(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料溶液を霧化または液滴化する霧化・液滴化部、前記霧化・液滴化部で発生したミストまたは液滴をキャリアガスでもって基体まで搬送する搬送部、および該ミストまたは該液滴を熱処理して該基体上に成膜する成膜部を備える成膜装置において、
成膜部が、前記ミストまたは前記液滴を旋回させて内向きに流れる旋回流を発生させる手段を具備することを特徴とする成膜装置。
原料溶液を霧化または液滴化して生成されるミストまたは液滴を、キャリアガスでもって成膜室内に設置されている基体まで搬送し、ついで該基体上で該ミストまたは該液滴を熱反応させて成膜する成膜方法において、
前記成膜室内において、前記ミストまたは前記液滴を旋回させて内向きに流れる旋回流を発生させることを特徴とする成膜方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition: PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy: MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空製膜装置が検討されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきている。中でも、霧化された原料(ミスト)を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition: Mist CVD。以下、ミストCVD法ともいう。)が検討されており、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α−Ga
2O
3)の作製が可能となってきている。α−Ga
2O
3は、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。
【0003】
ミストCVD法については、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されており、特許文献1記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。また、特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。
【0004】
しかしながら、ミストCVD法は、他の方法とは異なり、高温にする必要もなく、α−酸化ガリウムのコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である一方、非特許文献1記載のライデンフロスト効果により、ミスト揮発層で基板表面を覆うことで、ミストの液滴が直接膜に接触することなく結晶成長させる必要があるため、その制御が容易ではなく、均質な結晶膜を得ることが困難であった。また、ミストCVD法では、ミストの粒子にバラつきがあったり、基板に至るまでに、供給管内でミストが沈んでしまったりする問題もあり、成膜レートが低い等の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、成膜レートに優れ、ミストCVD法が適用可能な成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、成膜部に、前記ミストまたは前記液滴を旋回させて旋回流を発生させる手段を設けたミストCVD装置の創製に成功し、このようなミストCVD装置を用いて、ミストCVD法により成膜すると、驚くべきことに、成膜レートに優れていること、均一な膜厚分布であること、大面積成膜が可能であること等を知見した。そして、このような装置が、上記した従来の問題を一挙に解決できることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1]原料溶液を霧化または液滴化する霧化・液滴化部、前記霧化・液滴化部で発生したミストまたは液滴をキャリアガスでもって基体まで搬送する搬送部、および該ミストまたは該液滴を熱処理して該基体上に成膜する成膜部を備える成膜装置において、
成膜部が、前記ミストまたは前記液滴を旋回させて旋回流を発生させる手段を具備することを特徴とする成膜装置。
[2]旋回流が、内向きに流れる前記[1]記載の成膜装置。
[3]成膜部が、円筒状または略円筒状であり、成膜部の側面に、前記ミストまたは前記液滴の搬入口が設けられている前記[1]または[2]に記載の成膜装置。
[4]成膜部の前記搬入口よりも前記基体から離れているところに、前記ミストまたは前記液滴の排気口が設けられている前記[3]記載の成膜装置。
[5]さらに、排気ファンが備え付けられている前記[1]〜[4]のいずれかに記載の成膜装置。
[6]ホットプレートを成膜部に備えている前記[1]〜[5]のいずれかに記載の成膜装置。
[7]超音波振動子を霧化・液滴化部に備えている前記[1]〜[6]のいずれかに記載の成膜装置。
[8]原料溶液を霧化または液滴化して生成されるミストまたは液滴を、キャリアガスでもって成膜室内に設置されている基体まで搬送し、ついで該基体上で該ミストまたは該液滴を熱反応させて成膜する成膜方法において、
前記成膜室内において、前記ミストまたは前記液滴を旋回させて旋回流を発生させることを特徴とする成膜方法。
[9]旋回流が、内向きに流れる前記[8]記載の成膜方法。
[10]成膜室が円筒状または略円筒状であり、成膜室の側面に前記ミストまたは前記液滴の搬入口が設けられている前記[8]または[9]に記載の成膜方法。
[11]成膜室の前記搬入口よりも前記基体から離れているところに、前記ミストまたは前記液滴の排気口が設けられている前記[10]記載の成膜方法。
[12]排気ファンを用いて排気する前記[11]記載の成膜方法。
[13]霧化または液滴化を、超音波振動により行う前記[8]〜[12]のいずれかに記載の成膜方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成膜装置および成膜方法は、ミストCVD法が適用可能であり、成膜レートに優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の成膜装置は、原料溶液を霧化または液滴化する霧化・液滴化部、前記霧化・液滴化部で発生したミストまたは液滴をキャリアガスでもって基体まで搬送する搬送部、および該ミストまたは該液滴を熱処理して該基体上に成膜する成膜部を備える成膜装置において、成膜部が、前記ミストまたは前記液滴を旋回させて旋回流を発生させる手段を具備することを特徴とする。
【0014】
以下、本発明の成膜装置について、図面を用いて説明するが、本発明は、これら図面に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の成膜装置の一例を示している。成膜装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源2bと、希釈用キャリアガス源2bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3bと、原料溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、排気管17と排気ファン11とを備えている。ホットプレート8上には、基板10が設置されている。
【0016】
本発明の成膜装置1は、原料溶液を霧化または液滴化する霧化・液滴化部を備えている。
図2は、霧化・液滴化部の一態様を示している。原料溶液4aが収容されている容器からなるミスト発生源4が、水5aが収容されている容器5に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器5の底部には、超音波振動子6が備え付けられており、超音波振動子6と発振器16とが接続されている。そして、発振器16を作動させると、超音波振動子6が振動し、水5aを介して、ミスト発生源4内に超音波が伝播し、原料溶液4aが霧化または液滴化するように構成されている。
【0017】
図3は、
図2に示されている超音波振動子6の一態様を示している。
図2の超音波振動子は、支持体6e上の円筒状の弾性体6d内に、円板状の圧電体素子6bが備え付けられており、圧電体素子6bの両面に電極6a、6cが設けられている。そして、電極に発振器を接続して発振周波数を変更すると、圧電振動子の厚さ方向の共振周波数及び径方向の共振周波数を持つ超音波が発生されるように構成されている。
【0018】
上記したとおり、霧化・液滴化部では、原料溶液を調整し、前記原料溶液を霧化または液滴化してミストまたは液滴を発生させる。霧化または液滴化手段は、前記原料溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の霧化手段または液滴化手段であってよいが、本発明においては、超音波振動により行う霧化手段または液滴化手段であるのが好ましい。
【0019】
搬送部では、キャリアガスおよび所望により供給管等を用いて前記ミストまたは前記液滴を基体まで搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、例えば30mm角基板上に成膜する場合には、0.01〜20L/分であるのが好ましく、1〜10L/分であるのがより好ましい。
【0020】
成膜部では、前記ミストまたは前記液滴を熱処理して、熱反応を生じさせて、前記基体表面の一部または全部に成膜する。前記熱反応は、加熱でもって前記ミストまたは前記液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程において、熱反応を行う際の条件等については特に制限はないが、通常、加熱温度は120〜600℃の範囲であり、好ましくは120℃〜350℃の範囲であり、より好ましくは130℃〜300℃の範囲である。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。
【0021】
図4は、成膜部の一態様を示している。
図4の成膜室7は、円筒状であり、ホットプレート8上に設けられている。そして、成膜室7は、ミスト発生源4と供給管9を介して接続されており、ミスト発生源4で発生したミストまたは液滴4bが、キャリアガスによって供給管9を通って成膜室7内に流れ込み、ホットプレート上に載置された基板10上で、熱反応するように構成されている。また、成膜室7は、天井面(上面)の中心に排気口を有しており、前記搬入口よりも前記基体から離れているところに、前記ミストまたは前記液滴の排気口が設けられている。そして、成膜室7は、排気口から排気管19aと接続されており、熱反応後のミスト、液滴もしくは排気ガスが、排気管19aへと運ばれるように構成されている。本発明においては、熱反応後のミスト、液滴もしくは排気ガスがトラップ処理に付されるように、トラップ手段をさらに備えていてもよい。成膜室7に、ミストまたは液滴4bが搬送されると、
図4において矢印で表されるように、基板に向かってミストまたは液滴4bが流れ出す。このとき、内向きの旋回流が発生する。そして、ミストまたは液滴4bが旋回しながら、基板上で熱反応する。ついで、熱反応後のミスト、液滴もしくは排気ガスは、
図4において矢印で表されるように、排気口へと流れていき、そして、排気管19aへと運ばれていく。
【0022】
前記旋回流は、内向きでも外向きでもいずれの向きに流れてもよいが、本発明においては、内向きに流れるのが好ましい。
図8は、
図4の成膜室における基板上のミストまたは液滴の流れを説明する模式図である。
図8(a)は、円筒状の成膜室7の断面を上面から見た図であり、成膜室7内には、基板10が設置されており、ミストまたは液滴の流れが矢印で表されている。
図4の成膜室においては、
図8(a)の矢印方向に旋回流が生じ、ミストまたは液滴が内向きに旋回して基板中心へと流れる。
図8(b)は、円筒状の成膜室7の断面を側面から見た模式図であり、成膜室7内に基板10が設置されている。
図8(b)において矢印で表されるように、外側から内側に向かってミストまたは液滴が流れる。そして、基板中心付近上に到達したミストまたは液滴は、上方の排気口に向かって流れる。なお、本発明においては、基体を成膜室上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、
図4のように、基体を底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。なお、前記旋回流の発生手段は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の手段を用いてもよい。例えば、成膜室を円筒状にして、底面または上面に基体を配置し、側面からミストまたは液滴を導入し、基体が配置されている面の対称となる面(好ましくは箇所)に排出口を設けて、旋回流を発生させる手段等が挙げられる。ミストまたは液滴は、ミストまたは液滴が成膜室の内壁面に沿って移動するように、成膜室内に導入することが好ましい。このため、ミストまたは液滴の導入口が、実質的に、成膜室の内壁面の接線方向に向いていることが好ましい。但し、ミストまたは液滴を成膜室の径方向中央に向かって成膜室内に導入した場合でも、例えばキャリアガスの流速を適宜調整すること等の公知の手段を用いることによって、旋回流を発生させることが可能であるので、ミストまたは液滴の導入方向は、特に限定されない。なお、旋回流の流速は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは10〜100cm/秒であり、より好ましくは20〜70cm/秒である。
【0023】
以下、
図1を用いて、本発明の製造装置の使用態様を説明する。
まず、原料溶液4aをミスト発生源4内に収容し、基板10をホットプレート8上に設置させ、ホットプレート8を作動させる。次に、流量調節弁3(3a、3b)を開いてキャリアガス源2(2a、2b)からキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節する。次に、超音波振動子6を振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化または液滴化させてミストまたは液滴4bを生成する。ついで、ミストまたは液滴4bが、キャリアガスによって成膜室7内に導入される。成膜室7の上面真ん中には、排気口が設けられており、排気管17と接続されている。また、排気管17は排気ファン11に接続されており、排気ファン17によって、成膜室7内の排気ガス等が排気口から吸気されるように構成されている。また、円筒状の成膜室7の側面には、ミストまたは液滴の搬入口が設けられており、成膜室7内に導入されたミストまたは液滴が旋回して、内向きに流れる旋回流が生じるように構成されている。そして、旋回しながら、ミストまたは液滴が、成膜室7内でホットプレート8の加熱により熱反応して、基板10上に成膜することができる。
【0024】
なお、前記成膜室の形状は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、筒状であることが好ましい。成膜室は、円筒状または略円筒状であってもよいし、角柱状(例えば立方体、直方体、五角柱、六角柱もしくは八角柱等)または略角柱状であってもよいが、本発明においては、円筒状または略円筒状が好ましい。
また、前記基体は成膜時に回転されてもよく、回転方向は、前記旋回流の向きと逆向きにするのが好ましい。
【0025】
(原料溶液)
原料溶液は、霧化または液滴化が可能な材料を含んでいれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよいが、本発明においては、金属または金属化合物であるのが好ましく、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケルおよびコバルトから選ばれる1種または2種以上の金属を含むのがより好ましい。
【0026】
前記原料溶液は、上記金属を霧化または液滴化できるものであれば特に限定されないが、前記原料溶液として、前記金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解または分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。
【0027】
また、前記原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、中でも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H
2O
2)、過酸化ナトリウム(Na
2O
2)、過酸化バリウム(BaO
2)、過酸化ベンゾイル(C
6H
5CO)
2O
2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0028】
前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブ等のn型ドーパント、またはp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×10
16/cm
3〜1×10
22/cm
3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×10
17/cm
3以下の低濃度にしてもよい。また、さらに、本発明によれば、ドーパントを約1×10
20/cm
3以上の高濃度で含有させてもよい。
【0029】
(基体)
前記基体は、前記膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されないが、好ましくは、10〜2000μmであり、より好ましくは50〜800μmである。
【0030】
上記のようにして本発明の成膜装置および成膜方法を用いることにより、ミストCVD法でも成膜レートに優れたものになり、均一な膜厚分布でかつ大面積成膜が可能となる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
1.製造装置
まず、
図1を用いて、本実施例で用いた成膜装置1を説明する。成膜装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源2bと、希釈用キャリアガス源2bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3bと、原料溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ石英製の供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、排気管17および排気ファン11とを備えている。ホットプレート8上には、基板10が設置されている。
【0033】
2.原料溶液の作製
臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、この際、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液とした。
【0034】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基板10として4インチのc面サファイア基板を用いて、c面サファイア基板をホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて成膜室7内の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3(3a、3b)を開いてキャリアガス源2(2a、2b)からキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/minに、希釈用キャリアガスの流量を0.5L/minにそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0035】
4.単層膜形成
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化してミスト4bを生成した。このミスト4bが、キャリアガスによって成膜室7内に導入され、成膜室7内でミストが旋回して、
図8に示されるような内向きに流れる旋回流が発生した。そして、大気圧下、560℃にて、成膜室7内で旋回流のミストが反応して、基板10上に薄膜が形成された。なお、ミストの流速は45.6cm/秒であり、成膜時間は30分であった。
【0036】
5.評価
上記4.にて得られたα−Ga
2O
3薄膜の相の同定をした。同定は、薄膜用XRD回折装置を用いて、15度から95度の角度で2θ/ωスキャンを行うことによって行った。測定は、CuKα線を用いて行った。その結果、得られた薄膜はα−Ga
2O
3であった。
【0037】
また、
図5に示される基板10上の薄膜の各測定箇所(A1、A2、A3、A4、A5)につき、段差計を用いて膜厚を測定し、それぞれの膜厚の値から平均値を算出したところ、平均膜厚は、3,960nmであった。そして、平均膜厚を成膜時間で割った成膜レートは、132nm/分であった。
【0038】
(比較例)
図6を用いて、比較例で用いた成膜装置19を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス供給手段22bと、希釈用キャリアガス供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28と、排気口29とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から45度傾斜している。成膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0039】
図6に示す成膜装置を用いたこと、および基板20として10mm角のc面サファイア基板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成膜した。得られた薄膜につき、上記実施例と同様にして、薄膜用XRD回折装置を用いて、相を同定した。その結果、得られた薄膜はα−Ga
2O
3であった。また、上記実施例と同様にして膜厚を測定した。なお、膜厚測定箇所は、
図6に示される基板20上の薄膜の各測定箇所(B1、B2、B3、B4およびB5)とした。結果を比較例として表1に示す。
【0040】
(実施例2)
基板10として、10mm角のc面サファイア基板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成膜した。得られた薄膜につき、上記比較例と同様にして、薄膜用XRD回折装置を用いて、相を同定した。その結果、得られた薄膜はα−Ga
2O
3であった。また、上記比較例と同様にして膜厚を測定した。なお、膜厚測定箇所は、基板20を基板10としたこと以外は、比較例と同様に、薄膜の各測定箇所(B1、B2、B3、B4およびB5)とした。結果を実施例2として表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から、平均膜厚、成膜レート、変動係数および面内均一性を求めた。結果を表2に示す。なお、平均膜厚は、各測定箇所の膜厚の平均値であり、成膜レートは、各測定箇所の膜厚の平均値を成膜時間(分)で割った値であり、変動係数は、膜厚の標準偏差を膜厚の平均値で割ったものであり、面内均一性は、平均値と、最大値または最小値との差を百分率で表して、バラツキの範囲を表したものである。
【0043】
【表2】
【0044】
表1および表2から明らかなとおり、実施例では、成膜レートにおいて、桁違いに優れており、成膜レートや面内均一性等の成膜品質の差も歴然としていることがわかる。そのため、本発明の成膜装置および成膜方法は、従来のミストCVD装置よりも成膜レートや膜厚の均一性に優れている。
【0045】
(実施例3)
ガリウムアセチルアセトナートとアルミニウムアセチルアセトナートとがモル比で1:6となり、かつ塩酸が体積比で2%となるように水溶液を調整し、これを原料溶液とした。
得られた原料溶液を用いたこと、成膜温度を600℃としたこと、キャリアガスの流量を8LPMとしたこと、成膜時間を3時間としたこと以外は、実施例1と同様にして成膜した。なお、ミストの流速は73.0cm/秒であった。得られた膜につき、アルミニウムの含有率をX線にて測定した。XRD測定結果を
図9に示す。XRD測定結果から、得られた膜は、今まで成膜が困難とされてきたコランダム構造のアルミニウム62.8%含有AlGaO系半導体膜であった。また、得られたコランダム構造のAlGaO系半導体膜につき、膜厚を測定したところ、720nmであった。
今まではコランダム構造のAlGaO系半導体膜が得られたとしても、50nm以上の厚い膜を得ることは困難であったが、本発明によれば、700nm以上もの厚いコランダム構造のAlGaO系半導体膜を得ることができた。このことからも、本発明の成膜装置は、ミストCVD法の適性に優れ、さらに、成膜レートが格別に優れていることがわかる。