特許第6476705号(P6476705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476705
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】抗原検出のための前処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20190225BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   G01N33/48 A
   G01N33/569 C
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-203592(P2014-203592)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-70896(P2016-70896A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 研吾
(72)【発明者】
【氏名】青木 美穂
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/183621(WO,A1)
【文献】 特開2001−318101(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/008255(WO,A1)
【文献】 特開昭63−231268(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/041595(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/061418(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫学的測定のための検体の前処理方法であって、以下の[1]から[3]までの工程を含む方法。
[1]亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液を、3以上のウェルを有するカートリッジのうち2つのウェルに、それぞれ別々に保持する工程。
[2]前記カートリッジのうち、前記2種類の試薬溶液が保持されていないウェルにて、自動で前記2種類の試薬溶液および検体を混合する工程。
[3]前記2種類の試薬溶液と検体との混合溶液を、30℃から50℃の間で30秒から2分保持する工程。
【請求項2】
前記工程[3]において検体を35℃から50℃の間で保持する、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記工程[3]において検体を40℃〜50℃の間で保持する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程[3]において保持時間が1分から2分である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
検体がA群β溶血連鎖球菌を含む検体である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の前処理方法で処理された検体中の測定対象物質を、免疫学的方法で測定する方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の方法に用いるためのカートリッジであって、3以上のウェルを有し、そのうち2つのウェルに、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、それぞれ別々に保持されているカートリッジ。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の方法に用いるための検査キットであって、以下の[1]から[2]の構成を含むキット。
[1]3以上のウェルを有するカートリッジであって、そのうち2つのウェルに、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、それぞれ別々に保持されているカートリッジ。
[2]検体中の測定対象物質検出用の抗体を含む試薬。
【請求項9】
測定対象物質がA群β溶血連鎖球菌である、請求項に記載の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原検出のための前処理方法に関し、例えば被検者の咽頭から採取した咽頭ぬぐい液中にA群β溶血連鎖球菌(streptococcus pyogenes)抗原が存在するか否かを検査する際に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、A群β溶血連鎖球菌抗原の存在の有無を検査する検出キットとしては、使用直前に2種の薬液を混合して用いるA群β溶血連鎖球菌抗原キットが知られている(例えば、非特許文献1参照)。実際上、このA群β溶血連鎖球菌抗原キットは、例えば、2[mol/L]亜硝酸ナトリウムを成分とする薬液Aが入った第1ボトルと、0.2[mol/L]酢酸を成分とする薬液Bが入った第2ボトルと、試験管形状の抽出用チューブと、被検者の炎症部分である咽頭から検体を採取する綿棒と、陽性又は陰性を判定するテストストリップとから構成されている。
【0003】
このA群β溶血連鎖球菌抗原キットでは、多糖抗原たるA群β溶血連鎖球菌抗原を菌体から遊離させて抽出するために、亜硝酸を用いており、使用直前に亜硝酸を含んだ混合薬液を生成する。このA群β溶血連鎖球菌抗原キットでは、使用する直前に、第1ボトル内の薬液Aと、第2ボトル内の薬液Bとをそれぞれ数滴、抽出用チューブに滴下し、検体抽出液として亜硝酸を成分とした混合薬液を生成する。
【0004】
使用者は、被検者の咽頭等の炎症部分を、綿棒等でぬぐって検体を採取し、この綿棒を用いて先に混合した亜硝酸を成分とする混合薬液をかき回した後、約1〜2分程度室温で放置する。
【0005】
次いで、使用者は、親指及び人差し指の腹にて抽出用チューブを潰し、抽出用チューブ内の先端綿球部を、当該抽出用チューブの側壁を介して強く摘み、先端綿球部に染み込んだ検体や混合薬液を絞り出しながら、綿棒を抽出用チューブから取り出す。このようにして、抽出用チューブ内には、先端綿球部にて採取した検体が混合薬液中に放出された試液が生成され得る。
【0006】
最後に、抽出用チューブ内の試液に、テストストリップの判定部を浸した後、所定時間経過後に、判定部における抗原抗体反応によるライン出現の有無を目視にて確認し、当該ライン出現の有無を基に、試液内にA群β溶血連鎖球菌抗原が存在するか否かを判定し得るようになされている。
【0007】
しかしながら、かかる構成でなるA群β溶血連鎖球菌抗原キットにおいて、抽出用チューブ内に生成された混合薬液は、不安定な亜硝酸を含んでいるため、事前に混合して抽出用チューブに保管しておくと変質してしまい、検査に用いることができなくなることから、医療現場にて使用直前にその都度混合せざるを得ず、用時調製する必要があった。そのため、使用者によっては、薬液Aと薬液Bの混合割合を誤ってしまう虞もある。その場合には、陰性にも関わらず偽陽性となってしまったり、また、陽性にも関わらず偽陰性となってしまうこともあるため、正しい診断結果が得られない場合もあるという問題があった。(たとえば、特許文献1を参照。)
【0008】
その一方、このような誤った用時調製の問題点を解決するため、従来のA群β溶血連鎖球菌抗原キットとして、例えば所定量の薬液Bが予め入った外側ボトル中に、所定量の薬液Aが予め入ったアンプルを収納したアンプル収納型ボトルを用いたものも知られている。この種のA群β溶血連鎖球菌抗原キットでは、不使用時、薬液Aと薬液Bとが外側ボトル内にてアンプルにより隔離された状態にあるものの、使用直前に、柔軟性のある軟質材料からなる外側ボトルを指で強く摘んでアンプルを潰すことにより、中のアンプルを破壊し、アンプル内の所定量の薬液Aを、外側ボトル内の薬液Bと混合させることで、薬液Aと薬液Bとが最適な混合比率で混合された混合薬液を生成し得る。
【0009】
しかしながら、この種のA群β溶血連鎖球菌抗原キットでも、薬液Aと薬液Bとを最適な混合比率で混合させた混合薬液を生成できるものの、使用直前に混合薬液を用時調製する必要があることに変わりなく、その分、使用者にとって手間がかかるという問題があった。また、使用者が誤って外側ボトル内のアンプルを破壊してしまい薬液Aと薬液Bとを混合させてしまったり、或いは、A群β溶血連鎖球菌抗原キットを搬送中に、何らかの原因でアンプル収納型ボトルに衝撃が加えられ、外側ボトル内のアンプルが破壊されてしまうと、使用者が意図しないタイミングで薬液Aと薬液Bとが混合されてしまう。
【0010】
このように、薬液Aと薬液Bとが意図しないタイミングで混合されてしまった場合には、外側ボトル内にて生成された混合薬液が時間経過とともに変質してしまい、その後、検査に用いることができないことから、このような誤った調製が行われないことが望まれている。(たとえば、特許文献1を参照。)
【0011】
また、これまでのかかる前処理は亜硝酸を含む混合液にて室温で1分から2分程静置し処理が行われており、その後のイムノクロマト法を原理とするキットでの検出時間は5分から15分を要するため、操作時間(約1分程度)も含めるとA群連鎖球菌の検出としては合計で7分から18分を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2013/183621
【特許文献2】WO2010/041595
【特許文献3】特許3994337
【特許文献4】特開2013−87069
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】体外診断用医薬品「A群ベータ溶血連鎖球菌抗原キット スタットチェックTMストレップA−II」添付文書(株式会社カイノス、2009年8月作成)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、前処理工程を自動化することで前処理試薬の用時調製を不要とし、さらに、前処理中に加温を行うことで効率よく抗原を抽出できる方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、A群連鎖球菌を含む可能性のある検体を亜硝酸溶液と酢酸溶液またはクエン酸溶液を混合し処理する工程を自動化することで前処理試薬の用時調製を不要とし試薬の誤調製を防止した。さらに、前処理を30℃〜50℃で10秒〜2分間加温することで、効率よく抗原を抽出できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下のような構成からなる。
【0016】
[項1]
免疫学的測定のための検体の前処理方法であって、以下の[1]から[3]までの工程を含む方法。
[1]亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液を、3以上のウェルを有するカートリッジのうち2つのウェルに、それぞれ別々に保持する工程。
[2]前記カートリッジのうち、前記2種類の試薬溶液が保持されていないウェルにて、自動で前記2種類の試薬溶液および検体を混合する工程。
[3]前記2種類の試薬溶液と検体との混合溶液を一定時間保持する工程。
[項2]
前記工程[3]において検体を30℃から50℃の間で保持する、項1に記載の方法
[項3]
前記工程[3]において保持時間が10秒から2分である、項1または2に記載の方法。
[項4]
検体がA群β溶血連鎖球菌を含む検体である、項1〜3のいずれかに記載の方法。
[項5]
項1〜4のいずれかに記載の前処理方法で処理された検体中の測定対象物質を、免疫学的方法で測定する方法。
[項6]
項1〜5のいずれかに記載の方法に用いるためのカートリッジであって、3以上のウェルを有し、そのうち2つのウェルに、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、それぞれ別々に保持されているカートリッジ。
[項7]
項1〜4のいずれかに記載の方法に用いるための検査キットであって、以下の[1]から[2]の構成を含むキット。
[1]3以上のウェルを有するカートリッジであって、そのうち2つのウェルに、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、それぞれ別々に保持されているカートリッジ。
[2]検体中の測定対象物質検出用の抗体を含む試薬。
[項8]
測定対象物質がA群β溶血連鎖球菌である、項7に記載の検査キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、亜硝酸を含有する試薬および酢酸またはクエン酸を含有する試薬を別々のウェルに保持したカートリッジにて自動で上記2液および検体を混合し、検体を処理することにより、医療現場での用時調製を不要にできるとともに、誤った調製をも防止できる。また検体の前処理を加温して行うことでより効率良く抗原を抽出できることから検査時間を短縮することができ、かつ検査精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明で用いるカートリッジの例。
図2】本発明で用いる反応容器の例。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態の一つは、免疫学的測定のための検体の前処理方法であって、以下の[1]から[3]までの工程を含む方法である。
[1]亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液を、3以上のウェルを有するカートリッジのうち2つのウェルに、それぞれ別々に保持する工程。
[2]前記カートリッジのうち、前記2種類の試薬溶液が保持されていないウェルにて、自動で前記2種類の試薬溶液および検体を混合する工程。
[3]前記2種類の試薬溶液と検体との混合溶液を一定時間保持する工程。
【0020】
測定対象物質を成分として含有する検体としては、血清、血漿、血液、髄液等の各種体液や尿等の排泄物、便等の希釈物から固形分を除去したもの、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、咽頭ぬぐい液、唾液、鼻汁などから採取した各種組織の抽出液等が挙げられ、特に限定されない。これらに希釈や前処理等の操作を行って得たものも、検体となりうる。なお、検体には必ずしも測定対象物質が成分として含有されている必要はなく、測定対象物質を成分として含有する可能性があることを前提とした検体であってもよい。
【0021】
本発明の方法が適用される免疫学的測定の対象は特に限定されない。例えば、被測定物質としては、タンパク質、脂質、糖類があり、それには例えば、各種抗原、抗体、レセプター、酵素などが含まれる。
【0022】
なかでも、本発明の方法が好適に用いられるのは、前記測定対象が微生物等の細胞壁の内部に存在し、測定のためには前記微生物等から測定対象を溶出させる必要がある場合である。このような測定対象としては、グラム陰性菌、グラム陽性菌が挙げられ、中でもグラム陽性菌に属するA群β溶血連鎖球菌中の抗原を溶出させる際に好適である。
【0023】
本発明の方法では3以上のウェルを有するカートリッジを用いる。前記ウェルは、免疫学的測定において、目的に応じて種々の役割を有する。例えば、本発明の方法に必要な試薬を保持および/または保存する容器としての役割や、試薬や検体等を混合させる混合槽および/または反応槽としての役割を有する。さらに別の目的に使用させてもよい。
【0024】
本発明の前処理方法によれば、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、酢酸またはクエン酸を含有する試薬溶液を、3以上のウェルを有するカートリッジのうち2つの別々のウェルに保持させ、前記カートリッジのうち、前記2種類の試薬溶液が保持されていない別のウェルにて、自動で前記2種類の試薬溶液および検体を混合し一定時間保持する。これらの工程によって、亜硝酸と酢酸またはクエン酸の反応により発生する窒素ガスにて、測定対象を含んでいる微生物等の細胞壁を破壊し、測定対象物質を溶出させる。
【0025】
自動で試薬や検体を混合する方法は、種々の方法が知られており特に限定されない。例えば、モーター等により2次元または3次元方向の制御が可能な分注用のポンプやピペット等と、チップとの組み合わせによって、試料や試薬を分注・混合すればよい。前記モーターは、従来公知の駆動手段を好適に利用可能であり、例えば、サーボモーター、ステッピングモーターやリニアモーターなど機械的に駆動するものを挙げることができる。前記分注用ポンプには、例えば、ペンシルポンプなどを挙げることができる。また、前記チップは、前記分注用のポンプやピペットに合ったものを適宜用いればよい。また、これらは、市販の自動分注装置を用いてもよい。
【0026】
自動で亜硝酸を含有する試薬溶液および酢酸またはクエン酸を含有する試薬溶液を混合することにより、医療現場での用時調製を不要にできるとともに、誤った調製をも防止できる。また検体の前処理を加温して行うことでより効率良く抗原を抽出できることから検査時間を短縮することができ、かつ検査精度が向上する。
【0027】
本発明の方法で用いられる亜硝酸を含有する試薬溶液中の亜硝酸濃度は特に限定されないが、好ましい下限は1mmol/L、さらに好ましくは2mmol/L、さらに好ましくは4mmol/Lである。一方、好ましい上限は15mmo/L、さらに好ましくは10mmol/L、さらに好ましくは8mmol/Lである。
【0028】
本発明の方法で用いられるクエン酸を含有する試薬溶液中のクエン酸濃度は特に限定されないが、好ましい下限は0.01mmol/L、さらに好ましくは0.02mmol/L、さらに好ましくは0.02mmol/Lである。一方、好ましい上限は1.0mmol/L、さらに好ましくは0.5mmol/L、さらに好ましくは0.1mmol/Lである。
【0029】
本発明の方法で用いられる酢酸を含有する試薬溶液中の酢酸濃度は特に限定されないが、好ましい下限は0.01mmol/L、さらに好ましくは0.05mmol/L、さらに好ましくは0.1mmol/Lである。一方、好ましい上限は5.0mmol/L、さらに好ましくは1.0mmol/L、さらに好ましくは0.8mmol/Lである。
【0030】
本発明の方法において、亜硝酸を含有する試薬溶液、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液、および、検体を混合させた溶液を保持する温度は、特に限定されないが、好ましい下限は30℃であり、さらに好ましい下限は35℃である。一方、好ましい上限は50℃であり、さらに好ましくは45℃である。
温度を保持させる方法は、種々の方法が知られており特に限定されない。例えば、市販のヒーターおよびサーミスタに、市販のヒートブロックを適宜組み合わせて用いればよい。
【0031】
本発明の方法において、亜硝酸を含有する試薬溶液、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液、および、検体を混合させた溶液を保持する時間は、特に限定されないが、好ましい下限は10秒であり、さらに好ましい下限は30秒である。一方、好ましい上限は2分であり、さらに好ましくは1分である。
【0032】
本発明の別の実施形態は、前記の前処理方法で処理された検体中の測定対象物質を、免疫学的方法で測定する方法である。免疫学的方法としては特に限定されない。ELISAやイムノクロマトグラフィーなど、種々の方法を適用することができる。
【0033】
本発明の別の実施形態は、前記の前処理方法や免疫学的測定法に用いるためのカートリッジであって、3以上のウェルを有し、そのうち2つのウェルに、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、それぞれ別々に保持されているカートリッジである。
【0034】
前記カートリッジの形態は、特に限定されるものではない。
ウェルの数は、検体の前処理に用いるのであれば、3以上であれば特に限定されない。前処理された検体をさらに免疫学的測定法に供する場合は、さらに、測定対象物質の測定原理(たとえば測定のステップ数や必要な試薬数など)に応じて適宜増やせば良く、好ましくは5以上である。ウェル数の上限は特にないが、1測定項目あたり15以下であることが好ましく、さらに好ましくは13以下である。
ウェルの大きさやカートリッジ上の位置は特に限定されない。例えば、入手できる検体の量、測定に必要な試薬量、適用する機器との対応関係など事情に応じて適宜決めればよい。
【0035】
本発明で用いるカートリッジの例を図1に示す。本例のカートリッジは、いくつかの区切られたセルが結合した形態をしており、自動化のためにこのカートリッジと組み合わせて用いる機器の制御動作を単純化させるために、各セルの結合は一次元方向(本例では一直線上)に直列となっている(前記一次元方向は、円周上であってもかまわない。)。各セルの大きさは同じでなくてもよく、図1の例では検体を分注するセルの大きさが他のセルとは異なっている。
【0036】
本発明で用いるカートリッジは、少なくとも、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、使用直前までシールされ密封されていることが好ましい。また、前記シールは、測定時に前記チップにより穿孔される構造となっていることが好ましい。そのような構造に適したフィルムとしては、特に限定されるものではないが、アルミフィルム、アルミ蒸着フィルムが例示される。
【0037】
カートリッジは、免疫学的測定に用いられる抗体の種類を、測定対象に応じて適宜変更する必要があるので、測定対象ごとに別々の試薬を充填する必要がある。これらを区別するため、カートリッジには、バーコードリーダーで読み取れるようなバーコードを貼り付けてもよい。
【0038】
本発明の別の実施形態は、前記の免疫学的測定方法に用いるための検査キットであって、以下の[1]から[2]の構成を含むキットである。
[1]3以上のウェルを有するカートリッジであって、そのうち2つのウェルに、亜硝酸を含有する試薬溶液、および、クエン酸または酢酸を含有する試薬溶液が、それぞれ別々に保持されているカートリッジ。
[2]検体中の測定対象物質検出用の抗体を含む試薬。
【0039】
前記キットにおいて、検体中の測定対象物質検出用の抗体を含む試薬は、前記カートリッジとは別に用意されても良いし、前記カートリッジに保持されて提供されても良い。前記検出用試薬がカートリッジに保持される場合は、カートリッジのウェルの数は、少なくとも、3に前記検出用試薬の数を上乗せした数でなければならない。
【0040】
このようなキットの構成として、測定対象物質がA群β溶血連鎖球菌である場合を例に、以下、説明する。
本発明のキットの構成として、例えば、特許文献2に記載の試薬カートリッジ(図1)の各ウェルに以下の溶液が別々に保持されているキットを用いることが好適である。
[A]ブロック液
[B]洗浄液
[C]R1試薬(ビオチン標識抗A群β溶血連鎖球菌抗体)
[D]R2試薬(アルカリフォスファターゼ標識抗A群β溶血連鎖球菌抗体)
[E]R3試薬(発光基質)
[F]亜硝酸を含む溶液
[G]クエン酸を含む溶液
【0041】
前記ブロック液は、酵素抗体反応および酵素反応に無関係なタンパク質で固相表面を覆い、後のステップで作用させるタンパク質が固相表面に吸着されるのを防ぐためのブロッキング剤を含む。本発明で用いるブロッキング剤は、特に限定されない。例えばカゼイン、スキムミルク、ウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチンなどのほか、血液タンパク質または植物タンパク質を有効成分とするもの、兎血液成分などが挙げられる。なかでもカゼインが好ましい。
【0042】
前記洗浄液はB/F分離等の目的で用いられる。洗浄液の組成は、測定対象物質に未結合の標識物を洗浄する機能を実用上保持するものであれば、特に限定されない。例えば、非イオン界面活性剤(例えば0.5%のTween−20)を含有する緩衝化生理食塩水が挙げられる。
【0043】
測定対象物質の検出用に用いる抗体としてはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれも使用可能であり、産生動物種も限定されない。前記R1試薬としてはアミノ基またはスルフヒドリル基にビオチンを標識した抗体を用いることが好適であり、前記R1試薬中の成分としては防腐剤や蛋白成分等を含んでよい。
【0044】
また、検出に利用する酵素−基質系についても限定されない。例えば、ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼを用いる系が挙げられる。酵素活性の検出に用いる基質も特に限定されない。これらは、市販品を用いることができる。基質を含む基質液の組成は、その機能を損ねない範囲で、特に限定されない。
【0045】
例えば、前記R2試薬としてはアミノ基またはスルフヒドリル基にアルカリフォスファターゼを標識した抗体を用いることが好適であり、前記R2試薬中の成分としては防腐剤や蛋白成分等を含んでよい。
【0046】
また、例えば、前記R3試薬(発光基質)としては、Lumigen−PPD、APS−5(以上Lumigen社)、AMPPD 、CSPD、CDP−STAR(以上Tropix社)等を使用することができるが、これらに限定されない。
【0047】
また、前記試薬カートリッジとは別に、
[H]抗ビオチン抗体がメンブレン上に固相化された反応容器
を組み合わせて用いることが好適である。
【0048】
反応容器上の固相としてはビーズ、磁性粒子、マイクロタイタープレート、チューブ、膜など種々のものが使用できる。好ましくはガラスフィルターである。固相化担体としてマイクロタイタープレートやチューブを用いる場合は、固相化担体自体を反応容器とすることができるが、固相化担体とは別途に各種の反応容器を用いることもできる。例えば、特許文献3や特許文献4などに記載の反応容器(図2)を用いることが好適である。図2において、(a)はこの容器の斜視図であり、(b)はこの容器の断面図である。図2において、1:反応容器、2:開口部、3:多孔性担体、4:吸水層、5:液体不透過性容器、をそれぞれ示す。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0050】
測定操作は東洋紡社製小型化学発光免疫自動分析装置POCube(東洋紡社製)を用いて以下の様に行った。
【0051】
(1) 各試薬はPOCube専用13連容器の試薬ウェルに別々に保持されている。
7.5mmol/L亜硝酸ナトリウム溶液を50μL、0.045mmol/Lのクエン酸溶液30μL、および検体ウェルに入れた検体20μLを別のウェルに自動分注・混合し、所定温度で所定の時間処理した。
(2)R1試薬(2.5μg/mlビオチン標識抗A群β溶血連鎖球菌抗体液)30μLとR2試薬(30ng/ml アルカリフォスファターゼ標識抗A群β溶血連鎖球菌抗体液)40μLおよび(1)の検体処理液90μLを別のウェルに自動分注・混合し、40℃で2分30秒インキュベートし抗原−抗体のサンドイッチ複合体を形成した。
(3)POCube専用反応容器(第一抗体に結合したリガンドを特異的に認識するリガンド捕捉剤が結合された多孔性フィルタ(抗ビオチン抗体を結合させたガラスフィルター固相)を含む容器)に、1重量%カゼインを含むブロッキング剤を50μL添加した後、(2)でインキュベート後の抗原−抗体のサンドイッチ複合体検体・抗体混合液130μLを反応容器に滴下し、40℃で20秒インキュベートし抗原−抗体のサンドイッチ複合体を反応容器に結合させた。
(4)インキュベート後、反応容器に洗浄液を80μLを2回分注し、BF分離を行った後、R3試薬(Lumigen社APS−5)30μLを添加し、発光強度を測定した。
【0052】
上記、(1)の検体前処理条件について、例えば非特許文献1に記載されている「スタットチェックTMストレップA−II」のような通常のキットでは室温(25℃)で60秒処理する手順となっている(非特許文献1、2ページ左欄上部「操作手順3」を参照)。したがって、25℃・60秒処理条件を比較例として、以下の通り他の条件を評価した。
加温温度;30℃、35℃、40℃、45℃、50℃
処理時間;10秒、30秒、60秒、120秒
【0053】
検体はA群β溶血連鎖球菌(ATCC株14289株)をTritonX−100 2.0g/Lを含む溶液で希釈し検体とした。希釈濃度の異なる検体1および検体2を測定した。
【0054】
検体1の測定結果を表1および表2に示す。表1は検体1を測定して得られた発光強度を示す。表中の数値は、発光値を単位とする。表2は検体1を測定して得られた発光強度について、比較例;25℃・60秒処理を基準にした相対%を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
検体2の測定結果を表3および表4に示す。表3は検体2を測定して得られた発光強度を示す。表中の数値は、発光値を単位とする。表4は検体2を測定して得られた発光強度について、比較例;25℃・60秒処理を基準にした相対%を示す。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
上記の結果より30℃〜50℃加温・10秒〜120秒処理した場合、比較例(25℃・60秒処理)と同等以上の感度を確認した。加温処理することでより効率よく短時間で子抗原を抽出できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、A群連鎖球菌の測定において、亜硝酸溶液と酢酸溶液またはクエン酸溶液を混合し処理する工程を自動化することで前処理試薬の用時調製を不要とし試薬の誤調製を防止することが可能となった。さらに、前処理を30℃〜50℃で10秒〜2分間加温することで、効率よく短時間で抗原を抽出できることから臨床現場での測定の簡便性、迅速性を向上することができることから、産業界に大きく寄与することが期待される。
図1
図2