(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルロース繊維の固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度における粘度が、25℃における粘度に対して60%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
泥水、フラクチャリング流体、セメンチング流体、 ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completionfluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidation fluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、または砂利パッキング流体(gravel packing fluid)に添加して使用するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
地下で温度が上昇する場合、掘削液に配合される増粘剤が高温下でも低濃度で粘度を維持できれば、コスト低減になるため望ましい。また、壁面の崩壊を抑制する機能(止水性)に優れた組成物を掘削液に配合することができれば、壁面への水の浸透を抑制できるため高深度においても効率的な掘削が可能となる。また、生分解性の高い増粘剤の使用が環境へのリスクが低減できるため望ましい。
温度変化に対して粘度が安定で、止水性の高い地下層処理用組成物があれば望ましい。
【0011】
一方、特許文献7では、エタノールを用いて微細セルロース繊維のゲルから脱水する方法が提案されているが、大量のエタノールを使用しており、コストの観点から商業的なプロセスとは言えない。特許文献8では、微細セルロース繊維のゲルを、酸を用いて濃縮する方法が開示されている。ここでは表面がカルボキシ基で修飾された微細セルロース繊維を用いているが、酸を用いた濃縮方法ではスルホン基やリン酸基などの強酸性基で修飾された微細セルロース繊維の濃縮には用いることができず、汎用性が低い。また、酸処理により修飾基の表面の電荷が弱まり、濃縮物を再分散させた際の再分散性が高くない。特許文献9では、強酸性基で修飾された微細セルロース繊維の濃縮も可能な多価イオンによる濃縮が開示されているが、系内に多価イオンが残留し、その後の使用に影響を与える懸念があった。また、乾燥物として提供できないという問題もあった。
微細セルロース繊維の濃縮または乾燥においては、低コストかつ汎用性の高い方法があれば望ましい。
【0012】
また、表面を化学修飾し電荷を高めた微細セルロース繊維の濃縮物または乾燥物を、塩類を含む水溶液中で再分散させようとする場合、塩の存在により微細セルロース繊維表面の電荷の反発が弱まり、分散性が悪化し、場合によっては沈殿し、粘度を発現しないという問題があった。
微細セルロース繊維の濃縮または乾燥においては、塩の存在下でも再分散性が良好であり、高粘性を発揮させるための手段があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、微細セルロース繊維を含有する水溶液の粘度が高温においても高い粘度を維持でき、かつ高い止水性を有することを見出した。
【0014】
また、微細セルロース繊維の濃縮または乾燥方法において、多価イオンと酸、または多価イオンと有機溶剤の組み合わせることで、従来に比べて低コストかつ汎用性の高い濃縮または乾燥方法が提供できることを見出した。さらに濃縮液または乾燥物の再分散液のpHを調整することで再分散性が高まることも見出した。
【0015】
さらに、濃縮または乾燥形態の微細セルロース繊維をあらかじめ塩濃度の低い水溶液に分散させた後、塩類を加えることで、塩水中でも高粘性を発揮することを見出した。
【0016】
即ち、本発明によれば、以下が提供される。
[1] セルロース繊維を含む地下層処理用組成物であって、0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を含有する、組成物。
[2]置換基がアニオン基である、1に記載の組成物。
[3]置換基がエステル化反応により導入されている、1または2に記載の組成物。
[4]置換基がリン酸基またはスルホン基である、1〜3のいずれか1項に記載の組成物。[5]セルロース繊維が5%以上の非結晶領域を有する、1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]セルロース繊維の固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度における粘度が、25℃における粘度に対して60%以上である、1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]止水性を有する、1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
[8]地下層処理用流体に添加して使用するための、1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
[9]泥水、フラクチャリング流体、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(wellcontrolfluid)、ウェルキル流体(wellkillfluid)、酸フラクチャリング流体(acidfracturingfluid)、酸分流流体(aciddivertingfluid)、刺激流体(stimulationfluid)、サンドコントロール流体(sandcontrolfluid)、仕上げ流体(completionfluid)、ウェルボーン石化流体(wellboreconsolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediationtreatmentfluid)、スペーサー流体(spacerfluid)、掘削流体(drillingfluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packingfluid)、水適合流体(waterconformancefluid)、または砂利パッキング流体(gravelpackingfluid)に添加して使用するための、1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
[10]1〜9のいずれか1項に記載の組成物の、濃縮液または乾燥物。
[11]セルロース繊維の固形分濃度が、5質量%以上100質量%以下である、10に記載の濃縮液または乾燥物。
[12]1〜9のいずれか1項に記載の組成物に、多価金属の塩、カチオン界面活性剤およびカチオン性高分子凝集剤からなる群より選択される濃縮剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を5質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、11に記載の濃縮液または乾燥物。
[13]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、酸性液に浸漬し、濃縮剤を除去する工程をさらに含む、12に記載の濃縮液または乾燥物。
[14]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、有機溶剤を含む液に浸漬する工程をさらに含む、12に記載の濃縮液または乾燥物。
[15]10〜14のいずれか1項に記載の濃縮物または乾燥物を液に分散した、微細セルロース繊維の分散液であって、微細セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、分散液のpHが7〜14であり、微細セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、分散液のpHが2〜7である分散液からなる、流体。
【0017】
さらに本発明によれば、以下が提供される。
[1]セルロース繊維を含む地下層処理用組成物であって、0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を含有する、組成物。
[2]置換基がアニオン基である、1に記載の組成物。
[3]置換基がエステル化反応により導入されている、1または2に記載の組成物。
[4]置換基がリン酸基またはスルホン基である、1〜3のいずれか1項に記載の組成物。[5]セルロース繊維が木質由来である1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]セルロース繊維が、5%以上の非結晶領域を有する1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]セルロース繊維が、10%以上の非結晶領域を有する1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[8]セルロース繊維が、20%以上の非結晶領域を有する1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[9]セルロース繊維の固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度における粘度が、25℃における粘度に対して60%以上である、1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
[10]止水性を有する、1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
[11]地下層処理用流体に添加して使用するための、1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
[12]泥水、フラクチャリング流体、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(wellcontrolfluid)、ウェルキル流体(wellkillfluid)、酸フラクチャリング流体(acidfracturingfluid)、酸分流流体(aciddivertingfluid)、刺激流体(stimulationfluid)、サンドコントロール流体(sandcontrolfluid)、仕上げ流体(completionfluid)、ウェルボーン石化流体(wellboreconsolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediationtreatmentfluid)、スペーサー流体(spacerfluid)、掘削流体(drillingfluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packingfluid)、水適合流体(waterconformancefluid)、または砂利パッキング流体(gravelpackingfluid)に添加して使用するための、1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
[13]1〜12のいずれか1項に記載の組成物の、濃縮液または乾燥物。
[14]セルロースの固形分濃度が5質量%以上100質量%以下である、13に記載の組成物の濃縮液または乾燥物。
[15]1〜12のいずれか1項に記載の組成物に、多価金属の塩、カチオン界面活性剤およびカチオン性高分子凝集剤からなる群より選択される濃縮剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を5質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、14に記載の濃縮液または乾燥物。
[16]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、酸性液に浸漬し、濃縮剤を除去する工程をさらに含む、15に記載の濃縮液または乾燥物。
[17]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、有機溶剤を含む液に浸漬する工程をさらに含む、15に記載の濃縮液または乾燥物。
[18]有機溶剤を含む液が、アルカリまたは酸を含む、17に記載の濃縮液または乾燥物。
[19]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物に有機溶剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を20質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、15〜18のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[20]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物を加熱し、水分を蒸発させ、セルロース繊維の固形分濃度を20質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、15〜18のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[21]13〜20のいずれか1項に記載の濃縮物または乾燥物を溶液に分散した、微細セルロース繊維の分散液であって、微細セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、分散後の溶液のpHが7〜14であり、微細セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、分散後の溶液のpHが2〜7である分散液からなる、流体。
[22]1〜12のいずれか1項に記載の組成物を含み、セルロース繊維の固形分濃度が0.05〜2質量%である、地下層処理用流体。
[23]1〜12のいずれか1項に記載の組成物、ならびに加重材、粘度調整剤、分散剤、凝集剤、逸泥防止剤、pH制御剤、摩擦低減剤、水和膨張制御剤、乳化剤、界面活性剤、殺生物剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、温度安定剤、樹脂コート剤、亀裂支持材、塩、およびプロパント、酸化剤からなる群から選択されるいずれかを含む、地下層処理用流体。
[24]フラクチャリング流体、泥水またはセメンチング流体である、22または23に記載の流体。
[25]13〜20のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満の水系溶媒に混合し、セルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満となるように再分散させた後、再分散液に塩を添加して塩濃度が0.1質量%以上の流体を得る工程を含む、22〜24のいずれか1項に記載の地下層処理用流体の、製造方法。
[26]13〜20のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)(好ましくは、塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合し、微細セルロース繊維を5質量%未満となるように再分散させた後、再分散液に塩を添加して塩濃度が0.5質量%以上の流体を得る工程を含む、22〜24のいずれか1項に記載の地下層処理用流体の、製造方法。
[27]13〜20のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合し、微細セルロース繊維を5質量%未満となるように再分散させた後、再分散液に塩を添加して塩濃度が1.0質量%以上の流体を得る工程を含む、22〜24のいずれか1項に記載の地下層処理用流体の、製造方法。
[28]1〜20のいずれか1項に記載の組成物、または21〜24のいずれか1項に記載の流体を用いる、地下層の処理方法。
[29]1〜20のいずれか1項に記載の組成物、または21〜24のいずれか1項に記載の流体を用いる、石油資源の生産方法。
【0018】
さらに本発明によれば、種々の用途に用いうる、以下の微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物、およびその再分散液が提供される。
[1]0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を含む組成物の、セルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上100質量%以下である、濃縮液または乾燥物。
[2]微細セルロース繊維を液に再分散させるためのものであり、微細セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、再分散後の液のpHが7〜14に調整され、微細セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、再分散後の液のpHが2〜7の範囲に調整されて用いられる、1に記載の濃縮物または乾燥物。
[3]微細セルロース繊維を含む組成物に、多価金属の塩、カチオン界面活性剤およびカチオン性高分子凝集剤からなる群より選択される濃縮剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を5質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、1または2に記載の濃縮物または乾燥物。
[4]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、酸性液に浸漬して濃縮剤を除去する工程をさらに含む、3に記載の濃縮液または乾燥物。
[5]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、有機溶剤を含む液に浸漬する工程をさらに含む、3に記載の濃縮液または乾燥物。
[6]有機溶剤を含む液が、アルカリまたは酸を含む、5に記載の濃縮液または乾燥物。
[7]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の微細セルロース繊維を含む組成物に有機溶剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を20質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、1または2に記載の濃縮物または乾燥物。
[8]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の微細セルロース繊維を含む組成物を加熱して水分を蒸発させ、セルロース繊維の固形分濃度を20%以上にする工程を含む製造方法により製造される、1または2に記載の濃縮物または乾燥物。
[9]置換基がアニオン基である、1〜8のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[10]置換基がエステル化反応により導入されている、9に記載の濃縮液または乾燥物。[11]置換基がリン酸基またはスルホン基である、9または10に記載の濃縮液または乾燥物。
[12]セルロース繊維が、木質由来である、9〜11のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[13]セルロース繊維が、5%質量以上の非結晶領域を有する、9〜12のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[14]セルロース繊維が、10質量%以上の非結晶領域を有する、9〜12のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[15]セルロース繊維が、20質量%以上の非結晶領域を有する、9〜12のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物。
[16]1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは、塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である再分散液を得て、得られた再分散液に塩を添加して塩濃度が0.1質量%以上の再分散液を得る工程を含む製造方法により得られる、1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物の、再分散液。
[17]1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である再分散液を得て、得られた再分散液に塩を添加して塩濃度が0.5質量%以上の再分散液を得る工程を含む製造方法により得られる、1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物の、再分散液。
[18]1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である再分散液を得て、得られた再分散液に塩を添加して塩濃度が1.0質量%以上の再分散液を得る工程を含む製造方法により得られる、1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物の、再分散液。
[19]増粘剤として用いられる、1〜15のいずれか1項に記載の濃縮液または乾燥物、または16〜18のいずれか1項に記載の再分散液。
【0019】
さらに本発明によれば、以下の増粘剤およびそれを用いた製品が提供される。
[1]0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を有効成分とし、セルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上100質量%以下である、増粘剤。
[2] 有効成分を液に再分散させて用いるためのものであり、微細セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、再分散後の液のpHが7〜14に調整され、微細セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、再分散後の液のpHが2〜7の範囲に調整されて用いられる、1に記載の増粘剤。
[3]微細セルロース繊維を含む組成物に、多価金属の塩、カチオン界面活性剤およびカチオン性高分子凝集剤からなる群より選択される濃縮剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を5質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、1または2に記載の増粘剤。
[4]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、濃縮剤を除去する工程をさらに含む、3に記載の濃縮液または乾燥物。[5]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、有機溶剤を含む液に浸漬する工程をさらに含む、3に記載の増粘剤。
[6]有機溶剤を含む液が、アルカリまたは酸を含む、5に記載の増粘剤。
[7]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の微細セルロース繊維を含む組成物
に有機溶剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を20質量%以上にする工程を含む製造方法により製造される、1または2に記載の増粘剤。
[8]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の微細セルロース繊維を含む組成物を加熱して水分を蒸発させ、セルロース繊維の固形分濃度を20%以上にする工程を含む製造方法により製造される、1または2に記載の増粘剤。
[9]置換基がアニオン基である、1〜8のいずれか1項に記載の増粘剤。
[10]置換基がエステル化反応により導入されている、9に記載の増粘剤。
[11]置換基がリン酸基またはスルホン基である、9または10に記載の増粘剤。
[12]セルロース繊維が、木質由来である、9〜11のいずれか1項に記載の増粘剤。
[13]セルロース繊維が、5%質量以上の非結晶領域を有する、9〜12のいずれか1項に記載の増粘剤。
[14]セルロース繊維が、10質量%以上の非結晶領域を有する、9〜12のいずれか1項に記載の増粘剤。
[15]セルロース繊維が、20質量%以上の非結晶領域を有する、9〜12のいずれか1項に記載の増粘剤。
[16]1〜15のいずれか1項に記載の増粘剤を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは、塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である再分散液を得て、得られた再分散液に塩を添加して塩濃度が0.1質量%以上の再分散液を得る工程を含む製造方法により得られる、1〜15のいずれか1項に記載の増粘剤の、再分散液。
[17]1〜15のいずれか1項に記載の増粘剤を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である再分散液を得て、得られた再分散液に塩を添加して塩濃度が0.5質量%以上の再分散液を得る工程を含む製造方法により得られる、1〜15のいずれか1項に記載の増粘剤の、再分散液。
[18]1〜15のいずれか1項に記載の増粘剤を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である再分散液を得て、得られた再分散液に塩を添加して塩濃度が1.0質量%以上の再分散液を得る工程を含む製造方法により得られる、1〜15のいずれか1項に記載の増粘剤の、再分散液。
[19]食品または化粧品である、16〜18に記載の再分散液。
【0020】
さらに本発明によれば、以下の製造方法が提供される。
[1]微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満(好ましくは塩濃度が0.5質量%未満、好ましくは塩濃度が0.1質量%未満、より好ましくは塩濃度が0.05質量%未満、さらに好ましくは塩濃度が0.025質量%未満)の水系溶媒に混合してセルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である、微細セルロース繊維の分散液1を得て;そして
得られた分散液1に塩を添加して塩濃度が0.1質量%以上の分散液2を得る工程を含む、微細セルロース繊維の分散液の製造方法。
[2]分散液2を得る工程が、得られた分散液1に塩を添加して塩濃度が0.5質量%以上の分散液2を得るものである、1に記載の製造方法。
[3]分散液2を得る工程が、得られた分散液1に塩を添加して塩濃度が1.0質量%以上の分散液2を得るものである、1に記載の製造方法。
[4]微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物が、セルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上100質量%以下であるものである、1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]微細セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、分散液1(または再分散液2)のpHが7〜14に調整され、微細セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、分散液1(または再分散液2)のpHが2〜7の範囲に調整される、1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
[6]以下の工程を含む、0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物の、製造方法:
微細セルロース繊維を含む組成物(好ましくは、セルロース繊維の固形分濃度が5質量%未満である、微細セルロース繊維を含む組成物)に、多価金属の塩、カチオン界面活性剤およびカチオン性高分子凝集剤からなる群より選択される濃縮剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を5質量%以上にする工程。
[7]濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、酸性液に浸漬して濃縮剤を除去する工程をさらに含む、6に記載の製造方法。
[8]製造方法が、濃縮剤を含有するセルロース繊維の固形分濃度が5質量%以上の濃縮液または乾燥物を、有機溶剤を含む液に浸漬する工程をさらに含む、6に記載の製造方法。[9]有機溶剤を含む液がアルカリまたは酸を含む、8に記載の製造方法。
[10]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の微細セルロース繊維を含む組成物に有機溶剤を添加し、セルロース繊維の固形分濃度を20質量%以上にする工程を含む、1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
[11]セルロース繊維の固形分濃度が20質量%未満の微細セルロース繊維を含む組成物を加熱して水分を蒸発させ、セルロース繊維の固形分濃度を20%以上にする工程を含む、1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
[12]微細セルロース繊維が0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する、1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
[13]置換基がアニオン基である、12に記載の製造方法。
[14]置換基がエステル化反応により導入されている、13に記載の製造方法。
[15]微細セルロース繊維の置換基がリン酸基またはスルホン基である、12または13に記載の製造方法。
[16]セルロース繊維が、木質由来である、12〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
[17]セルロース繊維が、5%以上の非結晶領域を有する、12〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
[18]セルロース繊維が、10%以上の非結晶領域を有する、12〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
[19]セルロース繊維が、20%以上の非結晶領域を有する、12〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【0021】
さらに本発明によれば、以下が提供される。
[1]0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を含有する、地下層処理用組成物。
[2]置換基がアニオン基である、1に記載の組成物。
[3]置換基がエステル化反応により導入されている、1または2に記載の組成物。
[4]置換基がリン酸基またはスルホン基である、1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]セルロース繊維の固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度における粘度が、25℃における粘度に対して60%以上である、1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]止水性を有する、1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]地下層処理用流体に添加して使用するための、1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
[8]泥水、フラクチャリング流体、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(wellcontrolfluid)、ウェルキル流体(wellkillfluid)、酸フラクチャリング流体(acidfracturingfluid)、酸分流流体(aciddivertingfluid)、刺激流体(stimulationfluid)、サンドコントロール流体(sandcontrolfluid)、仕上げ流体(completionfluid)、ウェルボーン石化流体(wellboreconsolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediationtreatmentfluid)、スペーサー流体(spacerfluid)、掘削流体(drillingfluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packingfluid)、水適合流体(waterconformancefluid)、または砂利パッキング流体(gravelpackingfluid)に添加して使用するための、1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
[9]濃縮液または乾燥物の形態である、1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
[10]1〜9のいずれか1項に記載の組成物を含み、セルロース繊維の固形分濃度が0.05〜2質量%である、地下層処理用流体。
[11]1〜9のいずれか1項に記載の組成物、ならびに加重材、粘度調整剤、分散剤、凝集剤、逸泥防止剤、pH制御剤、摩擦低減剤、水和膨張制御剤、乳化剤、界面活性剤、殺生物剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、温度安定剤、樹脂コート剤、亀裂支持材、塩、およびプロパントからなる群から選択されるいずれかを含む、地下層処理用流体。[12]フラクチャリング流体、泥水またはセメンチング流体である、10または11に記載の流体。
[13]微細セルロース繊維濃度が20質量%未満の分散液である組成物に塩を添加して、1質量%以上の塩濃度の流体を調製する工程を含む、10〜12のいずれか1項に記載の地下層処理用流体の、製造方法。
[14]1〜9のいずれか1項に記載の組成物、または10〜12のいずれか1項に記載の流体を用いる、地下層の処理方法。
[15]1〜9のいずれか1項に記載の組成物、または10〜12のいずれか1項に記載の流体を用いる、石油資源の生産方法。
[16]微細セルロース繊維の分散液の濃縮液または乾燥物を水系溶媒に混合し、微細セルロース繊維を再分散させて流体を得る工程を含む、10〜12のいずれか1項に記載の地下層処理用流体の、製造方法。
[17]濃縮液または乾燥物を濃縮剤および/または乾燥機を用いて調製する工程を含む、16に記載の製造方法。
[18]濃縮液または乾燥物に含まれるセルロース繊維の固形分濃度が20質量%以上である、16または17に記載の製造方法。
[19]濃縮剤が、酸、アルカリ、多価金属の塩、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、および有機溶剤からなる群より選択されるいずれか1種以上である、16〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
[20]セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、流体のpHが7〜14に調整され、セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、流体のpHが2〜7の範囲に調整される、16に記載の製造方法。
[21]微細セルロース繊維の分散液の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満の塩水である水系溶媒に混合し、微細セルロース繊維を20質量%未満となるように再分散させた後、再分散液に塩を添加して塩濃度が1質量%以上の流体を得る、16〜20のいずれか1項に記載の製造方法。
【0022】
さらに本発明によれば、以下が提供される。
[1]0.14〜2.5mmol/gの置換基を有する微細セルロース繊維を含有する、地下層処理用組成物。
[2]置換基がアニオン基である、1に記載の組成物。
[3]置換基がリン酸基である、1または2に記載の組成物。
[4]セルロース繊維の固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度における粘度が、25℃における粘度に対して60%以上である、1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]止水性を有する、1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
[6]地下層処理用流体に添加して使用するための、1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[7]泥水、フラクチャリング流体、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(wellcontrolfluid)、ウェルキル流体(wellkillfluid)、酸フラクチャリング流体(acidfracturingfluid)、酸分流流体(aciddivertingfluid)、刺激流体(stimulationfluid)、サンドコントロール流体(sandcontrolfluid)、仕上げ流体(completionfluid)、ウェルボーン石化流体(wellboreconsolidationfluid)、レメディエーション処理流体(remediationtreatmentfluid)、スペーサー流体(spacerfluid)、掘削流体(drillingfluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packingfluid)、水適合流体(waterconformancefluid)、または砂利パッキング流体(gravelpackingfluid)に添加して使用するための、1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
[8]1〜7のいずれか1項に記載の組成物を含み、セルロース繊維の固形分濃度が0.05〜2質量%である、地下層処理用流体。
[9]1〜7のいずれか1項に記載の組成物、ならびに加重材、粘度調整剤、分散剤、凝集剤、逸泥防止剤、pH制御剤、摩擦低減剤、水和膨張制御剤、乳化剤、界面活性剤、殺生物剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、温度安定剤、樹脂コート剤、亀裂支持材、塩、およびプロパントからなる群から選択されるいずれかを含む、地下層処理用流体。
[10]フラクチャリング流体、泥水またはセメンチング流体である、8または9に記載の流体。
[11]1〜7のいずれか1項に記載の組成物、または8〜10のいずれか1項に記載の流体を用いる、地下層の処理方法。
[12]1〜7のいずれか1項に記載の組成物、または8〜10のいずれか1項に記載の流体を用いる、石油資源の生産方法。
[13]微細セルロース繊維の分散液を濃縮、または乾燥させ、得られた濃縮液または乾燥物を水系溶媒に再分散させて再分散液を得る工程を含む、1〜7のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
[14]濃縮が、濃縮剤および/または乾燥機により実施される、13に記載の製造方法。
[15]濃縮液または乾燥物に含まれるセルロース繊維の固形分濃度が20質量%以上である、13または14に記載の製造方法。
[16]濃縮剤が、酸、アルカリ、多価金属の塩、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤、およびアニオン性高分子凝集剤からなる群より選択されるいずれか1種以上である、13〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
[17]再分散工程において、セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、再分散液のpHを7〜14に調整し、セルロース繊維の表面電荷がの場合には、再分散液のpHを2〜7の範囲に調整する、13に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様により、温度変化に対して粘度が安定で、止水性の高い地下層処理用組成物が提供される。また、本発明の一態様により、温度変化に対して粘度が安定な微細セルロース繊維を含む組成物が提供される。さらに、本発明の一態様により、塩を含む水溶液中においてもセルロース分散液を効率的に濃縮、乾燥し、さらに濃縮液、乾燥物を再分散させることを可能とする方法、及び濃縮液、乾燥物が提供される。
【0024】
また、運搬や使用のし易さの観点から濃縮または乾燥した態様の地下層処理用組成物においては、再分散させた後の分散液は十分な高い粘度を有し、温度変化に対する高い粘度安定性を有する。
【0025】
さらに、本発明の一態様により、濃縮または乾燥形態の微細セルロース繊維が塩を含む溶液中にて高い粘性を発現させる方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本明細書に記載される材料、方法および数値範囲などの説明は、発明の実施態様を例示したものであり、当該材料、方法および数値範囲などに発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、それ以外の材料、方法および数値範囲などの使用を除外するものでもない。
範囲「X〜Y」は、両端の値を含む。「%」は、特に記載した場合を除き、質量に基づく割合を表す。
【0028】
[微細セルロース繊維含有組成物]
本発明においては、セルロース原料を化学的処理および解繊処理することによって得られる、リン酸基等の置換基を有する微細セルロース繊維を使用することができる。
【0029】
<微細セルロース繊維>
セルロース原料としては、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、入手のしやすさという点で、製紙用パルプが好ましいが、特に限定されない。製紙用パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)など)、針葉樹クラフトパルプ(晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)など)が挙げられる。また、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、より入手しやすいことから、クラフトパルプ、脱墨パルプ、サルファイトパルプが好ましいが、特に限定されない。セルロース原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0030】
本発明でセルロース繊維というときは、特に記載した場合を除き、粗大セルロース繊維と微細セルロース繊維とを含む。
【0031】
粗大セルロース繊維(単に、粗大繊維ということもある。)の平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、例えば1μm以上であり、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。
【0032】
微細セルロース繊維(単に、微細繊維ということもある。)の平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、さらに好ましくは2nm以上10nm未満であるが、特に限定されない。微細セルロース繊維の平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細セルロース繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。ここで、微細セルロース繊維がI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
セルロース繊維に占めるI型結晶構造の割合は30質量%以上であることが望ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。ただし、非結晶領域を破壊して製造する特許文献2、特許文献3に記載のセルロースナノクリスタルとは異なり、非結晶領域も有する。
本発明の微細セルロース繊維は、5質量%以上の非結晶領域を有する。微細セルロース繊維の非結晶領域は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0033】
セルロース繊維に占めるI型結晶構造の割合は、セルロースI型化指数(%)ともいい、X線回折装置による測定値に基づき、下式(1)により算出することができる。
【0035】
式中、I
22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、およびI
18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
【0036】
セルロース繊維の電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%のセルロース繊維の水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0037】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0038】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。セルロース繊維の平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0039】
微細セルロース繊維の繊維長は特に限定されないが、0.1〜1000μmが好ましく、0.5〜800μmがさらに好ましく、1〜600μmが特に好ましい。繊維長が0.1μm未満になると、微細繊維シートを形成し難くなる。1000μmを超えると微細繊維のスラリー粘度が非常に高くなり、扱いづらくなる。繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0040】
<化学的処理>
[化学処理一般]
セルロース原料の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されない。例えば、酸処理、オゾン処理、TEMPO酸化処理、酵素処理、またはセルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
酸処理の一例としては、Otto van den Berg; Jeffrey R. Capadona; Christoph Weder;
Biomacromolecules 2007, 8, 1353-1357.に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、硫酸や塩酸等によりセルロース繊維を加水分解処理する。
【0042】
オゾン処理の一例としては、特開2010−254726号公報に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系分散液を粉砕処理する。
【0043】
TEMPO酸化の一例としては、Saito T & al. Homogeneous suspentions of individualized microfibrils from TEMPO-catalyzed oxidation of native cellulose. Biomacromolecules 2006, 7 (6), 1687-91に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をTEMPO酸化処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系分散液を粉砕処理する。
【0044】
酵素処理の一例としては、特願2012−115411号(特願2012−115411号に記載の内容は全て本明細書中に引用されるものとする)に記載の方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で、酵素で処理する方法である。
【0045】
EG活性は下記のように測定し、定義される。
濃度1% (W/V) のカルボキシメチルセルロース(CMCNa High viscosity; Cat No150561, MP Biomedicals, lnc.)の基質溶液(濃度100mM、pH5.0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液含有)を調製する。測定用酵素を予め緩衝液(前記同様)で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の吸光度が下記グルコース標準液から得られた検量線に入ればよい)した。90μlの前記基質溶液に前記希釈して得られた酵素溶液10μlを添加し、37℃、30分間反応させる。
検量線を作成するために、イオン交換水(ブランク)、グルコース標準液(濃度0.5〜5.6mMからすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を選択し、それぞれ100μlを用意し、37℃、30分間保温する。
【0046】
前記反応後の酵素含有溶液、検量線用ブランクおよびグルコース標準液に、それぞれ300 μlのDNS発色液(1. 6質量%のNaOH、1質量%の3,5−ジニトロサリチル酸、30質量%の酒石酸カリウムナトリウム)を加えて、5分間煮沸し発色させる。発色後直ちに氷冷し、2mlのイオン交換水を加えてよく混合する。30分間静置した後、1時間以内に吸光度を測定する。
吸光度の測定は96穴マイクロウェルプレート(例えば、269620、NUNC社製)に200μlを分注し、マイクロプレートリーダー(例えば、infiniteM200、TECAN社製)を用い、540nmの吸光度を測定することができる。
【0047】
ブランクの吸光度を差し引いた各グルコース標準液の吸光度とグルコース濃度を用い検量線を作成する。酵素溶液中のグルコース相当生成量は酵素溶液の吸光度からブランクの吸光度を引いてから検量線を用いて算出する(酵素溶液の吸光度が検量線に入らない場合は前記緩衝液で酵素を希釈する際の希釈倍率を変えて再測定を行う) 。1分間にlμmoleのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を1単位と定義し、下記式からEG活性を求めることができる。
EG活性=緩衝液で希釈して得られた酵素溶液1m1のグルコース相当生成量(μmole) /30分×希釈倍率
[福井作蔵, “生物化学実験法(還元糖の定量法)第二版”、学会出版センター、p.23〜24(1990年)参照]
【0048】
CBHI活性は下記のように測定し、定義される。
96穴マイクロウェルプレート(例えば、269620、NUNC社製)に1. 25mMの4-Methylumberiferyl-cel1obioside (濃度125mM、pH5. 0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液に溶解した) 3 2μlを分注する。100mMのGlucono-l,5-Lactone 4μlを添加し、さらに、前記同様の緩衝液で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の蛍光発光度が下記標準液から得られた検量線に入ればよい)した測定用酵素液4μlを加え、37℃、30分間反応させる。その後、500mMのglycine-NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加し、反応を停止させる。
【0049】
前記同様の96穴マイクロウエルプレートに検量線の標準液として4-Methyl-umberiferon標準溶液40μ1 (濃度0〜50μMのすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を分注し、37℃、30分間加温する。その後、500mMのglycine-NaOH緩衝液(pH10.5)200μlを添加する。
【0050】
マイクロプレートリーダー(例えば、F1uoroskanAscentFL、ThermoーLabsystems社製)を用い、350nm (励起光460n皿)における蛍光発光度を測定する。標準液のデータから作成した検量線を用い、酵素溶液中の4-Methy1-umberiferon生成量を算出する(酵素溶液の蛍光発光度が検量線に入らない場合は希釈率を変えて再測定を行う) 。1分間に1μmo1の4-Methyl-umberiferonを生成する酵素の量を1単位とし、下記式からCBHI活性を求めることができる。
CBHI活性=希釈後酵素溶液1m1の4-Methyl-umberiferon生成量(μmo1e)/30分×希釈倍率
【0051】
セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理としては、以下の方法を挙げることができるが、特に限定されない。
・特開2011−162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理;
・特開2013−136859号に記載されているカルボン酸系化合物を使用する方法;並びに
・国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの塩から選ばれる少なくなくとも1種の化合物」を使用する方法。
・特開2013−185122号に記載されているカルボキシメチル化反応を使用する方法。
【0052】
特開2011−162608号公報に記載されている四級アンモニウム基を有する化合物による処理は、繊維中の水酸基と四級アンモニウム基を有するカチオン化剤とを反応させて、該繊維をカチオン変性する方法である。
【0053】
特開2013−136859号に記載されている方法では、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物、2つ以上のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物、およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸系化合物を使用する。これらの化合物により繊維原料を処理して、繊維原料にカルボキシ基を導入するカルボキシ基導入工程と、前記カルボキシ基導入工程終了後に、カルボキシ基を導入した繊維原料をアルカリ溶液で処理するアルカリ処理工程を含む方法である。
【0054】
国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)には、構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(化合物A)により繊維原料を処理する方法が記載されている。具体的には、繊維原料に化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、繊維原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸またはこれらのエステルが挙げられるが特に限定されない。また、これらは塩の形であってもよい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられるが特に限定されない。
【0055】
特開2011−185122には、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02〜0.50であるアニオン変性されたセルロースが高圧ホモジナイザーで処理されることを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法が記載されている。ここでのアニオン変性は、例えば、セルロースを原料にし、マーセル化剤として、原料のグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属を使用してマーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加してエーテル化反応を行うことにより実施できる。
【0056】
本発明では、微細セルロース繊維に置換基を付加する。置換基としては、アニオン基置、カチオン基など特に限定されない。アニオン基としては、リン酸基、スルホン基、カルボキシル基が好ましい。特にエステル化反応により導入されたリン酸基、スルホン基がさらに好ましく、リン酸基が特に好ましい。
【0057】
[リン酸エステル化]
本発明の特に好ましい態様においては、微細セルロース繊維はアニオン性基を有し、より好ましい態様では、微細セルロース繊維はリン酸エステル化(単に、リン酸化ということもある。)されている。
【0058】
(リン酸基導入工程)
本実施態様のリン酸エステル化微細セルロース繊維の製造方法は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物または/およびその塩(以下、「化合物A」という。)を、尿素または/およびその誘導体(以下、「化合物B」という。)の存在下で作用させる工程である。これにより、セルロース繊維のヒドロキシ基に、リン酸基を導入する。
【0059】
リン酸基導入工程は、セルロースにリン酸基を導入する工程を必ず含み、所望により、後述するアルカリ処理工程、余剰の試薬を洗浄する工程などを包含してもよい。
【0060】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましいが、特に限定されない。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加しても良いし、別々に添加しても良い。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0061】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物または/およびその塩である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、若しくはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、若しくはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、若しくはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0062】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。
【0063】
また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7がさらに好ましい。前記のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整しても良い。または、前記のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整しても良い。
【0064】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5〜100質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、2〜30質量%が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が0.5〜100質量%の範囲であれば、微細セルロース繊維の収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇するため好ましくない。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量が0.5質量%より低いと充分な収率が得られないため好ましくない。
【0065】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられるが特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0066】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましいが、特に限定されない。
繊維原料に対する化合物Bの添加量は1〜300質量%であることが好ましいが、特に限定されない。
【0067】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでも良い。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0068】
(アルカリ処理)
リン酸化微細繊維を製造する場合、リン酸基導入工程と後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよく、特に限定されない。前記溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましいが、特に限定されない。
【0069】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5〜80℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5〜30分間が好ましく、10〜20分間がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸導入繊維の絶乾質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、1000〜10000質量%であることがより好ましい。
【0070】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましいが、特に限定されない。
【0071】
<解繊処理>
前記で得られた繊維を解繊処理工程で解繊処理することができる。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。
【0072】
好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザーが挙げられるが、特に限定されない。
【0073】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、若しくはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、若しくはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン若しくはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル若しくはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0074】
置換基の導入量は特に限定されないが、微細セルロース繊維1g(質量)あたり0.1〜3.0mmol/gであり、0.14〜2.5mmol/gが好ましく、0.2〜2.0mmol/gがさらに好ましい。置換基導入量が0.1mmol/g未満では、繊維原料の微細化が困難で、微細セルロース繊維の安定性が劣る。置換基導入量が2.0mmol/gを超えると、十分な粘度が得られない。
【0075】
<リン酸基の導入量>
リン酸基の導入量は特に限定されないが、微細セルロース繊維1g(質量)あたり0.1〜3.0mmol/gであり、0.14〜2.5mmol/gが好ましく、0.2〜2.0mmol/gがさらに好ましい。リン酸基導入量が0.1mmol/g未満では、繊維原料の微細化が困難で、微細セルロース繊維の安定性が劣る。リン酸基導入量が2.0mmol/gを超えると、十分な粘度が得られない。
【0076】
ここで、リン酸基の繊維原料への導入量については、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細セルロース繊維含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求める、伝導度滴定法を用いる。
【0077】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(もしくはリン酸基量)、または置換基導入量(もしくは置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。
【0078】
<組成物の特性>
本発明の、置換基を有する微細セルロース繊維を含む地下層処理用組成物は、増粘性を有する。増粘性とは、泥水と混合した場合に、泥水の粘度が一定以上となりうることをいう。本発明の地下層処理用組成物により、泥水の粘度は、下記の方法で測定した際の測定値が、19000mPa・s以上であることをいう。粘度は、好ましくは20500mPa・s以上であり、より好ましくは37000mPa・s以上である。
また、本発明の、置換基を有する微細セルロース繊維を含む組成物は、高い増粘性を有する。
【0079】
粘度の測定:
繊維固形分が0・2質量%となるように水で希釈し、希釈液1000mLに対してベントナイト(例えば、クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を50g添加して十分に攪拌後、静置し、十分に水和した泥水を作液する。得られた液について、25℃にてB型粘度計(No.2およびNo.3ローター)(例えば、BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて、回転数3rpm(3分)で粘度を測定する。
【0080】
本発明の地下層処理用組成物は、止水性を有する。地下層処理用組成物が止水性を有するとは、下記の止水性試験を行った際の濾水量が、30ml以下であることをいう。濾水量は、好ましくは20ml以下であり、より好ましくは10ml以下である。
【0081】
止水性試験:
上述の、繊維固形分が0.2質量%の泥水200mLを、25℃にてAPI規格による濾過試験器を使用して、室温下で30分間、3kg/cm2Gの加圧を行ったときの濾水量を測定する。
【0082】
本発明の、置換基を有する微細セルロース繊維を含有する地下層処理用組成物は、温度変化に対して粘度が安定である。粘度が安定である(粘度の安定性が高い、ということもある。)かどうかは、維持率により評価することができる。維持率とは、微細繊維を、固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度(30℃〜80℃の間のいずれか一の温度、例えば75℃)における分散液の粘度の、25℃における粘度に対する百分率(%)をいう。
維持率は、次の式で表すことができる:
維持率=各温度における粘度/25℃における粘度x100
【0083】
本発明の、置換基を有する微細セルロース繊維を含有する組成物は、温度変化に対して粘度が安定である。
【0084】
粘度が安定であるとは、維持率が60%以上であることをいう。好ましくは75℃における維持率が、60%以上であることをいう。すなわち、本発明の組成物は、セルロース繊維の固形分濃度が0.2〜0.4質量%となるように水に分散したとき、30℃〜80℃の温度における粘度が、25℃における粘度に対して60%以上である。
【0085】
<分散液の濃縮、乾燥等>
本発明の本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物は、固形物、スラリー、乾燥物、濃縮物等の種々の形態とすることができる。使用される際には水系の分散媒に分散されることから、分散が容易なように、加工されていてもよい。運搬や作業現場でのハンドリング性の観点から、濃縮物、乾燥物の形態で提供されることが望ましい。
【0086】
濃縮物や乾燥物はハンドリング性の観点から、微細セルロース繊維の固形分濃度は、5質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは85質量%以上100質量%以下である。
【0087】
濃縮や乾燥する際、その方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維を含有する液に濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。
【0088】
濃縮剤としては、酸、アルカリ、多価金属の塩、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤などが挙げられる。より詳しくは、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等)、有機酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等)、カチオン性界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピリジニウム硫酸塩、ステアラミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、アシルアミノエチルピリジニウム塩、アシルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩などの第4級アンモニウム塩、ステアロオキシメチルピリジニウム塩、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸トリエタノールアミンギ酸塩、トリオキシエチレン脂肪酸トリエタノールアミン、セチルオキシメチルピリジニウム塩、p−イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩などのエステル結合アミンやエーテル結合第4級アンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、1−ヒドロキシエチル−2−アルキルイミダゾリン、1−アセチルアミノエチル−2−アルキルイミダゾリン、2−アルキル−4−メチル−4−ヒドロキシメチルオキサゾリンなどの複素還アミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N−アルキルプロピレンジアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミンジメチル硫酸塩、アルキルビグアニド、長鎖アミンオキシドなどのアミン誘導体等)、カチオン性高分子凝集剤(アクリルアミドとジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドまたはこれらの塩もしくは四級化物等のカチオン性単量体との共重合物あるいはこれらカチオン性単量体の単独重合物または共重合物等)、アルカリ(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等)、アニオン性界面活性剤(オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等)、アニオン性高分子凝集剤(ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸またはそれらのアルカリ金属塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミドの加水分解物、アクリロイルアミノ−2−メチルプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸またはそれらの塩等のビニルスルホン酸類と(メタ)アクリル酸またはそれらのアルカリ金属塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合体、カルボキシメチルセルロ−ス、カルボキシメチルスタ−チ、アルギン酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0089】
微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物を調整する場合、微細セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、再分散後の溶液のpHが7〜14に調整され、微細セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、再分散後の溶液pHが2〜7の範囲に調整される。
【0090】
微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物を調整する場合、微細セルロース繊維含有物に多価金属の塩またはカチオン界面活性剤またはカチオン性高分子凝集剤を添加し、微細セルロース繊維濃度の固形分濃度を5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20%質量%以上にすることができる。
【0091】
微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物を調整する場合、多価金属の塩またはカチオン界面活性剤またはカチオン性高分子凝集剤を含有する微細セルロース繊維の濃縮液または乾燥物を酸性液に浸漬し、多価金属の塩またはカチオン界面活性剤またはカチオン性高分子凝集剤を除去する工程を採用することもできる。前記濃縮液または乾燥物の固形分濃度は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がより好ましい。
さらに、多価金属の塩またはカチオン界面活性剤またはカチオン性高分子凝集剤を含有する微細セルロース繊維の濃縮液または乾燥物を有機溶剤を含む液(液状であればよい。溶液であってもよく、懸濁液または乳液であってもよい。)に浸漬する工程を採用することもできる。前記濃縮液または乾燥物の固形分濃度は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0092】
微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物を調整する場合、固形分20質量%以下の微細セルロース繊維含有物に有機溶剤を添加し、微細セルロース繊維濃度を固形分濃度20質量%以上にする工程を採用することもできる。
【0093】
微細セルロース繊維を含む組成物の濃縮液または乾燥物を調整する場合、固形分20質量%以下の微細セルロース繊維含有物を加熱し、水分を蒸発させ、微細セルロース繊維濃度を固形分20質量%以上にする工程を採用することもできる。
【0094】
濃縮剤によって微細セルロース繊維組成物から脱水した後、組成物内に残留する濃縮剤を除去するために酸性液(酸性の液状物。例えば、酸性溶液。)による洗浄、または酸性液に浸漬させてもよい。
【0095】
使用する酸は特に限定されない。例えば、無機酸(例えば、硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸)、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸)、カルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸)等を用いることができる。
【0096】
使用する酸性液の濃度は特に限定されないが、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。濃度が高すぎるとセルロースの分解により劣化が発生する可能性がある。
【0097】
使用する酸性液の質量は特に限定されないが、微細セルロース繊維絶乾質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、1000〜10000質量%であることがより好ましい。
【0098】
濃縮方法としては、有機溶剤による脱水を用いてもよい。有機溶剤を用いて濃縮した後、乾燥してもよい。有機溶剤によって処理した後に乾燥することで、微細セルロース繊維の水素結合を抑制することができ、再分散性の観点から好ましい。
【0099】
有機溶剤の例としては、他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物であれば特に限定されず、次のものが例示できる:メタノール、エタノール、1−プロパノール(n−プロパノール)、1−ブタノール(n−ブタノール)、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール、2−プロパノール)、イソペンチルアルコール(イソアミルアルコール)、t−ブチルアルコール(2−メチル−2−プロパノール)、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン(MEK」)、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル−ノルマル−ブチルケトン、エチルエーテル(ジエチルエーテル)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF、N,N−ジメチルホルムアミド)、ジメチルアセトアミド(DMAc、DMA、N,N−ジメチルアセトアミド)、オルト−ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル(酢酸イソアミル)、酢酸エチル、酢酸ノルマル−ブチル、酢酸ノルマル−プロピル、酢酸ノルマル−ペンチル(酢酸ノルマル−アミル)、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ジクロルメタン(二塩化メチレン)、スチレン、テトラクロルエチレン(パークロルエチレン)、1,1,1−トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン(二塩化エチレン)、1,2−ジクロルエチレン(二塩化アセチレン)、1,1,2,2−テトラクロルエタン(四塩化アセチレン)、トリクロルエチレン、二硫化炭素、ガソリン、コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む。)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット及びミネラルターペンを含む。)。
【0100】
また有機溶剤の例としては、特に限定されないが、水と混和性を有するものが好ましく、さらに極性を有するものが好ましい。極性を有する有機溶剤の好ましい例としては、アルコール類、ジオキサン類(1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類の具体例は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等である。それら以外の極性を有する有機溶剤の好ましい例としては、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。有機溶剤を選択する際、溶解パラメータ値(SP値)を考慮してもよい。2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られているため、水との混和性がよいとの観点からは、水に近いSP値を有する有機溶剤を選択することができる。
【0101】
濃縮剤と有機溶剤を組み合わせて濃縮、または乾燥を行ってもよい。順序は特に限定されないが、濃縮剤によって濃縮した後に有機溶剤による処理を行うことで、有機溶剤の使用量を減らすことができるため好ましい。
【0102】
濃縮剤と有機溶剤を組み合わせて濃縮、または乾燥を行う場合、有機溶剤の添加に先立って、濃縮剤を用いて微細セルロース繊維濃度を5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上にすることが好ましい。微細セルロース繊維濃度が5質量%未満であると有機溶剤の必要量が多くなるため好ましくない。
【0103】
有機溶剤による処理前または処理後、または処理中にアルカリ性または酸性の溶液を加えてもよい。アルカリ性の溶液を加えることで濃縮物を再分散させる際に微細セルロース繊維の電荷が高まり再分散しやすくなる。濃縮物はアルカリ性の溶液を加えることで膨潤し、濃縮度合いが悪化する可能性があるため、有機溶剤の存在下で添加することが好ましい。有機溶剤が膨潤を抑制することができる。
酸性の溶液は濃縮剤を微細セルロース繊維濃縮物または乾燥物から除去するために用いられるが、有機溶剤が共存することで濃縮剤が除去された微細セルロース繊維濃縮物または乾燥物の膨潤を抑えることができる。
【0104】
濃縮剤と有機溶剤を併用する際の有機溶剤の使用量は特に限定されないが、微細セルロース繊維絶乾質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、100〜10000質量%であることがより好ましく、100〜1000質量%であることがさらに好ましい。100000質量%を超えると有機溶剤の使用量が多くなり、コストが増加するため望ましくない。一方、100質量%未満では微細セルロース繊維の膨潤抑制効果が不十分であり、好ましくない。
【0105】
これらの濃縮剤は1種類でも良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乾燥方法としては、例えば、一般に用いられる乾燥機を用いる方法等が挙げられる。
【0106】
再分散工程において、セルロース繊維の表面電荷がない、または負の場合には、分散液をpH7以上14以下に調整することが望ましい。また、セルロース繊維の表面電荷が正の場合には、分散液のpHを2〜7の範囲に調整することが望ましい。
【0107】
濃縮、乾燥工程において、濃縮、乾燥前の微細セルロース分散液に添加物が含まれていてもよい。添加物の種類は特に限定されないが、増粘剤が挙げられる。増粘剤の種類は特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、グリチルリチン、デキストラン、サクシノグルカン、ブルラン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、オリゴ糖などの多糖類が挙げられる。
【0108】
前記濃縮、乾燥等の方法により濃縮物、乾燥物を得た場合は、濃縮物または乾燥物を水などの溶媒に再分散させることができる。再分散させた微細セルロース繊維を含有する水溶液の粘度は、濃縮や乾燥前の微細セルロース繊維分散液と比較しても十分な粘性を有しており、20℃〜80℃の範囲における安定性も高い。
【0109】
〔用途〕
<組成物としての用途>
本発明の一態様である、置換基を有する微細セルロース繊維を含有する地下層処理用組成物(単に、「本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物」または「本発明の組成物」ということもある。)は、流体に添加することにより流体の特性を種々に改変しうるので、そのような特性を活かした種々の目的において使用することができる。
本発明の一態様である、微細セルロース繊維を含有する組成物(単に、「本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物」または「本発明の組成物」ということもある。)は、従来の微細セルロース繊維やセルロース系材料(セルロース誘導体や結晶セルロース、バクテリアセルロース)と同じ用途に、特に制限なく使用することができる。例えば、増粘剤、分散剤、乳化剤、懸濁化剤、安定化剤、摩擦低減剤、保冷剤等として、使用することができる。また、化粧品、食品(飲料等の液体の食物も含む。また、ヒトに限らず、非ヒト動物のための食物を含む。)、医薬品、農薬、薬品、塗料、等の用途)等に添加して、使用することができる。
【0110】
本発明の置換基を有する微細セルロース繊維を含有する組成物は、優れた温度安定性を発揮し、高温の流体においても粘度が低下しないため、高深度の地下層処理の際に用いられる流体において、増粘剤として使用できる。
【0111】
本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物はまた、優れた止水性を発揮しうるので、地下層処理用流体において逸泥防止剤、脱水調整剤として使用できる。
【0112】
本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物は、チキソトロピー性を有することから、泥水に使用した際には、優れた坑壁形成能を発揮しうる。またセメンチング流体に使用した際には、セメント圧入を容易にすることができる。したがって、坑壁形成剤またはセメンチング調節剤として使用できる。
【0113】
本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物はまた、地下層処理用流体において微細繊維のネットワーク間にオイルの液滴が捕捉されることで乳化機能を発現しうることから、乳化剤としての使用が期待できる。具体的には、エマルション系の地下層処理用流体への使用や、地下層処理用流体に配合されるエマルション物質の安定化に使用できる。本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物は、高温、例えば300℃までの環境下でも使用できる。微細セルロース繊維の分解温度は300℃であり、また、高い結晶性に起因し、融点やガラス転移点をもたないため、一般的な樹脂のようなヘタリがない。そのため、高深水の坑井でも使用できる。
【0114】
本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物は、適切な分散媒に分散させて用いることができる。分散媒は微細セルロース繊維を分散することができるものであれば特に限定されず、水、有機溶剤、油(例えば、軽油、ミネラルオイル、合成油、食用油、非食用油)等を用いることができる。
【0115】
本発明の組成物に含有される微細セルロース繊維は、ブレーカーを用いて分解させることができる。分解させることで粘度のコントロールや地下層への残存を防ぐことができる。ブレーカーとしては、セルロース繊維を分解できる種々の成分が利用できる。例えば、加硫酸アンモニウム、加硫酸ナトリウム等の酸化剤、塩酸や硫酸等の酸、およびセルラーゼ等の酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
本発明の組成物に含有される微細セルロース繊維は、粘性効果等の向上を狙って、架橋させることができる。架橋剤としては、セルロース繊維を架橋できる種々の成分が利用できる。例えば、ホウ酸塩、水酸化カリウム、硝酸塩、ジルコニウム、チタン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
<流体>
本発明の組成物は、上述のように、増粘、逸泥防止、脱水調節、乳化、坑壁形成、セメンチング調節のために使用でき、また温度、酸、アルカリ、塩に対して耐性があるため、地下層処理、例えば、坑井掘削において使用される各種の流体に添加して使用することができる。このような流体には、フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidation fluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、砂利パッキング流体(gravel packing fluid)等が含まれる。
【0118】
本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物を流体に含有させて用いる場合、含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。典型的には、流体は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、0.005〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%で含有しうる。より好ましくは、高温でも止水性を十分に発揮できるとの観点からは、流体中のセルロース繊維の固形分濃度は、0.05〜2質量%である。
【0119】
<流体中の他の成分>
本発明により提供される流体は、本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物のほか、従来の地下層処理のための流体に添加される各種の成分を含有し得る。添加される成分の例として、加重材、粘度調整剤、分散剤、凝集剤、逸泥防止剤、脱水調節剤、pH制御剤、摩擦低減剤、水和膨張制御剤、乳化剤、界面活性剤、殺生物剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、温度安定剤、樹脂コート剤、亀裂支持材、塩およびプロパントを挙げることができるが、これらに限定されない。また、添加される成分は、一種のみならず、二種以上であってもよい。
【0120】
加重材は流体の比重を高め、裸坑壁の安定やガス、水等の噴出を防止するために用いられる。加重材としてはバライトやヘマタイト等の鉱物を使用できるが、これらに限定されない。
【0121】
粘度調整剤はゲル化剤、増粘剤、調泥剤とも呼ばれ、流体の粘度を最適化するために用いられる。このための成分として、ベントナイト、アタバルジャイト、セピオライト、合成スクメタイト等の鉱物類の他、水溶性である天然および合成のポリマーが使用される。水溶性ポリマーの好ましい例の一つは、天然多糖由来のものである。粘度調節剤の具体例としては、天然物または天然物由来のものとして、グァーガムおよびグァーガム誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびカルボキシエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、アラビアガム、アルギン酸およびそのエステル類、アルギン酸塩、エレミ樹脂、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、カロブビーンガム、増粘多糖類、タマリンドガム、トラガントガム、デンプングリコール酸塩、デンプン酸塩、ファーセレラン、ブドウ糖、ブドウ糖多糖類、ショ糖、キサンタンガム等が挙げられるが、これらに限定されない。合成高分子としては、加水分解ポリアクリルアミド(PHPAポリマー)、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート系ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
逸泥防止剤は、地下層処理用流体の流出を防止するために用いられる。逸泥防止剤として、おがくず、わら、セロファン、セメント、パルプ繊維、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアリレート等を使用できるが、これらに限定されない。
【0123】
脱水調整剤は脱水の減少をはかり、坑壁の保護を強化するために使用される。脱水調整剤としては、スルホン化アスファルト誘導体、デンプン誘導体、ポリアリレート、ポリアニオニックセルロース系ポリマー等が使用されるが、これらに限定されない。
【0124】
乳化剤は、一方の液体中にそれとは通常混合しにくい他方の液体を分散させるために用いられる。乳化剤としては、グリセリンエステル、サポニン、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、カプリン酸エチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、オクタン酸セチル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸オクチル、イソノナン酸ドデシル、ステアリン酸グリセリン、パルミチン酸グリセリン、トリ(カプリル酸カプリン酸)グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、ステアリン酸プロピレングリコール、オレイン酸プロピレングリコール、ラウリン酸プロピレングリコール、ステアリン酸グリコール、ジオレイン酸グリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、イソステアリン酸ポリオキシエチレングリコール、ラウリン酸ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ジメチルコンコポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
プロパントは、0.5mm程度の固形物であり、フラクチャリング等の際に割れ目に押し込まれ、支持体となって割れ目を閉じないようにするために用いられる。プロパントの例として、砂、ガラスビーズ、セラミック粒子および樹脂被覆した砂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
(泥水)
好ましい実施態様の一つは、本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物を含む、坑井掘削の際に使用される泥水である。泥水におけるセルロース繊維の含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。泥水は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、例えば0.004〜40質量%含有し、0.04〜4質量%含有することが好ましく、0.08〜2質量%含有することがより好ましい。
【0127】
坑井掘削の際に使用される泥水は、一般に、堀屑を坑底から除去し、地上へ運搬するために使用される。また、泥水は、坑井内の圧力を制御して意図しない流体の坑井内への流入や地上への噴出を防止し、また坑壁を保護して地下層の崩壊を防ぎ、さらにドリルストリングと坑壁との摩擦を減らし、坑井内機器を冷却する役割も有する。堀屑やガスを運搬することにより、地下の情報を提供する役割も有する。泥水には、ベントナイト泥水、リグノスルホネート泥水、KClポリマー泥水、油系泥水等があるが、本実施態様により各種の泥水が提供される。
【0128】
一般に、ベントナイト泥水は安価で取扱いが容易であるが、塩分やセメントに弱く、ゲル化しやすい。これらの決定を補うため、従来、カルボキシメチルセルロース等が添加されることがあるが、本発明により、より高い性能のベントナイト泥水が提供されうる。
【0129】
本実施態様により、本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物を含む、分散系泥水が提供される。このような泥水は、分散剤として従来のリグノスルホネート(リグニンスルホン酸ということもある。)や、リグナイト(フミン酸誘導体)、pH調節剤(例えば、水酸化ナトリウム)、加重材を含有しうる。本実施態様により提供される分散系の泥水は、泥岩の保護機能、粘性や比重のコントロールの容易性、温度(一般のリグノスルホネート泥水の使用温度は約175℃、リグナイト泥水の使用温度は約190℃といわれる。)、塩、セメント等による耐力が、従来のリグノスルホネート泥水に比較して、より高められていることが期待できる。
【0130】
本実施態様により提供される泥水は、KCl泥水としても構成できる。Kイオンは粘土類の膨潤や分散を抑制する作用に非常に優れていることが知られている。その一方で凝集力が強すぎるために、従来はKイオンを大量に含んだ液中でも増粘性や保護コロイド性を発揮しうる、キタンサンガムや部分加水分解ポリアクリルアミド(PHPA)ポリマーと組み合わせて用いられてきた。本実施態様においては、キタンサンガムやPHPAと共にまたはそれらに代えて、本発明により提供される微細セルロース繊維を含有する組成物を用いることができる。本実施態様により提供されるKCl泥水は、泥岩の保護機能、粘性や比重のコントロールの容易性、塩やセメント等による耐力が、従来のKCl−ポリマー泥水と比較して、より高められていると期待できる。
【0131】
本実施態様により提供される泥水は、油系泥水としても構成できる。油系泥水には、油分95%以上のオイルマッド、さらに15〜35%の水および乳化剤を用いて調製した油中水型の乳化物であるインバートエマルジョンオイルマッドが含まれる。油系泥水は、一般に、水系の泥水に比較して、泥岩層の水和・膨潤の抑制、高温安定性、潤滑性、油層への水の浸入による生産性障害の防止、金属腐食を起こしにくい、腐敗による劣化が少ない等の利点がある。本実施態様により、これらの特性を生かしつつ、さらに改良された油系泥水が提供されると期待できる。
【0132】
(フラクチャリング流体)
好ましい実施態様の一つは、本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物を含む、水圧破砕において使用されるフラクチャリング流体である。フラクチャリング流体におけるセルロース繊維の含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。フラクチャリング流体は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、例えば0.002〜20質量%含有し、0.02〜2質量%含有することが好ましく、0.04〜1質量%含有することがより好ましい。
【0133】
フラクチャリング流体は、一般に、溶剤または分散媒として、水や有機溶剤を90〜95質量%程度含有し、プロパント(支持体)を5〜9質量%程度含有する。さらに場合により、ゲル化剤、スケール防止剤、岩石等を溶解するための酸、摩擦低減剤等の種々の添加剤を0.5〜1質量%程度含有する。これらの成分および添加剤は、本実施態様により提供されるフラクチャリング流体も同様の範囲で含有することができる。
【0134】
微細セルロース繊維は、フラクチャリング流体において、プロパントの安定分散に加え、架橋反応による更なる粘度の向上や、使用後に分解して流体の粘度を低下させたりすることで柔軟な粘度コントロールを行うことができる。また、フラクチャリング流体において分解性の逸泥防止剤としての利用も可能である。逸泥を防止することで、坑内で圧力をかかりやすくできるため、より良い亀裂を形成させることができる。通常の逸泥防止剤をフラクチャリング流体に添加すると、ガスの産出流路を塞いでしまう恐れがあるが、微細セルロース繊維からなる逸泥防止剤は、使用後に分解すれば、産出流路を塞ぐことがない。
【0135】
フラクチャリング流体などでは、地下層へのプロパントの運搬時には、プロパントを流体中で安定的に分散させるために高粘性が必要とされるが、超高温下の地下層ではフラクチャリング後にブレーカーなどで増粘剤を破壊し粘度を低下させる。一般的に微細セルロース繊維は高い結晶性のため、ブレーカーにより破壊されず、粘度を低下させることが難しい。分解されずに残留した微細セルロース繊維により流体が粘性を維持し、地上への回収が難しくなる。そのため、ガスやオイルの流路を塞ぎ、生産量の低下を招く可能性がある。エステル化された微細セルロース繊維は、100℃以上の超高温下で脱エステル反応が進行することが知られている(WO2013/176049)。脱エステル反応が進行すると微細セルロース繊維の分散安定性が低下し、粘度が下がる。脱エステル反応を利用し超高温下の地下層にて微細セルロース繊維の粘度をコントロールすることができる。微細セルロース繊維はエステル化されたものであれば限定されないが、製造のし易さからリン酸化が好ましい。スルホン化された微細セルロース繊維も使用できるが、スルホン化反応時に微細セルロース繊維の短繊維化されることがあるため、粘性が十分か、確認するとよい。
【0136】
(セメンチング流体)
好ましい実施態様の一つは、本発明の微細セルロース繊維を含有する組成物を含む、セメンチング流体である。セメンチング流体におけるセルロース繊維の含有量は、意図した効果が発揮される限り特に限定されない。セメンチング流体は、セルロース繊維を固形分濃度で(セルロース繊維の総量として)、例えば0.001〜40質量%含有し、0.01〜20質量%含有することが好ましく、0.05〜5質量%含有することがより好ましい。
【0137】
セメンチング流体には、ケイ酸三カルシウム等の一般用セメントや高温度の坑井に使用するクラスGセメント等の高温度耐久性セメントを使用することができる。セメンチング時間の最適化のために、セメント速硬剤やセメント遅硬剤等の固結剤を添加剤として使用することができる。また、セメント分散剤、流動性改善剤、低比重、低脱水セメント添加剤等も使用することができる。その他には、脱水調整剤、強度安定剤、加重材、置換効率の改善や坑内洗浄のためのセメントスペーサー添加剤、坑壁洗浄を行うケミカルウォッシュ添加剤、セメントスラリー消泡剤、スケール防止剤、逸泥防止剤、アルミン酸カルシウム、ポリ燐酸ナトリウム、フライアッシュ、発泡剤、泡安定剤、及び泡を形成するに十分な量のガス等が添加されうる。セメンチング流体が硬化したものに弾力性を与えるためには、流体は、必要に応じて不活性で粉砕されたゴムの粒子を含んでいてもよい。
【0138】
微細セルロース繊維は水中で三次元ネットワークを形成し、微細な物質であっても安定分散させることができる。例えば、セメンチング流体では、10μm以下のセメント粒子が存在している。微細セルロース繊維は10μm以下の粒子であっても安定分散させることができる。また、疎水性の粒子も水中に安定分散させることができ、例えば、疎水処理された顔料粒子、鉱物等も安定分散させることができる。また、微細セルロース繊維は親水性が高いため、セメンチング流体の水分離を抑えることができる。耐塩性も高いため、カルシウム分を多く含むセメンチング流体との相性も良好である。
【0139】
また、地熱坑井のような二酸化炭素を含む高温井戸では、塩水を含む二酸化炭素の存在下で劣化しないセメンチング流体が望まれる。また、地熱坑井やそれに類する井戸で用いられるセメント組成物は軽量、例えば約9.5〜約14ポンド/ガロン(約1.14〜約1.68g/cm3)の範囲の密度であることが好ましい。本実施態様により、提供されるセメンチング流体を、このような密度範囲に構成することもできる。
【0140】
<微細セルロース繊維を含む流体の調製方法>
塩水中に分散させる際には、微細セルロース繊維を20質量%未満、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは14質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下の微細セルロース分散液を用いることが好ましい。微細セルロース繊維をあらかじめ希釈しておくことで塩水の影響を抑えることができ、塩水中でも高い分散性を有することができる。適切な濃度以下の微細セルロース繊維分散液に固形の塩を加えても良いし、塩水を加えて調製してもよい。なお、以下では、微細セルロース繊維の濃度が5質量%以下である場合等を例に説明することがあるが、その説明は、他の適切な濃度の場合にも当てはまる。
【0141】
塩が添加される前の5質量%以下の微細セルロース繊維分散液は、微細セルロース濃縮物、または乾燥物を水中で分散させて調製してもよい。また5質量%以上で製造した微細セルロース繊維を希釈して調製してもよいし、微細セルロース繊維の製造の際に5質量%以下となるようにしてもよい。
【0142】
最終的な塩水の濃度は特に限定されないが、水和膨潤抑制機能の発現のために0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。
【0143】
塩水へ添加する前の微細セルロース繊維分散液における塩濃度は1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。塩濃度が1質量%以上では微細セルロース繊維の分散性が悪く、十分な機能が発現しない。
【0144】
微細セルロース繊維を含有する組成物を流体中に添加する際には、固形物、スラリー、乾燥物、濃縮物等の種々の形態のものを水系の分散媒に分散させて使用する。運搬や作業現場でのハンドリング性の観点から、高濃度にて製造した微細セルロース繊維スラリー、濃縮物、乾燥物の形態で提供されることが望ましい。また、濃縮物、乾燥物の製造プロセスを省略化するために、地下層処理現場に微細化処理前のセルロース繊維を運搬し、オンサイトで微細化処理を行うこともできる。
【0145】
微細セルロース繊維の濃縮液または乾燥物を、塩濃度が1質量%未満の水系溶媒に混合し、微細セルロース繊維を5質量%未満となるように再分散させた後、再分散液に塩を添加して塩濃度が0.1質量%以上、0.5質量%以上、または1.0質量%以上の流体を得ることができる。
【0146】
微細セルロース繊維の濃縮物および乾燥物は、流体中で再分散しやすいように加工されていてもよい。地下層処理用流体に配合される天然高分子において、分散性を改善するために使用されている一般的な処方を用いることができる。
【0147】
微細セルロース繊維の濃縮物および乾燥物には、濃縮および乾燥工程において地下層処理用流体に配合される各種添加剤を混合しておいてもよい。
【0148】
微細化処理をオンサイトで行う場合、微細化処理前のセルロース繊維は特に限定されないが、化学処理されたセルロース繊維の微細化効率が優れるため、用地が制限させる現場において解繊装置の小型化や台数の最小化が期待できる。化学処理されたセルロース繊維の中でも、アニオン化、またはカチオン化処理されたものが好ましく、カルボキシル化、リン酸化、スルホン化されたものがさらに好ましい。
【0149】
微細化処理をオンサイトで行う場合の解繊装置については、一般的に微細セルロース繊維の製造に用いられる装置全般を用いることができる。シェールガス・オイルの生産では、無数の坑井を掘削することが想定されるため、各坑井の側に解繊装置を迅速に移動させるため、トラックの後部に解繊装置を積載した専用車や車輪等を備えた解繊装置など運搬性を改良した解繊装置が好ましい。
【0150】
微細化処理をオンサイトで行う際に、地下層処理用流体に配合する添加剤を微細化前のセルロース繊維分散液に混合しておき、解繊処理を行ってもよい。微細セルロース繊維と添加剤がよく混合された分散液を製造可能であり、地下層処理用流体の性能を高めることができる。
【0151】
微細化処理をオンサイトで行う際に、微細化処理前のセルロース繊維は現場への運搬性の観点から固形分濃度が20質量%以上に高められていることが好ましい。より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。固形分濃度が高まるにつれて、微細化処理の際にセルロース繊維の微細化効率が低下してしまう可能性があるため、セルロース繊維同士の結合を防ぐため、分散剤等を添加しておいてもよい。
【0152】
微細化処理をオンサイトで行う際に、微細化処理の工程におけるセルロース繊維の固形分濃度は特に限定されないが、0.01質量%以上50質量%以下が好ましい。より好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上20質量%以下である。セルロース繊維の固形分濃度が高すぎると微細化が促進されず、粗大な繊維が多く残ってしまう。一方で、セルロース繊維の固形分濃度が低いと生産性の観点から好ましくない。
【0153】
微細化処理をオンサイトで行う際に、微細化された微細セルロース繊維分散液は他の流体成分と混合され、流体が調製されるが、微細セルロース繊維分散液は粘性が非常に高くポンプ輸送が困難である可能性がある。解繊装置と流体調製槽を直接連結し微細セルロース繊維分散液を供給する方法があるが、特に限定されない。高圧ホモジナイザーなどの高圧の解繊装置を用いる際には、処理圧力を利用し、微細セルロース繊維分散液を流体調製槽に供給することも考えられる。
【0154】
〔地下層の処理方法、石油資源の生産方法〕
本発明はまた、本発明の組成物または上述の流体を用いた、地下層の処理方法を提供する。地下層(地層ということもある。)には、海底の地下層も含まれる。
【0155】
地下層の処理には、種々の目的で使用する坑井の掘削が含まれる。坑井には、試掘井(exploratory well またはwildcat)、評価井(appraisal well)、探鉱井(exploratory
wellまたはexploration well)、探掘井(delineation well)、開発井(development well)、生産井、圧入井(injection well)、観測井(observation well)、サービス井(service well)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0156】
また、地下層の処理には、下記のものが含まれる。
・セメンチング:主として坑井を掘った後、ケーシングと坑壁との隙間にセメントを充填してケーシングを固定するために行われる。
・坑井調査、検層作業(well logging): これには、泥水検層が含まれる。泥水検層は、循環している掘削泥水中の、ガスや掘り屑を観察、分析するものであり、それにより油ガス層を早期に察知し、また掘削中の岩相を知ることができる。
・石油資源の回収:これには、水攻法(water flooding)、ケミカル攻法(chemical flooding)が含まれる。
・坑井刺激:坑壁や坑井周辺の貯留層の性状を改善し、生産性の向上を図ること等を目的に行われる。これには、塩酸等を用いて洗浄する、酸処理(acidizing)、貯留層に亀裂を生じさせて流体の流路を確保する水圧破砕(hydraulic fracturing、hydrofracturing、fracking)が含まれる。さらに、砂層からの生産の場合の、砂の坑井への流入や砂を含む流体がチュービングや設備に被害を与えることを防止するための、砂対策(sand control)、樹脂を含む流体を地下層に圧入して砂岩を固める樹脂強化(plastic consolidation)等が含まれる。
・水系泥水、油系泥水、ケミカル・フルイド(chemical fluid)またはブライン(brine))を用いた坑井仕上げ。
・浸透率の低いタイトな地下層に通り道(割れ目、フラクチャ)を作るための、高圧のフラクチャリング流体を使用したフラクチャリング。
・坑井改修(well workover)。
・廃坑処理。
【0157】
本発明はまた、本発明により得られる組成物または流体を用いた、石油資源(petroleum) の生産方法を提供する。石油資源とは、地下に存在する、固体、液体、気体のすべての鉱物性炭化水素を指す。石油資源の典型的な例は、一般的な区分である液体の石油(oil)と気体の天然ガスである。また石油資源には、在来型の石油(oil)、天然ガスのほか、タイトサンドガス、シェールオイル、タイトオイル、重質油、超重質油、シェールガス、炭層ガス、ビチュメン、ヘビーオイル、オイルサンド、オイルシェール、メタンハイドレートが含まれる。
【0158】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0159】
(製造例1)
リン酸化セルロースの調製:
尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物5.5g、リン酸水素二ナトリウム4.1gを109gの水に溶解させてリン酸化試薬を調製した。
乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミルおよびピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を絶乾質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得た。
得られた薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて、80分間加熱処理し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12〜13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。FT−IRによる赤外線吸収スペクトルの測定により、1230〜1290cm−1にリン酸基に基づく吸収が見られ、リン酸基の付加が確認された。よって、得られたリン酸オキソ酸導入セルロースは、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(1)の官能基で置換されたものであった。式中、a,b,m,nは自然数である(ただし、a=b×mである。)。α
1,α
2,・・・,α
nおよびα’のうちの少なくとも1つはO
-であり、残りはR,ORのいずれかである。Rは、各々、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0160】
【化1】
【0161】
リン酸化セルロースを濃度が0.5質量%になるようイオン交換水で希釈した後、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理してリン酸化微細セルロース繊維1を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0162】
リン酸基の導入量(置換基量)は、下記の方法で測定した。
[リン酸基の導入量の測定]
リン酸基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量の差分は、リン酸基の縮合の尺度となる。この値が小さいほどリン酸基の縮合が少なく、透明性の高い微細セルロース繊維含有スラリーを与える。リン酸基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量は、解繊処理後の微細セルロース繊維含有スラリーをそのままイオン交換水で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%微細セルロース繊維含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細セルロース繊維含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。
すなわち、
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、強酸性基の導入量(mmol/g)とした。また、
図1に示した曲線の第2領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、弱酸性基の導入量(mmol/g)とした。
【0163】
(製造例2)
リン酸二水素ナトリウム二水和物11.6g、リン酸水素二ナトリウム8.3gに変更した以外は製造例1と同様に行い、リン酸化微細セルロース繊維2を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0164】
(製造例3)
リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gに変更した以外は製造例1と同様に行い、リン酸化微細セルロース繊維3を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0165】
(製造例4)
リン酸二水素ナトリウム二水和物110.6g、リン酸水素二ナトリウム82.6gに変更した以外は製造例1と同様に行い、リン酸化微細セルロース繊維4を得た。X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0166】
(製造例5)
リン酸二水素ナトリウム二水和物165.9g、リン酸水素二ナトリウム123.9gに変更した以外は製造例1と同様に行い、リン酸化微細セルロース繊維5を得た。
【0167】
(実験例1)
製造例1で得られたリン酸化微細セルロース繊維1を0.75質量%に希釈し、25℃にてB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3 rpm(3分)で粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0168】
(実験例2)
実験例1において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維2を用いた以外は実験例1と同様の方法で試験した。
【0169】
(実験例3)
実験例1において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維3を用いた以外は実験例1と同様の方法で試験した。
【0170】
(実験例4)
実験例1において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維4を用いた以外は実験例1と同様の方法で試験した。
【0171】
(実験例5)
実験例1において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維5を用いた以外は実験例1と同様の方法で試験した。
【0172】
(実験例6)
実験例1において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにグァーガム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実験例1と同様の方法で試験した。
【0173】
【表1】
【0174】
表1に示すように、リン酸基量が0.14〜2.5mmol/gの微細セルロース繊維では十分な粘度を有する分散液が得られた。一方で実験例1はリン酸化反応が十分ではなく、ナノ化が進んでいないため、粗大な繊維が多く残っており、十分な粘性を発揮しなかった。また、実験例5はリン酸化反応が進みすぎており、結晶性が低下しているため、十分な粘性を発揮しなかった。また、実験例2〜4のリン酸化微細セルロース繊維を用いた試験では、実験例6のグアーガムを用いた試験と比較し粘度が高かった。
【0175】
(実験例7)
製造例1で得られたリン酸化微細セルロース繊維1を0.2質量%に希釈し、希釈液1000mLに対してベントナイト(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を50g添加して3000rpmで60分間攪拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。25℃にてB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3 rpm(3分)で得られた泥水の粘度を測定した。また、下記に記載の方法で止水性試験を行い濾水性(止水性)を測定した。結果を表2に示す。
【0176】
<止水性試験>
得られた泥水200mLを25℃にてAPI規格による濾過試験器を使用して、室温下30分間、3kg/cm2Gの加圧を行ったときの濾水量を測定した。すなわち濾水量が少ないほど、止水性能が良好であるといえる。
【0177】
(実験例8)
実験例7において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維2を用いた以外は実験例7と同様の方法で試験した。
【0178】
(実験例9)
実験例7において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維3を用いた以外は実験例7と同様の方法で試験した。
【0179】
(実験例10)
実験例7において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維4を用いた以外は実験例7と同様の方法で試験した。
【0180】
(実験例11)
実験例7において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにリン酸化微細セルロース繊維5を用いた以外は実験例7と同様の方法で試験した。
【0181】
(実験例12)
実験例7において、リン酸化微細セルロース繊維1の代わりにグァーガム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実験例7と同様の方法で試験した。
【0182】
【表2】
【0183】
リン酸基量が0.14〜2.5mmol/gの微細セルロース繊維とベントナイトを混合した水溶液では、十分な粘度を有する水溶液が得られ、かつ水溶液の濾水性(止水性)が高かった。
【0184】
(実施例1)
製造例3で得られたリン酸化微細セルロース繊維3を0.75質量%に希釈し、ウォーターバスにて25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3 rpm(3分間)で粘度を測定した。各温度における粘度の維持率(%)を下記の計算式で算出した。
維持率=各温度における粘度/25℃における粘度 x 100。結果を表3に示す。
【0185】
(比較例1)
実施例1において、リン酸化微細セルロース繊維3の代わりにグァーガム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同等の方法で試験した。
【0186】
【表3】
【0187】
製造例3で得たリン酸基量が0.6mmol/gの微細セルロース繊維を用いた試験では、既存の掘削流体に使用されるグアーガムを用いた試験と比較し、温度による粘度変化が安定であった。
【0188】
(実施例2)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.2質量%に希釈し、希釈液1000mLに対してベントナイト(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を50g添加して3000rpmで60分間攪拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。ウォーターバスにて25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、75℃に調整し、実施例1と同様の方法で粘度およびを測定し、維持率を算出した。結果を表4に示す。
【0189】
(比較例2)
実施例2において、リン酸化微細セルロース繊維3の代わりにグァーガム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実施例2と同等の方法で試験した。
【0190】
【表4】
【0191】
製造例3で得たリン酸基量が0.6mmol/gの微細セルロース繊維とベントナイトを混合した水溶液を用いた場合、グアーガムを含有する水溶液を用いた場合と比較し、温度による粘度変化が安定であった。
【0192】
(実施例3)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈し、希釈液1000mLに対して塩化ナトリウム150g、塩化カルシウム20gを添加して3000rpmで5分間攪拌後、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加しpH12に調整し地下層処理用流体を作液した。ウォーターバスにて25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3 rpm(3分)で粘度を測定した。結果を表5に示す。
【0193】
(比較例3)
実施例3において、リン酸化微細セルロース繊維3の代わりにグァーガム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実施例3と同等の方法で試験した。
【0194】
【表5】
【0195】
製造例3のリン酸基が0.6mmol/gの微細セルロース繊維を含有する地下層処理用流体(地下層処理用流体に使用される塩類を配合)を用いた場合、グアーガムを含有する水溶液を用いた場合と比較し、温度による粘度変化が安定であった。
【0196】
(実験例13)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈し、希釈液100mLに対して濃縮剤として塩化カルシウム1gを加えてゲル化させた。濾過後、ろ紙にて圧搾し、固形分濃度21.4質量%の濃縮物を得た。前記濃縮物を0.1N塩酸水溶液100mLに30分間浸漬後、イオン交換水にて洗浄した。0.2質量%に希釈し、0.1N 塩酸またはNaOH水溶液にてpH2に調整し1時間攪拌し、前記濃縮物を再分散させた。再分散させた水溶液100mLに対してベントナイト(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を5g添加して3000rpmで60分間攪拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表6に示す。
【0197】
(実験例14)
実験例13において、pH4に調整した以外は全て実験例13と同様の方法で試験した。
【0198】
(実験例15)
実験例13において、pH6に調整した以外は全て実験例13と同様の方法で試験した。
【0199】
(実験例16)
実験例13において、pH8に調整した以外は全て実験例13と同様の方法で試験した。
【0200】
(実験例17)
実験例13において、pH10に調整した以外は全て実験例13と同様の方法で試験した。
【0201】
(実験例18)
実験例13において、pH2に調整した以外は全て実験例13と同様の方法で試験した。
【0202】
(実験例19)
実験例15において、塩化カルシウムの代わりに濃縮剤として塩化アルミニウム1gを加えてゲル化させた以外は全て実験例15と同様の方法で試験した。
【0203】
(実験例20)
実験例19において、pH8に調整した以外は全て実験例19と同様の方法で試験した。
【0204】
(実験例21)
実験例19において、pH10に調整した以外は全て実験例19と同様の方法で試験した。
【0205】
(実験例22)
実験例19において、pH12に調整した以外は全て実験例19と同様の方法で試験した。
【0206】
(実験例23)
実験例17において、0.1N塩酸水溶液100mLに30分間浸漬後、イオン交換水にて洗浄する工程を行わなかった以外は全て実験例17と同様の方法で試験した。
【0207】
(実験例24)
実験例21において、0.1N塩酸水溶液100mLに30分間浸漬後、イオン交換水にて洗浄する工程を行わなかった以外は全て実験例21と同様の方法で試験した。
【0208】
【表6】
【0209】
微細セルロース繊維を塩化カルシウム、または塩化アルミニウムを用いて濃縮後、pH8〜12で微細セルロース繊維を再分散させた試験では、再分散後も高い粘度を維持できることが判明した。また、温度変化による粘度安定性も優れていた。
塩化カルシウム、または塩化アルミニウムを用いて濃縮した後、酸による洗浄を行わなかった試験(実験例23、実験例24)では、カルシウムイオン、またはアルミニウムイオンが微細セルロースから脱離せず、強固な凝集物を形成したままの状態を維持していたため、再分散性が非常に悪く、低粘度であった。
【0210】
(実験例25)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈した。希釈液を105℃に設定した乾燥機に入れ、絶乾になるまで乾燥させた。イオン交換水100mLに対して乾燥物0.2g添加し、0.1N 塩酸水溶液にてpH6に調整し1時間攪拌した。0.2質量%希釈液100mLに対してベントナイト(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を5g添加して3000rpmで60分間攪拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3 rpm(3分)で粘度を測定した。結果を表7に示す。
【0211】
(実施例26)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈した。希釈液を105℃に設定した乾燥機に入れ、絶乾になるまで乾燥させた。イオン交換水100mLに対して乾燥物0.2g添加し、0.2質量%水溶液を調整した。pHを測定したところpH9.2であった。0.2質量%希釈液100mLに対してベントナイト(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を5g添加して3000rpmで60分間攪拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表7に示す。
【0212】
【表7】
【0213】
微細セルロース繊維を乾燥機で乾燥後、分散液がアルカリ性となる条件にて微細セルロース繊維を再分散させた試験(実験例26)では、再分散後も高い粘度を維持できることが判明した。また、温度変化による粘度安定性も優れていた。
【0214】
(実験例27)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈した。希釈液100mLに対し、200mLのイソプロパノールを添加し、リン酸化微細セルロース繊維3をゲル化させ、ろ紙により濾別した。濾別したゲルに200mLのイソプロパノールを添加し、混合した後、ろ紙により濾別した。濾別したゲルをろ紙で圧搾した。固形分濃度は30.5質量%であった。イオン交換水100mLに対して濾別したゲルを添加し、8000rpmで3分攪拌し、0.4質量%水溶液を調整した。pHを測定したところpH8.5であった。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表8に示す。
【0215】
(実験例28)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈した。希釈液100mLに対し、200mLのイソプロパノールを添加し、リン酸化微細セルロース繊維3をゲル化させ、ろ紙により濾別した。濾別したゲルに200mLのイソプロパノールを添加し、混合した後、ろ紙により濾別した。濾別したゲルをろ紙で圧搾したのち、105℃にて乾燥させ、乾燥物を得た。イオン交換水100mLに対して乾燥物0.4g添加し、8000rpmで3分攪拌し、0.4質量%水溶液を調整した。pHを測定したところpH8.6であった。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表8に示す。
【0216】
(実験例29)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈した。希釈液100mLに対し、200mLのイソプロパノールを添加し、リン酸化微細セルロース繊維3をゲル化させ、ろ紙により濾別した。濾別したゲルに200mLのイソプロパノールを添加し、混合した後、ろ紙により濾別した。濾別したゲルをろ紙で圧搾した。固形分濃度は30.5質量%であった。イオン交換水100mLに得られたゲル添加し、0.1N 塩酸水溶液にてpH4に調整した後、1時間攪拌し、0.4質量%水溶液を調製した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表8に示す。
【0217】
(実験30)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈した。希釈液100mLに対し、200mLのイソプロパノールを添加し、リン酸化微細セルロース繊維3をゲル化させ、ろ紙により濾別した。濾別したゲルに200mLのイソプロパノールを添加し、混合した後、ろ紙により濾別した。濾別したゲルをろ紙で圧搾したのち、105℃にて乾燥させ、乾燥物を得た。イオン交換水100mLに得られた乾燥物を添加し、0.1N 塩酸水溶液にてpH4に調整した後、1時間攪拌し、0.4質量%水溶液を調製した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表8に示す。
【0218】
【表8】
【0219】
有機溶剤を用いて濃縮、乾燥させた微細セルロース繊維は、分散液がアルカリ性となる条件にて微細セルロース繊維を再分散させた試験(実験例27、実験例28)では、再分散後も高い粘度を維持できることが判明した。また、温度変化による粘度安定性も優れていた。
【0220】
(実験例31)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈し、希釈液100mLに対して濃縮剤として塩化アルミニウム1gを加えてゲル化させた。濾過後、ろ紙にて圧搾し、固形分濃度21.4質量%の濃縮物を得た。前記濃縮物にイソプロパノール2gと6%水酸化ナトリウム水溶液2gを添加し、薬さじでよく混合した後、濾過し、固形分濃度23.0質量%の濃縮物を得た。前記濃縮物にイソプロパノール2gとイオン交換水2gを添加し、薬さじでよく混合した後、濾過し、固形分濃度26.7%の濃縮物を得た。イオン交換水100mLに対して濾別したゲルを添加し、8000rpmで3分攪拌し、0.4質量%水溶液を調整した。pHを測定したところpH10.5であった。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表9に示す。
0.2質量%に希釈し、0.1N 塩酸またはNaOH水溶液にてpH2に調整し1時間攪拌し、前記濃縮物を再分散させた。再分散させた水溶液100mLに対してベントナイト(クニゲルV1、クニミネ工業株式会社)を5g添加して3000rpmで60分間攪拌後、24時間静置して十分に水和した泥水を作液した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表6に示す。
【0221】
(実験例32)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈し、希釈液100mLに対して濃縮剤として塩化アルミニウム1gを加えてゲル化させた。濾過後、ろ紙にて圧搾し、固形分濃度21.5質量%の濃縮物を得た。前記濃縮物にイソプロパノール2gとイオン交換水2gを添加し、薬さじでよく混合した後、濾過し、固形分濃度23.2質量%の濃縮物を得た。前記濃縮物にイソプロパノール2gとイオン交換水2gを添加し、薬さじでよく混合した後、濾過し、固形分濃度27.1%の濃縮物を得た。イオン交換水100mLに対して濾別したゲルを添加し、8000rpmで3分攪拌し、0.4質量%水溶液を調整した。pHを測定したところpH4であった。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表9に示す。
【0222】
(実験例33)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3を0.4質量%に希釈し、希釈液100mLに対して濃縮剤として塩化アルミニウム1gを加えてゲル化させた。濾過後、ろ紙にて圧搾し、固形分濃度21.4質量%の濃縮物を得た。前記濃縮物に6%水酸化ナトリウム水溶液2gを添加し、薬さじでよく混合した後、濾過を行ったが、微細セルロース繊維ゲルの保水性が高く、ゲルが膨潤し、脱水することができなかった。結果を表9に示す。
【0223】
【表9】
【0224】
実験例31では、塩化アルミニウムにて濃縮した微細セルロース繊維から水酸化ナトリウムを用いて塩化アルミニウム除去する際、イソプロパノールが存在することで濃縮物が膨潤することがなかった。再分散後も高い粘度を維持できることが判明した。また、温度変化による粘度安定性も優れていた。実験例32では、水酸化ナトリウムによる処理がないことから、濃縮物中に存在するアルミニウムイオンが除去できず、再分散性が不十分であった。実験例33では、イソプロパノールが存在しないため、アルミニウムイオンが微細セルロース表面から遊離した際に微細セルロース繊維濃縮物が膨潤し、脱水を行うことができなかった。
【0225】
(実験例34)
製造例3で得たリン酸化微細セルロース繊維3(0.5質量%)にNaCl水溶液を加え、微細セルロース繊維が0.4質量%、塩化ナトリウムが1質量%になるように調製し、8000rpmで3分攪拌した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表10に示す。
【0226】
(実験例35)
塩化ナトリウムが25質量%になるように調製した以外は実験例34と同様に行った。結果を表10に示す。
【0227】
(実験例36)
塩化カルシウムが2質量%になるように調製した以外は実験例34と同様に行った。結果を表10に示す。
【0228】
(実験例37)
塩化カリウムが2質量%になるように調製した以外は実験例34と同様に行った。結果を表10に示す。
【0229】
(実験例38)
実験例27で得た微細セルロース繊維濃縮物(固形分濃度30.5質量%)を水道水で希釈し、1.8質量%とした。NaCl水溶液を加え、微細セルロース繊維が0.4質量%、塩化ナトリウムが1質量%になるように調製し、8000rpmで3分攪拌した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表10に示す。
【0230】
(実験例39)
塩化ナトリウムが25質量%になるように調製した以外は実験例38と同様に行った。結果を表10に示す。
【0231】
(実験例40)
塩化カルシウムが2質量%になるように調製した以外は実験例38と同様に行った。結果を表10に示す。
【0232】
(実験例41)
塩化カリウムが2質量%になるように調製した以外は実験例38と同様に行った。結果を表10に示す。
【0233】
(実験例42)
実験例28で得た微細セルロース繊維乾燥物を水道水で希釈し、1.8質量%とした。NaCl水溶液を加え、微細セルロース繊維が0.4質量%、塩化ナトリウムが1質量%になるように調製し、8000rpmで3分攪拌した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表10に示す。
【0234】
(実験例43)
実験例27で得た微細セルロース繊維濃縮物(固形分濃度30.5質量%)にNaCl水溶液を加え、微細セルロース繊維が0.4質量%、塩化ナトリウムが1質量%になるように調製し、8000rpmで3分攪拌した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表10に示す。
【0235】
(実験例44)
実験例28で得た微細セルロース繊維乾燥物にNaCl水溶液を加え、微細セルロース繊維が0.4質量%、塩化ナトリウムが1質量%になるように調製し、8000rpmで3分攪拌した。ウォーターバスにて25℃、75℃に調整し、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて回転数3rpm(3分間)で粘度を測定した。結果を表10に示す。
【0236】
(実験例45)
塩を添加しなかった以外は実験例34と同様に行った。結果を表10に示す。
【0237】
【表10】
【0238】
微細セルロース繊維濃縮物および乾燥物を塩含有量の少ない水で希釈した後、塩を添加した流体は塩水中においても十分な粘性を発揮し、温度安定性にも優れていた。一方で、微細セルロース繊維の濃縮物および乾燥物を直接塩水中で攪拌しても、濃縮物および乾燥物は分散せずに沈殿を生じた。塩水中で粘性を発揮させるには、微細セルロース繊維分散液の固形分濃度を十分に下げた後、塩を添加することが重要なことが示された。