(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6478312
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】人体通信電極
(51)【国際特許分類】
H04B 13/00 20060101AFI20190225BHJP
【FI】
H04B13/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-135398(P2014-135398)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-15552(P2016-15552A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094020
【弁理士】
【氏名又は名称】田宮 寛祉
(72)【発明者】
【氏名】小川 智久
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大介
【審査官】
前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−055574(JP,A)
【文献】
特開2008−283480(JP,A)
【文献】
特開2011−048749(JP,A)
【文献】
特開2008−066841(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/004874(WO,A1)
【文献】
特開2010−093446(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0153109(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラス側電極要素とマイナス側電極要素を備え、前記プラス側電極要素と前記マイナス側電極要素はそれぞれ変形自在な線状導電性部材を用いて形成され、さらに前記プラス側電極要素と前記マイナス側電極要素の各々の前記線状導電性部材の先部は、同じ形状になるように、配置箇所の環境または形状に応じて折り曲げられて形成されることを特徴とする人体通信電極。
【請求項2】
前記線状導電性部材は湾曲の配置面に沿うように湾曲させて形成されることを特徴とする請求項1記載の人体通信電極。
【請求項3】
プラス側電極要素とマイナス側電極要素を備える電極であり、前記プラス側電極要素と前記マイナス側電極要素はそれぞれ変形自在でかつ無定形な線状導電性部材を用いて形成され、この線状導電性部材は一定の形を有しない形状として用いられ、配置箇所に応じて自由に設置されることを特徴とする人体通信電極。
【請求項4】
前記線状導電性部材は、変形自在な糸状または繊維状のものであり、衣服に編み込まれ、移動器側電極として構成されることを特徴とする請求項3記載の人体通信電極。
【請求項5】
前記線状導電性部材は人体との間を隔離する隔離手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の人体通信電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人体通信電極に関し、特に、任意な場所に配置するのに好適な人体通信電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体通信は、固定器、移動器、これらの固定器と移動器の間に位置する人体のそれぞれの間の容量結合による電気的関係に基づいて通信が確立するように構成される。固定器は床等の施設側に配置され、移動器は人体に装備される。固定器および移動器は制御部と電極とで構成される。また容量結合としては、人体と移動器との間の容量、人体と固定器との間の容量、移動器と床との間の容量、固定器と床との間の容量が存在する。
【0003】
人体通信における固定器の通常の電極としては、
図8に示されるように、例えば上側に位置する+電極板101と下側に位置する−電極板102によって構成される電極板100が使用される。電極板100の平面形状は通常的には正方形等の矩形である。当該電極板100は所要の厚みを有する平板形状を有し、通常的には平らな床103(または地面等)に設置される。
図8において、104は人体105に装備される移動器としての人体通信機器である。さらに
図8において、複数の矢印106は電気力線を表している。電極板100と人体通信機器104との間の電気力線106を介して通信が可能になる。+電極板101と−電極板102との間、+電極板101と人体105の間、床103と−電極板102の間、人体105と床103の間、+電極板101と−電極板102の間において、それぞれ、電気力線106が生じている。
【0004】
従来の人体通信装置によれば、上述のごとく、固定器側電極としての電極板100が必要であった。電極板100を構成する+電極板101と−電極板102は、共に、一般的に、導体である金属板によって形成されている。従って、電極板100は通常的に剛性を有し、変形性や可撓性を有していない。
【0005】
先行技術文献の一例として特許文献1を挙げる。特許文献1は電界通信装置用の電極を開示している。この電界通信装置用の電極によれば、電極配置部材の表面上において、1本の線状の電極を、所要の間隙が生じるように折り曲げて種々のパターンとして形成している(
図1〜6等)。この構成によって、電極配置部材の表面における電極の配置領域内に間隙が生じるようにし、隣接する電極間での容量結合を弱めている。また連続した1本の配線を折り曲げて電極を形成することで、簡易かつ安価な製造を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−324966号公報(
図1〜6等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
人体通信装置の実際の配置に関しては、設置される環境に応じて、例えば、所定の形状を有する固定器側電極である電極板100をそのままの状態で配置できない場合が起こり得る。例えば、設置場所が平坦でない場合、または設置場所に障害となる物が存在する場合等である。通常的には、設置場所に応じた複数種類の固定器側電極を用意すれば、対応することも可能であるが、複数の固定器側電極を設置現場に持って行くことは、実際上、現実的ではない。
【0008】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、固定器や移動器等の電極が設置される環境に関係なく、現地環境または設置場所等の形状に常に対応して当該電極を設置することができ、さらに現地において電極等を容易に準備して設置できる人体通信電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る人体通信電極は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0010】
第1の人体通信電極(請求項1に対応)は、
プラス側電極要素とマイナス側電極要素を備え、プラス側電極要素とマイナス側電極要素はそれぞれ変形自在な線状導電性部材を用いて形成され、さらにプラス側電極要素とマイナス側電極要素の各々の線状導電性部材の先部は、同じ形状になるように、配置箇所の環境または形状に応じて折り曲げられて形成されることを特徴とする。
【0011】
上記の人体通信電極では、
プラス側電極要素とマイナス側電極要素を備え、プラス側電極要素とマイナス側電極要素はそれぞれ変形自在な線状導電性部材を用いて形成され、さらにプラス側電極要素とマイナス側電極要素の各々の線状導電性部材の先部は、同じ形状になるように、配置箇所の環境または形状に応じて折り曲げられて形成される。これによって、
人体通信電極を、配置箇所の形状や各種の環境に応じて変形させ、設置現場において迅速に設置することができる。
【0012】
第2の人体通信電極(請求項2に対応)は、上記の構成において、好ましくは、
線状導電性部材は湾曲の配置面に沿うように湾曲させて形成されることを特徴とする。
【0013】
第3の人体通信電極(請求項3に対応)は、
プラス側電極要素とマイナス側電極要素を備える電極であり、プラス側電極要素とマイナス側電極要素はそれぞれ変形自在でかつ無定形な線状導電性部材を用いて形成され、この線状導電性部材は
一定の形を有しない形状として
用いられ、配置箇所に応じて自由に設置されることを特徴とする。
【0014】
第4の人体通信電極(請求項4に対応)は、
線状導電性部材は、変形自在な糸状または繊維状の
ものであり、衣服に編み込まれ、移動器側電極として構成されることを特徴とする。
【0016】
第
5の人体通信電極(請求項
5に対応)は、上記の構成において、好ましくは、線状導電性部材は人体との間を隔離する隔離手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る人体通信電極によれば、固定器側電極等が設置される現地の環境または設置場所の形状等に対応して、当該現地において人体通信電極を容易に準備・作製して設置することができ、平坦な床面等だけでなく、湾曲した床面等、障害物のある床面等、人体等の湾曲した環境や、その他の捩れた環境に適した人体通信電極を容易に準備・作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】固定器の人体通信電極の基本的構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る人体通信電極を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る人体通信電極の変形例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る人体通信電極を配置した例を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る人体通信電極を配置した他の例を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る人体通信電極を示す図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る人体通信電極を示す図である。
【
図8】人体通信の固定器の従来の通常の電極を用いた人体通信の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る人体通信電極が用いられる人体通信の原理と構成は、
図8を参照して説明した内容と同じである。
図1に、施設側に設置される固定器側の基本的な構成を示す。
図1において、10は電極を示し、10Aは+電極要素を示し、10Bは−電極要素を示している。
図1では、電極10、+電極要素10A、−電極要素10Bはブロックで示され、観念的に示されている。従来の電極では、+電極要素10Aと−電極要素10Bは、それぞれ矩形の金属板で形成され、通常的には絶縁媒質を介して上下に重ね合わせて配置される。なお、+電極要素10Aと−電極要素10Bは、さらに同一平面において横方向にて隣り合わせて配置することもできるし、横方向にて隣り合わせかつその一部を上下に重ね合わせて配置することもできる。本実施形態では、電極10を形成する+電極要素10A、−電極要素10Bは、以下に説明するように、変形自在な線状導電性部材(線材等)を用いて構成される。
【0021】
電極10の+電極要素10Aと−電極要素10Bのそれぞれにはケーブル11の部分を介して、制御部12の各端子に接続されている。電極10の+電極要素10Aと−電極要素10Bの周辺の空間領域では、所要の箇所の間で電気力線(
図8で説明した電気力線106)を発生させ、当該電気力線を経由して検知される信号を制御部12に取込み、人体通信を行うことを可能にする。
【0022】
上記の電極10を形成する+電極要素10Aと−電極要素10Bの具体的構成として、
図2に本発明に係る人体通信電極の第1の実施形態を示す。この人体通信電極は、固定器側の電極であり、それぞれ1本の線材21A,21Bを、同じ形状の所定のパターン形状に折り曲げて形成されている。
図2に示された例では、2つの線材21A,21Bのそれぞれは、その先部が例えば矩形の渦巻き状態に折り曲げられて、渦巻きパターン21A−1,21B−1として形成されている。2つの線材21A,21Bの渦巻きパターン21A−1,21B−1のそれぞれは同一の平面または曲面の空間内に含まれるように巻かれた形態を有し、当該線材21A,21Bの渦巻きパターン21A−1,21B−1の部分が、それぞれ、上記の+電極要素10Aと−電極要素10Bを形作る。渦巻きパターン21A−1と渦巻きパターン21B−1は、同形の渦巻きパターンとして形成されているので、上下に重ねるとぴったりと一致する。渦巻きパターンの大きさ、隙間の距離は任意である。
【0023】
上記の線材21A,21Bは線状の導電性部材(導線、針金、金属コード、変形可能な金属材や金属パイプ材等)であり、かつその長さや径は任意に設定することができ、さらに電気力線を生じるものであれば任意の材質を用いることができる。線材21A,21Bは、その形を自由に変えることができる変形性または柔軟性を有している。そのため、作業者は、人体通信装置を所要の設置場所に設置する場合において、元々1本の線状形状を成す線材21A,21Bを固定器の設置現場に持ち運び、当該設置現場で現場環境や設置場所の形状等に応じて折り曲げて設置することが可能となる。上記の線材21A,21Bの渦巻きパターン21A−1,21B−1は変形の一例である。
【0024】
上記の線状の導線性部材は、導線が裸のままでもよいし、絶縁性被覆部材で被覆されていていもよい。
【0025】
本実施形態に係る人体通信電極では、電極10を形成する+電極要素10Aと−電極要素10Bは、渦巻きパターン21A−1,21B−1を有する線材21A,21Bのみで形成され、当該線材21A,21Bを載せ置くまたは支持する基板等は用いられない。
【0026】
上記の線材21A,21Bのに形成される電極パターンの形状は、
図3に示すように変形することができる。
図3では、例えば+側の片側の電極パターンの形状のみを示している。
【0027】
図3の(A)は、
図2で説明した渦巻きパターン21A,21Bと同じ渦巻きパターン31を示す。渦巻きパターン31において、制御部12との接続点31aは外側の端部の位置に設けられる。
【0028】
図3の(B)は、他の渦巻きパターン32を示す。この渦巻きパターン32では、接続点32aが内側の端部の位置に設けられている。
【0029】
図3の(C)は、じぐざぐ状または蛇腹状のパターン33を示している。パターン33において、折返し部の長さ、それらの折返し部の間の間隔は任意に設定することができる。パターン33の一端が接続点33aになっている。
【0030】
図3の(D)は、卍型のパターン34を示す。パターン34の中心部の交点が接続点34aとなっている。
【0031】
図3の(E)は、短絡ループ状(リング状、環状)のパターン35を示す。パターン35の任意の一箇所に接続点35aが設けられる。
【0032】
電極パターンは、上記の円形や矩形には限定されず、多角形であってもよいし、規則的な形状、不規則的な形状を有してもよい。
またループ状のパターン35については、一部を開放させる形状であってもよい。
上記の実施形態では、+側の電極要素と−側の電極要素を同形の形状として説明したが、+側の電極要素と−側の電極要素を異なる長さ、形状として製作することもできる。
また電極パターンを形成する線材の端は開放されていても、短絡されていてもよい。
【0033】
図4に、第1の実施形態に係る人体通信電極をセキュリティーゲートに配置した例を示す。
図4において、41はゲートであり、42はゲート41によって設定された通路を通行しようとする人である。人42は移動器(人体通信機器)43を身体に装備している。この図示例では、床面44に障害物45が存在する。当該床面44の表面または内部には、障害物45を避けて線材21A,21Bがほぼじくざぐ状の電極パターン33として設置されている。このジグザグ状電極パターン33は、障害物45を避けて作られているため、
図3の(C)で示したパターン33を変形させた形となっている。線材21A,21Bの各々の一端が制御部12に接続されている。46は電気力線を示している。このように、本実施形態に係る人体通信用電極によれば、設置現場において、電極の設置される場所の環境や形状に応じて自由に設置することができる。
【0034】
図5に、第1の実施形態に係る人体通信電極、例えば線材21A,21Bの渦巻きパターン21A−1,21B−1の配置例を示す。この配置例では、渦巻きパターン21A−1,21B−1が配置される床面(地面)51が湾曲している。本実施形態に係る電極では、渦巻きパターン21A−1,21B−1が、床面51に沿うように湾曲して形成され、床面51に平行になるように設置されている。なお実際の構成としては2つの渦巻きパターン21A−1,21B−1は絶縁隔離しつつほぼ接触した状態で配置される。
【0035】
図6を参照して本発明の第2の実施形態に係る人体通信電極を説明する。この実施形態に係る電極10の電極61は、相対的に細い線状の少なくとも2本の導線(線材21A,21Bに相当する導線)を組としてを無定形の形状にして電極として形成したものである。この電極61は、一定の形を有しないので、設置場所に応じて自由に設置することができる。
【0036】
図7を参照して本発明の第3の実施形態に係る人体通信電極を説明する。この実施形態に係る人体通信電極は、移動器側の電極である。
図7において、71は人が着る衣服である。この衣服71の表面等に、導線を編み込んで作った電極72が所要数設けられる。電極72に編み込まれる導線は糸状または繊維状の導線である。このような構成によれば、衣服71を人体通信用電極として用いることができる。なお73は移動器側制御部である。
【0037】
上記の人体通信電極を構成する線状導電性部材は人体との間を隔離する隔離部材を備えるように構成することができる。この隔離部材は電気力線が作られるのを阻止する手段である。
【0038】
また固定器の設置現場において、配置箇所の形状に応じて線状導電性部材を折り曲げて変形させるとき、線状導電性部材の変形を案内する案内部材を備えるように構成することもできる。この案内部材はレール状の形態を有するものである。
【0039】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る人体通信電極は、人体通信装置において主に固定器側の電極として使用され、設置環境や設置場所に応じて現場で簡単にかつ確実に設置することができる電極として利用される。
【符号の説明】
【0041】
10 電極(固定器側電極)
10A +電極要素
10B −電極要素
11 ケーブル
12 固定器側制御部
21A,21B 線材
21A−1 渦巻きパターン
21B−1 渦巻きパターン
31,32 渦巻きパターン
33 じぐざぐ状(蛇腹状)パターン
34 卍型パターン
35 円形パターン
41 ゲート
42 人
43 移動器
44 床面
45 障害物
46 電気力線
51 床面
61 電極
71 衣服
72 移動器側電極
73 移動器側制御部
100 電極板
101 +電極板
102 −電極板
104 人体通信機器
105 人体
106 電気力線