(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フレキシブル基板に透明ポリイミド樹脂を適用しようとする場合、ガラス等の基板上にポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、次いでこれを加熱乾燥し、さらに前駆体をイミド化してポリイミド膜とし、必要に応じて該膜上にデバイスを形成した後、該膜を剥離して目的物を得る。
上記工程において、塗膜を形成後にこれを加熱乾燥させるに際して塗膜形成基板を乾燥設備に搬送する時に、基板を複数の支持体で支えて基板の自重によるたわみを解消させる必要がある。これは、均一な膜厚の膜を得るために必要な措置であり、特に基板が大型である場合には不可欠である。この時、塗膜のうち、支持体との接触している領域と、接触していない領域とで、熱伝導に局所的な違いが生じることになる。その結果、支持体接触部分のポリイミド樹脂膜に色ムラが生じ、均一な色味の膜が得られないという問題がある。
このような色ムラを解消し得る組成の開示は、これまでの特許文献にはない。
本発明は、上記に説明した問題点を鑑みてなされたものである。
従って本発明は、塗布乾燥時に基板と支持体との接触有無による色ムラが生じず、残留応力が小さく透明性が高い均一なポリイミド樹脂膜を与えるポリイミド前駆体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を行った。その結果、特定構造を有するポリイミド前駆体と、シリコーン系界面活性剤とを、特定の質量比で含有する樹脂組成物が上記課題を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下のとおりである:
[1] (a)下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の一価の脂肪族炭化水素基、及び芳香族基から選択され、
X
1は炭素数4〜32の4価の有機基である。}で表される構造単位を含むポリイミド前駆体100質量部、
(b)シリコーン系界面活性剤0.001〜5質量部、及び
(c)有機溶剤
を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【0007】
[2] 前記(a)ポリイミド前駆体が、下記式(2)及び(3):
【化2】
{式(3)中、X
2は炭素数4〜32の4価の有機基であり、但し、ピロメリット酸二無水物に由来する4価の有機基である場合を除く。}のそれぞれで表される構造単位を両方とも含むものである、[1]に記載の樹脂組成物。
【0008】
[3] 上記一般式(3)におけるX
2が、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び4,4’−オキシジフタル酸二無水物からなる群から選択される少なくとも1種に由来する4価の有機基である、[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 一般式(3)におけるX
2が、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物に由来する4価の有機基である、[2]又は[3]に記載の樹脂組成物。
[5] 前記(a)ポリイミド前駆体において、上記式(2)で表される構造単位と、上記式(3)で表される構造単位とのモル比が90:10〜50:50の範囲である、[2]〜[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0009】
[6] 前記(a)ポリイミド前駆体が、下記式(4):
【化3】
で表される構造単位をさらに含むものである、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0010】
[7] (a)下記式(2):
【化4】
で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a1)と、
下記式(5):
【化5】
で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a2)と
の混合物であるポリイミド前駆体100質量部、
(b)シリコーン系界面活性剤0.001〜5質量部、及び
(c)有機溶剤
を含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【0011】
[8] (a)ポリイミド前駆体において、ポリイミド前駆体(a1)と、ポリイミド前駆体(a2)とのモル比が90:10〜50:50の範囲である、[7]に記載の樹脂組成物。
[9] 前記(a)ポリイミド前駆体が、下記式(4):
【化6】
で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a3)をさらに含む混合物である、[7]又は[8]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[10] 前記(b)シリコーン系界面活性剤が、下記式(6):
【化7】
{式中、nは1以上5以下の整数を表す。}で表される構造単位を有するものである、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[11] 前記(c)有機溶剤が、沸点が170〜270℃の範囲の化合物を含むものである、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[12] 前記(c)有機溶剤が、20℃における蒸気圧が250Pa以下の化合物を含むものである、[1]〜[11]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0013】
[13] 前記(c)有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、及び下記一般式(7):
【化8】
{式中、R
3は、メチル基又はn−ブチル基である。}で表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含むものである、[1]〜[12]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[14] (d)アルコキシシラン化合物をさらに含有する、[1]〜[13]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0014】
[15] 下記一般式(9):
【化9】
{式中、X
1は炭素数4〜32の4価の有機基である。}で表される構造単位を有するポリイミド、及びシリコーン系界面活性剤を含有し、
15μm厚み換算の黄色度(YI)が20以下であり、
0.1μm厚み換算の308nmにおける吸光度が0.1以上であることを特徴とする、樹脂膜。
【0015】
[16] 下記式(10)で表される構造単位を含む樹脂膜であって、該樹脂膜についてXPSで測定されるSi原子の濃度が0.001原子%以上0.5原子%以下である、前記樹脂膜。
【化21】
[17] 下記一般式(10)で表される構造単位を含む樹脂膜であって、該樹脂膜を10cm×10cmのフィルムにして異なる5点で測定したYIの最大値と最小値との差が2以下である、前記樹脂膜。
【化22】
【0016】
[18] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を基板の表面上に塗布する塗布工程と、
塗布した樹脂組成物を乾燥し、溶媒を除去する溶媒除去工程と、
前記基板及び前記乾燥後の樹脂組成物を加熱して該樹脂組成物に含まれる樹脂前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する加熱工程と、
前記ポリイミド樹脂膜を該基板から剥離する剥離工程と、
を含むことを特徴とする、樹脂膜の製造方法。
[19] 前記剥離工程が、基板側からレーザーを照射した後に、前記ポリイミド樹脂膜を前記基板から剥離する工程を含む、[18]に記載の樹脂膜の製造方法。
【0017】
[20] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を基板の表面上に塗布する塗布工程と、
該基板及び該樹脂組成物を加熱して該樹脂組成物に含まれる該樹脂前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する加熱工程と
を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
[21] [1]〜[14]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を基板に塗布する塗布工程と、
塗布した樹脂組成物を加熱してポリイミド樹脂膜を形成する加熱工程と、
前記ポリイミド樹脂膜上に素子又は回路を形成する素子・回路形成工程と、
前記素子又は回路が形成されたポリイミド樹脂膜を該基板から剥離する剥離工程と
を含むことを特徴とする、ディスプレイ基板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗布乾燥時に基板と支持体との接触有無による色ムラが生じず、均一な、残留応力の小さいポリイミド樹脂膜を与えるポリイミド前駆体組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
((a)ポリイミド前駆体)
先ず、本実施の形態において用いられる(a)ポリイミド前駆体に関して説明する。
本実施の形態において、(a)ポリイミド前駆体は下記一般式(1)で示される構造単位を有するものである。
【0021】
【化10】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の一価の脂肪族炭化水素基、及び芳香族基から選択され、
X
1は炭素数4〜32の4価の有機基である。}
【0022】
上記式(1)中の基:
【化11】
は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンである2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)とを反応させた時のTFMBに由来する基である。
本明細書において、ジアミンに由来する基とは、該ジアミンから2つのアミノ基を除いて得られる2価の基をいう。
【0023】
前記X
1は、炭素数4〜32の4価の有機基であり、テトラカルボン酸二無水物とジアミンであるTFMBとを反応させた時のテトラカルボン酸二無水物に由来する基である。本明細書において、テトラカルボン酸二無水物に由来する基とは、該テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を除いて得られる4価の基をいう。
X
1を与える酸二無水物としては、例えば炭素数が8〜36(好ましくは炭素数10〜36)の芳香族テトラカルボン酸二無水物、炭素数が6〜36の脂環式テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0024】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−シクロヘキセン−1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)、2,3−3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(αBPDA)、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,1−エチリデン−4,4’−ジフタル酸二無水物、2,2−プロピリデン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,2−エチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,3−トリメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,4−テトラメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,5−ペンタメチレン−4,4’−ジフタル酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、チオ−4,4’−ジフタル酸二無水物、スルホニル−4,4’−ジフタル酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3−ビス[2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[2−(3,4−ジカルボキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2−ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)等が挙げられる。
【0025】
前記脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物(以下、CHDAと記す)、3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、メチレン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、1,2−エチレン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、1,1−エチリデン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、2,2−プロピリデン−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、オキシ−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、チオ−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、スルホニル−4,4’−ビス(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、rel−[1S,5R,6R]−3−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、エチレングリコール−ビス−(3,4−ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル等が挙げられる。
【0026】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体は、上記に例示したテトラカルボン酸二無水物のうち、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、及び4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)からなる群から選択される少なくとも1種と、の双方を使用して得られるものであることが好ましい。即ち、下記式(2)及び(3):
【化12】
{式(3)中、X
2は炭素数4〜32の4価の有機基であり、但しPMDAに由来する4価の有機基である場合を除く。}のそれぞれで表される構造単位を両方とも含むものであることが好ましい。上記式(2)で表される構造単位を含むことにより、得られるポリイミド樹脂膜において、線膨張係数(CTE)の低減、耐薬品性の向上、ガラス転移温度(Tg)向上、及び機械伸度の向上が見られる。上記式(3)で表される構造単位を含むことにより、得られるポリイミド樹脂膜において、黄色度の低下、複屈折率の低下、及び機械伸度の向上が見られる。式(3)中のX
2は、6FDAに由来する4価の基であることが、全光線透過率をより高くするとの観点から、特に好ましい。
【0027】
(a)ポリイミド前駆体における構造単位(2)と(3)との比(モル比)は、得られるポリイミド樹脂膜におけるCTE、残留応力、及び黄色度(YI)の観点から、(2):(3)=95:5〜40:60の範囲が好ましい。さらに、YIの観点からは、(2):(3)=90:10〜50:50の範囲がより好ましく、CTE及び残留応力の観点からは、(2):(3)=95:5〜50:50の範囲がより好ましい。上記構造単位(2)と(3)との比は、例えば、
1H−NMRスペクトルから求めることができる。
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【0028】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物として、3,3’−4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(sBPDA)及び2,3−3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸(αBPDA)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに使用して得られたものであることが好ましい。即ち、該(a)ポリイミド前駆体は、上記式(2)及び(3)のそれぞれで表される構造単位の他、下記式(4):
【化13】
で表される構造単位をさらに含むものであることが特に好ましい。(a)ポリイミド前駆体が上記式(4)で表される構造単位を含むことにより、ガラス基板の反り低減、黄色度の低下、耐薬品性の向上、Tg向上、及び機械伸度の向上が見られることの他、基板から樹脂膜をレーザーで剥離する場合の必要照射エネルギーが低減する傾向にある。
【0029】
上記式(4)で表される構造単位の割合は、(a)ポリイミド前駆体中のX
1の全部に対して80mol%以下であることが好ましく、より好ましくは70mol%以下である。このことにより、イミド化後に得られるポリイミド樹脂膜において、液晶化による白濁が抑制される観点から好ましい。
上記式(4)で表される構造単位の割合は、a)ポリイミド前駆体中のX
1の全部に対して5mol%以上であれば、該構造単位を導入することの効果が好ましく発現される。
【0030】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体は、必要に応じて、性能を損なわない範囲で、下記一般式(8):
【化14】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の一価の脂肪族炭化水素、及び芳香族基であり、
X
1は炭素数4〜32の4価の有機基であり、
Y
1は炭素数4〜32の2価の有機基であり、但し、
式(8)が上記式(1)〜(4)のいずれかに該当する場合は除かれる。}で表される構造単位をさらに含有してもよい。
【0031】
前記Y
1は、炭素数4〜32の2価の有機基であり、テトラカルボン酸酸二無水物とジアミンとを反応させた時の、ジアミンに由来する基である。このようなY
1を与えるジアミンとしては、脂環式ジアミン、及び芳香族ジアミン(但しTFMBを除く。)が挙げられる。これらのジアミンは1種用いても2種以上を用いてもかまわない。
【0032】
前記脂環式ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(MBCHA)、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルシクロヘキシルメタン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン(CHDA)、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4’−ジアミノシクロヘキシル)プロパン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,3−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,7−ジアミノビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)−トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカン等の他、後述する芳香族ジアミンの水素添加体等が挙げられる。
【0033】
前記芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレンジアミン(PDA)、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、ベンジジン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(o−トリジン)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−トリジン、mTB)、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3−ジメトキシ−4,4−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4−DAS)、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン、1,3−ビス[2−(4−アミノフェノキシエトキシ)]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)フルオレン、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(P−TPEQ)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシフェニル)]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4―(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、o−トリジンスルホン等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(mTB)、パラフェニレンジアミン(PDA)、及び1,4−ジアミノシクロヘキサン(CHDA)からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが、線膨張係数(CTE)の低減、ガラス転移温度(Tg)の向上、及び機械伸度の向上の観点から好ましく;
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)及び2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが、耐薬品性の観点から好ましく;
PDA、mTB、及び3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(HAB)からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することがガラス基板の反り低減の観点から好ましく;そして
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(MBCHA)、CHDA、及び4,4−ジアミノジフェニルスルフォン(4,4−DAS)からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが、黄色度低下及び全光線透過率の向上の観点から好ましい。
【0035】
前記X
1は、炭素数4〜32の4価の有機基であり、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させた時のテトラカルボン酸二無水物に由来する基である。このようなX
1を与える酸二無水物としては、上記一般式(1)において例示したテトラカルボン酸二無水物のうち、PMDA、ODPA、6FDA、sBPDA、及びαBPDA以外のものが挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は1種用いても2種以上を用いてもかまわない。
【0036】
本実施の形態において、上記一般式(8)で表される構造単位の割合は、(a)ポリイミド前駆体の全部に対して、80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは70質量%以下である。このことが、YI値及び全光線透過率の酸素濃度依存性の双方が低下する観点から好ましい。
【0037】
また、本実施形態における(a)ポリイミド前駆体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。(a)ポリイミド前駆体として、2種以上を用いる場合、上記式(2)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a1)と、上記式(3)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a2)とを用いて混合して用いることが好ましい。ポリイミド前駆体(a1)を含むことにより、得られるポリイミド樹脂膜において、CTEの低減、耐薬品性の向上、ガラス転移温度(Tg)向上、及び機械伸度の向上が見られる。ポリイミド前駆体(a2)を含むことにより、黄色度の低下、複屈折率の低下、及び機械伸度の向上が見られる。
ポリイミド前駆体(a2)における上記式(3)で表される構造単位は、下記式(5):
【化15】
で表される構造単位であることが好ましい。
ここで、ポリイミド前駆体(a1)は、上記式(3)で表される構造単位を持たないことが好ましく、
ポリイミド前駆体(a2)は、上記式(2)で表される構造単位を持たないことが好ましい。
【0038】
前記(a)ポリイミド前駆体におけるポリイミド前駆体(a1)とポリイミド前駆体(a2)との混合比としては、得られるポリイミド樹脂膜のCTE、残留応力、及びYIの観点から構造単位(2)及び(3)の割合として、(2):(3)=95:5〜40:60の範囲となる混合比が好ましい。YIの観点からは、(2):(3)=90:10〜50:50の範囲がより好ましく、CTE及び残留応力の観点からは、(2):(3)=95:5〜50:50の範囲がより好ましい。
上記式(2)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a1)と上記(3)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a2)との混合比は、例えば、
1H−NMRスペクトルから求めることができる。
【0039】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体としては、上記のポリイミド前駆体(a1)及びポリイミド前駆体(a2)に加えて、上記式(4)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a3)をさらに混合して用いることが特に好ましい。
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体が上記式(4)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(a3)を含むことにより、ガラス基板の反り低減、黄色度の低下、耐薬品性の向上、Tg向上、及び機械伸度の向上が見られることの他、基板から樹脂膜をレーザーで剥離する場合の必要照射エネルギーが低減する傾向にある。
【0040】
ポリイミド前駆体(a3)の割合は、テトラカルボン酸二無水物に換算した値として、好ましくは(a)ポリイミド前駆体を構成する全テトラカルボン酸二無水物中の80mol%以下に相当する量であり、より好ましくは70mol%以下に相当する量であることが、イミド化後に得られるポリイミド樹脂膜において、液晶化による白濁が抑制される観点から好ましい。
ポリイミド前駆体(a3)は、テトラカルボン酸二無水物に換算した値として、は(a)ポリイミド前駆体を構成する全テトラカルボン酸二無水物中の5mol%以上に相当する量を混合使用することにより、該前駆体を使用することの効果が好ましく発現される。
【0041】
本実施形態における(a)ポリイミド前駆体の分子量は、重量平均分子量Mwとして、10,000〜500,000が好ましく、10,000〜300,000がより好ましく、20,000〜200,000が特に好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると、塗布した樹脂組成物を加熱して形成される樹脂膜におけるクラックの発生を抑えられる傾向にあり好ましい。一方、重量平均分子量が500,000以下であると、ポリアミド酸の合成時に重量平均分子量をコントロールすることが容易になり、また適度な粘度の樹脂組成物を得ることが容易となるため好ましい。本実施の形態における重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算により求められる値である。
【0042】
本実施の形態における(a)ポリイミド前駆体の数平均分子量Mnは、3,000〜250,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜200,000、さらに好ましくは7,000〜180,000、特に好ましくは10,000〜150,000である。該分子量Mnが3,000以上であることが、耐熱性及び強度(例えば強伸度)を良好に得る観点で好ましく、250,000以下であることが、溶媒への溶解性を良好に得る観点、及び塗工等の加工の際に所望する膜厚にて滲み無く塗工できる観点から好ましい。高い機械伸度を得る観点からは、分子量Mnは50,00以上であることが好ましい。本実施の形態においける数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算により求められる値である。
【0043】
好ましい態様において、(a)ポリイミド前駆体は、その一部がイミド化されていてもよい。(a)ポリイミド前駆体の一部をイミド化することにより、該ポリイミド前駆体溶液の粘度安定性を向上することができる。イミド化率の範囲としては、5%〜70%の範囲とすることが、溶液への(a)ポリイミド前駆体の溶解性と溶液の保存安定性とのバランスをとる観点から好ましい。
【0044】
((a)ポリイミド前駆体の製造方法)
本発明のポリイミド前駆体は、従来公知の合成方法により製造することができる。例えば、溶媒に所定量のTFMBを溶解させて得られたジアミン溶液に、テトラカルボン酸二無水物又はその混合物を所定量添加し、所定の反応温度において所定の時間撹拌することにより得ることができる。
溶媒中にモノマー成分を溶解させる時には、必要に応じて加熱してもよい。反応温度は−30〜200℃が好ましく、20〜180℃がより好ましく、30〜100℃が特に好ましい。上記反応温度における撹拌の後、室温(20〜25℃)又は適当な反応温度で撹拌を続け、GPCで所望の分子量になったことを確認した時点を反応の終点とする。上記反応は、通常3〜100時間で完了できる。
本実施の形態においては上述のようにして得られた(a)ポリイミド前駆体に、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール又はN,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタールのようなエステル化剤を加えて加熱して、(a)ポリイミド前駆体中のカルボキシル基の一部又は全部をエステル化することにより、該ポリイミド前駆体と溶媒とを含む溶液の室温保管時の粘度安定性を向上することができる。これらエステル変性ポリイミド前駆体は、上記の方法の他に、例えば、上述のテトラカルボン酸無水物を予め酸無水物基に対して1当量の1価のアルコールと反応させ、次いで塩化チオニルやジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤と反応させた後に、ジアミンと縮合反応させることによっても得ることができる。
【0045】
本実施の形態の好ましい態様においては、上記溶媒はそのまま樹脂組成物における(c)有機溶媒となる。
上記溶媒としては、ジアミン、テトラカルボン酸類、及び生じたポリアミド酸を溶解することのできる溶媒であれば特に制限されない。このような溶媒の具体例としては、例えば、非プロトン性溶媒、フェノ−ル系溶媒、エーテル系溶媒、グリコ−ル系溶媒等が挙げられる。
【0046】
具体的には、非プロトン性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、下記一般式(7):
【化16】
{式中、R
3は、メチル基又はn−ブチル基である。}で表される化合物等のアミド系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含りん系アミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ピコリン、ピリジン等の3級アミン系溶媒;酢酸(2−メトキシ−1−メチルエチル)等のエステル系溶媒等が挙げられる。上記一般式(7)で表される化合物は、R
3がメチル基のものがエクアミドM100(商品名:出光興産社製)として、R
3がn−ブチル基のものがエクアミドB100(商品名:出光興産社製)として、それぞれ市販されている。
【0047】
フェノ−ル系溶媒としては、フェノ−ル、o−クレゾ−ル、m−クレゾ−ル、p−クレゾ−ル、2,3−キシレノ−ル、2,4−キシレノ−ル、2,5−キシレノ−ル、2,6−キシレノ−ル、3,4−キシレノ−ル、3,5−キシレノ−ル等が挙げられる。エ−テル系溶媒及びグリコ−ル系溶媒としては、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エ−テル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス[2− (2−メトキシエトキシ)エチル]エ−テル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0048】
本実施の形態における溶媒としては、常圧における沸点が60〜300℃の範囲の化合物を含むことが好ましく、140〜280℃の範囲の化合物を含むことがより好ましく、170〜270℃の範囲の化合物を含むことが特に好ましい。沸点が300℃以下の溶媒を含むと、乾燥工程が短時間となる傾向にあるため好ましく、沸点が60℃以上の溶媒を含むと、乾燥工程において得られる樹脂膜の表面が均一となり、樹脂膜中の気泡の発生が抑制される傾向にあり、好ましい。従って、溶媒における上記沸点範囲にある化合物の含有割合は高いほうが好ましく、例えば全溶媒中の50質量%以上であることができ、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。もっとも好ましくは、上記溶媒のすべて(100質量%)が上記沸点範囲にある化合物のみから成る場合である。
【0049】
このように、溶剤の沸点が170〜270℃であること、及び20℃における蒸気圧が250Pa以下であることが、良好な溶解性、及び塗工時のエッジはじきを抑制するとの観点から好ましい。より具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、エクアミドM100、エクアミドB100等が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0050】
((b)シリコーン系界面活性剤)
次に、本実施の形態において用いられる(b)シリコーン系界面活性剤に関して説明する。
本実施の形態において、シリコーン系界面活性剤は、非極性部位としてジシロキサン(−Si−O−Si−)構造を有しているものであれば特に限定されない。しかしながら、非極性部位として分子内に1個以上1,000個以下の−Si−O−Si−結合を有し、極性部位として分子内に1個以上100個以下のポリエーテル基、水酸基、力ルボキシル基、エステル基、又はスルホ基を有するシリコーン系界面活性剤であることが好ましい。
【0051】
本実施の形態において、(b)シリコーン系界面活性剤における非極性部位である1分子内の−Si−O−Si−結合の数は、
(a)ポリイミド前駆体との極性の違いを発現するために、好ましくは1個以上であり;
(a)ポリイミド前駆体との均一な膜形成性の観点から、好ましくは1,000個以下、より好ましくは500個以下、さらに好ましくは100個以下である。
【0052】
本実施の形態において、(b)シリコーン系界面活性剤における極性部位である1分子内のポリエーテル基、水酸基、カルボキシル基、エステル基、又はスルホ基の数は、
無機基板との親和性の観点から、好ましくは1個以上であり;
耐熱性の観点から、好ましくは100個以下、より好ましくは70個以下、さらに好ましくは50個以下である。
【0053】
本実施の形態において、(b)シリコーン系界面活性剤は、下記式(6):
【化17】
{式中、nは1以上5以下の整数を表す。}で表されるポリエーテル基構造を有することが、支持体との接触有無により生じる色ムラがより小さくなる傾向があることから、特に好ましい。
【0054】
このような(b)シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(POE)変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(POE・POP)変性オルガノポリシロキサン、POEソルビタン変性オルガノポリシロキサン、POEグリセリル変性オルガノポリシロキサン、POEポリエステル変性オルガノポリシロキサン等の、親水基で変性されたオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0055】
具体例としては、例えば、オルガノシロキサンポリマーKF−640、KF−642、KF−643、KP341、X−70−092、X−70−093、KBM303、KBM403、KBM803(以上、商品名、信越化学工業社製)、SH−28PA、SH−190、SH−193、SZ−6032、SF−8428、DC−57、DC−190(以上、商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、SILWET L−77,L−7001,FZ−2105,FZ−2120,FZ−2154,FZ−2164,FZ−2166,L−7604(以上、商品名、日本ユニカー社製)、DBE−814、DBE−224、DBE−621、CMS−626、CMS−222、KF−352A、KF−354L、KF−355A、KF−6020、DBE−821、DBE−712(Gelest)、BYK−307、BYK−310、BYK−313、BYK−378、BYK−333(以上、商品名、ビックケミー・ジャパン製)、ポリフローKL−100、ポリフローKL−401、ポリフローKL−402、ポリフローKL−700、グラノール(以上、商品名、共栄社化学社製)、等が挙げられる。
【0056】
本実施の形態における(b)シリコーン系界面活性剤の配合量は、樹脂組成物中の(a)ポリイミド前駆体100質量部に対して、0.001〜5質量部が好ましく、0.001〜3質量部がより好ましい。(b)シリコーン系界面活性剤を0.001質量部以上添加することにより、色ムラのない均一な樹脂膜を得ることができ、5質量部以下の添加量とすることにより、該界面活性剤の凝集による樹脂膜の白化を抑制することができる。
【0057】
((c)有機溶剤)
本実施の形態における(c)有機溶剤は、上記の(a)ポリイミド前駆体及び(b)シリコーン系界面活性剤、並びに使用する場合にはさらに後述の(d)アルコキシシラン化合物を溶解できるものであれば特に制限はない。このような有機溶剤としては上記(a)ポリイミド前駆体の製造時に用いることのできる溶媒を用いることができる。従って、該(c)有機溶媒は、沸点が170〜270℃の範囲の化合物を含むものであることが好ましく、20℃における蒸気圧が250Pa以下の化合物を含むものであることが好ましく、
N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、及び上記一般式(6)で表される化合物から成る群より選択される少なくとも一種の化合物を含むものであることが好ましい。
【0058】
(c)有機溶剤は、(a)ポリイミド前駆体の製造時に用いられる溶媒と同一でも異なってもよい。
(c)有機溶媒の使用割合としては、樹脂組成物における固形分濃度が3〜50質量%となる量とすることが好ましい。(c)有機溶媒は、樹脂組成物の粘度(25℃)が500mPa・s〜100,000mPa・sとなるように調整された量において使用することが好ましい。
【0059】
((d)アルコキシシラン化合物)
本実施の形態における樹脂組成物は、その他の成分として(d)アルコキシシラン化合物を含有することができる。樹脂組成物が(d)アルコキシシラン化合物を含有することにより、かかる樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂膜に、フレキシブルデバイス等の製造プロセスにおいて使用される基板との間に十分な密着性を付与することができ、樹脂組成物の塗工性(スジムラ抑制)を向上するとともに、得られるポリイミド樹脂膜のYI値のキュア時酸素濃度依存性を低下させることができる。
【0060】
本実施の形態において、(d)アルコキシシラン化合物は、(a)ポリイミド前駆体100質量%に対して、0.01〜20質量%を含有することが好ましい。(a)ポリイミド前駆体100質量%に対する(d)アルコキシシラン化合物の含有量が0.01質量%以上であることにより、基板との間に良好な密着性を得ることができる。(d)アルコキシシラン化合物の含有量が20質量%以下であることが、樹脂組成物の保存安定性の観点から好ましい。(d)アルコキシシラン化合物の含有量は、(a)ポリイミド前駆体100質量部に対して、0.02〜15質量%であることがより好ましく、0.05〜10質量%であることがさらに好ましく、0.1〜8質量%であることが特に好ましい。
【0061】
上記(d)アルコキシシラン化合物としては、例えば、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、γ−アミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノエチルトリプロポキシシラン、γ−アミノエチルトリブトキシシラン、γ−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノブチルトリメトキシシラン、γ−アミノブチルトリプロポキシシラン、γ−アミノブチルトリブトキシシラン、フェニルシラントリオール、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(p−トリル)シラン、ジフェニルシランジオール、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジメトキシジ−p−トリルシラン、トリフェニルシラノール、下記構造のそれぞれで表されるアルコキシシラン化合物等を挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0063】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施の形態における樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法によることができる。
【0064】
(a)ポリイミド前駆体を合成した際に用いた溶媒と、(c)有機溶剤とが同一の場合には、(a)ポリイミド前駆体の合成溶液に(b)シリコーン系界面活性剤及び必要に応じてその他の成分の1種以上を添加し、0℃〜100℃の温度範囲で攪拌混合することにより、製造することができる。この攪拌混合の時は、例えば、撹拌翼を備えたスリーワンモータ(新東化学株式会社製)、自転公転ミキサー等の適宜の装置を用いることができる。
【0065】
一方、(a)ポリイミド前駆体を合成した際に用いた溶媒と、(c)有機溶剤とが異なる場合には、合成したポリイミド前駆体の合成溶液中の溶媒を、例えば再沈殿、溶媒留去等の適宜の方法により除去して(a)ポリイミド前駆体を単離した後に、(c)有機溶剤を添加して再溶解させ、その後で(b)シリコーン系界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加し、0℃〜100℃の温度範囲で攪拌混合することにより、製造することができる。
【0066】
本実施の形態においては、例えば、130〜200℃において5分〜2時間加熱することにより、ポリマーが析出を起こさない程度に加熱処理を行い、(a)ポリイミド前駆体の一部を脱水イミド化してもよい。ここで、加熱温度及び加熱時間のコントロールにより、イミド化率を制御することができる。(a)ポリイミド前駆体を部分イミド化することにより、樹脂組成物の室温保管時の粘度安定性を向上することができる。イミド化率の範囲としては、上述のとおり5%〜70%とすることが、樹脂組成物溶液へのポリイミド前駆体の溶解性と溶液の保存安定性とのバランスをとる観点から好ましい。本実施の形態において、加熱処理の段階は(b)シリコーン系界面活性剤及びその他の成分を添加する段階の前後どちらでもかまわないが、添加する前の段階で実施することがより好ましい。
【0067】
本実施の形態にかかる樹脂組成物は、該樹脂組成物を保存する時の粘度安定性の観点から、その水分量が3,000質量ppm以下であることが好ましく、1,000質量ppm以下であることがより好ましく、500質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0068】
本実施の形態にかかる樹脂組成物の溶液粘度は、25℃において、500〜200,000mPa・sが好ましく、2,000〜100,000mPa・sがより好ましく、3,000〜30,000mPa・sが特に好ましい。この溶液粘度は、E型粘度計(例えば、東機産業株式会社製のVISCONICEHD等)を用いて測定できる。溶液粘度が500mPa・s以上であれば、膜形成の際の塗布が容易になる傾向にあるため好ましく、溶液粘度が200,000mPa・s以下であれば、ポリイミド前駆体の合成及び樹脂組成物の調製の際に、撹拌が容易になる傾向にある。
(a)ポリイミド前駆体を合成する際に溶液が高粘度になったとしても、反応終了後に溶媒を添加して希釈することにより、取扱い性のよい粘度の樹脂組成物を得ることが可能である。
【0069】
本実施の形態にかかる樹脂組成物は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置の透明基板を形成するために好適に用いることができる。具体的には、薄膜トランジスタ(TFT)の基板、カラーフィルタの基板、透明導電膜(ITO、IndiumThinOxide)の基板等を形成するために用いることができる。
【0070】
<樹脂膜及びその製造方法>
本発明の別の態様は、前述の樹脂組成物から形成された樹脂膜(ポリイミド樹脂膜)を提供する。
また、本発明のさらに別の態様は、前述の樹脂組成物から樹脂膜を製造する方法を提供する。
本実施の形態における樹脂膜は、
前述の樹脂組成物を基板の表面上に塗布する工程(塗布工程)と、
塗布した樹脂組成物を乾燥し、溶媒を除去する工程(溶媒除去工程)と、
前記樹脂組成物を加熱して、該樹脂組成物に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
前記ポリイミド樹脂膜を該基板から剥離する工程(剥離工程)と、
を含むことを特徴とする。
【0071】
ここで、基板は、その後の工程の乾燥温度に耐える耐熱性を有し、剥離性が良好であれば特に限定されない。例えば、ガラス(例えば、無アルカリガラス)基板;
シリコンウェハー;
PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂基板;
ステンレス、アルミナ、銅、ニッケル等の金属基板等が用いられる。
【0072】
塗布工程における塗布方法としては、例えば、ドクターブレードナイフコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、バーコーター等を用いる塗布方法;スピンコート、スプレイコート、ディップコート等の塗布方法;スクリーン印刷及びグラビア印刷に代表される印刷技術等を適用することができる。
本実施の形態において、その塗布厚は、所望の樹脂膜の厚さと樹脂組成物中の(a)ポリイミド前駆体の含有量に応じて適宜調整されるべきものである。好ましくは、溶媒除去後の膜厚として、1〜1,000μm程度である。塗布工程は、室温で実施されることが好ましいが、樹脂組成物の粘度を下げて作業性を良くする目的で、40〜80℃の温度範囲に加温して実施してもよい。
【0073】
上記塗布工程に続いて、溶媒除去工程を行ってもよいし、溶媒除去工程を省略して直接次の加熱工程に進んでもよい。
この溶媒除去工程は、樹脂組成物中の(c)有機溶剤を除去する目的で行われる。溶媒除去工程を行う場合、例えば、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の適宜の装置を利用することができる。溶媒除去工程は、80〜200℃で行うことが好ましく、100〜150℃で行うことがより好ましい。溶媒除去工程の実施時間は、1分〜10時間とすることが好ましく、3分〜1時間とすることがより好ましい。上記のようにして、基板上にポリイミド前駆体を含有する塗膜が形成される。
【0074】
続いて、加熱工程を行う。加熱工程は、上記の溶媒除去工程を経由した後に樹脂膜中に残留した有機溶剤の除去を行うとともに、塗膜中のポリイミド前駆体のイミド化反応を進行させ、ポリイミドから成る膜を得る工程である。
この加熱工程は、例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の装置を用いて行うことができる。この工程は前記溶媒除去工程と同時に行ってもよいし、両工程を逐次的に行ってもよい。
加熱工程は、空気雰囲気下で行ってもよいが、安全性と、得られるポリイミド樹脂膜の透明性及びYI値と、の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0075】
加熱工程における加熱温度は、(c)有機溶剤の種類に応じて適宜に設定されてよいが、250℃〜550℃が好ましく、300〜450℃がより好ましい。この温度が250℃以上であればイミド化が十分に進行する傾向にあり、550℃以下であれば、得られるポリイミド樹脂膜の透明性が高く、耐熱性が高くなる傾向にある。加熱時間は0.5〜3時間程度とすることが好ましい。
本実施の形態では、上記の加熱工程における周囲雰囲気の酸素濃度は、得られるポリイミド樹脂膜の透明性を高く、YI値を低くする観点から、2,000質量ppm以下が好ましく、100質量ppm以下がより好ましく、10質量ppm以下が更に好ましい。
【0076】
この乾燥工程において、特に基板サイズが大きい際には、基板を平坦にし、得られる樹脂膜の厚みを均一にするために、基板の複数個所を適当な支持体により支える必要がある。この場合、支持体と接触する領域と、それ以外の領域との間で、乾燥環境が異なることとなる。そのため、塗膜内部で局所的な乾燥速度の差異に起因する対流が発生し、最終的に得られる樹脂膜に色ムラが発生することがある。一方、本実施の形態においては、基板と支持体との接触有無によって局所的な乾燥環境が異なっても、最終的に得られる樹脂膜に色ムラは発生しない。これは、樹脂組成物中の(b)シリコーン系界面活性剤のうちの、親水性部分(例えばポリエーテル部位)が(a)ポリイミド前駆体のアミド酸部位に集まり、シリコーン部分が塗膜と周囲雰囲気(例えば空気、窒素等)との界面に集まることにより、乾燥速度の差異に起因する対流を抑制していることによると推察される。
従来の透明性の低いポリイミド樹脂では、色ムラについての課題は顕在化していなかった。本実施の形態では、透明性の高い樹脂膜について、色ムラのない樹脂膜が得られる。
透明性を向上させるために構成単位としてTFMBを含むポリアミド酸については、後述する実施例及び比較例から理解されるように、色ムラ抑制については、フッ素系界面活性剤では効果がなく、シリコーン系界面活性剤により達成される。
【0077】
ポリイミド樹脂膜の使用用途・目的によっては、上記加熱工程の後、基板から樹脂膜を剥離する剥離工程が必要となる。この剥離工程は、基板上の樹脂膜を、室温〜50℃程度まで冷却した後に、実施することが好ましい。
この剥離工程としては、例えば下記の(1)〜(4)の態様が挙げられる。
【0078】
(1)前記方法により、基板と、該基板上に形成されたポリイミド樹脂膜から成る積層体を得た後、該積層体の基板側からレーザーを照射して、基板とポリイミド樹脂膜との界面をアブレーション加工することにより、ポリイミド樹脂を剥離する方法。
上記レーザーの種類としては、例えば固体(YAG)レーザー、ガス(UVエキシマー)レーザー等が挙げられる。波長308nm等のスペクトルを用いることが好ましい(特表2007−512568号公報、特表2012−511173号公報等を参照)。
(2)基板に樹脂組成物を塗工する前に、基板上に剥離層を形成し、その後に基板上に剥離層及びポリイミド樹脂膜がこの順に積層された積層体を得て、しかる後にポリイミド樹脂膜を剥離する方法。
上記剥離層としては、例えばパリレン(登録商標、日本パリレン合同会社製)又は酸化タングステンを用いる方法;植物油系、シリコーン系、フッ素系、アルキッド系等の離型剤を用いる方法等が挙げられる(特開2010−67957号公報、特開2013−179306号公報等を参照)。
この方法(2)と前記(1)のレーザー照射とを併用してもよい。
【0079】
(3)基板としてエッチング可能な金属基板を用いて、該金属基板と、該金属基板上に形成されたポリイミド樹脂膜から成る積層体を得た後、エッチャントを用いて金属をエッチングすることにより、ポリイミド樹脂膜を得る方法。
上記金属としては、例えば、銅(具体例としては、三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔「DFF」)、アルミニウム等を使用することができる。エッチャントとしては、銅に対しては塩化第二鉄等を、アルミニウムに対しては希塩酸等を、それぞれ使用することができる。
(4)前記方法により、基板と、該基板上に形成されたポリイミド樹脂膜から成る積層体を得た後、該ポリイミド樹脂膜表面に粘着フィルムを貼り付けて、基板から粘着フィルム/ポリイミド樹脂膜を分離し、その後粘着フィルムからポリイミド樹脂膜を分離する方法。
【0080】
これらの剥離方法の中でも、得られる樹脂膜の表裏の屈折率差、YI値、及び伸度の観点から、方法(1)又は(2)が適切であり、得られる樹脂膜の表裏の屈折率差の観点から方法(1)がより適切である。
なお、方法(3)において、基板として銅を用いた場合は、得られる樹脂膜のYI値が大きくなり、伸度が小さくなる傾向が見られる。これは、銅イオンの影響であると考えられる。
【0081】
上記の方法によって得られる樹脂膜の厚さは、特に限定されないが、1〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜100μmである。
【0082】
本実施の形態における樹脂膜は、15μm厚み換算におけるYIが20以下であり、面内に色ムラがなく、0.1μm厚みにおける308nmでの吸光度が0.1以上であることを特徴とする。このような特性は、例えば、本実施の形態における樹脂組成物を、窒素雰囲気下(例えば、より好ましくは、酸素濃度2,000ppm以下の環境下窒素中で)、好ましくは250℃〜550℃、より好ましくは300℃〜450℃において、5分〜10時間の加熱工程を経由してイミド化することにより、良好に実現される。
【0083】
本実施の形態における樹脂膜は、前述の樹脂組成物に含有されていた(a)ポリイミド前駆体が熱イミド化されたポリイミドと、該樹脂組成物に含有されていた(b)シリコーン系界面活性剤を含有する膜である。従って、下記一般式(9)
【化19】
{式中、X
1は炭素数4〜32の4価の有機基である。}で表される構造単位を有有するポリイミド、及びシリコーン系界面活性剤を含有し、前述のように、好ましくは、15μm厚み換算におけるYIが20以下であり、面内に色ムラがなく、0.1μm厚み換算の308nmにおける吸光度が0.1以上である。
この樹脂膜は、上記のポリイミド及びシリコーン系界面活性剤以外に、上述の(d)アルコキシシラン化合物をさらに含有していてもよい。
【0084】
本実施の形態における樹脂膜は、下記一般式(10)で表される構造単位を含む樹脂膜であって、該樹脂膜を10cm×10cmのフィルムに成形して異なる5点で測定したYIの最大値と最小値との差が2以下である。
【化23】
YIの最大値とYI値の差は、好ましくは1.5以下であり、1.0以下が特に好ましい。
YIの最大値と最小値との差が2以下であることにより、後述するフレキシブルデバイスを製造する際に良好な性能を発揮することができる。この場合のYI値は、15μm厚み換算値である。
樹脂膜を10cm×10cmのフィルムに成形するには、大きいサイズで成形した樹脂膜を10cm×10cmの大きさに切り出す方法が好ましい。
【0085】
本実施の形態における樹脂膜は、上記一般式(10)で表される構造単位を含む樹脂膜であって、該樹脂膜についてXPSで測定されるSi原子の濃度が0.001原子%以上0.5原子%以下である。
Si原子の濃度は、後述するXPS測定方法により求めることができる。Si原子の濃度は、0.001〜0.5原子%が好ましく、0.001〜3原子%がより好ましい。
【0086】
<積層体及びその製造方法>
本発明の別の態様は、基板と、該基板の表面上に前述の樹脂組成物から形成されたポリイミド樹脂膜とを含む、積層体を提供する。
本発明の更に別の態様は、上記積層体の製造方法を提供する。
【0087】
本実施の形態における積層体は、
基板の表面上に、前述の樹脂組成物を塗布する工程(塗布工程)と、
前記塗布した樹脂組成物を加熱して、該樹脂組成物中に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
を含む、積層体の製造方法によって得ることができる。
上記の積層体の製造方法は、例えば、剥離工程を行わないことの他は、前述の樹脂膜の製造方法と同様にして実施することができる。
【0088】
この積層体は、例えば、フレキシブルデバイスの製造に好適に用いることができる。
更に詳細に説明すると、以下の通りである。
【0089】
フレキシブルディスプレイを形成する場合、ガラスを基板として用いて、その上にフレキシブル基板を形成し、必要に応じてフレキシブル基板上に水蒸気及び酸素の侵入を防ぐバリア層を形成し、更にその上にTFT等の形成を行う。フレキシブル基板上にTFT等を形成する工程は、典型的には、150〜650℃の広い範囲の温度において実施される。しかし、現実に所望される性能を具現するためには、250℃〜450℃程度の高温において、無機物材料を用いて、TFT−IGZO(InGaZnO)酸化物半導体又はTFT(a−Si−TFT、poly−Si−TFT)を形成することを要する。
【0090】
本実施形態にかかる樹脂膜は、上述のとおり、特に大型基板上に塗布する際に、基板の自重によるたわみを解消させるために基板を複数の支持体で支えた場合に、支持体との接触部分においても色ムラのない、均一な色味の膜を製造できるから、該樹脂膜をフレキシブル基板として用いた場合、フレキシブルディスプレイを色差なく視認することができる。
【0091】
従って、本発明の別の態様は、ディスプレイ基板を提供する。
また本発明の更に別の態様は、上記ディスプレイ基板を製造する方法を提供する。
本実施の形態におけるディスプレイ基板の製造方法は、
基板の表面上に前述の樹脂組成物を塗布する工程(塗布工程)と、
前記塗布した樹脂組成物を加熱して、該樹脂組成物に含まれるポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド樹脂膜を形成する工程(加熱工程)と、
前記ポリイミド樹脂膜上に素子又は回路を形成する工程(素子・回路形成工程)と、
前記素子又は回路が形成されたポリイミド樹脂膜を前記基板から剥離する工程(剥離工程)と
を含むことを特徴とする。
【0092】
上記方法において、塗布工程、加熱工程、及び剥離工程は、それぞれ、上述した樹脂膜の製造方法と同様にして行うことができる。
素子・回路形成工程は、当業者に公知の方法によって実施することができる。
【0093】
本実施の形態にかかる樹脂膜は、既存のポリイミド膜が有する黄色により使用が制限された用途、特にフレキシブルディスプレイ用無色透明基板、カラーフィルタ用保護膜等の用途に好適に使用される。さらには、例えば、保護膜、TFT−LCD等における散光シート及び塗膜(例えば、TFT−LCDのインターレイヤー、ゲイト絶縁膜、液晶配向膜等);
タッチパネル用ITO基板、スマートフォン用カバーガラス代替樹脂基板等
の、無色透明性、かつ低複屈折性が要求される分野においても使用可能である。本実施の形態にかかるポリイミドを液晶配向膜に適用すると、開口率が高く、コントラスト比の高いTFT−LCDの製造が可能となる。
【0094】
本実施の形態にかかる樹脂組成物を用いて製造される樹脂膜及び積層体は、例えば、半導体絶縁膜、TFT−LCD絶縁膜、電極保護膜等として適用できる他、フレキシブルデバイスの製造において、特に基板として好適に利用することができる。ここで、本実施の形態にかかる樹脂膜及び積層体を適用可能なフレキシブルデバイスとしては、例えば、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル電極基板、フレキシブル照明、フレキシブルバッテリー等を挙げることができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例及び比較例における各種評価は、それぞれ、次のとおりに行った。
【0096】
<重量平均分子量の測定>
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。
溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用、測定直前に24.8mmol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mmol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えて溶解したもの)を使用した。重量平均分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作成した。
【0097】
カラム:Shodex KD−806M(昭和電工社製)
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU−2080Plus(JASCO社製)
検出器:RI−2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)及びUV‐2075Plus(UV−VIS:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0098】
<支持体部位における色ムラの評価>
実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物を、10cm角の無アルカリガラス基板上に、ハンドコーターを用いて硬化後膜厚が15μmになるようにコートした。80℃に設定したオーブンの中に、支持体として直径0.5cmの円柱状石英柱を4本設置し、その上に上記樹脂組成物をコートしたガラス基板を乗せ、30分間のプリベークを行った。その後、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、350℃において1時間加熱硬化処理(イミド化を含むキュア処理、以下同じ)を施すことにより、ガラス基板上にポリイミド樹脂膜が形成された積層体を作製した。この積層体の表面のうち、乾燥及び加熱時に、支持体上にあった領域を目視観察して、色ムラを以下の基準で判断した。
◎:4点いずれもリング状の色ムラなし(極めて良好)
○:4点中1点にリング上の色ムラあり(良好)
×:4点中2〜3点にリング上の色ムラあり(不良)
××:判別不能(極めて不良)
【0099】
<残留応力の評価>
予め「反り量」を測定しておいた、厚み625μm±25μmの6インチシリコンウェハー上に、実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物をバーコーターにより塗布し、80℃において30分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、350℃において60分間の加熱硬化処理(を施すことにより、膜厚15μmのポリイミド樹脂膜が形成されたシリコンウェハーを作製した。
このウェハーの反り量を、残留応力測定装置(テンコール社製、型式名FLX−2320)を用いて測定し、シリコンウェハーと樹脂膜との間に生じた残留応力を、以下の基準で評価した。
◎:残留応力が−5超15MPa以下(残留応力の評価「極めて良好」)
○:残留応力が15超25MPa以下(残留応力の評価「良好」)
△:残留応力が25MPa超又は−5MPa以下(残留応力の評価「不良」)
【0100】
<黄色度(YI値)の評価>
実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物を、表面にアルミ蒸着層(厚さ0.1μm)を設けた6インチシリコンウェハー基板に、硬化後膜厚が15μmになるようにコートし、80℃にて30分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、350℃1時間の加熱硬化処理を施して、ポリイミド樹脂膜が形成されたウェハーを作製した。
このウェハーを希塩酸水溶液に浸漬してポリイミド樹脂膜を剥離することにより、樹脂膜を得た。
得られたポリイミド樹脂膜につき、日本電色工業(株)製(Spectrophotometer:SE600)にてD65光源を用いてYI値(膜厚15μm換算)を測定した。樹脂膜を10cm×10cmに切り出し、異なる5点についてYI値を測定し、その平均値、及び最大値と最小値との差を求めた。
【0101】
<レーザー剥離エネルギーの評価>
実施例及び比較例のそれぞれで調製した樹脂組成物を、ガラス基板(厚さ0.7mm)に、硬化後膜厚が15μmになるようにコートし、80℃にて30分間プリベークした。その後、縦型キュア炉(光洋リンドバーグ社製、型式名VF−2000B)を用いて、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、350℃1時間の加熱硬化処理を施し、ガラス基板とポリイミド樹脂膜との積層体を作製した。
エキシマレーザー(波長308nm)により、上記で得た積層体のガラス基板側から照射エネルギーを段階的に増やしつつ照射を行い、ポリイミドが剥離できた最小の照射エネルギーをレーザー剥離エネルギーとして評価した。
【0102】
<XPSによるSi原子濃度の測定>
上記のYI値の評価と同様の方法によって樹脂膜を得た後に、サーモフィッシャーESCALAB250を用い、励起源をmono.AlKα 15kV×10mAとして測定を行った。結合エネルギーが96〜108eV付近のピークを読み取ることにより、Si原子濃度を単位「原子%」にて算出した。
【0103】
<ポリイミド前駆体溶液の調製>
[製造例1]
窒素置換した500mlセパラブルフラスコに、溶媒として18L缶開封直後のN−メチル−2−ピロリドン(NMP、水分量250質量ppm)の固形分含有量15wt%に相当する量、及びジアミンとして2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)49.0mmolを入れ、撹拌してNMP中にTFMBを溶解させた。次いで、テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸無二水物(PMDA)50mmolを加え、窒素フロー下で80℃において4時間撹拌下に重合反応を行った。その後、室温まで冷却し、NMPを追加して溶液粘度が51,000mPa・sになるように調整することにより、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)のNMP溶液(以下、ワニスともいう)P−1を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は180,000であった。
【0104】
[製造例2〜13]
上記製造例1において、溶媒及びテトラカルボン酸二無水物の種類及び量を、それぞれ、表1に記載のとおりとした以外は製造例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液(以下、ワニスともいう)P−2〜P−15を得た。
得られた各ポリイミド前駆体の重量平均分子量(Mw)を、モノマー組成とともに表1に示した。
【0105】
【表1】
【0106】
表1における溶媒及びモノマーの略称は、それぞれ以下の意味である。モノマー欄における「−」は、当該欄に該当する成分を使用しなかったことを示す。
[溶媒]
NMP:N−メチル−2−ピロリドン(18L缶開封直後のもの、水分量250質量ppm)
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド(汎用グレード(脱水グレードではない)、水分量2,300ppm)
M100:エクアミドM100(製品名、出光製、水分量260ppm)
B100:エクアミドB100(製品名、出光製、水分量270ppm)
[テトラカルボン酸二無水物]
PMDA:ピロメリット酸二無水物
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物
sBPDA:3,3’−4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
TAHQ:4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)
[ジアミン]
TFMB:4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル
【0107】
(実施例1)
製造例1で得られたポリイミド前駆体のワニスP−1に、ポリイミド前駆体100重量部に対して0.05重量部換算の界面活性剤(DBE−821、製品名、Gelest製のシリコーン系界面活性剤)を溶解させ、0.1μmのフィルターで濾過することにより、樹脂組成物を調整した。
得られた樹脂組成物について各種特性を測定し、評価した。
樹脂組成物の調整組成を表2に、得られた結果を表3に、それぞれまとめた。樹脂膜のSi原子濃度は0.05原子%であった。
【0108】
(実施例2〜21及び比較例1〜9)
上記実施例1において、使用したワニスに含まれるポリイミド前駆体及び界面活性剤を、それぞれ表2に表した組成に調整した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調整した。
得られた樹脂組成物について各種特性を測定し、評価した。
実施例14においては、ポリイミド前駆体及びシリコーン系界面活性剤の他に、表2に示した種類及び量のシランカップリング剤をさらに使用した。
得られた結果を表3にまとめた。
比較例9において、黄色度(YI値)が評価不可とは、シリコーン系界面活性剤が表面に凝集した結果、フィルムが白濁化してしまい、黄色度の評価ができなかったことを意味する。
比較例1〜8の樹脂膜のSi原子濃度は、いずれも0原子%であった。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
表2におけるシリコーン系界面活性剤及びシランカップリング剤の略称は、それぞれ以下の意味である。これらの欄における「−」は、当該欄に該当する成分を使用しなかったことを示す。
[界面活性剤]
(シリコーン系界面活性剤)
DBE−821:製品名、Gelest製
DBE−621:製品名、Gelest製
DBE−714:製品名、Gelest製
DBE−224:製品名、Gelest製
ポリフロー:ポリフローKL−100、共栄社化学社製
BYK313:製品名、ビックケミー・ジャパン製
(フッ素系界面活性剤)
F171:製品名、メガファックF171、DIC製
[シランカップリング剤]
BT:下記式
【化20】
で表されるシランカップリング剤
【0113】
【表5】