(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
巻線を巻回してなる巻回部を有するコイルと、前記巻回部の内部に配置される内側コア部と前記巻回部の外部に配置される外側コア部とで閉磁路を形成する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記巻回部の内周面と前記内側コア部の外周面との間に充填される内側樹脂部を備え、
前記外側コア部における前記内側コア部に面する側を内方側、前記内方側と反対側を外方側としたとき、
前記外側コア部は、前記内方側と前記外方側とに開口する貫通孔を備え、前記貫通孔の内部には、前記内側樹脂部の一部が充填されているリアクトル。
前記外側コア部および前記内側コア部の少なくとも一方は、樹脂とその内部に分散された軟磁性粉末とを含む複合材料で構成される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明を実施するための形態】
【0011】
・本発明の実施形態の説明
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0012】
<1>実施形態に係るリアクトルは、巻線を巻回してなる巻回部を有するコイルと、前記巻回部の内部に配置される内側コア部と前記巻回部の外部に配置される外側コア部とで閉磁路を形成する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、前記巻回部の内周面と前記内側コア部の外周面との間に充填される内側樹脂部を備える。この実施形態に係るリアクトルでは、前記外側コア部における前記内側コア部に面する側を内方側、前記内方側と反対側を外方側としたとき、前記外側コア部は、前記内方側と前記外方側とに開口する貫通孔を備え、前記貫通孔の内部には、前記内側樹脂部の一部が充填されている。
【0013】
上記構成のリアクトルは、外側コア部の外方側から貫通孔を介して、巻回部の内部に樹脂を充填することで作製される。貫通孔が存在することで、巻回部の内部に十分に樹脂を充填することができ、巻回部の内部に空隙などができ難い。巻回部の内部に充填された樹脂は、硬化することで内側樹脂部となる。空隙が少ない内側樹脂部は強度に優れるため、リアクトルの使用時の振動などによって内側樹脂部が損傷し難く、リアクトルの動作が安定する。
【0014】
<2>実施形態に係るリアクトルとして、前記貫通孔における前記内方側の開口部が、前記巻回部の内周面と前記内側コア部との隙間に向って開口する形態を挙げることができる。
【0015】
貫通孔の内方側の開口部が上記隙間に向って開口していることで、内側樹脂部を構成する樹脂を充填する際、巻回部の内部に確実に樹脂を導くことができる。そのため、上記構成のリアクトルは、巻回部の内部に十分な樹脂が充填されたリアクトルとなる。
【0016】
<3>実施形態に係るリアクトルとして、前記貫通孔は一つである形態を挙げることができる。
【0017】
一つの外側コア部に一つの貫通孔を形成することは容易であるので、外側コア部の生産性を向上させることができる。その結果、外側コア部を含めたリアクトルの生産性を向上させることができる。
【0018】
<4>実施形態に係るリアクトルとして、前記コイルは、並列される一対の前記巻回部を備える形態を挙げることができる。この場合、一方の前記巻回部と他方の前記巻回部との間を、並列方向中央部としたとき、前記貫通孔は、一方の前記巻回部における前記並列方向中央部寄りの内周面と、一方の前記巻回部の内部に配置される前記内側コア部との隙間に向って開口する第一貫通孔と、他方の前記巻回部における前記並列方向中央部寄りの内周面と、他方の前記巻回部の内部に配置される前記内側コア部との隙間に向って開口する第二貫通孔と、を含む。
【0019】
第一貫通孔と第二貫通孔を設けることで、一対の巻回部のそれぞれに十分に樹脂を充填することができる。
【0020】
<5>実施形態に係るリアクトルとして、前記貫通孔における前記外方側の開口部の縁部が面取りされている形態を挙げることができる。
【0021】
貫通孔の外方側の開口部の縁部を面取りしておくことで、外側コア部の外方側から貫通孔を介して巻回部の内部に樹脂を充填するとき、貫通孔に樹脂が流入し易くなる。
【0022】
<6>実施形態に係るリアクトルとして、前記外側コア部および前記内側コア部の少なくとも一方は、軟磁性粉末を含む圧粉成形体で構成される形態を挙げることができる。
【0023】
圧粉成形体は、軟磁性粉末を加圧成形することで生産性良く製造することができるので、この圧粉成形体のコア片を用いたリアクトルの生産性も向上することができる。また、コア片を圧粉成形体で構成することで、コア片に占める軟磁性粉末の割合を高くできるので、コア片の磁気特性(比透磁率や飽和磁束密度)を高めることができる。そのため、圧粉成形体のコア片を用いたリアクトルの性能を向上させることができる。
【0024】
<7>実施形態に係るリアクトルとして、前記外側コア部および前記内側コア部の少なくとも一方は、樹脂とその内部に分散された軟磁性粉末とを含む複合材料で構成される形態を挙げることができる。
【0025】
複合材料は、樹脂中の軟磁性粉末の含有量を調整し易い。そのため、複合材料のコア片を用いたリアクトルの性能を調整し易い。
【0026】
<8>実施形態のリアクトルとして、前記コイルは、前記内側樹脂部とは別に設けられ、前記巻回部の各ターンを一体化する一体化樹脂を備える形態を挙げることができる。
【0027】
上記構成とすることでリアクトルの生産性を向上させることができる。巻回部の各ターンが一体化されることで巻回部が屈曲し難くなるので、リアクトルの製造の際に巻回部の内部に磁性コアを配置し易くなるからである。また、巻回部の各ターンが一体化されていることで、各ターン間に大きな隙間ができ難く、リアクトルの製造の際に巻回部の内部に充填された樹脂がターン間から漏れ難くなる。その結果、巻回部の内部に大きな空隙が形成され難くなる。
【0028】
<9>実施形態のリアクトルとして、前記巻回部の軸方向端面と前記外側コア部との間に介在される端面介在部材を備え、前記端面介在部材は、前記内側樹脂部を構成する樹脂を前記外方側から前記巻回部の内部へ充填するための樹脂充填孔を有する形態を挙げることができる。
【0029】
端面介在部材を用いることで、リアクトルを製造する際、内側コア部と外側コア部との相対的な位置を決め易くなる。また、その端面介在部材に樹脂充填孔を形成することで、リアクトルを製造する際、巻回部の内部への樹脂の充填を容易にすることができる。
【0030】
<10>前記端面介在部材に前記樹脂充填孔を備える実施形態のリアクトルとして、前記外側コア部を前記端面介在部材に一体化する外側樹脂部を備え、前記外側樹脂部と前記内側樹脂部とが、前記樹脂充填孔を通じて繋がっている形態を挙げることができる。
【0031】
外側樹脂部と内側樹脂部とが樹脂充填孔を通じて繋がっているため、両樹脂部を1回の成形によって形成することができる。つまり、この構成を備えるリアクトルは、内側樹脂部に加えて外側樹脂部を備えるにも拘らず、1回の樹脂成形にて得ることができるため、生産性に優れる。
【0032】
<11>実施形態のリアクトルとして、前記内側コア部は、複数の分割コアと、各分割コアの間に入り込んだ前記内側樹脂部と、で構成される形態を挙げることができる。
【0033】
各分割コアの間に入り込んだ内側樹脂部は、磁性コアの磁気特性を調整する樹脂ギャップとして機能する。つまり、この構成を備えるリアクトルは、アルミナなどの別材料でできたギャップ材を必要とせず、ギャップ材が不要な分だけ生産性に優れる。
【0034】
<12>前記内側コア部が複数の分割コアで構成される実施形態のリアクトルとして、前記巻回部の内周面と前記内側コア部の外周面との間に介在される内側介在部材を備え、前記内側介在部材は、各分割コアを離隔させる複数の分割片で構成される形態を挙げることができる。
【0035】
内側介在部材を用いることで、リアクトルの製造過程で巻回部に樹脂を充填する際、巻回部と内側コア部を構成する分割コアとを確実に離隔させておくことができ、巻回部と内側コア部との間の絶縁を確実に確保することができる。また、内側介在部材が、各分割コアを離隔させた状態で保持する複数の分割片で構成されることで、隣接する分割コア間に確実に樹脂ギャップを形成することができる。
【0036】
<13>実施形態のリアクトルの製造方法は、コイルに備わる巻回部と、前記巻回部の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとの間に樹脂を充填する充填工程を含むリアクトルの製造方法であって、前記リアクトルは、実施形態に係るリアクトルである。この実施形態のリアクトルの製造方法における前記充填工程では、前記外側コア部の前記外方側から、前記外側コア部に備わる前記貫通孔を介して、前記巻回部の内周面と前記内側コア部の外周面との間に前記樹脂を充填する。
【0037】
上記リアクトルの製造方法によれば、巻回部の内部に十分に樹脂が充填された実施形態のリアクトルを作製することができる。
【0038】
・本発明の実施形態の詳細
以下、本発明のリアクトルの実施形態を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は実施形態に示される構成に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0039】
<実施形態1>
実施形態1では、
図1〜
図4に基づいてリアクトル1の構成を説明する。
図1に示すリアクトル1は、コイル2と磁性コア3と絶縁介在部材4とを組み合わせた組合体10を備える。組合体10はさらに、コイル2の巻回部2A,2Bの内部に配置される内側樹脂部5(
図2参照)と、磁性コア3の一部を構成する外側コア部32を覆う外側樹脂部6と、を備える。このリアクトル1の特徴の一つとして、外側コア部32に貫通孔(第一貫通孔h1と第二貫通孔h2)が形成されていることを挙げることができる。以下、リアクトル1に備わる各構成を詳細に説明すると共に、上記貫通孔h1,h2の形状や機能などの技術的意義を各所で説明する。
【0040】
≪組合体≫
組合体10の説明にあたっては、主として
図3を参照する。
図3では、組合体10の一部の構成(
図1の巻回部2Bなど)を省略している。
[コイル]
本実施形態のコイル2は、一対の巻回部2A,2Bと、両巻回部2A,2Bを連結する連結部2Rと、を備える(巻回部2Bと連結部2Rについては
図1を参照)。各巻回部2A,2Bは、互いに同一の巻数、同一の巻回方向で中空筒状に形成され、各軸方向が平行になるように並列されている。本例では、別々の巻線により作製した巻回部2A,2Bを連結することでコイル2を製造しているが、一本の巻線でコイル2を製造することもできる。
【0041】
本実施形態の各巻回部2A,2Bは角筒状に形成されている。角筒状の巻回部2A,2Bとは、その端面形状が四角形状(正方形状を含む)の角を丸めた形状の巻回部のことである。もちろん、巻回部2A,2Bは円筒状に形成しても構わない。円筒状の巻回部とは、その端面形状が閉曲面形状(楕円形状や真円形状、レーストラック形状など)の巻回部のことである。
【0042】
巻回部2A,2Bを含むコイル2は、銅やアルミニウム、マグネシウム、あるいはその合金といった導電性材料からなる平角線や丸線などの導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を備える被覆線によって構成することができる。本実施形態では、導体が銅製の平角線(巻線2w)からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線をエッジワイズ巻きにすることで、各巻回部2A,2Bを形成している。
【0043】
コイル2の両端部2a,2bは、巻回部2A,2Bから引き延ばされて、図示しない端子部材に接続される。両端部2a,2bではエナメルなどの絶縁被覆は剥がされている。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行なう電源などの外部装置が接続される。
【0044】
[[一体化樹脂]]
上記構成を備えるコイル2は、樹脂によって一体化されていることが好ましい。本例の場合、コイル2の巻回部2A,2Bはそれぞれ、一体化樹脂20(
図2参照)によって個別に一体化されている。本例の一体化樹脂20は、巻線2wの外周(エナメルなどの絶縁被覆のさらに外周)に形成される熱融着樹脂の被覆層を融着させることで構成されており、非常に薄い。そのため、巻回部2A,2Bが一体化樹脂20で一体化されていても、巻回部2A,2Bのターンの形状や、ターンの境界が外観上から分かる状態になっている。一体化樹脂20の材質としては、熱によって融着する樹脂、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0045】
図2では一体化樹脂20を誇張して示しているが、実際には非常に薄く形成されている。一体化樹脂20は、巻回部2B(巻回部2Aでも同様)を構成する各ターンを一体化し、巻回部2Bの軸方向の伸縮を抑制する。本例では、巻線2wに形成される熱融着樹脂を融着させて一体化樹脂20を形成しているため、各ターン間の隙間にも均一的に一体化樹脂20が入り込んでいる。ターン間における一体化樹脂20の厚さt1は、巻回前の巻線2wの表面に形成される熱融着樹脂の厚さの約二倍であり、具体的には20μm以上2mm以下とすることが挙げられる。厚さt1を厚くすることで、各ターンを強固に一体化させることができ、厚さt1を薄くすることで巻回部2Bの軸方向長さが長くなり過ぎることを抑制できる。
【0046】
巻回部2Bの外周面および内周面における一体化樹脂20の厚さt2は、巻回前の巻線2wの表面に形成される熱融着樹脂の厚さとほぼ同じであり、10μm以上1mm以下とすることが挙げられる。巻回部2Bの内周面および外周面における一体化樹脂20の厚さt2を10μm以上とすることで、巻回部2A,2Bの各ターンがばらけないように各ターンを強固に一体化させることができる。また上記厚さを1mm以下とすることで、一体化樹脂20による巻回部2Bの放熱性の低下を抑制することができる。
【0047】
ここで、
図1に示す角筒状のコイル2の巻回部2A,2Bは、巻線2wが曲げられることで形成される四つの角部と、巻線2wが曲げられていない平坦部と、に分けられる。本例では巻回部2A,2Bの角部においても平坦部においても各ターン同士を一体化樹脂20(
図2参照)で一体化した構成である。これに対して、巻回部2A,2Bの一部、例えば角部においてのみ各ターン同士が一体化樹脂20で一体化されている構成としても良い。
【0048】
巻線2wをエッジワイズ巻きすることで形成される巻回部2A,2Bの角部では、曲げの内側が曲げの外側よりも太くなり易い。この場合、巻回部2A,2Bの平坦部では、巻線2wの外周に熱融着樹脂があるが、各ターン間は一体化されずに離隔する場合がある。この平坦部における隙間が十分に小さければ、巻回部2A,2Bの内部に樹脂を充填してもその樹脂は表面張力によって平坦部の隙間を通過できない。
【0049】
[磁性コア]
磁性コア3は、複数の分割コア31m,32mを組み合わせて構成されており、便宜上、内側コア部31,31と、外側コア部32,32と、に分けることができる(
図2,3を合わせて参照)。
【0050】
[[内側コア部]]
内側コア部31は、
図2に示すようにコイル2の巻回部2B(巻回部2Aでも同様)の内部に配置される部分である。ここで、内側コア部31とは、磁性コア3のうち、コイル2の巻回部2A,2Bの軸方向に沿った部分を意味する。本例では、磁性コア3のうち、巻回部2Bの軸方向に沿った部分の両端部が巻回部2Bの外側に突出しているが、その突出する部分も内側コア部31の一部である。
【0051】
本例の内側コア部31は、三つの分割コア31mと、各分割コア31mの間に形成されるギャップ31gと、分割コア31mと後述する分割コア32mとの間に形成されるギャップ32gと、で構成されている。本例のギャップ31g,32gは、後述する内側樹脂部5によって形成されている。この内側コア部31の形状は、巻回部2A(2B)の内部形状に沿った形状であって、本例の場合、略直方体状である。
【0052】
[[外側コア部]]
一方、外側コア部32は、
図3に示すように、巻回部2A,2Bの外部に配置される部分であって、一対の内側コア部31,31の端部を繋ぐ形状を備える。本例の外側コア部32は、上面と下面が略ドーム形状の柱状の分割コア32mで構成されている。この外側コア部32(分割コア32m)における内側コア部31に面する側を内方側、内方側と反対側を外方側としたとき、外側コア部32は、外側コア部32の内方側と外方側とに開口する第一貫通孔h1と第二貫通孔h2を備える。両貫通孔h1,h2は、後述する内側樹脂部5となる樹脂を巻回部2Aと,2Bの内部に充填する際に樹脂の通り道となる部分であり、従って両貫通孔h1,h2の内部には内側樹脂部5の一部が充填されている(
図1参照)。
【0053】
第一貫通孔h1(第二貫通孔h2)の内方側の開口部は、巻回部2A(2B)の内周面と内側コア部31との隙間に向って開口している。より具体的には、巻回部2Aと巻回部2Bの間を並列方向中央部としたとき、第一貫通孔h1(第二貫通孔h2)は、巻回部2A(2B)における並列方向中央部寄りの内周面と、巻回部2A(2B)の内部に配置される内側コア部31と、の隙間に向って開口している。このような形態とすることで、巻回部2A,2Bの内部に樹脂を充填する際、巻回部2A,2Bの内部に確実に樹脂を充填することができる。
【0054】
両貫通孔h1,h2の大きさは、外側コア部32の磁路を狭め過ぎない程度の大きさとすれば良く、適宜選択することができる。例えば、組合体10の高さ方向(巻回部2A,2Bの並列方向に直交する方向)における両貫通孔h1,h2の長さは、外側コア部32の高さの10%以上50%以下とすることが好ましい。上記長さの下限値は外側コア部32の高さの20%、更には25%以上とすることができ、上限値は外側コア部32の高さの40%、更には30%とすることができる。一方、両貫通孔h1,h2の幅(上記長さに直交する方向の長さ)は磁路に沿った方向の長さであり、上記幅の大小は、外側コア部32の磁気特性にあまり影響を与えないが、外側コア部32の強度に影響を与える。そのため、上記幅は、外側コア部32の強度が低下しない程度に適宜選択することができる。例えば、第一貫通孔h1と第二貫通孔h2とを繋げて一つの大きな貫通孔とすることもできる。大きな一つの貫通孔は、容易に形成することができるし、巻回部2A,2Bへの樹脂を容易にすることができる。上記両貫通孔h1,h2に加えて、さらに別の貫通孔を形成しても構わない。
【0055】
両貫通孔h1,h2の外方側の開口部の縁部は、面取りされていることが好ましい。上記縁部を面取りすることで、外側コア部32(分割コア32m)の外方側から両貫通孔h1,h2を介して巻回部2A,2Bの内部に樹脂を充填するとき、両貫通孔h1,h2に樹脂が流入し易くなる。面取りとしては、R面取りやC面取りを挙げることができる。
【0056】
上記分割コア31m,32mは、軟磁性粉末を含む原料粉末を加圧成形してなる圧粉成形体である。軟磁性粉末は、鉄などの鉄族金属やその合金(Fe−Si合金、Fe−Ni合金など)などで構成される磁性粒子の集合体である。原料粉末には潤滑剤が含有されていても良い。本例とは異なり、分割コア31m,32mは、軟磁性粉末と樹脂とを含む複合材料の成形体で構成することもできる。複合材料の軟磁性粉末と樹脂には、圧粉成形体に使用できる軟磁性粉末と樹脂と同じものを利用することができる。磁性粒子の表面には、リン酸塩などで構成される絶縁被覆が形成されていても良い。分割コア31m(内側コア部31)と分割コア32m(外側コア部32)の一方を圧粉成形体、他方を複合材料の成形体とすることもできる。その他、分割コア31m,32mを積層鋼板で構成することもできる。
【0057】
[絶縁介在部材]
絶縁介在部材4は、
図2,3に示すように、コイル2と磁性コア3との間の絶縁を確保する部材であって、端面介在部材4A,4Bと、内側介在部材4C,4Dと、で構成されている。絶縁介在部材4は、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6やナイロン66といったポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂などの熱可塑性樹脂で構成することができる。その他、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂などで絶縁介在部材4を形成することができる。上記樹脂にセラミックスフィラーを含有させて、絶縁介在部材4の放熱性を向上させても良い。セラミックスフィラーとしては、例えば、アルミナやシリカなどの非磁性粉末を利用することができる。
【0058】
[[端面介在部材]]
端面介在部材4A,4Bの説明には主として
図3を用いる。本例の端面介在部材4A,4Bは、同一形状を備えている。
【0059】
端面介在部材4A,4Bのコイル2側の面には、巻回部2A,2Bの軸方向端部を収納する二つのターン収納部41(端面介在部材4Bを参照)が形成されている。ターン収納部41は、巻回部2A,2Bの軸方向端面全体を、端面介在部材4Aに面接触させるために形成されている。より具体的には、ターン収納部41は、後述するコア挿入孔42の周囲を取り囲む四角環状に形成されている。各ターン収納部41における右辺部分は、端面介在部材4Aの上端にまで達しており、巻回部2A,2Bの端部を上方に引き出せるようになっている。ターン収納部41によって巻回部2A,2Bの軸方向端面と端面介在部材4Aとを面接触させることで、接触部分からの樹脂漏れを抑制することができる。
【0060】
端面介在部材4A,4Bは、上述したターン収納部41の他に、一対のコア挿入孔42,42と、嵌合部43(端面介在部材4Aを参照)と、を備える。コア挿入孔42は、内側介在部材4C,4Dと分割コア31mとの組物を嵌め込むための孔である。一方、嵌合部43は、外側コア部32となる分割コア32mを嵌め込むための凹部である。
【0061】
上記コア挿入孔42の外方寄りの部分、および上方寄りの部分は、径方向外方に向って凹んでいる。この凹んでいる部分は、
図4に示すように、端面介在部材4Aの嵌合部に分割コア32mを嵌め込んだときに、分割コア32mの側縁および上縁の位置に樹脂充填孔h3を形成する。樹脂充填孔h3は、紙面手前の外側コア部32(分割コア32m)側から紙面奥側の巻回部2A,2B(
図3参照)の軸方向端面側に向って端面介在部材4Aの厚み方向に貫通する孔であり、紙面奥側で巻回部2A,2Bの内周面と内側コア部31(分割コア31m)の外周面との間の空間に連通している(
図2を合わせて参照)。
【0062】
[[内側介在部材]]
内側介在部材4C,4Dは、同一の構成を備える。本例の内側介在部材4C,4Dは、複数の分割片で構成されている。分割片には、分割コア32mと分割コア31mとの間に介在される端部分割片45と、隣接する分割コア31m,31m間に介在される中間分割片46と、に分けることができる。端部分割片45は、矩形枠状の部材であって、その四隅に分割コア31mを当て止めする当て止め部450が設けられている。当て止め部450によって、分割コア31mと分割コア32mとの間に所定長の離隔部が形成される。一方、中間分割片46は、概略U字状の部材であって、その四隅に分割コア31mを当て止めする当て止め部460(
図2参照)が設けられている。当て止め部460によって、隣接する分割コア31m,31mの間に所定長の離隔部が形成される。これら離隔部には、内側樹脂部5が入り込んでギャップ31g,32g(
図2参照)を形成している。
【0063】
[内側樹脂部]
内側樹脂部5は、
図2に示すように、巻回部2B(図示しない巻回部2Aでも同様)の内部に配置され、巻回部2Bの内周面と分割コア31m(内側コア部31)の外周面とを接合する。
【0064】
内側樹脂部5は、巻回部2Bが一体化樹脂20によって一体化されているため、巻回部2Bの内周面と外周面との間に跨がることなく、巻回部2Bの内部に留まっている。また、この内側樹脂部5の一部は、分割コア31mと分割コア31mとの間、および分割コア31mと分割コア32mとの間に入り込み、ギャップ31g,32gを形成している。
【0065】
内側樹脂部5は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、PPS樹脂、PA樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、あるいは低温硬化性樹脂を利用することができる。これらの樹脂にアルミナやシリカなどのセラミックスフィラーを含有させて、内側樹脂部5の放熱性を向上させても良い。内側樹脂部5は、端面介在部材4A,4Bおよび内側介在部材4C,4Dと同じ材料で構成することが好ましい。三つの部材を同じ材料で構成することで、三つの部材の線膨張係数を同じにすることができ、熱膨張・収縮に伴う各部材の損傷を抑制することができる。
【0066】
この内側樹脂部5の内部には大きな空隙が殆ど形成されておらず、しかも小さな空隙も殆ど形成されていない。その理由は、後述するリアクトルの製造方法の項目で詳しく述べる。
【0067】
[外側樹脂部]
外側樹脂部6は、
図1,2に示すように、分割コア32m(外側コア部32)の外周全体を覆うように配置され、分割コア32mを端面介在部材4A,4Bに固定すると共に、分割コア32mを外部環境から保護する。ここで、分割コア32mの下面は、外側樹脂部6から露出していても構わない。その場合、分割コア32mの下方部分を、端面介在部材4A,4Bの下面とほぼ面一となるように延設することが好ましい。組合体10の設置対象面に分割コア32mの下面を直接接触させる、あるいは設置対象面と分割コア32mの下面との間に接着剤や絶縁シートを介在させることで、分割コア32mを含む磁性コア3の放熱性を高めることができる。
【0068】
本例の外側樹脂部6は、端面介在部材4A,4Bにおける分割コア32mが配置される側に設けられ、巻回部2A,2Bの外周面に及んでいない。分割コア32mの固定と保護を行なうという外側樹脂部6の機能に鑑みれば、外側樹脂部6の形成範囲は図示する程度で十分であり、樹脂の使用量を低減できる点で好ましいと言える。もちろん、図示する例とは異なり、外側樹脂部6が巻回部2A,2B側に及んでいても構わない。
【0069】
本例の外側樹脂部6は、
図2に示すように、端面介在部材4A,4Bの樹脂充填孔h3を介して内側樹脂部5と繋がっている。つまり、外側樹脂部6と内側樹脂部5とは同じ樹脂で一度に形成されたものである。本例と異なり、外側樹脂部6と内側樹脂部5とを個別に形成することも可能である。
【0070】
外側樹脂部6は、内側樹脂部5の形成に利用できる樹脂と同様の樹脂で構成することができる。本例のように外側樹脂部6と内側樹脂部5とが繋がっている場合、両樹脂部6,5は同じ樹脂で構成される。
【0071】
その他、外側樹脂部6には、組合体10を設置対象面(例えば、ケースの底面など)に固定するための固定部60(
図1参照)が形成されている。例えば、高剛性の金属や樹脂で構成されるカラーを外側樹脂部6に埋設することで、組合体10を設置対象面にボルトで固定するための固定部60を形成することができる。
【0072】
組合体10は、液体冷媒に浸漬された状態で使用することができる。液体冷媒は特に限定されないが、ハイブリッド自動車でリアクトル1を利用する場合、ATF(Automatic Transmission Fluid)などを液体冷媒として利用できる。その他、フロリナート(登録商標)などのフッ素系不活性液体、HCFC−123やHFC−134aなどのフロン系冷媒、メタノールやアルコールなどのアルコール系冷媒、アセトンなどのケトン系冷媒などを液体冷媒として利用することもできる。
【0073】
≪効果≫
本例のリアクトル1では、巻回部2A,2Bの内部に充填される内側樹脂部5に大きな空隙が殆ど形成されていない。特に、
図2に示すように、分割コア31mと分割コア32mとの間、および分割コア31mと分割コア31mとの間に十分に内側樹脂部5が行き渡っており、内側樹脂部5で構成されるギャップ32g,31gに大きな空隙が形成されていない。大きな空隙がなく、小さな空隙も少ない内側樹脂部5は強度に優れるため、リアクトル1の使用時の振動などによって内側樹脂部5が損傷し難く、リアクトル1の動作が安定する。内側樹脂部5に空隙が形成され難い理由は、後述するリアクトルの製造方法で詳しく述べる。
【0074】
また、本例のリアクトル1では、コイル2の巻回部2A,2Bの外周が樹脂でモールドされておらず、外部環境に直接曝された状態となっているため、本例のリアクトル1は放熱性に優れたリアクトル1となる。リアクトル1の組合体10を液体冷媒に浸漬された状態とすれば、リアクトル1の放熱性をより向上させることができる。
【0075】
≪用途≫
本例のリアクトル1は、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車といった電動車両に搭載される双方向DC−DCコンバータなどの電力変換装置の構成部材に利用することができる。
【0076】
≪リアクトルの製造方法≫
次に、実施形態1に係るリアクトル1を製造するためのリアクトルの製造方法の一例を説明する。リアクトルの製造方法は、大略、次の工程を備える。リアクトルの製造方法の説明にあたっては主として
図3〜5を参照する。
・コイル作製工程
・一体化工程
・組付工程
・充填工程
・硬化工程
【0077】
[コイル作製工程]
この工程では、巻線2wを用意し、巻線2wの一部を巻回することでコイル2を作製する。巻線2wの巻回には、公知の巻線機を利用することができる。巻線2wの外周には、
図2を参照して説明した一体化樹脂20となる熱融着樹脂の被覆層を形成することができる。被覆層の厚さは適宜選択することができる。一体化樹脂20を設けないのであれば、被覆層を有さない巻線2wを用いれば良く、次の一体化工程も必要ない。
【0078】
[一体化工程]
この工程では、コイル作製工程で作製したコイル2のうち、巻回部2A,2Bを一体化樹脂20(
図2参照)で一体化する。巻線2wの外周に熱融着樹脂の被覆層を形成している場合、コイル2を熱処理することで、一体化樹脂20を形成することができる。これに対して、巻線2wの外周に被覆層を形成していない場合、コイル2の巻回部2A,2Bの外周や内周に樹脂を塗布し、樹脂を硬化させることで一体化樹脂20を形成すると良い。この一体化工程は、次に説明する組付工程の後で、かつ充填工程の前に行なうこともできる。
【0079】
[組付工程]
この工程では、コイル2と、磁性コア3を構成する分割コア31m,32mと、絶縁介在部材4と、を組み合わせる。例えば、
図3に示すように、内側介在部材4C,4Dに分割コア31mを配置した第一組物を作製し、その第一組物を巻回部2A,2Bの内部に配置する。そして、端面介在部材4A,4Bを巻回部2A,2Bの軸方向の一端側端面と他端側端面に当接させ、一対の分割コア32mで挟み込んで、コイル2と分割コア31m,32mと絶縁介在部材4とを組み合わせた第二組物を作製する。
【0080】
ここで、
図4に示すように、分割コア32m(外側コア部32)の外方側から第二組物を見たときに、分割コア32mの側縁と上縁には、巻回部2A,2Bの内部に樹脂を充填するための樹脂充填孔h3が形成されている。樹脂充填孔h3は、端面介在部材4A,4Bのコア挿入孔42(
図3参照)と、コア挿入孔42に嵌め込まれた外側コア部32と、の隙間によって形成される。また、分割コア32mの貫通孔h1,h2の奥には、コア挿入孔42と分割コア31m(内側コア部31)との隙間が見えており、この隙間も樹脂充填孔h4として機能する。
【0081】
[充填工程]
充填工程では、第二組物における巻回部2A,2Bの内部に樹脂を充填する。本例では、
図5に示すように、第二組物を金型7内に配置し、金型7内に樹脂を注入する射出成形を行なう。
図5は、金型7と第二組物の水平断面を示しており、樹脂の流れを黒塗り矢印で示している。また、この
図5では内側介在部材の図示を省略している。
【0082】
樹脂の注入は、金型7の二つの樹脂注入孔70から行なう。樹脂注入孔70は、分割コア32mの両貫通孔h1,h2に対応する位置に設けられており、樹脂の注入は、各分割コア32mの外方側(コイル2の反対側)から行なわれる。金型7内に充填された樹脂は、分割コア32mの外周を覆うと共に、分割コア32mの貫通孔h1,h2、および端面介在部材4A,4Bの樹脂充填孔h4を介して巻回部2A,2Bの内部に流入する。また、樹脂は、分割コア32mの外周面を回り込んで、樹脂充填孔h3を介しても巻回部2A,2Bの内部に流入する。
【0083】
巻回部2A,2Bの内部に充填された樹脂は、巻回部2A,2Bの内周面と分割コア31mの外周面との間に入り込むだけでなく、隣接する二つの分割コア31m,31mの間、および分割コア31mと外側コア部32(分割コア32m)との間にも入り込み、ギャップ31g,32gを形成する。射出成形によって圧力をかけて巻回部2A,2B内に充填された樹脂は、巻回部2A,2Bと内側コア部31との狭い隙間に十分に行き渡るが、巻回部2A,2Bの外部に漏れることは殆どない。
図2に示すように、巻回部2Bの軸方向端面と端面介在部材4A,4Bとが面接触すると共に、巻回部2Bが一体化樹脂20で一体化されているからである。
【0084】
[硬化工程]
硬化工程では、熱処理などで樹脂を硬化させる。硬化した樹脂のうち、巻回部2A,2Bの内部にあるものは
図2に示すように内側樹脂部5となり、分割コア32mを覆うものは外側樹脂部6となる。
【0085】
[効果]
以上説明したリアクトルの製造方法によれば、
図1に示すリアクトル1の組合体10を製造することができる。このリアクトル1では、特に貫通孔h1,h2を介した巻回部2A,2Bへの樹脂の流入により、巻回部2A,2Bの内部に十分な樹脂が充填されており、巻回部2A,2Bの内部に形成される内側樹脂部5に大きな空隙ができ難い。
【0086】
また、本例のリアクトルの製造方法では、内側樹脂部5と外側樹脂部6とを一体に形成しており、充填工程と硬化工程が1回ずつで済むので、生産性良く組合体10を製造することができる。
【0087】
<実施形態2>
実施形態1の組合体10をケースに収納し、ポッティング樹脂でケース内に埋設しても構わない。例えば、実施形態1のリアクトルの製造方法に係る組付工程で作製した第二組物をケース内に収納し、ケース内にポッティング樹脂を充填する。その場合、分割コア32m(外側コア部32)の外周を覆うポッティング樹脂が外側樹脂部6となる。また、分割コア32mの貫通孔h1,h2、端面介在部材4A,4Bの樹脂充填孔h3,h4を介して巻回部2A,2B内に流入したポッティング樹脂が内側樹脂部5となる。