局所的に改造された構造を生成するために、水素イオン注入等のイオン注入も使用できる。
【0023】
屈折率を変化させる際、特に比較的小さい共振器を用いて作業を行う際、高いレベルの精度が好ましい。窪み及び共振キャビティは一般に、厚さ最大5ミクロンであり、好ましくは厚さ最大1ミクロンである。形成されるボイドは好ましくは顕微鏡レベルであり、直径最大1又は2ミクロンである。このようなボイドはまた一般に、共振器の表面から最大1、2、3、4又は5ミクロンの位置に配置される。
【0024】
発明の主題の様々な対象、特徴、態様及び利点は、添付の図面と併せて、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、明らかになるだろう。図面では同様の数字は同様の構成部品を表す。
【0025】
本開示の技術は、共振器の1つ又は複数のモードファミリーを事前選択することを含む、多数の有利な技術的効果を提供する。
【0026】
以下の議論は、発明の主題の多数の例示的実施形態を提供する。各実施形態は、複数の発明的要素の単一の組み合わせを表すが、発明の主題は、開示されている複数の発明的要素の全ての可能な組み合わせを含むものと見做される。従って、ある実施形態が要素A、B及びCを含み、第2の実施形態がB及びDを含む場合、発明の主題は、明示的に開示されていなくても、A、B、C又はDの残りの他の組み合わせも含むものと見做される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1B】
図1Aのウィスパリングギャラリーモード共振器の断面図である。
【
図3A】キャビティによって改造されたウィスパリングギャラリーモード共振器のあるセクションの拡大断面図である。
【
図4A】ボイドによって改造されたウィスパリングギャラリーモード共振器のあるセクションの拡大断面図である。
【
図5】共振器の外側表面の2つの側部を削り落とすことによって改造された、WGM共振器の側面図である。
【
図6】上記外側表面の複数のセクションを削り落とすことによって改造された、WGM共振器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の主題は、モノリシック共振器を改造することによって、上記共振器の1つ又は複数のモードファミリーの品質を低下させる、装置、システム及び方法を提供する。
【0029】
WGM共振器は、光透過性非線形材料内での持続波(cw)光の有意な集束を可能とするため、非線形光学、オプトメカニクス及びマイクロ波フォトニクスにおいて広範に使用される。高QファクタWGM共振器の低電力外部cwポンピングにより、共振器のモード容積内で循環する光のGW/cm
2強度が得られる。
図1A及び1Bでは、WGM共振器110が示されており、これは各光路112、114及び116を有し、これらはそれぞれ1つのモードファミリーを表す。各モードファミリーは、
図1Aに示すようなウィスパリングギャラリーの外周に沿って共振し、上記光路に沿って共振する光波のQファクタを増大させる。
図1を見ると、各モードファミリーが同一の光路を共有しているように見えるが、
図1Bは、各光路112、114及び116が重なっておらず、互いの上下に配置されていることを示す。
【0030】
WGM共振器は一般に、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、溶融シリカ、窒化ケイ素又はサファイア繊維等のいずれの光透過性材料の、円筒形プリフォームから形成される。ここで上記円筒形プリフォームは、共振器の所望の直径に等しい直径を有するように選択してよい。異なるモードファミリーの光路の配置は、数学的に又は経験的に決定してよく、
図1Bに示されているものと同様の視野を示すユーザインタフェースをユーザに対して示すことができ、これによりユーザは、劣化させるべきモードファミリーを選択できる。
【0031】
図2A及び2Bは、側部211、212、213、
及び214を有する全内部反射共振器の形態のモノリシック共振器210の代替実施形態を示す。側部211、212、
及び213は一般に、反射性となるように処理され、その一方で側部214は半反射性となるように処理される。考えられる処理としては、絶縁性反射性及び半反射性材料で表面をコーティングすることが挙げられるが、このようなコーティングは必須ではない。これにより、側部211を通ってモノリシック共振器に入る光がキャビティ内で確実に共振し、半反射性表面214を通って出る前に、強め合う干渉によって共振する光波のQファクタを増大させる。あるモードファミリーの光路216は、壁212で反射するものとして示されており、別のモードファミリーの光路217は、壁213で反射するものとして示されている。
【0032】
光路112、114、116、216又は217のいずれに沿った屈折率を変化させることにより、該光路に沿って共振するモードファミリーを劣化させることができる。光路の多数の部分が十分に劣化すると、該モードファミリー内の波のQファクタは有意に、場合によっては3〜5桁も低下し得る。光路112の品質を劣化させるために、例えば
図1Bに示す共振器110の頂部の屈折率を変化させることができる。共振器210に関しては、光路216の品質を劣化させるために、壁212の、光が反射する部分の屈折率を変化させることができる。
【0033】
上述のように、モノリシック共振器の屈折率は複数の方法で変化させることができる。
図3A及び3Bでは、WGM共振器110の部分118を改造することによって、共振器310が形成されている。共振器310は、光路114の品質を維持したまま、光路112及び116の品質を劣化させるために形成されたものである。
図3Aでは、WGM共振器の表面の複数の部位をスコーリングすることによって、隆起312が共振器110の表面に形成されている。このスコーリングは様々な方法で、例えば工具の鋭利な先端を用いて又はレーザ光によって、共振器が旋盤上で回転するに従って材料を切除することにより、実施できる。微小隆起及び微小溝のサブ波長は、材料の屈折率の低下に等しい。光路314に沿った表面は平滑なままとし、これにより、該モードファミリー内の光波の品質が、光路312及び316それぞれに沿って生成される光波の品質より数桁高くなることが保証される。平滑な表面及び粗い表面は、
図3Bにおいて比較的容易に確認でき、この
図3Bは、光路114が、複数のキャビティがスコーリングされている表面312とは異なり、表面314に沿って平滑なままである様子を示している。
【0034】
共振器の高さ、上記隆起を包含する帯状部の幅、並びに各隆起の厚さ及び深さを調整することによって、モード特性を設計できる。隆起は一般に、材料内に屈折率が比較的低い領域を形成し、望ましくないモードからの光がそこから散乱する。
図3Aは、光路314に沿って生成されたモードの、数値的にシミュレートされた場の分布を示す。この実施形態では、共振器の容積内の場の強度によって示されるように、共振器310は単一のモードのみをサポートするが、複数のモードを選択できることも考えられる。例えば光路114に沿った表面をスコーリングし、その一方で光路112及び116に沿った表面は触れないままとしてよい。これにより、2つのモードが事前に選択された共振器が形成され、1つのモードのみが劣化する。
【0035】
図4A及び4Bは、局所的に改造された構造412が共振器の表面の下に形成された、代替的なWGM共振器410を示す。このような局所的に改造された構造は、ボイド、密度変移又は埋め込みであってよく、これらは、結晶性材料内に顕微鏡レベルのボイドのパターンを生成するためのフェムト秒パルスレーザの印加等、様々な方法で形成できる。これにより、上記局所的に改造された構造が形成された部位の屈折率が変化し、WGM共振器410のこれらの部分において生成されるモードファミリーの品質を激しく劣化させることができる。材料の内部に貫入して、特定の深さにエネルギを蓄積させるために、イオン注入(水素イオン注入等)も使用してよい。好ましくは、上記局所的に改造された構造は、共振器の表面の、1〜2ミクロン等の特定の深さ414内に形成される。
【0036】
上記局所的に改造された構造は、
図4Bに示されているもののような「スポット(Spots)」のパターンを形成し、これは、光路114に沿って目的のモードスペクトルを生成するよう設計される。このプロセスは、チゼル加工又はレーザアブレーション等におけるように、共振器の表面の材料を除去しないため、結晶構造の完全性をより良好に保存できる。ここでもまた、1つのモードのみが選択されているものとして示されているが、本発明の範囲から逸脱することなく、複数のモードを選択することもできる。
【0037】
図5は、表面
512に沿った光路をそのまま残しながら、表面
514及び表面
516に沿った上側光路の品質を劣化させるよう、WGM共振器
500を改造した、代替的な実施形態を示す。この実施形態では、モードの場の分布は、
図3Aに示した場の分布ほど大きく変化し得ないが、表面
514及び
516に沿って共振するモードファミリーは典型的には、少なくとも1〜2桁だけ劣化することになる。
【0038】
図6は、選択された光路
612をそのまま維持しながら、複数の光路
614の品質を劣化させるよう、WGM共振器
600を改造した、別の実施形態を示す。この実施形態では、複数のモードファミリーが選択され、集合的な局在化状態が生成される。
【0039】
図7は、
図3A及び3Bに示す共振器310の光スペクトルを示す。このモードスペクトルは、単一の高Qファクタモードに実質的に限定されており、いくつかの小さいモードのQファクタが大幅に低減されている。Qファクタの差は、WGM共振器の表面の下に形成されたボイドの数が多くなると、更に劇的なものとなる。
【0040】
本明細書中の発明的概念から逸脱することなく、上述のもの以外に更に多数の修正が可能であることは、当業者には明らかであろう。従って発明の主題は、添付の特許請求の範囲において以外に制限されないものとする。更に、明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈するにあたり、全ての用語は、文脈と矛盾しない可能な限り広範な意味で解釈されるものとする。特に用語「・・・を備える(comprises)」及び「・・・を備えた(comprising)」は、要素、構成部品又はステップに、非排他的な様式で言及するものと解釈されるものとし、これは即ち、言及された要素、構成部品又はステップが、明示的に言及されていない他の要素、構成部品若しくはステップと共に存在してよく、又は上記他の要素、構成部品若しくはステップと共に利用でき、又は上記他の要素、構成部品若しくはステップと組み合わせることができることを示している。明細書及び特許請求の範囲が、A、B、C・・・及びNからなるグループから選択されるもののうちの1つ又は複数に言及している場合、その文は、上記グループから要素を1つだけ要求し、A及びB、又はB及びN等を要求しないものとして解釈されるものとする。
【符号の説明】
【0041】
110 WGM共振器
112 光路
114 光路
116 光路
118 部分
210 モノリシック共振器
211 側部
212 側部、壁
213 側部、壁
214 側部、半反射性表面
215 側部
216 側部、光路
217 光路
310 共振器
312 隆起、光路、表面
314 光路、表面
316 光路
410 WGM共振器
412 局所的に改造された構造
414 共振器の表面の深さ
500 WGM共振器
512 表面
514 表面
516 表面
600 WGM共振器
612 光路
614 光路