特許第6478832号(P6478832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6478832-耐震補強構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6478832
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20190225BHJP
【FI】
   E04G23/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-126545(P2015-126545)
(22)【出願日】2015年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-8630(P2017-8630A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】大堀 太志
(72)【発明者】
【氏名】平川 恭章
【審査官】 村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−226238(JP,A)
【文献】 特開2005−213857(JP,A)
【文献】 特開2012−180721(JP,A)
【文献】 特開平10−061204(JP,A)
【文献】 特開平10−152998(JP,A)
【文献】 「既存梁部材の外側補強工法」の性能証明を取得,飛島建設株式会社ウェブサイト,日本,飛島建設株式会社,2014年 3月31日,<検索日:2019年1月16日>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構内に設置され、耐震要素が設けられた鉄骨枠と、
前記鉄骨枠の上辺部に設けられた鋼板部と、
前記架構の既設鉄骨梁の周囲に配筋し、前記鋼板部を梁下部の型枠としてコンクリートを打設し構築された鉄骨鉄筋コンクリート梁と、
を備えた耐震補強構造。
【請求項2】
前記鉄骨枠は前記架構内に開口部を残して設置され、
前記鉄骨枠の前記上辺部及び前記鋼板部の少なくとも一方の開口側端部には、前記鉄骨鉄筋コンクリート梁に埋設される補強筋が設けられた請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記鉄骨枠の前記上辺部及び前記鋼板部の少なくとも一方には、前記鉄骨鉄筋コンクリート梁に埋設される応力伝達部材が設けられた請求項1又は請求項2に記載の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、既設梁柱架構の内面に増設するブレース部材が設けられた架構補強用面材に関する技術が開示されている。この先行技術では、架構補強用面材における既設梁柱架構の内面形状に合せて形成された枠部材の上面には、既設梁柱架構を構成する上梁部材を抱持する凹部を形成する取付金具が枠部材に固定されている。
【0003】
しかし、架構補強用面材の枠部材の上面の取付金具(凹部)は、既設架構の上梁部材との接着面積の増加には寄与するが、上梁部材の補強や剛性及び耐力の向上には殆ど寄与しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−226238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を鑑み、耐震要素で耐震補強する架構の梁の剛性及び耐力を高めるための施工を容易にすることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、架構内に設置され、耐震要素が設けられた鉄骨枠と、前記鉄骨枠の上辺部に設けられた鋼板部と、前記架構の既設鉄骨梁の周囲に配筋し、前記鋼板部を梁下部の型枠としてコンクリートを打設し構築された鉄骨鉄筋コンクリート梁と、を備えている。
【0007】
請求項1の発明では、耐震要素が設けられた鉄骨枠を架構内に設置して耐震補強する。また、架構の鉄骨梁の周囲に配筋し、鉄骨枠の上辺部の鋼板部を梁下部の型枠としてコンクリートを打設し、鉄骨鉄筋コンクリート梁とすることで梁の剛性及び耐力を向上させる。また、鉄骨枠の上辺部に設けられた鋼板部によって鉄骨鉄筋コンクリート梁が補強される。よって、架構の耐震性能が効果的に向上する。
【0008】
また、コンクリートを打設する際に、鉄骨枠の上辺部に設けた鋼板部を型枠として利用するので、施工性が向上する。更に、例えば既設の鉄骨梁に鋼板を溶接して補強する場合と比較し、溶接箇所(特に上向き溶接)が減少するので、施工性がよい。
【0009】
したがって、耐震要素で耐震補強する架構の梁の剛性及び耐力を高めるための施工が容易である。
【0010】
請求項2の発明は、前記鉄骨枠は前記架構内に開口部を残して設置され、前記鉄骨枠の前記上辺部及び前記鋼板部の少なくとも一方の開口側端部には、前記鉄骨鉄筋コンクリート梁に埋設される補強筋が設けられている。
【0011】
請求項2の発明では、鉄骨枠の上辺部及び前記鋼板部の少なくとも一方の開口側端部に、鉄骨鉄筋コンクリート梁に埋設される補強筋を設けることで、開口部分の剛性及び耐力が向上する。
【0012】
請求項3の発明は、前記鉄骨枠の前記上辺部及び前記鋼板部の少なくとも一方には、前記鉄骨鉄筋コンクリート梁に埋設される応力伝達部材が設けられている。
【0013】
請求項3の発明では、応力伝達部材を介して、鉄骨枠の上辺部と鉄骨鉄筋コンクリート梁との間で効果的に応力伝達することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐震要素で耐震補強する架構の梁の剛性及び耐力を高めるための施工を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の耐震補強構造が適用された架構の正面図である。
図2】(A)は図1の2A−2A線に沿った縦断面図であり、(B)は図1の2B−2B線に沿った縦断面図であり、(C)は図1の2C−2C線に沿った縦断面図である。
図3】(A)は図1の隅部の拡大正面図であり、(B)は(A)の3B−3B線に沿った縦断面図であり、(C)は(A)の3C−3C線に沿った縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態の耐震補強構造について説明する。なお、図1の正面図では、梁主筋32などの一部の部材は判り易くするため実線で図示している。
【0017】
<構造>
本発明の一実施形態の耐震補強構造について説明する。なお、上下方向をZ方向とし、後述する架構10の面外方向をY方向とし、Z方向及びY方向と直交する架構10の左右方向をX方向とする。
【0018】
図1に示す本発明の一実施形態の耐震補強構造が適用された架構10は、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱20と鉄骨梁30(図2を参照)とで構成された既設架構12内に、V字状に配置されたブレース50が設けられた正面視矩形状の鉄骨枠100が設置されることで耐震補強されている。更に、既設架構12の既設の鉄骨梁30(図2を参照)を鉄骨鉄筋コンクリート造の梁40とし剛性及び耐力を上げることで効果的に耐震補強されている。また、本実施形態では、鉄骨枠100は既設架構12(架構10)内の図1における右側部分に、出入口となる開口部14を残して設置されている。
【0019】
なお、図1に示す本実施形態の鉄骨枠100は、フランジ82及びフランジ84とウェブ86とを有するH形鋼80で構成されている(図2及び図3も参照)。
【0020】
正面視で矩形枠状の鉄骨枠100の上側の左右両側の隅部には、上側ガセットプレート52が接合され(図3(A)も参照)、鉄骨枠100の下辺部110の左右方向(X方向)の中間部には、下側ガセットプレート54が接合されている。これら上側ガセットプレート52と下側ガセットプレート54とにブレース50が接合されている。
【0021】
鉄骨枠100の図における左側の縦辺部112と柱20との間には、コンクリートやモルタル等の充填材Jが充填され、この充填材Jが充填された充填部22に縦辺部112に設けられたスタッド114が埋設されている。また、充填部22と柱20とは、後施工の接着系のアンカー25で接合されている。
【0022】
同様に、鉄骨枠100の下辺部110とスラブ49(梁48)との間には、充填材Jが充填され、この充填材Jが充填された充填部24に下辺部110に設けられたスタッド115が埋設されている。また、充填部24とスラブ49(梁48)とは、後施工の接着系のアンカー27で接合されている。
【0023】
架構10の上側の梁40は、前述したように、図2に示すように、既設の鉄骨梁30の周囲に梁主筋32とせん断補強筋34とが配筋され、コンクリートKが打設されることで構築されている。また、図1に示すように、上側の梁40と左右の柱20とは、後施工の接着系のアンカー36で接合されている(図2(C)も参照)。
【0024】
図1に示すように、鉄骨枠100の上辺部120に設けられたスタッド122は、梁40に埋設されている(図2(A)も参照)。また、鉄骨枠100の上辺部120の開口部14側の端部には補強筋124が設けられると共に、補強筋124は梁40に埋設されている。
【0025】
図2(A)、図2(B)及び図3に示すように、鉄骨枠100の上辺部120には、断面形状がU字状(溝状)の鋼板部150が設けられている。鋼板部150は、H形鋼の上側のフランジ82と、フランジ82の面外方向(Y方向)の両外側に接合された略L字形状のL字鋼板152と、で構成されている。図3に示すように、L字鋼板152は、側面部153と、フランジ82に接合された底部154とで構成されている。
【0026】
図1図2(C)及び図3(C)に示すように、鉄骨枠100の上辺部120の鋼板部150は、図1における右側の柱20(図1参照)まで延在された延在部151が設けられている。なお、本実施形態では、図1に示すように、鋼板部150の延在部151の延在端部には、下側に延在する接合部155が形成されている。この接合部155は、後施工のアンカー38で柱20と接合されている。
【0027】
なお、図2に示すように、鋼板部150は、梁40の梁下部40Aの外側に接触配置され、後述するようにコンクリートKを打設する際の型枠の一部として利用される。
【0028】
<施工方法>
次に、施工方法の一例について説明する。
【0029】
図1に示すように、鉄骨鉄筋コンクリート造の柱20と鉄骨梁30(図2参照)とで構成された既設架構12内に、V字状に配置されたブレース50が設けられた正面視矩形状の鉄骨枠100を設置する。
【0030】
鉄骨枠100の左側の縦辺部112と柱20との間に充填材Jを充填し、この充填材Jが充填された充填部22に縦辺部112のスタッド114を埋設すると共に、充填部22と柱20とを後施工の接着系のアンカー25で接合する。
【0031】
同様に、鉄骨枠100の下辺部110とスラブ49(梁48)との間に充填材Jを充填し、この充填材Jが充填された充填部24に下辺部110のスタッド115を埋設すると共に、充填部24とスラブ49(梁48)とを後施工の接着系のアンカー27で接合する。
【0032】
図2に示すように、鉄骨梁30の周囲に梁主筋32及びせん断補強筋34を配筋すると共に型枠を設置し、コンクリートKを打設し、鉄骨鉄筋コンクリート造の梁40とする。このとき、鉄骨枠100の上辺部120の鋼板部150を梁下部40Aの型枠として利用する。
【0033】
また、図1に示すように、鉄骨枠100の上辺部120の鋼板部150の延在部151に延在端部に設けられた接合部155を後施工のアンカー38で柱20と接合する。
【0034】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0035】
ブレース50が設けられた鉄骨枠100を既設架構12内に設置することで耐震補強される。また、既設架構12の鉄骨梁30の周囲に梁主筋32及びせん断補強筋34を配筋し、鉄骨枠100の上辺部120の鋼板部150を梁下部40Aの型枠としてコンクリートKを打設し、鉄骨鉄筋コンクリート造の梁40とすることで剛性及び耐力が向上する。また、鉄骨枠100の上辺部120の鋼板部150によって梁40が補強される。よって、架構10の耐震性能が効果的に向上する。
【0036】
また、コンクリートKを打設する際に、鉄骨枠100の上辺部120に設けた鋼板部150を型枠として利用するので、施工性が向上する。また、例えば既設の鉄骨梁30に鋼板を溶接して補強する場合と比較し、溶接箇所(特に上向き溶接)が減少するので、施工性がよい。
【0037】
したがって、ブレース50で耐震補強した架構10の梁40の剛性及び耐力を高めるための施工が容易である。
【0038】
また、鉄骨枠100の上辺部120に、梁40に埋設される補強筋124を設けることで、架構10における開口部14の剛性及び耐力が向上する。
【0039】
また、鉄骨枠100の上辺部120に設けたスタッド122を介して、上辺部120と梁40との間で効果的に応力伝達することができる。
【0040】
このように、既設架構12内にブレース50が設けられた鉄骨枠100を設置して耐震補強すると共に、既設の鉄骨梁30を鉄骨枠100の上辺部120の鋼板部150を型枠の一部として利用して鉄骨鉄筋コンクリート造とすることで、梁40の剛性及び耐力を向上させ且つ補強し、架構10の耐震性能を効果的に向上させている。
【0041】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0042】
例えば、上実施形態では、鉄骨枠100の上辺部120におけるU字形状(溝状)の鋼板部150部分が開口部14に延在していたが、これに限定されない。上辺部120全体が開口部14に延在していてもよい。また、延在部151が設けられていなくてもよい。
【0043】
また、例えば、上実施形態では、鉄骨枠100は既設架構12(架構10)内の図1における左右方向の右側部分に開口部14を残して設置されているが、これに限定されない。図1における左右方向の左側部分に開口部14を残すようにしてもよし、左右方向の中央部(中間部)に開口部14を残すようにしてもよい。或いは、開口部14を残さなくてもよい。
【0044】
また、例えば、上記実施形態では、鉄骨枠100の上辺部120のU字状(溝状)の鋼板部150を型枠として利用したが、これに限定されない。型枠となる鋼板部は、U字状(溝状)以外の構造であってもよい。例えば、側面部153がない、フランジ82と底部154とで底型枠として機能する構成であってもよい。
【0045】
また、例えば、上記実施形態では、鉄骨枠100はH形鋼80で構成されていたが、これに限定されない。H形鋼以外の鋼材、例えば、T形鋼、I形鋼、矩形鋼管等でもよい。
【0046】
また、ブレース50以外の耐震要素であってもよい。例えば波形鋼板などの鋼製壁でもよい。あるいは、制震ブレースなどの制震機能を有する耐震要素であってもよい。
【0047】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【符号の説明】
【0048】
10 架構
14 開口部
40 梁(鉄骨鉄筋コンクリート梁)
50 ブレース(耐震要素の一例)
100 鉄骨枠
120 上辺部
124 補強筋
122 スタッド(応力伝達部材の一例)
150 鋼板部
図1
図2
図3