特許第6478860号(P6478860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6478860
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20190225BHJP
【FI】
   C08J9/12CET
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-148997(P2015-148997)
(22)【出願日】2015年7月28日
(65)【公開番号】特開2017-31234(P2017-31234A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 良
(72)【発明者】
【氏名】石川 達之
【審査官】 藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−297523(JP,A)
【文献】 特開2015−183125(JP,A)
【文献】 特開2007−326926(JP,A)
【文献】 特表2002−531659(JP,A)
【文献】 特開2009−256510(JP,A)
【文献】 特開2008−133424(JP,A)
【文献】 特開2005−264117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
B29C44/00− 44/60
67/20
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂、物理発泡剤および難燃剤を混練してなる発泡性溶融樹脂組成物を押出して板状に成形する工程を含む、見掛け密度20〜40kg/mのポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法であって、
物理発泡剤として、炭素数3〜6の炭化水素化合物、ジメチルエーテル、二酸化炭素およびエタノール水溶液を含む発泡剤を用い、かつ、物理発泡剤の総配合量がポリスチレン系樹脂1kgに対して1.0〜2.0molであり、
炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.4〜0.8molであり、
ジメチルエーテルの配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、
二酸化炭素の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、
エタノール水溶液の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、かつ、エタノール水溶液中のエタノールと水とのmol比(エタノール:水)が0.1:1〜0.6:1である、
ことを特徴とするポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項2】
炭素数3〜6の炭化水素化合物とジメチルエーテルとのmol比(炭化水素化合物:ジメチルエーテル)が、1.5:1〜4:1であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項3】
難燃剤は、臭素化ブタジエン−スチレン系共重合体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【請求項4】
ポリスチレン系樹脂発泡板の幅が900mm以上であり、厚みが80mmより大きく、押出方向垂直断面の断面積が800cmより大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系脂発泡板の製造方法に関し、詳しくは、建築物の壁、床、屋根等の断熱材として好適に使用可能な発泡断熱板等として使用可能なポリスチレン系脂発泡板を、環境適合性に優れる物理発泡剤を用いて、広い見掛け密度の範囲にわたって安定して製造可能なポリスチレン系脂発泡板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系脂発泡板(以下、単に「発泡板」ともいう。)は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、断熱材等として広く使用されている。このような板状の発泡板は、一般に押出機中でポリスチレン樹脂を加熱溶融した後、得られた溶融物に物理発泡剤を圧入、混練して得られる発泡性溶融樹脂混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイなどから低圧域に押出発泡し、成形具により板状に成形することにより製造されている。
【0003】
ポリスチレン系樹脂発泡板の製造に用いられる物理発泡剤としては、ジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(CFC)が使用されていた。CFCは発泡性にも優れる共に、発泡剤として使用されたCFCは発泡板中に長期に亘って残存し、発泡板の熱伝導率の低減に寄与するものであった。しかし、CFCはオゾン層を破壊する危険性が大きいことから、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であり、更に地球温暖化係数も小さい、ブタンに代表される炭素数3〜6の飽和炭化水素が、CFCに代えて用いられるようになっている。
【0004】
しかし、ブタン等の飽和炭化水素は、発泡板中に残存して熱伝導率の低減に寄与するが、燃焼しやすい特性を有しているので、発泡剤としての使用量が制限される。
【0005】
そこで、高発泡倍率の発泡板を製造するために、発泡板からの散逸が早い易散逸性であり、環境適合性に優れた物理発泡剤として、エーテル、脂肪族アルコール、水、二酸化炭素などを飽和炭化水素と併用することが提案されている(例えば、特許文献1〜6)。
【0006】
具体的には、特許文献1、2には、発泡剤として、特定比率の炭素数3〜5の飽和炭化水素とジメチルエーテルなどのエーテルとを用いることが記載されている。特許文献3には、発泡剤として、特定比率の炭素数3〜5の飽和炭化水素とジメチルエーテルなどのエーテルを用い、さらに発泡助剤として、特定量の二酸化炭素を用いることが記載されている。
【0007】
ここで、ジメチルエーテルは、易散逸性の物理発泡剤の中では発泡性に優れた発泡剤であるが、可燃性が非常に高いため、製造時に発泡板から散逸したジメチルエーテルに静電気着火を起こす危険性があり、安全性の面で課題を残すものであった。
【0008】
ジメチルエーテルの使用量を削減する技術として、特許文献4には、発泡剤として、イソブタン、ジメチルエーテル及び二酸化炭素の3種類の発泡剤を特定比率で用いることが記載されている。特許文献5には、発泡剤として、イソブタンと二酸化炭素とエタノールの3種類の発泡剤を用い、かつ、二酸化炭素とエタノールを特定の比率にすることが記載されている。さらに、特許文献6には、発泡剤として、炭素数3〜5の飽和炭化水素、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、エーテル類、及び二酸化炭素の4種類の発泡剤を特定比率で用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−158317号公報
【特許文献2】国際公開第99/054390号
【特許文献3】特開2001−323097号公報
【特許文献4】特開2003−12848号公報
【特許文献5】特開2004−43681号公報
【特許文献6】特開2006−188654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4〜6の製造方法の場合、一定の発泡倍率以上の発泡板を製造することは難しく、特に厚みの厚い発泡板を製造する際の製造安定性が十分ではないという問題がある。
【0011】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、環境適合性に優れた発泡剤を用いて、難燃性に優れ、外観が良好な発泡板を安定に製造することができるポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法は、ポリスチレン系樹脂、物理発泡剤および難燃剤を混練してなる発泡性溶融樹脂組成物を押出して板状に成形する工程を含む、見掛け密度20〜40kg/mのポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法であって、
物理発泡剤として、炭素数3〜6の炭化水素化合物、ジメチルエーテル、二酸化炭素およびエタノール水溶液を含む発泡剤を用い、かつ、物理発泡剤の総配合量がポリスチレン系樹脂1kgに対して1.0〜2.0molであり、
炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.4〜0.8molであり、
ジメチルエーテルの配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、
二酸化炭素の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、
エタノール水溶液の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、かつ、エタノール水溶液中のエタノールと水とのmol比(エタノール:水)が0.1:1〜0.6:1である、
ことを特徴としている。
【0013】
このポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、炭素数3〜6の炭化水素化合物とジメチルエーテルとのmol比(炭化水素化合物:ジメチルエーテル)が、1.5:1〜4:1であることが好ましい。
【0014】
このポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、難燃剤は、臭素化ブタジエン−スチレン系共重合体を含むことが好ましい。
【0015】
このポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、ポリスチレン系樹脂発泡板は、幅が900mm以上であり、厚みが80mmより大きく、押出方向垂直断面の断面積が800cmより大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法は、環境適合性に優れた発泡剤を用いて、見掛け密度20〜40kg/mの範囲にわたって、難燃性に優れ、外観が良好な発泡板を安定に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法について詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法は、ポリスチレン系樹脂、物理発泡剤および難燃剤を混練してなる発泡性溶融樹脂組成物を押出して板状に成形する工程を含み、見掛け密度20〜40kg/mのポリスチレン系樹脂発泡板が製造される。
【0019】
具体的には、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、例えば、ポリスチレン系樹脂と、難燃剤と、必要に応じて配合される気泡調整剤等の添加剤とを押出機に供給して加熱、混練し、さらに物理発泡剤を圧入して混練した後、発泡適性温度に冷却して発泡性溶融樹脂組成物とする。そして、この発泡性溶融樹脂組成物をフラットダイを通して低圧域に押出して発泡させ、板状に成形(賦形)する。板状の賦形は、例えば、ダイの下流に配置された上下一対の板状発泡体成形空間を形成する成形型や、成形ロール等の成形具を通過させることによって行うことができる。
【0020】
ポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレンや、スチレン単位成分を50モル%以上含むスチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体などのうちの1種または2種以上を例示することができる。これらの中では、ポリスチレンが好ましく使用される。なお、ポリスチレンには、スチレン単位成分以外に、多官能性単量体や多官能性マクロモノマーなどの分岐化剤による単位成分が含まれていてもよい。
【0021】
ポリスチレン系樹脂は、本発明の目的、効果が達成される範囲内において、その他の重合体を含むものであってもよい。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体及びエチレン単位成分含有量が50モル%以上のエチレン系共重合体の群から選択される1種、或いは2種以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体及びプロピレン単位成分含有量が50モル%以上のプロピレン系共重合体の群から選択される1種、あるいは2種以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体水添物、スチレン−エチレン共重合体等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの他の重合体は、ポリスチレン系樹脂中で50重量%未満となるように、好ましくは30重量%以下となるように、さらに好ましくは10重量%以下となるように、目的に応じて混合することができる。
【0022】
また、発泡板の断熱性を高めるために、ポリスチレン系樹脂として、非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体を含むものを使用することができる。この場合、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、ポリスチレン系樹脂中に5質量%以上50質量%未満となるように配合することが好ましい。
【0023】
また、ポリスチレン系樹脂は、発泡性や成形性の観点から、その溶融粘度(200℃、剪断速度100sec−1の条件下)が500〜2500Pa・s程度のものを用いることが好ましく、より好ましくは600〜2000Pa・s、さらに好ましくは700〜1500Pa・sである。
【0024】
物理発泡剤として、炭素数3〜6の炭化水素化合物、ジメチルエーテル、二酸化炭素およびエタノール水溶液の4種類を含むものが用いられる。これら4種類の物理発泡剤は、オゾン破壊係数が0であるとともに、地球温暖化係数も小さく、地球環境に優しいものである。
【0025】
なお、物理発泡剤は、前記の4種類の物理発泡剤のみから構成されている必要はなく、本発明の目的を阻害しない範囲において、その他の物理発泡剤を少量含んでもよい。ただし、前記の4種類の物理発泡剤の割合が物理発泡剤全体に対して90mol%以上であることが好ましく、より好ましくは95mol%以上であり、さらに好ましくは100mol%である。
【0026】
上記見掛け密度の発泡板を得るためには、ポリスチレン系樹脂1kgに対して合計1.0〜2.0molの物理発泡剤が用いられる。
【0027】
炭素数3〜6の炭化水素化合物は、ポリスチレン樹脂に対する溶解度とポリスチレン系樹脂中での拡散性とのバランスに優れるのでポリスチレン系樹脂の押出発泡性に優れている。
【0028】
炭素数3〜6の炭化水素化合物としては、JIS A9521:2014で規定されるように、フロン類を除いたものが例示でき、具体的には、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン(2−メチルプロパン)、ノルマルペンタン、イソペンタン(2−メチルブタン)、シクロブタン、ネオペンタン(2,2−ジメチルプロパン)、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2―ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン等の炭素数3〜6の飽和炭化水素化合物や、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンや、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン等の炭素数3〜6のハイドロ(クロロ)フルオロオレフィンが挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。なお、本発明においては、ノルマルブタンとイソブタンとを併せてブタンと言う。
【0029】
そして、炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.4〜0.8molである。炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量がこの範囲であると、JIS A9511:2006Rの燃焼性規格を満足するような、高度な難燃性を安定して確保することができる。このような観点から、炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.5〜0.7molであることが好ましい。
【0030】
また、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、ジメチルエーテルの配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molである。そして、炭素数3〜6の炭化水素化合物に対するジメチルエーテルのmol比(炭化水素化合物:ジメチルエーテル)が1.5:1〜4:1であることが好ましい。ジメチルエーテルの配合量、および、炭素数3〜6の炭化水素化合物に対するジメチルエーテルのmol比がこの範囲であると、製造時の難燃性や、発泡板としての高度な難燃性を安定して確保することができる。このような観点から、ジメチルエーテルの配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.4molが好ましい。また、炭素数3〜6の炭化水素化合物に対するジメチルエーテルのmol比(炭化水素化合物:ジメチルエーテル)が1.5:1〜3:1であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明では、物理発泡剤としての二酸化炭素の配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molである。二酸化炭素の配合量がこの範囲であると、高度な難燃性を安定して確保することができ、発泡板の外観、製造安定性も良好になる。二酸化炭素の配合量が0.5molを超えると、発泡時に気泡径が過度に微細化しやすくなったり、ダイ内で発泡が始まってしまったりして、押出安定性が失われるおそれや、成形具により板状に成形できなくなるおそれがあるため、発泡板を安定に製造することが難しい。このような観点から、二酸化炭素の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.3molであることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、エタノール水溶液の配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、かつ、エタノール水溶液中のエタノールと水とのmol比が0.1:1〜0.6:1である。エタノールは、工業的に入手が容易であり、押出発泡性にも優れている。エタノール水溶液におけるエタノールの比率が高すぎると、ダイ内での圧力が低下しやすくなるため、また、板状に成形する際に気泡が破壊されやすくなるため、発泡板を安定して得ることが難しい。また、水は、発泡効率には優れるが、ポリスチレン系樹脂への溶解度が低いため、配合量が多すぎると、押出機中やダイ内でポリスチレン系樹脂への溶解が過飽和となり、発泡板中に過大な気泡が形成され、表面平滑性が悪くなってしまう。エタノールと水とをエタノール水溶液として用い、さらにエタノール水溶液の配合量およびエタノールと水の比が前記の範囲内であると、ポリスチレン系樹脂中への水の分散性をより向上させることができると考えられる。また、ポリスチレン系樹脂への二酸化炭素の溶解性も向上させることができると考えられる。そのため、高発泡倍率(低見掛け密度)で、大断面積の発泡板を得る際にも、製造安定性が良好になり、外観の良好な発泡板を得ることが可能となる。このような観点から、エタノール水溶液の配合量は、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.4molであることが好ましく、また、エタノール水溶液中のエタノールと水とのmol比は0.3:1〜0.6:1であることが好ましい。
【0033】
難燃剤は特に限定されないが、臭素系難燃剤を好ましく使用することができる。臭素系難燃剤としては、臭素化ブタジエン−スチレン系共重合体等の臭素化ブタジエン系重合体、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)に代表される臭素化ビスフェノール化合物、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレートに代表される臭素化イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの臭素系難燃剤は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0034】
また、これら臭素系難燃剤のほかに、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、スズ酸亜鉛、シアヌル酸、ペンタブロモトルエン、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、トリフェニルホスフェートに代表されるリン酸エステル系、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等を併用することができる。これら難燃剤の中でも、発泡板に高い難燃性を付与できることから、臭素化ブタジエン−スチレン系共重合体、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)(2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)(2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン)、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを単独又は2種以上を含む難燃剤を使用するのが好ましく、高い難燃性が付与できかつ押出時にポリスチレン系樹脂を分解させにくく、また、安定して高発泡倍率(低見掛け密度)で、さらに大断面積の発泡板を得ることが容易となることから、臭素化ブタジエン−スチレン系共重合体を含む難燃剤を使用することがより好ましい。
【0035】
難燃剤の配合量は、発泡板に高度な難燃性を付与するとともに、発泡性の低下および機械的物性の低下を抑制するうえで、ポリスチレン系樹脂100重量部当たり0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜7重量部であることがより好ましく、1〜6重量部であることがさらに好ましい。
【0036】
また、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法おいては、発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記臭素系難燃剤と併用して使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物などのうちの1種または2種以上を例示することができる。
【0037】
難燃助剤は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対し、0.01〜1重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部の範囲で使用することができる。
【0038】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法においては、ポリスチレン系樹脂発泡板に、断熱性向上剤を含有させてさらに断熱性を向上させることもできる。断熱性向上剤としては、例えば、輻射抑制効果を有する微粉末状のものが挙げられ、具体的には、酸化チタン等の金属酸化物、アルミニウム等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどのうちの1種または2種以上を例示することができる。断熱性向上剤の添加量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対し、0.5〜5重量部、好ましくは1〜4重量部の範囲で使用される。
【0039】
また、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法においては、ポリスチレン系樹脂に、必要に応じて、公知の気泡径拡大剤、気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0040】
以上のように、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法では、発泡性溶融樹脂組成物に配合される物理発泡剤は、炭素数3〜6の炭化水素化合物、ジメチルエーテル、二酸化炭素およびエタノール水溶液を含み、かつ、物理発泡剤の総配合量がポリスチレン系樹脂1kgに対して1.0〜2.0molである。そして、炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量がポリスチレン系樹脂1kgに対して0.4〜0.8molであり、ジメチルエーテルの配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、二酸化炭素の配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、エタノール水溶液の配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、エタノール水溶液中のエタノールと水とのmol比が0.1:1〜0.6:1である。
【0041】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法により得られる発泡板は、建築用断熱板として使用される場合には、JIS A9511(2006R)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な難燃性を有し、JIS A9511(2006R)4.2で規定される熱伝導率の規格を満足することができる。
【0042】
そして、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法で使用される物理発泡剤は、炭素数3〜6の炭化水素化合物、ジメチルエーテル、二酸化炭素およびエタノール水溶液であるため、環境適合性に優れており、また、低見掛け密度で、また大断面積であっても表面平滑性に優れた外観が良好な発泡板を安定に製造することができる。
【0043】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法により得られるポリスチレン系樹脂発泡板の物性について詳述する。
【0044】
本発明の製造方法により得られる発泡板の見掛け密度は、20〜40kg/cmである。
【0045】
また、発泡板としては、用途によっては、幅が900mm以上であり、厚みが80mmより大きく、押出方向垂直断面の断面積が800cmより大きいサイズを必要とされることがある。通常、発泡板は、所望のサイズよりも一回り以上大きなサイズの原板を作製し、原板を切削加工して、幅と長さ、場合によっては厚みを調整することにより製造される。ここで、製造中に原板の幅が大きく変動し、幅が規定よりも狭くなってしまうと、規定のサイズの発泡板を得ることができず、歩留まりが悪くなってしまう。発泡板の製造においては、前述したように、発泡倍率が高く、断面積が大きいほど発泡が難しくなる傾向にある。本発明のポリスチレン系樹脂発泡板の製造方法によれば、このように厚みが厚く、断面積が大きい発泡板を製造する場合も、外観が良好な発泡板を安定して製造することができる。
【0046】
発泡板の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率が高い程、ブタンなどの炭化水素化合物が長く気泡中に留まることが可能となり、高い断熱性能を長期に亘って維持することができると共に、機械的強度にも優れた発泡板となる。
【0047】
なお、発泡板の独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定される発泡板の真の体積Vxを用いて、下記式(1)から求めることができる。発泡板の中央部および幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用する。なお、カットサンプルは発泡板から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断された、発泡板表皮を有しないサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば縦25mm×横25mm×厚み10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ) (1)
ただし、Vx:上記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:発泡板を構成する基材樹脂の密度(g/cm
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
<1>装置および材料
実施例および比較例において、発泡板を得るために、以下に示す装置および材料を用いた。
【0049】
(押出装置)
内径150mmの第1押出機と内径200mmの第2押出機を直列に連結し、第1押出機の終端付近に物理発泡剤注入口を設け、間隙4mm×幅400mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイを第2押出機の出口に連結した押出装置を用いた。また、第2押出機の樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された成形装置(ガイダー)を付設した。
【0050】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン(GPPS、Mw=27×10)を使用した。
【0051】
(難燃剤)
第一工業製薬社製テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、製品名「ピロガードSR−720」40質量%と、第一工業製薬社製テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、製品名「ピロガードSR−130」60質量%との混合難燃剤(Br−BPA)、またはケムチュラ社製臭素化ブタジエン−スチレンブロック共重合体、製品名「Emerald Innovation 3000」(Br−SBS)を使用した。
【0052】
(物理発泡剤)
イソブタン、ジメチルエーテル、二酸化炭素およびエタノール水溶液を使用した。
【0053】
(その他)
気泡調整剤として、タルク(松村産業株式会社製、製品名「ハイフィラー#12」)を使用した。難燃助剤として、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン(United initiators社製、製品名「CCPIB」)を使用した。
【0054】
<2>実施例および比較例
(実施例1〜3)
ポリスチレン、難燃剤、気泡調整剤としてのタルク、難燃剤を表1に示す配合で第1押出機に供給し、200℃まで加熱して混練し、第1押出機に設けられた物理発泡剤注入口から、表1に示す配合組成、量の物理発泡剤を供給した。次に、第1押出機内でさらに混練した発泡剤含有溶融樹脂組成物を、続く第2押出機に移送して樹脂温度を表1に示す発泡適正温度(押出樹脂温度)となるように調整して発泡性溶融樹脂組成物とした後、吐出量800kg/hrで平行に配置されたガイダー内に押出し、発泡させながらガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)して発泡板の原板を作製し、さらに、原板を切削加工することにより幅及び長さを調整して、直方体状のポリスチレン系樹脂発泡板(幅:1000mm、長さ:2000mm、厚み:100mm)を製造した。
【0055】
(比較例1)
物理発泡剤として、エタノール水溶液を配合せず、エタノール(水を含まない)を使用した以外は実施例1〜3と同様の製造方法で発泡板の製造を試みた。
【0056】
(比較例2)
物理発泡剤として、エタノール水溶液を使用せず、水を使用した以外は実施例1〜3と同様の製造方法で発泡板の製造を試みた。
【0057】
(比較例3)
物理発泡剤のエタノール水溶液について、水に対するエタノールのmol比を高めた以外は、実施例1〜3と同様の製造方法で発泡板の製造を試みた。
【0058】
(比較例4)
物理発泡剤のエタノール水溶液について、水に対するエタノールのmol比を低くした以外は、実施例1〜3と同様の製造方法で発泡板の製造を試みた。
【0059】
<3>発泡板の測定方法、評価方法
(見掛け密度)
発泡板の見掛け密度は、次のようにして求めた。得られた発泡板の幅方向の中央部、両端部付近から50×50×50mmの直方体の試料を各々切り出して重量を測定し、該重量を体積で割算することにより夫々の試料の見掛け密度を求め、それらの算術平均値を見掛け密度とした。
【0060】
(厚み)
発泡板を幅方向に5等分して、それらの幅方向中央部の厚みを測定し、それぞれの厚みの算術平均値を発泡板の厚みとした。
【0061】
(断面積)
発泡板の厚みと発泡板の幅との積として、押出方向垂直断面の断面積を求めた。なお、発泡板の幅は、発泡板から無作為に選択した5箇所の幅の算術平均値として求めた。
【0062】
(独立気泡径)
ASTM−D2856−70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定される発泡板の真の体積Vxを用いて、上記の式(1)から求めた。
【0063】
(熱伝導率)
得られた発泡板を製造直後から温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室にて保管し、製造7日後に、JIS A9511(2006R)4.2で規定される熱伝導率の規格に沿って測定した。
【0064】
(難燃性評価)
得られた発泡板を製造直後から温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室にて保管し、製造7日後に、JIS A9511(2006R)5・13・1に規定される燃焼性規格に沿って測定した。
【0065】
(外観)
発泡板表面の平滑性について目視にて評価を行った。
◎:凹凸がなく平滑な表面である
〇:長時間運転時には、一部に凹凸が見られる
×:ダイ内で発泡剤が分離するなどにより表面が平滑ではないもの
【0066】
(製造安定性)
押出時の製造安定性について、得られる原板の幅の変動(最大値−最小値)をもとに、以下の基準により評価を行った。
◎:原板の幅の変動が10mm以下である。
〇:原板の幅の変動が10mmを超え30mm以下である。
×:原板の幅の変動が30mmを超え、規定の幅(1000mm)を下回るときがある。
【0067】
<4>結果
表1に、実施例1〜3および比較例1〜4における製造条件と測定結果、評価結果を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示したように、実施例1〜3の発泡板は、物理発泡剤の総配合量がポリスチレン系樹脂1kgに対して1.0〜2.0molであり、物理発泡剤は、炭素数3〜6の炭化水素化合物の配合量がポリスチレン系樹脂1kgに対して0.4〜0.8molであり、ジメチルエーテルの配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、二酸化炭素の配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、エタノール水溶液の配合量が、ポリスチレン系樹脂1kgに対して0.1〜0.5molであり、エタノール水溶液中のエタノールと水とのmol比が0.1:1〜0.6:1である。
【0070】
実施例1〜3では、低見掛け密度で大断面積の発泡板を安定に製造できることが確認された。得られた発泡板は、優れた難燃性を有するとともに、表面平滑性に優れ、外観が良好であることが確認された。
【0071】
これに対し、比較例1〜4では、低見掛け密度で大断面積の発泡板を安定して製造することが難しいことが確認された。また、比較例1〜4の発泡板は、難燃性は確保されているものの、表面に凹凸が確認され、外観は好ましいものではなかった。