(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態の説明に先立ち、従来の構成における課題について説明する。従来のアンテナ共用器101における送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ102において、直列共振器108、109、110、111の反共振周波数をラダー型弾性波フィルタ102の通過帯域の高域側近傍に設定すると共に、並列共振器112、113、114の共振周波数をラダー型弾性波フィルタ102の通過帯域の低域側近傍に設定することで、ラダー型弾性波フィルタ102の通過帯域の高域側近傍と低域側近傍の両方に減衰極が形成される。しかし、この従来のアンテナ共用器101における送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ102の通過帯域高域側における通過特性の急峻性の確保が困難である。
【0012】
(実施の形態1)
以下、本開示の実施の形態1における弾性波素子について図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態1におけるラダー型弾性波フィルタを搭載したアンテナ共用器1の回路ブロック図である。
【0013】
図1において、本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタを搭載したアンテナ共用器1は、例えばUMTSシステムのバンド8用のアンテナ共用器で、送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2とこのラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域(880MHzから915MHz)の高域側に通過帯域(925MHzから960MHz)を有する受信フィルタ3とを備える。また、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2と受信フィルタ3との間に接続された移相器7を備え、この移相器7によって、送受信フィルタ間で他方の通過帯域を高インピーダンスとし互いのアイソレーション向上を図っている。
【0014】
受信フィルタ3は、アンテナ端子5と出力端子(バランス端子)6との間に接続された例えば共振器19と縦モード結合型フィルタ18とを備え、受信信号をアンテナ端子5から受けて出力端子6から出力する。
【0015】
送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2は、入力端子4とアンテナ端子5(ラダー型弾性波フィルタ2の出力端子)との間に接続され、送信信号を入力端子4から受けてアンテナ端子5から出力する。このラダー型弾性波フィルタ2は、複数の直列腕の夫々に接続された直列共振器8、9、10、11と、複数の並列腕の夫々に接続された第1並列共振器12、13、14とが梯子状に接続され構成されている。これら第1並列共振器12、13、14の共振周波数は、直列共振器8、9、10、11の共振周波数、或いは反共振周波数よりも低い。
【0016】
さらに、第1並列共振器12、13、14のグランド端子17側は接続部16にて接続され、ラダー型弾性波フィルタ2はこの接続部16とグランド端子17との間に接続されたインダクタ15を備える。
【0017】
このようなアンテナ共用器1における送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2において、直列共振器8、9、10、11の反共振周波数をラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍に設定すると共に、第1並列共振器12、13、14の共振周波数をラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の低域側近傍に設定することで、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍と低域側近傍の両方に減衰極が形成される。
【0018】
さらに、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2において、第1並列共振器12と同一の並列腕にて第1並列共振器12に並列に接続され、直列共振器8、9、10、11の共振周波数より高く直列共振器8、9、10、11の反共振周波数より低い共振周波数を有する第2並列共振器20を備える。この第2並列共振器20は、第2並列共振器20の共振周波数前後の入力信号を減衰させる帯域減衰フィルタ(ノッチフィルタ)として動作する。なお、この第2並列共振器20は、第1並列共振器が接続されているいずれの並列腕にも接続されずに、第2並列共振器20単独で直列共振器とグランド端子との間の並列腕に接続されていても良い。
【0019】
上記構成により、ラダー型弾性波フィルタ2は、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、直列共振器によって形成される減衰極より低域に第2並列共振器による減衰極が形成される。これにより、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側における通過特性の急峻性を確保することができる。
【0020】
本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタ2の各構成を
図1、
図2を用いて詳述する。
図2は、本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタ2の断面模式図である。
【0021】
ラダー型弾性波フィルタ2において、直列共振器8、9、10、11、第1並列共振器12、13、14、第2並列共振器20は、圧電基板30の上に形成されている。また、インダクタ15は、圧電基板30の上に直接的或は誘電体層を介して間接的に形成されていても良いし、この圧電基板30を搭載する積層セラミック基板(図示せず)に形成されていても良い。
【0022】
圧電基板30は、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)系、又はタンタル酸リチウム(LiTaO
3)系、ニオブ酸カリウム(KNbO
3)系の圧電単結晶基板であり、誘電体層31が圧電基板30上に共振器8〜14、20を覆うように形成される場合は、この誘電体層31は、例えば酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、若しくはこれらの積層構造である。この誘電体層31は、各共振器8〜14、20に対して同一の膜厚で形成されていても、本開示の効果であるラダー型弾性波フィルタ2の急峻性の効果を得ることができる。なお、誘電体層31が酸化ケイ素(SiO
2)等の圧電基板30の周波数温度係数と逆の周波数温度係数を有する場合に、第2並列共振器20の櫛形電極上における誘電体層31の膜厚Haが、第1並列共振器12、13、14の櫛形電極上における誘電体層31の膜厚Hbより厚いことが望ましい。また、
図3に示す様に、第2並列共振器20の櫛形電極上に誘電体層31が設けられると共に、第1並列共振器12、13、14の櫛形電極上には誘電体層31が設けられていなくとも良い。これら構成により、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側のフィルタ特性を形成する共振器12、13、14、20のうち、このフィルタ特性に最も影響を及ぼす第2並列共振器20の周波数温度特性を向上することができる。即ち、アンテナ共用器1においては、送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域と受信フィルタ3の通過帯域との間のクロスバンドにおけるアンテナ共用器1の通過特性を確保することができるのである。
【0023】
直列共振器8、9、10、11、第1並列共振器12、13、14、及び第2並列共振器20は、圧電基板上に形成されたそれぞれ一対の櫛形電極(インターディジタルトランスデューサ電極)と主要弾性波の伝搬方向においてこれを挟む2つの反射器から構成される。これら共振器を構成する櫛形電極は、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金、又はクロムからなる単体金属、若しくはこれらを主成
分とする合金、またはこれらの積層構造である。尚、この櫛形電極は、主要波として、例えばSH(Shear Horizontal)波やレイリー等の弾性表面波を励振する電極であっても良いし、ラム波等のバルク波を励振させる電極であっても良い。
【0024】
これら、直列共振器8、9、10、11、及び第2並列共振器20のそれぞれの共振周波数[GHz]、反共振周波数[GHz]を(表1)に示す。
【0026】
なお、従来の
図13のラダー型弾性波フィルタ102における直列共振器108、109、110、111のそれぞれの共振周波数[GHz]、反共振周波数[GHz]を(表2)に示す。
【0028】
これら本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタ2と従来のラダー型弾性波フィルタ102の特性比較を
図4に示す。
図4の実線で示す特性が本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタ2の特性、破線で示す特性が従来のラダー型弾性波フィルタ102の特性である。
図4の横軸は周波数[MHz]、縦軸は利得[dB]を示す。尚、下向きの三角は、それぞれフィルタ通過帯域の周波数の上限と下限を示す。
【0029】
図4に示すように、ラダー型弾性波フィルタ2は、従来のラダー型弾性波フィルタ102と比較して、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側における通過特性の急峻性が向上していることがわかる。
【0030】
なお、最も反共振周波数の低い直列共振器108は、他の直列共振器109、110、111と比較して消費電力が大きくなり、発熱しやすい。そこで、本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタ2における直列共振器8、9、10、11のうち、最も反共振周波数の低い直列共振器8の反共振周波数よりも第2並列共振器20の共振周波数を低く設定することで、直列共振器8の反共振周波数を従来の直列共振器108の反共振周波数から高周波側にシフトさせ、直列共振器8の発熱を抑制することができる。この場合、第2並列共振器20において、その共振周波数より低域側での主要弾性波の励振は抑制されているので、発熱は抑制される。その結果、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を向上することができる。
【0031】
また、第2並列共振器20の静電容量は、第1並列共振器12、13、及び14の静電容量より小さいことが望ましい。この理由を以下に説明する。第2並列共振器20によって形成される減衰極より低域側において、帯域減衰フィルタである第2並列共振器20は容量性を示す。これにより、第2並列共振器20の静電容量が第1並列共振器12、13、及び14の静電容量より大きい場合、第2並列共振器20によって形成される減衰極より低域側において、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域高域側における急峻性が劣化するという問題が生じる。そこで、第2並列共振器20の静電容量を第1並列共振器12、13、及び14の静電容量より小さくすることにより、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域高域側における急峻性を向上することができるのである。
【0032】
さらに、図示はしていないが、第2並列共振器20は、複数の第1並列共振器のうち入力端子4に最も近い第1並列共振器12以外の第1並列共振器13と同一の並列腕にてこれに並列に接続されていることが望ましい。第2並列共振器20の電極指ピッチは直列共振器8、9、10、11、及び第1並列共振器12、13、14の電極指ピッチと比較して小さく、第2並列共振器20の耐電力性は相対的に低い。そこで、最も耐電力性の要する入力端子4側の並列腕に第2並列共振器20を接続するのではなく、この並列腕以外の並列腕に第2並列共振器20を接続することにより、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を向上することができる。
【0033】
さらにまた、
図5に示す様に、第2並列共振器20は、複数の共振器21、22が縦続接続された構成であることが望ましい。第2並列共振器20の電極指ピッチは第1並列共振器12、13、14の電極指ピッチと比較して小さく、第2並列共振器20の耐電力性は相対的に低い。そこで、第2並列共振器20を複数の共振器21、22の縦続接続構成とすることで、第2並列共振器20の耐電力性が向上し、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を高めることができる。特に、この共振器21、22の縦続接続構成は、第2並列共振器20の静電容量がこの第2並列共振器20と同一の並列腕に接続された第1並列共振器12の静電容量以下である場合に、第2並列共振器20の耐電力性を高めることができるので特に好ましい。
【0034】
なお、これら共振器21、22の各々の静電容量は
図1の第2並列共振器20の静電容量の2倍である。この手段としては、例えば、共振器21、22の各々の電極指交差幅を
図1の第2並列共振器20の2倍としても良いし、電極指数を
図1の第2並列共振器20の2倍としても良い。このように、第2並列共振器20を縦続された複数の共振器で構成する場合は、各共振器の静電容量を同等とすることで、印加電圧が各共振器で均等に分圧される。その結果、更に第2並列共振器20の耐電力性が向上し、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を更に向上することができる。
【0035】
さらに、第2並列共振器20の静電容量が第1並列共振器12の静電容量以下である場合に、第2並列共振器20を構成する共振器21、22の総占有面積を第1並列共振器12の占有面積より大きくすることで、第2並列共振器20の耐電力性が向上する。
【0036】
さらにまた、
図5に示す第2並列共振器20は、
図6に示す様に、弾性波の伝播方向に分割され、これら分割された各々の領域23、24が互いに逆位相に配置された電極指を有する櫛形電極とこれを挟む反射器25、26とを備えた共振器としても良い。各々分割された領域23、24により、
図5に示す共振器21、22が夫々構成される。なお、端子27は直列共振器8、9に接続され、端子28は接続部16に接続される。この構成とすることで第2並列共振器20の耐電力性を確保したまま、この占有面積を小さくすることができると共に、第2並列共振器20が形成する減衰極が増え、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域高域側における減衰特性がさらに向上する。
【0037】
なお、
図5、
図6に示す第2並列共振器20は2分割であるが、3つ以上に分割し、さらに第2並列共振器20の耐電力性を向上させても良い。
【0038】
また、本実施の形態1においては、第2並列共振器20は、直列共振器8、9、10、11の共振周波数より高く反共振周波数より低い共振周波数を有する構成として説明したが、急峻性よりも減衰特性が重視される場合には、第2並列共振器20は、直列共振器8、9、10、11のうち少なくとも1つの共振器の共振周波数より高く反共振周波数より低い構成であっても良い。
【0039】
また、第1フィルタとこの第1フィルタの通過帯域より高い通過帯域を有する第2フィルタとを備えたデュプレクサ等のアンテナ共用器1において、ラダー型弾性波フィルタ2を相対的に通過帯域の低い第1フィルタとして用いると、第1フィルタの通過帯域と第2フィルタの通過帯域との間のクロスバンドにおける第1フィルタの通過特性の急峻性を確保することができる。即ち、上述のラダー型弾性波フィルタ2の場合は、送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域と受信フィルタ3の通過帯域との間のクロスバンドにおけるラダー型弾性波フィルタ2の通過特性の急峻性を確保することができる。ここで、第2フィルタ(受信フィルタ3)の通過帯域内に第1フィルタ(送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2)の第2並列共振器20の共振周波数を設定する事で、更に減衰特性を向上することができる。
【0040】
また、本実施の形態1のラダー型弾性波フィルタ2を、このフィルタに接続された半導体集積回路素子(図示せず)と、この半導体集積回路素子(図示せず)に接続されたスピーカ等の再生装置(図示せず)とを備えた電子機器に搭載しても良い。これにより、電子機器における通信品質を向上することができるのである。
【0041】
(実施の形態2)
以下、本開示の実施の形態2における弾性波素子について図面を参照しながら説明する。
図7は、実施の形態2におけるラダー型弾性波フィルタを搭載したアンテナ共用器1の回路ブロック図である。
【0042】
図7において、本実施の形態2のラダー型弾性波フィルタを搭載したアンテナ共用器1は、例えばUMTSシステムのバンド8用のアンテナ共用器で、送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2とこのラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域(880MHzから915MHz)の高域側に通過帯域(925MHzから960MHz)を有する受信フィルタ3とを備える。
【0043】
また、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2と受信フィルタ3との間に接続された移相器7を備え、この移相器7によって、送受信フィルタ間で他方の通過帯域を高インピーダンスとし互いのアイソレーション向上を図っている。
【0044】
受信フィルタ3は、アンテナ端子5と出力端子(バランス端子)6との間に接続された例えば共振器19と縦モード結合型フィルタ18とを備え、受信信号をアンテナ端子5から受けて出力端子6から出力する。
【0045】
送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2は、入力端子4とアンテナ端子5(ラダー型弾性波フィルタ2の出力端子)との間に接続され、送信信号を入力端子4から受けてアンテナ端子5から出力する。このラダー型弾性波フィルタ2は、複数の直列腕の夫々に接続された直列共振器8、9、10、11と、複数の並列腕の夫々に接続された第1並列共振器12、13、14とが梯子状に接続され構成されている。これら第1並列共振器12、13、14の共振周波数は、直列共振器8、9、10、11の共振周波数、或は反共振周波数よりも低い。
【0046】
さらに、第1並列共振器12、13、14のグランド端子17側は接続部16にて接続され、ラダー型弾性波フィルタ2はこの接続部16とグランド端子17との間に接続されたインダクタ15を備える。
【0047】
このようなアンテナ共用器1における送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2において、直列共振器8、9、10、11の反共振周波数をラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍に設定すると共に、第1並列共振器12、13、14の共振周波数をラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の低域側近傍に設定することで、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍と低域側近傍の両方に減衰極が形成される。
【0048】
さらに、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2において、第1並列共振器13と同一の並列腕にて第1並列共振器13に並列に接続されると共に、直列共振器8、9、10、11の反共振周波数より高い共振周波数を有する第3並列共振器40を備える。この第3並列共振器40は、第3並列共振器40の共振周波数前後の入力信号を減衰させる帯域減衰フィルタ(ノッチフィルタ)として動作する。なお、この第3並列共振器40は、第1並列共振器が接続されているいずれの並列腕にも接続されずに、第3並列共振器40単独で直列共振器とグランド端子との間の並列腕に接続されていても良い。
【0049】
上記構成により、ラダー型弾性波フィルタ2は、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数(第3並列共振器40の共振周波数)で減衰極が形成される。これにより、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数帯での減衰特性を確保することができる。
【0050】
本実施の形態2のラダー型弾性波フィルタ2の各構成を以下に詳述する。ラダー型弾性波フィルタ2において、直列共振器8、9、10、11、第1並列共振器12、13、14、第3並列共振器40は、圧電基板(図示せず)の上に形成されている。また、インダクタ15は、この圧電基板を搭載する積層セラミック基板(図示せず)に形成されていても良いし、圧電基板の上に直接的或は誘電体層を介して間接的に形成されていても良い。
【0051】
この圧電基板は、例えばニオブ酸リチウム(LiNbO
3)系、又はタンタル酸リチウム(LiTaO
3)系の圧電単結晶基板であり、誘電体層が圧電基板上に形成される場合は、この誘電体層は、例えば酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、若しくはこれらの積層構造である。
【0052】
直列共振器8、9、10、11、第1並列共振器12、13、14、及び第3並列共振器40は、それぞれ一対の櫛形電極とこれを挟む2つの反射器から構成される。これら共振器を構成する櫛形電極は、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金、又はクロムからなる単体金属、若しくはこれらを主成分とする合金、またはこれらの積層構造である。尚、この櫛形電極は、主要波として、例えばSH(Shear Horizontal)波やレイリー等の弾性表面波を励振する電極であっても良いし、ラム波等のバルク波を励振させる電極であっても良い。
【0053】
直列共振器8、9、10、11、第1並列共振器12、13、14、及び第3並列共振器40のそれぞれの電極指数[本]、電極指交差幅[μm]、容量[pF]を(表3)に示す。
【0055】
なお、従来の
図13のラダー型弾性波フィルタ102における直列共振器108、109、110、111、並列共振器112、113、114のそれぞれの電極指数[本]、電極指交差幅[μm]、容量[pF]を(表4)に示す。
【0057】
本実施の形態2のラダー型弾性波フィルタ2と従来のラダー型弾性波フィルタ102の特性比較を
図8に示す。
図8の実線で示す特性が本実施の形態2のラダー型弾性波フィルタ2の特性、破線で示す特性が従来のラダー型弾性波フィルタ102の特性である。
図8の横軸は周波数[MHz]、縦軸は利得[dB]を示す。
【0058】
図8に示すように、ラダー型弾性波フィルタ2は、従来のラダー型弾性波フィルタ102と比較して、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数帯での減衰量が向上していることがわかる。
【0059】
さらに、このようなラダー型弾性波フィルタ2において、第1並列共振器13の容量C1と第3並列共振器40の容量C2の和を3.6[pF]と一定にしながら、第1並列共振器13の容量C1と第3並列共振器40の容量C2を(表5)のA〜Kに示す様に変化させた場合の、ラダー型弾性波フィルタ2と従来のラダー型弾性波フィルタ102の特性比較を
図9A〜
図9Kに示す。
【0061】
図9Aは、第1並列共振器13の容量C1と第3並列共振器40の容量C2の和に対する第3並列共振器40の容量C2の比の値がゼロ、即ち、C2/(C1+C2)=0、
図9BはC2/(C1+C2)=0.1、
図9CはC2/(C1+C2)=0.2、
図9DはC2/(C1+C2)=0.3、
図9EはC2/(C1+C2)=0.4、
図9FはC2/(C1+C2)=0.5、
図9GはC2/(C1+C2)=0.6、
図9HはC2/(C1+C2)=0.7、
図9IはC2/(C1+C2)=0.8、
図9JはC2/(C1+C2)=0.9、
図9KはC2/(C1+C2)=1の場合を示す。
【0062】
図9A〜Kに示す様に、第1並列共振器13の容量C1と第3並列共振器40の容量C2の関係が、0.1≦C2/(C1+C2)≦0.7を満たす場合に、ラダー型弾性波フィルタ2は、この通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数帯での減衰量を確保すると共にこの通過帯域でのロス劣化を抑制することができる。C2/(C1+C2)≦0.7の場合にラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域でのロス劣化を抑制することができるのは、その場合に第1並列共振器13と第3並列共振器40を合成した等価回路から算出される電気機械結合係数K2の低下を小さく抑えることができるからである。
【0063】
特に、
図9A〜Kに示す様に、第1並列共振器13の容量C1と第3並列共振器40の容量C2の関係が、0.1≦C2/(C1+C2)≦0.5を満たす場合に、ラダー型弾性波フィルタ2は、この通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数帯での減衰量を確保すると共にこの通過帯域でのロス劣化を更に抑制することができる。
【0064】
また、
図7に示す様に、第3並列共振器40は、第1並列共振器12、13、14のうち最も容量の小さい第1並列共振器13と同じ並列腕にて第1並列共振器13に並列に接続されていることが望ましい。上述したように、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側における通過帯域から離れた周波数帯での減衰量確保と通過帯域でのロス劣化抑制の両立が可能か否かは、第1並列共振器13の容量C1と第3並列共振器40の容量C2の比に依存する。即ち、この両立を実現するためには、第3並列共振器40を最も容量の小さい第1並列共振器13と同じ並列腕にて第1並列共振器13に並列に接続することにより、第3並列共振器40の容量を小さくすることができる。その結果、第3並列共振器40のラダー型弾性波フィルタ2における占有面積が小さくなり、ラダー型弾性波フィルタ2を小型化することができる。
【0065】
さらに、
図7に示す様に、第3並列共振器40は、複数の第1並列共振器のうち入力端子4に最も近い第1並列共振器12以外の第1並列共振器13と同一の並列腕にてこれに並列に接続されていることが望ましい。第3並列共振器40の電極指ピッチは直列共振器8、9、10、11、及び第1並列共振器12、13、14の電極指ピッチと比較して小さく、第3並列共振器40の耐電力性は相対的に低い。そこで、最も耐電力性の要する入力端子4側の並列腕に第3並列共振器40を接続するのではなく、この並列腕以外の並列腕に第3並列共振器40を接続することにより、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を向上することができる。
【0066】
さらにまた、
図10に示す様に、第3並列共振器40は、複数の共振器41、42が縦続接続された構成であることが望ましい。第3並列共振器40の電極指ピッチは直列共振器8、9、10、11、及び第1並列共振器12、13、14の電極指ピッチと比較して小さく、第3並列共振器40の耐電力性は相対的に低い。そこで、第3並列共振器40を複数の共振器41、42の縦続接続構成とすることで、第3並列共振器40の耐電力性が向上し、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を高めることができる。特に、この共振器41、42の縦続接続構成は、第3並列共振器40の容量がこの第3並列共振器40と同一の並列腕に接続された第1並列共振器13の容量以下である場合に、第3並列共振器40の耐電力性を高めることができるので特に好ましい。
【0067】
なお、これら共振器41、42の各々の容量は
図7の第3並列共振器40の容量の2倍である。この手段としては、例えば、共振器41、42の各々の電極指交差幅を
図7の第3並列共振器40の2倍としても良いし、電極指数を
図7の第3並列共振器40の2倍としても良い。このように、第3並列共振器40を縦続された複数の共振器で構成する場合は、各共振器の容量を同等とすることで、更に第3並列共振器40の耐電力性が向上し、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を更に向上することができる。さらに、第3並列共振器40の容量が第1並列共振器13の容量以下である場合に、第3並列共振器40を構成する共振器41、42の総占有面積を第1並列共振器13の占有面積より大きくすることで、第3並列共振器40の耐電力性が向上する。
【0068】
さらにまた、
図10に示す第3並列共振器40は、
図11に示す様に、弾性波の伝播方向に分割され、これら分割された各々の領域43、44が互いに逆位相に配置された電極指を有する櫛形電極とこれを挟む反射器45、46とを備えた共振器としても良い。各々分割された領域43、44により、
図10に示す共振器41、42が夫々構成される。なお、端子47は直列共振器9、10に接続され、端子48は接続部16に接続される。この構成により、第3並列共振器40の面積を小さくすることができると共に、第3並列共振器40が形成する減衰極が増え、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域高域側における減衰特性がさらに向上する。なお、
図10、
図11に示す第3並列共振器40は2分割であるが、3つ以上に分割し、さらに第3並列共振器40の耐電力性を向上させても良い。
【0069】
また、第1フィルタとこの第1フィルタの通過帯域より高い通過帯域を有する第2フィルタとを備えたデュプレクサ等のアンテナ共用器1において、ラダー型弾性波フィルタ2を相対的に通過帯域の低い第1フィルタとして用いると、第1フィルタにおける第2フィルタの通過帯域の減衰量を確保することができる。即ち、上述のラダー型弾性波フィルタ2の場合は、送信フィルタにおける受信フィルタ3の通過帯域の減衰量を確保することができる。但し、ラダー型弾性波フィルタ2を相対的に通過帯域の高い第2フィルタとして用いても良い。
【0070】
また、本実施の形態2のラダー型弾性波フィルタ2を、このフィルタに接続された半導体集積回路素子(図示せず)と、この半導体集積回路素子(図示せず)に接続されたスピーカ等の再生装置(図示せず)とを備えた電子機器に搭載しても良い。これにより、電子機器における通信品質を向上することができるのである。
【0071】
(実施の形態3)
以下、本開示の実施の形態3における弾性波素子について図面を参照しながら説明する。
図12は、実施の形態3におけるラダー型弾性波フィルタを搭載したアンテナ共用器1の回路ブロック図である。なお、特に説明しない限りにおいて、実施の形態3の弾性波素子の構成は、実施の形態1並びに実施の形態2の弾性波素子の構成と同様である。
【0072】
図12において、本実施の形態3のラダー型弾性波フィルタを搭載したアンテナ共用器1は、例えばUMTSシステムのバンド8用のアンテナ共用器で、送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2とこのラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域(880MHzから915MHz)の高域側に通過帯域(925MHzから960MHz)を有する受信フィルタ3とを備える。
【0073】
また、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2と受信フィルタ3との間に接続された移相器7を備え、この移相器7によって、送受信フィルタ間で他方の通過帯域を高インピーダンスとし互いのアイソレーション向上を図っている。
【0074】
受信フィルタ3は、アンテナ端子5と出力端子(バランス端子)6との間に接続された例えば共振器19と縦モード結合型フィルタ18とを備え、受信信号をアンテナ端子5から受けて出力端子6から出力する。
【0075】
送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2は、入力端子4とアンテナ端子5(ラダー型弾性波フィルタ2の出力端子)との間に接続され、送信信号を入力端子4から受けてアンテナ端子5から出力する。このラダー型弾性波フィルタ2は、複数の直列腕の夫々に接続された直列共振器8、9、10、11と、複数の並列腕の夫々に接続された第1並列共振器12、13、14とが梯子状に接続され構成されている。これら第1並列共振器12、13、14の共振周波数は、直列共振器8、9、10、11の共振周波数、或は反共振周波数よりも低い。
【0076】
さらに、第1並列共振器12、13、14のグランド端子17側は接続部16にて接続され、ラダー型弾性波フィルタ2はこの接続部16とグランド端子17との間に接続されたインダクタ15を備える。
【0077】
このようなアンテナ共用器1における送信フィルタであるラダー型弾性波フィルタ2において、直列共振器8、9、10、11の反共振周波数をラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍に設定すると共に、第1並列共振器12、13、14の共振周波数をラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の低域側近傍に設定することで、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍と低域側近傍の両方に減衰極が形成される。
【0078】
さらに、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2において、第1並列共振器12と同一の並列腕にて第1並列共振器12に並列に接続され、直列共振器8、9、10、11の共振周波数より高く直列共振器8、9、10、11の反共振周波数より低い共振周波数を有する第2並列共振器20を備える。この第2並列共振器20は、第2並列共振器20の共振周波数前後の入力信号を減衰させる帯域減衰フィルタ(ノッチフィルタ)として動作する。なお、この第2並列共振器20は、第1並列共振器が接続されているいずれの並列腕にも接続されずに、第2並列共振器20単独で直列共振器とグランド端子との間の並列腕に接続されていても良い。
【0079】
上記構成により、ラダー型弾性波フィルタ2は、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、直列共振器によって形成される減衰極より低域に第2並列共振器による減衰極が形成される。これにより、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側における通過特性の急峻性を確保することができる。
【0080】
このように、ラダー型弾性波フィルタ2における直列共振器8、9、10、11のうち、最も反共振周波数の低い直列共振器8の反共振周波数よりも第2並列共振器20の共振周波数を低く設定することで、直列共振器8の反共振周波数を従来の直列共振器108の反共振周波数から高周波側にシフトさせ、直列共振器8の発熱を抑制することができる。この場合、第2並列共振器20において、その共振周波数より低域側での主要弾性波の励振は抑制されているので、発熱は抑制される。その結果、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を向上することができる。
【0081】
さらにまた、アンテナ共用器1は、ラダー型弾性波フィルタ2において、第1並列共振器13と同一の並列腕にて第1並列共振器13に並列に接続されると共に、直列共振器8、9、10、11の反共振周波数より高い共振周波数を有する第3並列共振器40を備える。この第3並列共振器40は、第3並列共振器40の共振周波数前後の入力信号を減衰させる帯域減衰フィルタ(ノッチフィルタ)として動作する。なお、この第3並列共振器40は、第1並列共振器が接続されているいずれの並列腕にも接続されずに、第3並列共振器40単独で直列共振器とグランド端子との間の並列腕に接続されていても良い。
【0082】
上記構成により、ラダー型弾性波フィルタ2は、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数(第3並列共振器40の共振周波数)で減衰極が形成される。これにより、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側において、この通過帯域から離れた周波数帯での減衰特性を確保することができる。
【0083】
即ち、第2並列共振器20と第3並列共振器40の両者を信号ラインに並列に接続することで、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域の高域側近傍と通過帯域から離れた周波数帯での減衰特性の両者を確保することができるのである。
【0084】
また、第2並列共振器20の静電容量は第3並列共振器40の静電容量より小さいことが望ましい。この理由を以下に説明する。第2並列共振器20によって形成される減衰極より低域側において、帯域減衰フィルタである第2並列共振器20は容量性を示す。これにより、第2並列共振器20の静電容量が第3並列共振器40の静電容量より大きい場合、第2並列共振器20によって形成される減衰極より低域側において、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域高域側における急峻性が劣化するという問題が生じる。そこで、第2並列共振器20の静電容量を第3並列共振器40の静電容量より小さくすることにより、ラダー型弾性波フィルタ2の通過帯域高域側における急峻性を向上することができるのである。
【0085】
さらに、第2並列共振器20の静電容量が第3並列共振器40の静電容量より小さい場合であって、第2並列共振器20と第3並列共振器40のうち少なくとも第2並列共振器20が縦続接続された複数の共振器からなるとき、第2並列共振器20を構成する共振器数は第3並列共振器40を構成する共振器数より多いことが望ましい。
【0086】
第2並列共振器20の静電容量が第3並列共振器40の静電容量より小さい場合は、第2並列共振器20の耐電力性は第3並列共振器40の耐電力性と比較して低い。そこで、第2並列共振器20を構成する共振器数を第3並列共振器40を構成する共振器数より多くすることで、第3並列共振器40の耐電力性を確保することができ、ラダー型弾性波フィルタ2の耐電力性を向上することができる。
【0087】
また、第1フィルタとこの第1フィルタの通過帯域より高い通過帯域を有する第2フィルタとを備えたデュプレクサ等のアンテナ共用器1において、ラダー型弾性波フィルタ2を相対的に通過帯域の低い第1フィルタとして用いると、第1フィルタにおける第2フィルタの通過帯域の減衰量を確保することができる。即ち、上述のラダー型弾性波フィルタ2の場合は、送信フィルタにおける受信フィルタ3の通過帯域の減衰量を確保することができる。但し、ラダー型弾性波フィルタ2を相対的に通過帯域の高い第2フィルタとして用いても良い。
【0088】
また、本実施の形態3のラダー型弾性波フィルタ2を、このフィルタに接続された半導体集積回路素子(図示せず)と、この半導体集積回路素子(図示せず)に接続されたスピーカ等の再生装置(図示せず)とを備えた電子機器に搭載しても良い。これにより、電子機器における通信品質を向上することができるのである。