(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施態様に係る測色装置は、被写体及び基準色票を撮像するカラー画像入力手段、該カラー画像入力手段により入手されたカラー画像データを記憶する画像データ記憶手段、及び該画像データ記憶手段に記憶されたカラー画像データに含まれた画像の色を測
色する測色手段、を含む演算装置、並びに該測色手段により測定された被写体の色情報を出力する出力手段、を備える測色装置である。
被写体及び基準色票を撮像するカラー画像入力手段は、通常カラービデオカメラが用いられるが、被写体の種類によっては、カラーイメージスキャナーを用いてもよい。被写体は、特段限定されない。特に人の肌が被写体であることが好ましい。
カラー画像入力手段は、基準色票を同時に撮像しても良く、別々に撮像しても良い。別々に撮像する態様の場合、より容易に被写体を撮像することができる。別々に撮像する場合には、先に基準色票を撮像し、色彩基準値のRGBデータを色彩基準値記憶部に記憶させることが好ましい。
【0013】
入力されたカラー画像データは、画像データ記憶手段に記憶される。画像データ記憶手段は、コンピュータに搭載されるメモリを用いれば良い。
該画像データ記憶手段に記憶されたカラー画像データは、測色手段により画像の色を測色する。測色手段としては、例えば、本出願人が先に出願した特開平5−223642(特許文献1の出願公開公報)に開示された測色手段の構成を用いることができる。
【0014】
具体的な測色手段としては、基準色票を測色して得られた色彩基準値のRGBデータを記憶した色彩基準値記憶部、前記画像データ記憶手段に記載されたカラー画像データから基準色票の画像のRGBデータ及び画像データのRGBデータを抽出する画像抽出部、抽出された基準色票画像のRGBデータと前記色彩基準記憶部に記憶された色彩基準値のRGBデータとの差分を求める比較部、および求められた差分を用いて抽出された肌の色のRGBデータを補正する演算部を含むものが挙げられる。
【0015】
本実施態様に係る測色装置は、カメラなどを用いた測色装置により被写体を測色した場合に生じる、外部からの光の影響による測色の精度の低下、および、被写体の表面に反射が生じることによる誤差、に起因して正確な色測定をすることができないという課題を解決するものである。
本実施態様では、外部からの光については、光源以外の光が被写体を照射することを防ぐ外部光遮断部材を設けることで遮断する。また、被写体の表面に生じる反射については、光源の被写体側及びカメラなどのカラー画像入力手段の被写体側に、相互に直交する方向で偏光フィルターを設けることで抑える。
【0016】
本実施態様に係る測色装置は、カラー画像入力手段が被写体を照射するための光源を有し、加えて、光源以外の光が被写体を照射することを防ぐ外部光遮断部材を備える。
光源については特段限定されず、カラー画像入力手段に応じて、適宜選択すればよい。
外部光遮断部材は、外部光を遮断可能であれば材質・大きさ・形状は特段限定されず、カラー画像入力手段がカメラの場合には、カバー付きカメラを用いることが好ましい。カバーの形状は、外部光を遮断できるように被写体の種類に応じて適宜変更することができる。
被写体が人の肌である場合には、簡易に、光源以外の外部光を遮断して肌画像を入手することができる、カバー付きのデジタルカメラを用いることが望ましい。
【0017】
本実施態様に係る測色装置は、光源の被写体側及びカラー画像入力手段の被写体側に、相互に直交する方向で偏光フィルターを備える。
偏光フィルターとしては、2つの偏光フィルターを相互に直交する方向に備えること以外特段制限はなく、市販のものを適宜用いることができる。
【0018】
被写体の色情報を出力する出力手段は、色情報を出力出来ればよく、例えばディスプレイやプリンターなどがあげられる。
【0019】
図2は、後述する実施例において、偏光フィルターの設置の態様により、どのように取り込み画像が変化するかを示した肌画像である。それぞれ、1)偏光フィルターを相互に直交方向に備えた場合、2)偏光フィルターを相互に直交方向に備え、かつ、外部光が混入した場合、3)偏光フィルターを相互に平行方向に備えた場合、4)偏光フィルターを備えなかった場合、の取り込み画像を示す。
【0020】
外部光遮断部材を備えない装置による、取り込みカラー画像である2)は、偏光フィルターを備えているにも関わらず、外部からの光の影響によりはっきりと色が表されず、白色が強い部分が存在することがわかる。このように、外部光遮断部材を備えない場合には、測色の精度が低下する。
外部光遮断部材を備え、偏光フィルターを備えていない取り込みカラー画像である4)は、肌表面の凹凸の反射による明暗変化に基づくシワの表示、及び表面反射のテカリにより、精度の高い測色を実現することができない。また、外部光遮断部材を備え、偏光フィルターを平行方向に配置した取り込みカラー画像である3)は、偏光フィルターを設置したことによる反射の抑制効果が十分に得られず、肌表面の凹凸の反射による明暗変化に基づくシワの表示、及び表面反射のテカリにより、精度の高い測色を実現することができない。
【0021】
一方、本発明の実施態様に係る測色装置は、外部光遮断部材を備え、かつ、偏光フィルターを相互に直交する方向に配置することで、
図2の1)に示すように外部光の影響や反射による影響を排除し、精度の高い測色を実現することが可能となる。
【0022】
以下、
図1に示すフローチャートにより本実施態様に係る測色装置が実施するステップの例を説明する。なお、本発明の測色装置が実施するステップは、本発明者らが先に出願した特開平5−223642号公報や特開2002−189918号公報にも説明されている。
本実施態様に係る測色装置は、基準測色ステップS1で、基準色票の色彩基準値をRGBデータで得るべく予め基準色票をカラー画像入力手段で撮像する。
次に、カラー画像入力ステップ2で、被写体を、又は被写体及び基準色票を撮像して、RGBデータを得る。
画像抽出ステップS3では、S1及びS2で得られたRGBデータの中から基準色票のRGBデータと被写体のRGBデータを抽出する。
比較ステップS4では、S3で抽出された基準色票のRGBデータと基準色票のRGB色彩基準値データとを比較し、その差分を求める。
補正ステップS5では、S4で求めた差分が最小となるように、基準色票のRGBデータを補正し、同様の方法で被写体のRGBデータを補正する。
そして、出力ステップS6では、S5で補正された被写体の色情報を出力する。
【0023】
本実施態様では、カラー画像入力手段は演算装置であるコンピュータと接続され、コンピュータ内にカラー画像が取り込まれた後、出力までの操作はすべてコンピュータが行う。コンピュータとしては、パーソナルコンピュータ、ワークステーションなど、その種類は特段限定されない。
【0024】
上記説明した本実施態様に係る測色装置を用いることで、肌情報に関する分析を正確に行うことができる。
より具体的には、被験者に最も適した化粧料を提供するための肌色マップを製造することが可能となる。
【0025】
本実施態様に係る測色装置による測色結果を用いた肌色マップは、肌の色情報を示す軸を少なくとも2つ有する肌色マップであって、上記測色装置により測定された被験者の肌
の色情報が併せて表示される。
本発明の肌色マップは、肌の色情報を示す軸を少なくとも2つ有するものであり、2軸の場合には平面マップとなり、3軸の場合には立体マップとなる。平面マップの場合には、ディスプレイ上に表示してもよく、印刷物として出力したものでも良い。一方、立体マップの場合には、ディスプレイ上に表示してもよく、立体模型としても良い。
【0026】
マップの軸が有する肌情報としては肌の明度、肌の色相、肌の彩度から選択される。そして、このようなマップに、本発明の測色装置により得られた色情報を併せて表示することで、被験者の肌の色情報を客観的に得ることができる。
このように被験者の肌の色情報を客観的に示すことができるため、予め肌色マップの各領域に対応する色のファンデーションを決めておくことで、被験者の肌色に最適なファンデーションの選択が可能となる。
【0027】
図3には、本実施態様に係る肌色マップの一態様を示す。
図3は二次元の肌色マップであり、縦軸方向に明度、横軸方向に色相を示す。本発明の肌色マップを作製するためには、画像データ記憶手段、及び測色手段を有するコンピュータに、予めこのような二次元の肌色マップを出力できるように設定し、被写体の肌の色情報を併せて出力することで、被写体の肌の色情報を客観的に把握することが可能となる。
また、
図3(a)のように、領域を予め9分割しておき、その領域ごとに好ましいファンデーションの色を決めておくことで、被験者への適するファンデーションの選択が可能となる。また、
図3(b)のように、領域を予め18分割しておき、その領域ごとに好ましいファンデーションの色を決めておくことで、ファンデーションの選択をより細やかなものとすることができる。
図3では領域を9分割又は18分割しているが、選択可能なファンデーションの色・数を考慮して、任意にn分割(nは整数)とすることが可能であり、6分割以上であることが好ましく、9分割以上がより好ましい。一方で24分割以下であることが好ましく、18分割以下であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の測色装置は、カメラを用いた測色装置のため、従来測色に用いられてきた分光光度計では得られない肌情報、すなわち肌色の均一性(肌色の分散値)に関する情報を得ることができる。
なお、肌色の均一性については、例えば香粧会誌Vol.20 No.2(1996)P78−79に記載の方法により測定することができる。
このように、本発明の測色装置を用いることで、肌色の分散値に関する情報を得ることができる。肌色の分散値に関する情報を用いることで、肌情報を鑑別することができる。
【0029】
具体的には、上記測色装置により測定された被験者の肌の色情報に基づき、肌色の分散値を準備する工程、及び前記工程で準備された肌色の分散値を指標として肌状態を鑑別するものである。
【0030】
乳頭構造とは皮膚の真皮と表皮の接する界面構造のことをいう。通常、乳頭突起と表皮突起が互いに組み合わさることにより形成される、乳頭状〜波型の凹凸が並ぶ構造である。また、乳頭突起とは真皮突起ともいい、真皮が表皮側に侵入する部分であり、表皮突起とは表皮が真皮側に突出した部分をいう。
本発明者らが検討したところ、肌色、特に肌色の分散値は、毛細血管の構造や分布が大きく影響し、毛細血管を抱える乳頭突起の分布・配置がこれに寄与する。具体的には、乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、肌表面から入った光がこの凹凸に当たって散乱することによりソフトフォーカス効果が得られ、また乳頭突起が規則的に並んでいると、毛細血管の分布もそれに伴うため均一な肌色となり、いわゆる肌の内側から輝くような明るい肌色になる。一方、乳頭構造が平坦だと、肌表面から入った光は正反射してあたたかみのない肌色になり、また乳頭突起がまばらに並んでいると、毛細血管の分布もムラができ、
肌色は不均一となるので肌のくすみを生じさせる。
このような知見により、肌色の分散値を指標とすることで、乳頭構造を推定することが可能となる。
【0031】
このように乳頭構造を推定することで、肌の状態を鑑別することが可能となる。すなわち、肌色の分散値が均一な肌色を示している場合には、乳頭構造の凹凸がはっきりしていると推定され、肌の状態が良いと鑑別することができる。一方、肌色の分散値が不均一な肌色を示している場合には、乳頭構造が平坦であると推定され、肌の状態が良くないと鑑別することができる。
【0032】
以下、本発明の実施態様に係る測色装置が行う処理について説明する。
<第一の工程>
まず、色基準の色票を撮影し、カメラの色特性を計算するための画像を得る。
色基準の色票例を
図4に示す。本実施態様では肌色の測定精度を高めることを目的として、色基準色票を肌色の範囲に近い色に設定した。
図4の例は平均的な肌色を中心とした肌色範囲を設定した後、肌色範囲の明度が下限付近の赤色寄りiと黄色寄りiiの2色、肌色範囲の明度が上限付近の赤色寄りiiiと黄色寄りivの2色、計4色を選定し、肌色範囲の四隅に布置されるように設定した。
【0033】
次に、色基準色票の画像から、カメラ特有の色特性を計算する。
ここでの色特性とは、基準とするカメラのRGB値に換算するための係数であり、次の(式1)に示すa11〜a33(係数行列)を求めることである。
【数1】
【0034】
a11〜a33の値を求めるためには最低3色の基準色票が必要であるが、4色を撮影した画像を得ているので、この画像のrgb 値からa11〜a33の値を求める。
このとき、基準と定める特定のカメラを設定し、基準カメラによる画像の色票の値を基準RGB値とする。その他のカメラでは、
図4の色票を撮影し、撮影した画像のrgb値が基準カメラの基準RGB値になるようなa11〜a33の値を求め、この値を個々のカメラと1対1で対応するカメラ固有の色特性とする。
【0035】
次に、測定例を
図5に示す。
図5の色丸印が測定箇所である。照明のムラがあるので、実施例では視野中央からほぼ等距離の位置で測定した。基準カメラの場合は画像上の測定箇所のRGB値が、そのまま基準のRGB値となる。基準カメラ以外のカメラでは、画像上の測定箇所のrgb値を、基準カメラのRGB値に変換するための係数行列a11〜a33を計算する。
カメラ固有の色特性によって換算したRGB値は、基準のカメラで撮影したRGB値と同一基準の値となる。この段階でカメラ間の個体差がキャンセルされ、基準カメラでの値に統一される。
ここまでのRGB値はカメラに固有の値であり、基準カメラが異なれば異なる値である。そのため、例えば、一般的な色測定器である分光測色計等で測定した値と一致するわけではない。機器から独立した値を求めるためには、次に述べる第二の工程が必要となる。
【0036】
<機器に依存しない一般的な基準(CIE)に従った値に変換する第二の工程>
一般的な基準(CIE)に準拠した表色系として、マンセル表色系への変換を例として説明する。最初にRGB値からXYZ値を経由してHVC値に変換する。ただし、RGB値は基準カメラに固有の値なので、変換して得たHVC値もカメラ固有の値である。このHVC値はCIE準拠のマンセル表色系の値と高い相関関係にはあるものの、絶対値は等しくない。そこで、カメラ固有の値と一般的な基準に従った値とを関係づけるため、線型回帰分析等の統計的手法を用いる。
まず、測色対象部位をCIE準拠の測色器(例えば、分光測色計)によって計測し、その値を測色値の基準とする。次に、同一部位を基準カメラ、あるいは基準カメラの値に変換するためのカメラ色特性が明らかなカメラによって撮影し、基準カメラによって得たRGB値を計算する。このようにして得た測色器の値と基準カメラのRGB値との関係式(検量線に相当)を統計的手法によって準備しておく。
新たな未知の測色対象に対しては、任意のカメラで撮影後、第一の工程としてカメラのrgb 値を基準カメラのRGB値に変換し、第二の工程で、基準カメラのRGB値から
、HVC値等に変換し、更に機器に依存しないCIE準拠の値(マンセル値やL*a*b*
値等)への変換をおこなう。
【実施例】
【0037】
<1.偏光フィルターと外部光遮断部材>
本実施態様に係る測色装置において、偏光フィルターの方向や外部光の影響等を比較した(
図2)。色の見かけの特徴を比較するため、視野下部に同一の色票を写し込んだ。測定対象の部位はヒト前腕内側の肌とした。
図2の画像から肌色を計算した結果と、基準とした分光測色値および基準との色差を表1に示す。なお、色差はNickersonの退色指数
*1による値とした。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すとおり、外部光の偏光フィルタを直交する方向に配置にしたとき、基準値との色差が最も小さくなり、測定精度が高くなった。
【0040】
次に、女性87名の顔面頬部を分光測色計と基準とするカメラ(以下、カメラ1とする)および精度検証用のカメラ(以下カメラ2とする)によって測定し、カメラ画像による測色方法の測定精度を検証する。87名のデータからランダムに79名を選択して回帰式の作成に用い、残りの8名を精度検証用に用いた。
【0041】
<2.基準とするカメラ1による測定>
カメラ1により
図4の色票を撮影し、
図5に示す4カ所のrgb値を撮影画像から測定し、この値を基準のRGB値とした。基準カメラのRGB値は基準に合わせる必要がないので、ここまでが第一の工程である。基準としたカメラの色特性(係数行列)を(式2)に示す。
【数2】
【0042】
次に、回帰式作成用の79名の画像から得た肌色のRGB値を、HVC値に変換計算した。
機器に依存しない分光測色計の値との関係式を得るために重回帰分析をおこなった。分析は色の3属性毎に行った。
【0043】
色相計算は、分光測色計のマンセル色相(H(JIS Z8721 1964))を従属変数とし、独立
変数はカメラ1のRGB値、HVC値、その他RGB値から変換計算できる紅斑指数、メラニン指数等の推定に有効と思われる値とした。
明度計算は、分光測色計のマンセル明度(V(JIS Z8721 1964))を従属変数とし、独立
変数は色相計算と同様とした。
彩度計算は、分光測色計のマンセル彩度(C(JIS Z8721 1964))を従属変数とし、独立
変数は色相計算と同様とした。
独立変数の選択は重回帰分析のステップワイズ法によっておこなった。
【0044】
結果の回帰式は次のとおりとなった。
(1)マンセル色相 =
0.197×H - 98.370×(紅斑指数)- 0.223×(B値の標準偏差)+ 11.550 …(式3)
重相関係数R = 0.820、自由度調整済みR
2= 0.659
(2)マンセル明度 =
0.019×(G値)+ 3.498 …(式4)
重相関係数R = 0.730、自由度調整済みR
2= 0.527
(3)マンセル彩度 =
0.003×(C値)- 0.010×(B値)+ 4.997 …(式5)
重相関係数R = 0.679、自由度調整済みR
2= 0.447
【0045】
<3.精度検証用のカメラ2による測定>
カメラ2により
図4の色票を撮影し、
図5に示す4カ所のrgb値を撮影画像から測定する。この値を基準カメラ1のRGB値と等しくするためのa11〜a33を求め、カメラ2の色特性とした。本実施例のカメラ2の色特性(係数行列)を以下に示す(式6)。
【数3】
【0046】
精度検証用の8名の画像から得たrgb 値を、(式6)に示したカメラ2の色特性(係数行列)と(式1)を用いてカメラ1のRGB値に換算した。ここまでがカメラ2の第一工程である。
次に、HVC値への変換および回帰式に必要なHVC以外の紅斑指数等の変数を算出した
。
カメラ1のデータによって作成した回帰式(式3〜5)に、カメラ2の画像から求めたRGB値を入れ、マンセル色相、明度、彩度を求めた。
【0047】
【表2】
【0048】
8名の推定計算結果と基準となる分光測色計の値、および測色計と推定値との色差を表2に示す。概ね良好な結果であり、カメラ画像による精度の高い測色が可能であった。なお、色差はNickersonの退色指数による値とした。
【0049】
<4.肌色マップの作成およびその使用>
図3(a)に示すように、縦軸を明度、横軸を色相として、9分割した肌色マップを作製した。肌色マップの四つの角には、それぞれ基準色票を配置した。
次に、カメラ1により被験者の肌を撮像し、肌色マップ上にその色情報を配置することで、9分割した肌色マップのうち、どのセルに所属するかを決定する。
そして、セルに対応するファンデーションを選択することで、被験者の肌色に適したファンデーションを提供することが可能となる。セルに対応するファンデーションは、予め準備する。
女性顔面の肌色マップの色範囲は、マンセル表色系にて例示すると、明度軸は4.5〜9.0、色相軸は9.0R〜10.0YR、彩度軸は3.0〜5.0が好ましい。さらに日本人女性の場合は、明度軸は5.0〜8.0、色相軸は10.0R〜10.0YR、彩度軸は3.0〜5.0の色範囲が適している。
ファンデーション選択のための肌色マップの色範囲は
図3に示した四角形だけでなく、円形、多角形とすることもできる。また、隣接する色範囲の境界はオーバーラップすることもある。
【0050】
<5.乳頭構造の推定>
本発明者らは、肌色と乳頭の観察結果から、肌色と乳頭形状の相関関係を見出している。
本発明者らの知見では、肌の色が均一だと、乳頭突起が均一に配列していること、乳頭突起の高さがそろっていること、乳頭突起水平断面の形状がほぼ同じ面積の円形でそろっていること、が推定される。
特に、肌の明るさ、または鮮やかさが均一であると、人は「美しく好ましい」と感じるが、このときは、単位面積当たりの乳頭突起の個数が多く、乳頭突起が均一に配列していて、乳頭突起に高さがあり、その高さがそろっていていること、乳頭突起水平断面の形状は面積の小さい円形であることが、推定される。
以上の本発明者らの知見に基づき、本発明の実施態様に係る測色装置を用いて肌色を測定した結果、乳頭構造が推定される。そして、該乳頭構造から、肌状態を鑑別し、肌の状態に適切な化粧品を鑑別することができる。
【0051】
<参考例>
以下、本発明者らが行った、乳頭構造に基づく肌状態の鑑別の実験について示す。
(1)乳頭突起の個数の測定
20〜60代の88名の日本人女性被験者の頬部について、2mm×2mmの観察範囲における乳頭突起の個数を測定した。測定は共焦点レーザー生体顕微鏡(VivaScope 1500Plus;米国Lucid社製)を用いて行い、頬部にプローブを置き、3μm深さ毎に180μmの深さまで、合計60平面の2mm×2mmの範囲を計測した。撮像した中で最も見やすく乳頭突起断面(輝度の高い基底細胞に囲まれた円形断面)が観察される平面画像において乳頭突起の個数をカウントした。典型的な撮像を
図6に示す(ただし、
図6は前記計測領域から1mm×1mmの範囲を切り出したものである)。
【0052】
(2)皮膚粘弾物性の測定
前記被検者の乳頭突起の個数を測定したのと同じ頬部位における、皮膚に対して水平方向へ変形を加えた場合の戻り値を測定し、これをハリ・弾力を表す皮膚粘弾物性値とした。具体的には、皮膚に基準点(位置:0mm)を設け、これを支点として皮膚に水平な方向へ78.6g重の力で引っ張り、該力を除去した直後に基準点が戻った位置の基準位置からの距離(mm)を測定した。この値が0mmに近いほど、皮膚が水平方向の変形に対して復元する性質に優れ、肌のハリ・弾力が大きいことを示す。
【0053】
(3)解析
上記測定した乳頭突起の個数と皮膚粘弾物性値を用いて、JMP ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(
図7)。その結果、乳頭突起の個数と皮膚粘弾物性値との間に有意な相関関係の存在が認められ、乳頭突起の個数を指標として肌のハリ・弾力に関する状態を推定できることがわかる。