(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
《本発明の実施形態の説明》
本発明者は、含油率がばらつき難くて含油率の高い含油焼結体を製造できる含油焼結体の製造方法を鋭意検討した。複数の焼結体を重ねず個別に油中に浸漬すれば、含油率のばらつきを低減できる。但し、この含油処理を保持時間を変更せずに行えば、含油率の向上が見込み難い。一方で、保持時間を従来よりも長くすれば、含油処理時間が長くなり生産性の低下を招く。そこで、保持時間を従来よりも長くしても、保持時間を長くした分をその他の時間、即ち進入速度及び取出速度を従来よりも速くすることで相殺すれば、生産性の低下を招くことなく含油率を高められるのではないかと考えた。ところが、保持時間を長くし、進入速度及び取出速度は従来よりも速くして含油処理を行ったところ、進入速度と取出速度とが同じ速度では保持時間を長くしたにも関わらず含油焼結体の含油率が従来の含油率よりも低くなることが判明した。そこで、更なる検討を行った結果、詳しいメカニズムは不明であるが、進入速度を取出速度よりも遅くすること、換言すると取出速度を進入速度よりも速くすることで、保持時間を長くせずとも、更に言えば保持時間を短くしても、含油焼結体の含油率を高められるとの知見を得た。本発明はこれらの知見に基づくものである。最初に本発明の実施態様の内容を列記して説明する。
【0014】
(1)本発明の一態様に係る含油焼結体の製造方法は、金属粉末を含む焼結体を個別に油中に浸漬させて焼結体に油を含浸させる含油処理工程を備える。含油処理工程では、焼結体の油中への進入速度を、焼結体の油中からの取出速度よりも遅くする。
【0015】
上記の構成によれば、焼結体を個別に油中へ浸漬することで含油率がばらつき難い。また、詳しいメカニズムは不明であるが、進入速度を取出速度よりも遅くすることで、焼結体の油中での保持時間を長くせずとも、更には保持時間を短くしても含油率の高い含油焼結体を製造できる。
【0016】
(2)上記含油焼結体の製造方法の一形態として、上記進入速度が上記取出速度の1/2以下の速度であることが挙げられる。
【0017】
上記の構成によれば、進入速度が取出速度に比べて十分に遅いため、含油率の高い含油焼結体を製造し易い。
【0018】
(3)上記含油焼結体の製造方法の一形態として、上記取出速度が100mm/s以上であることが挙げられる。
【0019】
上記の構成によれば、取出速度が上記規定速度よりも遅い場合に比較して、油中から空中に含油焼結体を取り出す際、含油焼結体から油が漏洩することを抑制し易いため、含油率の高い含油焼結体を得やすい。
【0020】
(4)上記含油焼結体の製造方法の一形態として、上記進入速度が50mm/s以下であることが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、進入速度が上記規定速度よりも速い場合に比較して、焼結体内に油を浸透させ易いため、焼結体の油中での保持時間を長くせずとも含油率の高い含油焼結体を得易い。
【0022】
(5)上記含油焼結体の製造方法の一形態として、焼結体の油中での保持時間が5s以下であることが挙げられる。
【0023】
上記の構成によれば、保持時間が短いため、生産性の低下を招き難い。進入速度を取出速度よりも遅くすることで、保持時間が短くても含油率の高い焼結体を製造できる。保持時間は、実質的に焼結体全体が油中に浸かっている時間を言い、焼結体全体が油中に浸かってから、焼結体の一部が油面から露出するまでの時間を言う。
【0024】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
〔実施形態1〕
実施形態1に係る含油焼結体の製造方法は、金属粉末を含む焼結体を油中に浸漬させて焼結体に油を含浸させる含油処理工程を備える。この含油焼結体の製造方法の主たる特徴とするところは、焼結体の油中への浸漬を個別に行う点と、焼結体の油中への進入速度と油中からの取出速度とが特定の関係を満たす点とにある。以下、含油処理対象である焼結体及びその製造方法を説明した後、
図1を参照して含油処理工程の詳細を説明する。
【0026】
[焼結体]
含油処理対象である焼結体は、金属粉末を含むもので、機械部品などに利用される。機械部品の種類としては、例えば、スプロケット、オイルポンプロータ、ギア、リング、フランジ、プーリーなどが挙げられる。焼結体を構成する金属粉末の種類や、焼結体の形状・サイズ・密度は、上記機械部品の種類に応じて適宜選択できる。金属粉末の種類は、代表的には鉄系材料が挙げられる。鉄系材料とは、鉄や鉄を主成分とする鉄合金をいう。焼結体の形状は、中心に円形状の軸孔が形成される円筒状である場合が多い。焼結体のサイズとは、後述の含油処理工程において、焼結体の油中への進入方向に沿った最大長さをいい、軸孔の軸方向に沿った長さである場合が多い。その最大長さは、50mm以下程度である。焼結体の密度は、代表的には6.8g/cm
3以上7.0g/cm
3以下が挙げられる。焼結体の密度を6.8g/cm
3以上とすることで、焼結体に油を含浸させて含油焼結体を作製した際、含油焼結体から油が漏れ出難く、油を内部に保持した状態を維持し易い。焼結体の密度を7.0g/cm
3以下とすることで、焼結体内に油を浸透させ易い。
【0027】
[焼結体準備工程]
この焼結体の製造は、例えば、成形体を準備する成形体準備工程、成形体を焼結する焼結工程の順に各工程を経て行うことが挙げられる。詳しくは後述するが、成形体準備工程後、焼結工程前に、成形体に穴あけ加工などを行ってもよい。
【0028】
(成形体準備工程)
成形体準備工程は、上述の機械部品の素材である成形体を準備する。成形体は、上述の鉄系材料、即ち、鉄や鉄を主成分とする鉄合金などの金属粉末を含む原料粉末を圧縮成形してなる。
【0029】
準備する成形体の形状は、上記機械部品の最終形状に沿った形状である。成形体を作製して準備する場合、上記機械部品の最終形状に沿った形状に成形できる適宜な成形装置(成形用金型)を用いる。機械部品の形状は、上述のように円筒状である場合が多い。この円筒状の機械部品の作製は、円筒の軸方向にプレス成形することで行われる。例えば、成形体の両端面を形成する円環状のプレス面を有する上下のパンチと、上下パンチの内側に挿通されて、成形体の内周面を形成する円柱状の内側ダイと、上下パンチの外周を囲み、成形体の外周面を形成する円形状の挿通孔が形成された外側ダイとを用いて形成できる。この場合、成形体の軸方向両端面は上下のパンチでプレスされたプレス面、内周面と外周面とはダイとの摺接面であり、軸孔は成形時に一体に形成される。
【0030】
成形体のサイズは、上述のように焼結後の焼結体の上記最大長さが50mm以下を満たすように適宜調整すればよい。焼結体のサイズは、成形体の焼結により成形体よりも若干小さくなるため、その小さくなる分を見越したサイズとすることが挙げられる。
【0031】
プレス成形の圧力は、焼結後の焼結体の密度が上述のように6.8g/cm
3以上7.0g/cm
3以下を満たすように適宜選択するとよい。プレス成形の圧力は、例えば250MPa以上800MPa以下が挙げられる。
【0032】
(穴あけ加工工程)
穴あけ加工は、必要に応じて成形体(後述の含油焼結体)に適宜なドリルを用いて穴を形成する。穴の種類は、最終製品に応じて適宜選択すればよく、代表的には、貫通している通し穴(貫通孔)又は貫通していない止まり穴などが挙げられる。機械部品には、その外周面から軸孔に直交する貫通孔(例えば、油孔に利用される)や止まり穴が形成されるものがある。この貫通孔や止まり穴を設ける場合には、成形体の成形時に一体に形成できないことから、別途、穴あけ加工を施す。穴あけ加工を施す時期は、後述の焼結工程前でもよいし、後述の含油処理工程後でもよい。焼結工程前に施す場合、焼結前の比較的低硬度な成形体に対して穴あけ加工を施すため、高硬度な焼結体に穴あけ加工を施す場合に比較して穴あけ加工し易い。含油処理工程後に施す場合、含油焼結体に対して穴あけ加工を施すため、含油焼結体に含まれる油が穴あけ加工の潤滑剤の役割を果たすため、焼結体に穴あけ加工を施す場合に比較して穴あけ加工し易い。
【0033】
(焼結工程)
焼結工程では、成形体を焼結して焼結体を作製する。この焼結には、適当な焼結炉(図示略)を用いることが挙げられる。焼結の温度は、成形体の材質に応じて焼結に必要な温度を適宜選択することができ、例えば、1000℃以上、更に1100℃以上、特に1200℃以上が挙げられる。焼結時間は、凡そ20分以上150分以下が挙げられる。
【0034】
[含油処理工程]
含油処理工程では、焼結体を油中に浸漬させて焼結体に油を含浸させる。それにより、焼結体内に油を含浸させた含油焼結体を作製できる。焼結体の油中への浸漬は、個別に行う。個別に行うとは、浸漬条件(進入速度、保持時間、取出速度:いずれも後述)に個体差が生じないように、個々の焼結体の浸漬条件を同様にして行うことである。具体的には、焼結体を重ねることなく油中へ浸漬することである。即ち、焼結体を一つずつ油中へ浸漬してもよいし、複数の焼結体を重ねずに金網トレイなどに配置し、その金網トレイごと油中に浸漬してもよい。ここでは、焼結体を一つずつ油中へ浸漬する。
【0035】
焼結体を一つずつ油中へ浸漬するには、例えば、
図1に示すように、先端が油中21と空中との間を行き来できるように昇降自在な昇降台100を用いることが挙げられる。この昇降台100の昇降は、モータなどの適宜な駆動装置により行える。この昇降台100の先端は、焼結体1の軸孔11に挿通可能な凸部101と、その凸部101の根本に連続し、凸部101に焼結体1を嵌めた際に焼結体1を載置可能な台座部102とが形成されている。
図1では、説明の便宜上、焼結体1の形状は扁平な円筒状としている。
【0036】
この昇降台100を用いた焼結体1の油中21への含浸は、焼結体1の昇降台100への載置、昇降台100の油中21への下降、昇降体100の油中21での保持、昇降台100の空中への上昇、含油焼結体10の昇降台100からの取り外し、の順に経て行われる。
【0037】
焼結体1を昇降台100に載置する。昇降台100の凸部101及び台座部102が空中に位置(油面から露出)するように、昇降台100を上昇させておく。焼結体1の軸孔11を凸部101に嵌め合わせて、焼結体1を台座部102に載置する(
図1左図)。焼結体1の昇降台100への設置には、例えば、焼結体1を電磁石や真空パッドなどで吸着したり、ロボットハンドなどのマニピュレータで把持したりすることで行える。
【0038】
昇降台100を所定の下降速度で下降させる。焼結体1は空中から油中21へ進入され、焼結体1全体が油中21に浸漬される(
図1中図)。
【0039】
昇降台100を所定の下降状態で停止し、焼結体1の全体が油中21に浸漬された状態に保持する(
図1中図)。
【0040】
昇降台100を所定の上昇速度で上昇させる。含油した焼結体1(含油焼結体10)は油中21から空中へ取り出される(
図1右図)。含油焼結体10が空中に取り出されたら、例えば、焼結体1の昇降台100への載置手法と同様の手法で昇降台100から取り外す。
【0041】
図1では、一つの昇降台100のみを示しているが、一つの油槽に対して昇降台を複数用意し、一つの昇降台に一つの焼結体を載置して、全昇降台の同期昇降により、一度の昇降動作で、昇降台の数に対応した複数の焼結体を一括して含油させてもよい。
【0042】
含油処理工程では、焼結体1を油中21へ入れる進入速度を、焼結体1を油中21から出す取出速度よりも遅くして行う。そうすれば、焼結体1の油中21での保持時間を長くせずとも所望の含油率の含油焼結体10が得られる。この詳しいメカニズムは不明であるが、次のように考えられる。進入速度が遅いと、焼結体1が油面に接触した際、油面が波立ち難くて油が焼結体との接触により大きく押し退けられ難い。そのため、焼結体1が油面に接触したそばから焼結体1の内部の空気が外部に抜けていき、焼結体1が油中21へ進入するや否や油2が焼結体1の内部に浸透する。逆に、進入速度が速ければ、焼結体1は内部の空気が抜けきることなく油中21に導入され、焼結体1の内部に気泡を含んだ状態で油中21に保持されるため、その気泡が焼結体1への油2の含浸を阻害すると考えられる。この進入速度及び取出速度とは、昇降台100の下降速度及び上昇速度を言う。
【0043】
上記進入速度は、上記取出速度の1/2以下の速度が好ましく、上記取出速度の1/3以下の速度が特に好ましい。上記進入速度は、焼結体1のサイズ(最大高さ)や密度、油の粘度などにもよるが、例えば、50mm/s以下が好ましい。上記進入速度を50mm/s以下とすることで、焼結体1に油2を浸透させ易い。ここでいう焼結体1のサイズとは、焼結体1の油中21への進入方向に沿った最大長さを言う。上記進入速度は、遅すぎると生産性の低下を招く。そのため、上記進入速度は、例えば、10mm/s以上が好ましい。進入速度は、15mm/s以上45mm/s以下が挙げられ、更には20mm/s以上40mm/s以下、特に25mm/s以上35mm/s以下が挙げられる。
【0044】
焼結体1の油中21での保持時間は、焼結体1に油2を含浸させる目的が防錆性の向上なのか、含油焼結体10への機械加工時の切削抵抗(例えば、スラスト力)の低減なのかに応じて適宜調整できるが、いずれの目的であっても短くできる。それは、進入速度を取出速度より遅くしたことで焼結体1に油2を含浸させ易くなったからである。そのため、保持時間を長くせずとも所定の含油率の含油焼結体10が得られる。長時間保持しなくてもよいので、生産性を高められると期待できる。含油率は後述する。保持時間とは、実質的に焼結体1の全体が油中21に浸かっている時間を言い、焼結体1の全体が油中21に浸かってから、含油焼結体10の一部が油面から露出するまでの時間を言う。この保持時間は、焼結体1のサイズや密度、油の粘度などにもよるが、例えば5s以下とすることができる。この保持時間の調整は、昇降台100の下降深さ(油面から下降方向に沿った長さ)や昇降台100の下降から昇降への切り替えの際の昇降台100の停止時間で行うことができる。
【0045】
上記取出速度は、上記進入速度よりも速く、焼結体1のサイズや密度、油の粘度などにもよるが、例えば、100mm/s以上が好ましい。上記取出速度が遅いと、含油焼結体10が油中21から空中に取り出される際、油中21の油に引っ張られて含油焼結体10の油2が漏れてしまう虞がある。一方、上記取出速度が速すぎても、含油焼結体10が油面21から露出する際に、取り出しの勢いが大きくなりすぎることで含油焼結体10の油2が漏れてしまう虞がある。そのため、上記取出速度は、例えば、200mm/s以下が好ましい。この取出速度は、120mm/s以上180mm/s以下が好ましく、更には、140mm/s以上160mm/s以下が好ましい。
【0046】
油2の種類は、上記機械部品の種類に応じて適宜選択できる。油2の粘度(動粘度)は、焼結体1に含浸させ易くて、含油焼結体10から漏れ出難いことが好ましい。油2の粘度(動粘度)は、高いほど油2を焼結体1に含浸させ難いため、低い方が好ましい。しかし、油2の粘度(動粘度)は、低いほど油2を焼結体1に含浸させ易いが、含油焼結体10から抜け出てき易く含油焼結体10に保持した状態を維持させることが難しい。油2の粘度(動粘度)は、焼結体1のサイズ・形状・密度などによるが、3.0mm
2/s以上10.0mm
2/sが好ましい。油2の粘度(動粘度)は、4.0mm
2/s以上9.0mm
2/sが挙げられる。
【0047】
この含油処理工程により含油焼結体10の含油率は、高くできる。そのため、含油焼結体10の防錆性の向上に加えて、含油処理工程後に穴あけ加工などの機械加工を施す場合には、その加工性を向上できる。含油焼結体10の含油率は、上記保持時間が短くても0.45質量%以上とすることができ、更には0.6質量%以上、特に0.65質量以上とすることもできる。含油率は、[{(含油焼結体の質量)−(焼結体の質量)}/(含油焼結体の質量)]×100により求めた値のことである。
【0048】
〔作用効果〕
以上説明した実施形態1に係る含油焼結体の製造方法によれば、進入速度を取出速度よりも遅くすることで、油中での保持時間が短くても、含油率がばらつき難くて含油率の高い含油焼結体を製造できる。
【0049】
《試験例1》
焼結体に対して含油処理工程を行って含油焼結体の試料を作製し、各試料の含油率を測定すると共に、各試料に対してドリルを用いて穴あけ加工を施してスラスト力を測定して、含油率とスラスト力の関係を求めた。
【0050】
[焼結体]
含油処理対象である焼結体は、以下に示す材質・形状・サイズ・密度のものを用意した。密度は、サイズと質量から算出した見かけ密度とした。
材質:D−40(焼結鋼)
形状:円筒状
厚さ(軸孔方向に沿った長さ):27.4mm(内径:14mm、外径:52.3mm)
密度:6.95g/cm
3
【0051】
[試料No.1−1、1−2、1−101〜1−105]
含油焼結体の試料No.1−1、1−2、1−101〜1−105はそれぞれ、3つの焼結体を個別に油中に浸漬することで作製した。焼結体の油中への浸漬には、
図1に示す昇降台100を用いた。各試料における油の温度(℃)及び動粘度(mm
2/s)、進入速度(mm/s)、取出速度(mm/s)、保持時間(秒)をまとめて表1に示す。
【0052】
[試料No.1−201〜1−203]
含油焼結体の試料No.1−201〜1−203は、従来技術と同様にして、複数の焼結体を積層してまとめて油中に浸漬することで作製した。即ち、複数の焼結体を22段積層した積層物を金網トレイ上に複数並列し、金網トレイごと焼結体を油中に浸漬させた。各試料における油の温度(℃)及び動粘度(mm
2/s)、進入速度(mm/s)、取出速度(mm/s)、保持時間(秒)をまとめて表1に示す。試料No.1−201は上記積層物において最上段、試料No.1−202は同中段、試料No.1−203は同最下段に相当する。そのため、試料No.1−201〜1−203の保持時間が相違している。
【0053】
[含油率測定]
各試料の含油率を測定した。含油率は、[{(含油焼結体の質量)−(焼結体の質量)}/(含油焼結体の質量)]×100により求めた。その結果を、表1に示す。
【0054】
[スラスト力測定]
ドリルを用いて各試料の含油焼結体の外周面から内周面に至る貫通孔を形成し、そのスラスト荷重の推移を測定した。ドリルには、超硬ドリル(OSG株式会社製 FT−GDN6.1)を用い、クーラントには、ハイソルX(濃度5% BPジャパン株式会社製)を用いた。ドリルの回転数は2653rpmとし、ドリルの送り速度は、199mm/minとした。スラスト力の推移の測定には、切削動力計(日本キスラー株式会社製、型番9272)を使用した。各試料におけるスラスト力の最大値を表1に示す。
【0056】
表1に示すように、焼結体を個別に油中に浸漬する際の進入速度を取出速度よりも遅くした試料No.1−1、1−2の含油率はいずれも0.45質量%以上であった。特に、試料No.1−1の含油率は3つとも0.55質量%以上であり、含油率が非常に高い。そして、試料No.1−1における最大含油率と最小含油率の差が0.1質量%以下であり、試料No.1−2のその差は0.02質量%以下であり、試料No.1−1、1−2は、含油率のばらつきが非常に小さい。この試料No.1−1、1−2のスラスト力は、非常に小さい。
【0057】
一方、焼結体を個別に油中に浸漬する際の進入速度と取出速度とを同じ速度とした試料No.1−101〜1−104は、含油率が0.45質量%未満であった。また、試料No.1−103やNo.1−104のように保持時間を6秒や10秒としても、保持時間を2秒とした試料No.1−101と含油率が略同様であり、保持時間を2秒とした試料No.1−201よりも低かった。そして、試料No.1−1や試料No.1−2に比較して、含油率が低い。さらに、含油率の高い試料No.1−105は、保持時間が86400秒(24時間)というように途方もなく長い時間保持しており、生産性の低下を招く。
【0058】
他方、積層した複数の焼結体をまとめて油中に浸漬した試料No.1−201〜1−203は、下段側ほど含油率が高くなる傾向にある。また、上段側と下段側とを比較すると含油率のばらつきが大きい。そして、同じ段同士では、下段側ほど含油率にばらつきが生じやすい傾向にある。