特許第6478660号(P6478660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6478660石炭灰の活性化方法、活性化石炭灰、およびセメント組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6478660
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】石炭灰の活性化方法、活性化石炭灰、およびセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/10 20060101AFI20190225BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20190225BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20190225BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20190225BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   C04B18/10 A
   C04B18/08 Z
   C04B24/22 Z
   C04B24/26 E
   C04B28/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-15023(P2015-15023)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-138025(P2016-138025A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】桐野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−225441(JP,A)
【文献】 特開2008−149234(JP,A)
【文献】 特開2008−297148(JP,A)
【文献】 特開2009−240933(JP,A)
【文献】 特開平11−221821(JP,A)
【文献】 特開平9−175846(JP,A)
【文献】 特開昭61−89808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B18/04−18/30
C04B28/02−28/10
B09B1/00−5/00
B09C1/00−1/10
F23G7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰70〜97質量%と水3〜30質量%とを混合した後、該混合物を10〜30℃で1日以上養生して、石炭灰を活性化することを特徴とする石炭灰の活性化方法。
【請求項2】
前記石炭灰がフライアッシュである、請求項1に記載の石炭灰の活性化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の石炭灰の活性化方法により得られる、活性化石炭灰。
【請求項4】
請求項3に記載の活性化石炭灰、セメント、水、骨材、および混和剤を混練してセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用混和材およびコンクリート用混和材として用いる石炭灰の活性化方法、該方法により活性化された石炭灰、および該活性化された石炭灰を含むモルタルおよびコンクリート(以下「セメント組成物」という。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にフライアッシュは球状粒子であるから、コンクリートに添加するとフライアッシュのボールベアリング作用により、フライアッシュ含有コンクリートの流動性は向上すると云われている。また、フライアッシュのポゾラン反応によりマトリックスが緻密になって、フライアッシュ含有コンクリートの耐久性は向上するとされている。
【0003】
しかし、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」では、フライアッシュII種〜IV種のフロー値比(フライアッシュ無添加モルタルのフロー値に対するフライアッシュ添加モルタルのフロー値の比)は、下限が95〜75%と規定されている。したがって、この下限が100%未満であることは、フライアッシュを添加してもモルタルやコンクリートの流動性が向上しない場合もあり得ることを示している。また、フライアッシュ含有コンクリートの短・中期の材齢における強度発現性は低下するため、フライアッシュ含有コンクリートは該強度発現性が要求される用途に適さない。
【0004】
そこで、フライアッシュを活性化する方法が種々提案されている。
例えば、特許文献1に記載のフライアッシュの活性度改善手法は、フライアッシュを粉砕して所定の比表面積に調整する粉砕工程、前記粉砕工程によって粉砕されたフライアッシュに、ナトリウム塩化合物を添加するナトリウム塩添加工程及びカルシウム塩化合物を添加するカルシウム塩添加工程を具備する方法である。
また、特許文献2に記載のフライアッシュの活性化方法は、微粉砕フライアッシュを製造する際に、粉砕助剤として7%以下のアルカリ性液体を添加する方法である。
しかし、これらの方法は、フライアッシュに対し物理的および化学的処理を行うため手間がかかり、またアルカリ等の薬剤が消費されるためコスト高になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−032242号公報
【特許文献2】特開09−175846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、薬剤を使用することなく簡便に、フライアッシュを含む石炭灰を活性化して、石炭灰を含有するセメント組成物の流動性および強度発現性が向上する石炭灰の活性化方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、薬剤を使用することなく簡便に石炭灰を活性化させる方法等を完成させた。すなわち、本発明は下記の構成を有する石炭灰の活性化方法、活性化石炭灰、およびセメント組成物である。
[1]石炭灰70〜97質量%と水3〜30質量%とを混合した後、該混合物を10〜30℃で1日以上養生して石炭灰を活性化する、石炭灰の活性化方法。
ここで、石炭灰の活性化とは、該石炭灰を含むセメント組成物の流動性および強度発現性が向上することをいう。
[2]前記石炭灰がフライアッシュである、前記[1]に記載の石炭灰の活性化方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の石炭灰の活性化方法により得られる、活性化石炭灰。
[4]前記[3]に記載の活性化石炭灰、セメント、水、骨材、および混和剤を混練してセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の石炭灰の活性化方法によれば、薬剤を使用することなく簡便に、フライアッシュを含む石炭灰を活性化できる。また、本発明のセメント組成物は、流動性および強度発現性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の石炭灰の活性化方法は、前記のとおり、石炭灰と水を特定の割合で混合した後、該混合物を特定の温度および期間で養生して、石炭灰を活性化する方法である。また、本発明の活性化石炭灰は、前記石炭灰の活性化方法により得られる石炭灰であり、本発明のセメント組成物の製造方法は、前記活性化石炭灰、セメント、水、骨材、および混和剤を混練してセメント組成物を製造する方法である。
以下、石炭灰の活性化方法、活性化石炭灰、およびセメント組成物の製造方法に分けて説明する。
【0010】
1.石炭灰の活性化方法
該方法は、石炭灰70〜97質量%と水3〜30質量%とを混合した後、該混合物を10〜30℃で1日以上養生して、石炭灰を活性化する方法である。ただし、前記石炭灰と水の含有率(混合率)は、合計で100質量%である。
前記水の含有率が3質量%未満では、水と石炭灰の混合が不均一になり易く、30質量%を超えると石炭灰の含有率が相対的に低下して、活性化石炭灰の運搬効率が低下し、運搬コストが増加する。なお、水の含有率は、好ましくは5〜28質量%、より好ましくは10〜25質量%、特に好ましくは15〜20質量%である。
また、養生温度が10℃未満や30℃を超えると石炭灰の活性化が不十分である。また、養生期間が1日未満では石炭灰の活性化が不十分である。なお、好ましくは、養生温度は15〜25℃、養生期間は7〜50日であり、より好ましくは、養生期間は14〜40日である。
養生方法は、特に制限されず、石炭灰と水の混合物を、例えば、遮湿性の袋、容器、および部屋等に保管して行う。
【0011】
本発明の活性化方法に用いる石炭灰の強熱減量(Ig.loss)は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。該値が10質量%を超えると、未燃炭素が混和剤を吸着する量が多くなり、セメント組成物の空気量が減少し流動性が低下するおそれがある。また、本発明の活性化方法に用いる石炭灰のブレーン比表面積は、好ましくは1500cm/g以上、より好ましくは2000〜8000cm/gであり、特に好ましくは2200〜5000cm/gである。該値が1500cm/g以上であれば、活性化効果は高い。
本発明の活性化方法に用いる石炭灰は、フライアッシュおよびボトムアッシュの混合物であるが、活性化効果がより高いことから、好ましくはフライアッシュである。
【0012】
2.活性化石炭灰
本発明の活性化石炭灰は、前記石炭灰の活性化方法により得られる活性化石炭灰である。
該活性化石炭灰は、養生開始時の含水状態を維持する必要がある。ここで、含水状態を維持するとは、養生開始時の含水率の70%以上、好ましくは80%以上の状態を維持することをいう。養生開始時の含水率の70%未満になると、石炭灰の活性化効果が低下する場合がある。
【0013】
3.セメント組成物の製造方法
本発明のセメント組成物の製造方法は、前記活性化石炭灰、セメント、水、骨材、および混和剤を混練してセメント組成物を製造する方法である。以下に、セメント、水、骨材、および混和剤に分けて説明する。
(1)セメント
該セメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、およびエコセメントからなる群から選ばれる1種以上である。
【0014】
(2)水
水は、コンクリートの強度や流動性等の物性に悪影響を与えないものであれば用いることができ、例えば、水道水、下水処理水、生コンクリートの上澄水等が挙げられる。
【0015】
(3)骨材
(i)細骨材
該細骨材は、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、および軽量細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材は天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
(ii)粗骨材
該粗骨材は砂利、砕石、スラグ粗骨材、および軽量粗骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、粗骨材は、前記細骨材と同様に、天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
【0016】
(4)混和剤
本発明のセメント組成物に用いる主要な混和剤は減水剤である。該減水剤は、例えば、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」に規定されている、高性能減水剤、減水剤、AE減水剤、および高性能AE減水剤等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、前記減水剤の化合物は、例えば、主な成分としてナフタレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、メラミンスルホン酸、およびポリカルボン酸、並びに、これらのナトリウム塩、カリウム塩、およびカルシウム塩等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、本発明のセメント組成物に用いる前記減水剤以外の混和剤は、例えば、空気量調整剤や収縮低減剤等が挙げられる。
なお、セメント組成物の混練装置は、ホバートミキサ、および二軸強制練りミキサ等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.フライアッシュの活性化処理
表1に示すフライアッシュA〜Dのそれぞれと、水とを、水の含有率が20質量%になるようにホバートミキサに入れて、1分30秒間低速で混合した後、該混合物を30秒間かけてかき落とし、さらに1分間低速で混合した。
次に、前記各混合物をそれぞれビニール袋に入れて密封し、養生温度20℃および相対湿度100%に設定した恒温恒湿槽内に、それぞれ1時間および28日間静置(養生)して、フライアッシュを活性化処理した。また、前記養生温度を40℃および前記養生期間を28日にしたほかは、前記と同様にして、より高温でフライアッシュを活性化処理した。
【0018】
【表1】
【0019】
2.フライアッシュ含有モルタルの調製と、該モルタルのフローおよび圧縮強さの測定
前記活性化処理した含水状態のフライアッシュ(以下「活性化フライアッシュ」という。)を、そのままの状態で用いてモルタルを調製した。また、比較のため、活性化処理を行わない未処理の乾燥状態のフライアッシュを用いてモルタルを調製した。
以下、フローおよび圧縮強さの測定方法を示す。
(1)フローの測定方法
セメントは普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)を、細骨材はJIS R 5201に規定する標準砂を、また減水剤はポリカルボン酸系高性能AE減水剤(商品名:レオビルドSP8N[登録商標]、BASFポゾリス社製、以下「SP」という。)およびナフタレンスルホン酸系高性能減水剤(商品名:マイテイ150[登録商標]、花王社製、以下「MT」という。)を用いた。
モルタルの配合は、質量比で、乾燥状態換算の活性化フライアッシュ/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=0.25、細骨材/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=2.0、(添加水+活性化フライアッシュ中の含水)/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=0.35とし、減水剤の配合は、減水剤(SPの場合)/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=0.0065、または減水剤(MTの場合)/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=0.012、とした。
前記モルタルの混練は、ホバートミキサーを用いて、前記モルタルを低速で2.5分間、続けて高速で3分間混練した。さらに、前記混錬したモルタルを、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に規定する鋼製スランプコーンの中に投入し、該コーンを上方へ取り去った後のモルタルの広がり(フロー値)を測定した。前記SPを含むモルタルのフローを表2に、前記MTを含むモルタルのフローを表3に示す。
(2)圧縮強度の測定方法
セメントは普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)を、細骨材はJIS R 5201に規定する標準砂を用いた。
モルタルの配合は、質量比で、乾燥状態換算の活性化フライアッシュ/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=0.25、細骨材/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=3.0、(添加水+活性化フライアッシュ中の含水)/(セメント+乾燥状態換算の活性化フライアッシュ)=0.5、とした。
JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して供試体を作製し、材例3日、7日、および28日の圧縮強さを測定した。材例3日、7日および28日の圧縮強さは、それぞれ表4、5および6に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
【表6】
【0025】
表2〜3に示すように、本発明の活性化処理したフライアッシュ(活性化石炭灰)を含むモルタルは、未処理のフライアッシュや、本発明の活性化方法の条件以外の条件(養生温度40℃、養生期間1時間)で処理をしたフライアッシュを含むモルタルと比べ、流動性が高い。
また、表4〜6に示すように、本発明の活性化処理したフライアッシュ(活性化石炭灰)を含むモルタルは、未処理のフライアッシュや本発明の活性化方法の条件以外の条件で処理をしたフライアッシュを含むモルタルと比べ、圧縮強さが同等か、またはより高い。
したがって、本発明の石炭灰の活性化方法は、薬剤を使用することなく簡便に、フライアッシュを含む石炭灰を活性化して、該活性化石炭灰を含むコンクリート等の流動性および強度発現性を向上することができる。