(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479314
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】衛星航法信号の異常を検知する方法およびシステム、並びにそのような検知システムを含む混成システム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/37 20100101AFI20190225BHJP
【FI】
G01S19/37
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-259316(P2013-259316)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2014-119459(P2014-119459A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2016年12月6日
(31)【優先権主張番号】1203406
(32)【優先日】2012年12月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505157485
【氏名又は名称】テールズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】クブラク、ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】セラン、ダミアン
【審査官】
安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−145342(JP,A)
【文献】
米国特許第06198765(US,B1)
【文献】
国際公開第2004/031797(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0114023(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0061427(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0254439(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0016414(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00− 5/14,
G01S 19/00−19/55,
G01C 21/00−21/36,
G01C 23/00−25/00,
CSDB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位受信器(10)のN個(Nは1より大きい整数値)の受信チャネルが受信した航法信号の異常を検知する方法であって、各チャネルi(iは1〜N)は搬送波相関回路(20)と、即時相関器(Cp)、早期相関器(Ca)および後期相関器(Cr)を含む符号相関回路(22)と、符号(DSC)識別器と、搬送波位相識別器(DSP)とを含み、符号(DSC)および前記搬送波位相識別器(DSP)が、前記符号(DSC)および前記搬送波位相識別器(DSP)が配信する符号(DCi)および搬送波位相エラー値(DPi)を低減させるために前記N個の受信チャネルの前記即時相関器(Cp)、前記早期相関器(Ca)および前記後期相関器(Cr)の位置を一括的に管理するのに適した共通のチャネルフィルタ(11)に接続されている方法において、前記方法が、N個の前記符号(DSC)識別器の出力側に配信された符号エラー値(DCi)を抽出するステップと、前記抽出された符号エラー値(DCi)を受容可能な最大符号エラー値に対応する同一の第1の閾値(S1)と比較するステップ(71)と、各受信チャネルiで受信された各航法信号に確信度指数(ICi)であって、前記符号エラー値(DCi)に対して実行された前記ステップ(71)による比較の結果に依存する確信度指数(ICi)を割り当てるステップ(72)と、基準最小確信度レベル(ICmin)より高い確信度指数(ICi)を有する航法信号を選択するステップ(73、74)と、前記選択された航法信号だけを前記チャネルフィルタ(11)に送信するステップ(75)とを含むことを特徴とする航法信号異常検知方法。
【請求項2】
N個の前記搬送波位相識別器(DSP)の出力側に配信された前記搬送波位相エラー値(DPi)を抽出するステップと、前記抽出された搬送波位相エラー値(DPi)を受容可能な最大位相エラー値に対応する同一の第2の閾値(S2)と比較するステップ(71)と、各受信チャネルで受信された各航法信号に確信度指数(ICi)であって、前記符号エラー値(DCi)および前記搬送波位相エラー値(DPi)に対して実行された前記比較の結果に依存する確信度指数(ICi)を割り当てるステップ(72)とも含むことを特徴とする、請求項1に記載の航法信号異常検知方法。
【請求項3】
N個(Nは1より大きい整数値)の受信チャネルを有する衛星測位受信器(10)を含む航法信号異常検知システムであって、各チャネルi(iは1〜N)は搬送波相関回路(20)と、即時相関器(Cp)、早期相関器(Ca)および後期相関器(Cr)を含む符号相関回路(22)と、符号(DSC)識別器と、搬送波位相識別器(DSP)とを含み、符号(DSC)および前記搬送波位相識別器(DSP)が、前記符号(DSC)および前記搬送波位相識別器(DSP)が配信する符号エラー値(DCi)および搬送波位相エラー値(DPi)を低減させるために前記N個の受信チャネルの前記即時相関器(Cp)、前記早期相関器(Ca)および前記後期相関器(Cr)の位置を一括的に管理するのに適した共通のチャネルフィルタ(11)に接続されているシステムにおいて、前記システムがまた、前記衛星測位受信器(10)の前記N個のチャネルの前記N個の符号(DSC)識別器の出力側に各々接続されたN個の比較器(161〜16N)の第1の組を含む少なくとも1個の比較装置(16)を含む航法信号異常検知装置(15)と、前記比較装置(16)の前記N個の比較器(161〜16N)の出力側に接続された信頼性確信度指数(IC1〜ICN)割り当て装置(18)とを含み、前記比較装置(16)が、受容可能な最大符号エラー値に対応する第1の閾値(S1)を含み、該比較装置(16)が、前記符号エラー値(DCi)と前記第1の閾値(S1)とを比較し、前記信頼性確信度指数(IC1〜ICN)割り当て装置(18)が、各受信チャネルで受信された各航法信号に前記比較装置(16)による比較の結果を関数として割り当てた前記信頼性確信度指数(IC1〜ICN)を配信し、前記航法信号異常検知装置(15)が前記衛星測位受信器(10)の識別器(21)と前記チャネルフィルタ(11)の間に接続されていることと、前記航法信号異常検知装置(15)がまた、航法信号選択装置(19)を含み、前記航法信号選択装置が前記信頼性確信度指数(IC1〜ICN)割り当て装置(18)の出力側および前記チャネルフィルタ(11)の入力側に接続されていて、前記航法信号選択装置が、基準最小確信度レベル(ICmin)よりも高い確信度指数(ICi)を有する航法信号を選択して、前記選択された航法信号の前記符号エラー値(DCi)および前記搬送波位相エラー値(DPi)だけを前記チャネルフィルタ(11)に送信することとを特徴とする航法信号異常検知システム。
【請求項4】
前記比較装置(16)がまた、前記衛星測位受信器(10)の前記N個のチャネルのN個の前記符号(DSC)識別器の出力側に各々接続されたN個の比較器(171〜17N)の第2の組を含むことと、信頼性確信度指数(IC1〜ICN)の割り当て装置(18)が、前記比較装置(16)のN個の比較器の前記第1の組および前記第2の組の出力側に接続されていて、前記比較装置(16)がまた、受容可能な最大搬送波位相エラー値に対応する第2の閾値(S2)を含み、該比較装置(16)が、前記符号エラー値(DCi)と前記第1の閾値(S1)とを比較するとともに搬送波位相エラー値(DPi)と前記第2の閾値(S2)とを比較し、前記信頼性確信度指数(IC1〜ICN)割り当て装置(18)が、各受信チャネルで受信された各航法信号に前記比較装置(16)による比較の結果を関数として割り当てた前記信頼性確信度指数(IC1〜ICN)を配信することとを特徴とする、請求項3に記載の航法信号異常検知システム。
【請求項5】
請求項4に記載の航法信号受信システムおよび慣性装置を含むことを特徴とするINS/GNSS混成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星航法信号の異常を検知する方法および装置、並びにそのような検知システムを含む混成システムに関する。本発明は、GPS(全地球測位システム(Global Positioning System))またはガリレオ受信器等、GNSS(全地球的航法衛星システム(Global Navigation Satellite System)型の衛星測位受信器を用いる任意の衛星測位システムに適用でき、特に地上GNSS受信器に適用される。
【背景技術】
【0002】
地上、海上または航空輸送機器に搭載されたGNSS型の衛星測位受信器を用いる衛星測位システムにおいて、受信器による測位計算を可能にするデータ信号は、測位衛星の衛星群(コンステレーション)に属する複数の異なる衛星から発信される。衛星群は、地理的座標x、y、zおよび受信器の時間的座標tに対応する4個の未知数を決定する少なくとも4個の衛星を含む。受信器による輸送機器の測位は、2個のステップで実行される。第1のステップで受信器は衛星群の4個の衛星から発信された航法信号を構成する無線周波数信号を取得し、第2のステップで受信器は信号の発信元である4個の衛星からの輸送機器の距離を評価し、三辺測量法を用いて輸送機器の位置を判定する。
【0003】
輸送機器の測位にエラーが生じた場合、民間航空会社が提供する地理的位置に基づく道路通行料に関するアプリケーションに甚大な影響を及ぼす恐れがある。
【0004】
衛星測位システムにより判定された位置情報の妥当性に影響を及ぼす恐れのある測位エラーに多くの発生要因がある。測位エラーは、GNSS信号の受信に関わる技術的問題、例えば受信器の故障、または衛星の衛星群により送信された情報の不具合、あるいは衛星の故障等に起因し得る。衛星測位システムにより判定された位置の信頼性はまた、輸送機器が置かれた環境に依存し、測位エラーはまた、特に建物による漂遊反射または信号の干渉に起因する場合がある。
【0005】
航空用途の場合、受信器はいかなる障害物にも制約を受けないため、無線周波数信号はいかなる壁にも反射されることなく衛星から直接受信される。この場合、航空輸送機器の受信器により計算された位置に関する確信度情報の提供を可能にするSBAS(静止衛星型衛星航法補強システム(Satellite−Based Augmentation Systems))システムがある。SBASシステムは、衛星の軌道で生じる、および各衛星の衛星群の時間基準との同期で生じるエラー、並びに高高度、特に電離層において無線周波数信号の伝搬により誘導されるエラーを永続的に監視および抑制する。SBASシステムが提供する情報により、航空輸送機器の受信器が輸送機器の位置および位置エラーの限度を与えることが可能になる。
【0006】
航空用途の場合、慣性装置が提供する情報およびGNSS受信器を含む衛星航法システムが提供する測定値を組み合せるINS/GNSS(慣性航法システム(Inertial Navigation System)/全地球的航法衛星システム(Global Navigation Satellite System)混成設備要素を用いて輸送機器の位置および速度情報を得ることも公知の実施方法である。INS/GNSS混成アーキテクチャは、GNSS受信器と慣性装置の間で異なる種類の結合を用いることができる。結合は、GNSS受信器の計算位置、または衛星から受信した航法信号から判定された周波数または擬似距離の粗い測定値から、あるいは受信器で計算されたより基本的な情報からのいずれによっても実行可能であり、後者の種類の結合は超密結合と呼ばれる。慣性装置は、ノイズが殆ど無くて短期的には正確な情報を提供するが、測定値の精度は慣性センサのドリフトに起因して長期的には劣化する。GNSS受信器が提供する測定値が正確であることにより慣性ドリフトの制御が可能になり、慣性測定値によりGNSS受信器の測定値のノイズのフィルタリングが可能になる。当該設備はまた、計算された位置の周囲の保護半径を計算することにより位置エラーを所与の完全性リスク内に留めることが可能になる。保護半径は、GNSS受信器の挙動のモデルを含み、受信器の距離および速度情報の推定を提供するチャネルフィルタ、例えばカルマンフィルタを用いて計算できる。衛星が提供する距離情報の測定値とチャネルフィルタの出力側で提供される距離情報の推定値の差異に対応する、イノベーションと呼ばれるパラメータが次いで計算される。受信器の挙動がフィルタに含まれるモデルに対応する場合、イノベーションパラメータはゼロに近い値を有する。さもなければ、GNSS測定値にはエラーがある。従ってイノベーションパラメータにより、航空用途の場合、特に衛星が故障した場合に生じる様々なエラーの影響を受けるGNSS測定値を識別することが可能になる。
【0007】
地理的位置に基づく道路通行料用途は、GNSS受信器を備えた地上輸送機器が辿る経路を判定するステップと、辿られた経路が有料である場合は地上輸送機器のユーザーに支払請求するステップとを含む。支払請求は、辿った道路に依存するため、受信器は、一方では輸送機器の位置に、他方では輸送機器の軌跡に関する2個の相補的な情報項目を配信しなければならない。この情報は支払い請求をもたらすため、用いた軌道に関する信頼性情報を判定することも必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
密集環境、例えば、都市部、森林地域、山岳地帯のGNSS位置の完全性を特徴付けるのは、特に局部伝搬現象のモデリングの不正確さのために困難である。受信器が生成したGNSS測定値の品質の認識および特徴化は更に困難である。現在、地上輸送機器のGNSS位置の完全性の確認は民間航空の場合と同様になされる。非密集環境、例えば地方または過疎な町で航行する場合、当該方法は有効である。しかし、密集環境で航行する場合、無線周波数信号の受信条件は航空用途の場合よりもはるかに複雑、且つ充分に制御されておらず、受信された信号は雑音が多く、信号強度は極めて弱い。民間航空用途向けに設計されたエラーモデルは従って、密集環境に対応しておらず、車線上の地上輸送機器の位置を明確に識別することは不可能である。更に、密集環境の場合、現時点では信頼性の高いGNSS測定品質指標を利用できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、信号強度が弱く極めて雑音が多い場合でも、任意の非密集または密集環境で衛星測位受信器が受信した航法信号の異常を検知可能にする、衛星航法信号の異常を検知する方法および装置を提案することである。
【0010】
この目的のために、本発明は、衛星測位受信器のN個(Nは1より大きい整数値)の受信チャネルが受信した航法信号の異常を検知する方法であって、各チャネルi(iは1〜N)は搬送波相関回路と、即時、早期および後期相関器を含む符号相関回路と、符号識別器と、搬送波位相識別器とを含み、符号および搬送波位相識別器は、符号および搬送波位相識別器が配信する符号および搬送波位相エラー値を低減させるためにN個の受信チャネルの即時、早期および後期相関器の位置を一括的に管理するのに適した共通チャネルフィルタに接続されている方法に関する。本方法は、N個の符号識別器の出力側に配信された符号エラー値を抽出するステップと、抽出された符号エラー値を受容可能な最大符号エラー値に対応する同一の第1の閾値と比較するステップと、各受信チャネルiで受信された各航法信号に確信度指数、すなわち符号エラー値に対して実行された比較の結果に依存する確信度指数を割り当てるステップとを含む。
【0011】
有利には、本方法はまた、N個の搬送波位相識別器の出力側に配信された搬送波位相エラー値を抽出するステップと、抽出された搬送波位相エラー値を受容可能な最大位相エラー値に対応する同一の第2の閾値と比較するステップと、各受信チャネルで受信された各航法信号に確信度指数であって、符号エラー値および搬送波位相エラー値に対して実行された比較の結果に依存する確信度指数を割り当てるステップとを含み得る。
【0012】
有利には、本方法はまた、基準最小確信度レベルよりも高い確信度指数を有する航法信号を選択するステップと、選択された航法信号だけをチャネルフィルタに送信するステップとを含み得る。
【0013】
本発明はまた、N個(Nは1より大きい整数値)の受信チャネルを有する衛星測位受信器を含む航法信号異常検知システムであって、各チャネルi(iは1〜N)は搬送波相関回路と、即時、早期および後期相関器を含む符号相関回路と、符号識別器と、搬送波位相識別器とを含み、符号および搬送波位相識別器は、符号および搬送波位相識別器が配信する符号および搬送波位相エラー値を低減させるためにN個の受信チャネルの即時、早期および後期相関器の位置を一括的に管理するのに適した共通チャネルフィルタに接続されているシステムに関する。本システムはまた、受信器のN個のチャネルのN個の符号識別器の出力側に各々接続されたN個の比較器の第1の組を含む少なくとも1個の比較装置を含む航法信号異常検知装置と、比較装置のN個の比較器の出力側に接続された信頼性確信度指数割り当て装置とを含み、比較装置は、受容可能な最大符号エラー値に対応する第1の閾値を含み、確信度指数は、各受信チャネルで受信された各航法信号に、符号エラー値に対して実行された比較の結果の関数として割り当てられ、比較装置により配信される。
【0014】
有利には、比較装置はまた、受信器のN個のチャネルのN個の搬送波位相識別器の出力側に各々接続されたN個の比較器の第2の組を含むことができ、信頼性確信度指数割り当て装置は、比較装置のN個の比較器の第1および第2の組の出力側に接続されていて、比較装置はまた、受容可能な最大搬送波位相エラー値に対応する第2の閾値を含み、確信度指数は、各受信チャネルで受信された各航法信号に、符号エラー値および搬送波位相エラー値に対して実行された比較の結果の関数として割り当てられ、比較装置により配信される。
【0015】
有利には、異常検知装置は受信器の識別器とチャネルフィルタの間に接続されていて、異常検知装置はまた、航法信号選択装置を含み、選択装置は信頼性指数割り当て装置の出力側およびチャネルフィルタの入力側に接続されていて、航法信号選択装置は、基準最小確信度レベルよりも高い確信度指数を有する航法信号を選択して、選択された航法信号の符号エラー値および搬送波位相エラー値だけをチャネルフィルタに送信するのに適している。
【0016】
本発明は、航法信号受信システムおよび慣性装置を含むINS/GNSS混成システムにも関する。
【0017】
本発明の他の特徴および利点は、添付の概略図を参照しながら、純粋に説明を目的とする非限定的な例として与える以下の記述から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来技術による、単一のチャネルを表したGNSS受信器の例示的なアーキテクチャの簡略図である。
【
図2】従来技術による、ベクトル化されたループアーキテクチャに組み込まれたGNSS受信器を含むGNSS受信システムの第1の例示的なアーキテクチャの構成図である。
【
図3】本発明による、INS/GNSS混成アーキテクチャに組み込まれたGNSS受信器を含むGNSS受信システムの第2の例示的なアーキテクチャの構成図である。
【
図4a-b】従来技術による、超密結合型の混成アーキテクチャのカルマンフィルタの出力側に配信されたイノベーションパラメータの傾向を時間の関数として示す2本の曲線である。
【
図5a-b】本発明による、GNSS航法信号の異常を検知するシステムの2個の例示的なアーキテクチャである。
【
図6】本発明による、GNSS航法信号の異常を検知するシステムの第3の例示的なアーキテクチャの構成図である。
【
図7】本発明による、異常検知および高信頼性GNSS信号選択を行う例示的なアルゴリズムである。
【
図8】本発明による、異常検知および高信頼性GNSS信号選択装置を含む例示的な混成システムアーキテクチャである。
【
図9】本発明による、超密結合型の混成アーキテクチャに組み込まれたGNSS受信器の符号識別器の出力の傾向を時間の関数として示す曲線の例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
衛星群の衛星により発信される航法信号は、送信すべきデータからなる、擬似乱数バイナリ拡散符号により周波数拡散されて送信搬送波を用いる変調により送信周波数帯に変換される無線周波数信号である。GNSS型の衛星測位受信器は、異なる衛星から受信した信号の並列処理を可能にする多くの異なる処理チャネルを含む。2個の異なる衛星は、衛星間の信号を分離して各衛星に異なるチャネルを割り当て可能にする異なる相関を失わせる符号を有する。
図1に、単一のチャネルを表した衛星測位受信器の例示的なアーキテクチャの簡略図を表す。受信時に、衛星測位受信器10が受信した各信号5に含まれるデータは、受信信号の搬送波の抑制を意図した搬送波相関回路20、続いて符号相関回路22により実行される2個の連続的な復調により抽出される。この目的のため、衛星測位受信器10は、位相ループ20と呼ばれる周波数および位相追跡ループにより駆動される局部発振器24が生成した搬送波の局所複製PI、および符号ループ22と呼ばれる後期追跡ループにより駆動される局所符号生成器28が生成した擬似乱数拡散符号の局所複製を生成する。受信信号を追跡する技術は、即時複製Cpと呼ばれる拡散符号の局所複製、および他の早期モードCaおよび後期モードCrの局所複製の生成を伴う。積分器INTの役割は、復調、非拡散、集約された早期Za、即時Zp、後期Zr信号サンプルを生成することである。符号ループ22がロックオンされた場合、局所的に生成された符号は衛星から受信された信号に含まれる符号と同相であって、得られた相関関数は最大に一致する。位相ループ20および符号ループ22は各々、搬送波DSPおよび符号DSC識別器21を含むため、即時、早期および後期相関器の出力側に積分器INTが配信した信号サンプルZp、Za、Zrの値を用いて、受信信号の搬送周波数の推定値および、局所符号に相対的に測定された拡散符号のオフセットの各々を更新するために、対応する位相および符号追跡ループ20、22を逆向きに回るために、受信信号と局所信号との間の搬送波位相差および符号差の各々を測定することが可能になる。
【0020】
搬送波DSPおよび符号DSC識別器21の出力側において、搬送波位相差は、受信信号の搬送波を抑制するために搬送波相関回路20が用いる局所搬送波を供給する搬送波生成器26を駆動する局所搬送波位相を生成する搬送波発振器24を制御する搬送波修正器CRP23に送信される。同様に、識別器21の出力側において、符号差は、符号相関回路22が用いる局所符号Ca、Cp、Crを供給する符号生成器30を駆動する局所符号位相を生成する符号発振器28を制御する符号修正器CRC25に送信される。従来の衛星測位受信器アーキテクチャでは、各識別器21の出力側は、符号追跡ループ22により、衛星符号における局所符号の同期を維持するためにゼロに近い値を配信するために制約される。
【0021】
局所符号の同期化は従って、他の衛星とは独立に衛星毎に実行される。GNSS受信器を単独で用いる場合、エラーのある航法信号を識別することは極めて困難であって、得られた位置情報は信頼できない。
【0022】
受信器10は、例えば
図3の構成図に示すようにベクトル化されたループ型アーキテクチャに、または例えば
図2の構成図に示すようにINS/GNSS混成アーキテクチャに組み込むことができる。これら2種類のアーキテクチャにおいて、チャネルフィルタ11、例えばカルマンフィルタの出力側に配信されたイノベーションパラメータのエラー残余を考慮に入れることにより、受信器10の位置および速度の測定値が判定される。
【0023】
図2に示すベクトル化されたループアーキテクチャの場合、チャネルフィルタ11、例えばカルマンフィルタは、受信器10が受信したN個の航法信号51、...5Nから抽出された全ての情報を考慮に入れて、受信器10が報告した測定値の差異に対応するイノベーションパラメータおよびチャネルフィルタ11に含まれる数学モデルによりなされるこれらの測定値の予測値を計算し、そこからN個の信号51〜5Nを発信したN個の衛星に相対的な受信器10の符号および搬送波クロックのオフセットの推定値を導く。チャネルフィルタ11の出力側に配信された符号オフセットおよび搬送波オフセットの各々は、符号および搬送波に対するドップラー効果、すなわち衛星の移動、受信器の局部発振器の移動、および受信器10の移動に起因するドップラー効果を予測する装置12の入力側に適用される。ドップラー効果予測装置12は、同一の符号6および位相7の各々の命令値から全てのチャネルの符号および位相クロックを同時に更新するために、符号ループの局部発振器28、および受信器10のN個のチャネルの位相ループの局部発振器24の各々に適用される新たな符号および位相クロック位置命令値を出力として配信する。相関計算に用いる局所拡散符号のスタートアップはこのように全てのチャネルで同時に起動される。従って、このベクトル化されたループアーキテクチャにより、受信器10の全てのチャネルの識別器21から得られた情報の組を一括的に考慮に入れて、受信器10の全ての信頼性の高いチャネルにおける即時Cp、早期Caおよび後期Cr相関器の位置を各反復で同一の値により同時に修正することが可能になる。このベクトル化されたループアーキテクチャにおいて、全てのチャネルの相関器の位置は従って、チャネルフィルタ11により共通的に管理され、符号および搬送波識別器21の出力信号は制約されない。
【0024】
図3に示すような超密型結合に関するINS/GNSS混成アーキテクチャの場合、イノベーションパラメータを計算するために衛星測位受信器10により航法信号の組から抽出された情報に加え、チャネルフィルタ11はまた、受信器10が置かれた輸送機器に搭載された慣性装置14が送信したアカウント位置、速度および加速度情報を考慮に入れる。航法信号51、...、5i、...、5Nから抽出された全ての情報、および慣性装置14から得られた情報から、チャネルフィルタ11は受信器10の全てのチャネル1〜Nの即時Cp、早期Caおよび後期Cr相関器の新たな位置を一括的に推定する。慣性装置14の出力側で接続された航法コンピュータ13は、慣性装置14が配信した位置情報、および受信器10の各チャネル1、...、i、...、Nの識別器21から得られたエラー値DC1、DP1、...、DCi、DPi、...、DCN、DPNからチャネルフィルタ11が推定した位置、速度および加速度エラー情報を受信する。航法コンピュータ13は、慣性装置14およびチャネルフィルタ11から発信された情報から、受信器10および慣性装置14が置かれた輸送機器の新たな位置、速度および姿勢の値を配信する。これらの新たな位置、速度および姿勢の値は、衛星から発信された信号と、チャネルフィルタ11から発信された符号および搬送波オフセットとから、符号および搬送波に対するドップラー効果を予測すると共に、受信器10が送信した追加的な情報を受信する装置12の入力側に適用される。受信器10により、ドップラー効果予測装置12に送信された追加的な情報8は、天体暦データおよび伝搬エラー推定値を含むため、衛星から発信された信号の伝播遅延の近似値を導くことが可能になり、この遅延は特に電離層、対流圏、および衛星のクロックによりもたらされる。ドップラー効果予測装置12は、受信器10の全てのチャネルにおける即時Cp、早期Caおよび後期Cr相関器の位置を各反復で同一の値により同時且つ一括的に修正するために、全てのチャネル1〜Nに適用する新たな符号および位相クロック位置命令値を出力として配信する。ベクトル化されたループアーキテクチャに関して、このINS/GNSS混成アーキテクチャでは、全てのチャネルの相関器の位置はチャネルフィルタ11により共通的に管理され、符号DSCおよび搬送波DSP識別器21の出力信号は制約されない。
【0025】
図4a、4bに、信号対雑音比C/N0のレベルが各々40dBHzおよび19dBHzである雑音の多い信号について、超密結合型の混成アーキテクチャのカルマンフィルタの出力側に配信されたイノベーションパラメータの傾向を時間の関数として示す曲線の2個の例を示す。これら2図において、衛星と衛星測位受信器の間の直接経路に対応する細線で示す信号は0値の回りで変動するイノベーションパラメータを有し、一方、太線で示すエラー信号は、例えば多重経路、すなわち衛星と衛星測位受信器の間にある障害物により反射された経路に起因して、0値を中心としていない。
図4aに示すように信号対雑音比C/N0が高い場合、エラー信号は、他の信号に対して完全にずれるため、明らかに識別することができる。
図4bに示すように、より低い信号対雑音比C/N0に対応するより大きい雑音の場合、エラー信号は他の信号の変動に埋め込まれていて明確に識別することができない。
図4aおよび4bは従って、イノベーションパラメータによりエラー信号を識別可能になるのは、信号のレベルよりはるかに強度が低いノイズが存在する場合だけであることを示す。信号レベルに対する雑音レベルが高いほど、イノベーションパラメータを用いてエラー信号を識別することが困難になる。
【0026】
図5a、5bに、GNSS航法信号の異常を検知するシステムのアーキテクチャの2個の例を示す。異常検知システムは、衛星測位受信器10および異常検知装置15を含む。受信器10は、複数の処理チャネル1〜Nを含み、各処理チャネルは1個の衛星専用であって、対応する衛星から受信した信号と局所信号との間の符号差および搬送波位相差を配信する搬送波および符号識別器21を含む。受信器10がベクトル化されたループアーキテクチャまたは超密結合型の混成アーキテクチャに組み込まれている場合、受信器10の符号および搬送波識別器21はゼロに近い出力値に制約されず、それらの変動は従って、受信器10が受信した信号の変動を表す。従って、識別器が配信した値が0値に比べて高いほど、受信器10が受信した信号が誤っているリスクが高い。本発明は従って、識別器21が配信した値を利用してエラー信号を識別および除去するステップを含む。この目的のため、
図5aに示すように、異常検知装置15は、第1の閾値S1を含み且つ全ての識別器21の出力側に接続された比較装置16と、比較装置16の出力側に接続された測定エラー識別装置18とを含む。比較装置16は、N個のチャネル1〜Nに対応するN個の比較器161、162、...16Nの第1の組を含む。N個の比較器161〜16Nの第1の組は、受信器10の全てのチャネル1〜Nの識別器21が配信した全ての符号差値DCi(i〜Nの整数値)を受信し、各識別器21が配信した符号差値を同一の第1の閾値S1と比較して、比較の結果を各々が受信器10の受信チャネル1〜Nのうち1個に対応する複数の出力側に配信することを意図される。第1の閾値S1はユーザーにより定義され、識別器21の出力側でユーザーが受容する予定の最大符号差値に対応する。測定エラー識別装置18は、N個の比較器161〜16Nの第1の組の出力側に結合されたN個のエラー識別チャネル181、182、...18Nを含む。測定エラー識別装置18は、各々の比較の結果ΔDCi(iは1〜N)から、確信度指標IC1、IC2、...ICNを受信された各信号51、52、...5Nの信頼性に割り当て、エラーを含む航法信号、すなわち値が低く、最小確信度指標ICminより低い確信度指標に対応する信号を識別することを意図される。
【0027】
有利には、
図5bに示すように、比較装置16はまた、第2の閾値S2を含み且つ全ての識別器21の出力側に接続されたN個の比較器171〜17Nの第2の組を含み得る。従って比較装置16はまた、各識別器21により配信された位相差値DPi(iは1〜N)を前記同一の第2の閾値S2と比較し、エラー識別装置18は各々の比較結果から、第2の閾値S2よりも大きい位相差DPiを判定することができる。この場合、第1および第2の閾値S1、S2の各々に相対的な、一方では符号差DCiから、他方では位相差DPiから導かれた比較の結果ΔDCiおよびΔDPi(iは1〜N)を考慮に入れることにより、各受信信号に割り当てられた確信度指標IC1〜ICNが判定される。
【0028】
異常検知装置15は、受信器10が報告した位置測定値の信頼性に関する情報を得るためだけに用いることができる。この場合、イノベーションパラメータの計算は不変であり、チャネルフィルタ11により全てのGNSS航法信号から判定される。
【0029】
エラー信号の識別は、他の信号とは独立に、識別器が配信した各信号を、同一の第1の閾値S1と比較することにより、および同一の第2の閾値S2とも比較することにより各チャネルの符号DSCおよび位相DSP識別器21の出力側で実行されるため、異常検知装置15はまた、チャネルフィルタ11上流のエラー信号を除外するために用いて、チャネルフィルタ11において、信頼性の高い推定信号の符号エラー値DCiおよび搬送波位相エラー値DPiだけに基づくイノベーション計算を実行することもできる。次いで、チャネルフィルタ11内でエラー信号を含む全ての信号を用いてイノベーションパラメータを計算し且つエラー信号の検知がより困難な従来技術よりも高い精度で相関器の位置が判定される。
【0030】
この場合、
図6に示すように、本発明によれば、異常検知装置15はまた、エラー識別装置18の異なる出力側に接続された複数の入力側およびチャネルフィルタ11への接続を意図された複数の出力側を含む選択装置19と呼ばれる追加的な装置を含む。選択装置19は、それを下回れば航法信号が誤っていると推定される所定の最小確信度指標ICminよりも高い確信度指標を有する信号を選択して、選択された信号だけをベクトル化されたループアーキテクチャまたはINS/GNSSアーキテクチャのチャネルフィルタ11に送信することを意図される。ベクトル化されたループアーキテクチャの場合は信頼性が高いと推定されたGNSS航法信号から抽出された情報の組だけを考慮に入れながら、またINS/GNSS混成アーキテクチャの場合は信頼性が高いと推定されたGNSS信号および慣性装置14から得られた情報から抽出された情報の組だけを考慮に入れながら、チャネルフィルタ11内でイノベーションパラメータの計算が次いで実行される。
【0031】
図7に、異常検知および高信頼性GNSS信号選択を行う例示的なアルゴリズムを示す。第1の初期化ステップ70において、第1および第2の閾値はS1、S2、および最小確信度指標ICminの値が選択される。第2のステップ71において、GNSS受信器10の各チャネルi(iは1〜Nの整数値)の識別器21の出力側に配信された符号差値DCiおよびDPiが各々、第1および第2の閾値S1、S2と比較され、各々の比較結果を各々ΔDCiおよびΔDPiと表記する。第3のステップ72において、各々の比較結果ΔDCiおよびΔDPiから、受信された各信号51、52、...5Nの信頼性に関する確信度指標IC1、IC2、...ICNが各チャネルiに割り当てられる。第4のステップ73において、各チャネルiに割り当てられた各確信度指標ICiと最小確信度指標ICminとの間で比較テストが実行される。比較テストにより、チャネルiに割り当てられた確信度指標ICiが最小確信度指標ICminよりも高いことが示された場合、ステップ74で当該信号は信頼性があるとして識別され、異常検知システムがベクトル化されたループアーキテクチャまたは混成アーキテクチャに組み込まれていればステップ75でチャネルフィルタ11への送信対象として選択される。さもなければ、当該信号はステップ76で誤っていると識別されてチャネルフィルタ11に送信されない。
【0032】
図8に、本発明による、異常検知および高信頼性GNSS信号選択装置を含む例示的な混成アーキテクチャを示す。このアーキテクチャは、
図3に示すアーキテクチャと同一の装置および同一の構造を含み、また受信器10とチャネルフィルタ11の間に接続された、異常検知および高信頼性GNSS信号選択装置15を含む。異常検知および高信頼性GNSS信号選択装置は、GNSS受信器10の識別器21の出力側に配信された符号エラー値DC1〜DCNおよび搬送波位相エラー値DP1〜DPNを抽出し、それらを第1および第2の閾値S1、S2の各々と比較し、そこから確信度指標IC1〜ICNを導き、信頼性が高いと推定された信号の符号エラー値DC1〜DCNおよび搬送波位相エラー値DP1〜DPNだけを選択してチャネルフィルタ11に送信する。
【0033】
図9に、信号対雑音比C/N0のレベルが19dBHzに等しい、雑音の多い信号について、衛星測位受信器10、すなわち超密結合型の混成アーキテクチャに組み込まれた受信器10の符号識別器の出力の傾向を時間の関数として示す例示的な曲線を示す。この構成において、
図5、6に関して記述したように、相関器は、それらの符号オフセットを一括的に推定して一緒に制御されるため、識別器はゼロに近い値に制約されないエラー信号を配信する。この
図9は、雑音レベルが信号のレベルに比較して強くても、各チャネルの符号識別器の出力側に配信されたエラー信号が信頼性の高い信号から極めて明確に区別され、閾値と比較することにより容易に検知することができる。閾値は、所望の用途に応じて選択される。閾値は、例えば、誤警報確率または所望の位置および速度測定精度に対応してよい。
図9において、−20dBの閾値により、太線で表す、エラー信号に対応する信号を検知することが可能になる。
【0034】
本発明について特定の実施形態に関して記述してきたが、本発明がこれらに一切限定されず、記述した手段の全ての技術的均等物および、後者が本発明の枠組みに収まる場合は、それらの組合せを含むことは明らかである。
【符号の説明】
【0035】
6 符号
7 位相
8 情報
10 衛星測位受信器
11 チャネルフィルタ
12 ドップラー効果予測装置
13 航法コンピュータ
14 慣性装置
15 異常検知装置
16 比較装置
161、162、16N 比較器
171〜17N 比較器
18 エラー識別装置
181、182、18N エラー識別チャネル
19 選択装置
20 位相ループ
21 識別器
22 符号ループ
23 搬送波修正器CRP
24 局部発振器
25 符号修正器CRC
26 搬送波生成器
28 局所符号生成器
30 符号生成器
51、52、5i、5N 信号
Ca 早期相関器
Cp 即時相関器
Cr 後期相関器
DC1、DCi、DCN 符号エラー値
DP1、DPi、DPN 搬送波位相エラー値
IC1〜ICN 確信度指標
INT 積分器
PI 局所複製
Za 早期信号サンプル
Zp 即時信号サンプル
Zr 後期信号サンプル