(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6479324
(24)【登録日】2019年2月15日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】風味改良剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/21 20160101AFI20190225BHJP
【FI】
A23L27/21 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-66875(P2014-66875)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-188344(P2015-188344A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年1月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505144588
【氏名又は名称】MCフードスペシャリティーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】勝 又 忠与次
(72)【発明者】
【氏名】酒 井 知香子
【審査官】
吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/057084(WO,A1)
【文献】
特開2010−148431(JP,A)
【文献】
特開2001−103920(JP,A)
【文献】
特開平03−004767(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/069738(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/050429(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/157381(WO,A1)
【文献】
特開平10−276710(JP,A)
【文献】
特開昭54−011280(JP,A)
【文献】
特開2014−093995(JP,A)
【文献】
月刊フードケミカル, 2013年9月号,p.18-21
【文献】
生物工学会誌,2012年,90 (3),p.135
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱してなる加熱反応物を含む、しつこくないまたは後切れのよい濃厚感の付与剤であって、
該D−アミノ酸またはD−アミノ酸残基が、イソロイシン、ロイシン、セリン、トレオニン、チロシン、アルギニン、リシン、グルタミン、アスパラギンおよびフェニルアラニンから選択される一種類または二種類以上の組み合わせであり、
該カルボニル化合物が、キシロース、リボース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、グルコサミン、シュークロース、ラクトース、マルトース、デキストリン、2−ブタジエナールまたは2−ヘキセナールを含む、剤。
【請求項2】
D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱する工程を含む、しつこくないまたは後切れのよい濃厚感の付与剤の製造方法であって、
該D−アミノ酸またはD−アミノ酸残基が、イソロイシン、ロイシン、セリン、トレオニン、チロシン、アルギニン、リシン、グルタミン、アスパラギンおよびフェニルアラニンから選択される一種類または二種類以上の組み合わせであり、
該カルボニル化合物が、キシロース、リボース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、グルコサミン、シュークロース、ラクトース、マルトース、デキストリン、2−ブタジエナールまたは2−ヘキセナールを含む、製造方法。
【請求項3】
前記加熱の時間が30分間〜1ヶ月間である、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味改良剤および飲食品の風味改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの食品素材は、煮る、蒸す、焼くといった加熱調理工程を経ることによって、料理として完成され食される。特に、カレー、シチュー等の煮込み工程を特徴とする食品やたれ等は、長時間の煮込みや熟成等により濃厚感が増し、それとともに嗜好性も高くなるとされる。
【0003】
濃厚感を工業的に再現するには時間やコストがかかるため、濃厚感を簡便に再現できる方法が検討、開発されてきた。
例えば、アミノ酸やペプチドとアミノ糖との加熱反応物を用いる方法(特許文献1参照)、アミノ酸やペプチドとウロン酸との加熱反応物を用いる方法(特許文献2参照)等の、アミノ酸やペプチドと糖との加熱反応物を利用する方法が挙げられる。これらの方法は、飲食品に濃厚感を付与でき、さらに味の持続感も得られる優れた方法であるといえる。
【0004】
一方、近年、味の嗜好性は多様化しており、必要以上に持続しない風味の付与が求められることがある(特許文献3、4参照)。
【0005】
しかしながら、必要以上に持続しない濃厚感、すなわち、しつこくない濃厚感、後切れのよい濃厚感を簡便に付与する手法については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/069738公報
【特許文献2】WO2010/050429公報
【特許文献3】特開2003−210147号公報
【特許文献4】特開2012−130336号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、簡便に飲食品の風味を改良することができ、特に、しつこくない濃厚感、後切れのよい濃厚感を付与できる風味改良剤、その製造方法、風味の改良された飲食品、飲食品の風味改良方法、および飲食品の製造方法を提供することをその目的とする。
【0008】
本発明者らは、今般、D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱させて得られる加熱反応物を飲食品に含有させたところ、しつこくない濃厚感、後切れのよい濃厚感を簡便に飲食品に付与しうることを見出した。本発明は、これら知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(7)に関する。
(1)D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱してなる加熱反応物。
(2)D−アミノ酸またはD−アミノ酸残基が、脂肪族側鎖、水酸基系側鎖、塩基性側鎖、アミド側鎖、酸性基系側鎖、芳香族系側鎖から選択される側鎖を有するものである、(1)に記載の加熱反応物。
(3)(1)または(2)記載の加熱反応物を含む、風味改良剤。
(4)D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱する工程を含む、風味改良剤の製造方法。
(5)(1)または(2)記載の加熱反応物を含有させてなる、風味の改良された飲食品。
(6)飲食品が煮込み飲食品である、(5)に記載の飲食品。
(7)(1)または(2)に記載の加熱反応物を飲食品に含有させる工程を含む、飲食品の風味改良方法。
(8)風味改良が、飲食品への濃厚感の付与である、(7)記載の飲食品の風味改良方法。
(9)(1)または(2)に記載の加熱反応物を飲食品に含有させる工程を含む、風味の改良された飲食品の製造方法。
【0010】
本発明によれば、簡便に飲食品の風味を改良することができ、特にしつこくない濃厚感、後切れのよい濃厚感を付与できる風味改良剤、その製造方法、風味の改良された飲食品、飲食品の風味改良方法、および飲食品の製造方法を提供することができる。
【0011】
風味改良剤
本発明の風味改良剤は、D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱してなる加熱反応物を含むことを一つの特徴としている。
【0012】
本発明に用いられるD−アミノ酸は、飲食品への添加が許容されるD−アミノ酸であれば特に限定されないが、例えば、D−イソロイシン、D−バリン、D−ロイシン、D−アラニン等の脂肪族側鎖を有するもの、D−セリン、D−トレオニン、D−チロシン等の水酸基系側鎖を有するもの、D−アルギニン、D−ヒスチジン、D−リシン等の塩基性側鎖を有するもの、D−グルタミン、D−アスパラギン等のアミド側鎖を有するもの、D−グルタミン酸、D−アスパラギン酸等の酸性基系側鎖を有するもの、D−プロリン等のイミノ基系側鎖を有するもの、D−フェニルアラニン等の芳香族系側鎖を有するもの、D−トリプトファン等のインドール基系側鎖を有するもの、D−システイン、D−メチオニン等の含硫系側鎖を有するもの等があげられ、好ましくはD−イソロイシン、D−セリン、D−ヒスチジン、D−グルタミン、D−プロリン、D−フェニルアラニンが挙げられる。
【0013】
また、本発明に用いられるD−アミノ酸の塩は、飲食品への添加が許容される塩であれば特に限定されず、D−アミノ酸の酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等の塩が挙げられる。
【0014】
また、酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、ホルモリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩が挙げられる。
【0015】
これらのD−アミノ酸またはその塩は一種類を単独で用いてもよいが、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、本発明に用いられるD−アミノ酸は、それを含有する飲食可能な素材の形態で用いてもよい。かかる飲食可能な素材としては、それを分解物としたときの本発明に用いられるアミノ酸の量に着目することによって、本発明に従って風味改良する上で望ましいものを適宜選択できる。例えば、魚介類、鳥獣肉、乳製品、卵およびその製品、小麦、米、トウモロコシ等の穀類、大豆等の豆類、タマネギ、サツマイモ等の根菜類等、パン酵母、乳酸菌等の微生物の菌体もしくは培養物等を用いることもできる。また、D−アミノ酸を含有する飲食可能な素材は、L−アミノ酸を含有する飲食可能な素材にアミノ酸ラセマーゼ等の酵素を作用させることにより取得して、本発明に用いてもよい。
【0017】
また、本発明に用いられるD−アミノ酸含有ペプチドは、そのアミノ酸配列中にD−アミノ酸残基を含んでいる。D−アミノ酸含有ペプチド中のアミノ酸残基は、上記D−アミノ酸と同様である。したがって、該ペプチド中のD−アミノ酸残基は塩の形態であってもよく、一種類であっても二種類以上であってもよい。また、D−アミノ酸含有ペプチドにおけるD−アミノ酸残基の含有率や分子量等は特に限定されず、それを分解物としたときのD−アミノ酸の量に着目することによって、本発明に従って風味改良する上で望ましいものを適宜選択できる。
【0018】
本発明に用いられるD−アミノ酸含有ペプチドは、ペプチド合成機等を用いて合成してもよく、上述のようなD−アミノ酸を含有する食物素材から得られるペプチドをそのまま用いてもよく、かかる食物素材を、酸、アルカリ、酵素等により分解して取得してもよい。
【0019】
本発明で用いられるカルボニル化合物としては、カルボニル基を持つ有機化合物またはその塩(金属塩、無機塩等)であってよいが、好ましくは還元糖、または脂質の酸化によって生成するカルボニル化合物であり、より好ましくは還元糖である。還元糖としては、単糖、還元性をもつ二糖以上の多糖類が挙げられる。
【0020】
単糖としては、トリオース、テトラオース、ペントース、ヘキソース、へプトース等が挙げられる。より具体的には、アルデヒド基やケト基を持ち飲食品の製造に用いられるものであってもよく、キシロース、リボース、アラビノースまたはリキソース等のアルドペントース、グルコース、ガラクトースまたはマンノース等のアルドへキソース、フルクトース、プシコース、ソルボースまたはタガトース等のケトヘキソース、グルコサミン、ガラクトサミン等のアミノ糖、ガラクツロン酸、グルクロン酸またはマンヌロン酸等のウロン酸が挙げられる。好ましくはキシロースまたはリボース等のアルドペントース、グルコースまたはガラクトース、マンノース等のアルドへキソース、フルクトース等のケトヘキソース、グルコサミン等のアミノ糖、ガラクツロン酸等のウロン酸であり、より好ましくはキシロースまたはリボース等のアルドペントース、グルコ−スまたはガラクトース、マンノース等のアルドへキソース、フルクトース等のケトヘキソース、グルコサミン等のアミノ糖である。
【0021】
また、還元性を示す二糖以上の多糖類は、単糖が2個以上グリコシド結合によって結合した単糖の重合体であってよく、シュークロース、ラクトース、マルトース等のオリゴ糖、デキストリンまたは各種グルカン等の多糖類等が挙げられる。
【0022】
また、脂質の酸化によって生成するカルボニル化合物としては、脂質酸化によって生じるハイドロキシパーオキサイドがさらに分解して生成するアルデヒド化合物等が挙げられる。また、アルデヒド化合物としては、飽和アルデヒド、不飽和アルデヒド等が挙げられる。より具体的には、飽和アルデヒドとしては、プロパナール、ヘキサナール、オクタナール、ノナナール等が挙げられ、好ましくはヘキサナールまたはオクタナールである。また、不飽和アルデヒドとしては、2−ブタエナール、2−ヘキセナール、2−デセナール、2−ウンデセナール、2−ジエナール、2,4−ヘプタジエナール、2,4−デカジエナール等が挙げられ、好ましくは2−ブタジエナールまたは2−ヘキセナール等である。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の風味改良剤は、D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物とを共存させ、加熱して得られる加熱反応物として製造することができる。共存させる方法としては、例えば、本発明に用いられるアミノ酸と、カルボニル化合物とを混合して共存物とする方法が挙げられる。前記共存物は、粉体、粒体、粉粒体、顆粒状等の固体状であってもよく、または、水、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩の水溶液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液、またはこれらの混合物等の各種液体に分散または溶解させた液体状であってもよい。
【0024】
加熱する前の前記共存物は、D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩と、カルボニル化合物以外に、本発明の風味改良剤の効果を妨げない限り他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、風味改良剤が本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、本発明に用いられるD−アミノ酸以外のアミノ酸、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。
【0025】
前記共存物中のD−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩の含有量は、加熱混合物の取得を妨げない限り特に限定されず、本発明に用いられるD−アミノ酸の総重量として、例えば0.1〜20重量%であり、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.1〜13重量%であり、さらに好ましくは0.3〜13重量%である。
【0026】
なお、D−アミノ酸の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィー等(例えば、分析方法についてはH.Frank, G.J.Nicholson, E.Bayer: J.Chromatogr.Sci.,15,174(1977) Rapid gas chromatographic separation of amino acid enantiomers with a novel chiral stationary phase.記載の方法)によって測定することができる。また、特に含硫系D−アミノ酸または含硫系D−アミノ酸含有ペプチドについて測定する場合、例えばO−フタルアルデヒドとN−イソブチリル−L−システインや、N−アセチルL−システインを用いてキラル誘導体化後、逆相カラムを用いて高速液体クロマトグラフィーにより分離して、定量することができる。
【0027】
また、前記共存物中のカルボニル化合物の含有量は、本発明の風味改良剤の効果の妨げとならない限り特に限定されず、例えば、D−アミノ酸の総量(以下、総D−アミノ酸量ともいう)1重量部に対して0.02〜5000重量部としてよく、好ましくは0.1〜100重量部である。
【0028】
前記共存物中の他の成分の含有量は、本発明の風味改良剤の効果の妨げとならない限り特に限定されない。例えば、ペプチドの場合、共存物中の含有量は、1〜30重量%程度とすることができる。
【0029】
前記共存物を加熱する温度は、本発明の風味改良効果が得られる限り特に限定されないが、通常該飲食品素材を煮込んで煮込み飲食品を調製する際の温度と同等、またはそれより高い温度であることが好ましい。具体的には、通常60〜150℃であり、好ましくは60〜130℃である。
【0030】
前記共存物を加熱する時間は、加熱温度に応じて適宜設定してよいが、通常30分間〜1ヶ月間であり、好ましくは1〜24時間であり、より好ましくは1〜12時間であり、さらに好ましくは1〜8時間である。
【0031】
加熱する時の前記共存物のpHは、本発明の風味改良効果が得られる限り特に限定されないが、通常pH3〜10であり、好ましくはpH3〜7であり、より好ましくはpH3〜5である。pHは、飲食品に許容し得る酸またはアルカリにより、上記pH範囲となるように調整してもよい。
【0032】
加熱手段は、当業者が一般に用いることができる手段であれば、特に限定されず、例えば、焼く(焼成を含む)、炒める、揚げる、茹でる、蒸す、煮るが挙げられる。具体的な例としては、製造タンクなどでの加熱、熱風による加熱が挙げられる。また、加熱手段としては、レトルト殺菌、ジュール殺菌、加圧殺菌、熱風乾燥、蒸気乾燥、または燻製等の手段を用いてもよい。また、また、加熱中は必要に応じて、圧力等を調整してもよい。
【0033】
前記製造方法により得られる加熱反応物はそのまま風味改良剤として用いてもよく、必要に応じてさらに加熱反応物に対して、脱色処理、固液分離処理、濃縮処理、乾燥処理等の処理を単独でまたは組み合わせて行って得られた物を風味改良剤として用いてもよい。
【0034】
本発明の風味改良剤は、必要に応じて、飲食品に使用可能な各種添加物を含有してもよい。添加物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等の糖類、醤油、味噌、畜肉エキス、家禽エキス、魚介エキスの調味料、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、デキストリン、各種澱粉等の賦形剤等が挙げられる。かかる本発明の風味改良剤は、調味料として用いてもよい。
【0035】
また、本発明の風味改良剤は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形状を有するものであってもよい。
【0036】
用途(風味改良効果)
本発明の風味改良剤は、飲食品に添加することにより、飲食品の風味を改良する、特に「しつこくない濃厚感」、「後切れのよい濃厚感」を付与する剤または調味料として好適に用いることができる。すなわち、本発明の風味改良剤を用いて、飲食品の風味を効果的に改良することができる。
【0037】
本発明の態様によれば、本発明の加熱反応物を含有させてなる、飲食品が提供される。また、本発明の別の態様によれば、本発明の加熱反応物を飲食品に含有させる工程を含む、飲食物の風味改良方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、本発明の加熱反応物を飲食品に含有させる工程を含む、風味の改良された飲食品の製造方法が提供される。
【0038】
前記飲食品に本発明の加熱反応物を含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、本発明の加熱反応物を、飲食品を製造する際に素材の一部として添加する方法、製品となっている加熱調理飲食品を加熱調理、電子レンジ調理等で調理する際に添加する方法、喫食の際に添加する方法等が挙げられる。
【0039】
本発明の加熱反応物を飲食品へ加える量は、飲食品の種類、性質に応じて、風味改良のための有効量に当業者が適宜調整できる。例えば、飲食品100重量部に対して、乾燥質量基準で、本発明の加熱反応物を0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部を添加することができる。
【0040】
本発明の飲食品は、液体、固体、または半固体のいずれの形態のものであってもよい。また、飲食品の種類は、特に限定されないが、しつこくない濃厚感、後切れのよい濃厚感を付与することを勘案すれば、加熱調理工程または熟成工程を特徴とする飲食品が好ましい。加熱調理工程または熟成工程を有する飲食品としては、特に限定されないが、例えば、カレー、ビーフシチュー、クリームシチュー、コンソメスープ、ポタ−ジュスープ、ラーメンスープ、デミグラスソース、トマトソース、ミートソース、炒め用即席中華ソース、焼肉、焼鳥のたれ、みたらしだれ、肉味噌タレ、なべつゆ、茶碗蒸し、豚汁、筑前煮、各種肉練り餡、チャーハン、ピラフ、から揚げ、とんかつ、お好み焼き、煮物用調味液等が挙げられる。加熱調理工程を特徴とする飲食品としては、煮込み工程を特徴とする煮込み飲食品が特に好ましい。
【0041】
また、本発明の別の態様によれば、風味改良のための有効量の本発明の加熱反応物を、飲食品に含有させる工程を含む、飲食品の風味改良方法が提供される。また、上記方法において、風味改良は、好ましくは濃厚感付与であり、より好ましくは、しつこくない濃厚感または後切れのよい濃厚感の付与である。
【0042】
また、本発明のさらに別の態様によれば、風味改良のための有効量の本発明の加熱反応物を、飲食品に含有させる工程を含む、風味の改良された飲食品の製造方法が提供される。また、上記製造方法において、風味改良は、好ましくは濃厚感付与であり、より好ましくは、しつこくない濃厚感または後切れのよい濃厚感の付与である。
【0043】
これら別の態様に用いる、D−アミノ酸もしくはD−アミノ酸残基含有ペプチドまたはそれらの塩、カルボニル化合物、他の成分の種類および飲食品へ添加量、加熱方法およびその他の条件等は、上述した、風味改良剤、その製造方法、風味の改良された飲食品、飲食品の風味改良方法、および飲食品の製造方法に関する記述に準じることができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0045】
実施例1:ビーフシチュー:ブラウンシチュー
風味改良剤の調製
風味改良剤として、以下の方法によりD−アミノ酸とカルボニル化合物との加熱反応物を得た。
キシロ−ス(Xyl)2.5gと等モルのD−グルタミン(D−Gln:アミド側鎖を有するD−アミノ酸)2.3gを混合し、水15mLに溶解させた。該水溶液をpH3.5に調製し、90℃で1.5時間の加熱反応を行いXyl−D−Gln反応溶液を得た。
また、キシロ−スの代わりに等モルの2−ヘキセナ−ル(2−hex)を用いる以外はXyl−D−Gln反応溶液の調製と同様の操作を行って2-hex-D-Gln反応溶液を得た。
また、D−Glnの代わりにL−グルタミン(L−Gln)を用いる以外はXyl−D−Gln反応溶液および2-hex-D-Glnの調製と同様の操作を行ってそれぞれXyl−L−Gln、2−hex−L−Gln反応溶液を得た。
【0046】
シチューの調製
デミグラスソース、トマトピューレ、野菜ブイヨン、塩、胡椒を用いて、中〜弱火で2時間煮込むことによって、ビーフシチュー(対象区1)を調製した。
一方、市販ビーフシチュールゥ、水を使用し弱火で約15分煮込むことにより、ビーフシチュー(対象区2の無添加区)を調製した。得られた対象区2の無添加区100gに対して1gの該反応溶液をそれぞれ添加し、対象区2とした。
【0047】
風味の評価
得られた対象区2の濃厚感、しつこさおよび自然な風味について、対象区2の無添加区と比較して、対象区1をポジディブコントロールとして官能評価を行った。官能評価は熟練した7名によりなるパネルにより行なった。
【0048】
官能評価は、以下の評価基準で行った。
全て、無添加区を「±」として、下記のような評価で示した。
それぞれ、「+」「−」が多いほど、差が大きく、「+」が多いほど差が大きいことを示す。
濃厚感は、強い順に「+++」、「++」、「+」と表記した。
しつこさは、しつこさが強い順に「+++」、「++」、「+」、「±」、「−」と表記した。
自然な風味は、ポジティブコントロール(対象区1)への全体的な類似度を示し、近いと感じた順に、「+++」、「++」、「+」、「±」、「−」と表記した。
【0049】
その結果を第1表に示す。表中の評価は、7名のパネラーの評点の平均値である。
【表1】
【0050】
第1表に示すとおり、D−グルタミンとキシロースを反応させて得られた反応溶液およびD−グルタミンと2−ヘキセナールを反応させて得られた反応溶液を添加して得られたビーフシチューは、いずれも濃厚でかつしつこさが少ない点において自作のビーフシチューに近い風味を有するものであった。
【0051】
実施例2:ホワイトシチュー
風味改良剤の調製
市販の大豆たん白加水分解物(HVP)(キリン協和フーズ社製)100gにキシロース(Xyl)2.5gとD−セリン(D−Ser:水酸基側鎖D−アミノ酸)1.65gを混合し、水300mLに溶解させた。該水溶液をpH3.5に調製し、90℃で1.5時間の加熱反応を行いHVP−Xyl−D−Ser反応溶液を得た。
また、HVPを用いる代わりに、市販の豚ゼラチン酵素分解物(HEAP)(キリン協和フーズ社製)を用いる以外は上記HVP−Xyl−D−Ser反応溶液の調製と同様の操作を行って、HEAP−Xyl−D−Ser反応溶液を得た。
また、HVPを用いる代わりに、市販のビ−ル酵母エキス(YE)(キリン協和フーズ社製)を用いる以外は上記HVP−Xyl−D−Ser反応溶液の調製と同様の操作を行って、YE−Xyl−D−Ser反応溶液を得た。
【0052】
シチューの調製
小麦粉、生クリーム、野菜ブイヨン、チキンブイヨン、バター、塩、胡椒を用いて、中〜弱火で1時間煮込むことによって、ホワイトシチュー(対象区1)を調製した。
一方、市販ホワイトシチュールゥ、水を使用し弱火で約20分煮込むことにより、ホワイトシチュー(対象区2の無添加区)を調製した。得られた対象区2の無添加区100gに対して1gの該反応溶液をそれぞれ添加し、対象区2とした。
【0053】
風味の評価
得られた対象区2の濃厚感、しつこさおよび自然な風味について、対象区2の無添加区と比較して、対象区1をポジディブコントロールして官能評価を行った。官能評価は熟練した7名によりなるパネルにより行なった。
評価基準は、実施例1に準じた。
【0054】
その結果を第2表に示す。表中の評価は、7名のパネラーの評点の平均値である。
【表2】
【0055】
第2表に示すとおり、HVP−Xyl−D−Ser反応溶液、HEAP−Xyl−D−Ser反応溶液、およびYE−Xyl−D−Ser反応溶液を添加して得られたビーフシチューは、いずれも濃厚で、かつしつこさが少ない点において自作のビーフシチューに近い風味を有するものであった。
【0056】
実施例3:ミートソース
風味改良剤の調製
キシロース(Xyl)2.5gと等モルのD−ヒスチジン(D−His:塩基性側鎖D−アミノ酸)2.4gを混合し、水15mLに溶解させた。該水溶液をpH3.5に調製し、90℃で1.5時間の加熱反応を行いXyl−D−His反応溶液を得た。
キシロ−スの代わりに等モルの2−ヘキセナ−ル(2−hex)を用いる以外はXyl−D−His反応溶液の調製と同様の操作を行って、2−hex−D−His反応溶液を得た。
上記反応溶液の調製において、D−Hisの代わりにL−ヒスチジン(L−His)を用いる以外は同様の操作を行って、それぞれXyl−L−His、2−hex−L−His反応溶液を得た。
【0057】
ミートソースの調製
トマトピューレ、豚挽き肉、ガーリック、塩、胡椒、サラダ油等を用いて、中〜弱火で30分程度煮詰めながらミートソース(対象区1)を調製した。
一方市販レトルトミートソース(対象区2の無添加区)を使用し、対象区2の無添加区100gに対して1gの各反応溶液を添加し、対象区2とした。
【0058】
得られた対象区2の濃厚感、しつこさおよび自然な風味について、対象区2の無添加区と比較して、対象区1をポジディブコントロールして官能評価を行った。官能評価は熟練した4名によりなるパネルにより行なった。
評価基準は、実施例1に準じた。
【0059】
その結果を第3表に示す。表中の評価は、4名のパネラーの評点の平均値である。
【表3】
【0060】
第3表に示すとおり、Xyl−D−His反応溶液および2−hex−D−His反応溶液を添加して得られたミートソースは、いずれも濃厚感はあるがしつこくない点において、長時間煮込んで得られるミートソースに近い風味が感じられるものであった。
【0061】
実施例4:肉味噌タレ
風味改良剤の調製
キシロース(Xyl)2.5gと等モルのD−イソロイシン(D−Ile:脂肪族側鎖D−アミノ酸)2.1gを混合し、水15mLに溶解させた。該水溶液をpH3.5に調製し、90℃で1.5時間の加熱反応を行いXyl−D−Ile反応溶液を得た。
Xyl−D−Ile反応溶液の調製において、D−Ileの代わりにL−イソロイシン(L−Ile)を用いる以外は、同様の操作を行ってXyl−L−Ile反応溶液を得た。
【0062】
肉味噌タレの調製
合わせ味噌、みりん、砂糖、醤油、ひき肉等を用いて、中〜弱火で30分程度煮詰めながら肉味噌タレ(対象区1)を調製した。
一方、合わせ味噌、みりん、砂糖、醤油、ブランチング肉等を用いて、レトルト処理を行い、肉味噌タレ(対象区2の無添加区)を調製した。対象区2の無添加区100gに対して1gの各反応溶液を添加し、対象区2とした。
【0063】
得られた対象区2の濃厚感、しつこさおよび自然な風味について、対象区2の無添加区と比較して、対象区1をポジディブコントロールして官能評価を行った。官能評価は熟練した4名によりなるパネルにより行なった。
評価基準は、実施例1に準じた。
【0064】
その結果を第4表に示す表中の評価は、4名のパネラーの評点の平均値である。
【表4】
【0065】
第4表に示すとおり、Xyl−D−Ile反応溶液を添加して得られた肉味噌タレは、煮詰めたような濃厚で、自然な味噌の風味が付与され、後切れの良いさっぱりとした口当たりが感じられるものであった。
【0066】
実施例5:麻婆ソース
風味改良剤の調製
キシロース(Xyl)2.5gと等モルのD−フェニルアラニン(D−Phe:芳香族側鎖D−アミノ酸)2.6gを混合し、水15mLに溶解させた。該水溶液をpH3.5に調製し、90℃で1.5時間の加熱反応を行いXyl−D−Phe反応溶液を得た。
D−Pheの代わりにL−フェニルアラニン(L−Phe)を用いる以外はXyl−D−Phe反応溶液の調製と同様の処理を行ってXyl−L−Phe反応溶液を得た。
【0067】
麻婆ソースの調製
合わせ味噌、みりん、砂糖、醤油、ひき肉、豆板醤、にんにく等を用いて、中〜弱火で45分程度煮詰めながら麻婆ソース(対象区1)を調製した。
一方、合わせ味噌、みりん、砂糖、醤油、ブランチング肉、豆板醤、にんにく等を用いてレトルト処理を行なうことにより、麻婆ソース(対象区2の無添加区)を調整した。得られた対象区2の無添加区、100gに対して1gの該反応溶液をそれぞれ添加し、対象区2とした。
【0068】
風味の評価
得られた対象区2の濃厚感、しつこさおよび自然な風味について、対象区2の無添加区と比較して、対象区1をポジディブコントロールして官能評価を行った。官能評価は熟練した4名によりなるパネルにより行なった。
評価基準は、実施例1に準じた。
【0069】
その結果を第5表に示す。表中の評価は、4名のパネラーの評点の平均値である。
【表5】
【0070】
第5表に示されるとおり、L−フェニルアラニンを反応させてなる反応溶液を添加してなる添加区は、濃厚感はあるが後切れの悪いものであったが、D−フェニルアラニンを反応させてなる添加区は、濃厚で、自然な風味が付与され、しつこくなく、後切れの良いさっぱりとした口当たりが感じられるものであった。