(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6476810
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】圧縮機の予熱装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20190225BHJP
【FI】
F25B1/00 351U
F25B1/00 321J
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-250056(P2014-250056)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-109401(P2016-109401A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石関 晋一
(72)【発明者】
【氏名】堂前 浩
(72)【発明者】
【氏名】岸脇 雄介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正英
(72)【発明者】
【氏名】池田 基伸
【審査官】
久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−175279(JP,U)
【文献】
特開2014−129802(JP,A)
【文献】
特開平09−178689(JP,A)
【文献】
特開2010−101606(JP,A)
【文献】
特開平10−111207(JP,A)
【文献】
実開昭60−123574(JP,U)
【文献】
国際公開第2013/157074(WO,A1)
【文献】
特開昭59−219686(JP,A)
【文献】
特開2001−221174(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0239667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00− 7/00
F25B 13/00
F25B 43/00−49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルに用いられる圧縮機(15)内の潤滑油(A)を加熱する予熱装置であって、
前記圧縮機(15)に設けられ、前記圧縮機(15)内の潤滑油(A)の油面を検出する静電容量式の油面センサ(46)と、
前記油面センサ(46)に高周波電圧を印加する電源部(45)と、を備え、
前記油面センサ(46)は、前記高周波電圧が印加されることにより、前記予熱装置として誘電体である前記潤滑油(A)を誘電加熱により加熱する、圧縮機の予熱装置。
【請求項2】
前記高周波電圧は、前記圧縮機(15)の停止中に印加される、請求項1に記載の圧縮機の予熱装置。
【請求項3】
前記電源部(45)として、前記圧縮機(15)を制御するための制御部(41)においてクロック信号を発生する発振回路が用いられる、請求項1又は2に記載の圧縮機の予熱装置。
【請求項4】
所定の予熱条件に応じて、前記発振回路(45)から前記油面センサ(46)への高周波電圧の印加を断接する切替部(51)を備えている、請求項3に記載の圧縮機の予熱装置。
【請求項5】
前記発振回路(45)が、前記油面センサ(46)の近傍に配置されている、請求項3又は4に記載の圧縮機の予熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒サイクルに用いられる圧縮機の予熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うことによって、ビル等の室内の冷暖房に使用される空気調和装置が知られている。
この種の空気調和装置においては、運転停止中に温度の低下した圧縮機内で冷媒が凝縮し、潤滑油に溶け込んでしまうという「寝込み現象」が生じる。このような寝込み現象が生じると、運転を再開したときに冷媒が急激に気化し、オイルフォーミングが生じる。そのため、圧縮機が冷媒とともに潤滑油を吸い上げ、油上がりが多くなって圧縮機の潤滑不足が発生するおそれがある。
【0003】
圧縮機内における冷媒の寝込みを防止するため、従来、圧縮機のケーシングの外部にヒータを取り付けて、空気調和装置の停止中に圧縮機内の潤滑油を加熱する技術(例えば、特許文献1参照)や、圧縮機のモータへの欠相通電によって巻線を発熱させ、圧縮機内の潤滑油を加熱する技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−126309号公報
【特許文献2】特開2011−27334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒータによって圧縮機のケーシングを加熱する場合、ヒータを設けることによって当然にコストが増大する。また、圧縮機のケーシングを介して間接的に潤滑油を温めるので効率が悪く、多大な電力と時間が必要となる。
一方、圧縮機のモータへ欠相通電を行う場合、モータの巻線だけでなく、インバータ回路などのパワーモジュールにおいても電力が消費されるので、電力の損失が大きくなる。また、モータの巻線の熱を空気伝搬によって潤滑油に伝えるので、潤滑油の温度上昇に時間がかかり、効率が悪い。
【0006】
本発明は、小さい電力で効率よく潤滑油を温めることができる圧縮機の予熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る圧縮機の予熱装置は、
冷凍サイクルに用いられる圧縮機
内の潤滑油を加熱する予熱装置であって、
前記圧縮機に設けられ、前記圧縮機内の潤滑油の油面を検出する静電容量式の油面センサと、
前記油面センサに高周波電圧を印加する電源部と、を備え
、
前記油面センサは、前記高周波電圧が印加されることにより、前記予熱装置として誘電体である前記潤滑油を誘電加熱により加熱するものである。
【0008】
この構成によれば、静電容量式の油面センサに高周波電圧を印加することによって、誘電体である潤滑油を誘電加熱により加熱することができる。そのため、加熱用のヒータ等を別途備える必要が無く、油面センサを用いて潤滑油を直接温めることができるので、効率よく潤滑油を加熱することができる。また、誘電加熱を行うために油面センサに印加する電圧は高周波であればよいため、印加する電圧は必ずしも高い必要はなく、電力消費を少なくすることができる。
【0009】
(2)前記高周波電圧は、前記圧縮機の停止中に印加されることが好ましい。
このような構成によって、圧縮機の停止中におけるは潤滑油の温度低下を防止することができる。
【0010】
(3)前記電源部として、前記圧縮機を制御するための制御部においてクロック信号を発生する発振回路が用いられることが好ましい。
マイコン等によって構成される制御部のプロセッサは、高周波電圧信号からなるクロック信号に基づいて動作するが、このクロック信号を油面センサに印加することによって、潤滑油を加熱するための専用の電源を別途備えなくてもよく、構造の簡素化及びコストの低減を図ることができる。
【0011】
(4)予熱装置は、所定の予熱条件に応じて、前記発振回路から前記油面センサへの高周波電圧の印加を断接する切替部を備えていることが好ましい。
これにより、油面センサを用いた潤滑油の加熱を必要に応じて行うことができる。
【0012】
(5)前記発振回路が、前記油面センサの近傍に配置されていることが好ましい。
発振回路と静電容量式の油面センサとの距離が離れていると、高周波信号が流れる電気配線の抵抗成分によって高周波成分が消え、波形がなだらかになる(なまる)可能性がある。したがって、発振回路を静電容量式の油面センサの近傍に配置することによって確実に高周波電圧を静電容量式の油面センサに印加することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小さい電力で効率よく潤滑油を温めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態における空気調和装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における空気調和装置の概略構成図である。
本実施の形態の空気調和装置10は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルによって室内の温度を調整するものであり、室内機12と、室外機13と、これらの間にわたって設けられた冷媒回路11とを備えている。
【0016】
冷媒回路11は、冷媒を圧縮して高温高圧のガス冷媒を生成する圧縮機15と、室内側熱交換器16と、冷媒を減圧して低温低圧の液冷媒を生成する電子膨張弁(膨張手段)17と、室外側熱交換器18と、これらを順次接続する冷媒配管19とを備えている。また、室内側熱交換器16と室外側熱交換器18には、それぞれ送風ファン20、21が対向して設けられている。
【0017】
冷媒配管19には四路切換弁23が設けられ、この四路切換弁23を切り換えることによって冷媒の流れを反転させ、圧縮機15から吐出される冷媒を室外側熱交換器18と室内側熱交換器16とに切り換えて供給し、冷房運転と暖房運転とを切り換えることが可能となっている。
【0018】
具体的に、暖房運転時には、四路切換弁23を実線のように切り換えることによって、冷媒を実線矢印で示す方向に流し、これによって圧縮機15から吐出された冷媒を室内側熱交換器16に供給し、膨張弁17を通過した冷媒を室外側熱交換器18に供給する。この際、室内側熱交換器16は凝縮器として機能して高温高圧のガス冷媒を凝縮・液化させ、室外側熱交換器18は蒸発器として作用して低温低圧の液冷媒を蒸発・気化させる。
【0019】
冷房運転時には、四路切換弁23を点線のように切り換えることによって冷媒の流れを反転させ、点線矢印で示す方向に冷媒を流す。これにより、室内側熱交換器16は蒸発器として作用し、室外側熱交換器18は凝縮器として作用する。なお、膨張弁17、四路切換弁23、圧縮機15、及び送風ファン20、21は、操作スイッチのオンオフや温度センサ等のセンサ出力に応じて制御装置により動作制御される。
【0020】
図2に示すように、圧縮機15のケーシング15a内には、モータ31と圧縮部32とが収容されている。また、ケーシング15aには、冷媒の流入口15bと吐出口15cとが設けられている。そして、圧縮機15は、モータ31の回転動力によって圧縮部32を駆動し、冷媒を圧縮する。
【0021】
圧縮部32は、例えばスクロールタイプのものやロータリータイプのものが用いられる。ケーシング15aの下部には、圧縮機15内を潤滑するための潤滑油Aが貯留されている。
モータ31は、モータ駆動回路33によって駆動される。モータ駆動回路33は、商用電源34を整流し平滑する整流平滑回路や、IGBT等のパワー素子を備えたインバータ回路を備えている。モータ駆動回路33は、制御装置40によって制御される。
【0022】
制御装置40は、圧縮機制御部41と、油面検知部42としての機能を備えている。圧縮機制御部41は、モータ駆動回路33に制御信号を付与するマイコン等を含んでいる。マイコンは、プロセッサ44(
図3参照)やメモリ等を有している。
図3に示すように、圧縮機制御部41におけるプロセッサ44は、発振回路45によって生成されるクロック信号が入力され、このクロック信号に基づいて動作する。クロック信号は、数メガヘルツ〜数十メガヘルツの高周波電圧信号からなる。
【0023】
油面検知部42は、静電容量式の油面センサ46によって圧縮機15のケーシング15a内に収容された潤滑油Aの油面を検出する。具体的に、圧縮機15のケーシング15a内には、一対の電極47を有する油面センサ46が取り付けられており、油面検知部42は、一対の電極47間における静電容量を検出する。潤滑油Aは誘電体であるので、一対の電極47間における潤滑油Aの有無や潤滑油Aの量によって静電容量が変化する。したがって、油面検知部42は、静電容量の変化を検出することによってケーシング15a内の潤滑油Aの油面を検出することができる。前述のプロセッサ44は、油面センサ46の検出信号の処理にも用いられ、油面検知部42としても機能する。
【0024】
本実施の形態の空気調和装置10には、圧縮機15内の潤滑油Aを加熱する予熱装置50が設けられている。この予熱装置50は、運転停止中に低温となった圧縮機15内の潤滑油Aを加熱することによって、潤滑油A中への冷媒の溶け込みを防止し、運転を開始したときのオイルフォーミングや油上がりを抑制する。
【0025】
本実施の形態の予熱装置50は、静電容量式の油面センサ46と、この油面センサ46に高周波電圧を印加する電源部45とを備えている。電源部45として、圧縮機制御部41のプロセッサ44にクロック信号を付与する発振回路が用いられている。
また、予熱装置50は、発振回路45と油面センサ46との間に切替部51を備えている。切替部51は、発振回路45によって生成された高周波電圧信号を、プロセッサ44に付与する第1の形態と、油面センサ46に付与する第2の形態とに切り替える。言い換えると、切替部51は、発振回路45による油面センサ46への高周波電圧の印加を断接する。また、切替部51は、第1の形態において、油面センサ46をプロセッサ44に接続し、油面センサ46の検出信号をプロセッサ44に送信可能とする。
【0026】
予熱装置50は、運転停止中に、切替部51によって発振回路45を油面センサ46に接続することで油面センサ46に高周波電圧を印加する。
高周波電界の中に誘電体を配置すると、誘電損失により誘電体が発熱する現象が生じる。一般に、この現象は「誘電加熱」と呼ばれる。本実施の形態の予熱装置50は、油面センサ46を構成する一対の電極47間に高周波電圧を印加することによって、電極47間に存在する潤滑油Aに誘電加熱を生じさせる。
【0027】
これにより、運転停止中における潤滑油Aを加熱し、温度低下を抑制することができ、運転を再開した場合のオイルフォーミングや油上がりを防止することができる。
また、予熱装置50は、潤滑油Aそのものを発熱させるので、従来技術のように圧縮機15のケーシング15aをヒータで加熱したり、圧縮機15のモータ31に欠相通電を行うことによってモータ31を発熱させたりする場合のように、間接的に潤滑油を加熱する場合と比べ、効率よく短時間で潤滑油Aを加熱できるという利点がある。
【0028】
また、予熱装置50は、油面センサ46や、圧縮機制御部41における発振回路45を用いて構成されることで、予熱装置50専用の電極や電源部を備えなくてもよい。したがって、予熱装置50を備えることに伴うコスト増や構造の複雑化を抑制することができる。
切替部51は、所定の予熱条件が満たされたときに、発振回路45を油面センサ46に接続するように切り替えることができる。この予熱条件は、冷媒の寝込みが生じ得る条件とすることができ、例えば、圧縮機15内の潤滑油Aの温度、ケーシング15aの温度、又は外気温度が所定の閾値以下となる条件を採用することができる。
【0029】
予熱装置50の発振回路(電源部)45は、圧縮機15の近傍に配置されている。すなわち、発振回路45を備えた制御装置40の制御基板は、圧縮機15の近傍位置に配置されている。具体的には、圧縮機15から発振回路45、又は切替部51その他の基板までの線路長が50cm以内に設定される。これにより、発振回路45と油面センサ46とを接続する電気配線の抵抗成分によって、高周波電圧の波形がなまってしまうのを防止することができ、確実に油面センサ46に高周波電圧を印加することができる。
【0030】
本発明は、上記実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更することができる。
例えば、本発明は、空気調和装置以外の冷凍サイクルを用いる各種装置、例えば冷凍機、冷蔵庫、調湿装置等に適用することができる。また、本発明は、冷暖房同時型の空気調和装置にも適用することができる。
また、冷媒回路の構成も上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、冷媒回路中に油分離器やアキュムレータ等の他の付属機器が含まれていてもよい。
予熱装置50の電源部には、発振回路45ではなく予熱装置50専用の高周波電圧回路を用いてもよい。
油面センサ46には、圧縮機15の運転中に誘電加熱のために高周波電圧を印加してもよい。
【符号の説明】
【0031】
10:空気調和装置
11:冷媒回路
15:圧縮機
31:モータ
32:圧縮部
33:モータ駆動回路
34:商用電源
40:制御装置
41:圧縮機制御部
42:油面検知部
44:プロセッサ
45:発振回路(電源部)
46:油面センサ(静電容量式の油面センサ)
50:予熱装置
51:切替部
A:潤滑油