(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、凸部または凹部からなる凹凸部を形成して結晶成長用基板を製造し、ついで、エピタキシャル膜を成膜して結晶性積層構造体を製造する方法であって、前記凹凸部の形成を、結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有しており、さらに、第1の結晶軸方向の熱膨張係数が第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きい結晶基板の結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に、前記凹凸部として、複数の凹凸部を周期的に形成することにより行い、前記エピタキシャル膜の成膜を、前記結晶成長用基板の結晶成長面上に、前記エピタキシャル膜としてコランダム構造を有するエピタキシャル膜を形成することにより行うことを特徴とする製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、異種基板上でも、工業的有利にエピタキシャル層を形成できる結晶成長用基板およびエピタキシャル成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、結晶成長用基板上に、凸部または凹部からなる凹凸部を、前記結晶基板の熱膨張係数が高い結晶軸方向に垂直となる方向に形成すると、驚くべきことに、エピタキシャル成長の成長速度が飛躍的に向上することを知見し、上記した従来の問題を一挙に解決できることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、凸部または凹部からなる凹凸部が形成されている結晶成長用基板であって、前記結晶基板が、結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有しており、第1の結晶軸方向の熱膨張係数が第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きく、前記結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に前記凹凸部が形成されていることを特徴とする結晶成長用基板。
[2] 凹凸部が、周期的に形成されている前記[1]記載の結晶成長用基板。
[3] 凹凸部が、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状である前記[1]または[2]に記載の結晶成長用基板。
[4] 凹部が、結晶基板の結晶成長面上に設けられた空隙層である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の結晶成長用基板。
[5] 第1および第2の結晶軸方向の熱膨張係数差が、結晶成長温度において、0.5×10
−6K
−1以上である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の結晶成長用基板。
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の結晶成長用基板の結晶成長面上に、エピタキシャル膜が形成されていることを特徴とする結晶性積層構造体。
[7] エピタキシャル膜がコランダム構造を有する前記[6]記載の結晶性積層構造体。
[8] エピタキシャル膜が酸化物半導体を主成分として含む前記[6]または[7]に記載の結晶性積層構造体。
[9] 酸化物半導体が、少なくともガリウムを含む前記[8]記載の結晶性積層構造体。
[10] 結晶基板が、サファイア基板である前記[1]〜[9]のいずれかに記載の結晶性積層構造体。
[11] 結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、凸部または凹部からなる凹凸部を形成する結晶成長用基板を製造する方法であって、
前記凹凸部の形成を、結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有しており、さらに、第1の結晶軸方向の熱膨張係数が第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きい結晶基板の結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に前記凹凸部を形成することを特徴とする結晶成長用基板の製造方法。
[12] 結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、凸部または凹部からなる凹凸部を形成して結晶成長用基板を製造し、ついで、エピタキシャル膜を成膜して結晶性積層構造体を製造する方法であって、
前記凹凸部の形成を、結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有しており、さらに、第1の結晶軸方向の熱膨張係数が第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きい結晶基板の結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に前記凹凸部を形成することにより行うことを特徴とする製造方法。
[13] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の結晶成長用基板を用いることを特徴とするエピタキシャル成長方法。
[14] 前記[6]〜[10]のいずれかに記載の結晶性積層構造体からなる半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エピタキシャル結晶成長の成膜速度が向上し、工業的有利にエピタキシャル層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の結晶成長用基板は、結晶基板の結晶成長面上に凸部または凹部からなる凹凸部が形成されている結晶成長用基板であって、前記結晶基板が、結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有しており、第1の結晶軸方向の熱膨張係数が第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きく、前記結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に前記凹凸部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
<結晶成長用基板>
「結晶成長用基板」は、エピタキシャル膜を支持できるものであって、少なくとも、前記結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に凸部または凹部からなる凹凸部が形成されていれば特に限定されない。なお、前記「結晶成長面」は、結晶成長用基板の主面であり、エピタキシャル膜を成膜する面をいう。
【0015】
<結晶基板>
前記結晶基板は、前記結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有しており、第1の結晶軸方向の熱膨張係数が第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きければ特に限定されない。公知の基板であってよく、絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。「結晶成長方向」とは、前記結晶基板の表面の特定の点を基準点としたときに、その基準点からエピタキシャル膜の表面に到達する距離が最短となるベクトル方向のことをいう。前記結晶基板としては、例えば、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板、またはβ−ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板、六方晶構造を有する基板などが挙げられる。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。
【0016】
前記コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板などが挙げられる。前記β−ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基板としては、例えば、β−Ga
2O
3基板、またはβ−Ga
2O
3とAl
2O
3とを含む混晶体基板などが挙げられる。なお、β−Ga
2O
3とAl
2O
3とを含む混晶体基板としては、例えば、Al
2O
3が0wt%より多くかつ60wt%以下である混晶体基板などが好適な例として挙げられる。また、前記六方晶構造を有する基板としては、例えば、SiC基板、ZnO基板、GaN基板などが挙げられる。その他の結晶基板の例示としては、例えば、Si基板などが挙げられる。本発明においては、前記結晶基板が、サファイア基板であるのが好ましい。前記サファイア基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°〜15°である。
【0017】
前記結晶基板は、前記結晶成長方向に垂直または略垂直な第1および第2の結晶軸を有している。ここで、「垂直または略垂直」は、前記結晶成長方向に垂直な軸に対して、好ましくは約±20度の範囲内であり、より好ましくは約±10度の範囲内であり、最も好ましくは約±5度の範囲内である。
【0018】
図1は、本発明に用いられる結晶基板を模式的に示す。
図1の結晶基板は、結晶成長面1と、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ異なる結晶軸とを少なくとも有しており、Y軸の矢印方向が結晶成長方向となっている。また、X軸方向の熱膨張係数は、Z軸方向の熱膨張係数よりも大きい。そのため、X軸が第1の結晶軸であり、Z軸が第2の結晶軸である。第1の結晶軸方向の熱膨張係数は、第2の結晶軸方向の熱膨張係数よりも大きければ特に限定されない。本発明においては、第1の結晶軸と第2の結晶軸との熱膨張係数差が、0.5×10
−6K
−1以上であるのが好ましく、0.8×10
−6K
−1以上であるのがより好ましく、1.0×10
−6K
−1以上であるのが最も好ましい。
【0019】
なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、50〜2000μmであり、より好ましくは200〜800μmである。
【0020】
<凹凸部>
前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部と凹部とからなる凹凸部であってもよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、複数の凹凸部が周期的に形成されているのが好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、本発明においては、ストライプ状またはドット状が好ましい。なお、ドットの表面形状としては、例えば三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などが挙げられる。前記凹凸部の凹部または凸部の形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。
【0021】
前記凸部の構成材料としては、特に限定されず、公知の材料であってよい。絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよいが、縦方向の結晶成長を阻害可能な材料が好ましい。また、前記構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または炭化物、カービン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO2、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。なお、前記構成材料の含有量は、凸部中、組成比で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0022】
前記凸部の形成手段としては、公知の手段であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。本発明においては、前記凸部がストライプ状またはドット状であるのが好ましく、ストライプ状であるのがより好ましい。
【0023】
前記凹部は、特に限定されないが、上記凸部の構成材料と同様のものであってよいし、結晶基板であってもよい。本発明においては、前記凹部が、ドット状であるのが好ましく、前記シリコン含有化合物からなるマスク層にドット状の凹部が設けてあるのがより好ましい。前記凹部の形成手段としては、前記の凸部の形成手段と同様の手段を用いることができる。また、前記凹部が結晶基板の結晶成長面上に設けられた空隙層であるのも好ましい。前記空隙層は、公知の溝加工手段により、結晶基板に溝を設けることで、前記結晶基板の結晶成長面上に形成することができる。空隙層の溝幅、溝深さ、テラス幅等は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、適宜に設定することができる。また、空隙層には、空気が含まれていてもよいし、不活性ガス等が含まれていてもよい。
【0024】
本発明においては、前記凹凸部を、前記結晶成長面の一部または全部に、第1の結晶軸に対して垂直または略垂直な方向に形成する。ここで、「垂直または略垂直」は、第1の結晶軸方向に垂直な軸に対して、好ましくは約±20度の範囲内であり、より好ましくは約±10度の範囲内であり、最も好ましくは約±5度の範囲内である。
【0025】
図2は、本発明における結晶成長用基板の好適な一態様を示す。
図2の結晶成長用基板11は、結晶基板10および凸部2を備えている。結晶基板10は、結晶成長面1と、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ異なる結晶軸とを少なくとも有しており、Y軸の矢印方向が結晶成長方向となっている。また、X軸方向の熱膨張係数は、Z軸方向の熱膨張係数よりも大きい。そのため、X軸が第1の結晶軸であり、Z軸が第2の結晶軸である。また、結晶基板10の結晶成長面1には、凸部2が設けられており、第1の結晶軸に対して垂直な方向を向いて凸部2がストライプ状に形成されている。
【0026】
図3は、本発明における結晶成長用基板の好適な別の一態様を示す。
図3の結晶成長用基板11は、
図2と同様に、結晶基板10および凸部2を備えている。結晶基板10は、結晶成長面1と、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ異なる結晶軸とを少なくとも有しており、Y軸の矢印方向が結晶成長方向となっている。また、X軸方向の熱膨張係数は、Z軸方向の熱膨張係数よりも大きい。そのため、X軸が第1の結晶軸であり、Z軸が第2の結晶軸である。また、結晶基板10の結晶成長面1には、凸部2が設けられており、第1の結晶軸に対して垂直な方向を向いて凸部2がドット状に形成されている。
【0027】
図4は、本発明における結晶成長用基板の好適な別の一態様を示す。
図4の結晶成長用基板11は、結晶基板10およびマスク層5を備えている。結晶基板10は、結晶成長面1と、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ異なる結晶軸とを少なくとも有しており、Y軸の矢印方向が結晶成長方向となっている。また、X軸方向の熱膨張係数は、Z軸方向の熱膨張係数よりも大きい。そのため、X軸が第1の結晶軸であり、Z軸が第2の結晶軸である。マスク層5には、第1の結晶軸に垂直な方向に凹部3が形成されている。凹部3は、マスク層5にドット状の穴が空けられたことにより形成され、前記穴からは結晶基板10が露出している。また、マスク層5は、縦方向の結晶成長を阻害可能な層であれば特に限定されない。マスク層5の構成材料としては、例えば、SiO
2等のシリコン含有化合物などの公知の材料等が挙げられ、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いてマスク層5を形成することができる。
【0028】
図5は、本発明における結晶成長用基板の好適な別の一態様を示す。
図5の結晶成長用基板11は、結晶基板10に凹部3を備えている。結晶基板10は、結晶成長面1と、X軸、Y軸およびZ軸にそれぞれ異なる結晶軸とを少なくとも有しており、Y軸の矢印方向が結晶成長方向となっている。また、X軸方向の熱膨張係数は、Z軸方向の熱膨張係数よりも大きい。そのため、X軸が第1の結晶軸であり、Z軸が第2の結晶軸である。また、結晶基板10の結晶成長面1には、凹部3として溝が設けられており、第1の結晶軸に対して垂直な方向を向いて凹部3がストライプ状に形成されている。なお、前記凹部3の形成は、公知の溝加工手段を用いて行うことができる。
【0029】
「熱膨張係数」は、JISR1618に準拠して測定される値をいう。ここで、本発明において好適なサファイア基板の例を挙げると、例えば、前記結晶基板がa面サファイア基板である場合には、c軸を第1の結晶軸とし、m軸を第2の結晶軸とすることが最も好ましくなる。
【0030】
また、本発明においては、前記結晶基板上にバッファ層や応力緩和層等の他の層を設けもよく、このように、他の層を設ける場合には、他の層上でも他の層下でも前記凹凸部を形成してもよいが、好ましくは、他の層上に、前記凹凸部を形成する。
【0031】
前記結晶成長用基板は、エピタキシャル結晶成長用の基板として好適に用いられる。前記結晶成長用基板を用いて、前記結晶成長用基板の結晶成長面上に、エピタキシャル結晶成長によりエピタキシャル膜を形成して結晶性積層構造体を製造することができ、このようにして得られた結晶性積層構造体も本発明に含まれる。
【0032】
前記結晶性積層構造体は、前記結晶成長用基板の結晶成長面上に、エピタキシャル結晶成長により形成されたエピタキシャル膜が形成されていれば特に限定されない。
【0033】
「結晶性積層構造体」とは、一層以上の結晶層を含む構造体であり、結晶層以外の層(例:アモルファス層)を含んでいてもよい。また、結晶層は、単結晶層であることが好ましいが、多結晶層であってもよい。
【0034】
前記エピタキシャル膜は、結晶成長した膜であれば特に限定されないが、本発明においては、前記エピタキシャル膜がコランダム構造を有するのが好ましい。また、前記エピタキシャル膜は、結晶性半導体膜であるのが好ましい。前記結晶性半導体膜の主成分である半導体としては、例えば、Si、SiGe、SiCなどのシリコン系半導体、GaAs、GaN、GaPなどのガリウム系半導体、InP、InAsなどのインジウム系半導体などが挙げられる。本発明においては、前記半導体が、ガリウム(Ga)またはケイ素(Si)を含む半導体であるのが好ましく、酸化物半導体であるのがより好ましく、少なくともガリウムを含むのが最も好ましい。
【0035】
前記エピタキシャル結晶成長手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の手段であってもよい。前記エピタキシャル結晶成長手段としては、例えば、CVD法、MOCVD法、MOVPE法、ミストCVD法、ミスト・エピタキシー法、MBE法、HVPE法またはパルス成長法などが挙げられる。本発明においては、前記エピタキシャル結晶成長手段が、ミストCVD法またはミスト・エピタキシー法であるのが好ましい。
【0036】
以下、本発明の好適な例として、ミストCVD法を用いて、前記エピタキシャル膜として結晶性酸化物薄膜を前記結晶成長用基板上に成膜した例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
前記結晶性酸化物薄膜は、結晶性酸化物半導体薄膜であるのが好ましく、前記結晶性酸化物半導体薄膜はアニール処理後であってもよく、これにより、結晶性薄膜とオーミック電極との間にオーミック電極が合金化・混晶化した金属酸化膜が形成されていてもよい。なお、前記オーミック電極としては、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、金(Au)、クロム(Cr)、タングステン(W)及びバナジウム(V)並びに白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びコバルト(Co)などが挙げられる。
【0038】
前記結晶性酸化物薄膜は、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは、特に限定されず、公知のものであってよい。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブ等のn型ドーパント、またはp型ドーパントなどが挙げられる。本発明においては、前記ドーパントが、GeまたはSiであるのが好ましい。前記GeまたはSiの含有量は、前記結晶性酸化物薄膜の組成中、0.00001原子%以上であるのが好ましく、0.00001原子%〜20原子%であるのがより好ましく、0.00001原子%〜10原子%であるのが最も好ましい。
【0039】
また、前記結晶性酸化物薄膜は、炭素を実質的に含有していない。「炭素を実質的に含有していない」とは、具体的には、炭素の含有量が、前記結晶性酸化物薄膜の組成中、0.1原子%以下であることをいい、好ましくは0.01原子%以下であり、より好ましくは0.001原子%以下である。
【0040】
また、前記結晶性酸化物薄膜は、半値幅が50arcsec以下であるのが好ましく、40arcsec以下であるのがより好ましい。前記半値幅は、X線測定(アウト・オブ・プレーン(Out−of−plane)測定)の半値幅である。
【0041】
<結晶性酸化物薄膜>
前記結晶性酸化物薄膜は、コランダム構造を有する結晶性酸化物、またはβ−ガリア構造を有する結晶性酸化物を主成分として含んでいるのが好ましく、前記結晶性酸化物がα−Ga
2O
3またはβ−Ga
2O
3を主成分として含んでいるのがより好ましい。「主成分」とは、結晶性酸化物がα−Ga
2O
3である場合、前記薄膜の金属元素中のガリウムの原子比が0.5以上の割合でα−Ga
2O
3が含まれていればそれでよい。本発明においては、前記薄膜中の金属元素中のガリウムの原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。また、結晶性酸化物半導体薄膜の厚さは、特に限定されず、1μm以下であってもよいし、1μm以上であってもよいが、本発明においては、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。なお、前記結晶性酸化物薄膜は、通常、単結晶であるが、多結晶であってもよい。
【0042】
前記結晶性酸化物薄膜は、前記結晶基板上に直接形成されてもよいし、別の層を介して形成されてもよい。別の層としては、別の組成のコランダム構造結晶薄膜、コランダム構造以外の結晶薄膜、又はアモルファス薄膜などが挙げられる。構造としては、単層構造であってもよく、複数層構造であってもよい。また、同一の層内に2相以上の結晶相が混じっていてもよい。複数層構造の場合、結晶性酸化物薄膜は、例えば、絶縁性薄膜と導電性薄膜が積層されて構成されるが、本発明においては、これに限定されるものではない。なお、絶縁性薄膜と導電性薄膜とが積層されて複数層構造が構成される場合、絶縁性薄膜と導電性薄膜の組成は、同じであっても互いに異なっていてもよい。絶縁性薄膜と導電性薄膜の厚さの比は、特に限定されないが、例えば、(導電性薄膜の厚さ)/(絶縁性薄膜の厚さ)の比が0.001〜100であるのが好ましく、0.1〜5がさらに好ましい。このさらに好ましい比は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0043】
導電性薄膜は、本発明の目的を阻害しない範囲において、導電性を付与すべく不純物でドーピングされていてもよい。絶縁性薄膜は、通常、不純物のドーピングが不要であるが、導電性が現れない程度にドーピングされていてもよい。
【0044】
前記結晶性積層構造体は、原料溶液を微粒子化して生成される原料微粒子をキャリアガスによって成膜室に供給して前記成膜室内に配置された前記下地基板上に前記結晶性酸化物薄膜を形成することで製造される。本発明においては、ドーピング処理を、前記原料溶液に異常粒抑制剤を含めて行うのが好ましい。前記原料溶液に異常粒抑制剤を含めてドーピング処理を行うことで、効率よく、工業的有利に表面粗さが0.1μm以下の結晶性酸化物薄膜を備える結晶性積層構造体を製造することができる。ドーピング量は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、原料溶液中、体積比で、0.01〜10%であるのが好ましく、0.1〜5%であるのがより好ましい。また、本発明においては、ノンドープも好ましい。
【0045】
異常粒抑制剤は、成膜過程で副生する粒子の発生を抑制する効果を有するものをいい、結晶性酸化物薄膜の表面粗さを0.1μm以下とすることができれば特に限定されないが、本発明においては、Br、I、FおよびClから選択される少なくとも1種からなる異常粒抑制剤であるのが好ましい。安定的に膜形成をするために異常粒抑制剤として、BrやIを薄膜中に導入すると異常粒成長による表面粗さの悪化を抑制することができる。異常粒抑制剤の添加量は、異常粒を抑制できれば特に限定されないが、原料溶液中、体積比で50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、1〜20%の範囲内であることが最も好ましい。このような好ましい範囲で異常粒抑制剤を使用することにより、異常粒抑制剤として機能させることができるので、結晶性酸化物薄膜の異常粒の成長を抑制して表面を平滑にすることができる。
【0046】
結晶性酸化物薄膜の形成方法は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されないが、例えば、ガリウム化合物及び所望によりインジウム化合物、アルミニウム化合物又は鉄化合物を結晶性酸化物薄膜の組成に合わせて組み合わせた原料化合物を酸化反応させることによって形成可能である。これによって、下地基板上に、下地基板側から結晶性酸化物半導体薄膜を結晶成長させることができる。ガリウム化合物としては、ガリウム金属を出発材料として成膜直前にガリウム化合物に変化させたものであってもよい。ガリウム化合物としては、ガリウムの有機金属錯体(例:アセチルアセトナート錯体)やハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、又はヨウ化物)などが挙げられるが、本発明においては、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、又はヨウ化物)を用いることが好ましい。
【0047】
結晶性酸化物薄膜の成膜温度は、特に限定されないが、800℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。また、前記成膜を、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、常圧下、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、常圧下または大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0048】
また、キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01〜20L/分であるのが好ましく、1〜10L/分であるのがより好ましい。
【0049】
より具体的には、結晶性酸化物薄膜は、原料化合物が溶解した原料溶液から生成されたミスト状の原料微粒子を成膜室に供給して、前記成膜室内で前記原料化合物を反応させることによって形成することができる。原料溶液の溶媒は、特に限定されないが、水、過酸化水素水または有機溶媒であることが好ましい。本発明においては、通常、ドーパント原料の存在下で、上記原料化合物を酸化反応させる。なお、ドーパント原料は、好ましくは、原料溶液に含められて、原料化合物と共に微粒子化される。
【0050】
ドーパント原料としては、ドーピングされる金属単体又は化合物(例:ハロゲン化物、酸化物)などが挙げられる。
【0051】
本発明によれば、前記結晶性酸化物薄膜の結晶性を向上させるだけでなく、膜厚の限界値を伸ばすこともできる。なお、本発明においては、成膜後、アニール処理を行ってもよい。
【0052】
また、本発明においては、前記結晶性酸化物薄膜上に、直接または別の層を介して、酸化物半導体層または/および窒化物半導体層(例えばGaN系半導体層等)を備えていてもよい。
【0053】
前記結晶性積層構造体は半導体装置に有用である。前記結晶性積層構造体を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体‐金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子が挙げられる。本発明においては、前記結晶性積層構造体をそのまま又は前記結晶基板と前記結晶性酸化物薄膜とを剥離等して、半導体装置に用いることができる。
本発明においては、前記結晶性積層構造体の結晶性酸化物薄膜上に、直接または別の層を介して、ショットキー電極を備え、前記結晶性積層構造体の下地基板上に、直接または別の層を介して、オーミック電極を備える半導体装置が好ましく、前記結晶性酸化物薄膜の半導体特性により、半導体装置そのものの信頼性を向上させることができる。
前記ショットキー電極やオーミック電極は、公知のものであってよく、公知の手段を用いて、これらを前記結晶性積層構造体に備えることができる。なお、別の層を介する場合の別の層としては、公知の半導体層、絶縁体層、導体層などが挙げられ、これらの層は、公知のものであってよく、本発明においては、公知の手段でもって、これらの層を積層することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
1.ミスト・エピタキシー装置
まず、
図6を用いて、本実施例で用いたミスト・エピタキシー装置19を説明する。ミスト・エピタキシー装置19は、下地基板等の被成膜試料20を載置する試料台21と、キャリアガスを供給するキャリアガス源22と、キャリアガス源22から送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23と、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる成膜室27と、成膜室27の周辺部に設置されたヒータ28を備えている。試料台21は、石英からなり、被成膜試料20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより、被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0056】
2.結晶成長用基板の作製
<実施例1>
結晶基板としてa面サファイア基板を用いた。結晶成長面をa面、第1の結晶軸をc軸、第2の結晶軸をm軸とし、SOGをスピンコーターで塗布し、フォトリソグラフィー法を用いて、c軸に垂直となるように、a面サファイア基板上に、SiO
2のストライプを形成した。なお、サファイア基板の熱膨張係数は、c軸に平行な熱膨張係数が、c軸に垂直な熱膨張係数より高く、例えば40〜400℃のc軸に平行な熱膨張係数は7.7×10
−6/Kであり、c軸に垂直な熱膨張係数は7.0×10
−6/Kである。
【0057】
<比較例1>
結晶基板としてc面サファイア基板を用いた。結晶成長面をc面、第1の結晶軸をa軸、第2の結晶軸をm軸とし、SOGをスピンコーターで塗布し、焼成後、フォトリソグラフィー法を用いて、a軸に垂直となるように、c面サファイア基板上に、SiO
2のストライプを形成した。
【0058】
<比較例2>
結晶成長用基板として、c面サファイア基板を用いた。
【0059】
3.原料溶液の作製
臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、この際、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液とした。
【0060】
4.成膜準備
上記3.で得られた原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、被成膜試料20として、1辺が10mmの正方形の結晶成長用基板を試料台21上に設置させ、ヒータ28を作動させて成膜室27内の温度を580℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23を開いてキャリアガス源22からキャリアガスを成膜室27内に供給し、成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/minに調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0061】
5.単層膜形成
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを微粒子化させて原料微粒子を生成した。この原料微粒子が、キャリアガスによって成膜室27内に導入され、580℃にて、成膜室27内で反応して、被成膜試料20上に薄膜を形成した。なお、成膜時間は6時間であった。
【0062】
6.評価
上記5.にて得られたα−Ga
2O
3薄膜の相の同定をした。同定は、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、実施例1および比較例1〜2のいずれの膜もα−Ga
2O
3であった。
【0063】
また、実施例1および比較例1〜2の膜につき、膜厚から成膜レートを算出した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1のエピタキシャル膜につき光学顕微鏡を用いて断面を調べた。結果を
図7に示す。また、比較例1のエピタキシャル膜についても光学顕微鏡を用いて断面を調べた。結果を
図8に示す。
図8から明らかなように、ほとんどの領域で横方向においてあまり成長していないことがわかる。
【0066】
<製造例>
a面サファイア基板にテラス幅約3μm、溝幅約5μm、溝深さ約3μmで、周期的なストライプ状の溝構造を作製して、これを凹部とする。サファイア基板を用いて、実施例1と同様にして、成膜した。得られた膜の相については、X線回折により、膜がコランダム構造を有するα−Ga
2O
3膜であることが確認できた。半値幅は、83arcsecであった。