【実施例】
【0009】
<1>盛土構造物の基本構成。
本発明に係る盛土構造物は、擁壁Rと盛土材4とアンカーボルト6より構成する。(
図2)
擁壁Rは、少なくとも基礎ブロック1、壁面パネル3、上下の壁面パネル3間を連結する緊張材2から構成する。
ここで盛土材4には、流動性コンクリートではなく、石炭灰(フライアッシュ)や焼却灰と、固結材、発泡剤及び水を混合してなる流動性の軽量な盛土材を使用する。
また、前記石炭灰、土砂、固結材を混合してなる灰混合盛土材を使用することもできる。
壁面パネル3には、フライアッシュを用いて軽量化したプレキャストコンクリート版を使用することもできる。
【0010】
<2>基礎ブロック。
盛土予定地の前面地盤に基礎ブロック1を設置する。
この基礎ブロック1は、現場打ちコンクリート又はプレキャストコンクリートによって形成する。
前記基礎ブロック1は、必要に応じて、前面地盤にアンカー部材5等の定着部材によって固定する。
【0011】
<3>パネル間の緊張材。
緊張材2は、壁面パネル3と基礎ブロック1の間、あるいは下段の壁面パネル3と上段の壁面パネル3の間を締結する棒状の部材である。
緊張材2は、例えば、プレキャスト設置用のネジ節異形鋼棒、PC鋼棒、PC鋼線又はPC鋼より線等のようなプレストレスの付加に適した、高張力鋼材を使用することができる。
緊張材2は、カプラなどを介在させて継ぎ足して延長することができるが、後述する非貫通型の壁面パネル3の場合は、壁面パネル3の下から上まで貫通させず、上下の壁面パネル3の間だけを拘束する短尺の緊張材2を使用することもできる。
【0012】
<4>壁面パネル。
次に壁面パネルの構造について説明する。
【0013】
<4−1>上下貫通型。
壁面パネル3は、鉄筋コンクリート、プレキャストコンクリートで構成した概略が矩形の板体である。
パネル3の内部には上下方向に、緊張材2を貫通させる貫通孔を開設する。
この貫通孔は、下部に連結ナットを収納するスペースと、上部にプレートを収納するスペースとを形成すると、そのスペース内でカプラによって緊張材2を順次接続して延長することができる。
壁面パネル3の貫通孔に緊張材2を貫通させ、プレートとナット等の固定治具を用いて基礎ブロック1、あるいは下段の壁面パネル3に緊張材2を緊張して上下の壁面パネル3を連結固定する。
この緊張により、壁面パネル3は基礎ブロック1や下段の壁面パネル3の上で自立させることができる。
壁面パネル3は、鉄筋コンクリート版、又はプレキャストコンクリート版で構成するものだけではなく、鋼製のパネルを採用することもできる。
【0014】
<4−2>上下非貫通型。(
図4)
壁面パネル3の裏側に上下の二か所に締結棚31を独立して突設させたパネルを使用することもできる。
この締結棚31の内部だけに貫通孔32を開口する。
すると下段のパネル3の上側の締結棚31の貫通孔32と、上段のパネル3の下側の締結棚31の貫通孔32に緊張材2を貫通させてボルトで緊張すれば、上下のパネル3、3を一体化することができる。
【0015】
<5>盛土材。
壁面パネル3と斜面Sとの間、すなわち壁面パネル3の背面には、流動コンクリートではなく、盛土材4を充填して積層する。
この盛土材4としては、種々の土質、混合土及び流動化処理土、固化材を混合した土砂などを利用することができる。
【0016】
<6>クラック防止材。
盛土材4からなる盛土層の内部にクラック防止材を所定の層厚毎にほぼ水平に敷設することもできる。
クラック防止材は、例えば、鋼材、防錆した金網、合成樹脂や繊維製のシート材や網体等のものを使用することができる。
クラック防止材を層間に水平方向に敷設することで、クラック防止材と盛土材4間に働く摩擦力、又は付着力を利用することにより、盛土材4の引張り抵抗が高まり、盛土材4内のクラックの発生を効果的に防止することができる。
また、盛土材4とクラック防止材から複合盛土地盤の全体せん断強度が格段に向上する。
なお、上記クラック防止材は、必要に応じて前記壁面パネル3背面に固定することもできる。
ただしこのクラック防止材の存在は不可欠なものではなく、状況によっては敷設をしなくとも本発明の盛土構造物の構成、機能は成立する。
【0017】
<7>アンカーボルト。
盛土工程に先行して、予め斜面Sの崩壊や落石防止のために、地山側の斜面Sにアンカーボルト6を打設する。
アンカーボルト6は、削孔した穴内にアンカーボルトを挿入し、その後グラウト材を注入して定着する。
あるいは削孔した穴内の奥に先行してグラウト材を注入し、その後にアンカーボルト6を挿入することもできる。
アンカーボルトの全長をグラウト材で固定するから、アンカーボルトをジャッキで緊張して引張力を与える必要はない。
このようなアンカーボルト6の定着工法は各種の方法が公知であり、実用化されている。
その場合に、本発明の方法では、アンカーボルト6はその頭部をナット61の締結寸法と後述する抵抗体の定着部の厚さを加えた寸法程度を露出させただけで設置する。
したがって
図5に示す従来の工法のように、長いアンカーボルトの多数本が、斜面から外向きに林立することがない。
アンカーボルト6の地山内の定着位置は、斜面の想定される滑り面よりも深い地山の奥に位置させて地山と滑り土塊との一体化を図る。
削孔した孔内のグラウト材が硬化した後に、アンカーボルト6の露出端に、後述する抵抗体7の定着部71をアンカーボルト6に形成したネジ山を利用してナット61で強固に締め付ける。
この作業によって、定着部71をアンカーボルトによって地山表面に確実に設置することができる。
【0018】
<8>抵抗体。
壁面パネル3と斜面Sとの間に盛り立てた盛土材4と、斜面S内側の地山との一体化を図るために、アンカーボルト6の露出端に取り付けるのが抵抗体7である。
抵抗体7は、アンカーボルト6とは別部材であり、アンカーボルト6を地山に設置した後に、その露出端に取り付けるものである。
したがってアンカーボルト6の地表上の露出長さはナット61の締結代と定着部71の板厚程度の短い寸法で足りるから、前記したように、すべてのアンカーボルトを地表面から長く露出させて林立させる必要がなく、後続する作業の障害になることがない。
【0019】
<9>抵抗体の構成。
抵抗体7は、鋼材、コンクリートなどで製造した部材である。
この抵抗体7は、定着部71と抵抗部72と連結部73とによって構成する。
すべてを鋼製の板体とした場合には、1枚の鋼板を折り曲げて、あるいは独立した板を溶接して製造することができる。
あるいは全体を鋳物の一体物として製造することができる。
あるいは定着部71と抵抗部72と連結部73とを、工場でボルトで締結して製造することもできる。
あるいは鉄筋で補強したコンクリートの板で一体物として製造することもできる。
ただしいずれの場合にも定着部71と連結部73との接合は、ボルト71aとナットによって回転自在で固定自在であるように構成する。
【0020】
<9−1>定着部。
定着部71は、アンカーボルト6の地表への露出端にナット61で抵抗体7を固定する板体であり、アンカーボルト6の挿入用の孔内に注入したモルタルの流出を阻止する蓋の役割も果たす。
定着部71にはアンカーボルト6の外径より大きく、ナット61の外径より小さい内径のボルト孔を開口する。
あるいは独立した孔ではなく、一端を開放した長い溝を形成することもできる。
本発明では長い溝も、機能としては孔として利用することになるので「ボルト孔」と称する。
このボルト孔にアンカーボルト6の露出端を挿入し、アンカーボルト6のネジにナット61を締め付けることで、ナット61を介して抵抗体7とアンカーボルト6との一体化を図る。
【0021】
<9−2>抵抗部。
抵抗部72は、盛土材4の内部に位置して盛土材4の動きに抵抗する板状体の部材であり、鋼製、コンクリート製の板体によって構成する。
抵抗部72には、棒状の部材である連結部の中心軸方向と直交する方向に折り曲げた抵抗板72aをそなえている。
そのために、斜面Sの角度が現場によって相違しても、連結部73をほぼ水平に配置することができ、それと直交する抵抗板72aは、ほぼ鉛直の面を形成することになる。
ところで積層した盛土材4の地震荷重は水平方向に作用する。
そのために、盛土材4の内部でほぼ鉛直に位置する抵抗板72aが、盛土材4の移動に対して最も有効に抵抗することになる。
抵抗部72は1枚に限らず、複数枚の板を、連結部73から突出させて構成することもできる。(
図3)
【0022】
<9−3>連結部。
連結部73は、定着部71と抵抗部72の間を連結する部材であり、矩形の板体、あるいは円柱形などを採用することができる。
連結部73と抵抗部72とは、ボルトとナットの締結で一体化したり、溶接で一体化することができる。
あるいはプレスや鋳物で一体成型することもできる。
【0023】
<9−4>定着部と連結部。
抵抗体7の定着部71と連結部73とはボルト71aとナットによって回転自在、締結自在であるように構成する。
両者を回転自在に締結する理由は、斜面Sの角度が現場によって異なるからである。
両者がボルト71aによって回転自在に締結してあれば、斜面Sがどのような角度であっても、抵抗部7の抵抗板72aをほぼ鉛直に位置させることができる。
すなわち定着部71と連結部73が回転自在であれば、連結部73を水平に位置させることによって、抵抗部72の抵抗板72aが、盛土材4の内部でほぼ鉛直に位置することになる。
すると盛土材4に地震時も水平力が作用した場合に、それと直交する面である抵抗板72aが、もっとも効率よく盛土材4の水平力に抵抗できることになる。
抵抗板72aをほぼ鉛直に位置させたのち、ボルト71aにナットを締め付けることで連結部73と抵抗部72の姿勢を維持する。
【0024】
<10>構築方法。
次に、上記の部材を使用して本発明の盛土構造物を構築する方法について説明する。
【0025】
<11>基礎ブロックの設置。
まず、盛土予定地の前面地盤内に基礎ブロック1を設置する。
この場合基礎ブロック1にアンカー部材5を設置し、アンカー部材5を緊張して基礎ブロック1を地面に固定する。
さらに、基礎ブロック1には、緊張材2の一部を埋設するとともに、その他端を上方へ突出する。
【0026】
<12>壁面パネルの固定。
緊張材2をトルクレンチで締め付けて緊張して、壁面パネル3を基礎ブロック1上に定着する。
そして、同様の作業で順次壁面パネル3の側面を相互に隣接させて横方向に並べて設置していく。
【0027】
<13>壁面パネルの積み上げ。
貫通型の壁面パネル3を使用する場合には、クレーン車等を用いて、壁面パネル3の鉛直方向の貫通孔に緊張材2を貫通させ、壁面パネル3を積み上げる。
図4に示すような、非貫通型の、地山側の上下二か所に締結棚31を突設した形状の壁面パネル3を使用する場合には、下段の壁面パネル3の締結棚31の貫通孔32と、その上段の壁面パネル3の締結棚31の貫通孔32に緊張材2を貫通させて上下の壁面パネル3の間だけを緊結する。
【0028】
<14>アンカーボルトの打設。
上記の作業に先行して、あるいは平行して、地山の斜面Sに削孔しアンカーボルト6の挿入し、それと前後してモルタルなどを注入して孔内に定着する。
その場合にアンカーボルトの全長にモルタルなどを注入すればアンカーボルト6には伸び代がないから、アンカーボルト6を外部から緊張する必要はなく、ジャッキの設置やジャッキによる緊張作業、ナットの盛り代え作業などの複雑な作業は不要である。
アンカーボルト6の削孔内への定着は公知の多くの方法を採用することができる。
アンカーボルト6は、その頭部だけが斜面Sから露出するが、しかしあまり長く露出しない寸法のものを制作する。
その露出する寸法は、アンカーボルト6頭部へ締結するナット61の厚さと、抵抗体7の定着部71の厚さ、および多少の締め代を加算した程度の寸法である。
このアンカーボルト6の打設作業は、基礎ブロック1を設置する前に、斜面Sの全体的安定を保つため、予め打設することもできる。
上記したように、アンカーボルト6の打設工程が終了した段階において、斜面から突出しているのはアンカーボルト6の頭部だけであるから、その後に斜面を上り下りする作業や、クレーンでパネルと吊り下げ組み立てる作業などの障害になることがない。
【0029】
<15>抵抗体の取り付け。
アンカーボルト6の露出部に、抵抗体7の定着部71のボルト孔を挿入し、定着部71の外側からナット61を締め付ける。
すると抵抗体7を斜面Sに固定できるだけでなく、抵抗体7の定着部71は、孔内に充填したモルタルなどの流出を阻止する蓋として機能する。
【0030】
<16>抵抗部の設置角度。
連結部73の一端を定着部71に取り付ける場合に、連結部73をほぼ水平の姿勢に設置して、連結部73と定着部71とを貫通するボルト71aにナットを締め付けることによって定着部71と一体化する。
抵抗部72と連結部73とはあらかじめ一体化しておくが、その場合に抵抗部72の抵抗板72aは棒状体の連結部73の延長方向と直交する方向を維持している。
したがって斜面の角度が現場によって相違しても連結部73をほぼ水平に設置することができ、その結果、抵抗板72aはほぼ鉛直に位置することになる。
なおここで必要な条件は、連結部73を水平に位置させることではなく、抵抗板72aを鉛直に位置させることにある。
地震荷重は特に水平方向に作用するから、抵抗板72aをその方向と直交する角度、すなわち鉛直の姿勢で設置することによってもっとも効率よく機能させることができる。
【0031】
<17>盛土。
パネル3の設置が終了すると、壁面パネル3の裏面側に、例えば、流動化盛土材などの盛土材4を充填して軽量盛土の一層を形成する。
流動性の高い盛土材4の場合には、ポンプで圧送してパイプを通して盛土部に吐出させる。
流動性の高い盛土材4を利用すれば、地滑りのおそれがある場所、又は、家屋や一般道などに隣接する場所、狭隘な場所での施工が容易であり、施工時間を大幅に短縮することがきる。
なお、前記各壁面パネル3は、緊張材2による高い緊張力によって、一体化となっているため十分なシール性を有している。
盛土材4の充填工程によって抵抗体7は盛土の内部に埋設されるが、その場合に抵抗部72の抵抗板72aはほぼ鉛直の姿勢で盛土内に位置することになる。
【0032】
<18>クラック防止材の敷設。
所定の層厚に打設した流動化盛土材4の表面に、必要に応じて、防錆した金網からなるクラック防止材を敷設することもできる。
この際、クラック防止材を、必要に応じて壁面パネル3背面に設けた、連結金具に固定することもできる。
更に、斜面S上の所定位置に打設したアンカーボルト6の頭部に網材などを固定することもできる。
なおこの敷設は不可欠の要件ではなく、状況次第で敷設を省略することもできる。
【0033】
<19>壁面パネルの積み上げ。
貫通型の壁面パネル3を使用する場合には、緊張材2に別のPC鋼棒を連結して、緊張材2の長さを長く延長する。
そして、最下段の壁面パネル3上に、二段目の壁面パネル3を設置し、トルクレンチ緊張を行う。
図4に示すような非貫通型の壁面パネル3を使用する場合には、下の壁面パネル3と上の壁面パネル3の締結棚31の間だけを緊張材2で締結すれば縦方向に積み上げることができる。
壁面パネル3の締結後にその後方に、更に流動化盛土材よりなる盛土材4を充填する。
【0034】
<20>作業の繰り返し。
以下、緊張材2と壁面パネル3を所定段数だけ連設配置し、壁面パネル3の背面側に流動性の高い盛土材4の充填を行う。
この作業を順次繰り返して、所定高さ及び延長の盛土構造物を構築する。
なお、上記盛土層の最上部には、コンクリートを打設した後に、アスファルト路盤Cを敷設して道路を形成する場合もある。
【0035】
<21>他の施工例。
本発明の盛土構造物の構築方法は、上記の盛土構造物の実施の形態に限定するものではなく、高速道路をはじめ一般国道など道路全般の建設、鉄道建設の路体等の構築にも適用することができる。