(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可撓性を有する長尺物からなるコア部と、前記コア部の先端側を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイル部とを備え、前記コア部と前記コイル部とが先端側で固定されたガイドワイヤであって、
前記コア部は、基端側に形成された本体部と、先端側に形成された平板部とを備え、
前記平板部の長さ方向に延びる両側面の少なくとも一方には、隣接する前記素線同士の間に入り込んで接触する突起部が少なくとも1つ形成されていることを特徴とするガイドワイヤ。
前記平板部の長さ方向に延びる両側面のそれぞれには、複数の前記突起部が形成され、前記突起部を含めた前記平板部の板幅は前記コイル部のコイル内径より大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガイドワイヤ。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、例えばPTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty:経皮的冠状動脈血管形成術)のような外科的手術が困難な部位の治療、人体への低侵襲を目的とした治療、または、心臓血管造影などの検査に用いられるカテーテルを血管内に誘導する際に使用される。PTCAは、冠状動脈の狭窄部位をバルーン等で拡張して、血液流路を確保する治療方法である。
【0003】
PTCAでは、ガイドワイヤの先端部をバルーンカテーテルの先端部より突出させた状態で、ガイドワイヤを血管の狭窄部位付近まで挿入することによって、バルーンカテーテルを狭窄部位に誘導する。その際、ガイドワイヤは、蛇行または分岐した血管、狭窄した血管等を選択し、通過する必要がある。したがって、PTCAに用いられるガイドワイヤには、血管形状に追従でき、血管壁を傷つけないために、優れた柔軟性(血管追従性)が要求される。また、手元部(基端部)の回転を先端部に効率的に伝え、ガイドワイヤ先端部の向きを変える必要があるため、優れたトルク伝達性が要求される。
【0004】
また、PTCAでは、ガイドワイヤを屈曲、分岐した血管へ追従させるために、ガイドワイヤを血管内に挿入する前に、先端形状付けが行われることがある。具体的には、ガイドワイヤの先端部を分岐血管等の形状に合わせて医師等が手指で所定の形状(例えば、J型)に曲げて形状付けを行う。したがって、ガイドワイヤには、前記のような先端形状付けも容易に行えることが要求される。
【0005】
従来、PTCAに用いられるガイドワイヤとして、特許文献1には、以下のような構成を備えたガイドワイヤが提案されている。特許文献1のガイドワイヤは、長尺物からなるコア部と、コア部の先端側を覆うように設置されたコイルとを備え、コア部の先端側には板高さ(板厚)の2倍以上の板幅で形成された平板部を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のガイドワイヤにおいては、板厚の薄い平板部をコア部の先端側に備えることによって、ガイドワイヤの先端部が柔軟となり、安全性および血管追従性の向上がある程度期待できる。
【0008】
しかしながら、このようなガイドワイヤでは、ガイドワイヤが蛇行または分岐した血管、狭窄した血管等を通過するために、ガイドワイヤの基端部を回転操作した際に、平板部にねじれが生じる。その結果、ガイドワイヤの基端部の回転トルクが先端部に有効に伝わらないため、ガイドワイヤの先端部が意図した方向に向かず、ガイドワイヤのトルク伝達性(トラッカビリティ性)が低下するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その課題は優れたトルク伝達性(トラッカビリティ性:基端部でガイドワイヤに与えた回転力が先端部まで伝達するという性質)を有するガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係るガイドワイヤは、可撓性を有する長尺物からなるコア部と、前記コア部の先端側を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイル部とを備え、前記コア部と前記コイル部とが先端側で固定されたガイドワイヤであって、前記コア部は、基端側に形成された本体部と、先端側に形成された平板部とを備え、前記平板部の長さ方向に延びる両側面の少なくとも一方には、隣接する前記素線同士の間に入り込んで接触する突起部が少なくとも1つ形成されていることを特徴とする。また、本発明に係るガイドワイヤは、前記突起部の縦断面の形状が略三角形状であることが好ましい。また、本発明に係るガイドワイヤは、前記平板部の長さ方向に延びる両側面のそれぞれには、複数の前記突起物が形成され、前記突起部を含めた前記平板部の板幅は前記コイル部のコイル内径より大きいことが好ましい。
【0011】
前記構成によれば、コア部の先端側に平板部を備えることによって、コア部の先端側での柔軟性が向上するため、ガイドワイヤの先端部での柔軟性が向上する。また、ガイドワイヤの先端部での柔軟性が向上するため、分岐血管等の形状に合わせてガイドワイヤの先端部を形状付けることが容易なものとなる。さらに、平板部の長さ方向の側面に突起部が形成されていることによって、ガイドワイヤの基端部を回転操作した際に、素線と接触する突起部に摩擦抵抗が働くため、平板部がねじれることが抑制される。その結果、ガイドワイヤの基端部の回転トルクを先端部に有効に伝えることが可能となり、ガイドワイヤの先端部を意図した方向に向けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガイドワイヤによれば、ガイドワイヤの先端側での柔軟性が向上すると共に、先端形状付けも容易となるため、ガイドワイヤの血管追従性が優れたものとなる。また、コア部の平板部のねじれが抑制されるため、ガイドワイヤの基端部の回転トルクを先端部に有効に伝えることが可能となり、ガイドワイヤのトルク伝達性が優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るガイドワイヤの第1実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明において、先端側とはガイドワイヤの血管挿入側を言い、基端側とは医師等がガイドワイヤの操作を行う側を言う。
【0015】
図1に示すように、ガイドワイヤ(以下、ワイヤと称す)1は、コア部2Aとコイル部6とを備え、コア部2Aとコイル部6とが先端側で固定された長尺物であって、コア部2Aは本体部3と平板部5とを備え、平板部5には突起部51が形成されている。ワイヤ1の全長は、特に規定されず、例えば、200〜5000mmが好ましい。また、コア部2Aとコイル部6との固定方法としては、半田(ろう材)、接着材等の固定材料(固定部)72で固定されることが好ましいが、溶接で固定部72を形成してもよい。以下、各構成について説明する。
【0016】
<コイル部>
図1に示すように、コイル部6は、コア部2Aの先端側を覆うように設置され、素線6aを螺旋状に形成してなるコイルである。そして、コイルは、隣接する素線6a同士が接触したいわゆる密巻きしたものや、隣接する素線6a同士が離間したもののいずれでもよい。また、コイル部6は、その先端側が固定材料(固定部)72等でコア部2A(平板部5)に固定されている。
【0017】
素線6aを構成する材料は、特に規定されないが、ステンレス鋼、Pt−Ni合金等の金属材料であることが好ましい。また、コイル部6のサイズは、特に規定されず、ワイヤ1の使用目的によって異なる。PTCAに使用されるワイヤ1では、素線6aの外径が0.01〜0.1mmが好ましく、コイル部6のコイル外径が0.2〜0.5mm、コイル長さが10〜1000mmであることが好ましい。コイル外径は、ワイヤ1の長さ方向に同一径であることが好ましいが、ワイヤ1の先端側に向かって減少していてもよい。
【0018】
コイル部6は、2種以上の金属材料を組み合わせたものであってもよい。例えば、コイル部6は、基端側にステンレス鋼製の素線からなる第1コイル部61と、先端側にX線不透過材料であるPt−Ni合金製の素線からなる第2コイル部62とを備え、第1コイル部61と第2コイル部62との境界部63で両コイル部61、62を溶接、接着等で接合したものであってもよい。これにより、ワイヤ1の先端側がX線透視下で視認しやすくなる。
【0019】
<コア部>
図1、
図2に示すように、コア部2Aは、可撓性を有する長尺物からなる。そして、コア部2Aは、ワイヤ1の柔軟性および強度を考慮して、Ni−Ti合金、ステンレス鋼等の弾性金属材料からなることが好ましい。そして、コア部2Aは、基端側から先端側に向かって順に、本体部3と、移行部4と、平板部5とを備え、平板部5には少なくとも1つの突起部51が形成されている。なお、コア部2Aは、移行部4を備えていなくてもよい。
【0020】
(本体部)
図1、
図2に示すように、本体部3は、棒状(非平板形状)の長尺物から構成される。本体部3の横断面(YZ軸平面であって、長さ方向に垂直な断面)の形状は、略円形状(
図4参照)であることが好ましい。また、本体部3は、基端側から先端側に向かって、一定の外径を有する大径部31と、先端側に向かって外径が漸減する第1テーパ部32と、一定の外径を有する中径部33と、先端側に向かって外径が漸減する第2テーパ部34と、一定の外径を有する小径部35とを備えることが好ましい。
【0021】
一定の外径を有する部分の間(大径部31と中径部33との間、および、中径部33と小径部35との間)に形成されるテーパ部として、前記では第1テーパ部32と第2テーパ部34の2つを記載したが、テーパ部は、2つに限定されず、少なくとも1つ形成すればよい。また、大径部31と外径が同一で構成材料が異なる大径部36を、接合部(溶接部)37で大径部31に接合してもよい。接合方法としては、特に規定されないが、摩擦圧接、レーザを用いたスポット溶接、アプセット溶接等の突き合わせ抵抗溶接、管状接合部材による接合等が挙げられる。
【0022】
(移行部)
図1、
図2に示すように、移行部4は、本体部3と平板部5とを繋ぎ、基端側から先端側に向かって、円形等の横断面(
図4参照)から矩形の横断面(
図5参照)に次第に変化する部分である。そして、移行部4の長さは1〜10mmが好ましい。移行部4は、横断面が円形等の本体部3の先端側、好ましくは細径化された先端側を金型等によってプレスすることによって、平板部5と共に作製することが好ましい。
【0023】
(平板部)
図1、
図2に示すように、平板部5は、ワイヤ1(コア部2A)に柔軟性を持たせると共に、ワイヤ先端部の先端形状付けが容易となるように、矩形状の横断面(
図5参照)を有する細長い板状の平板から構成されている。平板部5は、板長さが1〜30mm、板幅が0.1〜0.5mm、板厚が0.01〜0.06mmであることが好ましい。また、平板部5の板幅は先端側に向かって増大または減少してもよく、板厚も先端側に向かって増大または減少してもよい。また、平板部5は、その先端側は固定材料(固定部)72等でコイル部6に固定されている。
【0024】
平板部5の長さ方向に延びる両側面の少なくとも一方には、少なくとも1つの突起部51が形成されている。ここで、平板部5の側面とは、ワイヤ1の使用の際に、平板部5が湾曲する方向に沿う面である。具体的には、平板部5の板幅方向の一端側の側面5a、および、他端側の側面5bの少なくとも一方の側面に形成され、好ましくは両方の側面に形成されている。また、突起部51は、
図2に示すように側面5a、5bの長さ方向に複数形成されているだけでなく、
図6に示すように側面5a、5bの高さ方向に複数形成されていてもよい。さらに、
図2に示すように、突起部51を平板部5の長さ方向に複数形成する際には、平板部5の全長にわたって形成するのが好ましいが、基端側または先端側に偏って形成(図示せず)してもよい。なお、突起部51は、平板部5にプレス加工、レーザ加工等の機械加工を施すことによって作製することが好ましい。
【0025】
図2に示すように、突起部51は、コイル部6を構成する螺旋状に形成された素線6a、具体的には、隣接する素線6a同士の間に入り込んで接触する配置で、平板部5の側面5a、5bに形成されている。また、突起部51は、隣接する素線6a同士が離間したコイル部6に入り込んで接触する形態が好ましい。しかしながら、隣接する素線6a同士が接触したいわゆる密巻きのコイル部6に突起部51が入り込み、隣接する素線6a同士を離間させた状態で接触する形態でもよい。
【0026】
突起部51の縦断面(XZ軸平面であって、長さ方向の断面)の形状は、素線6aとの関係で摩擦抵抗が働く形状であれば特に規定されないが、
図2に示すように略三角形状が好ましく、略半円形状、略矩形形状等の他の形状(図示せず)であってもよい。また、突起部51の横断面(YZ軸平面であって、長さ方向に垂直な断面)の形状は、素線6aとの関係で摩擦抵抗が働く形状であれば特に規定されないが、
図5に示すように略矩形形状が好ましく、略三角形状(
図6参照)、略半円形状等の他の形状(図示せず)であってもよい。
【0027】
図2、
図3に示すように、突起部51の大きさは、素線6aとの関係で摩擦抵抗が働く大きさに設定する。そして、複数の突起部51を形成する際には、
図2に示すように隣接する素線6a同士の間に1つの突起部51が入り込んで接触するだけでなく、図示しないが、隣接する素線6a同士の間に複数の突起部51が入り込んで接触してもよい。また、平板部5の長さ方向に延びる両側面のそれぞれに複数の突起部51が形成される場合には、突起部51を含めた平板部5の板幅はコイル部6のコイル内径より大きくなる。このときの平板部5の板幅や突起部51の高さHはコイル内径によって適宜、設定可能である。また、
図2に示すように隣接する素線6a同士の間に素線6aの1巻毎に突起部51が入り込んで接触するだけでなく、図示しないが、素線6aの複数巻毎に突起部51が入り込んで接触してもよい。したがって、突起部51の大きさは、幅Wが0.001〜15mm、高さHが0.005〜0.15mm、間隔Tが0.01〜0.1mmであることが好ましい。また、間隔Tが0mmである複数の突起部51が連続して形成されたものであってもよい。なお、突起部51の素線6aへの入り込み量hは、高さHに対して0.1H〜0.9Hであることが好ましい。
【0028】
本発明のワイヤ1においては、前記のように平板部5の長さ方向の側面5a、5bに突起部51が形成されていることによって、ワイヤ1が蛇行または分岐した血管を通過するため、または、狭窄部位を通過させるために、ワイヤ1の基端部を回転操作した際に、素線6aと接触する突起部51に摩擦抵抗が働くため、平板部5がねじれることが抑制される。その結果、ワイヤ1の基端部の回転トルクを先端部に有効に伝えることが可能となり、ワイヤ1の先端部を意図した方向に向けることができる。それによって、ワイヤ1のトルク伝達性が向上する。
【0029】
次に、本発明のワイヤ1の第1実施形態の変形例について説明する。
図1に示すように、ワイヤ1は、コア部2Aとコイル部6とが先端側の1箇所で固定されていれば十分であるが、コア部2Aとコイル部6とが複数個所で固定されていることが好ましい。
【0030】
例えば、
図1に示すように、ワイヤ1は、コア部2A(平板部5)の先端側とコイル部6(第2コイル部62)の先端側とが固定材料(固定部)72で固定され、コア部2Aの途中の部位(移行部4の基端側、小径部35、および、第2テーパ部34の先端側)とコイル部6の途中の部位(境界部63)とが固定材料(固定部)73で固定され、コア部2Aの途中の部位(中径部33の基端側、および、第1テーパ部32の先端側)とコイル部6(第1コイル部61)の基端側とが固定材料(固定部)71で固定されている。
【0031】
ここで、固定材料(固定部)71、72、73は、半田(ろう材)、接着剤等である。なお、コア部2Aとコイル部6との固定方法は、前記のような固定材料(固定部)71、72、73によるものに限らず、溶接で固定部71、72、73を形成してもよい。
【0032】
図1に示すように、ワイヤ1は、コイル部6の少なくとも先端側の表面を覆うように形成された樹脂被覆部8を備えることが好ましい。
【0033】
具体的には、樹脂被覆部8は、前記したワイヤの表面の一部または全部、すなわち、第2コイル部62の全表面、コイル部6(第1コイル部61、境界部63および第2コイル部62)の全表面、または、コイル部6とコア部2Aの基端側部位の全表面を覆うことが好ましい。
【0034】
樹脂被覆部8は、フッ素系樹脂、無水マレイン酸系高分子物質、ポリウレタン等の樹脂材料からなることが好ましい。また、樹脂被覆部8の厚みは0.001〜0.05mmが好ましい。このような樹脂被覆部8で覆われていることによって、ワイヤ1は、摩擦抵抗(摺動抵抗)が低減するため、血管内での操作性が向上する。
【0035】
次に、本発明のガイドワイヤの使用方法について、PTCAを例にとって説明する。
ガイドワイヤの先端をガイディングカテーテルの先端から突出させ、その状態でセルジンガー法により大腿動脈内に挿入し、大動脈、大動脈弓、右冠状動脈開口部を経て右冠状動脈内に挿入する。ガイディングカテーテルを右冠状動脈開口部の位置に残したまま、ガイドワイヤのみを右冠状動脈内でさらに進めて血管狭窄部を通過させ、ガイドワイヤの先端が血管狭窄部を越えた位置で停止する。これにより、狭窄部拡張用のバルーンカテーテルの通路が確保される。
【0036】
次に、ガイドワイヤの基端側から挿通されたバルーンカテーテルの先端をガイディングカテーテルの先端から突出させ、さらにガイドワイヤに沿って進め、右冠状動脈開口部から右冠状動脈内に挿入し、バルーンカテーテルのバルーンが血管狭窄部の位置に到達したところで停止する。
【0037】
次に、バルーンカテーテルの基端側からバルーン拡張用の流体を注入して、バルーンを拡張させ、血管狭窄部を拡張する。このようにすることによって、血管狭窄部に付着堆積しているコレステロール等の堆積物は物理的に押し広げられ、血流阻害が解消される。
【0038】
バルーン内からバルーン拡張用の流体を抜き取り、バルーンを収縮させる。次いで、バルーンカテーテルをガイドワイヤと共に基端方向へ移動して、血管よりバルーンカテーテル、ガイドワイヤおよびガイディングカテーテルを抜き取る。以上により、PTCAの手技が終了する。