特許第6476469号(P6476469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6476469ポリアミド酸組成物およびポリイミド組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476469
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】ポリアミド酸組成物およびポリイミド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20190225BHJP
【FI】
   C08G73/10
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-85051(P2015-85051)
(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公開番号】特開2016-204457(P2016-204457A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】森 浩章
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/129464(WO,A1)
【文献】 特開昭61−143434(JP,A)
【文献】 特開平01−098628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物。
【請求項2】
前記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸。
【請求項4】
前記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む請求項3に記載のポリアミド酸。
【請求項5】
2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリイミド組成物。
【請求項6】
前記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む請求項5に記載のポリイミド組成物。
【請求項7】
2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリイミド
【請求項8】
前記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む請求項7に記載のポリイミド。
【請求項9】
前記ポリイミドの熱膨張率が10ppm/℃以下である請求項7または8に記載のポリイミド。
【請求項10】
前記ポリイミドの5%熱重量減少温度が600℃以上である請求項7〜9のいずれかに記載のポリイミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド酸組成物およびポリイミド組成物に関する。より詳細には、本発明は、ナフタレン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸化合物を含むテトラカルボン酸化合物および、ビフェニル骨格を有する芳香族ジアミン化合物を含むジアミン化合物よりなるポリアミド酸組成物およびポリイミド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族テトラカルボン酸化合物および芳香族ジアミン化合物を重合して得られる芳香族ポリイミドは、機械強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、寸法安定性などに優れていることから、特に電子機器用材料として広く利用されている。さらに最近では、半導体用材料や薄膜太陽電池用材料への応用が進んでおり、使用される無機材料や製造工程からの要求から、従来より高い寸法安定性や耐熱性が求められ、具体的には、寸法安定性として熱膨張率が10ppm以下であることや、耐熱性として熱分解温度600℃以上であることなどが求められる。
一方、芳香族ポリイミドはその剛直な分子構造とそれらを連結するイミド結合の強い相互作用ゆえに溶媒溶解性に乏しく、成型を行うには前駆体であるポリアミド酸ワニスの形態で行う必要があり、この形態での溶解性(ワニス溶解性)に優れることが求められる。
【0003】
従来から多く使用されているポリイミドとしては、例えば、特許文献1に示されるようなピロメリット酸二無水物(PMDA)−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)系ポリイミドなどの二成分系ポリイミドや、特許文献2に示されるような3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)−p−フェニレンジアミン(PDA)系ポリイミドが挙げられる。しかし、PMDA−ODA系ポリイミドは、熱分解温度は600℃未満であり、熱膨張率は約40ppm/℃程度と高い。sBPDA−PDA系ポリイミドは、PMDA−ODA系ポリイミドより耐熱性は高く、熱膨張率は低いが、上記用途の要求特性を満たすまでのものではない。
また、特許文献3を例として上記モノマーを任意の比率で共重合した三成分系や四成分系ポリイミドも多く提案されているが、いずれの場合もsBPDA−PDA系ポリイミドよりも耐熱性は低く、熱膨張率は高くなる傾向にある。
【0004】
低熱膨張率、かつ、高耐熱性のポリイミドを得る試みは、特許文献4〜10にも示されている。特許文献4に記載のポリイミドは、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)と、特定の構造の芳香族ジアミン成分を用いて得られる。特許文献5では、5%熱分解温度が500℃以上のポリイミドとなるポリイミド前駆体として、NTCDAを含む特定の全テトラカルボン酸二無水物と、特定の全ジアミンと、を反応させて得られるものを用いる。特許文献6に記載のポリイミドは、ジアミン成分が特定の芳香族ジアミンであるものを用いる。特許文献7に記載のポリイミドは、NTCDAを含む特定の酸二無水物成分と、p−フェニレンジアミン(PDA)を含む特定のジアミン成分と、を重合させて得られるものを用いる。特許文献8に記載のポリイミドは、PDAを含む特定の芳香族ジアミンと、NTCDAを含む特定の芳香族ジアミンテトラカルボン酸二無水物と、を反応させて得られるものを用いる。特許文献9に記載のポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)を含む特定の芳香族二酸無水物と、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を含む特定の芳香族ジアミンと、から誘導されるものを用いる。特許文献10に記載のポリイミドは、PDAおよびTFMBを含むジアミン成分と、sBPDAを含む酸成分と、を重合させて得られるものを用いる。
しかしながら、特許文献4〜10に記載のポリイミドは、上述した寸法安定性に関する要求(熱膨張率:10ppm以下)、耐熱性に関する要求(熱分解温度:600℃以上)、および、ワニス溶解性を満たすことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭60−42817号公報
【特許文献2】特公昭36−10999号公報
【特許文献3】特許第3687044号公報
【特許文献4】特開2012−102155号公報
【特許文献5】特開2014−9305号公報
【特許文献6】再公表特許2005/084948号公報
【特許文献7】特開2010−125793号公報
【特許文献8】特開2007−190692号公報
【特許文献9】特開2014−55302号公報
【特許文献10】特許5468575号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低熱膨張率、高耐熱性を実現でき、かつ、ポリアミド酸ワニスの溶解性に優れたポリイミド組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段として、本発明では2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(以下、NTCDAという場合がある)をテトラカルボン酸化合物として共重合で導入することにより、ポリイミドの熱膨張率の低下、耐熱性の向上、および、ポリアミド酸ワニスの形態での優れた溶解性を達成することを試みた。
ここで本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ポリイミドのテトラカルボン酸化合物において、NTCDAを導入し、芳香族ジアミン成分において、p−フェニレンジアミン(以下、PDAという場合がある)と、o−トリジン(以下、OTという場合がある)または2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBという場合がある)と、を特定の比率で導入することによって、ポリアミド酸ワニスとしての溶解性を保持しつつ、ポリイミドの熱膨張率の低下、および耐熱性の向上(熱分解温度の向上)を実現できることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、以下の(1)〜(8)を提供する。
(1)2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物。
(2)上記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む(1)に記載のポリアミド酸組成物。
(3) 2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸。
(4)上記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む(3)に記載のポリアミド酸。
(5)2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリイミド組成物。
(6)上記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む(5)に記載のポリイミド組成物。
(7)2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸化合物と、p−フェニレンジアミン:95〜75mol%およびo−トリジン:5〜25mol%)、または(p−フェニレンジアミン:75mol%および2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:5mol%を含むジアミン化合物とを重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリイミド。
(8)上記テトラカルボン酸化合物が、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物:100mol%未満、50mol%以上と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:50mol%以下、0mol%超とを含む(7)に記載のポリイミド。
(9)上記ポリイミドの熱膨張率が10ppm/℃以下である(7)または(8)に記載のポリイミド。
(10)上記ポリイミドの5%熱重量減少温度が600℃以上である(7)〜(9)のいずれかに記載のポリイミド。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリイミド組成物は、低熱膨張率、高耐熱性を実現でき、かつ、ポリアミド酸ワニスの形態(ポリアミド酸組成物)の優れた溶解性を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
<ポリアミド酸組成物>
本発明のポリアミド酸組成物は、酸成分として、NTCDAを含むテトラカルボン酸化合物と、ジアミン成分として、後述する特定のジアミン化合物を重合させることによって得られるポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物である。
【0010】
本発明において、ポリアミド酸を重合する際に使用されるジアミン成分は、ポリイミドとした際に低熱膨張率、高耐熱性を発現させるという観点から、PDA、OT、TFMBといった剛直な分子骨格を有する芳香族ジアミン化合物を用いる。ここで、PDAは必須であり、OTおよびTFMBは少なくとも一方が必須である。その理由は以下の通り。
PDAを含まない場合、ポリイミドとした際に熱膨張率が増加し、熱分解温度が低下する。OTおよびTFMBを含まない場合、得られるポリアミド酸のワニス溶解性が低下する。
なお、OTおよびTFMBは、いずれか一方のみを使用してもよいし、両方を使用してもよい。
PDAの添加量は、全アミン成分に対して、75〜95mol%である。上記割合より少ないと、ポリイミドとした際に熱膨張率が増加し、熱分解温度が低下する。上記割合より多いと、得られるポリアミド酸のワニス溶解性が低下する。
OTおよびTFMBの添加量は、全アミン成分に対して、両者の合計量で5〜25mol%である。上記割合より少ないと、得られるポリアミド酸のワニス溶解性が低下する。上記割合より多いと、ポリイミドとした際に熱膨張率が増加し、熱分解温度が低下する。
【0011】
本発明において、ポリアミド酸を重合する際に使用されるNTCDA以外の酸成分としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、脂環式テトラカルボン酸二無水物などが例として挙げられるが、それらに限定されるものではなく、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。但し、優れたワニス溶解性を発現させ、かつ、ポリイミドとした際に低熱膨張、高耐熱性を発現させるという観点から、sBPDAの使用が好ましい。
sBPDAの添加量は、全酸成分に対して、0mol%超、50mol%以下が好ましい。上記割合より多いと、ポリイミドとした際に熱膨張率が増加し、熱分解温度が低下する。
この場合、NTCDAの添加量は、全酸成分に対して、50mol%以上、100mol%未満である。上記割合より少ないと、ポリイミドとした際に熱膨張率が増加し、熱分解温度が低下する。
【0012】
本発明のポリアミド酸組成物はさらに溶媒を含有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。本発明のポリアミド酸組成物が含有することができる溶媒としては、溶解性の観点から非プロトン性極性溶剤が好ましく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられるが、溶解するものであれば特に制限されず、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。なお、上記溶媒への溶解性が低い場合は、溶解性を高めるために反応液を50℃以下に加熱しても良い。
本発明のポリアミド酸組成物および溶媒を含むワニスは、ポリアミド酸組成物を適切に溶解し、溶媒を揮発または除去して硬化し、フィルムやチューブなどの成形体を形成できる。また、スクリーン印刷用ポリイミド前駆体組成物として利用できる。さらに、本発明のポリアミド酸組成物および溶媒を含むワニスは、金属箔上に塗布し乾燥して金属積層体を形成でき、金属積層体はICデバイス等に広く利用できる。
【0013】
本発明のポリアミド酸組成物はその製造について、酸成分として、NTCDAを含むテトラカルボン酸化合物と、PDAとOTおよびTFMBの少なくとも一方とを上述した特定の割合で含むジアミン成分と、を重合させること以外は特に制限されない。
本発明のポリアミド酸組成物(本発明のポリアミド酸)を製造する際、さらに溶媒を用いるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。例えば、溶媒中で酸成分とジアミン成分とを添加し(酸成分とジアミン成分とはほぼ等モルとなる量で使用することができる。)、これらを混合して混合物とし、混合物を重合することで得られる。混合物は必要に応じて後述する添加剤をさらに含有することができる。
【0014】
混合物を重合させる条件は特に制限されない。例えば、上記に示した溶媒に、ジアミン成分とテトラカルボン酸化合物を添加して得られた混合物を、常温〜50℃の条件下において、大気圧中で撹拌し反応させて、ポリアミド酸の溶液(ポリアミド酸組成物)を製造する方法が挙げられる。
上記製造方法で得られるポリアミド酸(共重合ポリアミド酸)は溶媒中に10〜30質量%の割合(濃度)で調製するのが好ましい。
本発明のポリアミド酸組成物はワニスとして使用することができる。
【0015】
本発明のポリアミド酸組成物に含有されるポリアミド酸(本発明のポリアミド酸)は、その分子構造について特に制限されない。例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体が挙げられる。
また、本発明のポリアミド酸組成物に含有されるポリアミド酸はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
本発明のポリアミド酸組成物(本発明のポリアミド酸)はさらに添加剤を含有することができる。添加剤としては、ポリアミド酸を環化させてポリイミドにするために使用される、脱水剤、触媒が挙げられる。
脱水剤としては、例えば、無水酢酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族酸無水物等が挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
また触媒としては、ピリジン、ピコリン、キノリン、イミダゾール等の複素環式第三級アミン類、トリエチルアミン等の脂肪族第三級アミン類、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族第三級アミン類等が挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0017】
本発明のポリアミド酸組成物はその使用方法について特に制限されない。例えば、本発明のポリアミド酸組成物から溶媒を除去およびイミド化してフィルムを形成することができる。フィルムを形成する方法は特に制限されない。
フィルムの製造方法において、フィルムの延伸操作を行うことで熱膨張率の低減や等方性の向上を図ることができる。延伸方法としては、フィルムの加熱成形時にフィルム端部を固定して機械的に延伸することなどにより行う。
本発明のポリアミド酸組成物(本発明のポリアミド酸)を硬化させてポリイミド組成物(ポリイミド)を製造することができる。
【0018】
本発明のポリイミド組成物について以下に説明する。
本発明のポリイミド組成物は、酸成分として、NTCDAを含むテトラカルボン酸化合物と、ジアミン成分として、本発明のポリアミド酸について前述した特定のジアミン化合物を重合させることによって得られるポリイミドを含有するポリイミド組成物である。
本発明のポリイミド組成物を製造する際に使用される、ジアミン成分、酸成分は本発明のポリアミド酸組成物と同様である。
本発明のポリイミド組成物に含有されるポリイミドは本発明のポリイミドに相当する。
【0019】
本発明のポリイミド組成物(本発明のポリイミド)は、その製造について、NTCDAを含むテトラカルボン酸化合物と、PDAとOTおよびTFMBの少なくとも一方とを上述した特定の割合で含むジアミン成分と、を重合させること以外は特に制限されない。
例えば、溶媒に酸成分(テトラカルボン酸類成分)とジアミン成分(芳香族ジアミン成分)とを添加して、これらを混合して混合物とし、混合物を重合することによって得ることができる。
本発明のポリイミド組成物(本発明のポリイミド)は、混合物を用いて直接重合させて製造することもできるし、本発明のポリアミド酸組成物または本発明のポリアミド酸を用いて製造することもできる。
【0020】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドにする方法としては、例えば、脱水剤と触媒を用いて脱水する化学閉環法、熱的に脱水する熱閉環法があり、いずれで行っても良い。化学閉環法で使用する脱水剤、触媒は上記と同様である。
【0021】
熱閉環法では、加熱温度としては、通常100〜400℃、好ましくは200〜350℃、さらに好ましくは250〜300℃の範囲を任意に選択することができる。また、加熱時間は、通常、1分〜6時間、好ましくは5分〜2時間、さらに好ましくは15分〜1時間である。加熱雰囲気は、特に限定されないが、硬化して得られるポリイミドの表面の着色を抑えるという観点から、窒素ガス雰囲気、窒素/水素混合ガス雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。
【0022】
ポリアミド酸組成物(ポリアミド酸)のフィルムを高温で加熱してポリイミド組成物(ポリイミド)のフィルムを製造することができる。
ポリアミド酸組成物からのフィルムの形成における溶媒の除去、イミド化のための加熱は連続して行ってもよい。溶媒除去とイミド化が同時に行われてもよい。
【0023】
本発明のポリイミド組成物に含有されるポリイミド(本発明のポリイミド)は、その分子構造について特に制限されない。例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体が挙げられる。
また、本発明のポリイミド組成物に含有されるポリイミドはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明のポリイミドは、低熱膨張率であり、具体的には、10ppm/℃以下である。
なお、熱膨張率は、後述の(熱膨張率)に記載の方法により測定することができる。
【0025】
本発明のポリイミドは、高耐熱性であり、熱分解温度が高い。具体的には、熱分解温度が600℃以上である。
なお、熱分解温度は、後述の(熱分解温度)に記載の方法により測定することができる。
【実施例】
【0026】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
なお、下記に示されている成分の詳細は以下のとおりである。
PDA:p−フェニレンジアミン
OT:o−トリジン
TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
NTCDA: 2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物
sBPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
【0027】
<評価>
各機械特性は次の方法で評価した。結果を各表に示す。
(熱膨張率)
測定機器:島津製作所TMA−60
温度範囲:50℃−200℃
昇温速度:10℃/min
(熱分解温度)
測定機器:島津製作所DTG−60
昇温速度:10℃/min
熱分解温度:測定チャートから5%の重量減少が生じた温度
(ワニス溶解性)
ワニス中の沈殿、不溶分およびゲル化を目視で確認。表中の「○」、「△」、「×」は、それぞれ以下を意味する。
○:ワニス(固形分濃度20wt%)重合完了時において、沈殿、ゲル化なし。長期保存(1ヶ月)においても沈殿、ゲル化、または増粘なし。
△:ワニス(固形分濃度20wt%)重合完了時において、沈殿、ゲル化なし。長期保存(1ヶ月)において沈殿、ゲル化、または増粘あり。
×:ワニス(固形分濃度20wt%)重合完了時において、沈殿、ゲル化あり。
【0028】
(実施例1)
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)850gに、PDAを51g、TFMB8g、NTCDAを67g、および、sBPDAを73gを添加し、常温、大気圧中で3時間撹拌、反応させ、ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸組成物)を得た。
得られたポリアミド酸溶液15gを、バーコーターを用いてガラス板に塗布し、100℃で20分間、200℃で20分間、300℃で20分間、400℃で20分間加熱硬化し、約50μm厚のポリイミドフィルムを得た。
得られたフィルムの特性評価試験を行い、表1にその結果を示した。なお、各成分モル比は、全芳香族ジアミン成分中および全テトラカルボン酸成分中のモル比とする。
【0029】
参考例2、実施例3〜6)
実施例1と同様の手順で、芳香族ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を表1に示すモル比でポリアミド酸およびポリイミドフィルムを作製、特性評価試験を行い、表1にその結果を示した。
【0030】
(比較例1〜9)
実施例1と同様の手順で、芳香族ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を表2に示すモル比でポリアミド酸およびポリイミドフィルムを作製、特性評価試験を行い、表2にその結果を示した。
【0031】
【表1】
【0032】
上記の表に示す結果から明らかなように、NTCDAを含まないPDA−sBPDA系ポリイミド(比較例1)、酸成分にNTCDAを含むがその含有量が低くアミン成分にOTおよびTFMBのいずれも含まないポリイミド(比較例2)、酸成分にNTCDAを含み、アミン成分にPDAを含むがその含有量が低いポリイミド(比較例3および4)は、熱膨張率が高く(10ppm/℃超)、熱分解温度が低い(600℃未満)。また、酸成分にNTCDAを含むがアミン成分にOTおよびTFMBのいずれも含まない、またはその含有量の低いポリイミド(比較例5〜9)は、熱膨張率が低く(10ppm/℃以下)、熱分解温度が高い(600℃以上)が、ワニス溶解性が悪い。
一方、酸成分にNTCDAを含み、かつアミン成分にPDAと、OTおよびTFMBの少なくとも一方と、上述した特定の割合で含むポリイミド(実施例(1〜6)は、熱膨張率が低く、熱分解温度も高く(600℃以上)、さらにワニス溶解性が良い。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のポリアミド酸組成物は、NTCDAを含むテトラカルボン酸化合物、PDAとOTおよびTFMBの少なくとも一方とを上述した特定の割合で含むジアミン成分と、を重合させることによって得られるポリアミド酸を含有し、ワニス溶解性が良好である。本発明のポリアミド酸組成物を硬化させて得られるポリイミド組成物は、低い熱膨張率(10ppm/℃以下)と高い熱分解温度(600℃以上)を有する。本発明を用いて得られるポリイミド材料を従来のポリイミド材料以上の熱寸法安定性や耐熱性が求められる用途(例えば、半導体用材料や薄膜太陽電池用材料)で有効に利用されることが期待できる。